バトルガールハイスクール Re:road   作:直田幸村

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やっと更新することができました。

読んでくださった方、評価をしてくださった方ありがとうございます。

やっぱり、評価してもらえるというのはテンション上がりますね。


これからも頑張って更新していくのでよろしくお願いします


第2章

 みき、遥香、昴の三人の体を包んでいた光が徐々に消える。

 まばゆい光が収まると、慣れてきた目に彼女たちの姿を映る。

 その姿は、さっきまで着ていた神樹ヶ峰の制服とは異なっていた。制服の上から身に着けたそれは、それぞれ特徴的な衣装のような鎧。

 「よし。遥香ちゃん、昴ちゃん。行くよ」

 みきの掛け声とともに、三人はそれぞれ別々の方向へと走っていく。

 さすが星守というべきだろうか。鎧とともに、現れた獲物を手に、臆することなく目の前の敵を切り裂き、貫き、叩き潰した。

 みきが纏うは炎のごとき赤。腰あたりからは孔雀を連想させる尾が伸び、胸には鳥をモチーフが覗く。腕には籠手、スカートには佩楯がついているが、羽のように軽そうだ。そして背中から伸びる燃えるような紅の翼は、不死を象徴する幻想の鳥、朱雀(フェニックス)のようだ。

 彼女の手にした武器は剣だ。長さは、縦にしたとき彼女の胸の高さまでになるだろうか。僕は剣の良し悪しや長さの関係などわからないけど、高校一年生の平均的な身長である彼女には、大きすぎる代物であると一目で感じた。しかし、僕の感じた印象とは裏腹に、みきはその剣を軽々と振り回していた。

 その姿は、まるで空に遊ぶ小鳥のよう。一瞬彼女が戦っていることを忘れるくらいの、舞のような身のこなしだった。

 みきの横で槍を振う遥香は、海潮のごとき青の衣装を身に着けていた。爬虫類のごとき青い尻尾の先には薄い膜が張っており尾ひれのようにも見える。胸に輝く竜のようなモチーフは、海を統べる海龍、リヴァイアサンを連想させる。

 彼女の身長の二倍はあろう長槍をブンブン回して周囲のイロウスを蹴散らしていく様は、不釣り合いな剣を振るうみきの比ではない。

 そんな想像を超える二人だったが、昴は二人よりさらに僕を驚愕させた。

 もはや想像もつかない重量感を持つハンマーでイロウスをミンチにしていたのだ。彼女の衣装は見た印象は、他の二人よりやや重装備。手足はみきや遥香よりも鎧らしいがっしりとした籠手と脛あてに覆われている。胸には馬のようなモチーフ。そして、額には一本の角が生えていた。その姿は、力強く地をかける可能性の獣、ユニコーンようだっだ。

 彼女たちは、それぞれがそれぞれにまとう幻想的な衣の由来を体現するかの如く、うねるイロウスの大群をせき止めていた。

 「遥香ちゃん。大丈夫?」

 「ええ。みきこそ、危なくなったら言って、ね!」

 お互いに声を掛け合うみきと遥香。幹と遥香は、お互いをカバーし合うようにして戦っていた。

 みきの剣は、接近戦においてその力をいかんなく発揮していた。本来、みきの振るう剣では、振るうたびに発生する遠心力で一つ一つの動作が切れ切れになるだろう。そんな剣をみきは、振り回されることなく震えているため、三人の中で一番の手数を誇っていた。まるでチャンバラでもしているようなでたらめな太刀筋ではあるけど、その手数と切れ味抜群の切っ先により、一体ずつ確実に一撃のもと切り伏せていた。

 

 実に安心できる戦いぶりだった。しかし、一体一体相手をしているため、どうしてもカバーできる範囲が狭くなる。

 「あ、しまった!」

 健闘していたみきだったが、その斬撃を潜り抜け、一匹のイロウスが僕の方へ向かってきた。

 今日何度目かの危機に後ずさる。止まったままではいけないとわかっているが、ごく普通の人間である僕に、避けきれるはずがない。

 目の前で小型のイロウスが飛び上がり、その強靭な腕を振り上げる。

 「わぁぁ」

 「先生、下がって!」

 僕に爪を突き立てようとしていたイロウスが、目の前で動きを止める。力なく弛緩したイロウスが、勢いをつけるように僕の方へ寄ってきたかと思うと、宙を舞って青い波の中へ消えていった。遥香がその長い槍で突き刺して息の根を止め、そのまま放り投げたのだ。

 「大丈夫ですか先生」

 「ああ、助かったよ」

 「しっかり、私たちの後ろに隠れていてください」

 遥香は、それだけ言い残すとまた戦いに戻っていった。

 見れば見るほど、みきと遥香はいいコンビネーションだ。

 遥香の槍はその長さ故、剣よりも攻撃の届く範囲が広い。回すようにして周囲の敵を薙ぎ払ったかと思えば、弾丸のごとき鋭い突きが、敵を串刺しにする。大勢に対しても単体に対しても、適切な距離を保ちながら余裕をもって戦っている。相手の間合いに入らず、安全な距離を保ったまま、遠くから敵を薙ぎ払う。それが、槍を使う遥香の戦い方のようだ。けど、それが崩れたとき、状況は一変する。

 僕の方に注意がそれたからか、今度は、遥香の間合いの内へ数体のイロウスが侵入してくる。

 「くっ」

 「遥香ちゃん、任せて」

 そこへ今度はみきが割って入る。一振りで遥香に接近していたイロウスを切り倒す。

 「みき。ありがとう」

 「遥香ちゃんこそ、私が倒しそこなったの代わりにやっつけてくれてありがとう」

 みきは、目先の敵を倒すことに長けているが、対応できる範囲が狭い。逆に、遥香は周りを見て広範囲に対応できる一方、懐に入られると対処に困るところがある。二人は互いの長所を生かし、互いの短所を補い合うことで最大限の力を発揮していたんだ。

 「昴ちゃんは大丈夫?」

 「ああ、もちろん!」

 一方、昴の方は一人で相手をしていた。

 みきたちが二人で協力して敵を倒している中、昴は一人巨大なハンマーを振り舞わして敵を圧殺していた。みきたちがそれぞれの弱点を補いあっているのに対して、一人で立ち向かっていた。

 昴だけ一人で戦っているのか。みきたちが二人でやっと食い止めているイロウスを一人で食い止められるとは思えない。なのに、みきたちは昴の助けに入る素振りを見せない。

 実は、みきたちの中で昴は一人仲が悪いのだろうか。そんなことを疑い始めたとき、

 「てやぁぁぁあああ」

 昴の方を見ると、さっきまでの疑いや疑問が消え去った。

 昴が振るう巨大なハンマーの攻撃は、当たった敵だけでなく、周りにいた敵をも巻き添えにしていた。みきたちはイロウス一体につき一撃ずつ攻撃を与えて倒していたが、昴はたった一振りだけで数体のイロウスを同時に倒していたのだ。

 これを見て、みきたちが昴の加勢に入らない理由が分かった。

 一撃でみきたちよりはるかに多くの敵を倒せる昴には加勢など必要ないんだ。仮に加勢に入ったとしても、一体ずつしか倒せないみきたちが入ったところでそんなに状況は変わらないし、むしろ昴の一撃の巻き添えになる恐れがあるため足手まといになりかねない。

 みきが、声をかけるだけにとどまったわけが腑に落ちた。

 見た感じの印象だけだけど、みきや遥香だったらすぐに飛び出して行って助けに入りそうだ。そんな彼女たちが、昴の様子を見ずに声だけでお互いを確認するところを見ると、見ずとも昴なら一人で大丈夫だという彼女に対する信頼の強さが窺えた。

 

 みきは遥香と協力して、昴は一人で、イロウスを一匹も打ち漏らすことなく食い止めている。そんな 彼女たちの戦いぶりはいたって好調。しかし、このままではいけないと、僕は思っていた。

 今こそ全く後退せずに食い止めてくれているけど、星守といえど、無尽蔵に戦えるわけではない。時間がたてば、それだけ体力を消耗し、そのうちミスが出てくるだろう。戦いにおいて、少しのミスでも大惨事につながってしまう。

 この状況を何とか打開しなければ、じり貧になる。

 「なんとかしないと。何か・・・・・・、そういえば!」

 ぼくは、背中に背負ったバックパックの存在に気が付いた。そして、困ったときには真っ先に頼れという風蘭の言葉を思い出した。

 取り出したのは、さっきイロウスの情報を調べたときに使ったタブレットだ。たしか、イロウスの情報以外にも使用が予想される様々な情報が入っているといっていた気がする。

 「これ、・・・・・・は違う。ええと、これだ」

 イロウスの情報をさらに詳しく調べてみると、各種の弱点など詳細な情報が乗っていた。現在戦っている相手はロウガ種。情報によると、この種がもっとも苦手とするのは武器種「ハンマー」のようだ。イロウスは基本、ゲル状の柔らかい物体で構成されている。ところがロウガ種は、そのスピードもさることながら、頭部と前後足が鎧のような堅い表皮で覆われている点が大きな特徴だ。剣や槍では、この表皮に弾かれてしまい正確に弱点であるゲル状の部分をねらわなければならない。しかし、ハンマーであれば話は別。堅い表皮をゲル状のボディ諸共叩き潰すことができるため、現在存在する武器種の中で最適であるとされているらしい。確かに、昴の目を見張る活躍ぶりを見れば、その判断もうなずける。みきと遥香が二人掛かりで戦っているイロウスに対し、ハンマーを振るう昴は彼女たちと同等、いや、それ以上の数を倒していた。

 この戦いは、昴が勝利の鍵となることは素人の僕にも分かった。でも、まだ足りない。何か決定的な何かが・・・・・・。

「なんなのこれ。今日のイロウス多すぎだよ」

「がんばって、みき。私たちががんばんないと、先生が・・・・・・」

「・・・・・・そうだよ。あたしたちが踏ん張んなくちゃ。先生は、戦えないんだから」

 倒しても倒してもわいてくる敵に、彼女たちの体力はピークを迎えようとしているようだ。だんだん、彼女たちの口から不満やいらだちのようなものが見え隠れする。そして、彼女たちは意図して言っているわけではないだろうけど、僕はその文句に含まれた僕への不満をひしひしと感じていた。

 そうだ。そもそもだ。

 まだ百歩譲って先生に選ばれたことはいいとしよう。女性しかいないと言うことで、異性の意見が合った方がいいという考えなのかもしれない。でもそもそも、僕が地球を奪還するための最前線にでることを許されている? 何の戦う力もない、今も足手まといにしかなっていない僕がどうして・・・・・・。

 確かに、志願したのは僕だ。イロウスとこの世から消すためなら何だってするという覚悟を持って臨んできた。では、お前はなにをするつもりできたと問われれば、口ごもってしっまうだろうけど。それでも、僕にできることがあるとスカウトされて、みきたちの先生になるべくここにきたんだ。では、いったいなんだ? こんな無力な僕にできることって・・・・・・。

「もう、こうなったらやけだ!」

 そんなことを考えている内に、思考を捨て去った昴が相手に向かって突進してしまった。唯一イロウスに優勢を保っていた彼女。その彼女が、背後から迫るプレッシャーや減らない敵に焦り、冷静な判断を欠いてしまったのかもしてない。

 なぜ、昴は自分が優勢に戦いを進められていたことに気づかなかったのだろう。

 イロウスがなおも迫ってきているこの状況で考えている余裕なんてないと思いながらも、僕は、そんなことを考えずにはいられなかった。少し状況を見れば分かることだ。客観的に見れば一目瞭然。そうでなくても、一度でも振り返ってみれば昴はみきたちとの戦況の差を理解できただろう。

 僕は、みきたちの方を見る。やっぱり、今見ても分かってしまう。昴よりもみきたちの方がよっぽどいっぱいいっぱいと言った顔をしている。やはり僕は間違っていない。何とか周りを確認させないと。

「みき、遥香、昴。一回周りをーー」

 ーー見るんだ。と言おうとしてやっと一番重要なことに気が付いた。周りをちゃんと見れば分かると今さっきまで言っていた僕が一番簡単なことに気づかずにいたんだ。

 周りをちゃんと見ないからここまで劣勢になる? いや、違う。周りを把握できればもっとよい立ち回り方ができるなんてことは彼女たちも重々承知だろう。でも、それこそそんなことをしている余裕なんてなかったんだ。目の前の敵を倒している内にまた次の敵がやってくる。そんな状態で、心を落ち着かせて周りを見ろなんて言うことは無理に決まっている。そう、僕のように客観的に見ることのできる位置にいなければそんなことは不可能なんだ。

 もっとも簡単で最も重要なこと。僕が今まで気づかず、たった今初めて気づくことができたこと。僕の役割はきっと、客観的に見る(こういう)こと立ったんだ。

「昴、やけになるのはまだ早い。みき、昴を援護してくれ。そして遥香。悪いけど少しの間だけ一人で後ろを守ってくれ」

「でも、先生。イロウスがこんなに居たんじゃーー」

「ーーいいから言う通りにするんだ。昴はそのままイロウスを倒して、突破口を開いてくれ。みきは、その間昴が戦いに集中できるように援護しながら前進。遥香は後ろを守りつつ付いてきてくれ」

「前進って。こんなにいっぱい居るんですよ? 先生を守りながら移動なんてできません」

「いや、ここにとどまっていてもじり貧になるだけだ。それに二方向から挟まれて戦うのは明らかに不利だ。なにもここで戦わなくちゃいけない理由はない」

「え、それって・・・・・・?」

「さあ、いくぞ。僕のことは気にしなくていい。ただ、僕の言うことには耳を傾けてほしい。絶対にここを突破する」

 僕は、柄にもなく「する」と、「がんばる」ではなく言い切って見せた。僕は、確かなことでなければ断言することを避けるような性格だ。それでも、大人として、男として、女の子ばかりに戦わせておいて不安な思いをさせてしまっていることが我慢ならなかった。

「先生・・・・・・。わかったよ」

「先生! 指示をお願いします」

「先生。あなたのことを信じます。後ろはまかせてください」

 たとえ出任せでも、確かなことでなくても、断言された言葉は信じることができる。たとえその場しのぎでも、一つの信じることを信じることで焦りや不安を取り除くことができるのなら、それが僕の役目だとそう思った。

 でも、本当にその場しのぎでは現状は変わらない。

 僕は、以前の渋谷の風景を思い浮かべる。5年前で今も記憶通りに残っているかどうかわわからない。それでも今のままではなにもかわらない。手にした端末で最も最近観測したときのデータを確認。それを見て決心する。

「今回は昴がこの戦いのカギになる。昴は、焦らずでも積極的に前へ出て道を作ってくれ。僕の指示があるまで、勝手に離れたりしないで、前だけ見て走るんだ」

「うん、分かったよ」

 昴がうなずく。それに続いてみきと遥香もうなずく。

「よし、行こう。」

「はい‼」

 僕の掛け声とともに一気に全員が動き出した。

 先頭を走る昴が、ハンマーを横薙ぎにイロウスを蹴散らす。その大ぶりな動きでさっき戦っていた時よりも大量の敵を一度に倒す。その代わりに一挙動の間のスキが大きくなっている。

「みき、任せたよ」

「うん。任せて!」

 しかし、昴はそのスキを気にする素振りを見せない。いや、気にする必要がない。

 さっきの戦いとは、違うからだ。

 一瞬のスキをついて飛び出してきたイロウス。昴は反動ですぐには対応できない状況に、みきが飛び出して剣による一撃を加える。

 反撃や不意打ちを気にしなくよくなった分、昴はさっきより思う存分戦えている。みきも、イロウスの大群を意識して戦わなければならなかったさっきまでとは違い、一体一体確実に倒していけばいい分、さっきよりのびのびと戦いている様子だった。

 一番心配なのは、しんがりを務める遥香。しかし、遥香も槍のリーチの長さを生かし、追ってくるイロウスを追い払えばいいので今のところはしっかりと後を着いて来てくれている。もし、昴やみきがしんがりを務めた場合、剣やハンマーが届く範囲までイロウスの接近を許すことになってしまう。

 今の彼女たちの中で最もリーチの長い武器を扱っている遥香だからこそできる役目だ。

 

 さっきまで、ただなんの指針もなく戦っていた彼女たちだったが、一つ方向性を与えただけで彼女たちの動きは見違えるようになった。

 決して僕の指示がよかったなどと主張したいわけじゃない。むしろ、僕のような戦術の素人が考えた簡単な作戦を実行できてしまう彼女たちの力に感服していた。

 僕の指示は、イロウスの殲滅ではなく現状からの回避。決して問題を直接的に解決するような指示ではない。

 でも、僕たちの最終目的は、小型イロウスの掃討ではなく瘴気を発する大型イロウスの殲滅だ。

 僕は、先ほどまでとは見違えるほどの戦いぶりの彼女たちを見ながら、ほんの少しだけ、自分のいる意味を感じていた。

「どりゃぁぁぁあああ」

「せやぁぁあああ」

 一面うごめく水色を蹴散らして進む姿は、まるで海を割って進んでいるかのように見える。

 全力疾走し始めていくつかの曲がり角を曲がる。

「てぇい。やっと……出れた。先生!」

 最前列を進んでいた昴から、歓喜の声が上がる。みきに続き青い壁の間を抜けると、さっきまで海のように先の見えなかった大群の先に、イロウスとは違う蒼を見えた。

「あ。先生、あれって」

「うん。そのまま走るんだ」

 そこに横たわっていたのは大きな川だった。

 五年前、渋谷川という川が存在していた。しかし、当時は川とは名ばかりのもので、渋谷駅付近では雨天時以外水すら流れていなかった。それが、イロウスの瘴気による異常な地殻変動により地形やその土地の状態が大きく変わったようだ。

 端末で確認しなければわからなかったけど、補装は壊れて五年前では考えられないほどの水が流れ込んでいた。

「そこの瓦礫を伝って向こう岸まで向かうんだ。あの種のイロウスは、水を越えてはおってこない」

 そして、この情報も端末から得た情報だ。本当に役に立つ情報をくれた風蘭に感謝する。

「さあ、みんな。早くわたるんだ」

 そういいながら、僕も瓦礫を渡ろうとするが、足元がおぼつかずうまく登れない。

 さっきまで全力疾走してすぐのこれだ。ふらつくし目まいもする。正直これ以上登れるような体力はなかった。

 くらっと視界が歪んだかと思うと、体が傾いだ。

「大丈夫ですか先生!」

「しっかりしてください、みんなで一緒に行くんです」

 ふわりと浮かぶような感覚の直後背後から支えられた。

 後ろから追ってきていた遥香と、僕の目の前にいたみきだ。

 みんなで一緒に。そう聞きながら、僕はそれは無理だと感じていた。

 今さっきまで、星守たちのスピードについて行っていたことすら奇跡だ。もう、足は動かないし息も満足にできない状況だ。正直、もうこれ以上一歩たりとも進むことはできない。

 ならばせめて、と僕は、声を振り絞る。

「大、丈夫だ。僕もすぐに後から追うから」

「なに言ってるんですか、先生。そんなフラフラで、大丈夫なわけないじゃないですか」

「いいん、だ。せめてみきたちだけでも……」

「そんなの絶対嫌です」

 しかし、みきはぶるぶると首を振る。

「絶対みんなで切り抜けるって言ったの先生なんですよ? よいしょっと」

「ち、ちょっとみき。なにをして・・・・・・」

「私が運びますから、少し休んでいてください」

「でもこれじゃあ。みきこそもう限界だろう?」

「そんなの関係ありません」

 みきは、僕を抱えたまま瓦礫の橋を走りだした。

 やっぱり、僕を抱えているせいで走りが遅い。そのせいで、僕たちが橋の真ん中くらいに到達していた頃、イロウスはすでに四分の一くらいの位置にさしかかっていた。

 みきも全力で走っていたが、遥香はそんなみきの速さにあわせている気がした。遥香と比べて少し遅い。

 後ろからは、先ほどの水色の波が迫ってくる。見る見る内に距離は詰まり、獲物をねらう獣の息づかいをすぐ後ろに感じる。みきだけであったらここまで追いつかれることはなかっただろう。自分が足を引っ張っている。俺は、落ち着いて客観的に見なくても誰でもわかる事実だった。

「みき、おろしてくれ。もう自分で走れる」

「だめです。おろしません」

「このまま、僕を抱えたままじゃ追いつかれてしまう。君は、人類の希望である星守の君は、こんなところでやられちゃいけない」

 僕の第一の役目は、教師として生徒の安全を守ること。

 そんな僕が、彼女を危険な目に遭わせていると考えるとたまらなくなる。今すぐイロウスの波に身を投げようとしてしまえるぐらいに。

 僕は悲願を果たすためなら、イロウスを駆逐して地球を奪還する為なら喜んで自分を犠牲にできる。神樹ヶ峰女学園の星守の担任にならないかと持ち掛けられた時から、その覚悟はできていた。でも、

「いやです。絶対にはなしません」

 みきは断固として僕をおろそうとはしない。おろす気がないならと、僕は無理矢理落ちようとする。しかし、僕の肩と膝をつかむ手の力が強くなる。僕が抵抗すればするほどその力は強くなっていく。

「みんなで生きて帰ろうって、先生言ったじゃないで、ーーっきゃあ」

「みき!」

 僕が抵抗してさらに速度が落ちたせいか、飛びかかってきたイロウスの爪がみきの背中を切り裂いた。

 たまらずがくんと膝をつく。しかし、止まらない。すぐに立ち上がると、僕を離さぬまま再び走り出した。

 痛みに顔がゆがみ、涙を流しながら、それでもみきは止まらない。

「私のことを考えてくれるなら、動かないでください」

 涙を流しながら、それでもその目には強い意志が灯っていた。

「私は、絶対にあきらめません。私の人を見捨てさせようなんて、しないでください」

 その言葉に、僕は己の浅はかさを恥じた。なにが覚悟はできているだろう。あきらめてカッコつけていただけだ。そんな自分が、誰かをイロウスを駆逐するなどと、地球を奪還するなどとどうして言えていたのだろう。

 生徒から一番大事なことを教えられ、恥ずかしさを感じるとともに自己犠牲などと言う考えは消え失せた。

「ごめん。僕が間違ってたよ」

「先生・・・・・・」

「後もう少しだ。頑張れ、みき!!」

「は、はい。しっかり捕まっててください」

 みきは、そういうとスピードを上げた。どこからそんな力が出てきているのか。疲れ、傷つきながらも再びイロウスとの距離を離す。が、それでもイロウスとの距離は一メートル弱。少しでも気を抜けば、少しでもぺーすを落とせば今度こそ追いつかれる。

「ーーみき!!」

 再びイロウスが飛びかかってくる。しかも、ねらいはさっき爪の一撃を受けてしまった背中。容赦なく振り下ろされる凶刃。そこへ、

「それ以上、させない!!」

 鋭く突き出された三つ叉の槍。間一髪、遥香の一突きが、みきに迫っていた凶刃を青いゲルの塊に返した。

 危機を何とか回避し、岸まで後数メートル。すでにそこには、いつでも橋を破壊できるように待機していた。

「みき、もう少し! 後もう少しだよ!!」

 声援をかける彼女の顔には、今すぐにでも助けにいきたいという思いがにじみ出ていた。しかし、それを歯を食いしばって耐えている。

 彼女には、彼女にしかできない仕事があるんだ。

 あと三メートル。

 みきと遥香はともに並んで走る。

 あと二メートル。

 イロウスの群がじりじりと距離を詰めてくる。イロウスとの距離はあと五十センチほど。

 あと一メートル。

 みきと遥香は、前方へ身を投げ出した。それと同時に数匹のイロウスが飛び上がる。

「せやぁぁぁあああああああああ!!」

 昴の裂帛の気合いとともに、振り抜かれたハンマーが瓦礫の橋に突き刺さった。それは、まるで横向きに雷が打ち込まれたがごとく、橋の仲から黄の閃光があふれ出し、渡ろうとしていたイロウスを貫き、蒸発させた。橋は跡形もなく崩れ、バラバラと川の中へと消えていく。

 

 イロウスの大群に囲まれるという絶望的な状況から抜け出すことができたのだった。しかし、今はその事を喜んでいる場合ではなかった。

 僕をかばってイロウスの攻撃を直に受けてしまったみきが仰向けに倒れたまま動かないのだ。僕は、倒れこむように駆け寄った。

「みき! 大丈夫か。しっかりしてくれ」

「みき、返事をして!」

「ねえ、起きてよ。大丈夫だよね。ねえ‼!」

 僕ら三人は、必死に声をかけ、肩を揺さぶる。すると、ぴくりと瞼に反応が見られた。

 僕らが見守る中、みきはゆっくりと目をあけると、学園で見せたような笑みをみせた。

「なんとか、逃げられたんだね」

「みき……」

「だから言ったでしょ、先生? 絶対に、みんなで助かるんだって。えへへ」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 背中は、傷は大丈夫なのか?」

 緊張感のない笑みを浮かべるみきだが、微妙に反応する眉間から、痛みを我慢していることがすぐにわかった。手当てしなくちゃいけないし、傷がひどいようなら撤退も考えなければならない。

 僕は、悪いと思いながらも彼女の上体を起こさせた。

 想像したのは、血が赤くにじんだ痛々しい背中。しかし、赤い翼の生えた背中には傷一つなかった。

「だ、大丈夫ですよ。少し痛かったですけど、少し休めば大丈夫ですよ」

 笑って答えるみきを見てやっと安心することができた。

 イロウスの攻撃を受けたものの、神樹の鎧によって体は守られていたようだ。傷を受けたわけではないとはいえ、普通の人間なら一撃受けただけであの世行き。かすっただけでも骨は砕けて次避けることはかなわない。そんな攻撃を受けて外傷がないというのは、ひとえに星衣のおかげだ。僕は、神樹に感謝しながら、胸をなでおろした。

「もう、心配させないで」

「ほんとだよ。無茶するんだから」

「ごめんね。心配かけて」

 互いに一応無事である確認できると、僕らはその場に大の字の体を投げだした。

 教師としては、二度と無茶なことはするなだとか、注意すべきところかもしれない。でも、今はそんな気は起きなかった。

「先生、ありがとうごさいます」

「え、何が?」

 突然みきがこぼした言葉に、理解できず聞き返す。

「先生が指示してくれたおかげで、私たちみんなこうして助かりました」

「いや、僕は何もしてないよ。それどころか足を引っ張るばかりで……」

「そんなことありません。先生の指示がなかったら、きっと私たちは、無事ではいられませんでした。先生がいたから、私たちはここにいます。私、先生が本当に先生になってくれたらいいなって思いますよ?」

 みきは仰向けのまま、僕の方へ笑顔を向けた。

「先生のおかげっていうことなら、私もそう思います。全然周りを見れてなくて、今までの戦いが本当に危ういものだったんだなと気づかされました」

「遥香……」

「あたしさ。先生を見たとき、本当はこんな人が来ても足手まといにしかならないって思ってたところありました。でも、今回のことで見直しちゃいました。生意気なこと考えてた自分が恥ずかしいです」

「昴……」

 三人は、それぞれ思い思いの言葉を紡ぐ。

 何もできず、逃げ出すしかなく、怪我までさせてしまった。このままうまくいったとして、この子たちの教師なんて務まるだろうかと考えていた。

 こんな僕でも、必要としてくれる。戦闘には、直接的にかかわることはできない。そんな僕にもできることがある。それを実際に戦ってきた彼女たちに認めてもらえたんだ。

 それでどうして自分がだめだと言えるだろう。それは、僕を信じてくれる彼女たちを裏切ることになる。

「だから先生‼!」

『私(あたし)たちが、絶対に先生にさせて見せます。だから、指示をお願いしますね』

「ああ、必ずみんなの先生になって見せるよ。指示は任てくれ」

 声を合わせて紡がれた言葉に、僕は生涯一番の決意とともにそう答えた。

 




やっとバトルガールというような感じになってきました。
ウエディングドレス姿でひたすらブーケトスの練習をしているみきちゃんを眺めている今日この頃。
最初は、正統派のみきちゃんを中心に書いていきたいと考えています。



更新ペースとしては、かかっても二週間といった感じで更新していきたいと思います

どうぞ、よろしくお願いします。
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