IS〜誠の道を往く桜の鬼   作:インクレディブル春男

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数珠丸きませんでした。


1. 戦乙女の園

生まれ変わりのこの肉体は、自分の知る限り普通の人間とそう違いは無い。

少なくとも自分が羅刹化する時のあの感覚をそのまま思い出して再現しようとしても、一向に肉体には変化が生じていない。

まあ当然の話だろう。肉体の変化がそっくりそのまま受け継がれるなど、普通に考えればありえない。魂に関してはともかく、この身体そのものは何もかも完全な新品なのだ。

羅刹でもなく、おそらくは鬼でもないかもしれない完全な人間としての身体。いまのところ怪我の治りが早いのも精々個人差程度にしか感じられないし、きっと今後もそうんだと思う。

あの日まで、間違いなく自分は普通の人間だと思っていた。

そう、うっかり高校受験の会場を間違えたりしなければ。

そう、うっかりなのだ。ほんのちょっと道を間違えただけの、本当に些細なミスにすぎなかった。

そして、目の前のものにうっかり興味を持って触ってしまったのだ。あとでバレてもなんの意味も無いのですぐに解放されるだろうと。

 

まさか、それでそれが動くなど、全く予想していなかったのである。

 

 

インフィニット・ストラトス

それはとある天才科学者によって生み出された、機械の翼。

ヒトの裾野を空の向こうへと広げる為の無限の可能性。

そしてその可能性はどんなものにも言えるが、武器、あるいは兵器としての使い方も可能であり、更にはISの持つ兵器としての可能性は飛び抜けていた。

しかし、その可能性を行使するには、一つ条件がある。

それは女であること。ISは女性にしか動かせないのである。

そしてその条件を考慮して余りあるほどの力を持っているが故、世界は女性を優遇する仕組みを作り、今日の女尊男卑社会を生み出している。

そしてそのISを行使する為の訓練を行うために建てられたのがこのIS学園。

 

そのIS学園に今まさに、土方こと一夏がそこにいた。

そう、ほんのちょっとうっかり間違えただけだった。試験時間に十分余裕がある時間帯に到着して、それでついうっかり間違えても何の問題も無くて、それでちょっと興味があって触ってしまっただけである。どうせ触っても意味ないだろうと思って触っただけなのである。

だというのに、なんの運命の悪戯か、一夏は起動させ、そしてそれを身に纏ってしまった。

その後なんやかんやと大人が騒がしく、やたら分厚い参考書やら制服やらを渡されて、その結果今入学式を終えてこの場にいてしまっていた。

 

目の前には副担任の女性が何やら挨拶をした後、次々に女子生徒が自己紹介を続ける。

それを聞きながら、一夏は今後の行動について考える。

正直言ってこの展開は非常にマズい。この学園がISの訓練の為の軍事施設としての側面があることを知っている以上、そう簡単に外出を繰り返す、というわけにもいかないだろう。

そうなると、千鶴を探す為に街を歩き回ることもできやしない。

ただでさえ絶望的に低い確率で探しているのに、その外出さえ気楽のできないとあれば非常に困る。

前世の頃に千鶴が父親を探すのがどんなに大変か、今になってよくわかるし、むしろ今の自分の方が遥かに難しい気もしている。

だが、だからといって学業をおろそかにしていいはずもない。

特にISは当初の目的がどうあれ現在は兵器なのだ。使い方を誤るわけにはいかないし、望まざる力とはいえ責任は重い。前に見た映画のスパイダーマンに「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉が出ていたが、まさにその通りなのだ。

兵器として沢山の人間を殺せる力とは、逆に沢山の人間を救うこともできる。

そしてそれを放棄すればどの道沢山の人間を殺すということだ。それは誠の道ではない。

前世の時だって、自分にできることがあると思ったから浪士組に加わり、新選組を立ち上げたのだ。自分の道を放棄するわけにはいかなかった。

それに学園で昇りつめれば、自分が顔を出す機会も増える。

もしかするとその中で千鶴と出会えるかもしれない。

いや、ひょっとすると千鶴も入学していてもおかしくない。

それ以前に、こんなところで逃げ出して、千鶴に、いや新選組の仲間達に顔向などできはしない。

だとすればやることは一つ。己が道を通ることただそれのみ。

前世と何も変わりはしない。

そんなことを考えているうちに、副担任が自分を呼ぶのが聞こえた。

速やかに席を立ち、壇上へ上がる。

「織斑一夏だ。趣味と言えるものは特に無いが、剣術を長年やっている。唯一の男ってことで何かと迷惑をかけるかもしれねえが、どうか許してくれると助かる」

それだけ告げるとさっさと席に戻っていく。

「それだけか。まあいい。まだマシな方と言えるかも知れんな」

ふと、聞き慣れた声がして、一夏はそちらを向いた。

「姉貴……いや、状況からするに織斑『先生』か?」

「ふん、流石に場をわきまえているらしいな」

鋭い目をした美女である。体つきも悪くないし、街をあるけば大抵の男の目を引くだろう。

しかしその正体は一夏の「今世の」姉であり、嘗てISの国際大会第一回モンドグロッソにて優勝を果たした初代ブリュンヒルデ、織斑千冬である。

まさか前世と同様に自分にも姉ができるとは思っていなかったが、流石に性格まで一緒とはいかなかったらしい。

一夏が物心つく前に両親が蒸発し、奇しくも前世と同様に一夏は姉に育てられる形になった。

更に言えば、その頃の前後の記憶も自分が土方の記憶を取り戻し、その過程で追いやられた結果なおのこと思い出すのが困難になってしまっている。

なので、一夏としての家族は自分にとって千冬一人であった。

長らく無理をさせて苦労もかけたので、一夏も中学の頃からアルバイトを行って家計の足しにしようと頑張ってきた。勿論、時間を見つけては剣術とトレーニングは欠かさない。

ここ最近は中々家に帰ってこなかったが、まさかここに就職していたとは初耳である。

周囲で千冬に対する黄色い声援が飛び交っているが、正直どうでもいいと聞き流している。

「先生。後日先生のお部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか。こちらとしても、『色々と』用件もありますので」

そう尋ねると千冬は気まずそうに了承する。

「織斑君、先生に何の用事があるの?」

生徒からの質問に一夏は大したことじゃない、と返す。

「仕事が忙しいみたいで中々会えないから、つもる話があるだけだ。大したことじゃねえよ」

勿論嘘である。

本当の目的は恐らくあるだろう千冬の自室の片付けだ。

幼い自分を養ってくれた千冬には感謝しているが、しかし一方で彼女は家事の類が全くできない。

特に片付けなど、部屋が雑多になって様々なものが入り混じった混沌と化しているのはざらである。

まあ、そんなことをわざわざここで言うことでもないだろう。

彼女にも立場というものがあるし、誰にだって隠し事の一つ二つあるものだ。

アルバイトの給料をはたいて買った千冬も知らない二重金庫の中にある某豊玉による最新の句集だとか。

指紋認証とパスワードとダイヤルの併用型の扉の向こうに南京錠と複数のダイヤル式のロックが掛かった金庫の中の句集だとか。

だから一夏も何も言わない。

しばらく千冬がクラスを取り仕切っているのを見ていると、そのまま一時休憩ということで解散の号令を出した。

一夏はやっと終わったか、と息をつく。

「ちょっといいか」

一夏を呼ぶ声がして、顔を向ける。

「ああ、久しぶりだな、箒」

そこにいたのは、今世の幼馴染にして、諸事情により一夏と離れ離れになってしまった、篠ノ之箒の、成長した姿だった。

「ここでは人が多い。場所を変えよう」

そう彼女に示されるままに一夏も屋上に向かう。

千鶴であるかもしれないという意味で彼女もまた注視すべき対象だが、現時点ではまだ何とも言い難い。

そもそも、千鶴を探すと言ってもまずその手段を見つける方がまず重要なのだ。

正直今の段階では無計画もいいところなのは否定できないのが現状である。

が、だからと言ってここで箒に「お前は千鶴なのか?」と尋ねるのもおかしい。

だからこそ、もどかしい状況にやきもきするしか今は出来ることがないのである。

 

屋上につくと、箒が久しぶりだな、と話しかけてきた。

「ああ、もう4、5年ってところか?まともに連絡さえ取れてないからな。そういや、剣道の大会で優勝したんだっけか。新聞で読んだ」

「な、なんでそれを……それを言うなら、お前だってなんで大会に出なかったんだ。剣術は続けているとさっき言ってたじゃないか」

一夏は渋い顔をする。

「そりゃあ、な。続けてはいたけどな。まあ色々事情もあったが、もう学生相手の剣道じゃヌルすぎて話にならねえってのもある」

そう返せば箒はそ、そこまでか、と少々狼狽えた。

そもそも土方歳三という男は新選組幹部にして、相当の実力の持ち主である。

そして、武士の時代の終わりの動乱の時代を生きてきた猛者だ。

その経験を持つ土方にしてみれば平和な時代の剣道は遊びでしかない。少々残酷な物言いだが、つまりは豊かな経験を活かしきれずに完勝してしまっても満足できないのだ。相当の天才でなければ一夏には気持ちよく戦うことさえできない。

それに剣道のルールの制約も厳しい。命のやり取りで動きに制限をかけられるのは土方としてのスタイルに合わない。それ故に実力を出しきれない可能性もある。

「さ、そろそろ切り上げて行こうぜ。早くしねえと姉貴にどやされちまう。ついてこい」

そう言って一夏が踵を返した、その時だった。

 

 

土方さん

 

 

千鶴の感覚がした。

一瞬だが、いつも感じていた感覚が急に強くなった。

思わず、辺りを見回すが、既に気配は弱くなり、もういつもの強さに戻っていた。

だが気のせいじゃない。それは理屈じゃなく、心でわかる。

 

千鶴は、間違いなくこの学園にいる。




・『千鶴』の感覚は一定の条件で強くなる場合がある。
・強くなった感覚は、ある程度なら何処にいるかを読み解くことも可能。ただし、具体的な座標は最大まで強くなっても読み解けない。
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