Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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7魔女の中でのシャオンに対する理解度的には
エキドナ>セクメト>ダフネ>カーミラ>サテラ>テュフォン>ミネルヴァとなっております。
おい、メインヒロイン


友は暴食の名を冠し

「俺と相性悪いっていうか、この状態で相性が良い奴ってたぶん存在しねぇよ!」

 

 頰を引きつらせ、スバルはそれを前に震える声でそう漏らす。

 眼前に現れたそれが『暴食の魔女』だとしたら、それはあまりに無視し難い姿で。

 

「──ダフネにぃ、何が聞きたいんですかぁ、すばるーん?」

 

 甘ったるい声で、『暴食の魔女』──ダフネは、形のいい鼻を鳴らして言った──棺の中、鎖と拘束衣に雁字搦めにされ、両目を黒の眼帯に封じられた、魔女が。

 

「友人関係見直した方がいいぜ、シャオンさんよ」

 

 完全拘束状態の少女を前に、スバルはそう心からの突っ込みを繰り出した。

 スバルは目の前の魔女に対する態度を決めかねる、というのも現れた魔女が、想像以上に摑み所に困る外見をした魔女だったからだ。  

 棺──拷問器具に近い形をしているその中で、縦に起き上がる黒の棺に収まる魔女は、外見年齢は十三、四歳程度に見えた。  

 背中に届く灰色の髪を二つに括ったお下げにし、のほぼ裸といえる拘束衣の上から鎖で棺に固定されている。両目には、顔の中心で交差するように眼帯が巻かれており、その姿形の不穏さでいえば、これまででぶっちぎりに魔女らしい。

 

「ドナドナに言われて出てきましたけどぉ、気持ちよく寝てたのにぃ。……あんまりぃ、長く起きてたくないのでぇ、つまんない話しないでくださいねぇ」

「お、おお、わざわざ出てきてくれてありがとう……『暴食の魔女』、なんだよな?」  

「そうですよぉ?」

 

 とダフネは何を変なことを、とばかりに答える。

 見た目や動きならば暴食の魔女よりも怠惰の魔女に近いのだが。

 とりあえず、目隠しした相手だ、離れていては不自由もあるだろうと考えて、慎重に一歩だけ距離を詰めようとするが――

 

「……悪い、この距離で話す感じでいいか?」

 

 ――嫌な予感がした。

 まるで、腹をすかした肉食動物の前に裸で近づくような、そんな生物的本能からくる危険予知。

 スバルは失礼に当たるかもしれないが、少し離れた場所で話すことを提案する。

 するとダフネは気にした様子はなさそうで、

 

「あー、助かりますぅ。すばるんの傍にいるとぉ、ダフネは我慢できそうにぃ、ないんですよぉ。すばるんって、すごぉく、ダフネの好みなぁ、匂いなのでぇ」

「……お互い、長く話しても碌なことにならないってのはわかった。わかったから、早速だが質問タイムだ」

 

 むしろありがたがられてしまった。

 どこか調子が狂う彼女に対して、自身の直感が間違っていないことを祈りながら、スバルは本題に入る。

 

「――シャオンについて知っていることを教えてほしい。ああ、エキドナやテュフォン、セクメトさんからは聞いているからそれ以外の情報をくれ」

 

 単刀直入に、スバルは自身の知りたい情報を投げかける。

 色々と目の前の魔女に突っ込みたい話や、聞きたいことはあるが、それは後回しだ。

 スバルの幾度も超えてきた死線というやつかはわからないが、あまり、この魔女と長い間話し続けることは--命に係わると頭の中で警鐘を鳴らしているからだ。

 そんな緊張感を持った質問に対して、目の前の暴食の魔女、ダフネは、首傾げ、

 

「ふぅん? ヤオヤオについてぇ、ですかぁ? いいですよぉ?」

 

 と気軽に答えたのだった。

 

 

「……意外と友好的だよな、魔女たち」

「その認識はぁ、改めた方がいいかもですよぉ? まぁ、ヤオヤオについてならぁ、なんでそんなしりたいのかぁ、ダフネはわかりませんがぁ、別にかまいませんよぉ?」

 

 少し前まで魔女協、ペテルギウスのような狂人と関わっていたため、こちらと対話してくれることから少なくともスバル的には友好的に感じられるのだが。

 当の本人が忠告してくれているのだ、一応は肝に銘じておくことにする。

 

「そのシャオンっていうのは『選定』とやらをしていたようだが、なんでそんなことをした?」

「え、知りませんよぉ?」

「……なんかそんな予感はしていたよ」

 

 4人の魔女と話して分かったことがある、彼女らはそれぞれの分野、つまりは自身の信念に係わること以外については無頓着すぎるということだ。

 強欲の魔女は知識を得ること、傲慢の魔女は悪人かどうかを、怠惰の魔女は安寧を、そして暴食の魔女はおそらく食事以外には興味がないのだろう。

 これはもしかしたらどうしようもないのかもしれない、と何度目かわからない落胆の声を上げようとしたとき、ダフネは「あー」とつぶやき、

 

「でもヤオヤオのことだから考えることは予想できますよぉ?」

「本当か!?」

「簡単ですよぉ、えっとぉ、ヤオヤオ風に言うならぁ『価値の向上』じゃないですかねぇ?」

「価値の、向上?」

 

 こちらの反応にダフネは何度か目隠しの下にある目を動かすようなしぐさの後、彼女らしくかみ砕いて説明してくれた。

 

「摘果?間引きっていうんですかぁ? より良い世界を目指すために、悪い部分を刈り取っているんじゃないですかねぇ? ダフネならぁ、両方パクリとしちゃいますが」

「……つまり、シャオンは、本当に人類をより良くするために、そのためだけに人を殺していた……?」

「なんだぁ、わかってるじゃないですかぁ、すばるんったらぁ」

 

 ――狂っている。

 要は、世界という広い中の、人々の中で劣ったものを見定めて、そぎ落としていくのだ。

 理屈はわかる、世界が平等だなんて思えるほどスバルは素直ではない。どうあがいたって限られた資源の中で生きていくのだから不平等な分配というものが存在する。だから、不平不満が出るのも仕方ないと思う。

 しかし、それを判断する立場に立とうと思う思考が、命を選ぶ立場に立とうとする考え方そのものがスバルたちとは違うのだ。

 もちろん、それを実際に行使するほどの覚悟もない、自分と同じような存在を葬る覚悟などあってたまるか。

 きっと多くの人から恨みを抱かれただろう。きっと多くの生命が失われたのだろう。

 だが、それでもシャオンは止めなかった、その考えが、スバルには理解できない。

 そして、その理解できない感情、記憶がヒナヅキ・シャオンに突然流れ込んでしまったのだ。

 この『聖域』という場所に訪れたことと、レムを守れなかったことによる心の疲弊が重なったことによって、それが想像以上に今の彼には致命的で、過去のシャオンと同化するには効果的だったわけだ。

 だが、妙なことがある。

 

「そんな、馬鹿げたことをなんでしたんだよ、今まで聞いた評価で人を、世界を恨んでいるやつではないってのはわかるし、その、価値を上げてどうするかの目的が不明だ」

 

 魔女からの評価、シャロやカロンというかかわりが深い人物からしか話は聞けていないが、少なくとも救いようがない悪人ではないようだ。

 だからこそ、そのような人物が命を軽く見ている行いをすることに結びつかない。

 もしも信念だとかの話になるのだったらスバルにはどうしようもないが。

 

「さぁ? そもそもぉ、今話したのはダフネの推測ですしぃ……あー、でもそれがヤオヤオに与えられた使命だって話はいつかしましたねぇ」

「使命……」

 

 『信念』ではなく『使命』。

 つまりは、彼自身の意思ではない可能性がある、となれば、

 

「それは、シャオンがオド・ラグナの化身ってことと関係が?」

「さぁ、どうなんですかねぇ? そのことについてはぁ、ヤオヤオ本人くらいしか知らないんじゃないですかねぇ?」

 

 またも肝心なところはつかめない。

 というよりも、こればかりは本人に聞くしかわからないのかもしれない。

 

「まぁ、最期はミラミラの静止も聞かずにテュテュを助けに行って死んじゃったらしいですけどぉ。後悔はなかったんじゃないですかねぇ?」

「……わかったように語るもんだ」

「友人ですからぁ……でもぉ残念ながらぁドナドナもヤオヤオの魂は蒐集できなかったみたいでぇ、会えないんですよねぇ」

 

 そう告げるダフネは珍しく、声色を落とし、どこか寂し気に身をよじるのだった。

 

「あふぅ、さて、お話はもういいですかぁ? ダフネぇ、お腹すいてきちゃいそうで、眠りたいんですけどぉ」

「待て待て、もうひとつ話があんだよ!」

 

 話を終わらせて眠りにつきそうになるダフネを前に、思わず一歩彼女に近づいてしまう。

 と、その動きにダフネは棺の中で小鼻を鳴らし、「あー」と呟いて、

「──百足棺」

 呼びかけと、直後の光景にスバルの喉の奥で驚きが生まれる。

 スバルが縮めた距離を開くように、ダフネが背後に動いただけ。言葉にすればその程度だが、その動き方がスバルの想像を超えていたのだ。

 

「──っ」

 

 ダフネを拘束する棺の、丁度地面に接する部分がふいに浮き上がる。

 原因は簡単だ――棺から足が生え、浮いたのだ。

 蜘蛛かかにに似た動物風の足。その足で、棺が背後へ移動する。棺という無機物にはできない、生物的な動きだった。

 

「そ、れが……なにか、聞いても大丈夫か?」

「それってぇ、見えないダフネにもわかるようにお願いしますぅ」

「その……ものすごい、職人の魂が輝くというか、造形美がきらりと光る棺桶だよ。俺の狭い知識の中でも、棺桶って足はないし、虫みたいなスピードで動いたりしないんだが?」

 

 ぎちぎちと音を鳴らし、棺は移動先にゆっくりと着地し、吸い込まれるように再び蟹の足は棺の中へと消えていった。

 その光景に唾をのむスバルに、ダフネは納得したように頷き、

 

「あぁ、百足棺ならぁ、ダフネが動けなくて不自由したのでぇ、そのために作った子なんですよぅ。ダフネの汗とかおしっこでも動くので便利ですよぉ?」

「急にすげぇ聞きたくない暴露話を聞いた気がするが……ちょうどいい、その”作った子”に関しての話だ、俺が聞きたいのは」

 

 偶然にもスバルが聞きたいと思っていた内容に話の方向が向いた。

 そう、スバルが暴食の魔女に聞きたいことーーエキドナに事前に言われていた3大魔獣の生みの親である彼女に聞きたいことだ。

 一度深呼吸をして、なるべく怒りを抑えた声でスバルは問いかける。

 

「白鯨、黒蛇、大兎……3大魔獣と呼ばれるこいつら全部、お前がその棺桶みたいに、生み出したものだな……?」

「さんだいまじゅう……? んーふぅ……うん、懐かしい名前ばっかりですねぇ。そうですよぉ。鯨もぉ、蛇ちゃんもぉ、兎もぉ、ダフネが作った子たちですよぅ」

「なんでだ……?」

 

 スバルの怒りに対して、ダフネは棺の中で身をよじるだけだ。。

 怒気に顔を赤くして、スバルはダフネに指を突きつけると、

 

「なんで、そんな化け物を作りやがった……! そいつらが外の世界で、お前が死んだあとも四百年! どんだけ暴れ回ったかわかってんのか!? 何人、何十人、何百人がひでぇ目に遭ったか……!」

 

 なるべく怒りを抑えつつもスバルの脳裏に浮かぶのは、白鯨と激突したリーファウス街道の激戦。

 妻を殺されたヴィルヘルムの叫びと執念、そしてあの戦いに参列した騎士たちの嘆きと怒りの日々――その原因を生んだ魔女が生んだ悲劇だ。

 

「それに大兎もだ……! そいつらの所為で今俺たちがどんなに苦労を! なんのためにだ! お前は、なんのためにあんな化物を、作ったんだ!!」

「……? おっきぃ方が、食べがいがあるじゃないですかぁ?」

「――っ、あ?」

 

 勢いづくスバルの言葉をダフネは心底不思議そうな顔で受け止める。

 その態度にスバルは自身が抱いていた怒りが空回りしてしまう感覚に陥る。

 

「鯨……白鯨はおっきぃですよねぇ? あの子を食べると大勢が満足すると思いませんかぁ?」

「――――」

「兎ちゃんなんてぇ、最初に食べられた”核”を殺さない限りいくらでも増えるんですよぉ? あの子がいればぁ、誰もお腹が減ったりしませんよぉ、きっとぉ」

「その大兎に大勢喰われてるんだよ……!」

 

 ダフネの言い分は支離滅裂だ。 

 飢饉に苦しむ人々の為に魔獣を生み出したのならば、その飢饉よりも多くの人々が生み出された魔獣の所為で死んでいる。

 きっと、生まれないほうが多くの命が救えていたかもしれない。

 

「強くなりすぎたのはヤオヤオが手を加えたからですよぉ? 鯨は分裂能力なんてぇ、なかったですしぃ。大兎も本当はぁ核なんてない、ただの食欲だけで動く兎だったのに、知能も得たんですよぉ?」

 

 何のために、そのようなことをしたのかはもうスバルにもわかる。

 

「……人が、魔獣よりもより強くなるように、か?」

「ふふん」

 

 ダフネは正解だとばかりに笑い、唇を舌で舐める。

 その様子は友人のことをほめてもらったかのようにどこか嬉し気で、誇らしく思っているようだった。

 過去にいたシャオンの考えならば、強くなる魔獣に対応するほど、人々は強くなる。価値の向上を第一とする男ならば、そのような行動をしていても驚きはしない。

 

「”空腹は最高のスパイス”なんてぇ、話もしていましたねぇ」

「おまえらの! その見当違いな思いやりの所為で、いったい何人が死んだとおもっている!? どれほど無念を抱いた人々が、どれほど……」

「いったい何人死んだんですぅ? それに食べられた側の気持ちなんてぇ、そんなの知りませんよぉ。ダフネとしてはぁ、食べられるほうがぁ悪いと思うんですけどぉ」

「――――」

「相手を食べようとするのにぃ、自分が食べられる可能性を用意しないのはぁ、都合がよすぎませんかぁ?」

 

 微笑みながらダフネは苦い顔をしたスバルに当然のように言い放つ。

 その発言を経て、ようやく理解する。

 目の前の少女は魔女、その中でも動物の理屈を持つ存在に近い。

 見た目と、言葉が通じるだけで人同士の対話ではない。

 それを、今ここでようやく理解した。

 エキドナが話した危険性も、含め、魔女というものについて、スバルの認識が今まで浅かったことを思い知らされたのだ。

 だから、そんなダフネにこれ以上言葉を尽くしても無駄だろうと思ったが、

 

「その大兎、滅ぼすにはどうすりゃいい?」

「えぇー、兎ちゃん、滅ぼしたいんですかぁ? あの子なんて、弱いのに食べやすくて、簡単に増えるしで、ダフネの自信作なんですよぉ?」

「弱肉強食って考えを押し付けるんなら、生きるために相手を殺すっていう、生存本能ってやつも認めてほしいもんだな」

 

 常識の外で渋るダフネに屁理屈の延長線上の言葉をぶつけるスバル。

 本音では、すでにスバルはダフネから情報を引き出すことを半ば諦めている。彼女から有用な話を聞き出せそうもないということと、そもそも彼女とまともな会話が成立する兆しが見えないという点からだ。

 そう、土俵が違えば話し合いはできない、大きな価値観の差異を埋めることはできないだろう。

 しかし――

 

「――兎ちゃん、大兎はぁ、獲物を探すのにマナを頼りにしているんですよぉ」

「あ……?」

「そして、それができるのは実は”核”をもつ個体だけなんですよねぇ。その個体を見つけてぇ、なんとかすればほかの個体は気にする必要がないかもしれないですねぇ」

「……どういう風の吹き回しだ?」

「――生きるために喰らう、生きるために殺す。両方を認めないとぉ、それは筋が通らないですよねぇ?」

 

 素直に大兎のことを語り出したダフネをスバルがいぶかしむ。

 どうやら先ほど屁理屈のように投げたスバルの言葉に、何か響いたものがあったのかもしれない。

 

「”核”は最後に食べたものの記憶やぁ、知識、マナを吸収しているのでぇ、わかる人が見ればすぐに見つけられますよぉ。ただぁ、ヤオヤオが無駄に知識を与えたのでぇ、そう簡単には捕まえられないでしょうしぃ……すばるんには手ごわいかもぉ?」

「……無限に増えるんじゃねぇのか? その”核”から離れて活動しているやつとかいるんじゃ」

「”核”以外にまともな知識はないですよぉ。実質意識は一個、それを薄くして群体が共有しているんですよぉ。核持ちから離れたらすぐに共食いを始めちゃってぇ、死んじゃうと思いますよぉ?」

 

「共食いをしないっていう、滅ぼされないための知恵はないですからぁ」と語るダフネは自身の子供のような存在である兎が滅ぼされるのを止めるどころか、良しとしている様子だ。

 先ほど語った筋を通すためだろうか。

 だが、今の情報は必ず役に立つものだ、光明は見えた。

 

「ふぁ、そろそろぉ、ダフネはいいですかぁ?」

「ああ……経過はともかく、参考になったよ、ありがとなーーそれと」

 

 言う必要がない言葉だ。

 行っても意味がない言葉だ、だが、スバルの、一方的に苦しめられた人間の意地という奴だ。

 魔女に届くかもわからない”宣戦布告”という矢を放つ。

 

「大兎の野郎は俺が滅ぼす。白鯨も、もう殺したあとだ……四百年、”お前達”が良かれと思ったのか、それすら思ってねぇのかはともかくもう十分だよ。――跡形もなく、消してやる」

 

 その矢が、言葉を受け、ダフネはこれまでにない反応を見せる。

 

「……たかだか、ニンゲンが--やれるものならぁ、やってみたらいいですよぉ」

 

 鋭すぎる歯が並ぶ口腔から、赤い舌を出して『暴食』の魔女が笑った。

 

「――――」

 

 強い風に吹かれ、スバルは思わず上げた腕で自分の視界を遮る。

 突風に草原が煽られ、風に巻かれて緑色の葉が舞う。それを目で思わず追いかけ光に飲み込まれ消えたのを見届けて、視線を戻した。

 そこには、

 

「無理言って悪かったな、エキドナ」

「礼はいらないさ。それより、十分な収穫は得られたかい?」

 

 エキドナの言葉にスバルは少し考え、絞り出す。

 

「……半々だな」

 

 これから壁となる大兎の情報は十分なほどに得られた。ただ、本来の目的であるシャオンについての情報はまだ半端だ。

 過去のシャオンという男の人物像は浮き彫りになってきたが、根本的な問題である今のシャオンの悩みを解決することにどうやっても結びつかない。

 それを知るには今のシャオンが抱えている悩みをもう少し深く知り、過去のシャオンがどのような心情で”選定”を行ったのかを知る必要があるのだが。

 親しいといった魔女たちでも、混み入った事情には踏み込まないのか、その部分を知っている様子はなかった。

 そこで、ふとスバルは疑問を一つ感じた。

 

「なぁ、シャオンとお前ら魔女の関係って、何なんだ?」

「今更だね……」

「ああ、本当に今更だけどオマエラが400年前に仲良く活動していたっていう情報以外は詳しくは知らねぇんだ」

「うーん、そうだねボクと彼は師弟関係といえばいいかな?」

 

 エキドナは照れ臭そうにそう答える。

 師弟関係、つまりはシャオンという男は強欲の魔女に師事していたわけだ。

 それの理由は、いったい何を求めてそのようなことをしていたのだろうか。

 

「ミネルヴァとダフネにとっては友人、セクメトとテュフォンは聞いていたね。あとはカーミラと……」

 

 エキドナは少し考えるそぶりをして、一度頷き、答える。

 

「カーミラとは、なんといえばいいんだろうね。恋人? に近いのかな?」

「恋人って……」

「まぁ、シャオンにそういう感情があるかはわからないけど、カーミラからは好かれていただろうし、シャオンも嫌ってはいなかったろうね」

 

 予想外の回答にスバルは目を丸くする。

 今までの話から聞くにシャオンという男はそのような感情とは程遠いものだと思っていたのだが……そこはスバルの勘違いだったのかもしれない。

 だが、それならば、

 

「カーミラ。色欲の魔女だったか――そいつに会わせてもらうことはできるか?」

 

 その提案にエキドナは沈黙する。

 正確には、こちらと目を合わせないようにしている風に見える。

 そして、その予想は正しかったようで、エキドナは渋々といった形で語り出す。

 

「確かに、ヒナヅキ・シャオンを救うためには彼女に話を聞くのが一番の近道だ」

「なら」

「なら、ボクがそれを知っていて今まで提案しなかったことを考えてほしいな」

 

 エキドナの目は真剣そのもので、今までのようにからかいやこちらを試すようなそぶりは露にもない。

 

「ダフネの時と違って注意すべきこともない、それ故にダフネの時よりも命の保証は--できない」

 

 ゴクリ、という音がスバルの耳の中で響く。

 無意識に唾をのみ、エキドナの警告に思わず、怯えを感じていることに気付く。

 ダフネと話している時に感じた恐怖、白鯨と向き合った時の恐怖、魔獣たちに襲われたときの恐怖といった”死”を濃厚に感じさせる感覚だ。

 

「君が彼女と対話するにあたって、何が地雷になるかわからない……でも知ろうとする欲を止める権利は誰にもない、君が望むのならばボクは断れない。だが、危険な道だということは伝える。それでもいいかい?」

「――ああ、それでもつかみ取れる手がかりがあるなら俺は手を伸ばす」

 

 おそらく今までの魔女たちの中で一番命が危うくなるかもしれない。

 だが、ここまで来たのだ、調べられるところまで調べよう。

 エキドナには話してはいないが、スバルには”死に戻り”という忌まわしき権能もある。

 いざとなれば――何とかなるかもしれない。

 

「俺の手でしっかりとつかめる物は、掴みに行くよ。それこそ命を懸けてでも」

 

 そんな歪な覚悟を持って答えると、エキドナは困ったように笑い、

 

「――随分と強欲なものだね」

 

 ゆっくりと風に吹かれた霞のように姿を消すのだった。

 

 

 砂が混じった突風に目を閉じ、ゆっくりと開くと今までとは違い、目の前には誰もいなかった。

 

「エキドナ?」

 

 そう呼びかけるも反応はない。

 ただ、明らかに無視できない気配が、後ろから感じる。

 今ならわかる。この重圧は、”魔女”によるものだ。

 それに気付いたスバルは警戒をしつつもゆっくりと振り返ろうとする。

 しかし、それよりも早く。

 

「――――死んで?」

 

 背後からその言葉が告げられた瞬間、スバルは自分の意思で首を絞め始めたのだ。

 




次回、スバル死す!
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