艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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毛利(もうり)武蔵(たけぞう)さんです。
紛らわしくてごめんね。


エピローグ2―舞鶴鎮守府提督執務室にて―

「へぇ、成功したのか」

「えぇ、つつがなく。SNSで感想を見ましたが、評価も上々のようですよ」

「そいつはすごいな。長門達もだが、それ以上に責任者がすげぇ。うちの鎮守府に来てくれないかな」

「こんな辺境の鎮守府にそんな有能な人材は来ませんよ」

 舞鶴鎮守府の提督執務室、窓の外に向け紫煙をくゆらせるのは提督である毛利武蔵、その愚痴に付き合うのは秘書艦の神通だ。

「あの長門がアイオワとの共同任務に参加することになったと聞いた時は、始末書の下書きも用意してたんだが、必要無かったな」

 武蔵は机の上で無造作に広げられた書類の中から一枚を取り出し、そのままシュレッダーにかけた。

「少しは部下を信用してみては?」

「そういうお前だって、正直成功するとは思ってなかっただろう」

「それは――」

「それに、信用って問題じゃないんだよ。因縁ってやつは背を向けたくなるほど醜悪なもので、でも向き合わない限りずっと追いかけてくる。性質の悪い呪いみたいなものだ。長門にとってアイオワは因縁が具現化したような存在、それと一週間顔付き合わせて、しまいにゃ一緒に演奏するんだぜ」

「つまり……因縁と向き合った、ということですかね」

「おそらく、な。言うだけなら簡単だが、それを実行させるには、環境、きっかけ、様々な要素が絡み合って、奇跡みたいな確率で成功する。そういう類の難題だった。それを成し遂げた奴がいる。俺は十中八九この任務は失敗すると踏んでいた。それはこの難題が、鎌首をもたげてこっちを睨んでたからな。でも逆に言えば、それを乗り越えれば確実に成功、いや大成功する。評価も上々っていうなら、きっとそうなったんだろう」

「――二人はもう、大丈夫なんですかね」

「さぁな。ただ、俺は今面白いことを考えている」

 武蔵は鋭い目尻をさらに尖らせ、口角をキッと釣り上げる。

「面白いこと、とは?」

「アイオワは確か今……呉か横須賀にいたよな?」

「えぇ、横須賀だったと思います。頻繁に転属しているので、また異動しているかもしれませんが」

「たまには合同演習とか、やりたくないか?」

「それはまぁ……。提督まさか」

「少し遠いけど、横須賀に合同演習依頼を出すように」

 提督の命令に神通は呆れて物も言えない様子だ。それでもなんとか反論を絞り出した。

「提督、さすがにそれは悪趣味ではないですか? 長門さんがアイオワさんと和解したとはいえ、アイオワさんに苦手意識を持つ子は他にも――」

「だからこそだ。長門がアイオワと和解したのを見れば、相互理解も生まれやすいだろう。仲間にトラウマを持つ連中が多いのは艦娘として仕方ないのかもしれないが、理解する努力を諦める理由にはならない」

「それはそうですが……」

「なら頼んだ」

 顎で事務課に行くよう促す武蔵に、神通は恨みがましい視線で抵抗するが、武蔵の言い分にも一理あるのも確かだ。道理を胃に収め、事務課へ向かった。

「提督、『艦隊楽戦』の責任者ほどとは言いませんが、やるからには成功させてくださいね」

 神通はいつもと変わらない笑顔だが、纏う空気はいつもより10℃程冷たい。

「あいよ。ほら、行った行った」

「あと、煙草は窓の外にお願いしますね」

 神通が出て行った指令室は、いつもと変わらない平穏な空気が流れる。

 ゆったりとしたそれが武蔵は好きだった。

 手元の資料を一枚手繰り寄せ眺める。それはとある高校生のプロフィールだった。

「あの箱庭学園、それも元生徒会長ときたもんだ。優秀じゃないわけがない、か」

 その一枚も、少し惜しくはあるが、シュレッダーにかける。

「高校生に重い仕事任せちまったからな。その成果の先は大人に任せてもらおう」

 くゆらせた紫煙の先には、多くの展望が見えていた。

 少し前までは夢物語であったその情景に、武蔵は珍しく柔らかい笑みを浮かべていた。

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