Re:ゼロから寄り添う異世界生活   作:ウィキッド

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本日2回目の投稿です。


無謀な作戦

「白鯨が分裂している、か」

「ああ、間違いないと思う。傷の位置と、その強さがな。ぶっちゃけた話、多少なりとも直接やり合ってるそっちの方が感じてるだろ?」

「レムは無我夢中でしたけど……でも、確かにそうかもしれません」

「うん、あってる筈っす。確実に、肉が抉れ始めてるっす」

「確かに……今までの戦い方を見てると否定はできないな」

 

 合流した全員が、スバルの説明の前に首肯して納得を表明。

 白鯨二体との戦闘が討伐隊と獣人傭兵団に委ねられている状況だが、士気の高さと連携の妙、とヴィルヘルムの復帰がかろうじて補っている。

 数分――スバルが鼻先をうろつき回る撹乱を続行していれば、少なくとも作戦会議の時間ぐらいは稼げるだろう。

 

「奴が元の一体より弱っている、というのは同意だ。だが、それを理解したところでどうする。手負いで弱体化しているとはいえ、その脅威は依然こちらを上回っている。いかにフェリスの治療といえど、下がったものの戦線復帰は望めないぞ」

「ウチのシャオンも治療はもう限界にちけぇ、無茶は言えねぇよ。それは抜きで勝ちにかかるしかない」

「その状態で、三頭の白鯨を殺す。口で言うのは易いが、高い壁だ」

「「いいや」」

 

 ぴくり、とかぶる言葉にクルシュが眉を上げる。

 興味深げにスバルとシャオンを見る彼女に頷き返し、スバルは指を天に向ける。

 

「自分の分身の二匹にバシバシ戦わせて、高みの見物決め込んでやがるあの野郎は、いったいなにをしてやがるんだと思う?」

「加勢もしないで、傷を癒している……?」

 

 自信なさげなレムの答えに、シャオンは首を横に振る。

 

「いや、いくら魔獣でも流石に自動で治療するような術はないはず……だから」

 

 言葉を引き継ぎ、応えたのはクルシュだ。

 

「奴が本体、か」

 

 同じ結論に至った彼女にシャオンも同意を頷きで示す。

 はっきり言って、全ては想像に過ぎない。

 ただ、三頭の白鯨が一頭が分裂し、オリジナルが天上の一体であるのはもはや疑いようがない。

 

「あいつが降りてこないのは、どっちの自分にも加勢したりしてこないのは、自分がやられるわけにはいかねぇからだと俺は思う」

「道理には合っている。しかし、逆を言うなら……」

「下にいる二匹は、殺しても本体の痛手にならないかもしれねぇ」

 

 苦労して白鯨を倒したとしても、その屍が霧となって霧散し、すぐさまに新たな個体となって複製されないとも限らない。そうなれば終わりのない無限ループに突入、コンティニュー制限のない白鯨に対して、こちらが早々に音を上げるのは目に見えている。

 

「あれが降りてこない理由と、倒し方の部分は繋がったす。でも、それでどうするっす? あそこまで高いところに飛ばれると、攻撃する手段がないっすよ?」

 

 話を静かに聞いていたアリシアが若葉色の瞳を向け、問いかけてくる。クルシュも空に浮かぶ白鯨の姿を見上げ。

 

「加護を使った私の剣でも、あそこまで届かせることはできても威力に期待できない。一太刀ならばあるいはと思うが、それで落とせるなら苦労はない」

 

 上空へ逃れた白鯨の高度は、おおよそ雲と同じ高さまで達している。

 最初の出現時よりさらに高いその場所取りに、白鯨の性質の嫌らしさが表れているようでスバルは苦い顔を堪えられない。

 あの位置では魔鉱石の砲撃も、命中率を大きく下げるだろう。

 

「レム。あの野郎のすぐ近くに氷の山を浮かべるとか……」

「ごめんなさい。マナは手元から離れれば離れるほど、扱いが難しくなります。ロズワール様なら可能だと思いますけど、レムの腕では――」

 

 そうして彼女はチラリ、とシャオンを見る。

 言いたいことはわかる、ロズワールの弟子であるシャオンならば、といいたいのだろうが、

 

「期待しているところ悪いけど、流石にそこまで俺のマナも持たないよ、不可視の腕も……届かない」

 

 現状は手詰まりだ、だが――

 

「考えていた、作戦はある。シャオン、お前。俺と死ねるか?」

「――――無理だね」

 

 スバルの言葉に迷いなく答える、思わずスバルが言葉に詰まるが、即座にシャオンは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、

 

「死に物狂いで生き抜くなら、いいよ。全力でお供しよう」

「こいつめ――さて、博打はスキか?みんな」

 

 それは無粋な問いかけだ。

 この場にはせ参じた時点で、既に躊躇するような、そんな理性的な人物たちはいないのだから。

 

 ――はるか高空から、眼下の争いを白鯨は静かに見下ろしていた。

 戦場を左右に分けて観察するのであれば、平原を二つに割る戦いはちょうど、天を突くような大木を頂点に綺麗に分断されている。

 どちらの戦場においても、小さな人間たちが魔獣の巨躯に取りつき、その手に握った鋼を突き立て、炎を生み出す石を振りかざし、小賢しく抗っている。

 炎が立ち上り、魔獣の苦鳴が下から届くたびに、空を泳ぐ白鯨は白い霧を吐く。

 戦場に立ち込める霧は眼下の同位存在に味方し、争う小さな存在たちを確実に劣勢へと追いやっていた。

 ちょこまかと動き回る影は時間の経過につれて、ひとつ、またひとつと確実に数を減らしていく。『霧』の中に呑まれ、その存在を掻き消されることで。

 全てを呑み尽し、この無益な戦いが終わるのもそう遠いことではない。

 戦力バランスが崩れ出し、瓦解が始まるまで時間の問題だ。

 

「――――」

 

 霧を吐き、地上を白く染め上げていく。

 邪魔が入って中断しているが、霧を広げて眼下の世界を覆い尽くさなければならない。それもまた本能の指令であり、そうすることが生きる意味だ。

 そうして、眼下の光景から意識を切り離していた白鯨は、ふいにその巨大な隻眼をぎょろりと動かし、下に意識を向け直す。

 すさまじい勢いで収束するマナを感知し、その流れの根本を見たのだ。

 

「アル・ヒューマ」

 

 膨大なマナの渦、その中心に立つのは青い髪の少女であった。

 跪き、時間をかけて練り上げたマナに指向性を与える少女の傍らで、ゆっくりと構築されるのは鋭い先端を覗かせる長大な氷の槍だ。

 十メートル級の凍てつく凶器が、その鋭い穂先を白鯨の下腹へ向けている。

 その狙いは明らかで、そしてそれを目に見える形で行ったのは致命的な失敗だ。

 

「届いて――ッ!」

 

 少女の祈るような叫びを受けて、氷の槍が地上から空へ向けて打ち上げられる。

 穂先が狙うのは当然、宙を行く白鯨の胴体の中心だ。

 ぐんぐんと加速し、空を突き破る勢いで迫る氷の殺意――だが、それは加速を得るための距離と、発射の瞬間を見られていた失策により、呆気なく頓挫する。

 白鯨が尾を振り、風を薙ぎながら空を泳ぐ。

 それだけでその巨躯は氷の槍の射程から外れ、白鯨の体を外れた氷槍はすぐ横を通過し、その狙いをあっさりと取りこぼした。

 ゆえにすでに脅威ではないと判断した白鯨は、即座に視線を外す。今、やることは別にあるのだ。

 彼を探さなくてはならないのだ――この場所に父親がいるのは確実なのだから。

 ほんの少し前、僅かに感じたその感覚は明らかに自身を生み出した存在、その一片だ。

 間違いはない、確実にいる。だがここまで邪魔なものが多いとその人物を確定できない、だから直ぐに雑兵を蹴散らして――

 

「――よぉ。こうして間近で改めて見ると、超気持ち悪ぃな、お前」

 

 思考の最中に、癇に障る声が聞こえた。

 巨躯の岩肌に、あまりの軽い感触が圧し掛かる。

 頭部の先端に着地したそれの存在を感じ取るのと同時、白鯨は通り過ぎるはずだった氷柱が跡形もなく消失、マナの拡散する波動を嗅ぎ取った。

 ――ついで、切望していた父の臭いと共に、鼻先に浮かぶ、堪え難い悪臭の源にも。

 

「ついてこいや。――言っとくが、俺はシカトできねぇぐらい、ウザさに定評のある男だぜ?」

「自覚があるなら治そうぜ?」

 

 そうこぼすのを白鯨は聞き、白鯨の視界は嫌悪と怒りで黒く染まったのだ。

 

 レムが作り出した氷の槍に掴まって上空へ向かい、そこで退魔石を砕いて離脱――白鯨に取りつく、というのがスバルの立てた乱暴な作戦だ。

 レムの猛烈な反対を受けたものの、そこはシャオンも同行するというフォローもあり何とか押し通した。そうして切り札である退魔石の譲渡をクルシュから受けた。

 見え見えの大魔法ならば白鯨は避けるだろうと予測し、そこにスバルという本命の罠を仕掛けてのことだ。逆に白鯨が避けなかった場合、はシャオンも衝突の衝撃は何とかで来ただろうが、落下まではサポートできずに死んでいただろう。

 

「この状況も紙一重……ってか、マジ恐ぇぇぇ!!」

 

 白鯨の鼻先に必死にしがみつき、叫ぶスバル。

 それに構う余裕はシャオンにもあまりなく、ただ肌と体毛の感触を掌に味わいながら、魔獣の生臭さに顔をしかめていた。

 取りついたスバル――つまり、魔女の残り香を放つ存在に、白鯨の様子はみるみる変貌する。それまで静観を保っていたはずの魔獣は明らかに興奮状態に入り、全身の口から霧と涎、哄笑を垂れ流して荒々しくスバルを歓迎していた。

 もちろん、このまま白鯨に身を預けたまま、スバルがこの巨体を墜落させるための必殺技を放てるわけではない。覚悟ひとつで開眼できるほど現実は甘くないし、この場で身を削る覚悟でシャマクをぶちかましたところで、前後不覚になった間抜けが手を滑らせて墜落死するだけの話だ。

 だから、スバルが白鯨に取りついて、することは、

 

「んじゃま。――覚悟決めて、な」

 

 手を離し、白鯨の攻撃行動が始まるより前に、スバルの体が岩肌を滑り――自由落下の軌道に入った。それに少し遅れてシャオンも地上へ向けて墜落を始める。

 白鯨はその大がかりな自殺を行う二人の姿に首を向け、それを追いかけようとわずかに身を動かしたが、なにかを躊躇うようにその尾の動きを止める。

 このまま見過ごしてしまえば、自分に対して先ほどまでと同じアクションしか起こせないであろうことを、おそらくは本能で察しているのだ。

 だが、そうはさせない。

 

「この高さなら他に聞こえる心配がねぇ。大サービスだ、よく聞けや! てめぇのせいでレムが死んで、俺はすげぇトラウマ背負ったぞコラァ!!」

 

 言い切った瞬間、一瞬の間が空いた後、

 

「戻って……きたぁぁぁぁぁ!!」

「――――ッ!!」

 

 瞬間、大口を開いた白鯨が猛然と、スバル目掛けて直滑降してくる。

 恐らく例の告白によって増大した魔女の香りに誘われ、魔獣の本能がそれを上回る憎悪によって塗り替えられた。

 咆哮を上げ、もはや眼下の争いなど失念したかのように正気を逸した目で、白鯨はスバルの存在だけを消し去ろうとばかりに襲いくる。

 風を穿ち、間にあった距離をぐんぐんと埋めてくる白鯨。この突進をかわす術はスバルにはない。このままでは地面到達前に白鯨の顎に咀嚼されるだろう。

 このまま、では。

 

「――レム嬢!! 俺はいい! スバルを!」

「はい、スバルくん! こっちです」

 

 シャオンの言葉に、少女の声は応じた。

 同時、スバルだけに囚われた白鯨の横っ面に、真横から飛び出す氷柱が激突。顎の中を蹂躙し、幾本もの歯をへし折り、その動きに遅滞を生んだ。

 その隙を突き、自由落下の途上にあったスバルの体を、パトラッシュにまたがるレムがモーニングスターで絡め取る。

 腰あたりを鉄の鎖に締めつけられ、強引に軌道を変えられる感触に小さく悲鳴を上げる。

 鎖が手繰られ、スバルの体はいささか乱暴にパトラッシュの背中に落ちる。そこには当然騎乗していたレムがおり、スバルの体は彼女の胸の中に飛び込む形だ。

 

「助かった!」

「ごちそうさまです」

「なに言ってんの!?」

「二人とも、ふざけてないで! くるぞ!」

 

 不可視の腕を使い衝撃を軽減してシャオンは、無事着地ができて尚且つ呑気に惚気ている余裕がある二人にツッコミを浴びせる。

 そしてそのすぐ傍らを、白鯨の顔面が通り過ぎ――、

 

「――――ッ!!」

 

 勢いを殺し切れず、白鯨が頭部から地面に激突。轟音と土煙が爆砕された地面から立ち上り、その威力に大地が大きく弾むように揺れた。

 その揺れを背に受けながら、スバルはパトラッシュに指示して全力前進――その背後から、土煙をぶち破って白鯨が飛び出してくる。

 すさまじい威力にその頭部をぐしゃぐしゃにして、なおも白鯨は我を忘れた絶叫を上げながらスバルに追いすがる。

 完全に狙いはスバルだ。白鯨に対してシャオンにできることは、もうない。

 下手に攻撃しては本命の作戦に支障が出る、だから逃げ切ることをただ祈るしかない。

 白鯨は今までの悠然としていた泳ぎがむちゃくちゃになり、風を追い越すようだった速度は見る影もない。だが、気迫だけは圧倒的だ。

 地面を削り、尾で大地をはたきながら、猛然と白鯨が背後に迫る。それに対して、

 

「頼むぜ、パトラッシュ! ドラゴンなんだろ!? かっこいいとこ見せてくれ――!!」

「――――ッ!!」

 

 スバルの激が飛び、パトラッシュが嘶き、白鯨の咆哮が轟き、鼓膜が乱暴に揺すられて世界がぼやけるのがわかった。

 真っ直ぐ、真っ直ぐ、ただひたすらに走り、走り、駆け抜ける。泳ぎ、泳ぎ、猛然とスバルを食らい尽くそうと迫りくる白鯨。

 そして――、

 

「食らい、やがれぇ――!!」

「――――ッ!!」

 

 轟音が二連発で鳴り響き、直後に続くのはなにかを引き剥がすような音の連鎖。無視できない音の間隔は狭まり、近づき、やがてそれは、強大な影を生み、真っ直ぐに白鯨へと――フリューゲルの大樹が倒れ込む。

 

「――――ッ!!!」

 

 魔鉱石、見えない刃、振動破砕――束ねた破壊の力に根本を抉られて、賢者の植えた大木が数百年の月日を経て、人に仇なす魔獣の巨躯を押し潰す。

 樹齢千年クラスを上回る大木の重量に、真っ直ぐ突っ込んだ白鯨が真上から叩き潰された。それまで受けた破壊とは根本的に異なる次元の威力に、その巨躯を覆う強靭な外皮すらも防御の意味を持たない。

 絶叫が上がり、すさまじい衝撃波がリーファウス街道を駆け抜け、霧を爆風が打ち払う。

 大樹の下敷きになり、身動きを封じられた白鯨の苦しげな雄叫びが尾を引く。しかし、それだけの威力を身に受けて、なおも命を潰えることのない生命力。

 もがき、超重量から逃れようとする白鯨、その鼻先に――。

 

「――我が妻、テレシア・ヴァン・アストレアに捧ぐ」

 

 主より借り受けた宝剣をかざし、ひとりの剣鬼が舞い降りていた。

 この生死を賭けた激闘と、十四年にわたる執念と、四百年にも及ぶ人と白鯨の争いの歴史に、幕を下ろす――そのために。




カーミラがヒロインの小説が見えてきている中、彼女の可愛さが広まる嬉しさと共に何とも言えない気持ちがある……
彼女を愛してるのは私だ! 反論も意義も認めます。
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