音ノ木戦隊バトルミューズ   作:藤川莉桜

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出撃!美少女戦隊!

「いやー!お願い離して!助けて雪穂ー!」

 

「亜里沙!くっ!良い加減にしなさいよあんた達!」

 

 ここはとある採掘場。砂山と岩と所々に雑草がはえている以外には何も見当たらないこの場所で、二人の少女の叫びがこだまする。金髪と白い肌が印象的な少女、亜里沙は全身黒タイツの集団に囲まれ、もう片方の少女、雪穂はライオンのような顔の一際大柄な怪人に体を拘束されていた。

 泣きじゃくりながら救いを求める亜里沙と歯を食いしばって睨みつけてくる雪穂の姿を眺め、ボンテージ衣装を身に纏った女は満足そうに高笑いする。

 

「フハハハハ!抵抗しても無駄だ。我らがアライズ帝国が誇る天才科学者、Dr.アンジュによって生み出された最強のライオン型怪人であるニコ・ママンに勝てる人間など、この世に存在しない。やれ!ニコ・ママン!」

 

「ニコニコニイイィィッ!!」

 

 ボンテージの女、エレナ将軍の号令に合わせて、怪人ニコ・ママンは首根っこを抑えつけている雪穂の身体をまさぐり始めた。

 

「ちょっと!よりにもよってスカートめくるのは止めてよ!ぱ、パンツ見えちゃうじゃない!」

 

「ゆ、雪穂!」

 

 慌てふためく少女達。エレナ将軍は愉快そうに口元を吊り上げた。

 

「クックック……我が偉大なる主、キラー・ツバッサー皇帝陛下は美少女のあられもない姿が大好物でね。小娘よ。陛下に喜んでいただくためにも、貴様には生贄になってもらおう」

 

「はあ⁉︎何言ってんの!この作品の対象年齢はいったいどうなってるのよ!ってこら!やめなさい!変なとこ触らないで!」

 

「雪穂!そんな……」

 

 非常にマズい状況だ。このままでは全国のお茶の間で待機している二次性徴前の男子児童諸君が性に目覚めてしまうだろう。そうなってしまえば製作スタッフはPTAからのクレーム対応に忙殺されてしまいかねない。

 

「誰か……誰か助けてー!」

 

「無駄だ無駄だ!助けを求めたところで誰も駆けつけたりは……」

 

「「「「「「「「「ちょっと待ってて!」」」」」」」」」

 

「誰だっ⁉︎」

 

 エレナ将軍は慌てて声のした背後へと振り向く。この既に破棄されて久しい採掘場は東京の都市部はおろか、郊外の人里からも遠く離れた位置にある。おまけに携帯電話の電波は全く届かず、唯一のアクセスルートである車用道路もあって無いようなものと言える程の悪環境。そんな場所に偶然誰かが通りすがるなどありえない、つまり声の主達は二人の少女を助けに来た以外考えられないのだ。

 エレナ将軍は人影が複数仁王立ちしている崖の上を凝視する。後光が差しているせいで顔が見えなくなっているが、ブレザーとミニスカートという学生お決まりの背格好から見て、全員うら若き少女達であるのは間違いない。

 

「これ以上の悪さは許さないよ!エレナ将軍!」

 

「か弱い女の子を狙うなんて卑劣にも程があるにゃー!」

 

「なんという破廉恥な……決して見逃すわけにはいきません!」

 

「行くよみんな!とうっ!」

 

 真ん中に立つ少女の号令に合わせて、九人は一斉に跳び上がる。そして、腕に備え付けられたブレスレットのスイッチを押した。

 

「「「「「「「「「ラブチェンジ!!!!」」」」」」」」」

 

 少女達の全身が強烈な光に包み込まれる。しかし、それもほんの一瞬の出来事であった。さっきまでは制服姿であったはずの彼女らは、今では全身をピッタリ覆う単色のスーツを纏っている。それぞれが橙、青、赤、緑等のビビッドな色彩をあてがわれており、並び立っているとまるで虹のようだ。

 目元を覆い隠すバイザーに日光が反射し、キラリと輝く。

 

「ほのかな香り!ミューズオレンジ!」

 

「蒼き大海!ミューズブルー!」

 

「小鳥のさえずり!ミューズホワイト!」

 

「輝ける星空!ミューズイエロー!」

 

「咲き乱れる花々!ミューズグリーン!」

 

「孤高の姫君!ミューズレッド!」

 

「笑顔でニコニコ!ミューズピンク!」

 

「明日への希望!ミューズパープル!」

 

「かしこいかわいい!ミューズコバルト!」

 

 呆然としたままのエレナ将軍はお決まりの台詞を口にした。

 

「き、貴様ら……何者だ⁉︎」

 

 九人は同時にフッと笑う。

 

「穂乃果達は……悪と戦い、世界の平和を守る!音ノ木戦隊……」

 

「「「「「「「「「バトルミューズ!!!!!!」」」」」」」」」

 

ドオオオオオオオオオォォォォン!!!!!!

 

 ポーズを維持している九人組の背後で、各人のパーソナルカラーに合わせた色とりどりの爆炎が巻き起こる。

 

「ふふふ……決まったね!」

 

 リーダー格と思わしき、中央に立つオレンジ色のスーツを身に纏った少女がガッツポーズを決める。他の少女達もバイザーの下から覗かせる口元をにっこりと綻ばせていた。

 

 約1名を除いて。

 

「ちょっとオレンジ!これはどういうことよ!」

 

「え?どういうことって、何が?」

 

「どうしたのですかピンク?」

 

 ピンクと呼ばれた、九人の中でも一際小柄な少女がぐいぐいとミューズオレンジに詰め寄る。オレンジとピンクには明確な体格差があるのだが、それでもピンクの鬼気迫る様子に思わず仰け反ってしまっている。

 

「見てわからないの!なんであんたがセンターでリーダーポジションにいるのよ!変身の掛け声はにこがふさわしいにきまってるでしょ!」

 

 そのあまりのくだらなさに、敵前にも関わらず全員が呆れて転倒するようなリアクションを披露してしまった。

 

「えー……今さらすぎるよピンクちゃん」

 

「何かと思えば、そんなことですか……」

 

「聞き捨てならないわねブルー!そんなことって何よ!私にとっては死活問題なんだから!ヒーローとアイドルに妥協なんてありえないわ!」

 

 口を尖らせてたまま一気にまくし立てるピンク。同僚のリーダーに対する執着心に呆れている様子のパープルは肩を竦めた。

 

「そうは言うてもなあ。もう変身して背後の火薬も使ってしまったやないの。正義の味方と言えど予算には限度があるんやから、そう何度も仕切り直しするわけにはいかんのはピンクっちもわかってるやろ?」

 

「ぐぬぬ……!」

 

「そもそも多数決でオレンジちゃんがリーダーで良いって、とっくの昔にみんなが認めてるにゃー」

 

 イエローに同調するようにピンク以外の全員がうんうんと頷く。味方がいないのを察したのか、ピンクは開き直ったかのように仁王立ちした。

 

「ふんっ!だからあんた達はいつまでも三流なのよ!いい?センターってのは全国のちびっ子達にとってヒーローの中でも憧れの存在!ヒーローごっこのリーダー役を巡って熾烈な争いが起きる程なわけ!生半可な実力と覚悟で務まるもんじゃないの!いいからさっさと私に譲りなさい!」

 

「ええっと……り、理屈としてはわからないこともないですけど……」

 

「そこでピンクちゃんがリーダーになるってのはちょっと飛躍しすぎじゃないかなあ?」

 

 ピンクの図々しさには、メンバーの中でも温厚なグリーンとホワイトも苦笑いせざるをえなかったようだ。

 

「だいたいそんな細かく言うてたらセンター定番の赤色なレッドちゃんがふさわしいってなると思わへんかな?」

 

「ゔぇえ⁉︎わ、私?」

 

 突如話題を振られて動揺するレッド。全員の視線が当のレッドに集中した。

 

「そうだよ!レッドちゃんは頭良くて背も高くて綺麗だし、ピアノも上手いしアイドルみたいにかわいいもんね!」

 

「わ、私は別に……」

 

 レッドはなんてことない風を装っているが、マスクからはみ出ている癖っ毛をくるくる回して弄り始めている。ようするに褒められて満更ではないということだ。ピアノというヒーローと一切無関係なワードの登場に突っ込みを入れないことからも冷静さを無くしているのがわかる。

 

「だーかーらー!なんでにこじゃないのよー!」

 

 苦々しそうに地団駄を踏むピンク。しかし、彼女の叫びは全力でスルーされた。

 

「こらー貴様ら!我々を無視するな!」

 

「あ、ごめんねエレナ将軍。すっかり忘れてた」

 

「忘れてた、じゃないだろー!

 

 この緊張感の欠けた言い争いを遠目で眺めていたエレナ将軍は堪忍袋の尾が切れたらしく、ピンク以上にイライラした様子で怒鳴った。

 

「バトルミューズだとお⁉︎さては貴様らがアライズ帝国の怪人達を次々と倒してきた不審者集団か!」

 

「ちょっとちょっと!いくらなんでも不審者はないでしょ!」

 

 プライドのすこぶる高いピンクにはとって不審者は看過出来ない表現だったようだ。

 

「ぴっちりとしたカラフルなスーツ着ているお前達はどこをどう見ても不審者だろ!」

 

「確かに最初は恥ずかしくて死にたくなりましたが……」

 

「だからこの格好嫌だったのよね私……」

 

「えー?こんなにかっこいいのに?おまけに頑丈な割には軽くて動きやすいんだよ?」

 

「別にこんな派手で独創的なデザインではなくても良いではないですか。オレンジの感性が他者とずれているだけですよ」

 

 ブルーとレッドが口々に不満を並べる。

 

「ふんっ!だいたいねえ!SMクラブのボンテージスタイルきめてるあんただけには言われたくないわよ!」

 

「し、仕方ないだろ!皇帝陛下がこれ着てくれなきゃやだって駄々をこねられておられるのだ!」

 

 エレナ将軍は顔を真っ赤に染めながら吠えた。

 

「敵さんもなかなか大変みたいやねえ」

 

「なんでもいいけど、オレンジちゃんの妹さんがピンチだにゃ」

 

 イエローが指をさした先では、不幸にもニコ・ママンに囚われた少女、雪穂が今にもその柔肌を衆前にさらけ出そうとしていた。

 

「雪穂危ない!いくよみんな!とぅっ!」

 

 九人の戦士達は崖から飛び降り、エレナ将軍とニコ・ママンの元へと走り出す。科学技術の粋を集めて誕生したバトルスーツによって人間離れした身体能力を獲得した少女達は、あっという間に距離を縮めていく。

 

「ふん、小賢しい奴らめ……行け!ヒフミトリオ軍団!」

 

「ヒー!」

 

「フー!」

 

「ミー!」

 

 全身黒タイツのいかにも弱そうな雑魚戦闘員達がバトルミューズの前に多数立ち塞がる。だが、その程度で怯むバトルミューズではなかった。九人はそれぞれが得意とする武器を何処からか取り出す。

 

「ミューズソード!」

 

 敵陣に真っ先に飛び込んだオレンジは一切減速せずに、片手剣の切っ先をヒフミトリオ軍団に向けた。そのまま通りぬけると同時に立ちはだかった戦闘員達を居合の如き速さで斬りつける。オレンジを止めるべく慌てて武器を彼女に向けるも、ミューズソードの刃を防くこともままならなかった。

 オレンジの快進撃は止まらない。

 

「ミューズブラスター!」

 

 拳銃を携えたホワイトは一体一体を確実に狙い、エネルギー弾を放っていく。その正確無比な銃撃は戦闘員達の数を確実に減らしていった。

 

「ミューズアロー!」

 

 大型の弓を構えるブルー。圧縮されたエネルギーの矢は絶大な威力を誇り、一撃で複数の戦闘員の身体を貫いてしまう程だ。

 

「ミューズナックル!」

 

 イエローの武器は両手に取り付けられたメリケンサックを彷彿させるグローブ型。身軽なイエローは敵の攻撃をギリギリで避けつつ一瞬で懐に飛び込み、痛烈なジャブとストレートのコンビネーションを披露していた。

 

「ミューズアックス!」

 

 気弱な印象を与えるグリーンは、相反するようにバトルミューズが使用可能な武器の中でも最も大型である大斧を選んでいる。その強力なパワーの前には並の相手では防ぐことなど叶わない。

 

「ミューズソード二刀流!」

 

 オレンジが持っている物と同じ剣を両手に持って、レッドは戦闘員達に切り込んでいった。目にも留まらぬスピードを誇る華麗な剣さばきは、立ちはだかる敵を次々と葬っていく。

 

「ダブルミューズブラスター!」

 

 ピンクが得意とする小柄な体躯を活かしたニ丁拳銃による高速の銃撃戦闘。圧倒的手数から生み出される無数のエネルギー弾の嵐は、雑魚戦闘員程度など寄せ付けない。

 

「ソードアンドブラスター!」

 

 パープルの戦法は右手に剣を、左手に銃を備えた所謂海賊スタイルである。銃弾で怯ませたところを剣でトドメを刺す。このトリッキーな戦い方には敵もなす術がないようだ。

 

「エリチカキック!」

 

 そして、コバルトはバレエダンサーの経験を活かした強力な蹴りを見舞った。一人、また一人と蹴り飛ばされていく中で、最後に残った戦闘員は恐怖のあまりに今まで拘束していた亜里沙を放り捨ててまで逃亡を図る。しかし、悪には一切の容赦をしない主義のコバルトは、トドメのドロップキックを背中に遠慮なく放つ。気づけば全ての雑魚戦闘員は跡形も無く撃破されていた。

 ニコ・ママンと二人きりになってしまったエレナ将軍は歯軋りする。

 

「ぐぬぅ!戦闘力は低いとはいえ、ヒフミトリオ軍団がこうもあっさりと全滅するとは……やむを得ん!ニコ・ママン!」

 

「ニコオオ!!!」

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「雪穂!」

 

 空中にポイっと投げ捨てられる雪穂。地面にぶつかる寸でのところでオレンジがキャッチして事なきを得る。

 

「ニコオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 完全な戦闘態勢に移ったライオン型怪人ニコ・ママンが吼える。その強大な咆哮には大地は揺れ、空気はピリピリと刺激に満ちていく。これまでにも多数のアライズ帝国が放ってきた怪人を倒してきたバトルミューズは、この光景を見ただけで確信した。この怪人は別格であると。

 

「気をつけるチカ!こいつはさっきまでの雑魚共とは比べ物にならない強さだチカ!」

 

 破竹の勢いだった九人は初めて足を止め、目の前のニコ・ママンに対して防御の構えを取る。

 

「ニコオオ!」

 

「きゃっ⁉︎」

 

「グリーンちゃん⁉︎」

 

 真っ先に狙われたグリーンはギリギリで振り下ろされた、ニコ・ママンの刀のように研ぎ澄まされた爪を回避した。緊急回避の反動でゴロゴロと地面を転がる羽目になったグリーンの元へ仲間達が駆け寄る。

 

「グリーンちゃん!」

 

「グリちん大丈夫⁉︎」

 

「ええ、な、なんとか……」

 

 グリーンはさっきまで自分がいた場所へと目を向ける。そこには人間と同じ位の大きさの岩が存在したはずなのだが、今はニコ・ママンの爪で引き裂かれたために粉々に砕け散っているのだった。

 

「なんということですか……まさか一撃であの大岩をやすやすと砕くとは!」

 

「あれだけの破壊力なら防御はほぼ無駄ね……絶対に一撃も受けない気概で立ち向かいなさい!」

 

 レッドの警告に対して、ホワイトは不安気に答えた。

 

「一撃もって……あの怪人さん、け、結構速いよレッドちゃん?」

 

「黙って死ぬよりかマシでしょ!いくら肉体を強化するこのスーツの力があっるからって、あんなのを正面からくらったらただじゃすまないわよ!」

 

「だったら攻める!」

 

 オレンジは再びミューズソードを構えながら、ニコ・ママンに向かって全速力で駆け出した。

 

「攻撃は最大の防御なり、だよっ!穂乃果の十八番を見せてあげるっ!」

 

 ミューズオレンジは本来、自他共に認めるヒーローの落第生だ。とてもではないが、優秀な戦士とは全く言い難い存在であった。特に射撃に関しては訓練の度に命中率ゼロを記録し、他にも防御行動や情報分析、作戦立案能力に至るまであらゆる面で他のメンバーに劣る評価を受けていた。いや、実戦で成果をあげ続ける今でも苦手意識は変わらないだろう。

 しかし、それでも彼女が周囲からリーダーとして認められている確固たる理由があった。

 

「えいやっ!」

 

 接近するオレンジ目掛けて爪でなぎ払おうとするニコ・ママン。華奢な少女を容易に引き裂くはずだったそれは、ブンッと音を立てて宙を斬るだけで終わった。ニコ・ママンがその大きな腕を振りかざした瞬間、オレンジが地面を蹴って上方に跳躍したからだ。

 

「後ろがガラ空きだよ!」

 

 飛び上がったオレンジはそのままニコ・ママンの背後に回った。一転隙だらけになった怪人の背中をオレンジはミューズソードで斬りつける。

 

「えーいっ!」

 

「ニコオオオオオ⁉︎」

 

 オレンジは口元を緩めた。どうやら機動力に関してはこちらの勝ちのようだ。だったら反撃の隙を与えずに徹底的に叩き込むまで。

 

「えいっ!えいっ!えいやーっ!」

 

 幾度も刃を振るったオレンジは、最後に全力を込めた唐竹割を放つ。息もつかない程の連続攻撃に晒されたニコ・ママンは苦悶の声をあげた。そのまま地面に倒れ込んだ。

 

「ふっ……またつまようじを斬ってしまった……」

 

「それを言うならつまらぬものだよオレンジちゃん」

 

 強敵を下したことでようやく安堵する余裕を得たホワイトが、オレンジのわざとか不明なボケに対してクスリと笑いながらツッコミを入れた。

 いかなる時も、どんな強敵を前にしても、決して臆せず迷い無く果敢に切り込み役を担う。これこそがミューズオレンジが音ノ木戦隊バトルミューズのリーダーたる所以である。

 

「やったにゃー!へへん!案外ちょろい相手だったにゃ!」

 

「ふっ……流石は我がライバルだチカ」

 

 だが、ブルーだけは浮かない顔をしている。

 

「……いえ、まだです!」

 

 地面に伏していたニコ・ママンがゆっくりと立ち上がる。オレンジの渾身の一撃を受けたにも関わらず平然としているように見える。この光景にオレンジは愕然とした。

 

「うっそ……もしかして……ぜ、全然効いてない?」

 

 確かに手応えはあったはずなのだが、余裕しゃくしゃくといった様子でオレンジに迫る。そのまま回し蹴りを繰り出してきた。

 

「くっ!」

 

 慌てて防御姿勢を取って受け止めるオレンジ。相殺出来ずに後方へ弾き飛ばされる。爪による斬撃に比べれば威力は低いが、それでも圧倒的なパワーから繰り出されれば華奢な少女の身体を吹き飛ばすには充分すぎた。

 

「オレンジ!」

 

 バランスを崩して宙を舞っているオレンジをブルーは捨て身で受け止めた。

 

「ご、ごめん油断しちゃって……ありがとうブルーちゃん……」

 

「いえ、気にしないでください。それよりものんびりしている暇はありませんよ」

 

「わー!わー!またこっち来たにゃ!」

 

 今度は標的にピンクを選んだようだ。まっすぐ爪を掲げながら飛び込んでいく。

 

「ピンクちゃん!」

 

 新たな標的にされたピンクは冷静さを失うことなく、そのまま小柄な体格を活かして突き技をギリギリのタイミングでくぐり抜ける。

 

「ふん!この私がそう簡単にやられるもんですか!あんたなんて亀のようなノロマにしか見えないわよ!」

 

 爪が空を切って何も無い大地を突き刺すのを見届けたピンクは、この隙を逃すまいと両手の拳銃の銃口をニコ・ママンの腹部に合わせた。

 

「くらいなさい!」

 

 ミューズブラスターのトリガーが引かれ、無数のエネルギー弾が高速で標的に襲いかかる。が、さっきと同じく全く効いているように見えない。せいぜい装甲を少し焼いて硝煙が立ち上っている程度である。

 相変わらずピンピンしているニコ・ママンの姿を前にピンクは冷や汗を流していた。

 

「け、結構硬いじゃないあんた!」

 

「当たり前です!オレンジの剣が無意味だったのですよ!」

 

 ピンクの二丁拳銃は圧倒的手数を重視した戦術を反映した調整が施されている。その特性は連射性の最大化と消費エネルギーの徹底した効率化を目標にしているのだ。つまり、威力そのものは二の次、というわけである。ミューズソードですら通用しない相手に通じるものではない。

 

「ピンクちゃん!」

 

「ピンクはやらせないチカ!」

 

 レッドとコバルトの二人が同時に左右から飛びかかる。二刀流と鍛え抜かれた拳による同時攻撃。だが、それすらもそれぞれ片手で防がれてしまう。そのままカウンターを受けることを恐れ、すぐさま距離を取る二人。

 

「こいつ……!」

 

「やっぱり強いわね!」

 

 僅かながら生まれた隙を突いて、ピンクがもう一度すれ違いざまにミューズブラスターの出力を向上させて背部へと銃撃を叩き込む。一瞬だけ怯むもやはり大したダメージとはならないようだ。

 

「闇雲に攻撃しても無駄だチカ!パープル!」

 

「了解!ピンクっち!レッドちゃん!コバち!そのまま奴を引きつけておくんや!」

 

 コバルトの意図を理解したパープルが、他のメンバーのそれよりも大型化しているバイザーの両サイドに手を当てる。次の瞬間、バイザーのグラス部に多数のメーターと数値が映し出された。

 

「のんたんアイ!」

 

 パープルは視界を覆うバイザーのセンサーを最大レベルで稼働させる。パープル専用バイザーには次世代スーパーコンピュータを遥かに上回るレベルの情報処理機能を搭載されているのだ。

 そして、パープル本人が生来備えているスピリチュアルパワーを通じて得られるデータを元に怪人の肉体を分析。隠された弱点や操る技の詳細を突き止める。これこそが九人の中でもミューズパープルにのみ与えられた特殊能力である。

 

「そいつは腹部にある水晶が弱点や!その水晶こそニコ・ママンのパワーと防御力の源になってるみたいなんや!」

 

「なるほど。そこを狙って破壊できれば奴を弱体化させられるわけですね!」

 

 チャンスを見出したことで露出した口元を緩めるブルーだが、パープルは喜ぶのはまだ早いと言わんばかりに険しい表情のままであった。

 

「とは言っても水晶の性質で遠距離ビームの類は効かんようやね!実体剣の一撃で仕留める必要があるんよ!」

 

「はあ?何言ってんのよパープル!こいつにそんな隙……くっ……あるわけないでしょ!」

 

 勢いよく振り下ろされる爪を上手く避けながら文句を言い放つピンク。なんせ正面からまともに対抗するにはあまりにも危険すぎる相手なのだ。

 

「隙が無いならば……作ってやればいいチカ!」

 

 意を決したコバルトはニコ・ママンの巨体を踏み台にして後方に跳躍した。

 

「イエロー!グリーン!」

 

 コバルトの叫びに合わせて、ピンクとレッドはすぐさま怪人から距離を置き、代わりに大斧とグローブをそれぞれ装備した戦士二人が飛びかかる。

 

「行っくにゃー!てやっ!」

 

「え、えーい!」

 

 右からは重量を活かした重い一撃、左からは目にも止まらぬ高速の連続正拳突きが同時に繰り出される。幼馴染であるイエローとグリーンの連携は見事に揃っており、片方が狙われればもう片方が生まれた隙を即座に突いていく。しかし、それでもこのライオン型怪人は腹部の弱点をなかなか晒そうとはしなかった。

 

「ブルー!」

 

「了解!」

 

 ブルーは自身の武器であるミューズアローに備え付けられたコネクト部に、バトルスーツの転送装置であるミューズブレスレットをセットした。

 

「ミューズアロー、最大出力モード、ミューズエネルギー完全解放!」

 

 ブルーの持つミューズアローの各部から放射板が飛び出し、全体が赤く染まっていく。同時にエネルギーで構築された矢が、ヒフミトリオ軍団を相手にしていた時とは比べ物にならないサイズへと肥大化していった。

 加えて本体から露出したレーザーポインターがニコ・ママンの胸部を正確に捉える。

 

「ラブアローシュート!」

 

 あらゆる武道に精通するブルーのよって放たれた正確無比な弓矢が目標を見事に射抜いた。バチバチと音を立てながら火花が激しく散る。「うっ!」と唸りながら胸を押さえるニコ・ママン。

 

「結構効いてるみたいだにゃ!」

 

「いや、これだけじゃ足りないわ!」

 

しかし、所詮は射撃武器。強固な装甲とエネルギー武器に対する高い耐性を誇るこの怪人相手では決定打には至らない。

 だが、コバルトとブルーの狙いは別にあった。

 

「今ですオレンジ!もう一度!」

 

 バトルミューズの猛攻を前に怯まずにはいられなかったニコ・ママンの両腕をコバルトとブルーがそれぞれ抑え込む。力の源である水晶の見える腹部が今、完全に晒け出された。

 

「でえええええええええいっ!」

 

 ブルーに言われた通り、オレンジは正面がガラ空きになったニコ・ママンの腹部目がけてミューズソードの刃の突きを繰り出す。そのまま、切っ先は腹部の水晶に深々と突き刺さり、粉々に砕いた。

 

「なんだと⁉︎まさかDr.アンジュが開発した強化装置が……」

 

 とうとう耐えきれず地面に崩れ落ちるニコ・ママンを眺めていたエレナ将軍の顔が青ざめていく。どうやら敵側も水晶が力の源であり、弱点でもあることを承知していたようだ。

 

「ええよみんな!今ならビームも通用するみたいやね!」

 

「分析ありがとうパープルちゃん!よーしっ!みんな!()()行っくよー!」

 

 バトルミューズの全員が頷き、各々の武器を一つの形に合体させていく。最後に、異空間から現れた筒型の物体が中央部に固定される。

 

「バトルミューズ!ファイナルフォーメーション!」

 

 その姿はまさしく、筒型の物体を銃身とした巨大な大砲であった。端から見ればあまりの巨大さゆえに、発射のタイミングを任されているオレンジ以外の八人が各部を抱えなければ銃口を目標に向けることも出来ない欠陥品レベルの巨大兵器。だが、このバトルミューズ最終兵器『ミューズバスター』はこれまでも多数のアライズ帝国怪人を葬ってきた本物の切り札なのだ。

 

「エネルギーラインを中央ノズル部に接続しました!ミューズエネルギー限界出力で供給開始!」

 

「照準を目標に固定するよ!……よし!ロックオン完了や!」

 

「ミューズエネルギー充填率80%……84……88……92……96……100!」

 

「今だよオレンジちゃん!」

 

 ホワイトが叫ぶ。

 

「届け!私達の想い!」

 

 そして、八人の少女の願いを託されたオレンジは、トリガーを引いた。

 

「「「「「「「「「ミューズバスター!!!!!!」」」」」」」」」

 

 中央の銃口から溢れんばかりの光が飛び出していく。

 

「ニコニコニイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!!!」

 

 九人の想いを一つにしたバトルミューズの最強技、ミューズバスターは巨大なうねりとなってニコ・ママンを包み込み、跡形も無く消し去るのだった。

 

「ば、馬鹿な……Dr.アンジュの最高傑作であるニコ・ママンまでもが!」

 

 この最終兵器の使用による余波で巻き起こった砂風を背中のマントで遮るエレナ将軍。その表情は明らかに焦りで満ちていた。

 ミューズバスターを元の小さな武器に戻したオレンジは、呆然と立ち尽くしているエレナ将軍へと静かに剣を向けた。

 

「エレナ将軍!覚悟!」

 

「チィ!」

 

 舌打ちしながらエレナ将軍は手元から小型爆弾を取り出し、地面に勢いよく叩きつけた。硝煙と閃光が辺りを包み込み、バトルミューズの視界は一瞬ながら奪われてしまった。

 

「さらばだバトルミューズ諸君!次に会う時は貴様らの最期だ!首を洗って待っているがいい!」

 

 硝煙が消えた時には、既にエレナ将軍の姿はなかった。

 

「……逃げられちゃったみたいやね」

 

「チッ、逃げ足だけは早い奴だチカ!」

 

「雪穂ー!」

 

 今まで足が竦んで動けなかった亜里沙が慌てて親友の元へと駆け寄った。

 

「雪穂!雪穂ー!」

 

「だ、大丈夫……怪我はしてないから」

 

 実際バトルミューズのバイザーを通じて二人を解析しても、異常はおろか目立つ外傷も見られなかった。あれだけ敵味方問わず誰もが派手に暴れまわっている中で、一般人の雪穂と亜里沙がほぼ無傷で済んだのは奇跡と言えるだろう。

 

「助けていただいてありがとうございます!あの……あなた方は?」

 

 亜里沙は興奮した面持ちで自分に似た雰囲気を持つミューズコバルトに尋ねた。

 

「ふっ……名乗る程の者ではないチカ。だが、あえて言うなら……」

 

「穂乃果達は……悪を挫き、か弱き人々を守る正義のヒーロー……」

 

「「「「「「「「「音ノ木戦隊!バトルミューズ!!!!」」」」」」」」」

 

 ポーズを決める九人の背後で、予算を犠牲に再び色とりどりの爆風が巻き起こる。人知れず世界を守る正義の味方との邂逅にキラキラと目を輝かせている亜里沙に対し、雪穂の反応は明らかに冷ややかであった。

 

「……お姉ちゃん達、何やってんの?」

 

 オレンジは心臓を射抜かれたかように挙動不審な動きでうろたえ始めた。

 

「にゃ!にゃに言ってりゅの雪穂⁉︎違う違う!穂乃果は穂乃果じゃなくてミューズオレンジだよっ!」

 

「お、落ち着いてくださいオレンジ!それではオレンジの正体が穂乃果だと気づかれてしまいますよ!」

 

「ブルーも落ち着きなさいよ……」

 

 完全にボロを出している二人の横で、レッドは髪をクルクルと弄りながらため息を吐いた。

 

「その通りチカ。オレンジの正体は高坂穂乃果ではないし、この賢くて可愛いミューズコバルトも決して絢瀬絵里などではないチカ!」

 

「いや、絵里さんですよね。ていうか自分で言っちゃってるし」

 

「二度も言わせるなチカ!私はエリーチカではないチカ!そもそもヒーローの正体を詮索しようだなんてあまり褒められた行為じゃないチカ!これ以上は禁則事項だチカ!」

 

「そうだよ!雪穂は無粋すぎだよ!それに普通の女の子のお姉ちゃんがヒーローなんて危ないマネやってるはずないと思う!」

 

「亜里沙の言う通りチカ!絢瀬絵里は賢くて可愛い普通の女の子チカ!」

 

「なんで亜里沙が怒ってるの。まあいいや。ありがとうございます皆さん。本当に助かりました。今度是非お礼をさせて下さい」

 

「あ、だったら凛はラーメンを奢って欲……」

 

「いや、礼には及ばへんよ」

 

 好物をたかろうとするイエローを尻目に手で遮るパープル。

 

「でも……」

 

「なに、気にする必要は無いチカ。世界とか弱い市民を守るのが我々バトルミューズの使命なのだチカ」

 

「そうなんですか。じゃあ今度ほむまんをお裾分けしようと思ってましたけど、大丈夫ですね絵里さん」

 

「だーかーらー!私は音ノ木坂学院の生徒会長を務める賢くて可愛いエリーチカではないと言っているチカ!空気読めチカ!あ、でもエリーチカはほむまんを欲しがってる気がするチカ。遠慮なくあげるといいチカ」

 

「結局自分で言ってるじゃん……」

 

 その後はサインをねだる亜里沙を引っ張りつつ、雪穂はヘリに乗って採掘場を後にした。アライズ帝国が地球侵攻を開始して以来、被害者はもしもの際には公共の救助隊が迎える手筈になっているのだ。

 

「なにはともあれ、一件落着にゃー!」

 

 既に時刻は夕暮れに突入していた。空に浮かぶ夕陽は赤く染まっている。

 

「ふふふ……今日も穂乃果達の活躍で悪の脅威は去ったね!」

 

「うん!オレンジちゃんすごくカッコよかったよ!」

 

 にこやかに微笑み合うオレンジとホワイト。しかし、ブルーは神妙な面持ちで沈みゆく夕陽を見つめていた。

 

「ですが、いつまた奴らが侵攻を始めるかわかりません。その時、再び我々は剣を取り立ち上がるのです」

 

 コバルトはブルーの隣に並び立っている。拳を握りしめてギリギリと音を立てながら。

 

「悪のアライズ帝国め……見てるがいいチカ!貴様らは私達バトルミューズが必ずや一匹残らず根絶やしにしてやるチカ!」

 

「コバルトちゃん、流石にその昭和のノリは物騒すぎるにゃー」

 

 イエローのバイザーの隙間からは一雫の冷や汗が垂れていた。

 

「よーしっ!じゃあ、次の戦いに備えて今日は駅前のパン屋さんで鋭気を養っちゃおうっ!」

 

「凛はラーメンの方が良いにゃー」

 

「わ、私は定食屋さんでお米を食べたいなー……」

 

「みんな、太りますよ」

 

「そうそう、食べ過ぎていざ戦えなくなったらどうすんのよ?」

 

「まあまあピンクっち。今日はいつもより激しい運動をしたんやからちょっと位ならええやん?」

 

 戦士達に一先ず訪れるつかの間の休息。だが、依然としてアライズ帝国は地球を我が物にすべく虎視眈々とか弱き人々を狙い続けている。悪の脅威が去るまで、これからもいつ終わるとも知れぬ激しい戦いが繰り広げられるだろう。

 

 だが、平和と正義を愛する勇敢なヒーロー達は決して諦めたりはしない。

 

 本当の平和が帰ってくるその日まで……

 

 戦えバトルミューズ!

 

 負けるなバトルミューズ!

 

 ちなみにDVD第1巻は好評発売中だ!




ニコ・ママンはピンクちゃんの母親を改造したとかそういうドギツい設定は全く無いので安心して下さい。それとヒフミトリオ軍団は一つの画面に同じ種類の戦闘員が二人並ぶことはありません。なぜか。
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