Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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今回は少し文章が雑です。


目覚める力

 スバルは走っていた。どれだけ走ったのかわからない。ただ、脇目も振らずに全力で走った。走るのを止めたのは体力の限界がきて、足が動かなくなった頃だ。

 

「ここまで、くればいいだろ」

 

 切れた息を整えながらスバルは後ろを振り返ると蔵はもう見えず、あの殺戮が行われている場所からは大分距離をとることができたことがわかる。もう安全といってもいいだろう。

 

「憲兵、で何とかなるのだろうか」

 

 この世界の憲兵というのがどれだけの戦闘能力を有しているのかわからないがあの怪物じみた強さのエルザに勝てるのかどうか確信がない。

 もしも憲兵を連れていって返り討ちにあってしまったそれこそスバルの命も終了だ。

 シャオンとの話し合いで死に戻りという能力があるかもしれないと分かったが、あくまでもそれは仮説。その不確かな情報を信じるのにはスバルにはハードルが高すぎる。

 ふと、一つの考えが脳内に生まれる。

 

「そうだ。逃げちまおう!」

 ――なにも見なかったことにして、憲兵に伝えることすらしないで人通りが多いあの通りに向かうのだ。そうすればスバルは死ぬことはない。

 フェルトも、ロム爺もシャオンもそして、サテラとも。誰とも出会わなかったことにして知らないふりをして安全に過ごす。ミーティアこと携帯は蔵の中だが金は服などを売ればなんとかなる。どうやらジャージはこの世界では高価な物とされているらしいので売れば当面の生活資金は賄えるだろう。その後の生活はその時に考えればいい。

 スバルだけが助かる、そのことに多少の罪悪感を感じてしまうが誰だって自分の命が大事だ。そうだ、スバルを責めるような奴なんていないはずだ。

 半ば自身に言い聞かせるように結論付け、歩き出そうとする。

 ふとシャオン、そしてサテラの顔が頭のなかによぎった。スバルの中の彼等は何も言わない。責めるようなそぶりも、何か訴えるような素振りもない。当たり前だ、初戦はスバルの中の都合のいい妄想なのだから。

 このまま進めば痛い目も見ずに済む。それは確実なのだ。しかし、

 

「……んなことできるか」

 

 拳を強く握り込み、震えを無理矢理止め、恐怖をごまかす。

 

「あーもう! こんなの俺らしくねぇっての!!」

 

 頭皮がめくれそうになるほどの勢いで髪をかきむしる。

 別に恐怖を感じなくなったわけじゃない。ただ、自分の命を捨てても助けたいという気持ちが強まっただけだ。それを隠そうとするほどスバルはできた人間ではない。

 

「くそったれ! こうなったらやりきってやんよ!」

 踵を返し、命の攻防を今も繰り返しているだろう盗品蔵に走り出す。不思議と疲労で動かなかった脚はいとも簡単に動いた。

 

 自身でもなぜこんなに早く走ることができたのかわからないが、ものの数分で盗品蔵の前にたどり着くことができた。

 壊れた扉から見えたのは今にも殺されそうになっているシャオンの姿だった。

 

「――っ」

 

 体が勝手に動きシャオンとエルザとの間に割り込む。思ったよりも躊躇がなく割り込むことができた。――理由はわからない。ただ、ひとつわかることはこの行動に後悔はなかったということだ。

 目前に迫るのは鈍く光る刃先。瞬きした間に迫っていたそれをすんでのところで逸らす。しかし逸らした力を利用しエルザは反対側の肘を使って頭を打ち抜く。

 

 衝撃に意識が飛びそうになるが何とか堪える。しかし、追撃の手はやまない。

「ほら、危ない」

 ククリナイフの柄でシャオンの顎にぶつけ、その反動を利用し勢いよく縦に切り裂く。

「っ! 全然動き違うじゃねぇかよ!」

 

 幸いにも傷は浅い。だがいずれは致命傷を受けてしまうことは確実だ。

 確かに彼女はシャオンよりも格上だということはわかっていた。だが、ここまでとは(・・・・・・)思わなかった。まるで勝てる気がしない。

「ちっ!」

 

 このままではらちが明かないので一時的に逃げ出そうとする。しかし、

 

「逃がさないわ」

「なっ!?」

 

 床に垂れていたロム爺の血液、もしくはフェルトのものだろうか。エルザはそれを器用にも掬い上げシャオンの目を狙ってかけた。

 予想外の目くらましに意表を突かれもろにそれをかぶってしまう。

 

「ちっ!」

 急いでぬぐうもすでに遅く、懐に入りこちらにククリナイフを切り上げようとしているエルザと目が合った。

 黒い瞳は獲物を追い詰めた時の獣そのもので、獰猛だ。

――まずい、避けられない。

 直感的にそのことがわかった。

 体勢は崩れ、視界はまだ若干悪い。相手の動きは自身よりも速い、逸らすこともできない。

 

「さよなら。なかなか楽しめたわ」

 

 ひんやりとした感覚。これが死ぬ時の感覚なのだろうか。

 死に直面していると認識したからかエルザのナイフがゆっくりと迫ってくるのが見える。

できるならば痛くないようにしてほしいが目の前の彼女の性格からはシャオンの望みはかなわないのだろう。覚悟を決め、いやあきらめて目を閉じた。

 しかし痛みはいつまでも来ることはなく、代わりに

「――こなくそおおおお!!」

 スバルの雄たけびと――

 

「……あ?」

 

 スバルの生暖かい血液がシャオンの体にかかった。

 

「予想外の展開なのだけれど」

 エルザが血で濡れたナイフを横凪で払い落とすのが見える。そして停止していた思考が彼女の声で元に戻る。

 

「おい、スバル。なんで戻ってきたよ」

 エルザの存在を余所に、かすれた声でスバルに話しかける。

 

「さ、さぁな? ただ、俺だけ逃げるのは」

 

 虫の息だが、スバルは弱く笑い、

 

「かっこ、悪いからな」

 

 そういってスバルの体から力が抜け落ちるのが感じられた。完全に体をシャオンの腕に任せ、後はピクリとも動く気配はない。僅かに脈はあるがそれもどんどん弱くなっていく。このままではもって数分、いやそれすら持たないだろう。

 目の前で、それも自身をかばって命を落とした人間がいるのに意外にも落ち着いていた。そんな自分に腹が立ちそしてなによりも、

 

「ふざけんなよ」

 彼は死ぬべき人間ではないのに死んでしまった。そのことに対する世界の不条理に、そして何もできなかった、スバルを助けられなかった自らの弱さに憤っていた。

 なぜ、彼が死んでしまったのか。なぜ自分ではなく彼なのだろうか。

 そんな怒りを、ついスバルにぶつけてしまった。こぶしを彼の体にたたきつけて(・・・・・・・・・・・・・)

 

「あなた、何をしたの?」

「あ?」

 

 小さく声を上げるエルザ。鋭い視線でそんな彼女を射貫くと彼女は初めて見せた驚きの表情をし、スバルを見ていた。

 それにつられるようにスバルに視線を戻す。そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 

「傷が、治っている?」

 スバルから流れ出ていた血は今は止まっている。

 傷をよく確かめるべく急いで服をまくりあげ、服の下を見る。そこには傷一つない健康そのものの肉体が存在していた。次に脈も測ってみる。弱まっていたそれも安定し、元に戻っている。

 顔色は青白いものから健康的な赤みを帯び、意識こそ戻らないが少なくとも命の危機は脱したといえるだろう。

 

「――よかった」

 

 原因も仕組みもわからないが、どうにかスバルは死ななかった。そのことに何度目かわからないが安堵の息をこぼす。だが状況はいまだ危険なままだ。なぜなら――

 

「これ以上、時間をかけていられないの。まさか最上級の治癒魔法の使い手とは思わなかったけど、一撃で首をはねれば問題ないわね」

 彼女がいるからだ。

 後ろからの声に反応し、転がる。頭上で何かが通りすぎた音が聞こえた。髪の毛を数本切り飛ばされたが何とか無事のようだ。ただスバルとの距離は離されてしまった。

 幸いにも人質として扱ったり、先に殺すことはしないようだができれば手の届く範囲にいてほしかった。

 この力がなぜ、どういう経緯で使えるかわからないが今はこの力を駆使してこの場を切り抜けるしかない。

 考え事をしているとエルザが肉薄してくる。もうこの距離では避けることができない、ならば――よけない。

「もらったわ」

 

 鮮やかに切り上げられたナイフに合わせ、左腕でそれをあえて受ける。

 手甲がない部分から切断され、自らの左腕が回転しながら宙を舞うのをシャオンは目にする。しかし、

 

「屁の、河童ぁ!!」

 慌てることなく素早く右手で左腕の切り口を殴りつける、僅かに感じる痛み、拳に感じる骨の固さに顔を歪めるが歯を食い縛り、耐える。すると妙な感覚と共に瞬く間に腕が新しく生え変わった。

 そして治った左手で勢いよくエルザの鼻頭にこぶしをたたきつける。

 手を開いたり閉じたりを繰り返し、調子を確かめる。問題なく動かせる。

 どうやらこの能力は”傷を殴る、もしくは攻撃することでそれを治療する”ものらしい。副作用などがあるのかはわからないのが怖いが、今は気にしていられない。

「凄い再生能力ね……」

  エルザはもうこの能力に驚く様子はなく、鼻から流れた血を拭いながら笑みを浮かべる。

 未知の敵に戦うことが楽しいのだろうか。シャオンには理解のできない考えだがきっとそうなのだろう。

 

「なら、これは?」

 その声とともにエルザの姿がぶれ、シャオンの視界から消える。

 構えるがエルザの姿は見えない。右にも左にもいない。勿論背後にもいない。

――まずい、見失った。

 蔵の中に沈黙が訪れる。耳を澄ましても音一つしない。どこかに消えてしまったのではないかと思うほどに気配がない。

 すこし、警戒を解く。このまま警戒し続けても持たない。

 途端、上空から音が聞こえた。顔を上げるとナイフを振り下ろそうとしているエルザの姿があった。

「お疲れさま」

 急いで左腕で攻撃を防ごうとする。しかし

「――あ」

 生え変わった左腕には手甲がない。当然エルザの攻撃を防ぐことはできず、叩きつけるような斬撃が襲う。

――ああ、左側の手甲はさっき腕ごと飛ばされたんだった。

不思議なことに痛みはなく、スローモーションのように自らの腕が飛んでいくのを再び目にしながら他人事のようにそう考える。

 

 急いで能力を発動させようと考えたがそれはもう読まれていたらしく、エルザに右手も切り飛ばされる。切断面から勢いよく血が流れ出るのが、熱が失せていくのがはっきりとわかる。

 それと同時に、視界が暗くなってくる。もう自らの体の中に血液はほとんどないのだろう。

「もう一度、言うわね。お疲れさま」

 本当に楽しませてくれたことに感謝するようにエルザはねぎらいの言葉をかけ、ナイフで腹を裂いた。

 シャオンが薄れていく中で見た光景は――それが最後だった。




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