艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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7日目―サプライズ・チケット―

「昨日は私の私情で皆様にご迷惑をかけて、大変申し訳ありませんでした」

 食堂にはオーケストラの全員、そして大嵐が揃っていた。

 開口一番に謝罪を述べた大嵐に、真っ先に言葉を返したのは照月だった。

「大嵐さんだけが悪いわけじゃないです。それに、最後は私を護ってくれました。ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げた照月に、大嵐も「こちらこそ、ありがとう」と返し、照月がそれに「いや私の方こそ」と返し、それが3往復したところで、善吉が止めに入った。

「二人共、そこまでで。昨日のことは、俺の先輩である『アレ』の責任なんで、気にしないでください」

「でも僕にも責任が――」

「責任なんてありませんよ。楽器も、ホールも、結局は傷一つなく、誰一人怪我もしてないじゃないですか。アイツも最後に言ってたじゃないですか。『責任を取る必要はなくなった』ってね。良いも悪いもひっくるめて、全てを台無しにする人間なんですよ、アイツは」

 善吉は苦虫を潰したような、気に食わない様子で朝食を頬張った。

「――結果的に見ればそうかもしれませんが、私の気お持ちが収まらないのです。ですから――」

 そこまで言葉を続けた所で、善吉があからさまにムスッとなったのを見て、大嵐は慌てて言葉を続けた。

「お詫び、といいますか、皆さんにサプライズがあります。だからそんな怖い顔しないでください」

「サプライズ……?」

 善吉はその言葉に表情を一変させ、何かを期待する少年のようなキラキラと眼を輝かせる。

「一部の方には既に昨晩渡していますが、昨日の騒動ですぐに部屋に帰られた方々には今渡します」

 そう言って、封筒を人数分取り出し、それぞれに配る。

「少し急になり申し訳ありませんが、そう時間もありません。朝食の間に書いてもらいます」

「これは……」

 武蔵は渡された封を切り、中から二枚のチケットを取り出した。

「艦隊オーケストラ特別招待状?」

 上品な装いのチケットには『艦隊オーケストラ特別招待状』と金字で銘打たれ、下には鎮守府・泊地、型、番艦、氏名という欄が続いている。裏はメッセージ欄となっており、自由記述が可能になっていた。

「これって……」

「他の艦娘をオーケストラに呼べるってこと!?」

 大嵐は優しく頷いた。

「善吉君は、箱庭学園にいる人でもOBでも誰でも結構ですのであしからず。会場や海軍との折り合いで各人二名までしか招待できませんが、そこはご了承ください」

 申し訳なさそうにする大嵐に陸奥が大きく首を振る。

「そんな……私達は日本各地に散ってるから滅多に会うことができないのを……すごく嬉しいです。ありがとうございます」

 普段は落ち着いている陸奥がここまで興奮しているのは珍しく、それほど喜んでもらえたということが大嵐は嬉しかった。

 逆に、この数日では喜怒哀楽の表現が激しかった長門はその表情を引き締めていた。

「しかし……防衛面で大丈夫なのか? このメンバーを引き連れるだけでも、海上防衛面では結構な不安があったという話だが……」

「その点については問題がありません。……といっても、一日限りではありますが」

「ライさん、それはどういうことなんだ? 艦娘が何十人もいなくなっても問題がないなら、深海凄艦との戦闘はとっくに終わってるんじゃないですか?」

「善吉君に言ってしまうのは少し心苦しいのですが……、実は今回のこのサプライズを可能にしてくれたのは箱庭学園理事長こと、黒神めだかさんなのですよ」

「めだかちゃんが?」

「はい、もともと今回の企画は箱庭学園が主催ですので、方々にお願いして一日だけになりますが、艦娘の代わりに海上防衛を支える人員を用意してもらいました」

 大嵐の言葉に、長門は怒りと驚きを込めた声で反論する。

「艦娘の代わりということは、深海凄艦と一般人が闘うということだぞ! そんなことができる人間が……」

「いるんですよ。善吉君にしか分からないと思いますが、一応伝えておきます」

「はぁ……」

 大嵐は懐から名簿を取り出し、その一部を抜粋し述べる。

「元生徒会執行部・阿久根高貴・黒神真黒。元委員長・雲仙冥利・赤青黄・飯塚食人・米良狐呑・上無津呂杖・その他大勢。不知火の里の面々。黒神グループ傘下・月氷会。マイナス十三組面々。そして――」

「おいおい……まさか」

「『十三組の十三人』全員が参加しています」

「よしお前ら、誰を呼んでもいいぞ。主力だろうが秘密兵器だろうが、遠慮する必要はない。というか遠慮すると損だ」

「善吉にそれだけ言わせるって、どんだけなのさ……」

「俺は深海凄艦を直に見たことがないが、今から可哀想になってきたぜ」

 善吉は可哀想と言いつつも、表情を緩めずにはいられなかった。

 めだかの壮行会の時と同等、またはそれ以上の戦力であり、あの面々が力を貸してくれるなんて、これ以上に心強いことはない。

 バトル漫画で言うなら、番外編で過去のライバルや敵キャラが終結して助けてくれるというような、そんな熱い展開である。

 善吉の様子を見て、皆もその言葉に嘘はないと信頼したのか、すぐに誰を呼ぶかという話題が食堂を包んだ。

「朝食の時間が終わり次第回収します。その後は午後二時まで練習、それから荷物を纏めて会場に出発となります」

 大嵐の言うことがどこまで浸透したのか、艦娘の皆はそれぞれの話題に集中してしまっていた。

 こういうところは年頃の女の子という感じがして、少し安心する。

 それからしばらくして、皆の会話がある程度落ち着いたところで再び大嵐が声をかけた。

「皆さん、書けましたか? そろそろ回収しますよ」

「大嵐さん、もう少し待ってもらえませんか?」

 そう言ったのは雪風だった。同じく時津風、天津風も申し訳なさそうにしている。見てみると、四人のチケットにはまだ何も書かれていない。

「送り先への調整もあるので、なるべく早くお願いしたいのですが……。雪風さん達には昨日から渡していたはずですが、何か問題でも?」

「実は……」

 言いにくそうな雪風に代わって、時津風が答えた。

「私達陽炎型三人のチケットで他の陽炎型を呼びたいんだけど、雪風は比叡さんを呼ぶから五人しか呼べないし、どうしようかって」

「陽炎姉や不知火姉も呼びたいけど、磯風や浜風も読んであげたいし、舞風や野分だって……」

 陽炎型の艦娘は現在一七人、そのうち三人がオーケストラにいるので呼べる選択肢は一四人。手元にあるチケットは五枚。なるほど、確かに勘定が合わない。

「しかし陽炎型だけ特別扱いというのはできませんし……陽炎型の皆さんは各鎮守府でバラバラなので連絡するなら、なおのこと早めがいいのですが……」

 大嵐も困り顔だ。

 少し前も、姉妹の話になった時、滅多に会えないと言っていた。

 できるだけ会わせてあげたい想いはある。

 食堂に沈黙が流れてすぐ、それを破ったのは一人の少女だった。

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