Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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メインヒロインは銀髪少女?

 鈴を転がすような声に聞き惚れ、その声以外の音は聞こえなくなった。

そしてその声の持主を目にすると再び、体が固まった。この世のものとは思わない、いや思えないほどのどこか世界から浮いているほどの美貌の少女だった。

 整った顔立ちもだが何よりも目を引くのは銀髪だ。まるで雪のような白さをしたその髪は腰にかかるほどの長さだ。しかしそんな長さでも手入れは怠っていないというのが見てとれる。それほど彼女は綺麗だったのだ。

 次に目をひいたものは通常よりも尖った耳、いわゆるエルフ耳というやつだ。この世界にはきたばかりだが人外は街中である程度見てきた。しかしエルフを目にするのは始めてだ。

 

「綺麗……」

「ああ、そして今度こそ助けてくれそうだ」

 つい口からこぼれた声は彼女に届くことはなく、隣で自分と同じくボロボロになっているスバルの同意を得ただけだった。

「エルフってやっぱ、綺麗なんだな」

 スバルのこぼした言葉に銀髪の彼女は紫紺の瞳でこちらを睨み付ける。

「おいスバル。なにか機嫌を損なったようだぞ?」

「んなこといわれても俺にはわからない」

 

 スバルが狼狽える中、シャオンはあることに気づいた。

 

「見てみろよあの羽織ってるコート」

 目線の先には鷹に良く似た鳥の刺繍がされているコートがある。それは素人目から見ても荘厳で高価なものだとわかるほど見事な出来だ。スバルもそれを見てシャオンの言いたいことが理解できたようだ。

 

「この世界で言うところの貴族的な?」

 

「可能性はありそう」

 

 その証拠にシャオンたちを蹴っていたゴロツキ達も動きを止め若干ながら顔を青ざめている。目の前の少女が貴族であることは確実ではないがこの世界の住民である彼らにとってもあまりかかわり合いたくないような存在であることには違いない。

 

 

「んで機嫌を損なったようなスバルくんは首をおとされ哀れ、大ネズミの餌に」

 

 首を切るようなジェスチャーをするシャオン。スバルは叫ぶ。

 

「縁起でもねぇこと言わないでくれよ相棒!」

「すいません、貴族様に喧嘩売る相棒は俺にはいませんね」

 そんなやり取りをしていると銀髪の彼女はジト目でこちらを見つめる。

「意外と元気そうね貴方達。それよりも、それ以上の狼藉は見過ごせないわ」

打って変わってキリッとした表情でゴロツキを問い詰めるように睨む。

「今ならだれにも話さないから盗ったものを返して」

「ん?」

手を突き出す彼女の姿と話している内容に違和感を感じ、

 

「お願いだからあれだけは返して。あれがないと私、とーっても大変なことになるの」

「ま、待ってくれ!話が食い違っているとおもうんだが」

 

 男達がシャオンたちを指差し少女に訊ね、

 

「こいつらを助けに来たわけじゃ?」

「悪いけど、知らないわ」

 

残酷な結果になった。

 

「はぁ」

 

途中からわかっていたが予想通り、彼女は正義感溢れて自分達を助けに来てくれたわけではなかったようだ。つまり状況はいまだに変わらず。

 だったら生き残るために次にすることは決まっている。

 

「スバル、俺がスキを作る。だからその間にカドモンさんのところか誰か、そうだな……できれば人が多いところに向かってくれ」

「おい、それって……」

 

――シャオンが囮の役目をすることだ。

 流石にこいつらも大勢の人がいるところで暴力を振るうほど馬鹿ではないだろう。

 

「生き残る確率をあげるためさ。それに脚痛めてな。俺じゃ逃げ切れん可能性ある」

 チラリと足を見ると赤く腫れているのがわかる。これでは走ってもすぐに追い付かれてしまうだろう。それでもスバルは納得が行かないようで首を縦にはふらない。

 その様子にシャオンはスバルは優しい人間だということがわかり、苦笑する。

 

「なんだその顔、お前が生き残れる可能性は高いんだぞ? ま、大丈夫。こっちも死にはしねぇよう頑張るから、頼んだぜ?主人公?」

「……くそ」

 その言葉でようやくスバルは小さく頷く。

 

「確かに彼らは盗った子とは関係ないみたい……だったら急がないと」

 会話が終わったのか、彼女が踵を返し、ゴロツキ達が安堵の息を漏らす。今ならこちらを気にしている様子はない大きく息を吸い、力をいれて踏みつけられている足を持ち上げようとしたその瞬間。

 

「――でも、それはそれとして見過ごすことはできないの」

 

 振り返りざまにこちらに掌を向けた少女――その掌から、飛礫が立ち尽くす男たち目掛けて放たれていた。

 硬球が肉を打つような鈍い音が三つほど鳴り、男たちが短い悲鳴を上げて吹っ飛ばされる

 

 男たちに命中し、シャオン達の傍らに甲高い音を立てて落ちたのは氷塊だ。

 拳大の大きさの氷の塊――物理現象を無視して生じた物体は、その役目を果たした途端に大気に溶けるのではなく食まれるようにして霧散する。

 

「魔法?」

 スバルの口からとっさにこぼれたのは、今の現象を説明するのにもっとも適した単語だ。詠唱もなにも聞こえなかったが、今の氷は少女の掌から生まれて打ち出されていた。

 こうして目の前で実際にその情景を見て、初めてわかったことがある。

 それは、

 

「思ったより、幻想的な感じじゃないな……がっかりなリアル感だ」

「漫画だとフワフワな子犬が実際にさわると意外とごわごわしているみたいな?」

「そう、そんな感じ」

 

 スバルの言う通り光が散ったりだとか、エネルギーがはっちゃけたりとか、そういうイメージだったのに。実際には無骨な氷が急に生じて、急に消える。情緒もクソもありはしない。残念だ。

 

「やって……くれやがったな」

 

 そんな感想はさて置き、その一撃を受けた側のダメージは甚大だ。だが戦意を喪失させるまではいかず、足をふらつかせながらも男が二人立ち上がる。ひとりは打ちどころが悪かったのか昏倒しているものの、残りの二人は流血こそしているが健在。ナイフ男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢だ。

 

「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」

 

 片手で曲がった鼻を押さえながら、半ばやけになりながらナイフの男が怒声を張り上げる。

 確かに少女が魔法を使えても数ではいまだ不利のままだ。なんとかして手助けをしたいが、先ほど男達にやられた傷が痛み、動きが鈍る。下手をすれば足を引っ張ってしまう。どうするべきだろうか?悩んでいる中状況は一刻と過ぎていく。

 

 しかしシャオンやナイフ男とは真逆に少女は冷静な反応を示す。

 

「そうね。二対一は厳しいかもしれないわね」

 

「じゃ、二対二なら対等な条件かな?」

 

 少女の声を引き継ぐようにして、中性的な高い声が新たに路地の空気を震わせた。

 驚きながらシャオンとスバルは視線をさまよわせる。同様の反応は男たちにも見られた。路地の入口にも、当然路地の中にも、その声を発した人物らしき姿はない。

 戸惑い、困惑する中、見せつけるように、少女が左手を伸ばす。

 上に向けられた掌、その白い指先の上に『それ』はいた。

 

「あんまり期待を込めて見られると、なんだね。照れちゃう」

 

 そう言ってはにかむように顔を洗ったのは、掌に乗るサイズの直立する猫だった。毛並みは灰色で耳は垂れ、鼻の色がきれいな、艶のあるピンク色、そして妙に尻尾が長い。その奇妙な猫の姿を見て、ナイフ男がその顔に戦慄を浮かべて叫ぶ。

 

「――精霊使いか!」

 

「今すぐ引き下がるなら追わない。すぐ決断して、何度も言うけど急いでるの」

 

 少女の言い分に口惜しげにしかし舌を打ち、男たちは昏倒する仲間を担ぐと路地の外へ向かう。スバルをまたぎ、隣を抜けるときに少女をちらりと振り返り、

「くそっ!その顔覚えたからな!」

 

「この子に何かしたら末代まで祟るよ? その場合、君が末代なんだけど」

 

 恫喝は精一杯の矜持だったのだろうが、それへの返答は軽い口調ながら恐ろしいものだった。

 手乗り猫、いや精霊はへらへらとした態度だが、男たちはそれまででもっとも顔色を青くして、今度こそ無言で雑踏の方へと駆けていく。

 それきり彼らの姿が見えなくなると、この路地に残るのは少女たちとシャオン達だけだ。

 

「――動かないで」

 

 体の痛みも忘れて体を起こし、とにかくお礼の言葉を。そんなことを考えていたが少女は情を感じさせない冷たい声で言った。

 彼女の瞳には警戒の色が濃い。こちらが男たちと別口だとは理解していても、その存在が善であるとは欠片も思っていない、そんな目だ。

 それはそれとして、こちらを見る彼女の紫紺の瞳は魅入られるように美しい。例えるならばありきたりだが宝石のようだ。ちらりと横を見てみるとスバル顔を赤くして、目をそらしていた。恐らくあちらの世界で女性と面識があまり盛んではなかったのだろう。

 そんなスバルの仕草にシャオンと少女は笑う。しかしシャオンの笑みは呆れの意味、対する彼女は警戒の眼差を秘めた不敵な笑みだ。

 

「やましいことがあるから目をそらす。私の目に狂いはないみたいね」

「どうかな。今のは健全な男の子的反応であって、邪悪な感じはゼロだったけど」

 

「もう! 黙ってて。あなた、私から徽章を盗んだ相手に心当たりがあるでしょ?」

 

 小猫を黙らせて少女はスバルに問いを投げる。近年まれに見るドヤ顔だ。しかし、

 

「期待されてるとこ悪いけど、全然知らないんだよねぇ」

 

「嘘っ!?」

 

 そのドヤ顔が崩れると、その下から少女の素の表情がちらりと覗く。先ほどまでの凛々しい態度もどこへやら、慌てふためく。そもそもスバルが言ったことを疑いもせずに信用するなんて思ったよりも彼女はお人好しなのかもしれない。

 

「いや、俺らを助けた辺りお人好しなのは確定か」

 

シャオンが呟いた言葉は彼女には届いておらず、ただ手の平の猫に話しかけていた。

 

「ど、どうしよう。まさか本当にただの時間の無駄……?」

 

「その状態も刻々と進行中だけどね。急いだ方がいいと思うよ。逃げ足が速かったから、きっと風の加護があるよ」

 

「なんでそんなに他人事なの、パックは」

 

 不機嫌そうに頬を膨らませる少女に猫はやれやれと言ったように首を降る。

 

「手出し口出し無用って言ったのそっちなのに。それと、あの子たちはどうする?」

 

 思い出したように話題の焦点がこちら側に戻ってきてスバルは苦笑、そして虚勢を張って立ち上がり、

 

「助けてもらっただけで十分だ。急いでるんだろ? 早く行った方がいい」

 

 そう高らかに宣言した。しかしそれもつかの間、

 

「あら?」

 

「あー、無理して立ち上がんない方がー、って遅かったね」

 

 スバルの体がふらつき、支えようと伸ばした手が壁を掴めずに空を切る。シャオンも反応が出来ず、体が地面に向かうのを見届けることになってしまった。結果、スバルはさっきまで寝ていた地面にセカンドキスを捧げる羽目に。受け身もとれず鼻面から落ちる。そしてそれっきり動かなくなった。

 

「――で、どうするの?」

 

「関係ないでしょ。死ぬほどじゃないもの、放っておくわよ」

 

 猫の問いかけに冷たい返しをする少女。さすがは異世界ファンタジー、人情味に関してもシビアな見解だ。

だが死ぬところだったのが命あるだけ恩の字だな、というポジティブな思考を抱く。

 ただ今回の出来事を教訓にこれからどうするかしっかりと考えないといけない。この世界は想像したものよりも酷く、残酷らしいのだから。

 

「ホントに?」

 

「本当に!」

 

 シャオンの考えを遮るように少女は猫の確認に大きな声で応える。

 そして、ひと一倍大きな声で叫んだ。

 

「――――絶対のぜったいに助けたりなんかしないんだからね!」

 

 その大声を聞いて猫はため息をつき何も言い返さなかった。だがその表情は少女の大声に黙らせたわけではなく、この展開をもう何度も繰り返しているかのような、諦めの表情だった。

 おそらくその予想は当たっており、少女はきっとああいいながらも助けてきたのだろう。

だが、まずは、

 

「あのーすんません、手を貸してくださるぐらいはお願いできませんかね?」

――起こしてもらおう。 

 情けない話だが、一人では起きることが難しいのだ。一度立てればあとは気合で何とかなりそうだが。

 シャオンの台詞に二人は(1人と一匹)は今初めてその存在に気づいたようで間抜けな表情をこちらに向けた。

 

 手を貸して貰って、立ちあがりズボンについた汚れを手で払う。幸いにも破けてはいない。

 

「さて、実際俺がスバルを、彼を治療しますから大丈夫ですよ?」

「でもできるの?正直、貴方治癒魔法使えないように見えるけど」

 

――治療魔術、そんなものもあるのか。

 しかし、少女の問いかけに無言になってしまう。当然、できるわけない。シャオンがやるとしたら患部を冷やして布で巻くぐらいの応急処置ぐらいだ。無言になっていたこと、そして表情に出ていたのか少女がため息をこぼす。

 

「はぁ、嘘つかなくていいわよ。それに気にしなくてもいい。これは私の為なんだから」

 

 そう言い倒れているスバルに近づき手をかざす。途端、スバルの体が薄青い光に包まれる。するとスバルの体にある傷が治っていく様子が見える。

 

「優しい子ですね奥さん」

「本当にね、優し過ぎて困っちゃうよ」

 

 彼女の相棒ポジションである猫に冗談気味に言うと乗ってくれた。はたから見るとおばさんたちが噂話をしているようにも見えるかもしれない。

 

 ふと猫が黙り、こちらを青色の瞳で見つめていた舐めるようなそれに若干の戸惑いを感じていると。

 

「君も脚を痛めてるね」

 

 その言葉に体がびくっと震えたのがわかる。なぜわかったのだろうか? そして猫の言葉が少女にも聞こえたのか、はたまた猫があえて聞こえるように言ったのかわからないがスバルの治療を終えたらしい彼女がこちらに駆け寄る。

 

「え、そうなの。今治すわ」

 

 少女は何の躊躇もなくジーパンの裾を上げられる。そこには先ほども確認したように腫れた肌があった。

 そこに手をかざされ彼女が先ほどしたように青い光に包まれる。その感触はぬるま湯に全身を浸かっているような、気が抜けていくような心地よい感覚に襲われる。

 そんな感覚を味わうこと約一分、治療が終わったのか青い光が消えた。

 

「ふぅ、これで大丈夫ね」

 

 見てみると腫れは治まり元の健康的な肌の色に戻っていた。痛みも違和感もない。

 

「ありがとう。……さて、君は一体誰を探しているんだ?」

 

 

 少女が急いでいて、なおかつ人を探していることは先の会話でわかっている。だから詳しい話を聞こうと思い問いかける。するとシャオンの言葉に顔を曇らせながらも少女は小さな声で話した。

 

「とあるものが盗まれたの……」

「盗まれた?」

 

 盗まれるとはあまり穏やかではないが、先ほどまで自分達もそんな追剥にあっていたのでこちらの世界ではよくあるものだとシャオンなりに納得をし、さらに詳しい話を聞くことにする。

 

「何を盗まれたの?」

 

「えっとこれぐらいの宝石つきの徽章」

 

 少女は掌よりも一回り小さい大きさを示す。盗まれたものは財布、はたまたこの世界特有の価値のあるもの、そんな予想をたてていたシャオンだが少女の言葉に裏切られてしまった。しかし、少女にとっては大事なものなのだろう。それに宝石付きなら実は高価なものかもしれない。

 

「……ふむ、それがないとどうなるの?」

「詳しくは言えないけどとっても困っちゃう。というよりも貴方は行方知らないの?」

「残念ながら」

 頭を下げるが少女は、気にしなくていいわと一言。

「盗まれた心当たりは? 恨みとか買った?」

 

 盗まれた理由がわかればその徽章の行方を予想できるかもしれない。そういう意味で尋ねたのだが少女は表情をこわばらせてしまった。

――もしかして地雷を踏んでしまったか? と思っていると少女ではなく猫が口を開いた。

 

「それはないね。君もさっき見た通り彼女、お人よしだから感謝されることはあっても彼女自身が恨まれることなんて、ないよ」

 

 若干不機嫌になりながら猫が少女の潔白を告げる。確かに見ず知らずの人間のケガを治すのだからよっぽどのお人よしだ。そんなお人よしが恨まれることは確かにしないかもしれない。

「うーん」

 情報が全く明かせないあたりかなりのやっかいごとの可能性がありと判断してもいいだろう。さて、一体どうすればいいのだろう。正直この少女に助けられたのは事実だがシャオンが体を張って手助けするほどお人好しではない。しかし命の恩人が、しかも美女が困っているのを無視するのは人としてどうかと考える。

 そんな思考を少女に悟られないように悩んでいると声が聞こえた。

「あれ意外と美少女の足って毛深いんだなぁ」

 そんなバカらしいことを言いながら目を覚ましたスバル。そこで一つひらめいた。

「んなわけあるかよ、相棒」

 ケラケラと笑いながら一先ずはスバルの意見に合わせようと決めた。そうすればきっと話が進むなにかが起こるだろう。

――だって彼は主人公(・・・)なのだから。




 基本原作通りに進ませますが、シャオンとスバルが別行動をし、なおかつスバル視点が原作通りの展開だったらそこはカットしたほうがいいんですかね?
その場面になったら皆様の感想を聞いてみたいと思います。

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