For power death 作:気まぐれ屋さん
リアルが多忙なため、合間をぬってちょこちょこ投稿となりますが、お付き合いよろしくお願いします。
「おはよう、ヒノアラシ、チコリータ」
『おはよう……』
『……』
窓から朝日が差し込んだ部屋。必要なものしか置かれず、質素な部屋の住人たちは目を覚ました。
まず、ヒノアラシ。主人の気分次第ではひのちゃんやのーちゃん、ののちゃんなどと呼ばれる真面目なオス。頼りない主人に心の中でツッコミを入れることがあるとかないとか。
その横でまだぐっすり夢の中なのが、メスのチコリータ。ヒノアラシに突かれているが、なかなか起きない様子。
そして最後、この部屋唯一の人間の少女、マノン。彼女は欠伸を零しながらベッドから転げ落ち、それで完全に目を覚ます。
ここからが毎朝のルーティン。
目をこする。起き上がる。伸びをする。そして時計を見て大量に息を吸い込み———
「きゃああああああああああああああ!!!」
盛大に悲鳴を上げた。
もう一度言おう、ここまでが毎朝行われる寝起きのルーティンである。
その声量にチコリータが飛び起き、ヒノアラシがまたか、というように呆れ顔を主人に向ける。
しかし、時計を見て焦っているマノンは目をこするチコリータを抱えて洗面所まで走り、顔を洗って髪を結ぶ。歯磨きも同時進行。
ヒノアラシはなんとキッチンで料理を始めた。パンにバターを塗り、トースターで焼く。卵を手際よくボウルに割り入れ、菜箸を用意したところで、赤いシャツにオーバーオールを着たマノンが作業を交代した。
急いで混ぜ、温めたフライパンに卵液を流し入れる。ある程度固まったら卵をかき混ぜ、真っ白な皿へ。ケチャップのニコちゃんマークも忘れずに。
チン! という軽い音と共に焼きあがったトーストをまんま咥え、ポケモンフーズを二つの皿へ入れる。ダイニングテーブルに乗せると、二匹のポケモンたちはすぐに食べ始めた。
トーストとスクランブルエッグをぺろりと平らげたマノンは、お皿を流し台に起き、水を出しっぱにして自室へと走る。
荷物の詰まったリュックサックにポケギアとお財布、そして目覚まし時計を入れ、ボールベルトを腰に装着。
水によってほとんど汚れが洗い流された食器に洗剤をつけて洗い、手早く拭いて片付ける。そして、ガス栓を閉め、戸締りを確認してから外に出、鍵を閉める。
走るのが苦手なチコリータを抱え、ヒノアラシを伴って、未来の英雄はワカバタウンを走り出した。
「ふぅー、間に合った……」
「いつもの通りギリギリだね……」
ウツギ博士の研究所のソファーでおいしい水を飲み、心臓のバクバクを治そうと深呼吸するマノン。それに対し、ウツギは呆れた顔をしていた。
ヒノアラシは申し訳なさそうに頭を下げ、チコリータはおいしい水のおこぼれを貰う。既に日常と化した出来事だった。
気を取り直そうとマノンは咳払いをし、ソファーから立ち上がる。
「それじゃ、ウツギ博士、冒険の旅に行ってきます!」
「いってらっしゃい。連絡してね」
そう、今日はマノンにとって記念すべき日、旅をスタートさせる日なのである。
いつも通り遅刻ギリギリで来たマノンにウツギは少し心配そうだったが、急に変わったらそれはマノンではないと心配を脳内から追い出す。うん、これもいつものことだ。
何だか決まらないスタートを切った本人は全く気にせず、屈託のない笑顔を浮かべてウツギの見送りに応え、歩き出した。
チコリータは腕の中、ヒノアラシは足にぴったりくっ付いて歩く。やはりいつも通りにワカバタウンを出て、29番道路に足を踏み入れる。
ここは比較的レベルの低いポケモンが出現するため、見かけに合わずレベルの高いヒノアラシはともかく、ちょっと臆病で、今まであまりバトルをやって来なかったチコリータにはちょうど良いだろう。
草むらから飛び出てきたポッポに「バトルの相手、お願い出来る?」と頼んで始めたわけだが———。
「え、ちょ、ま、チコリータ避けて!」
相手が異様に強いのである。
相手はポッポらしからぬ強さで頭突きを繰り出し、チコリータは先ほど覚えたばかりのはっぱカッターでポッポを遠ざける。そして体当たりをかまして避けられ、
『相手、ポッポじゃないよ!』
ヒノアラシが気付いてくれたのである。
ヒノアラシが叫んだ瞬間、相手のポッポ(?)はぐにゃりと歪み———ヒノアラシへと姿を変えた。
こちらが指示するより早く、ヒノアラシ(偽)はかえんほうしゃを吐き出した。怯えたチコリータは避けられず、ダメージを受けて戦闘離脱。マノンはねぎらいの言葉をかけてから、ヒノアラシをフィールドへ送り出した。
相対するヒノアラシとヒノアラシ(偽)。お互いに距離を取り、睨みあう。
すーっと息を吸い、ふぅーと吐く。目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
理論はいらない。感覚で勝負だ。これが、彼女流の一番のバトルの仕方である。
敵はこちらのヒノアラシをコピーしているはず。なら、使える技も同じだ。それを、どう活かすか。それが問題だ。
よって、マノンは先手を打つことにした。
「でんこうせっか!」
急な指示にも素早く従い、ヒノアラシは目にも留まらぬ速さでフィールド上を駆け出した。突然のことに相手は驚き、隙を見せる。
「かえんぐるま!」
でんこうせっかのスピードに炎を上乗せし、突っ込む。土煙を上げたこの勝負、本物のヒノアラシの勝ちである。
奴が目を回している隙に、マノンはウツギから餞別として貰ったモンスターボールを投げつける。
それは綺麗に放射線を描いて奴にぶつかり、奴を中に入れて———カチリという音を立てた。
マノンは一瞬間をあけた後、芝生の上に転がるモンスターボールに歩み寄り、手に取る。そして、それを数秒眺めた後天に掲げ、叫んだ。
「野生のポケモン、ゲットだぜぇぇぇええええ!!」
相変わらず真面目なヒノアラシと臆病なチコリータは無反応。マノンはしょんぼりと肩を落としながらボールを開いた。
赤い光と共に現れたのは、狐のような身体に、黒い体毛に、額の毛が青い———
「ままままさかの、ゾロア!!」
『の、色違いね』
マノンの素っ頓狂な声に、色ゾロアは補足する。
マノンの手持ち二人組(二匹組?)と同じくらいの大きさの黒い狐。額に生えた毛の先っぽと、眉の部分が鮮やかなライトブルーになっている。
慌てて図鑑を取り出してかざしてみると、なるほど。確かにゾロアの情報と共に、色違いの証拠である赤い星マークがしっかりついている。
通常色との違いは、青い部分と、体毛が通常に比べてちょっと茶色っぽいくらいだ。
「ま、いっか。これからよろしくね」
『こちらこそよろしく』
「んじゃ、ニックネーム決めよっか」
『へ?』
実は、ヒノアラシとチコリータにもニックネームがついているのである。
ヒノアラシは『ヒナタ』、チコリータは『ワカバ』。何故普段からそう呼ばないのかというと、そりゃなんとなくである。
マノンは三匹に囲まれながら悩む。
「うーん……きつねとか?」
『却下』
「え〜っと。ポッポ?」
『あれはたまたま』
「じゃあ、シズク?」
『ちょっと違う』
「アオイ?」
『……』
「あ、やだった? じゃあ……」
『……いいよ』
「ん?」
『アオイが、いい』
「ほんと?」
ゾロア改めアオイは頷いた。ニコニコ嬉しそうに特性:イリュージョンでマノンに変身したのはご愛嬌である。……と思いたい。
「よっし。じゃあみんな、お昼を食べようか」
新入りはパシリね。と容赦ない一言をアオイに笑顔と共に突きつけ、近くを流れる小川から水を汲んでくるよう言い付ける。ちなみに折りたたみバケツ二杯分。
何故なら、マノンパーティには草タイプであるチコリータのワカバが存在し、大量の水分を必要としているからだ。
マノン姿のアオイは、最終的に小川まで二往復。早く新入り入って来てと願うのであった。
ちりばめた伏線、後々になってきちんと回収しても、読者の皆様はとっくに忘れてるのでは無いかと不安になります……。
私だって忘れますもん。
プロの方々は、その辺上手くやっているんでしょうかね……。
・説明
一応、主人公の伏線は既に二つほど張ってあります。気付いたら、心の中に留めておいていただけると嬉しいです。
草タイプが水を大量に必要としているかは定かではありませんが、この小説では必要ということで。
葉っぱが枯れたチコリータなんて、チコリータじゃないですから。