Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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リゼロ2期おめでとう!
え?まだ3章?ほら、うん怠惰でして…


狂気

挨拶の返事とばかりにレムの鉄球が空気を裂きながら、リーベンスに振り下ろされる。

容赦のない一撃は、岩すら容易に砕く代物。だが、彼女はその一撃をまるで読んでいたかのように、ふらりと軽く身体を揺らしただけで躱す。

 

「もぅ、名乗りを上げて数秒も経たずに殺しに来ないでくださぁい」

「黙れ! 魔女教!」

「話が通じないのは亜人の特徴なんですかねぇ?ナツキさん。おーい?」

 

倒れ、呻き声のようなものを発しているスバルに近づき、軽く足で体を揺らす。

彼女にとっては単純にからかいの意味だったのかもしれないが、その行動に、いやそもそも近づいた時点でレムの視界が怒りで染まった。

 

「エルヒューマ!」

「危ない危ない、今の一撃は本当に危なかったです」

 

奇襲のように放たれた一撃を上体を揺らすだけでかわされ、歪な笑いと共に、

 

「お返し、どうぞぉ」

 

膝に穴が空く。

身体を支えていた力が弱まり、思わずレムは膝をつける。

 

「あぁ、ナツキさんは運んでいってくださいねぇ」

 

その言葉に痛みを忘れ、表をあげる。

その視線の先には、どこかに隠れていたのであろう黒装束が、スバルを乱雑に抱えている姿があった。

 

「スバルくんにッ、触るなぁ!」

 

 鞭のように唸りをあげて放たれた鎖は、彼女の感情を表しているかの様に空を裂き、地面を削りながらスバルを抱えている黒装束に向かう。

だが、

 

「追いたければ、私を倒す以外無理ですよぉ」

 

金属がすれる音ともにリーベンスが間に入り、素手で鎖の一撃を弾くことで防がれ、 さらに鎖が捕まれる。

その行動に驚く間も無くレムの体は宙に浮かされる。

 

「どっこいしょー」

 

引き上げられる感覚と共にレムは先の自分の迂闊さに舌打ちする。

鎖を離すことは間に合わず、近くの岩へと容赦なく叩きつけられた。

側頭部が岩肌を食らって鑢がけされ、痛みと衝撃で目がくらむ。視界の端が真っ赤に染まり、頭部への衝撃がレムから判断力を奪う。

 だが、本能からか肌が粟立つような感覚が前面に広がり、レムはとっさに血塗れの左手を正面に構え、

 

「ヒューマ!!」

 

 薄く形成された水の膜が盾となり、レムの前面に展開する。瞬間、飛来してきた何かが、衝突。衝撃が盾越しに伝わり、吹き飛ばされそうになるが足になけなしの力を込めてをなんとかこらえる。

 

「へぇ、何発保てますかねぇ?」

 

 軽い言葉とは裏腹に重い衝撃が氷の盾を次々に襲う。

 一発、二発と耐えていた盾は徐々に軋み始め、皹が入り始める。そんな氷の盾を見てレムは、もう持たないと判断。故に彼女は握った拳を振りかぶると、盾ごと躊躇なく勢いそのままに飛来してくる『なにか』へ叩き込んだ。

 

「――うぁぅ!」

 

 なにかを叩きつけ、落とす。

 それは小さな何かだった。まるで宝石、いや虫のようにも見えるそれは日の光に触れると煙を上げて消滅していく。

予想外の結果にレムの思考に空白が生まれる。だが、すぐさま空白を埋めるようにレムの体に連鎖的に穴が空き、痛みで支配される。

 勢いを殺せず中空錐揉み吹っ飛ぶレムの体が山に落ちる。レムは身体中を襲う鈍痛に苦鳴を漏らして顔を上げた。

 すでに体は数十箇所の穴があいている。右腕は風通しがよくなり向こう側を覗けるし、腹部など半分ないようなものだ。

 直ぐにでもフェリスと並ぶほど腕のいい魔法使いにかからなければ、命は助からないだろう。

 そんな重傷を押して立ち上がり、レムは現実へ意識を回帰して痛みを忘れる。苦鳴を噛み殺して逆に吠え猛り、自身を昂ぶらせるとともに自らの戦意が衰えていないことを敵へと知らしめる。

 だが、顔面の横を攻撃がかすめ、ぐらついた体は背後からの蹴りによって沈む。背骨が激しく軋み、小柄な体が大地をバウンドして吹き飛ばされる。

 

「――エルヒューマ!」

 

 詠唱に吐き出した血が凍りつき、純血の刃がリーベンスの腕を半ばまで切り裂く。

驚いたように彼女は目を見開き、当然レムはその隙を見逃さない。

 

「がぅるるるぅ!」

 

 地面を叩いて姿勢制御し、跳ねるレムは右手を伸ばして落とした鉄球の柄を掴む。同時に地面に落ちた鉄球を蹴り上げてリーベンスの背後へ飛ばし、首に鎖を回すと、万力の力を込めて引き絞る。

 悲鳴をあげる時間すら与えず、鎖が肉を引き絞る水気まじりの音が鳴り、脛骨ごと黒装束の首がねじ折られる。百八十度後ろを向いた顔がレムを見て、双眸が光を失う。

 沈むその体にようやく屠ったとレムはわずかに脱力する――その瞬間、

 

「――――ッ!!!」

 

 力を失ったはずのリーベンスの体が動き、すさまじい威力の蹴りがレムの胴体を薙ぎ払っていた。

 左脇に直撃した蹴りはレムの左側の肋骨を全損させ、左大腿部をもへし折って大地に叩きつける。

 

「うぅ、あぅ……」

 

 呻き、血を吐き、レムは腕を含めて言うことを聞かない左半身を叱咤しながら立ち上がる。

 恐らくではあるが彼女の攻撃の仕組みは理解できた、対処は難しいができなくもない。だが、今の震える体で、傷だらけの有様で、倒せるだろうか?

 首を振り、弱気を噛み殺して、レムは挫けそうになる自分を叱咤する。

 やれるかどうかではない。やらなければならないのだ。

 左半身が死んだからなんだというのか。まだ身体は動く。右腕がダメになれば足で踏み殺せばいいし、右足もダメになるなら噛み殺すまで。

 すでにこれほど大規模戦闘、おまけにメイザース領には入っているのだ。

 意識してはいないが、これだけ殺意に濡れた自分の感情が姉に伝わっていないはずがない。遠からず、姉はこの場所を突き止めてくれるだろう。それに、自身にできた友人たちが必ずこの事態に気付いてくれるはずだ。

 そのときに自分の命の有無は関係ない。スバルの命さえ守れれば、ここで使い潰すことになんの躊躇いがあるというのか。問題としては親愛する姉やスバル、友人であるシャオンやアリシアには怒られるだろう、だがそこは許してほしい。

 彼等のその姿を脳裏に思い浮かべ申し訳なさそうな笑みを浮かべる、できるならば謝罪の一言くらいは残しておきたかったがレムにはそれすら贅沢なことだろう。

 そう考えていたのもわずかなことで、その未練にも似た感情を捨て、決死の一撃を放とうとしたその瞬間、

 

「――――ぇ?」

 

 レムが、レムの体の内側から何かが無理やり外へ出た(・・・・・・・・・)のだ。

 心臓に当たる位置、そこに拳が入るくらいの穴が空き、蓋を失って血液が吹き出す。

 攻撃の動作はなかったし、急所への攻撃には用心していたはずだ。 

 だがそれでも今起きている事象は現実のもので、

 

「――すばるく、ん」

「さて、これで終了ですねぇ」

 

 愛しい人の名前をつぶやいて、レムの体は自身の血の海に沈んだ。

 

 

 黒装束の肩に担がれ、無抵抗に揺られながらスバルは涎を垂らしていた。

 竜車からの落下によってできた傷、それらの痛みはすでにほとんど感じない。感じていないわけではないのだが、それらがどうでもよくなるほどの痛みに意識が支配され、動く気力すら奪われて沈み込んでいるのだ。

 

「ふひへ、ひひはひ、へふへへ……」

 

 狂笑が唇の端から涎とともにこぼれ落ちる。

 森を掻き分け、獣道を飛ぶように黒装束は走る。

 特別、鍛え抜いているようにも見えない細身の体つきでありながら、脱力した人間を担いで風のように走る姿はあまりに現実離れしていた。

 それこそ、まるで日の光に従って動く影のように滑り、スバルを担いだ黒装束は山中を、目印もない獣道を我が物顔で駆け抜けた。

 そうして、十数分も走った頃だろうか。

 ようやく黒装束の歩みが止まったのは一つの洞窟の前だった。

 冷気が肌を刺す洞穴の中で、しかし黒装束は慌てる様子もなく、進み、虫が騒いでも足取りが乱れる素振りもない。

 と、薄闇は迷いなく進む影の前で、唐突に生じたぼんやりと白い輝きで払われる。ラグマイト鉱石の輝きだ。

 通路、と思しき壁面には等間隔に鉱石が設置されており、歩く影の道のりを先導するように次々と明りが点灯されていく。

 洞穴を奥へ奥へ、進まされる。

 血のにじむ肌が粟立つのは、寒さが原因かそれとも別の要因か。

 担がれたままのスバルは小さく身を震わせて、瞳の端から熱い涙をこぼしながら、へらへらへらへらと笑い続けていた。

 そして、その暗く冷たい岩肌の通路の終わりが見える。

 ラグマイト鉱石の輝きがわずかに強く、照明がしっかりと用意されたそこは洞穴の中では格段に大きく面積を取られた天然の広間だった。

 

 

 ――痩せぎすの男だった。

 黒い装束の男たちに囲まれるその男は、自らも黒の法衣に身を包んでいる。

 身長はスバルよりもやや高く、深緑の前髪が目にかかる程度の長さに整えられている。頬はこけており、骨に最低限の肉と皮を張りつけて人型の体裁を取っている、と表現するのが適当に思えるほど、生気が感じられない肉体の持ち主だ。

 ただし、その狂気的にぎらぎらと輝く双眸がなければの話ではあるが。

 男は身を傾けて、壁に拘束されて座り込むスバルをジッと観察している。曲げた腰の上でさらに首を九十度傾け、ぎょろついた目で無遠慮に眺める姿は常軌を逸した奇体さを露わにしており、事実その男の言動は常人と一線を画していた。

 

「なぁるぅほぉどぉ……こぉれはこれは、確かに、興味深いデスね」

 

 ひとしきり、舐めるようにスバルを上から下まで眺めた男は、納得したような頷きでもって周囲の男たちに賛同を示す。

 黒装束の人影は男の肯定に顎を引き、無言のまま男の言葉の続きを待つようだ。

 男は人影の沈黙を守る姿勢になんらリアクションせず、ひとり考え込むように右手で自分の左手を握りしめ――手首に生じている傷口に親指をねじ込み、血が滴るそれを意に介さず、自らの血肉を穿り返す。

 

「これはこれは、失礼をしておりました。ワタシとしたことが、まだご挨拶をしていないではないデスか」

 

 スバルの笑みに応じるように、男は色素の薄い唇をそっと横に裂き、禍々しく嗤うと、ゆっくり丁寧に腰を折り曲げ、

 

「ワタシは魔女教、大罪司教――」

 

 腰を折った姿勢のまま、器用に首をもたげて真っ直ぐスバルを見つめ、

 

「『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!」

 

 狂気を模ったような男はケタケタと嗤った。

 




(2期開始前に4章は入らせます)
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