Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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感想五十件目の一二三四五六様によるリクエスト”エイプリールフール”ネタです。
ちょっと雑になったかもしれませんが、ご了承を


番外編 四月一日の記念日。前編

 ロズワール邸のとある部屋。

 口元を三日月のように歪ませ、下種な笑みを浮かべる男がそこにいた。

 

「……ついに、ついにこの日が来たっ! げへへ、まってろよ!」

 

 端から見れば変人だが、幸いにもそれを見る人物はいなかった。 

 

 

 ベアトリスは禁書庫の椅子に座りながらいつものように本を読んでいた。

 物音すらせず、静かで平和な空間。そこに、

 

「ベア子!」

「……相変わらずだけど、なんで扉渡りを破れるかしら」

「俺だから!」

 

 いつになくウザい、もといやる気がある、スバルの登場にベアトリスの頭が痛くなる。

 スバルがここまでテンションが高いということはまたなにか企んでいるはずだ。流石に彼の考えていることはある程度読める。

 しかし先ほどまでのハイテンションの様子から一転、申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げたではないか。

 

「いや、今までさ。迷惑をかけちゃったかなと思ってよ」

「今頃気づいたのかしら」

 

 本を閉じ、スバルに向き合う。その姿はどうやら本当に反省しているらしく、頭の下げ方もきちんとしていた。

それを見てベアトリスはいつものスバルではないと考えを改める。

 

「ああ、だからこれだ」

「……なんなのよ、これは」

 

 スバルが取り出したのは一つの箱だ。

 しかしただの箱ではない。色鮮やかに加工された、贈り物に扱われるようなものだった。

 ベアトリスにとってそれだけで疑問ものだが、これを渡される理由が全く想像つかないのだ。

 

「日頃のお詫びもかねて、俺からのプレゼントだ」

「信用ならないかしら」

 

 即答したベアトリスだったが、スバルはそれを予期していたとも思えるほどに俊敏に動く。

 

「いいのかな? そんなこと言って。中に入っているのはお前が好きなパックのぬいぐるみだ!」

 

 高々と箱を上げるスバル。

 普段だったら、ただただうっとおしいだけだったが今の言葉は彼女には――

 

「にゃっ!? にーちゃの!?」

 

 瞳を輝かせるには十分だったようだ。

 

「俺の手作りだ。お前も俺の実力は知っているだろ? モッフモフだぜモッフモフ」

「……ふん、オマエにしては気が利くかしら。ま、まぁ? もったいないから貰ってやるのよ」

 

 口ではそう言いながらも、ベアトリスの表情筋は緩みまくりでよだれがこぼれていないのは奇跡ともいえるだろう。

 そんな彼女の様子にスバルは苦笑しながらも箱を手渡す。そしてベアトリスから距離を取る。

 敏い彼女だったら気づいていただろう、なぜスバルが離れたのかを。だが、今の彼女はいつも通りの彼女ではないのだ。

 鼻歌を歌いながら包装をほどき、箱のふたを開いた瞬間――

 

「ふぎゃー!」

「大・成・功! 流石ベア子、俺の予想を裏切らない騙されっぷりだ!」

 

 小さな爆発音と、箱の中からなにかが飛び出し、ベアトリスの目の前で止まる。

 そう、スバルが彼女に渡したのは世間一般でいうびっくり箱というものだった。

 

「な・ん・な・のかしらー!」

「エイプリールフール! 今日は嘘をついてもいいんだよー!」

 

 事情を説明し、魔法が飛んでくる前に退散しようと、入り口まで駆ける。

 幸いにもあまりにも驚いたベアトリスはひっくり返っており、魔法を放つほど余裕がなかったようで一撃も魔法が発動されることはなく扉にたどり着いた。

 

「ふふふ、俺ったら悪い奴だぜ」

 

 しかしそう言いながらも箱の奥にはしっかりとパックのぬいぐるみを用意してある当たり自分も度胸がないのかもしれない。

そう自嘲気味に笑いながら、禁書庫から無事逃げ出したのだ。

 

 

 スバルは次の標的を見つけ、スキップを取りながら彼女の元に近づく。

 次の標的は金髪の少女、アリシアだ。

 彼女は箒を片手に仕事をしている場面だった。

 

「アリシアー」

「なんすかー? アタシは今忙しいんすよ」

 

 そういう彼女だったが廊下を掃除しているだけでそこまで仕事に追われているわけではなさそうだ。だったら嘘をついても問題はないだろう。

 

「なんかロズっちが呼んでたぜ? 給料がなんとか……上がるんじゃないか?」

「ま、まじっすか!」

 

 お金の話になると彼女は目を輝かせ、周囲に星が飛んでいるように見える。

 

「俺がこの仕事を代わりに受けるから行ってこいよ」

「恩に着るっす!」

 

 埃を舞い散らせながら彼女はロズワールがいるであろう執務室にかけていった。真っ先に、一切の寄り道をせずに。

 

「……少しは疑えよなー。流石に心が痛む」

 

 自分でやったことだがあまりにも不憫なので、彼女の代わりにここの仕事は担当することにしたスバルだった。

 

 

「と、いうわけかしら」

「何とかしてほしいっす」

「うん、事情は分かったよ。でもさ、何故に俺のところに来たんだよ」

 

苦情をいいに来たベアトリスとアリシアにシャオンは洗濯物を勢いよく伸ばしながら聞き流す。しかしそれをさせまいとベアトリスはシャオンの前に出る。

 

「オマエとあのバカは同郷って聞いたのよ。それだったら対策があるはずかしら」

「うーん。確かに俺も騙されたけどなんとかしたしな」

 

 ちなみにシャオンの場合はスバルが言った嘘を適当に流し、嘘と真実を混ぜたようなことを言い返したのだ。それだけでスバルは信用してしまったので意外と彼もチョロいのかもしれない。

 

「なに笑ってるんすか!」

「いやいや、何でもないよ」

 

 微笑ましく思っていたことが表情に出ていたらしく、アリシアにどつかれる。

 これ以上突っ込まれると恥ずかしいので話をそらすためにもう一人の同僚にも話に参加してもらうことにする。

 

「なー、ラム嬢。スバルから嘘つかれた?」

 

 反対側で洗濯物を干している桃色の髪をしたメイド、ラムにも尋ねる。

 すると彼女は呆れた様に息を吐き、そして髪を払い、鼻で笑う。

 

「はっ! ついに頭がバルス並みに腐ったのね。そもそもラムはバルスの言うことなんてほとんど信用していないわ」

「それは……ひどいな」

「レムのほうが全部肯定するもの。だったらラムはすべて否定するわ」 

 

 確かにスバルに心酔している彼女だったら彼の言うことはすべて信じるだろう。そしてそれが嘘でも信じていそうだ。

 かといって姉のラムが彼女の反対の方針を取る必要はないと思うのだが……突っ込むのも野暮だろう。

 

「だそうだ。参考になった?」

 

 振り返り、確認を取ろうとしたがそこには誰もおらず、砂煙が舞っていた。

 

「……少しは手伝えよ。今日はレムは忙しいんだから」

 

 なので一人で改めて洗濯をやり直す必要が出て、嫌になるシャオンだった。

 

 

 ラムと共に階段の掃除をしているとドタドタとこちらに向かって走ってくるような音が聞こえる。そしてそちらを見ると案の定アリシアとベアトリスの二人が向かってきていた。

 

「ダメだったっす!」

「なんなのかしら! あの男!」

 

 二人して文句を言う。どうやら返り討ちにされたようだ。

 これはスバルができるのか、それとも彼女たちが素直なのかは悩ましいことだが。 

 

「どーぅやらお困りのようだ―ぁね」

「ロズワールさん」

 

 階段の上からこちらを見下ろすのは白い顔、この屋敷の持ち主ロズワールだ。

 

「シャオンくんはもう解決策が浮かんでいるんじゃーぁないかい?」

「まぁ、一応」

「だったら私の仕事の邪魔になりそーぉなものでね。いい加減懲らしめてもらいたい」

 

 そういうロズワールの表情はいつも通りのように見えたが僅かにイラついているようにも見えた。

まさかとは思うが彼に対してもスバルは仕掛けたのだろうか?

 命知らずというか、なんというか。誰にでも平等に接するのがスバルらしいとしか言えない。しかし、雇い主兼師匠であるロズワールの頼みならば断わることはできない。

 

「仕方ないですね。では、とある人物に手伝ってもらいますか」

 

 シャオンの言葉に一同は意味が分からないようでそれぞれ首をかしげる。だがそれを無視してシャオンはついてくるように指示する。

 面々は素直についてくる。よっぽどスバルに一泡吹かせたいようだ。

 シャオンはとある部屋の前に止まり、必然的に他のメンバーも足を止める。

 

「ここは――」

 

 扉をノックし中にいるか確認を取る。

 数秒後、ゆっくりと扉が開かれ中から現れたのは銀髪の美女、エミリアだ。

 

「エミリア嬢。いきなりで悪いけど頼みがある」

「それは構わないけど……シャオン、それにみんなも。いったいどうしたの? なにか、あったの?」

 

 レムとスバル以外が集まって自分の部屋の前にいたのだ。だから不安がるエミリアの気持ちもわかる。しかし、今の問題を解決するには説明をしてはいけないのだ。だからシャオンは――

 

「実はね、今日は――」

 

――とある嘘を吐くことにした。

 




午後に後編を

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