「ほんとに豪勢だな。これではホテル、旅館と呼ばれた我々の胃も心配になるぞ」
ホテルに戻り屋上に上がると、緑の芝生と共に、輝かしい光景が善吉たちを迎えた。
善吉たちの前には、一度に十人分の肉が置けそうな金網と、赤い光が漏れている炭火が用意されていた。それが二セット、つまり約二十人分を一度に焼ける。さらにそのBBQセットの隣には、肉の山がいくつも置かれている。誇張表現なしの山なので、とんだアルプス山脈である。そして肉の隣には、太陽の光を反射し輝く野菜がいくつも置かれている。
「野菜も食べるんだぞ」
長門が駆逐艦たちに優しく忠告する。駆逐艦はぶんぶんと頷いて、肉の山に向かっていった。
「なんだよ、優しい顔もできるんじゃねぇか」
「当たり前だ。私はビックセブンの一人だぞ」
ビックセブンについて善吉は知らなかったので、曖昧に頷くことにした。ウルトラ兄弟の派生だろうか、と思ったが口にはしない。
「では僕は楽器の用意をしていきます」
「いやいや、大嵐さんも食べて行ってくださいよ。これからお世話になるんだから」
善吉の誘いに、大嵐は力なく首を横に振った。
「すいません、まだ仕事が少し残ってるんです。また次の機会に」
「そうっすか……。じゃあまた後で」
善吉が手を振り、大嵐は施設内に戻っていった。大嵐がいなくなると、善吉は艦娘たちに向けて改めて自己紹介を行うことにした。
「みんな、話を聞いてくれ」
すでに肉に手を付けはじめていた艦娘たちはその手を止め、善吉に視線を送る。
「改めて、今回のオーケストラで指揮者をやる人吉善吉だ。練習が一週間、そのまま本番っていう、はっきり言ってありえないスケジュールだ。夏休み最後の日に手を付けていない課題が山積みになっているような状態だ。さらに言えば、俺は学園祭で指揮者じみた事を一度やっただけで、はっきり言って経験不足だ。とまぁ、不安要素は上げだしたらキリがない。でもなんとかするから、ついてきてくれ。よろしく頼む」
善吉が頭を下げると、どこからともなく拍手が沸いた。その方向に眼をやると、大和と武蔵の二人だった。大和は慈愛に満ちた瞳で、武蔵は好奇心の輝きが隠せない瞳で善吉に拍手を送る。
それに続いて他の艦娘も拍手を送る。
「演奏経験がほとんどないのは我々も同じだ。共に頑張ろう」
長門が善吉の肩に手を回す。
「これも子供、駆逐艦に好かれるため。この長門、全力で応えさせてもらう」
ニヤリと笑う長門に、善吉は少しの悪寒を覚えたが無視することにした。従業員が全員に飲み物が入ったグラスを配る。中身は水だったり、お茶だったり、人それぞれ好きなものだ。
「酒はないのか?」
「武蔵、これから楽器の練習するんだからお酒はダメでしょ」
「むぅ……」
大和が窘め、武蔵が口を尖らし、水のはいったグラスを手に取る。
「じゃあ、とりあえず乾杯ってことで!」
善吉が掲げたグラスに続いて、十三のグラスが掲げられる。
「乾杯!」