スパロボ的な日々   作:C-K

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2 彼女がお弁当を作る理由②

 二人が通う学園は徒歩30分の通学路の先にある『飛龍学園』と言う所だ。広大な敷地内に大学部と高等部、中等部まで併設されるマンモス校である。

 

 櫻達は高等部成り立てほやほやの一年生。中等部である程度の成績を維持していれば、高等部に持ち上がるのは可能というシステムだが、遅れた者は容赦なく置いていくという厳しさも当然併せ持つ。二人とも学力に関しては問題ないレベルなので、同じ数人の友人達とこの春から高校生活を満喫中であった。

 

 

 

 

「あはははっ、それでお弁当見て考え込んでたの? 櫻も難儀よねえ」

 

 午前中の授業を乗り切った後の昼休み、中等部からの友人達と固まってとる昼食。複雑な表情でお弁当を食べる櫻から事情を聞いたゼオラ・シュバイツアーが噴き出した。

 

「まあ確かに櫻の腕前は凄いと思うけど。それが全ての人に歓迎される訳ではないのね……」

「忘れた頃にやってくる櫻の我が儘ですの。聞き流しておくのがいいですのよ」

「アリィちゃんひどーい」

 

 同じく机を囲む友人、マイ・コバヤシが納得したように呟くが、無関心な態度のアルフィミィに切って捨てられた櫻が肩を落とす。それが可笑しくてゼオラとマイはコロコロと笑う。

 

「実際問題美味しいに罪はないっと」

「あ」

 

 楽しそうなゼオラがアルフィミィのお弁当からだし巻き卵を強奪し、自分の口に放り込む。

 

「ん~おいし。冷めててもこのあたり流石よねー」

「……ゼオラ、食べ物の恨みは恐ろしいですのよ。5時間目からの襲撃に覚悟なさいですの」

 

 アルフィミィから親の敵でも見るような睨みを受けたゼオラが震え上がった。慌てて自分のお弁当から肉団子をひとつアルフィミィへ差し出して許しを請う。二人はクラスが違うのだが、アルフィミィはやると言ったらやる女である。授業中に教師の注目を浴びるのなんてまっぴらごめんのゼオラは素直に頭を下げた。

 

「ごめんなさい、これで勘弁してください」

「まあ、いいですの」

 

 クスッと微笑んだアルフィミィがサディスティックに見えたゼオラは間違ってはいない。櫻が絡むとアルフィミィからは容赦という単語が消失するからだ。

 

 例を挙げると、中等部の時に同じ委員会に所属していた男子生徒が、櫻との作業を周囲にからかわれたことがあった。その男子生徒は櫻との関係を否定したが、囃し立てた周囲はそれを逆手に取ってさらにヒートアップ。後日、アルフィミィが何処からともなく仕入れてきた情報によって、囃し立てる側だった男子生徒達の弱点(自身の欠点だったり、トラウマだったり、後ろめたい事だったり)が白日の元に晒され、彼等が沈黙するのに時間は掛からなかったという。

 

 当時の惨劇を特等席で目の当たりにしたゼオラとしては、その矛先が自分に向くのは激しく遠慮したいところである。

 

「どーどー、アリィちゃん落ち着いて落ち着いて。だし巻き卵くらい明日はもっといれてあげるから」

「どちらかと言えばミニコロッケがいいですの」

「ミニコロッケね、りょーかい。丁度今日買い物に行くから、ついでに冷凍物見繕ってくるわ」

 

 ちゃっかりとリクエストするアルフィミィに、しょうがないなぁと苦笑する櫻。双方とも幼馴染みには甘いのである。話に混ざっていないマイは櫻とオカズの交換をしつつ、感心したように頷く。

 

「このミニハンバーグも冷凍物でしょ? 私が作るのと随分味が違うような……」

「それは掛けてあるソースだけ自前で作ったの。冷凍物は便利だけど、ちょっと付け加えるだけでも味変わるよ?」

「ソースのレシピだけでも教えて下さい櫻大明神様!」

「様付け!?」

「あははー」

 

 拝むように櫻へ頭を下げるマイにゼオラが乾いた笑いをこぼす。周知の事実でマイには彼氏がいる。美味しいお弁当で彼氏の胃袋を掴みたいのだろう。『心』と言わないのは、皆の知る彼氏にそこまでの甲斐性は無いと理解しているからだ。

 

「ダテ先輩にも困ったものよね……」

「リュウセイには私達の愛があるからいいのよ」

「マイってば、ドヤ顔で言い切ったですの」

 

 呆れたゼオラの呟きに胸を張るマイ。『私達』の単語に嘘偽りはない。ひとつ上の先輩で櫻達の所属するゲーム同好会の部長を務めるリュウセイ・ダテは、この学園で唯一彼女を二人持つリア充だからだ。この場にいない共通の友人で、ラトゥーニ・スゥボータというのがもう一人の彼女である。

 

「今日はラトの番だっけ?」

 

 ゼオラの疑問にマイは力強く頷く。二人でかわりばんこにお弁当を作ってリュウセイに持っていき、一週間ごとに採点を貰うという競争になっているとか。デリカシーのないリュウセイの苦悩が偲ばれる女の意地の張り合いである。その反面、大多数の男子からは『なんであんなゲーム馬鹿が……』と血涙を出して悔しがる対象になっているらしく、襲撃や闇討ちが計画されているとかいないとか。

 

「私、昨日はラトゥーニに似たようなアドバイスをした気がするんだけど……」

「櫻の場合、毎日どっちの相談にも乗ってあげてますの。たまには突き放すのも友情ですのよ?」

 

 『毎日櫻の手を煩わせやがるんじゃねぇよコノバカップルめ』というアルフィミィの冷たい視線が、今度はマイを震え上がらせる。それを苦笑しながらなだめる櫻は自嘲ぎみに呟いた。

 

「ほら、私の唯一の取り柄だし。人の為になるんならアドバイスくらいで怒らないでよ、アリィちゃん」

 

「「「…………」」」

「ほー」

「へー」

「はぁ~」

 

 櫻の発言にジト目のゼオラとマイ。頭を抱えて溜め息を吐くアルフィミィ。

 

  「唯一の取り柄じゃないでしょうよ」

  「謙遜もここまで来るとスゴいわよね」

  「自覚させるのも容易ではありませんですの……」

 

 額を突き合わせた三人は小声で呆れるばかりだ。「なぁに?」と首を傾げる櫻に「なんでもない」と手を振ってこの話題を終わらせる。突っ込んでもロクなことにならないと実証済みだから。

 

「櫻が買い物ってことは、二人とも放課後の同好会(こっち)は欠席?」

「うん、タイムセールは押さえておきたいしね。アリィちゃんは同好会(そっち)に……」

「却下ですの。櫻だけに行かせたら、きっと無理して重いものだろーとなんだろーと持ち帰ろうとするに決まってますの。ここは荷物持ちを召喚することを提案しますのよ」

「ちゃんとお届けサービスとか使ってるよう」

 

 アルフィミィの皮肉にそんなことないと反論する櫻だったが、幼馴染は聞く耳を持たなかった。ドずーんと落ち込む櫻の様子に、さすがに心配になったマイが「よーしよーし」と頭を撫でる。

 

「相変わらず主婦してんのねー」

「櫻がいなくなるとあの家庭は干上がる気がしますの」

 

 家族構成を知っているものだけの納得のいく結論である。

 

 

 

 

 

 

 放課後に櫻とアルフィミィは連れ立って商店街へ向かった。駅前には大きなショッピングモールもあるのだが、色々と顔見知りにサービスしてくれる商店街の方が利用頻度が高い。二人の後ろにはアルフィミィが態々携帯で呼び出した荷物持ちが、──呼び出したことについては色々文句を言っていたが──、理由を聞いては納得してくれたようで控えていた。

 

「ごめんね、アクセル兄さん。配達サービス使うってアリィちゃんには言ったんだけどー」

「いやいや、お前は無理するからな。話だけ聞けば納得するぜ、これがな」

「信用されてないっ!?」

 

 真面目な顔で言い切るのはアルフィミィの兄であるアクセル・アルマー。長い付き合いのもうひとりの兄でもある。この上にもう一人の兄貴分であるヴィンデル・マウザーとその嫁のレモン・ブラウニングを加えた四人家族が隣家の全て。櫻にとっては幼い頃からお世話になっている幼馴染み一同である。

 

「まあ、ウチは櫻に多大な世話を掛けているところがあるからな。こんなことでもしねえと借りが溜まっていくばかりだ」

「えー、私が迷惑をかけているばっかりだと思うけどなー」

「その通りですの。櫻がいなかったらと思うとウチの食糧事情はどーなっていたことやら……」

 

 顔を見合わせて暗い表情で頷く兄妹。つい最近まで隣家では誰も家事をする者がおらず、ハウスキーパーに頼っていた。ところがある日の連絡ミスで派遣員が一週間ほど途切れたことがあったのだ。櫻がアルフィミィの所へ遊びに行かなければ、その家は腐海の中へ埋もれていただろう。家中を掃除して皆の食事を準備し、甲斐甲斐しく世話をする櫻を見た家長のヴィンデルは誓った。『これから自分達の家は自分達で管理しよう!』と。

 

 ……とまあそこまでは良かったが。今まで掃除はおろか料理までしたことの無い面々が揃っている一家である。恥も外聞もなく櫻に頭を下げて掃除や料理の教えを請うたのは言うまでも無い。何故かその中で料理への適正が高かったのが“ヴィンデルだけ”であったのは周囲の面々も未だに困惑を隠せない。時々キッチンで櫻と共にケーキを作るヴィンデル、という絵面には激しい違和感を覚えるアルフィミィ達であった。

 

「しっかしキョウスケが弁当を拒む理由があんまり納得できんな」

「キョウスケ兄さんって忙しいの?」

「いや、最近はそんな大きな事件が入ってこなしな。ちょいと近所を回るくらいで腰を落ち着けて飯を取るくらい毎日だな、これが」

 

 アクセルはキョウスケと同じく刑事職をやっている。彼等二人にエクセレン・ブロウニングというキョウスケの彼女を加えた三人で班を組み、色々な事件に当たっているらしい。だからキョウスケに聞いて解らないことならば、櫻はアクセルに尋ねることにしていた。捜査上の理由で答えられないことを聞くようなことは無い。せいぜい兄が帰ってこない時だとかに連絡を入れるように促してもらうくらいだ。

 

 肉をキロ単位だとか野菜をダース単位だとかで櫻が買い、すかさず配達サービスをアルフィミィが頼む。という連係プレイを駆使して粗方の買い物を終える。スーパーに寄って調味料や商店街では扱っていないものを買ってから三人は帰路に着く。両手にスーパーの袋を三つずつ、計六つぶら下げたアクセルは、前を談笑しながら歩く妹と妹分に苦笑しながらボヤいた。

 

「俺ばかりが荷物を持つのは不公平じゃないか、これがな」

「あら? アクセルが言ったんですのよ。『荷物は全て任せろ』って」

「お嬢さん達がひとつも持たないのがどうかと俺は思うわけなんだが……。いや、やっぱりいい。そんな自分が持つというような目で俺を見るな、櫻」

「うー……」

 

 やれやれと呟いたアクセルは物欲しそうな目でこちらを見つめる妹分に笑いかけると、先ほどから考えていた頼み事をすることにした。

 

「すまんが櫻。明日は俺にも弁当を頼む」

「うん? いいけどー、アクセル兄さんがお弁当って珍しいね」

「出来れば何人かで食えるよう大目に頼む。俺がそれを職場で誰に分けても(・・・・・・)大丈夫なようにな」

「えっ!? うん! 任せて! 三人分もあればいいよね!」

「ああ、それくらいあれば事足りるだろうよ」

 

 一気に上機嫌になった櫻を見たアルフィミィが溜め息を吐き、アクセルを見て眉をひそめる。軽く笑って「どうだ?」とばかりに胸を張るアクセル。彼も妹分には甘いのである。

 

「アクセル兄さん、おかずは何が好き~?」

「うーん、そうだな。たまには辛いものが食いたいかな」

「辛いものね、りょーかい。じゃあ、あれとあれと……これもいれて~、それで~」

 

 歌いだしそうな足取りでお弁当の構成を組み立て始める櫻に、兄と妹は「楽しそうだからいいか」とその後に続く。「ミニコロッケ忘れないで欲しいですの」「うん、大丈夫だよ」「量があればいいがな、これが」「それは私に喧嘩売ってるよぅ」と笑い声の絶えない帰り道となった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、ポカポカ陽気の中。昼飯にキョウスケとエクセレンを誘ったアクセルは、出勤時に櫻から渡された重箱三段を開いて豪華な弁当をお披露目していた。

 

「わ~お、スゴイじゃないこれ~」

「そうだろうそうだろう。櫻の渾身の弁当だからな」

「何でお前が威張っているんだアクセル……」

「おやおや、弁当を兄のために作りたいという妹の想い。キョウスケも無碍にするわけにはいかないだろう、これがな」

 

 「いただきます」の言葉も言い終わらないうちに箸を伸ばしたエクセレンがだしまき卵を頬張り、「ん~」と感動に身悶えする。俵結びを口にしたアクセルは満足そうに頷いた。

 

「くぅ~、あいっかわらず櫻ちゃんのご飯はおいしいわよねぇ~。なんでキョウスケはお弁当を頼まないのよ?」

「毎日それを横から奪う誰かさんがいるだろうからな。お兄ちゃんの為に心を込めて作った弁当を強奪されれば、妹想いの兄貴は面白く無いだろうよ」

「そ、それはまあ。しないといえば嘘になるけど、ねえ?」

 

 アクセルに図星を突かれたエクセレンが気まずそうにキョウスケを伺う。仏頂面のまま割り箸を割ったキョウスケはミニコロッケを口に運ぶ。そしてしぶしぶといったように溜め息を吐いた。

 

「出掛けのアイツの笑顔はコレか……。謀ったなアクセル」

「どうだ? まんざらでもないだろう。お前も少しは櫻のことを考えてやれよ。そのうち我慢が出来なくなって昼飯時に警察署(こっち)へ弁当持って突撃してくるぞ」

「まあ櫻ちゃんの行動力なら、やらないという可能性は少ないわねえ」

 

 遠回しに嫌な未来(それを同僚にからかわれる)を予想されて「偶にはな」とだけ口にするキョウスケ。ガッツポーズで喜びを表すエクセレンと、携帯を開いて櫻へ『GJ』とメールを飛ばすアクセル。直ぐに緩んで笑みを浮かべた口元をエクセレンに突っ込まれ、物理的に彼女を黙らせるまであと10秒……。

 

 




 ひさしぶりに書いたらキャラクターの名前を随分と忘れていました。Wikiを参考にしていますが間違いや誤字があったらご報告をお願いします。
 前に描いたのと違う部分としてヴィンデルさんとレモンさんをアクセルたちの上に付け加えました。
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