Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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本日二話目。とりゃー


失われる、熱

 現在、サテラが徽章を盗まれたという場所、そこに彼女自身に案内されて、たどり着いた先には――

「……何の用だ? 一文無し共」

「あっはは、どうもーカドモンさん。ご機嫌はどう?」

 リンガを快くくれたカドモンの果物屋が立っていた。そう、つまり――スバルとシャオンがおそらく召喚された場所だったのだ。

「お、お元気そうで」

「おかげさまで、今だったら文無し二人を追い払うのも苦にならなそうだ」

 スバルの苦笑いしながらの言葉に青筋を立てながら凶悪な笑みを浮かべて答える。こぶしで答えないだけまだ優しいのかもしれない。

 

「ま、ま。落ち着こう。お客様候補を連れてきましたから」

「そうそう、おっちゃん! 見て驚くなよ?」

 

見せびらかすかのようにサテラをカドモンに紹介する。その服装から貴族だと思ったのかカドモンの顔が驚きに変わる。どうやら好感触のようで、商品を三、四個も買えば知りたいことを教えてくれるだろう。しかし、

 

「えっとね二人とも。期待されて悪いけど私もお金持っていないわよ」

 

 サテラの発した言葉が周囲の時を止めた。

 

「……」

「…………すいません。作戦タイムで」

 

 沈黙するカドモンに待ってもらうよう頼みスバルとサテラを連れて作戦を立てる。

 

「ちょいと、どうするよシャオン」

「流石に商品買わずに聞きたいことだけ聞くのはだめだろうし……ダメもとで泣き落としにかかるか?」

「あの強面のおっちゃんが許してくれるとは思わないけどな」

 

 しかしやらないよりはましだ。その作戦を採用し、意を決してカドモンの前に立ち自分でも気色悪いと思うが女声で話しかける。

 

「うぅ、実は僕たち……」

「全部筒抜けだったからな? 作戦とやら」

 

 再び沈黙がシャオンたちを襲った。もうこの沈黙が心地よく感じるようになってしまうかもしれない。

 

「……で? どうすんだい? 文無し三人衆?」

「や、やっぱり悪いんじゃない?」

 カドモンの顔が怒りに染まっていくのを見てサテラはスバルの裾を引いて肩を小さくしている。確かに、このままでは情報を得ることは不可能だ。残念だがここは撤退するべきだろうか。

 そのようなこれからの行動を考えていると女の人の声が聞こえた。

 

「あら? 先ほどはどうも」

「あれ? 奥さんこそ、なんでまたこんなところに?」

 声の主は迷子の童女の母親だ。その隣には小女もいる。婦人は笑いながらカドモンを見つめながら答える。

 

「ふふ、主人のお店なのでちょっと立ち寄ったんですよ」

「主人?」

 三人でカドモンと婦人を見比べる。

 

 片や紫がかった髪をしたきれいな婦人。その子供も年相応にかわいらしさをふるまっている。

 片や顔に大きな傷がある大男。その肉体は凶悪な顔に比例するように鍛えられている。

 

「囚人の間違いじゃ?」

「カドモンさん、いくらなんでも奥さんの旦那さんを殺して奪うのはだめだよ。自首しよう」

「ちょっと二人とも、いくら何でも失礼よ? 確かに……予想外だけど」

 

「お前らなぁ? 喧嘩を売りに来たのか?」

「ぱぱっ!」

 三人の言葉に堪忍袋の緒が切れそうになっているところに愛娘である少女が抱き着く。勢いをつけての抱擁だったがなんなくカドモンは受け止め、笑顔で抱きしめ返す。

 

「おーよしよし。元気だな。それよりお前、こいつら文無しと知り合いか?」

「文無しなんて失礼なこと言わないでください」

 

 少し怒り気味に婦人はカドモンに事情を説明する。するとカドモンの表情から怒りが消えていく。そして話が終わる頃には一転、申し訳そうな表情を浮かべるようにまでなってしまった。

 

「そいつはすまねぇ」

「いえ、そんな実際私たちが素寒貧なのは事実なので」

「素寒貧ってきょうび聞かねぇな」

「もう!スバルったら! ……ほんとうにすいません」

 茶化すスバルをサテラはたしなめ、再び謝罪する。すると少女がサテラの裾を引っ張る。彼女の視線に合わせるようサテラはかがみ込む。すると恥ずかしがりながらも頑張って話しかけた。

「おねーたん。これあげる!」

「どうかもらってください」

 

 少女はそういって花の胸飾りをサテラに手渡す。初めは戸惑っていた彼女だったがやがて、笑顔でそれを受けとる。

「ありがとう、すごーく嬉しい」

 

 チラリとスバルの方を見ると頬を染めて見惚れていた。寒い駄洒落を言ってまで見たかった笑顔だ。達成感は

 

 シャオンがこほんと咳き込み、スバルは現実に戻ってくる。カドモンもスバルの気持ちがわかっていたからか笑っている。

 

「娘の命の恩人だ、何でも聞いてくれ」

 

 事情を掻い摘んで話すとカドモンは一言、呟く。

 

「盗まれたのなら貧民街の……盗品蔵にあるかもしれない」

「盗品蔵?」

 名前からして盗品を保管する蔵のことだろう。確かにサテラの徽章もそこに運ばれている可能性はあるだろう。

わずかな希望が見えた三人だったがカドモンは言いずらそうに口を開く。

「ああ、場所は知っているから教えてもいいが……諦めた方がいいかもしれない。盗品蔵には巨人が管理しているらしい」

 

 巨人、つまりまた人外の存在。そして盗品の管理人ということはあまりまともな人物ではない気がする。しかしそんな忠告を受けてもサテラはひるむことなく答える。

「それでも、行かないといけないんです」

 

 それに続きスバル、シャオンも同意する。

「悪いな、おっちゃん。忠告はありがたく受け取っておくだけにしておく」

「そういうことなので」

 

 もう何を言っても無駄だと思ったのか、カドモンはそれ以上はなにも言わなかった。

「うっし、じゃあその盗品蔵まで行ってみるか!」

「やっと手がかかりが見つかったわね……もう」

 サテラ、スバルが離れていく。すぐに後を追いたいが、その前にカドモンに言うことがある。娘と婦人は店の奥にいるのか、それともどこかにいったのだろうか姿が見えない。カドモンがこちらに気付き振り返る。

 

「ん、どうした? まだ何か聞きたいことでもあんのか?」

 

「いえ、言い忘れていたことがありまして」

 

 姿勢を正し、カドモンに向き直る。

「――わざわざ他人の私たちに親切にしていただきありがとうございました。カドモンさん、今度機会があったら商品を買いに来ますので」

 

 今までのふざけた態度とは違い真面目に礼を言うとカドモンはしばらく呆気にとられていたがすぐに朗らかな笑みを浮かべ近づき、シャオンの背中を豪快に叩いた。

 

「おうよ! その時はサービスしてやるよ! あとその口調は気持ち悪いから今まで通りにしてくれや」

「はは、わかったよ」

「おーいシャオン! 急がないと置いてくぞ!」

「ダメよスバル。おいていくなんてひどいこと考えちゃ」

スバルの冗談に真面目に注意するサテラ、そんな二人を見てシャオンは手を振り応える。

 

「ああ! 今行く! それじゃまた!」

 最後にカドモンに礼を言い二人のいる場所に駆け出していく。

 

 カドモンに盗品蔵までの場所を教えてもらい、言われた場所にたどり着く。するとそこには大き目な建物があった。

 その建物は盗品蔵という名前には似合わない威容でどっしりと構えている。一瞬違うのではないかと思ったが周囲にはほかにそれらしい建物がなかったので、おそらく、これが盗品蔵だ。

 

「というわけで、現在、盗品蔵の前に来たわけだがどうする?」

 

「行くしかないでしょ」

 スバルの問いかけに何をいまさらといったようにサテラは言う。確かにそうだ。これ以上うだうだ言っていたところで来てしまったのだからあとはいくしかないのだ。そう思っていると。サテラの銀髪からパックが現れた。

 

「あ、ごめん。ボクそろそろ限界だ。でも何かあったらすぐにオドを使ってでも呼び出すんだよ?」

 パックは言葉と同様に辛そうにしている。

「うん。ありがとう。――おやすみなさい」

 そうサテラが言うとパックは白い光となって消えた。まるで死んでしまったように見えるがおそらくは一時的に消えただけだろう。

 

「さて、行きますか」

「ちょいとお待ちを! 俺が先にいかせてもらうぜ! シャオンは彼女の後ろにいてくれ」

「ん?なんで」

「もしも、盗った奴が俺たちの存在を気づいていたら奇襲を仕掛けてくるかもしれない」

 

 人差し指を立ててスバルが作戦を説明する。

 

「一番戦闘力の低い俺が偵察、もし何かあっても彼女は一人で治療や魔法が使える。それに加えてシャオンは俺よりも強い、何かあっても対処はできる。どうだこのフォーメーションは!」

なるほど、悪くはない作戦だ。ただし一つ問題がある。――それは、

 

「ねぇスバル。その作戦って――」

 

「正直暗闇に男と二人きりにさせたくはないが、シャオンだったら大丈夫だろう! な?」

 サテラがスバルに対して何か言いたそうにしていたが、スバルは大きな声でかぶせるように話を逸らす。

 ――そうこの作戦の問題。それはスバル自身が危険を一番負うことだ。心優しい彼女のことだ、きっと反対するだろう。しかしこれ以上時間をかけるわけにもいかないのだ。だからシャオンもスバルに合わせて話を逸らす。

 

「はっはっはソウダネ」

「信用していいんだよな?大丈夫だよな!?」

 

 片言で返すとスバルの突っ込みが返ってきた。その様子にサテラは疑っていたが、なんとか話を逸らすことができたようだ。

 

「大丈夫よ。しっかりと私が迷子にならないようシャオンを見張っておくから!」

「そういう意味じゃないんですが!? この子たぶん天然だよ! そんなところもかわいいけどね!」

 

 サテラの天然発言を聞いてスバルがかわいさに悶えているがこれ以上時間をかけるわけにはいかない、スバルに対して作戦の開始を告げようとする。しかし彼もわかっていたのか、急に真面目な顔に変わる。

 

「んじゃサテラ、シャオン。行ってくる」

「……え? あ、うん。気をつけてね」

 

「できるなら”私のために頑張って”っていう台詞のほうがスバルくん的にはうれしいわけですが……」

 ――それでも心配をされてうれしいだろうに。いつもの強面が緩んでいるのを見て呆れる。

 

「ん、頑張って」

 スバルの要求にこたえる彼女、相変わらず素直だ。

「ああ、頑張る」

 

 そう笑顔を浮かべ盗品蔵の扉を開けようとスバルは戸の取っ手に手をかける。そこでシャオンは気づいてしまった。スバルの手が震えている(・・・・・)のを。

 

「――スバル」

「え?」

 スバルが振り返る前に、背中を力強くはたく。当然予期しない一撃にスバルはもだえる。

 

「え、え? どうしたの?」

「な、なにしやがる!」

 状況がいまいち把握できていないサテラとスバルのそれぞれの反応を見てシャオンは笑顔で答える。

「ん? 気合付け」

 

 サテラはその言葉を耳にしても首をかしげるだけだったがスバルは気づいたようだ。先の一撃で震えが止まっていることに、先の一撃はいわば震えを止めるために与えた一撃だということに。

 スバルがサテラに惚れていることは一目瞭然だ。一目ぼれ、という奴だろうか。まぁ要は……スバルのプライドのためだ。スバルも惚れた女の前で恐怖に震えている姿を見せさせたくないだろう。だからシャオンはそれを気遣い、恐れをごまかすように強い一撃を与えたのだ。

 

「頑張ってこい!」

「……あとで覚えとけよ!」

 

 互いに拳をぶつけ合い 見送る。にやりと笑いながらスバルは先ほどとは違って軽やかに蔵に足を踏み入れた。

「えっと、どういうこと?」

「はは、まぁ男にしかわからない問題さ」

 いつまでも首をかしげている彼女にはそう言ってごまかした。

 

 

 

「なんで、あんなになっても助けてくれるのかしら」

 スバル自身は彼女自身に気付かれたくなかったのだろうが、どうやらお見通しのようだった。救われない。

「一日一善、ってだけじゃないさ」

「教えては、くれないのよね?」

 

 抗議の目で見つめられるが、残念なことにその理由をシャオンの口から言うほど無粋ではない。

 

「スバルが戻ってきたらしつこく聞いてみるといいよ。あとさ、サテラ嬢。君がさ――」

 

 頭をかきながら言うかどうか悩んでいたが決心し言葉を発する。

 

「――偽名(・・)を使っていることに突っ込みはしないけど、できれば本名をいつか教えてほしい」

 シャオンの言葉にサテラは息を呑む。

 確信に至ったのはつい先程だ。いや、まだ百パーセントの確証はない。だがスバルが彼女の名前を呼んだ際、反応が遅れた。まるで呼ばれているのが自分の名前だと気づかないように。

 そこで、カマをかけてみたのだが案の定、当たったようだ。彼女はなにか言い訳しようと口を開いたが酸欠状態の魚のようにパクパクとさせるだけで声にはならなかった。

 やがて観念したようにサテラ、いや名の知らない彼女は小さく「ごめん」と謝罪の言葉を口にした。

 

「別に怒ってないさ。でもね、徽章を無事取り戻すことができれば俺には無理でもスバルだけにでも本名を教えてあげてほしいな。たぶん飛ぶように喜ぶから」

 オーバーリアクションの彼のことだ、比喩表現ではなく、本当に飛ぼうとするだろう。

 

「……本当に怒ってないの?」

「誰にだって抱えているものがあるからねぇ。パックも言ってたろ? 今は互いの事情は置いておくって」

 

 そう、お互いに抱えているものはあるがそれは今は置いておくのだ。まずは互いの問題を解決することが優先だ。

 それに、今日一日の行動を見てきて彼女は悪い人間ではないことがわかる。だったら偽名を使うのにもきっとそれなりに重い事情があるのだろう。

 

「うん、わかった。無事徽章を取り戻せたら私の本名を教えてちゃんと借りを返すから」

「よろしい」

 満足げに頷くと同時に、倉のなかで何かが勢いよくぶつかるような大きな音が聞こえた。サテラと顔を見合わせ、尋ねる。

 

「――どうする?」

「私が行くわ、シャオンは誰も入らないようにして。流石にこの中で挟み撃ちにされたらきついから」

 確かに彼女が先に行けばもしスバルが怪我をしていても治すことが可能だ。もしも人質に取られていても彼女なら遠隔で攻撃ができる。

 

「何かあったら合図するから、その時は逃げて」

「それはお断り。ほら、はよ行きなさい」

 

 その提案を断ると彼女は不満そうだったが事態は急を要するかもしれないのだ。サテラもそれをわかっているのか急いで蔵に入っていく。

「さて、と」

 

 周囲に人の気配、人影がないか感覚を研ぎ澄ませる。あたりには風で木々の葉が揺れる音しか聞こえない。人も、いない。もともと人通りが少ないらしい貧民街だ、夜中になればなおさなのかもしれない。

 その様子に若干、警戒を緩める。すると、

「あ……れ?」

 突如、体に違和感を感じた。まるで今まで燃料を供給していたホースが切断されたかのようになにか”繋がり”が途切れたのだ。

 それを意識し始めると体から血液が抜けていくような感覚に陥る。それに伴って熱も抜け落ちていく。

「さむ、い?」

 体には傷一つない。なのに先ほどまでは寒さなどみじんも感じなかったはずの体が今では体が震えを起こすほどの寒さを感じている。震えが強くなるにつれ感覚がなくなり、ついには立っていることすら難しくなり地面に顔面から倒れる。

「っ!」

 落ちていた石によって額を切ってしまったようで熱い液体が伝うのがわかる。だがそれすら一時的なものですぐにまた寒さを感じる。

 寒い、寒い、サムイ、サムイ。全身を氷水につけているようなほど冷たさだ。

 視界がくらみ始めその寒さすら感じなくなったその時、

「――ぁ」

――雛月沙音は、死んだ。

 





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