「確かに、ここには扉があった」
善吉は当たり前の事実を確認するように、しかし実に真剣に、言葉を紡いでいた。
そのような奇妙な事態が起こるほど、大和と秋月が到着した時、そこには奇妙な光景が広がっていた。
先ほどまで練習を行っていたホール、その入り口が『無くなっている』のだ。
キツネに化かされたような表情を浮かべる皆をおいて、善吉は話を進めた。
「ここ以外に出入り口は?」
「ありません。ここだけです」
「地下に行くにも二階に行くにも、ホールに入るためにはまずここにあった入り口を通らなくてはいけない、ってことで間違いありませんよね」
「その通りです」
善吉は顎をつまみ、何か考え事をし始める。
その額にはうっすらと汗が浮かび上がっていた。
「いや、おかしいだろう。道を間違えたということはないのか?」
「ないと思うわ。だってここに勤めているガードマンがこう言ってるんですもの。それに数十分前までは私たちも練習してたじゃない。その私たち全員が物忘れするなんて、あり得ないでしょう」
「ならばなぜ……」
「触ってみたところ、壁が新しく作られた、という感じでもなさそうですね。まるで最初からこうなっていたようです」
「あぁ、その通りだ。まるで違和感がない」
会話を遮るように、再び轟音が響いた。
確かに、その音は壁の奥から聞こえてきた。
防音壁を超えてもここまで響くのだ、中では尋常ならざる事態が起きているに違いない。
「善吉さん……何か心当たりでも? 顔色が優れないようですが」
「いや、何でもない。俺の思い違いのはずだ。ただ『無かったことにする』っていう現象に、少し思い当たる節があっただけだ」
「『無かったことにする』? それは恐ろしいですね……」
「まぁ考えても拉致があかねぇ。ガードマンさん、ハンマーかドリルを!」
「事務室にあります。少し待っててください!」
「その必要はない」
長門が壁の前に立つ。その隣にはアイオワが。
「それは黒神グループが手掛けた特注の防音壁です。いくら艦娘の力が強いとは言え、破壊するのは困難です!」
忠告するガードマンを二人は笑った。
「いや、大丈夫だ」
「Me達に任せて、少し下がってクダサイ」
不安げに二人を見るガードマンの肩に善吉が手を置く。
「彼女たちならできますよ。なんて言ったって彼女達は、世界の海を護っている少女達なんですから」
善吉が二人に合図を送り、二人は頷いた。
「主砲だと余計な損害を与えるかもしれない。副砲はあるか?」
「yes」
二人の腰に光が纏われ、鋼鉄のベルトが現れる。ベルトについている小さな砲身が、壁に向けられた。
「中のどこに照月達がいるか分からない。仰角最大だ」
「OK」
砲身は上に傾き、長門とアイオワが向き合う。
二人の砲身は交差するように、壁に向けられた。
それは互いの力を信頼し、力を合わせる様子をありありと示していた。
「装填完了!」
「me too!」
二人は頷き、互いに視線を交わす。
「撃てぇぇぇ!」
「Fire!」
耳を劈く号砲が、偽りの壁を打ち砕いた。