Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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リアルが少し落ち着いたので投稿します。


終わりのない一日は怒涛のように
テンプレは通用しない


――体が動かない。指先をピクリと動かすことさえ厳しい。

「あぁ」

 

 本能が赤いそれを欲しているのがわかるように体の中から腹の虫が唸り声を上げる。

その大きな声に周囲にいる人達は笑い声を押し殺すようにしていたり、呆れていたりと様々な反応をしている。原因は二人の男だ。

一人は帽子のように布を頭に巻いた強面の男性。その顔の造形と比例するように体も筋肉隆々だ。

 対するのは一人の女顔の青年だ。

糸目がちな眼には若干の隈があり、疲労が目にとれてわかる。また後ろ髪が長く、腰に届きそうなほどのものをひとくくりにしている。白色のパーカーを身につけ、紺色のジーパンをはいている。

良く言えば浮世離れした、悪く言えば周囲の空気に馴染めていないといった服装だ。

 強面の男性がため息を交えて青年に語り掛ける。

 

「……どれだけいたって金がねぇなら売れねぇよ。ほら、どいてくれ!」

「あぅ」

 

 腕で払った際に体に腕が当り、軽く吹き飛ぶ。男も飛ばすようなつもりはないようだったのかびっくりとしている。

しかし周囲からは強面の男が男を突き飛ばしたようにしか見えないのだ。当然周りからは非難の目が注がれる。その空気に耐えられず男は青年に店先の果物を袋に詰めて渡す。

 

「……ほら、兄ちゃん。これやるからさっさとどっか行ってくれ」

「お、おおお!! いいのか? いいんだよね!?」

 

 青年は先ほどまでの死にかけていた表情から一転、驚きとともに倒れていた体を起こして店主の手を握り感謝の意を示す。

 

「べ、別に兄ちゃんのためじゃねえよ、それにわざとじゃねぇが突き飛ばしちまったし。そこにいつまでもいられたら迷惑だし何より俺が悪者扱いされそうだ」

 

「謝謝! スパシーバ!  サンキュー! ありがとう!」

「意味の分からないこと言ってねぇでさっさとどっかいってくれ」

 

 シャクリとリンゴ、もといリンガに音をたててかぶりつく。いささか行儀が悪いが果物はやはりこう食べるほうがおいしく感じるのだ。

 

「お兄さん、名前は?」

「カドモンだよ」

 

リンガを芯ごと飲み込み店主の名前を聞いて改めて礼をいう。

 

「ありがとうございました、カドモンさん。俺の名前は雛月沙音(ひなづきしゃおん)。今度はちゃんと買いに来るよ!」

「おう買いにこいこい、っとほらいい加減どけ! ……兄ちゃん、見ない服装だな。リンガいるかい?」

 

 そういうとカドモンはシャオンを視界から外し、新たな客に声をかける。

 

「リンガ?」

 

 その声は男の声だった。高校生くらいのまだ若さを感じるような声でカドモンの呼び込みに不思議そうな声を上げる。シャオンはリンガを新しく取り出し、声の主の姿を目にする。

 黒色のジャージにコンビニ帰りだろうか、買い物袋を右手にぶら下げている。シャオンと同じく黒髪、黒目だがシャオンの糸目とは違いつり目気味の目は人相が悪いといえるかもしれない。

そんな男はズボンのポケットからいくつかの小銭を取り出しカドモンに渡す。

 

「これで買える?」

 

 男が出した小銭は少ないが少なくとも果物一つは買えることができるくらいはある。しかし、

 

「――ここはルグニカだぜ? こんなんじゃ買えねぇよ」

 

 カドモンはその金を不機嫌そうな表情で押し返す。その様子をみてシャオンは二人の会話に混じった。

 

「カドモンさん。そんなこと言わずに」

 

 にこやかな笑顔で近寄るシャオンにこめかみに筋を立てながらカドモンはにらむ。

 

「お前さんに分けてさらにこの兄ちゃんに分けたら俺の店は赤字だ。お前さんがわけてやればいいだろ?」

「おー! それは名案だね」

 

 わざとらしいぐらいにポン、と手をたたく。そして男に近づき小声で話しかける。

 

「それじゃここじゃ邪魔になるし行こうか、異世界に来たお仲間さん?」

 

 シャオンの一言に目つきの悪い青年は驚いていたがうなずいてくれた。

 

 カドモンの店から少し離れた路地裏の段差に腰掛けながら青年と状況を確認する

 

「で、状況の整理をしたいわけなんだが、ここは異世界、俺は召喚or転生された。ってことでOK?」

「オーケー。ついでに君が主人公だろうね」

 

 青年の確認にリンガにかぶりつきながら答える。

 

「まじか、俺そんなに主人公力でてる?」

 冗談で言った言葉に思ったよりも乗ってきたのでシャオンもふざけ返す。

 

「マジもマジ、引きこもりでニートっぽさが隠れきれずに醸しでてるその姿はまさしく主人公!」

「おおよそ主人公っぽさが出てない気が済んだけど!?」

 

 大声で突っ込みしてくる男に笑う。そんなシャオンの様子を見て男はあきれているような表情を浮かべる。

 

「それにしたってお前……そういや自己紹介してなかったな。俺の名前は菜月昴(なつき すばる)!無一文の高校生! よろしく!」

「おー」

 

 片手を腰に当て、もう片方の手の指を立てて自己紹介をするスバルと名乗る青年のノリに付き合い、パチパチと拍手で自己紹介を称える。スバルはその拍手に応えながら照れ臭そうに笑う。

 

「ではではこちらも」

 

 くるりと一回転し、同じく指を立てて自己紹介をする。片手はリンガの袋を持っているのでふさがったままだがそれ以外はスバルと同じポーズで宣言した。

 

「俺の名前は雛月沙音(ひなづきしゃおん)!無一文!趣味はネットで習った拳法! 免許皆伝まではまだ遠い!」

 

 そう名乗り上げるとともに食べかけのリンガを口に含む。

 

「さっきからよく食うなぁ、リンガ? だっけ。というかなんでシャオンはそんな空腹になってたんだ?元いた世界……日本だよな? いや、そもそも地球?」

「まぁいろいろあったのさ。もう少し好感度が高ければ固有イベントに入って教えてあげていたんろうけど」

 

 ケラケラと笑う。さすがにスバルもシャオン自身があまり聞かれたくない内容なのだと察したからか突っ込まないようだった。

 

「さてふざけるのもここまで、お互いの情報整理といきたいが」

 

 シャオンの雰囲気が変わったのがスバルにも感じられた。

 

「そうは問屋が卸さないらしい」

 

 シャオンはやれやれといったように肩をすくめながら路地の奥側に視線を移す。スバルもそれに倣うようにそちらを向く。

 

「強制イベントかよ」

 

 スバルは苦笑いしながらつぶやく。その気持ちはわかる。なぜならガラの悪い三人の男たちがこちらに対してにらんでいるからだ。その目はどうみても友好的なものではないのがわかる。たとえるならば獲物を狙う肉食動物のそれだ。

 

「なにいってんだこいつら?」

「頭イッテんじゃねぇの?」

「おい兄ちゃんたち身ぐるみ全部寄越したらすぐ解放するからおとなしくしろよ?」

 

 ごろつきたちが若干ながら可哀想な目で見てくるが要は追剥のようだ。

さて、どうしたものかとシャオンはうなる。数は相手のほうが多い。それに加えて相手が武器を持っている可能性、異世界というなら魔法が使える可能性もあるとしたらこちらはかなりの不利といえる。

 なにかで一瞬気をそらし、人が多い道に向かうのが最適だろうか? そこでもう一人の追剥被害者のスバルに意見を求めようとしてみると彼はなぜか自信満々に笑い、

 

「ふふふ辛辣な評価するのも今のうち、逃げ出すのも今のうちだぜ?」

「ちょっ!スバルさん?」

 

 ごろつき達になぜか挑発をするスバルにシャオンは慌てる。先ほども思ったが相手は三人、こちらは二人。数の差はそこまで多くはないが向こうのほうが一人多いのだ。下手に逆らうと危険なのはスバルもわかっているはずだろう。しかし、

 

「大丈夫だって! きっと俺には異世界に転生した際に得たチート能力が……!」

 

 自信満々でサムズアップしてくるスバル。どこからそんな自信がわいてくるのか分からないがそういうことらしい。

どちらにしろもう相手は挑発にのりヤル気満々だ。ならばスバルに任せてみようとシャオンは一歩身を引いて事の成り行きを見守ることにした。

 

「先手必勝!」

 

 男たちが動くより先にスバルの先制攻撃が入った。懐に飛び込んで渾身の右ストレート。先頭の男の鼻面を見事に直撃し、当たった相手の前歯が理由で拳骨から血が出る。だが男も無事ではない。

殴られた男は鼻血を出しながら地面に倒れ、動かなくなった。そのまま感情に任せて、スバルは驚いている別の男にも躍りかかった。

 

「食らえ! 引きこもりの暇な時間を利用して習得したハイキック!」

 

「ぐはっ!」

 

 弧を描くスバルの足先が男の側頭部を打ち抜き、壁に叩きつけて二人目を悶絶させる。

 

「ほぉ」

 

 思いのほか好調な戦いぶりに、スバルが言うチートが本当にあるように思えた。これだったら何とかなるかもしれない。

 

「やっぱこの世界だと俺は強い設定か! アドレナリンだばだばでこれは勝つる――っ」

 

 勇んで振り向き、最後の男を叩きのめそうとスバルは身をかがめた。が、その最後の男の手の中にきらりと光るナイフを見つけた瞬間、かがめた体が沈み、

 

「すみません俺が全面的に悪かったです許してください命だけは――!」

 

 ――土下座。それは相手に対して降伏を示す、最大にして最低の和の心だ。その和の心をナイフの男にスバルはそれまた見事に表した。

 

「ってそんなこと考えてる場合じゃねえ! おい、スバル!何してる!?」

 

 気付けば一撃食らわして倒したはずの二人も復活している。それぞれ鼻血の垂れる顔を押さえていたり、くらくらする頭を振ったりしているが、それ以外は元気そうだ。

 

「あれ!? 俺無双の攻撃でダメージ小ってどゆこと!? 召喚もののお約束は!?」

 

「なにわけわかんねえこと言ってやがる! よくもやってくれやがったな!」

 

 先に攻撃された形の彼らには容赦がなく、おまけに元の世界と違ってチンピラが命を取らない保障はない。このままなぶり殺しにされる可能性も十分にある。

 ――いっそ玉砕覚悟で暴れるか。

 

「動くんじゃねえよ、ボケ!」

「あたたたたた! 痛い痛い痛い!! タンマ! タンマ!」

 

 立ち上がろうとするが、思い切り掌を踏みにじられて悲鳴しか出ない。

 唾を飛ばしてがなる男が怒りで顔を真っ赤にし、持ったナイフを逆手に持ちかえるのが見えた。

 

「ふざけた真似しやがって……」

 

 大男が乱暴な足取りでスバルに近づき、蹴りを入れる。その体はスバルよりも大きく、当然威力もかなりのものだ。だが、手を踏まれているので吹き飛ぶことはなく、衝撃を逃がすこともできなかった。鼻から熱いものが流れるのがわかる。骨も折れているかもしれない。

 奥を見れば先ほど蹴り飛ばした男も起き上がってくるのが見えた。彼もこのリンチに加わるのだろう。

 

「か、金目の物が目的ならぶっちゃけ無駄だぜ。なにせ俺は文無し……!」

 

 せめてもの意地と、興味をなくす可能性にかけ虚勢を張るが男は鼻で笑う。

 

「なら珍しい着物でも履物でもなんでもいーんだよ。路地裏で大ネズミの餌になれ」

 

 男が邪悪な笑みを浮かべるのを見て、スバルはもう自分は長くないことを察した。

このまま痛い目にあって、大ネズミとやらのファンタジー的モンスターに食われるのだろう。こんな人通りの少ない路地では助けが来ることも期待できない。

――ああ、何もないまま自分はここで終わるのか。

 スバルが恐怖に涙をこぼすと、

「――リンガはあるよ。くうかい?」

「あ?」

 少し高めの声が聞こえた。 完全に意識外からの声だったからか大男は気の抜けた声を出す。男がこちらを振り返るのと同時に右手で掌底を顎に当てる。音は軽い、しかし効果は十分あったようで男の体は宙に浮き、後ろに吹き飛ぶ。

 

「おぉ」

「ひっ!」

 

 小柄の男が小さく悲鳴をあげる。変に警戒されても面倒なので素早く相手の頭に踵落としを決めようと

近づく。小柄の男はポカンと口を開けたままよけようとしない。その様子を見てもシャオンは一切動作を止めず踵を高く上げ、振り下ろす。あのまま行けば男は気絶するだろう。しかし踵が男の頭に直撃する数センチ手前、

 

「う、動くな!こいつがどうなってもいいのか!」

「定番のお脅し文句! スバルさん的にはもう少しひねったほうがよろしいですよ!?」

 

 背後から声が聞こえ、おろそうとした足を止めて後ろへ振り向くと地面に押さえつけられたスバルの首もとに男がナイフを当てていた。そのナイフはみるからに切れ味が良さそうで、少しでも動かされればスバルから噴水のように鮮血が飛び出るだろう。

 スバルとの距離は少し離れている、どうやっても間に合わない。

 小柄な男を倒すためにスバルとの距離を置かず、まずスバルを助ければ良かった。

 

「はぁ……まだまだだなぁ」

 自分の判断ミスにため息をつきながらシャオンは両手をあげ抵抗の意思はないことを示した。

 

「おらぁ!」

「がっ!」

 

 その瞬間先ほど踵落としを決めようとした男が勢いをつけてシャオンの足に蹴りを食らわせる。小柄とはいえ勢いをつけられればそれなりの威力になる。シャオンは耐えきれず地面に倒れこむ。だが倒れこんだ後も男の攻撃の手は緩むことはない。

 

「さっきはよくもやったな?」

 

 その声とともに顔を上げると掌底を当てた男がふらつきながらもこちらをにらみながら見下ろしていた。当然だ。人間はあれぐらいでは意識を失わせることはできない。シャオンが武術の達人なら話は別だがこちらはその域まで到達していない。

 暴力の雨が二人に降り注ぐ中、シャオンの心の中で怒りが沸き上がっていた。その怒りはこんな事態になった原因であるスバルに対してではない。自分の力不足、甘さに対することに対する怒りだ。

――もっと自分に力があれば、もっと圧倒できる力があったら。

 そんな悔しさとともに怒りを噛み締めていると満足したのか男たちの暴力が止まる。

 

「はっ! 手間かけさせやがって」

 

 ずっとこちらに攻撃していたからか息を切らしながら悪態をつく。そして終いだとでもいうようにナイフを掲げる。

 振り下ろされそうなナイフを見て、そんな現実逃避がぽつりと思い浮かぶ。走馬灯とかは特に見えず世界がゆっくりに見える現象もなし。ぷつりと糸が切れるように終わる――そのときだ。

 

「ちょっとどけどけどけ! そこの奴ら、ホントに邪魔!」

 

切羽詰まった声を上げて、誰かが路地裏に駆け込んできた。シャオンはスバルとともに動かない体で視線だけ持ち上げる。その視界を少女が横切っていく。

 セミロングの金髪を揺らす、小柄な少女だ。意思の強そうな赤い瞳に、イタズラっぽく覗く八重歯。太陽みたいな明るさを持っているみたいだなぁ、とシャオンは思った。

そんなイメージの着古した汚い格好をした少女は、今まさに強盗殺人が行われる現場に出くわしたのだ。友人に進められた異世界ものの小説ではこういった出合いで少女が助けてくれるのがテンプレらしい。

 

「なんかスゴイ現場だけど、ゴメンな! アタシ忙しいんだ! 強く生きろよ?」

 

「って、ええ!? マジで!?」

 

 だがしかし、そんな希望は儚く砕け散った。目が合った少女は申し訳なさそうに手を上げ、走る勢いを殺さないまま細い路地を駆け抜ける。男たちの後ろを素通りし、行き止まりのはずの奥へ。

当然、壁が脆い素材で作られてなければ少女は激突して怪我をしてしまうだろう。だが、ここは異世界なのだシャオンの常識が通じるわけない。

 

「よっと」

 

 そのまま袋小路に立てかけてあった板を蹴り、身軽に壁のとっかかりを掴むとあれよという間に建物の上へと消えた。少女の姿が見えなくなり、自然と場に沈黙が落ちる。

 まさに台風のように過ぎていった少女。残された5人は全員唖然としている。我に返ったスバルがごろつきの一人に提案をする。

 

「今ので毒気が抜かれて気が変わってたりしませんかね!?」

「むしろ水差されて気分を害したな。楽に逝けると思うなよ?」

 

 そんな提案認められるわけもなく、低い声で脅される。ぎらつくナイフ男の目がマジなので、今度こそ終わったなとシャオンは思う。

未だに手は男に踏まれたまま。当然立ち上がろうにもワンテンポ遅れる。絶体絶命とはまさにこういうのだろう。

 シャオンは自分が案外落ち着いていることに驚き、そして若干ながら納得もしていた。元いた世界でも自分のことに関してあまり気にしていないといわれていたのだ。

 ――だから今ここで殺されようともまるで他人事のように思うのだろう。

 

「あーでも、痛いのはいやかなぁ」

 

 別に死ぬことに恐怖など微塵も感じていない。だが痛い死に方は嫌なのだ。最後にこれぐらいの望みはかなえてくれないか神に祈りながらあきらめるように目を閉じる。そんな中――

 

「――そこまでよ、悪党」

 

 一人の少女の声が聞こえた。




シャオンの見た目は胡散臭い若い中国人みたいな見た目です。たとえるならばとある魔術の禁書目録の青髪ピアスの髪が長い版みたいな。イメージができない方は検索! 



 もし間違い、誤字がございましたら連絡を。またアドバイス、要望もございましたら気軽にどうぞ。

※六月十九日
シャオンの見た目について書き忘れがありましたので修正しました。

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