「な、なら! これあげるかも!」
そう言ったのは、秋津洲だった。
秋津洲は少し震えた手で、三人に二枚のチケットを差し出した。秋津洲のチケットにはまだ何も書かれていない。
「でもそれじゃ秋津洲さんに悪いです……」
「気にしないで欲しいかも。あたしは別に招待したい子もいないし、それに――」
「それに……?」
言葉を言い澱んだ秋津洲はちらと善吉、アイオワに目を向け、勇気を振り絞り口を開いた。
「せっかく友達になれたんだから、友達には喜んでほしい、かも」
紅潮した表情で言い切った秋津洲に、雪風は飛びついて答える。
「ありがとうございます、秋津洲さん! とても嬉しいです!」
頬ずりされながら秋津洲は安堵したような、恥ずかしがっているような笑顔を浮かべていた。
「秋津洲ちゃんがそうなら、私もあげるわ。陽炎型の子達にはいつもお世話になってるし」
陸奥もそう言いながら、チケットを二枚差し出した。
「本当ですか? でも陸奥さん、すごく嬉しそうにしてたじゃないですか」
「そうなんだけどね。私が『招待したい人』は招待できないらしくて」
冗談まじりのしかめ面で大嵐を睨むが、大嵐は苦笑いでそれを受け流す。
「さすがに提督を呼ぶことはできません。申し訳ないです」
「――で、長門は一緒にいるし、他に呼びたい艦娘もいないし、どうせなら陽炎型を勢揃いさせた方が面白いかなって」
「そういうことなら、ありがたく頂きます」
天津風が嬉しそうにチケットを受け取った。
「ならこの長門も一枚渡そう。一枚は酒匂に渡すつもりだったが、もう一枚はまだ悩んでいたんだ」
陸奥に続いて長門も天津風にチケットを一枚渡す。これでチケットは十枚。
「なら私もいいですか?」
次に名乗りを上げたのは照月だった。手に握るチケットは二枚。
「照月さんも……いいんですか?」
「私は秋月姉も初月も一緒だし、演奏を聴いてもらいたい人も一緒に来てくれるし」
照月はチラリと大嵐に目をやり、悪戯っぽく微笑む。
「ま、まぁそういうことなら、ありがたくいただきます。ありがとうございます。これで十二枚……」
慌てて取り繕う大嵐に皆が苦笑する。
「それなら次の一枚は姉さんに続いて僕が渡そう。僕も呼びたいのは五十鈴だけだからね」
時津風にチケットを握らせ、照月と初月は微笑む。
「これで十三枚……。あと一枚で……」
善吉のその言葉を境に、誰も言葉を発さなくなってしまった。
「……善吉は? 誰か呼ぶ人いるの?」
「善吉は指揮者であり、私たちの責任者なんだから大人しくチケットを渡すべきかも」
「お前ら本当に俺に対して口悪いよな」
時津風と天津風は憎まれ口を叩きながらも善吉の背中におぶさる。
「ねぇいいでしょー」
「かもー」
「ダメだ。俺にも招待したい人が二人いる。大親友と、惚れた女の子にな」
「うわーくっさい。言ってて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいわけないだろ。惚れた腫れたを恥ずかしがるのは中学生までだぜ」
「ふーん」
善吉の堂々とした言い分に、時津風はつまらなそうな様子だ。
「他のみんなはどうなんだ?」
「私は鳳翔さんと矢矧に贈るので……」と大和。
「私は麻耶と清霜にな。久しぶりに顔が見たい」と武蔵。
「私も力になりたいのですが……朧さんと瑞鶴さんにぜひ私の演奏を聴いて欲しいんです」と秋月。
「Meも力になりたいのですが……、コンゴーとBismarckにぜひ会いたいのデース。海外艦のよしみでネ」とアイオワ。
皆がまた黙り込んだところで、ふと善吉が首を傾げる。
一人、何も答えない、気分屋でマイペースが過ぎる少女がいる。
「……おい島風。お前は誰に贈るんだ?」
連装砲ちゃんと戯れているところを不意に声をかけられたので、島風は驚いた様子で目を丸くしていた。
「え? 長波にだけど?」
「……あとの一枚はどうした?」
「いらないからそこに置いてあるけど」
島風の言葉に周囲が唖然とする中、善吉は溜息一つで事態を飲み込む。
この一週間の慣れの賜物だ。
「それ、貰ってもいいか?」
「うん」
それを茫然と呆ける雪風に渡す。
「これでチケットは十四枚。お前達の姉妹を呼べるぞ」
「――はいっ!」
三人の返事を皮切りに、食堂はまた一段と騒がしくなっていった。