Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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恋は盲目に、思いはいつかへ

 

「なーなー、あに」

「うん? どうしたんだい、テュフォン」

 

 緑髪の童女。傲慢の魔女テュフォンがシャオンの髪をいじりながら唐突にその名を呼ぶ。

 シャオンは彼女の髪をとかしながら呼びかけに応える。

 

「あには誰かから『チョコレート』をもらうのかー?」

「そういえばもう少しで誓いの日、か。いや、どうだろうね。僕のことを好いてくれる人なんてほとんどいないからね」

 

 愛の誓いの日。

 この日は想い人、友などに贈り物を贈る日だ。

 なかでも一般的なものはチョコレートではあるが花を贈る人もいるらしい。シャオン自体そこまでもらった回数が多くないので詳しくはないが。

 

「ならテュフォンがあげるかー?」

「ああ、それはうれしい。でも、無茶はしないでね」

「うー? わかった」

 

 妹は兄を想い、兄はそんな妹の思いを素直に受け取る。血はつながっていないが確実に兄妹の仲そのものだ。

 

「……」

 

 そんな仲睦まじい光景を見ていた魔女も、声をかけるのを躊躇うほどに。

 

 

「という訳だけど、カーミラ。アンタはどうすんの?」

「……はへ?」

 

 息も絶え絶えに、汗を滝のように流しながら桃色の髪を湿らせている女性。色欲の魔女カーミラはミネルヴァの言葉に震えた声で返事をする。

 

「……アンタねぇ、マナを移すのはいいけど無茶しないでよね!」

 

 彼女が今行っていたのはマナの貯蔵、マナをためることができる特別な石にマナをためていたのだ

 こうすることでマナを消費せずに使えるという訳だ。

 だがマナを込める時には結局消費されるわけなのでやりすぎれば無理がたたってしまい、体がもたないだろう。

 特に、そんな無茶をカーミラがしているということに驚いている。

 

「だって、こうしなくちゃ。しゃ、シャオンくんと、離ればなれに、なっ、ちゃう」

 

 カーミラがここまで必死になっている理由は一つ、『来たるべき日』のためだ。

 シャオンの模倣の加護の副作用で彼の命は刻々と削られていく。それだけでも厄介極まりないのに多くの生物と契約をしている彼の体はボロボロだ。

 しかもシャオンもカーミラも両方ともミネルヴァの権能では癒せない傷を負っているので彼女の機嫌も悪くなる一方なのだ。

 

「全く、恋は盲目って言葉がこれほど似合うことはないわ」

 

 彼女のやっていることは無駄ではない。

 だが、それで体を壊してしまっては結局シャオンに心配をかけてしまうことになるのだが目の前の魔女はそれすら気づいていないのだ。

 ただ、自分も同じ立場なら同じ行動をしていただろうと考えると馬鹿にもできない。無論、他の大罪の魔女たちも同じだろう。

 

「お互い、大変な人を好きになっちゃったわね。ほんとうに」

 

 彼女には聞こえない様に小さな声でつぶやく。

 勿論ミネルヴァとカーミラの好きは違う意味ではあるのだが、話を聞かない彼女には同じ意味にとられてしまうかもしれないからだ。

 

「結局、チョコはどうする……って、もう! 話を聞きなさいよ!」

 

 本題の答えを聞く前に再びマナの注入を始めたカーミラに怒るミネルヴァ。

 しかし彼女はそれすら聞こえていない様に熱心にマナを放出する。あれではよほどのことがない限り反応を示さないだろう。

 それを見てミネルヴァは、

 

「今年もあたしがアンタの代わりも作ってあげなきゃいけないのか」

 

 そう疲れた様に言った。

 ただ、ため息交じりに発せられたその文句の割に、彼女の顔は笑顔であったことを知る人物は当人も含め誰もいなかった。

 

 

 ミネルヴァが去った後、カーミラは少しの休憩を取り、またマナを込める。

 淡い光が桃色の魔石に取り込まれていく。魔法に精通しているものならば驚くほどのマナ量と、その幻想的な風景を見る者はいない。

 それが数分続いた後、流石の彼女も限界が来たのか倒れそうになる。

 

「シャオンくん」

 

 だが、倒れるわけにはいけない。倒れてしまっては彼が手の届かないところに行ってしまう。

 すんでのところで持ちこたえるが、これ以上の注入は命にかかわりそうになったので、仕方なく断念をする。 

 すると淡い光が空気に溶けるように消え去り、何事もなかったかのような風景に戻る。 

 カーミラは大きく深呼吸をし、汗でぬれた体をハンカチで拭く。そして落ち着いたころミネルヴァが言っていたことを思い出した。

 

「チョコ、かぁ。愛、の誓いの日もちかい、もん、ね」

 

 愛の誓いの日は女の子が好きな男の子にチョコを渡す日だ。

 それは人間だけでなく、亜人も精霊も、そして魔女にだって、カーミラにだって例外はない。

 

「シャオンくん……」

 

 想い人の名を愛おしそうに口にし、頭の中で彼の笑顔を思い浮かべる。

 それだけでカーミラの顔は紅葉し、心臓が強く脈打つ。

 初めて出会った日に一目ぼれをし、そこから彼女は彼にひかれていった。以前の自分では考えられなかった他者を思うこと、それがこんなにもドキドキするものとはカーミラは思わなかった。

 

「今年は、が、がんばって、チョコレートをつくるから、ね」

 

 彼の喜ぶ顔を思い浮かべ、疲労で震える体で、そう決意を固めたのだった。ただ――

 




一応この後
エキドナ作のチョコ――紅茶に合いそうなもの。
ダフネ作のチョコ――いっぱい食べれて、なおかつ大勢で食べられるもの。
ミネルヴァのチョコ――無難に美味しいチョコ
セクメトのチョコ――売っているチョコ(溶けかけ)
テュフォンのチョコ――白黒のチョコ
カーミラのチョコ――ハート形の少し歪なチョコ

これをシャオンはもらいました。 

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