艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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6日目―心を貫く芸術―

「照月達遅いなぁ」

 食堂の席に着いた秋月は首を長くして妹達を待っていた。

「きっとライさんと話してるんだろ。最近話せなかったみたいだし」

 善吉の言葉に頷き返すものの、妹達の帰投を待つ姿勢は変わらない。

「あの三人も出会って一週間経ってないけど、かなり仲良くなったよな。最近は少し気まずい空気もあったけど、結局のところ仲直りは出来たみたいだし。というかライさんが人と距離を取るのが上手いんだろうなぁ」

「――そうですね。あの二人は決して人見知りをするタイプ、というわけじゃありませんが、それでも三人の距離は急接近したように見えます」

「なんでだろうな。なんというか、仲良くならない関係、ってわけじゃないけど、ごく普通の、時間と共に進行するぐらいの関係というか、特別に噛みあう関係には見えないんだよなぁ」

「たぶんそれは、大嵐さんが優しくて、美しかったからだと思います」

「美しい?」

 善吉は首を傾げた。男を褒めるのに、美しいというのは間違っている気がする。

「はい、美しい。私を含めて、秋月型三人は他の艦娘の方とは違って、今回の任務でほとんど初めて楽器、音楽に触れました。善吉さんは大嵐さんの演奏聴きましたか?」

「いいや。そう言えば聴いてないな」

「初日練習の後、二人はとても興奮した様子で、大嵐さんの演奏について語っていました。こんなすごい人間がいるなんて、こんな美しい音色を生み出せる人間がいるなんて、こんなすごい人間達を護れるなんて。最終的には何に感動してるのか、分からなくなっていましたよ。それぐらい、興奮していました」

「へぇ……そんなことが」

 善吉は興味深げに頷いた。

「確かに俺も初めてデスメタルを聴いた時は脳が破裂すると思ったが、そんなもんかね」

「ですめたる――というのは知りませんが、脳が破裂っていうのは怖いですね。でもきっと、それ以上ですよ。初めて触れた『芸術』ですから」

「『芸術』、物々しい言い方だぜ」

「というか、物騒だよねぇ」

 善吉の隣に座る時津風も会話に混ざった。

「いいえ、そんなことはありませんよ。芸術ってきっと、物々しくて、猛々しいものですよ。こんな言葉があります」

 秋月はほんの少し口角を上げ、その場にいる全員に聞こえるように、言い聞かせるように話した。

「『やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなりにける』。古今和歌集の言葉です」

「――いい言葉だ」

 少し離れた位置にいた長門が、小さく頷く。

 そしてその言葉を再び口にし、また頷く。気に入った様子だ。

「芸術は全て、この言葉に通じていると、訓練学校の先生が教えてくれました。それを私はこの一週間でこの身を持って知りました。そして妹達は、それを私よりもはっきりと、明確にそれを感じたんでしょう。それが悲しみであれ、憎しみであれ、純粋で美しい心を種として、感情をたっぷりと飲ませて、咲いた『芸術』は人の心を刺します。初めて見る花にしては、贅沢なもので、お腹を壊してしまいそうです」

 納得しかけた善吉の頭に、何かが引っかかる。

 それを捉え、反芻し、やはり疑問が生まれてきた。

「なぁ、秋月。その褒め言葉は芸術家にとってはきっと至上の褒め言葉だろう。でもその褒め言葉に、悲しみや憎しみって言葉は必要なのか?」

「必要といいますか、照月が確かにそう言っていました」

 なぜそのような言葉が――大嵐がそのような感情を持っているとは思えない――照月達はそんな風に感じたのか――疑問はいくつも駆け巡る。

「きっと、私達が艦娘だから分かったんですかね。そういった感情の機微には、嫌でも敏感になってしまいます」

 少し、悲しそうに笑う秋月に、浮かんだ疑問は沈まざるを得なかった。

 そしてその瞬間、ズガンという轟音と共に、食堂に確かな振動が伝わってきた。

「なんの音だ!」

 善吉は周囲に気を巡らせる。

 その轟音はホールの方向から響いてきた。

 少しすると、誰かがそちらの方向から、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

 善吉は拳を固め、食堂の入り口で相手を待ち受ける。

「全員、下がってろ」

 善吉の言葉に、皆が怯えながら一歩下がる。

「大変です! 皆さん、ホールに来てください!」

 それはガードマンの男だった。

 額から汗を垂らした男は、ゲートの前に立っている時に見せていた冷静さを欠いていた。

「いったいどうしたんですか」

 善吉の言葉に、ガードマンは端的に言葉を返した。最も、端的に。

「おかしいんです! ホールの扉が、『無くなっている』んです!」

 善吉以外の人間は、ただただ頭に疑問符を浮かべるのみだった。

 善吉だけは、周囲の反応に目を向けることなく、ホールに走り出していた。

 まるで情景反射のように、放たれた矢のように。

「Hey! ゼンキチ! What is happen?」

 アイオワの問いにも立ち止まることはなかった。

 少しの葛藤の後、アイオワ達戦艦組も付いていくことにした。

 駆逐艦達も付いて行こうとした時、大和がそれを止めた。

「駆逐艦の皆さんはここに残ってください。もしもの時は鎮守府に連絡を。その後、各自全力で退避を。できれば、ここにいる人たちも一緒に連れて行ってください」

「大和さん、私も連れて行ってください!」

 大和は秋月の眼を覗き、一瞬の思慮を挟み、すぐさま頷き返した。

「急ぎましょう」

「はいッ!」

 先に向かったグループに遅れないように、大和と秋月は駆け足で向かう。

 秋月の胸には嫌な予感がしていた。

 先ほどの轟音、正確には砲撃音。

 それは秋月型に装備されている対空砲のそれによく似ていたからだ。

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