艦隊楽戦~善吉ハーモニー~   作:宵闇@ねこまんま

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1日目―オーケストラ―

「よし、みんな腹いっぱい食ったところで、次の話に進むぜ」

 善吉がパンパンと手を叩く。

 武蔵はまだ肉を頬張りながら恨めしそうに善吉を睨んでいた。しかし、他の艦娘は皆満腹なようで、このまま放置すると寝る者も出てきそうだったので、善吉も首をすくめ話を進める他ない。特に雪風と時津風は既に長門の膝の上で欠伸をしている。

 武蔵は渋々と皿に残っていた肉をかきこみ、ペロリと口周りの肉汁を舐めとる。

「これから楽器を振り分ける。各々に一つだけ、どれも特注だ。壊さない様に気を付けてくれ」

 そう言って、善吉は先ほど大嵐から渡された資料に目を落とす。そこには、各艦娘の名前と、楽器の種類が割り振られていた。誰が割り振ったのか知らないが、選ぶ時間を省いて練習に入れるのは有り難かった。

 従業員が肉とBBQセットを手際よく片付け、大嵐が多くの楽器が置かれた部屋に善吉たちを案内した。

「まずは大和、バイオリンだ。上品な音色、美しい演奏姿。大和に良く似合う」

「ありがとうございます。精一杯やらせていただきます」

 名前を呼ばれた大和は、そそくさと善吉の前に進み、バイオリンを受け取った。その重みを確かめ、小さく口角を上げたのが見えた。

「次、武蔵。背が高いし、力も強い。このオーケストラでお前以上にコントラバスを扱える艦娘はいないだろう」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな。任せろ」

 善吉の身長と同じくらいのコントラバスを、鞄でも持つような勢いで軽々と持ち上げる。それを脇に抱きかかえる姿は惚れ惚れとする凛々しさに溢れている。

「次は長門。チェロだ。陸奥はヴィオラ。今楽器を渡した四人は同じく弦楽器だ。最初は四人で集まって練習してくれ」

 四人が弦楽器を持つ姿は女性ながら勇ましく壮観である。逆に言えば、そこに大人っぽさが集中している。

「次行くぞ。雪風、トランペットだ。元気に吹いてくれよ」

「勿論ですっ!」

「島風、お前はトロンボーンだ。感覚で弾くことが多いから、繊細にな」

「まっかせてー」

 ひたすらに元気な雪風と棒読み口調の島風に不安を覚えたが、その不安は次の二人に任せることにした。

「照月、チューバだ。肺活量がかなり必要だが、女の子でも吹ける。頑張ってくれ。初月、お前はホルンだ。扱いが難しいかもしれんが、頑張ってくれ」

「任せてください、この照月にお任せあれ!」

「善吉はさっきから頑張ればかりだな……。まぁ、頑張らせてもらうよ」

 金管楽器は秋月型と陽炎型の混合編成になった。より大人っぽい照月と初月を頼りにするとして、善吉は次のグループを呼び出す。

「天津風、お前はフルートだ。上手く吹けたらかっこいいぞ」

「かっこよさは求めてないんだけど、まぁいいわ。やってあげる」

「時津風、お前はピッコロだ。かなり高い音が出るから、これでオーケストラを際立させてくれ」

「魔貫光殺砲!」

「お前元ネタ知ってるのか……?」

 とりゃああ、と暴れまわる時津風にピッコロを渡し、キョロキョロとする秋月を呼び寄せる。

「秋月、お前はクラリネットだ。天津風と時津風と一緒に頑張ってくれ」

「は、はい! この秋月、全力を――」

 カチカチに固まる秋月に、善吉は苦笑してクラリネットを手渡す。

「堅くならなくていいから。よろしく頼むぜ」

 秋月は受け取ったクラリネットを奇怪なものを見るように、じろじろとひっくり返したり、穴を覗いている。その先に、ギョロリとした黒目が映る。

「きゃぁぁ!」

「うわっ! 危ないよ秋月!」

 反対から覗き返していたのは時津風であった。

「わわ、すいません時津風さん……」

「どうしたのよ」

 天津風も秋月の行動に疑問を持ったのか、首を傾げていた。

「あははは……」

 はにかむ秋月を善吉も疑問に思ったが、残りの二人に声をかけることにした。案の定というか、残った艦娘の資料を見ると、それが運命にしろ誰かの陰謀だとしても、怒りを覚えた。

「秋津洲、アイオワ。こっちだ」

 他の艦娘が楽器を手渡しで受け取ったにも関わらず、秋津洲とアイオワの担当する楽器は、容易に持ち運びできるものではなかった。

「秋津洲、お前はティンパニだ。リズムの要になる。頑張ってくれ」

 秋津洲の表情には、なぜそのような重要そうな楽器をあたしに、と言わんばかりに恨みがましそうだ。そしてアイオワは、表情を硬くする。

「アイオワは――ピアノだ」

 部屋の一角に設置されたグランドピアノは、丁重な装飾が施され、その存在感を部屋全体に行き渡らせている。そのピアノに爪でカチンと響く音を鳴らしたのは、暗い顔のアイオワだった。

「OK、ゼンキチ。ゼンキチはOrchestraにおけるPianoの役割ついて知ってるかしら」

「経験はないが、知識はあるつもりだ。お前が嫌なら別の楽器に――」

「いいわ。Pianoで」

 アイオワは悲し気に笑う。

「きっと上の保険みたいなものよ。もしMeが弾けなくなっても、No problemなように……」

 善吉は影を落とすアイオワの肩をパチンと叩く。

「Wao! 痛いわ!」

「んな顔すんな。世間じゃ知らないが、俺のオーケストラにはピアノが必要不可欠なんだ。ショートケーキの苺みたいなもんだ。しっかり頼むぜ」

 善吉の少し乱暴な励ましは、しっかりとアイオワの胸に響いたようだ。

「ふふ、All OKよ。任せてちょうだい」

「……?」

 秋津洲は善吉とアイオワの会話の意味がまったく分からないようで、首を何度も傾げていたが、アイオワが唐突に秋津洲を抱きかかえ、高い高いをすることによってそれらの疑問は全て吹き飛ぶ。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「Meはアキーツと一緒にPart practiceでOK?」

「あぁ、頼む」

「ぴゃーー! 高くて怖いかも! 降ろしてほしいかも!」

 バタバタと騒ぐ秋津洲がゆっくりと床に降ろされ、愛おしそうに冷たい大理石を撫でる。

「あぁ……戦艦なだけでなく、海外艦と一緒になってしまったかも……。あたし英語とか喋れないかも」

「なに泣きそうなfaceしてるの。他の艦娘に負けないようにfightよ! アキーツ」

「ひえぇぇぇぇ」

 他の艦娘にはない強引とも呼べるフレンドリーさがきっと秋津洲を変えてくれると善吉は信じていた、というのはほとんど嘘で、まぁアイオワなら任せても問題ないだろうといったある種投げやりとも言える考えだった。

 それよりも善吉の頭を埋め尽くしていたのは、作為的過ぎるこの楽器割り振りについてだった。この担当者に一言文句を言おうかと考え、資料の隅に目をやると、ひっそりと添えられた一文があった。

『この組み合わせは、箱庭学園の理事長が厳選なあみだくじで決めた結果であり、これに対する苦情は理事長本人にお願いします。  箱庭学園選挙管理委員会』

「めだかちゃんかよ……」

 納得がいったような、納得がいかないような、そもそもなぜ選管が、と考えたが答えは出そうにないので、諦めて艦娘達に向き合う。

「よし、全員楽器は持ったな。それじゃ時間がないから、ぱっぱと各自に吹き方を一から教え――」

 善吉の言葉を遮り、美しく高い音色が周囲に響いた。それは一点の曇りもない、見事な、熟練された音色であった。

「――え、今楽器引いたの誰だ」

「はーい、あたしー」

 手を上げたのは、ピッコロを剣のように構えた時津風だった。

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