流れていく木々を目で追いながら、時折後ろを覗き見る。助手席に座る善吉は後ろの座る艦娘達の混沌とした雰囲気に上手く入り込めず、そうする他なかった。
対角線に座る長門とアイオワ、長門が険悪なオーラをアイオワに送って、アイオワはそれを無表情で受け止めている。出逢ったときからずっと、とアイオワが言っていたが、それが本当ならある意味大した根性である。アスリートだってそんな長時間続く集中力を持てる人間は少ないだろう。
そして陽炎型と秋月型の五人は窓の外を見たり、車内に取り付けられた冷蔵庫等の備品に感嘆の声を上げている。冷蔵庫の中のシャンパンを取り出した時に大嵐が何気なく告げた金額に、秋月型は顔を青ざめていた。おにぎり何個分という会話が聞こえたが、その想像の仕方は難しいのでは、うまい棒の方が歳相応らしいのでは? と善吉は思っていた。
あと一人の駆逐艦娘、島風は、武蔵の膝に乗り大和型、そして陸奥と楽し気に会話している。一見微笑ましい光景だが、島風の話が新幹線のように超特急で進み、それに大人っぽい三人が必死に付いて行こうとする姿は、孫の話を頑張って聞く祖父母のような雰囲気が滲んでおり、善吉は少し寂しい気持ちになる。
「賑やかですね」
大嵐はそう言うが、その運転には疲れが垣間見える。行きの時のような静かな運転ではなく、随所に微量ではあるが粗が出てきていた。車の運転は載せるものの重量によって大きく変化するというし、これだけ騒がしかったらそうなるだろうと納得する。
「あと少しで着きますね」
ねぎらいの言葉をかけるのも違うと思ったので、善吉は目的地まであと少しと言うことで、大嵐を励ました。大嵐もその意図をくみ取ったのか、わずかな笑みを浮かべる。
「はい。ちょうど時間もお昼ですので、食事にしましょう。何かリクエストはありますか?」
「なんでもいいんですか?」
「はい。箱庭学園の元食委員長の一人、飯塚食人さんから大量の食材が送られています。鶏卵からトリュフまで、ない食材はない、と言っても過言ではありません」
「はは、OBの飯塚先輩の協力もあんのか……。じゃあ」
善吉は後ろの混沌とした空間を一瞥した。険悪な少女、和気藹々とする少女、そして、一人寂しそうに外を眺めている少女。
「――BBQとかどうですか」
「かしこまりました」
大嵐はニコリと笑い、手元の無線でホテルに連絡を入れる。
「バーベキューするのー?」
いつのまにか助手席に身を乗り出していた島風が、善吉にくっつくほどに近づく。
「あぁ。これからオーケストラを一緒に作っていく仲間だ、少しでも親交を深めたい」
善吉が艦娘と親交を深める、というのはもちろん、艦娘同士の親交もぜひ深めてほしいと善吉は目論んでいる。
「それはいい考えだな、善吉」
武蔵が島風を後ろの席に持ち上げ戻し、代わりに顔を出した。
「肉はいい。食べれば元気が湧く」
「あぁ。俺もその考えに賛成だ」
武蔵とめだかの雰囲気が被り、善吉は小さく笑った。武蔵はそれを訝し気に見ていたが、その視線を秋月が破った。
「ばーべきゅーとは何ですか? 海外の料理ですか?」
「アッキーはBBQを知らないノデスカ?」
アイオワが驚いた表情を浮かべる。それに秋月は遠慮しがちに頷く。
「sorry、そんな落ち込んだfaceしないで。BBQっていうのは、外で肉や野菜を焼いて皆で食べることよ。外の空気を吸いながら食べる食事は最高よ」
アイオワはその光景を夢想し、身もだえする。
「つまり、海外風の飯盒みたいなものですか?」
「――そんな感じデース」
アイオワは細かい説明を諦めたようだ。一方の秋月は妹達に詰め寄る。
「照月、初月、ちゃんと食べる量は気を付けるのよ」
「もちろんだよ、秋月姉」
「お腹壊しちゃうからね……」
初月は何かを思い出すように腹をさすった。
「秋月ちゃん達は初めて鎮守府来た時、歓迎会でご飯食べてたら胃がびっくりしてお腹壊してましたね。急に豪勢な物食べたせいだって、明石さんも苦笑いだったのを覚えてます」
大和もその場にいたのか、思い出したようにクスクスと笑う。
「大和さん、笑いごとじゃありませんよ。おかげで鳳翔さんにすごく心配かけてしまいました」
秋月の顔に影が落ちる。善吉もその描写を想像して、吹き出しそうになった。
「でも最近はちゃんと食べれるようになりましたから」
初月も姉の援護に当たった。しかし、武蔵は首を傾げる。
「この前、提督から貰った牛缶食べた後、演習で調子悪そうにしてなかったか?」
「牛缶は別です!」
秋月の言葉に妹達は一斉に頷く。そこになんの差異があるのか分からないが、BBQが少し心配になった。
「胃に優しい味噌汁も頼んでおきましょう」
大嵐の提案に、秋月型は互いに抱き合い大嵐に礼を言った。
「いいんですよ。皆さんの喜ぶ顔を見れて僕も嬉しいです」
その口調はなぜかぎこちない堅さを含んでいた。