Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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机上の空論

「同盟……か」

 

 全員の視線を一身に受け、会談の目的を告げたスバルにクルシュがそう呟く。

 彼女は考え込むようにわずかに顎を引き、それからちらとシャオンの方へ視線を送る。その探るような眼差しの意味を察して首を横に降る。

 

「生憎と俺は関与していません、すべてスバルが気づいたことです」

 

「で、あろうな。卿はこちらで過ごしていないのだから気づく要素はない。まぁ、弟子だから事前に聞かされていた、というなら話は別だが……」

 

 自らが口にした言葉をそれはないかとかぶりを振り否定する。そして女は理解を浮かべた瞳を今度はスバルに向け、確認をとる。

 

「ならば、此度の交渉役は──ナツキ・スバル。卿に権限を委譲されたということだな? 

 

「ああ、そうなる。ロズワール……うちの主人も、底意地の悪い真似してくれたもんだと思うけどな」

 

 大仰に吐息を漏らすアクションを入れて、スバルは脳裏に浮かぶべているだろう道化師の嫌らしい笑みに舌を鳴らす。

 内々にレムにだけ下されていた王都での行動方針。しかもさらに厭らしいことにスバル自信が自ら気付かない限り、決して漏れ伝わらないように厳命されていたことだ。

 基本レムはスバルには甘いところがあるが、その実はスパルタそのもの。さらに自らの上司であるロズワールからの命令ならば逆らうことが出来ないのは当然だろう。

 普通では無理難題。だが、死に戻りを持つスバルは気づいた、ロズワールの思惑通りに。

 

「そもそも最初から引っかかるところがなかったわけじゃないんだよ。うちの陣営が慢性的な人手不足なのは自明の理なわけだしな」

 

 現時点で当たっている壁の一つにある通り、エミリア陣営の人手不足は重要な問題だ。それは魔女教に対する戦闘力に対しての問題もあるが、それよりも他の陣営に比べても大きく劣る訳だ。

 陣営の人数が少ないのは、支持されていないと同意義でもあるのだから。

 そんな状況下で、限定的な条件であるとはいえ、王都に残るスバルの下にレムを一緒に残したことは常に頭のどこかで違和感となって引っかかっていた。

 シャオンに関しても、アリシアに関しての問題を理由にアナスタシア陣営とのパイプ作りに利用されたのかもしれない。

 もちろん建前としては、自領の危機を救ったスバルに対し、治療とその他の形の賠償で報いるために、アリシアは実際に抱えていた問題を解決させるためという可能性も考えられる。だが、

 

「あの人がそんな善意だけでレム嬢を手放しておくとも思えない。頭は策略だらけだからね、と考えていくと」

 

「自然、もっとも会見の機会があった当家に白羽の矢が立つ、か」

 

 足を組み替えて、クルシュはこちらの言葉を引き継いで結論を述べる。その言葉を肯定するように頷き、スバルは「それに」と前置きして、

 

「夜な夜な、レムとクルシュさんが密会してるらしいのは聞いてたからな」

 

 スバルの話では屋敷にいた数日間、レムがいない空白の時間があったらしい。それが、密会とは思っても居なかったようだが。

 

「毎夜の会談の内容は同盟締結について。こっちから差し出してる条件に関しては……一通り、レムから聞いてる」

 

「エリオール大森林の魔鉱石、その採掘権の分譲が主な取引き材料だな」

 

 隠すことでもないとばかりに、うっすら匂わすだけで済まそうとしていたスバルの言葉にクルシュが被せる。

 

「鉱石の需要が高まりつつある、今なら交渉条件としては上々ですよね?」

 

「鉱石の需要が高まりつつある、というのは?」

 

「これから赤日を終えて黄日、そして青日になるっす。更に言えば今年は水のマナの影響が強く見込まれてるはずっすから、暖房設備への利用目的で需要が多いってことっす」

 

「おう、なるほど理解した……おまえ意外と頭いいんだなアリシア」

 

「馬鹿にしてんすか? 常識っすよ」

 

 指を立てて、スバルの質問に珍しく真面目な表情で答えるアリシア。

 簡単に言うと元いた世界で言う冬を前に暖房器具が売れ出すという考えがわかりやすいだろう。

 

「魔鉱石自体はマナを含有した純粋な魔力の結晶体。その後の加工次第で属性の指向性を付加し、用途に応じて使い分けることが可能。これほど扱いやすい商品もないでしょう」

 

「ああ、だがその代わりに絶対量が少ない。一度、指向性を付加したあとでのやり直しも利かない。しかも採掘場の多くは土地自体を王国に管理されていて、国と富裕層にしか出回っていない。正直商人ならば喉から手が出ても欲しいものだろう」

 

 言葉のわりにはクルシュは乗り気ではない。いや、正確には乗り気ではあるのだろうがそこまでのものではない。

 それは彼女がアナスタシアのような商人ではないからだろう。確かにこのままでは彼女の首を縦に頷かせるのは無理だ。

 

「だから、本題だ」

 

「ほう」

 

 それまであくまで会談の場を見定める体でいたクルシュが姿勢を正し、一度だけ静かに目を閉じると、ゆっくりとその鋭い眼光をスバルに浴びせたのだ。

 風が吹いた、と錯覚するほどの威圧を前に、思わず目を閉じてしまいそうになる。しかし、

 

「……上等」

 

 小さくこぼした言葉はシャオン以外には聞き取れなかっただろう。

 今までも暴力的な威圧感にならば、嫌になるほど触れさせられた。それに比べればクルシュの眼光には、こちらを怯え竦ませるような負の感情の一切がない。あるのは背筋を正させ、弛んだ思考を引き締めさせるような威光だけだ。

 

 ──なるほど、これは王選に選ばれるだけはある。

 

「認めよう、ナツキ・スバル。卿がメイザース卿の名代、並びにエミリアからの正式な使者であると。この交渉の場において、卿と私の間で交わした内容は、そのままエミリアと私の間で交わされたものであると」

 

 そんな考えはまるで関係がないとでもいうようにクルシュは続ける。

 クルシュは今、狙ってスバルを威圧しているわけではない。彼女は純粋に、それまでの私人としてのクルシュから、公人としてのクルシュ・カルステンへと意識を切り替えただけのこと。つまり、カルステン公爵家の当主が放つ威圧そのものが、これほどの力を持っていることの証左である。

 鳥肌が浮かぶような感嘆の中、佇むスバルの方へと手を差し伸べ、クルシュは始まりを告げた交渉の火蓋を自ら切ってみせる。

 

「すでに聞いているはずだが、改めて問うておこう。私とそちらの従者……レムとの間での交渉は、採掘権の分譲などを含めた上で合意には至っていない。その点は重々、承知しているはずだな?」

 

「……ああ」

 

 交渉が難航し、任されている権限だけでは合意に至っていないのはレムの口から聞いている。そして、今切れる手札が少ないのもわかっている。

 

「こっちも確かめておきたいが、実際、これまでの条件じゃ足りないわけだよな? 互いの陣営への過干渉なしに、エリオール大森林の採掘権の分譲。付け加えて採掘された魔鉱石自体の取り扱いの協定とかのまとめに関しても」

 

「草案はレムの方から提示されている。さすがはメイザース辺境伯、というべきだろうな」

 

 そのあたりの数字のやり取りに関してはシャオンたちが口を出すべきものではない。

 あくまでもこの世界でかつ経験が長いロズワールに任せるべきだろう。

 だからこちら側としては採掘権に関する細かな交渉内容に触れないようにしてもらいたいのだが、

 

「今回の場合は取引き相手の側への懸念が大きい。わかるな?」

 

 そんな祈りが通じたわけではないだろうが、言葉を切ったクルシュが口にしたのはその不安とは別の内容であった。

 とはいえ、歓迎すべき内容でないことは確かであり、

 

「ロズワールが信用できない……って、話じゃないんだろうな」

 

 それは希望的な見方でしかない。

 仮にロズワールが問題であるならば、解決策は楽だろうがクルシュが問題点として挙げているのはそちらではない。

 それは避けることができず、エミリアに延々と付きまとう問題であり、今後も壁となるものだ。

 

「王選の対立候補。ましてやハーフエルフ……半魔の誹りを受けるエミリアとの取引きだ。後々のことを考えても、慎重にならざるを得ない」

 

 低い声でそう述べる彼女に、正直シャオンは意外だと驚く。

 クルシュの王選の場面での姿勢は、言葉にすれば『威風堂々』と『誠実』といったあたりが相応しい。

 王選の場面ではまさしくその単語を体現するような姿勢と、発言を貫き通しただけに、今の彼女の風評を気にするような姿には違和感がある。まるで──。

 

「まさか、断りを入れる建前、か……?」

「スバルきゅーん? 大事な交渉の場面で、ポロっとそゆことこぼすのフェリちゃん良くにゃいにゃーなんて思ったり? 思ったり?」

 

 スバルが思わず漏らした言葉に、額に青筋を浮かべるフェリス。しかも怖い笑顔も同時に浮かべているため変な男性らしさを感じつつ、スバルが慌てて口を塞いで頭を下げる。

 と、そのやり取りを見ていたクルシュがかすかに口の端をゆるめて、

 

「あまりはっきり返されると、建前で応じた私の方が恥ずべき側に思えるな。これは勉強させてもらった。普段から接しているものばかりだと、こうした機会に恵まれることも稀だ」

 

 などと、冗談交じりに彼女は笑う。おそらく、見逃してもらってはいるのだろうがこの流れはあまり良くない。

 温情に縋ってばかりいるのは貸しを作るばかりになって、結果的にこちらの不利を招きかねない。

 だから話を進めようとシャオンは切り出す、

 

「つまり建前は建前で……本音の部分では、クルシュ嬢はエミリア嬢と、我らと同盟を結ぶこと自体への忌避感はないって考えても?」

 

「ヒナヅキ・シャオン、ひとつ考えを正そう」

 

 指を立てて、クルシュはその立てた指をこちらに突きつけると、

 

「そのものの価値は、魂の在り様と輝かせ方で決まるのだ。出自と環境がそのものの本質を定める決定的な要因にはならない」

 

「ですが、それ自体が要因になりえることを貴方はご存知でしょう」

 

「もちろん、エミリアの環境が、いやハーフエルフという存在がどのような理不尽を経験してきたのかも想像はできる。だが、それを踏まえて」

 

 クルシュはひとつ頷き、

 

「あの王選の場で、エミリアが語った言葉に虚実はなかった。そこに確かな覚悟と誇りがあったればこそ、私はエミリアを対立候補の一角であると認めている。つまり、エミリアがハーフエルフである、という点を私が同盟締結を断る根拠とすることはない。むしろ政策的に敵対しているわけでもないエミリアの存在は、私にとっては積極的に相対する必要のない相手であるともいえる。同盟も、吝かではない」

 

「それなら……」

 

「答えを焦るなよ、ナツキ・スバル。卿の申し出を受けるかどうかは、このあとの卿の答えに左右されるといっても過言ではないのだからな」

 

 好感触の返答に前のめりになるスバルを制し、クルシュは改めてこちらへ問う。

 つまりは、交渉権を譲られたスバルがなにを持ち出すのかを、だ。

 

「エリオール大森林の採掘権、大いにこちらに実りがある。だがその反面、私は王選の事態を急ぎ進める必要もないのでは、と感じている。期限は三年だ。あまり状況を動かすのを早めすぎるのも、後々に禍根を残すこととなろう」

 

「エミリアと同盟を結ぶことのメリットが、そのデメリットに届かないと?」

 

「少し違う、メリットとデメリットは打ち消し合っている。だが当家の考えとしては、あと一歩、押し出す口実が欲しいといったところだ」

 

 クルシュ自身の意思としては、同盟の締結には乗り気でいるように見える。

 一方、彼女の意向で全てが思うままに動かせるほど単純でないのが、公爵家という大きくなりすぎた立場のしがらみでもあるのだろう。

 だから彼女は求めているのだ。

 状況を動かし、周囲の声を黙らせるほどの『なにか』が、もたらされることを。

 

 

「────魔女教」

 

 スバルの言葉にぴくり、とクルシュの眉が動く。

 いや、正確にはクルシュだけではない、部屋全体の空気が重くなったのを感じる。だがスバルはそれに怯えずに続ける。

 

「近いうちに魔女教の怠惰、ペテルギウス・ロマネコンティが動き出して俺らの陣営を襲う。だが、ウチはあいにくと戦力が足りない、というよりも手が回らねぇ」

 

 事実、倒すこと自体は不可能ではないかもしれない、だがそれは犠牲を生んだうえでの成果だ。

 それは、シャオンたちが、スバルが望む未来ではない。

 

「だから、手を貸してほしい。勿論討伐で来たのなら討伐の名誉はすべてクルシュさんたちに渡す、これが追加の案だ」

 

「なるほど、それが卿の出す案か……ならば」

 

 スバルの言葉にクルシュは僅かに考え、そして落胆したかのように息を吐き、

 

「──要求は飲めないな」

 

 交渉の失敗を意味する言葉を口にした。

 

 ◇

 

 

「……単純に魔女教の脅威がそこまでじゃない、とかじゃねぇよな?」

 

「そんなことはない。奴らの行ってきた行為はそれこそ歴史に残るものだ、勿論最悪の意味でな。それを排除できたのならばなるほど、確かに条件としてはいいだろう」

 

 そう語るクルシュはおそらく自分たちよりも魔女教が行ってきた悪行について詳しいのだろう。なんならその場面に遭遇したこともあるかもしれない。

 十分メリットはあることは彼女もわかるはずだ、だがこちらの条件を飲まない理由。それは、

 

「魔女教が動くことはありえよう。奴らの教義と、これまでの活動からそれは明白だ。が、問題はその先だ」

 

「その先……?」

 

「簡単な話だ。なぜ、奴らが次にどこを狙うのか、卿に特定できる?」

 

 先の理由──それはつまり、クルシュがエミリアを助けない理由。

 

「答えは──卿の話に当家を動かすほどの信憑性がないから、だ」

 

 これまでの言葉が、前提が、ひっくり返るような発言で打ち抜いた。

 信憑性がない、の一言でこれまでのやり取りを切り捨てられる。

 だが、これは予想できていたことであり、そして外れてほしい、できれば気づかないでほしかった考えでもあった。

 そう、死に戻りだけが魔女教の行動計画を予見できるものであり、それを証明することはできない。所謂机上の空論というものに近いのだ。

 

「奴らの得体の知れなさは不可解なまでに徹底している。これまで、根絶やしにならずに四百年近くも存続してきたのがいい証左だ。そんな奴らの次なる愚行が、どうして卿に知り得たというのだ?」

 

「それは、魔女教の動きが昔からわかる──」

 

「嘘だな」

 

 スバルが思わず口にした言葉をクルシュは切り捨てる。その迷いのなさにおもわず言葉に詰まるスバルに、彼女は説明する。

 

「私は、相対している人間が嘘をついているかどうか、おおよそ見抜くことができる。昔から他者に欺かれる経験がないことが自慢でな」

 

 彼女は訝しげに瞳の色を変えるスバルの、その奥を覗き込んだまま、

 

「その経験から言ってしまうと、卿は『嘘』を口にしている。どこで嘘を吐いたのかまでは読み取れないが」

 

 ため息をこぼし、クルシュは鋭い眼光でスバルを、いやこちら全体を貫く。

 

「……奴らの情報網の薄暗さは歴史が証明している。掴んだのであれば、その根拠を示してもらう。それができないのならば、魔女教の討伐は交渉の場に出せない」

 

 それもそうだ、あちら側からすれば嘘の可能性も十分にあるのだ。

 もしもそうならば、クルシュの陣営はよくて無駄足、最悪魔女教の罠に嵌められてしまうこともあるからだろう。無論こちらが魔女教と通じているということがあったうえでだが。だからこそ彼女は求めているのだろう、確実性を。

 押し黙るスバルに代わり、クルシュがゆっくりと噛み含めるように、残念そうに、告げる。

 

「……どうやら、ここまでのようだ。申し訳ないとは思うがこちらも王選に挑む者として貪欲にいかなければならない、ホーシン商会ほどではなくともな。私は失礼させてもらう、このあとも仕事が溜まっているのでな」

 

「……わるいな、時間を使わせちまって」

 

「なに、存外悪くはなかった。卿の存在はエミリアを助けることになるだろう、そう実感させられたさ」

 

 クルシュは嫌味などではなく本心からの言葉でこちらへと称賛の言葉を贈る。

 確かに彼女からの評価は上がったのだろう。長い目で見ればそれだけでも前進だ、だが──エミリア陣営とクルシュ陣営との交渉は、エミリアを助けるための、数少ない方法は結局のところ失敗したのだ。

 

 ◇

 

「いい線は行っていたと思うんだが、やっぱ形があるものじゃなければ厳しいか」

 

 現在、シャオンたちはクルシュ邸の外、正確にはクルシュ邸よりも少し離れた場所にいる。

 流石に交渉が失敗した状態で厄介になるのは気まずいし、何より時間がないのだ。なるべく動くしかない。

 あとはもう一つの希望だったレムの帰りを待つためでもあったのだが、

 

「スバルくん、申し訳ありません。こちらも……」

 

 走ってきたレムの謝罪の言葉でその希望は潰えたことがわかる。

 レムに頼んでいたのはクルシュ陣営とは別の陣営、フェルトの陣営との同盟関係。更に言うならばラインハルトの助力を得られないかという考えだったのだが、結果はラインハルト含めフェルトたちが王都にいないというものだった。

 王都に戻ってもらおうにも、魔女教の襲撃までのタイムリミットには間に合わない。

 これで、数少ない方法がさらに少なくなった、だが

 

「立ち止まっている暇はねぇ、次の候補だ。シャオンとアリシアはアナスタシアさん所へ、俺とレムは──あの傲慢にあってくるよ」

 

「まじか」

 

 スバルの言う傲慢。その言葉が似合う人物は今のところ一人しかいない。

 傲岸不遜なる王選候補者、プリシラ・バーリエルだ。

 彼女自身の戦闘能力や勢力はわからないが、ただ者ではないことは明らかだろう。それは王選の場面を見ていただけで十分感じられた。

 そして、スバルと彼女は一応顔見知りではあるらしい、ならば確かにスバルがいくべきなのだろう。

 

「俺もついていったほうがいいんじゃないか?」

 

 レムもいるだろうがやはり不安が拭えない。

 下手をすればスバルが死んでしまうような、そんな予感と不安が胸を占める。

 だがシャオンとは対照的にスバルは鼻で笑い、

 

「アホか、お前がこっち来たらアナスタシアさんの所はどうすんだよ。俺がそっち言ったら尻の毛まで毟られて終わりだぜ?」

 

「それは、そうだが」

 

 確かにスバルの言う通り、彼女と交渉をするのならば自分たちのほうがいいだろう。

 理由としてはスバルと彼女の、騎士も含めて相性が最悪だろうというのもあるが、スバルがプリシラを担当する理由と同様にある程度交流があるシャオンとアリシアのほうが確率が上がるからだ。

 

「ま、そんなわけだから安心してこっちは任せて、大船に乗ったつもりでいてくれや」

 

 そう言いスバルは拳を突き出す。

 心配するなとでも言いたげだが、生憎とその拳は生まれたての羊のように震えていた。

 だが、あえてそれを指摘せずに、

 

「泥船じゃないことを祈るよ」

 

 震えている拳に、若干強めに拳をぶつけスバルを激励する。

 勿論、スバルだけではなくシャオン自身にも言い聞かせるように。

 

 プリシラ邸に向かうスバルとレムを見送り、シャオンとアリシアはアナスタシアがいる屋敷へと向かう。

 幸いにもそこまで距離が離れているわけではないので今からでも問題なく間に合うだろう。

 

「さて、行くぞアリシア」

 

「了解っす、っていっても、上手くいくんすかねぇ」

 

 その言葉は作戦の不安というよりも、アリシアがアナスタシアの『強さ』を知っているからの言葉だろう。

 それはシャオンが感じているものよりも濃く、深いものだ。ただ、それでも。

 

「でも、やるしかない。何かあれば助けてくれよ」

 

「……頼りにしてるんすか?」

 

 キョトンとしている彼女に呆れた顔を見せ、鼻先を指ではじく。

 

「あったりまえ」

 

「……ふふ、わかった。期待には応えるっすよ!」

 

 先ほどまでの不安はどこに行ったのやら、アリシアはまるで今にも走り出しそうなほどにやる気を見せていた。

 

 




そろそろあれが動きます。強化されたあれが
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