Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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可能であれば今日か明日にもう一話


再起、そして希望

「さて、啖呵を切ったはいいけどどうしたものか」

 

 レムと降り立った先に敵の姿はいない。

 白鯨の姿は先程の突撃以降即座に姿を消していた。

 この暗い霧の中、灯は僅かなものしかなく、完全に視界が開けているのではない。

 いくら白鯨が巨体とはいえ、その魚影すら見えていない状態でいつ襲われても仕方がない危うい状態だ。

 

「仕方ない……ジワルド!」

 

 光、陽魔法で僅かに周囲を照らす。

 相手にもシャオン達の居場所がばれてしまう可能性もあるが背に腹は代えられない。

 白鯨自身はシャオン達よりも五感がすぐれていたり、そもそもこの霧自体が白鯨自身のものだった場合、見えないのはこちら側だけの可能性がある。

 そして、その判断は浅慮なものではなかったと気づいたのは照らしたその直後だった。

 

「――上!」

 

 僅かに照らされた光によって、月明かりが僅かにシャオン達を照らす、照らしたはずだった(・・・・・・・・・)

 そして、すぐに月明かりが雲に遮られた、と思ったがそれは誤認だ。

 その雲があまりに大きな存在の、白鯨の下腹であることを理解し、僅かに反応が遅れる。しかし、

 

「――――っ!」

 

 レムが即座に上に魔法を放つ。

 氷柱の先端が固いものに押し潰される音が響き、しかし砕き切られる直前に先端が魔獣の腹にわずかに埋まり、傷口を押し広げて内部へ穿孔――血をぶちまける。

 白鯨の絶叫が平原に轟き渡り、鼓膜を痺れさせるような大気の震えを味わいながら、全く効いていないわけではないことにシャオンは一筋の希望が見える。

 ただ、それでも一筋だ。

 先ほどの、あの瞬間に動けていなければ、シャオンの体は白鯨によって空間ごと喰われていただろう。

 あの刹那の間こそが分水嶺。そして、そのほんのわずかな躊躇いが生死を分ける戦い。おそらく、シャオンがこちらの世界にやってきてから過去最大の、強敵。

 出し惜しみなどはできない、だが”不可視の腕”のデメリットを考えるとアレは使いどころを見極めなくてはいけない。

 ”魅了の燐光”や”癒しの拳”も残り使えるのは限られている。と、なれば、

 

「こいつはまだ作成途中だけど……名称はまだ未定、とりあえず喰らえっ!」

 

 シャオンの歌にも似た詠唱と共に、空気中に広がるマナが集まり、4属性すべての魔法が同時に放たれる。

 通常その一撃は顕現した魔法が相殺されてしまうが、今放たれているのはマナ自体をぶつけるようなもの。

 味方であるレムでさえ思わず息を呑むようなその一撃は、歪ながらも白い光を放ち、白鯨へと向かっていく。

 しかし、命中する直前に、

 

「ちっ! まだ安定しない――!」

 

 白鯨まであと僅かというところで、白い光が内側から5つに分離しそれぞれの魔法へと変化する。 

 だがそれでも炎が、氷が、土塊、風が刃に、槍に、槌に変わり、白鯨へと叩きつけられる。

 僅かについていた小さな傷口を大きく押し広げ、悶える巨躯から血霧が噴出し、どす黒い雨を降らせる。

 それと同時に

 

『―――ッッ!』

「無傷ってわけではなさそうだな、それにしても」

 

 霧雨のように視界を覆う鮮血を避けながら、シャオンは改めてその姿を見る。 

 ひとつの白い岩山が、なんの冗談か空を悠々と泳いでいた。 

 白鯨――その異名で呼ばれるだけあって、その魔獣の姿は白に覆われていた。

 岩盤のようにささくれ立った肌には白い体毛が無数に生え揃い、その強靭さは生半可な攻撃では内側にダメージを通さない。遠視で見た全容はなるほど知識にある鯨に酷似しているが、その大きさが予想を二周りは追い越している。

 元の世界でも鯨は確かにいたが、少なくとも目視で見た白鯨の体躯は三十メートルを軽々と越えて、五十メートルに迫ろうかという規模の大きさだ。ここまでくると、それは生き物であるというよりはひとつの山に近い。

 

「スバルだったらもっと鯨の知識はあるだろうな……と、いうか壁みたいだと思ったのはこいつだったのか」

 

 いつかの世界のこと。

 魔女教徒に襲われ、惨殺されたとき。

 あの時も確か白い壁が村の前へと佇んでいたのを思い出す。

 その時は遠目ではあったが、今思うとあの時点でもリーベンスによって召喚されていたのかもしれない。

――あの時は?

 瞬間、体全体に鳥肌が粟立つ。

 嫌な予感が、現実へと近づき、いつかの光景へと重なっていく。

 白鯨の周囲が、熱で歪み始める。

 動くことが出来たのはシャオンにその時の記憶が残っていたからだろう。

 だが、今ここにいるのはシャオン一人ではない、

 

「避けろ――! レム!」

 

 白鯨の口から、閃光が迸る。

 ぐらり、と視界が傾き、直後に肉の焼ける嫌なにおいが鼻腔へと伝わっていく。

 血に濡れた地面へとシャオンの身体が崩れ、世界が終わっていく。

 その中、最期に見たのはシャオンの血液によって赤く染まるレムの姿だった。

 

――――――

――――

――

 

 

「おーい、大丈夫なん?」

「まぁいろいろショックなことがあったっすから……」

「……なんかすごい変な誤解されている気がする」

 

 おぼろげだった意識が徐々に覚醒し、朝の光と、黄色い髪をした少女アリシアの姿が目に入った。

 そして隣にいるのは白い服を纏った少女、アナスタシアだ。

 

「あ、反応があったっすね。大丈夫っすか?」

「あんま無理しちゃいかんよ? もう1日くらいなら泊まっいってもええしね」

 

 そう言うアナスタシアの目には若干の下心が宿ってはいそうだが、半分以上は厚意によるものだとシャオンは認識する。

 それをありがたく断って、現在の状況を頭の中にまとめ、確信する。また、ダメだったと。

 

「……個人的には戻ってこれて万歳って気持ちなんだが」

 

 シャオンの言葉にアナスタシアとアリシアは顔を見合わせて首を傾げる。

 当然だ、今のシャオンは竜車で屋敷へ向かおうとしていたのに、急に呆然としていた上に今の発現だ、頭がおかしいと捉えられても否定できない。

 若干の照れ臭さを覚え、それを隠すように咳ばらいを一つする。

 

「あー、とりあえず。仲直りしに行きますか」

「いや、意味わかんねぇっす」

 

 当たり前の反応にイラッとしながらも、同じ立場だったら同じ言葉を口にしていたかもしれない。

 そう思い、小突くのはやめて雑に頭を撫でることにとどめた。

 

 場所をアナスタシアの屋敷前から下層区の一角に移し、雑踏の壁に背を預けていると遅れてスバルとレムがやってきた。

 もしも死に戻った際の待ち合わせ場所にしていたところに無事来てくれて安堵する、前回の世界でも色々あったのだ忘れてしまうことだってあり得たかもしれない。

 そして、スバルとシャオンは喧嘩別れをしたことに一応この世界ではなっている。それを利用しレムとアリシアには男同士の話があると伝え、話を聞かないように頼み、いまは二人だけだ。

 作戦会議、というほどではないが、シャオンが死んだ後の流れを知るためではあるが無理な言い訳かもしれない。

 若干の不信感を抱いてはいたが、従ってくれたのは運がよかった。

 そして、息を一度大きく吸い、自身を落ち着かせてスバルは語りだす。

 

「さて、シャオン……あの後、俺はアルに裏切られた」

「あ?」

「正確には、囮にされたって言う方が正しい言い方だな」

 

 先に死んだシャオンにもわかりやすく説明を行うスバル。とはいってもスバル自身、あまり納得がいっては無さそうだった。

 そして、上手く口にできないのか順序立てて何があったのか話をすることにしたようだ。

 

「まず、お前たちが死んだあと白鯨は、今までとはけた違いのスピードで俺たちが乗っている竜車へと接近した……妙だとは思わないか? 複数ある中何でわざわざ俺らのものを?」

 

 オットーの話では複数の竜車がばらけながら霧を抜けようと画策していたはずだ。纏まっているところを全て潰されるのを防ぐためだろう。

 最初にシャオン達が襲われたのはリーベンスの指示や攻撃したからなどの要因だと思ったが、主に攻撃をしていたシャオンが死に、操っていたであろうリーベンスの姿もなくなったままスバル達を襲うのには違和感がある。

 しかし、彼には特別なものがある――  

 

「……残り香か」

 

 シャオンの半ば確信めいた、発言にコクリとスバルは頷く。

 ――魔女の残り香。

 彼が死に戻りを経験するたびに呪いのようについてくるそれは、魔獣、あるいはそれに類似する者に対して嫌悪感に似た何か、興奮剤にもなるかもしれないがそのようなものを出しているのだ。

 何故それが彼について回るのかはいまだにわからないが、白鯨も魔獣というのであればスバルの推測は当たっているのかもしれない。

 その残り香が魔獣騒ぎでは十分に役に立っていたが今回は大いに足を引っ張るほうに役立ってしまったということだ。 

 

「それで、その後はアリシアが時間を稼いだからその分で逃げ切れた……まぁ、とはいってもあとは俺を追ってきていると踏んだオットーとアルに竜車から落とされ……」

「死んだ、と」

「一応屋敷まではたどり着いた、死んじまったけどな……後は――」

 

 続く言葉をスバルは飲み込み、代わりに何でもないと口にした。

 どうやら全ては話そうとはしないらしい、だが問い詰めたところでどうしようもない、今はスバルの判断に任せる。

 

「ああ、そうだ。裏切られる前にある程度白鯨の情報も聞けた。白鯨についてだが消滅の霧という能力を持っているらしい」

「白鯨が体の中から生み出していた黒い霧のことか?」

 

 白鯨の登場と共にシャオン達の周りに生まれた霧。

 確かにあれは通常では有りえないほどに不自然なものではあった、あの魔獣の仕業である可能性も勿論あったので驚きはしない。ただ、

 

「ああ……アレに浴びると消滅する」

「……比喩ではなく?」

「そう。文字通り消滅だ、世界からな」

 

 スバルの言葉に絶句する。

 彼の言葉を信じるのなら文字通り、『霧』を浴びて消失した存在は、その存在ごと世界から消えるというのだ。

 誰が消失してしまったのか、事実は残っても誰の記憶にもそれは残っていない。

 ぞっとするその力に、冷や汗を流すシャオンを他所にスバルの話は続く。

 同行した行商人のオットー、アル、そしてアリシアが同業者の存在や足止めに残ったシャオン達の存在をころりと記憶から消し去ったというのだ。

 防衛本能により、都合の悪い記憶を消してしまったものとばかり思い込んでいたが、それが白鯨の『霧』の影響下にあった可能性がある。霧の力によって世界から消失したシャオン達のことが、誰の記憶からも消えたのだ。

 

「……屋敷に戻ったときは流石にきつかったぜ……エミリアも何よりもあのラムがレムを覚えていなかったからな」 

 

 恐らくレムと一番長く時を過ごしたであろう、ラムでさえ忘れてしまうほどの能力。

 それは確かに恐ろしいが、それほどの能力なのに、またしても、

 

「俺だけが、覚えていた……お前ももしかしたら覚えているのかもしれねぇが……」

「同じく”死に戻り”に関しては認識しているから可能性はありそうだけど、確定ではないか」

 

 その異常な事態に改めて、あの霧の魔獣が『魔女』と強い接点を持つ存在であることを意識する。

 この世界に二人を、正確にはスバルを縛りつける、黒い魔手もまた無関係ではないだろうことを。

 ただ、シャオンのことはスバルよりも大切に扱われてはいないかもしれない。

 というのも”死に戻り”についての暴露に対するデメリットの違いだ。

 スバルの場合は心臓を軽く触られる、あるいは軽く握られる程度で済んでいたが、こちらは心臓を握りつぶされ、命を落としているのだから明らかに差が出ている

 以上から、スバルとは違って、いざ霧に呑まれた人物がいてもシャオンは知覚できないかもしれない、それを頭に入れておかねばならない。

 

「あとは……白鯨とは別のあの小さな赤い魚と黄色い魚。アレに関しては情報は得られなかった……悪い」

「いや! 霧の方だけでも十分だよ! 頭上げろって」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるスバルに慌ててシャオンは頭をあげさせる。いくら人目を避けた場所にいるとはいえ全くの無人ではないのだ。

 大の男に頭を下げられている光景など嫌でも目立ってしまうだろう。話を逸らしたほうがよさそうだ。

 

「あー、とりあえず、纏めよう。あまり時間をかけ過ぎるとレム嬢が来る可能性がある」

 

 彼女達には無理がある言い訳で距離を取ってはいるが、過保護なレムのことだばれない様に近づいてくるかもしれない。

 もしもそれでこの話が聞かれてしまった場合、下手すればペナルティが発生するだろう。それは避けなければならない。

 そう考えて今後の方針についてスバルと考えをまとめることにした。

 

「現状、あの陣営は信用できない、という言い方は正しくはないが、少なくともミーティアを切ってまで得るべきではない」

「なら、どうするよ。残された陣営で交渉自体が可能なのは二つだけだぞ」

 

 傭兵などを雇うことは考えない、考えるのはそれなりに交友があり、力がある人物。尚且つ、シャオン達がすぐに交渉に行けるものと考えたら王選の参加者しかないだろう。

 戦力的に欲しいフェルトの陣営とは少なくとも連絡が取れないのは相も変わらずだ。魔女教の襲撃には間に合わないだろう。

 プリシラの陣営は先のとおり、いざとなれば保身に走る可能性がある上に、前回は全力で戦闘を行ったにもかかわらず倒しきれなかった。

 となれば、残るはアナスタシアとクルシュの陣営となる。しかし、彼女らとは一度交渉を持ち掛け見事に失敗もしているのだ。切り口は変えたうえで臨まなければならない。

 

「……実際にプリシラ嬢の戦闘を見ている限りでは、アナスタシア嬢の所の鉄の牙といい勝負はすると思う」

「ああ、俺のほうもまだクルシュさん自身の力は見ていないけど、騎士であるフェリスの魔法と、ヴィルヘルムさんは十分に戦力になると思う」

「やっぱあの人強いんだな……」 

 

 シャオン自体はクルシュの陣営との関わり合はスバルに比べて多くない。

 ヴィルヘルムという人物ともそこまで関わり合いはない、ただ前回の交渉の際にその姿を見ただけで、実力ははっきりと感じ取れた。

 

「戦力的には二つの陣営がそろえば、問題ない。リーベンスの奴を追い詰めることはできるだろうよ。だから、同盟を結ぶことさえできれば光は見える」

「問題はその交渉だけど……あと一押しって感じなんだけどな」 

「何か切れるカードが増えれば行けるかもしれない」

 

 とはいっても切れるカードは少ない。

 魔鉱石の採掘権。所謂資金の問題は十分に満たしている。後はこれに”エミリア陣営との同盟”という世間から見ればデメリットしかない要素を上塗りできるものを用意すればいいのだが。

 当然、思いつかない。交渉の基本としては相手が何を求めているかにあるが、そもそもシャオン達は商人ではないのだから難易度が高い。

 アナスタシアの陣営ならば、最悪シャオンの身を出せば行けなくもないが、戦力に若干の不安はよぎる。可能ならば2つの陣営といわゆる3同盟を組めればいいのだが、

 

「もしかして――」

 

 考えている中スバルが呟く。

 しかし、それ以降は何も言葉にせず、考え込むように黙る。

 

「スバル?」 

「なんとか……攻略法はつかめた」

「え?」

 

 思わぬ発言に目を丸くするがスバルは慌てた様に付け加えた。

 

「100じゃねぇけど、0でもねぇ。俺の予想がドンピシャだったら行けるかもって感じだ」

 

 そう言うスバルの言葉は僅かに不安を抱いているのか自身がなそうだ、

 しかし、同時に彼の目には確信めいたものを宿していた。

 

「可能性があるならやってみるべきだと思う、話してみてくれ」

「ああ……そうだな」

 

 そうしてスバルが語る内容は、あくまでも推測、確証はない。

 ただ、妄想や妄言と言いきるほどに不確かでもないそんなものだった。

 

「確かに筋は通っているし、可能性はだいぶ高いだろう。そして、その後の流れに関しても、まぁ俺次第ではあるけど不可能ではないだろう、”生物の集合体”だから効果は期待できる。やってみる価値は十分にあるよ、スバル」

「よしっ!」

 

 スバルはこちらの言葉に小さく拳を握る。

 自身がなかった声色にも張り出ており、賛同を得られたことに歓喜しているようだ。

 喧嘩別れした時とは大きく違ったスバルの反応を生暖かい目で見るとスバルは、顔を赤くする。

 そしてそれをごまかすように、

 

「ゴホン、なら動くぞ……討伐するぞ――白鯨を」

 

 スバルは高らかにそう宣言したのだ。

 




もう少しで3章終わります。恐らく10話くらいでしょうか。
4章に関しては5話ずつ書き溜め投稿するのでお待ちを
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