Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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決着です


決着

 赤いドレスを汚さない様に、地面に降り立った彼女はジロリと、シャオンを見る。

 その剣呑な様子に思わずひるむが、なんとか笑顔で話しかける。

 

「お、おきたのか? プリシラ嬢」

「ふん、凡骨が騒ぎだしてな。アレでは眠りにつくことなどできぬ」

 

 欠伸を手で隠しながら、イライラした様にプリシラは答える。

 凡骨とは恐らくスバルのことだろうか、もしかしたらオットーのことかもしれない。どちらにしろ、渡りに船だ。

 応援は素直にうれしい。それも、王選参加者である彼女ならば、十分な実力を有しているのだろう。

 その喜びの心情を他所に、追撃は止まらない。

 

「よけて……! ください!!」

 

 レムの伸ばした鎖が彼女の悲痛な叫びとは裏腹に、首を跳ねてしまいそうなほどの速度でプリシラへと襲い掛かる。

 だが、シャオンには見えた、プリシラがめんどくさそうな仕草で『空中から剣を抜き』そして流れるような仕草で鎖を断ち切ったのだ。

 もっと正確に言うと、光が手に集まり、剣となったという表現のほうがあっているのだろうか。

 

 

「あれが、妾の相手か……度し難い……陽剣の輝きに魅せられるがいい――」

 

 握る剣は、異様に美しい装飾で彩られた柄から刀身まで真っ赤な真紅の宝剣。

 僅かに目を引かれている隙に彼女はリーベンスの元へ優雅な足取りで近づいていく

 

「ふん、あやつ等を肉塊にしたくなければ死ぬ気で押さえよ、それが貴様の役割だ人形。妾は襲い掛かるものは容赦なく刈り取るのでな」

 

「それは重大な役割ですねぇ……!」

 

 プリシラは襲い掛かる二人を軽くいなし、シャオンへと押しつけるように動く。

 プリシラの性格から先ほどの発現は嘘ではないだろう。

 レムたちが操られているとしても、プリシラに害を与えるのであれば容赦なくあの剣で二人を殺すだろう。

 だが操り主を倒そうにも正直な話、今の状態ではシャオンはリーベンスには勝てないだろう。

 戦力的に劣っているのも事実だが、なにより相手のタネがわからない以上どうしようもないのだ。

 だから、

 

「でもそっちは任せましたよ!」

 

 王選参加者の1人、傲慢なその性格を裏付ける確固たる実力であれば彼女を倒せるかもしれない、そんな期待があるのだ。

 

 

「ああ、ああ。貴方様も知ってますよぉ」

 

 プリシラと相対したリーベンスは、にこやかに笑いながら歓迎するような仕草で向き合う。

 

「それに、その剣……ああ、貴方はもしやヴォラキアの――」

「その口は気色の悪い羽音以外にも余計なことを口にするのじゃな」

 

 音もなく振り抜いた剣が、リーベンスの腕を切断する。

 肉を焼く音と共に彼女の腕が宙を舞い、落ちた。

 それすら気にしないで、追撃しようとしたリーベンスは、とある事実に気付いた。 

 

「再生、しない?」

 

 炭のように消えていく自らの体をリーベンスは見つめ、切断された自身の腕に視線を移す。

 今までは即座に再生した自身の腕が、消滅したままだ。

 その表情は、理解ができないとでも言いたげな、疑問に満ちていた。

 

「どうした? 顔色がさらに悪くなったようじゃが…」

「これほどとは……しかもその剣に認められている……羨ましいですねぇ」

 

 煽るプリシラに対して、ため息をこぼしながら苛立ち気に瞳を細める。

 しかしそれも一瞬のこと、すぐに笑みを張り付け、プリシラへと向き直る。

 

「でも、切断面を塗り替えれば、意味ないですねぇ」

 

 再生しない腕を無理やり引きちぎる。

 その常軌を逸した行動は、新しく映えた腕を見て理解に至れる。

 プリシラの陽剣によって切られて再生ができないのなら、切られた部分だけを捨てれば問題がないのだ。

 まるで、トカゲの尻尾切りのような、人間らしさがない行動を前に、プリシラが嫌悪感を隠さずに問いかける。

 

「貴様、何体”それ”を飼っている?」

「少なくとも10万は」

 

 瞬間、リーベンスの身体が風船のように膨らみ、破裂し、中から何かが飛び出したのを目にした。

 辛うじて見えたのは牙のような刃がついた、数千匹の生物だ。プリシラはその生物を見て、舌打ちと共に回避後に剣先を地面へと向ける。

 途端、地面から炎の壁が立ち上がり、無数の生物がその炎に飲み込まれ、消滅した。

 

「さぁさぁまだまだおわらないですよぉ」 

 

 だがひるむことなく、リーベンスはプリシラへ向かって腕を振り上げる。すると、なにもなかったリーベンスの頭上に黒い渦が浮かび上がった。

 渦は細くなり片腕で一本ずつ、たとえるのならばの二本の黒槍へと姿を変える。そうだったものがリーベンスの動きに準じて、合わさり一本の強大な黒蛇へと姿を変える。

 一直線に腕が振り下ろされて、巨大な蛇が砂埃を巻き起こしながらプリシラへと一気に飛びかかる。彼女はそれをよけるのすらうっとおしいのか、陽剣を下から突き上げて、その剣先が大きさの違いすぎる蛇の頭を殴りつける。剣と鎖の激突とは思えない音がして、黒蛇の狙いが大きく逸れる。

 だが、プリシラもその威力に吹っ飛ばされて追撃は無理、地面に叩きつけられるのを華麗ともいえる動きで避ける。

 

「ほらほら踊りましょー」

 

 休む間も与えないとでも言いたげにリーベンスの追撃は続いていく。

 しかしプリシラも彼女は踊るように全て避けきり、返す刃で伸びてきた腕の半分を切り捨てた。

 ただ、あくまでも半分のみ。無数の鞭のような攻撃に彼女の豪奢なドレスに傷がつき、僅かに鮮血が飛び出る。

 攻撃がすべて躱せず、当たり始めたことにリーベンスは獰猛な笑みを浮かべる。それにたいして、プリシラは、

 

「つまらん――もう、幕引きじゃな」

「は?」 

 

 間の抜けた声と共に、リーベンスの身体が真っ二つに切断される。

 

 

「ッ!」

 

 レムはモーニングスターを縦横無尽に振り回し、シャオンの命を刈り取ろうとする。

 

「いや、味方なら頼もしいけど敵に回るとここまで怖いとは……」

 

 掠るだけで肉が持っていかれるほどの威力、鬼の怪力とはよく言ったものでまともに食らえばシャオンは死ぬだろう。

 そしてその後はプリシラに二人が襲い掛かり、待つのは全滅。プリシラが二人より強くても彼女らが死んでしまってはこちらの負けは確定となり、死に戻りの確定でもある。

 つまりはスバルの、死だ。それは避けなくてはならない。

 

「かといって、全力出したら2人が危ないのは依然変わらず……割とピンチだよな」

「があっ!!」

 

 シャオンの言葉に獣の如き唸り声で答えるレム。

 理性のない彼女の動きは恐ろしいが、読める。彼女の攻撃は殆どが一直線でフェイントなんて高度なことはできないようだ。

 恐らくリーベンスに操られているせいだろう、彼女の持つポテンシャルが十分に発揮できていないのだ。

 そして当然、レムだけでなくアリシアも同じく攻撃が予想しやすくただ時間を稼ぐのであれば問題はない、体力が持つまでは。

 

「とりあえず、死なない様にして、かつ殺さない様にか……言葉にするのは簡単だけど」

 

 鬼族と一般人であるシャオンとの肉体の差は大きい。その差は縮まることはなく離れていくばかりだ。

だから、シャオンが攻撃をすることが出来ない状態での勝利条件は――

 

「プリシラ嬢、早くしてくださいよ」

 

 傲慢な、彼女にかかっているのだ。

 そして、その彼女のほうにちらりと目を向けると、状況が大きく動いていた。

 

「なんだ、あれ」

 

 突然聞こえてきたのは無機質な声。

 プリシラが発したと気づくまでにだいぶ時間がかかった。そして、それを理解した瞬間に、始まった。

 切断されたリーベンスの肉片が地面に落ちる前に更に十字に切断、そしてそれらが動き出す前に仕舞とばかりに再度炎で焼き尽くす。

 残された彼女が行動を起こそうとしたが、それすら許さないとばかりに袈裟切りにし、更に首と胴を断ち、消滅させる。 

 僅かに残った肉片に対しても同じように白くすら見える炎で焼き尽くす。ここまで徹底すれば、さしもの怪物でもこの攻撃を受ければ生きてはいないはずだ。

 だが、炎の中からそれは出てきた。

 ただ、シャオンの予想に反してでてきたそれは、女性でも、いやそもそも人ではなかった。

 プリシラがまるで最初からお見通しだとばかりに、告げた。

 

「底が見えたぞ、怪物」

 

 そこにいたのは、それは――一匹の”蟲”だ。

 

 ぶーんというような羽音を奏でるそれは紛れもない一匹の蟲だ。

 よくよく見るのであれば数匹の蟲が集まった集団ではあるが、普通の蟲だ。

 ただ、

 

『ああ、肉体が崩れてしまいました』

 

 人の言葉を話す、という点を除けばだ。

 

「ふん、予想はしていたが醜悪でなにより小さいな」

『それにしても本当にひどいですねその太陽のような剣。おかげで半数が死んでしまってこの姿になってしまった』

 

 プリシラの言葉を無視するように、羽音を大きく立てて威嚇でもしているのか、リーベンスの声をした蟲は周囲を飛び回る。

 

「すでにその肉体は死に、”死体を食んだ虫に”魂を移動させた……そこまでしていきたいとは思えないものじゃが」

「プリシラ嬢!」

 

 レムとアリシアを抱えながら近づくとプリシラは僅かに頬を緩め、迎える。

 

「急に二人が崩れ落ちたんだけど、倒したってことでいいんです!?」

「ほう、どうやらそやつらを操る余裕はなくなったようじゃな。まぁ、妾を相手にしているのだから当然じゃが」

「……一体何があったんです? その蟲は?」

「この怪物はすでに死んでおる。そこにあるのはただの蟲の集合体と執念だけじゃ」

 

 断片的な情報のみで答えを出してくる彼女に、流石のシャオンも首をひねる。

 どうやらプリシラがリーベンスに優勢に立ち、レムたちを操る余力すらないほどに追い詰めていたようなのは確定らしい。

 ただ、リーベンスの声を上げる目の前の蟲の存在がよくわからない。

 

「えっと、つまり?」

「詳しい説明などすでに意味などない、事実はこやつは紛れもない怪物だということだ」

 

 陽剣がさした剣先には一匹の蟲だった。しかし、どこからかまるで磁石が引き合うように無数の蟲が集まってくるのがわかる。

 鳥肌が立ちそうなその光景を、思わず何もせずに見ていると、それは現れた。

 

「腕は、片腕分は再生できませんか……」

 

 そこに再び現れたのはリーベンスだ。

 ただ、プリシラの言う通り彼女はもう限界に近い様だ。

 驚異的な回復力はすでに底をつき、体は右腕が切断されたまま、よく見るのであればたまに体が霧のようにかすんで見える。

 いや、あれは霧ではない。先ほどの姿とプリシラの言葉を信じるならば、蟲の集合体があの霧の正体だ。

 

「ここまで追いつめられるとは思いませんでしたぁ」

 

 息を荒げながら、リーベンスは感心したような視線をプリシラへと向ける。

 虚勢でもなく、かといって余裕なんてない表情は本当に驚いているようだ。

 

「だからぁ、この方法は嫌だったんですがぁ、まぁ保険はしておいてよかったですぅ」

 

 彼女は懐から黒色をした箱を取り出す。

 光沢すらないその箱は小さく、まるで指輪を入れるくらいのサイズしかない。

 初めて見るその道具に警戒を高める、あの箱で一体、何をしようとするのだろうか

 あの箱は、なんなのか

 あの箱は、あの箱は――――懐かしいにおいがする。

 本能的にシャオンの身体が動いた。

 覚えていないはずの記憶が肉体を動かし、あの箱の、あの箱の中にいる脅威に対して先手を取ろうと動いたのだ。

 だが、シャオンが行動を起こす前に、事態は動いた。動いてしまった

 

「たまたまここの近くを通る予定でよかったですぅ、一定以上離れてしまうと使えないんですよぉ」

 

 プリシラも遅れながら、嫌な気配を感じたのか剣を振るう。

 陽剣がその箱を破壊しようと、触れるその瞬間――

 

「────おいで、白鯨」

 

 箱が内側から声に従うように開き、白い何かが飛び出た。

 それを一番最初に視認できたのはもっともリーベンスに近かったプリシラ嬢であり、

 

「は──?」

 

 ――狙われたのも彼女であった。

 

『い た だ き ま す』

 

 そんな子供のような声と共に、王選の候補者であり協力者、プリシラ・バーリエル。

 彼女は似合わない驚愕の顔を最後に、その美貌が、豊満な肉体が、上半身ごと消滅したのだ。

 

 残された彼女の下半身は僅かに痙攣し、無理矢理切断された上半身を追い求めるように動いた後、地面に落ちる。

 そしてそれは瞬く間に、紅い、小さな魚に貪られ、骨すら残さずに消滅した。

 

「……は?」

 

 思考が追い付かない中、プリシラを喰い尽し、満足したのか赤い魚は飛び出た白いそれの周辺に集まる。

 

『あ そ ぼ』

 

 それは白い壁だ。

 それは、白い大きな生物だ。

 それは――

 

『お と う さ ん』

 

 呆然とその光景を見ていたシャオンに向かってそう語り掛けてきたそれは――白い鯨だった。

 




あああああああああ!OPにカーミラがいる!泣いてる!かわいい

……はい
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