以下、前回までのあらすじ。
外部からの客にお菓子の味が不評なのは、味覚に関するシステム的な問題なのに。その教室はレシピを提供した一色を糾弾しようとする女子生徒と、それに反発する男子生徒で真っ二つに割れていた。ひとまずこの場から離れたほうが良いと勧められて人が少ない場所へと向かった一色は、避難先で八幡と遭遇する。
特別棟と校舎を結ぶ空中廊下に移動した二人は、お互いを(消去法的な意味で)気分転換には良い相手だと考えていた。二人の会話が途絶えることなく、時間があっという間に過ぎた意味を、二人はまだそれほど深くは理解できていない。
同じ頃。二年F組の教室では、三浦たち三名と雪ノ下、更には葉山グループ四名も加わって話し合いが行われていた。予想外に協力的な大和と大岡には闖入者の明日の予定を探らせて、葉山・戸部・三浦・海老名にはF組における対処を任せると、雪ノ下は由比ヶ浜と二人で対策を練る。彼女らとは別に川崎も戸塚も、更には戸部も城廻も、各々ができることを率先して引き受け行動に移していた。
戸塚と材木座と一緒に夕食を食べながら、八幡は明日の備えと、それから少し先の未来を見据えた雑談を交わした。そして文化祭は二日目を迎える。
中央階段を昇った先には、屋上に繋がる扉がある。生徒たちが安易に外に出られないように扉には南京錠がかけられているし、人が通ることのない階段は今や文化祭の荷物置き場と化していた。
その鍵が現実世界と同様に見かけ倒しであることは、女子の間では広く知られている。とはいえ障害物を乗り越えて屋上に出るのは面倒だと考えたのだろう。段ボールが階段を埋め尽くす手前の辺りで、女子生徒数人が早朝から集まっていた。
「だからー、今日のトップは雪ノ下さんじゃなくて南ちゃんでしょ?」
「っていうか、雪ノ下さんが凄いのは分かるけど、南が軽く扱われてるみたいで微妙だよねー」
「で、でもさ。昨日は予行演習みたいなものだから、本番の今日はうちに任せるからって……」
その中の一人を焚き付けるように、会話が進む。
「じゃあ、相模が思った通りにやったらいいじゃん。文実で余計な対立を引き起こしたり、他校の生徒と問題を起こしたり。悪いのはあいつだって
「相模さんに同情してる生徒って、かなり多いと思うよ。実行委員の前でびしっと言ったら、
「それって……うちがびしって言わないと、やっぱりダメなのかな?」
彼女の逃げ道を塞ぐかのように。
「南ちゃんの優しさは、あいつには伝わらないんじゃない?」
「むしろ余計に調子に乗りそうだし、南がちゃんと言ったほうがいいって」
「文実の他の委員も、相模が注意してくれるのを待ってるんだと思うなー」
「相模さんが委員長らしさを見せないと、逆に雪ノ下さんに怒られちゃうかも?」
どうしてみんなバラバラなのだろうか。仲の良いグループなら、普通はだいたい呼び名が同じになると思うのに。うちの場合だけ、どうしてここまでバラバラの呼び方になるのだろうか。ずっと抱いていた疑問をこの日も胸の奥にしまって、相模南は自信なさげに彼女らに応える。
「そ、そうだよね。うちが委員長なんだしさ。ちょっと、頑張ってくる、から……」
そう口にした自分を、目の前の面々が励ましてくれる。その声を、相模はずっと遠くに感じていた。こんなに身近に居てくれてるのに。去年はもっと仲が良かった(でもあだ名のセンスは微妙な)あのクラスメイトと話している時には、いつだって彼女をすぐ近くに感じられるのに。
だが、眼前の彼女らに隔たりを覚えてしまった自分の弱気を、相模は強引に払いのける。
「そろそろ時間だし、体育館に移動しよっか」
反論が出ないと分かり切っていることなら、こんなふうに自然に、堂々と、提案できるのに。内心ではそんなことを考えながら、相模は女子生徒たちを後ろに従えて歩き始めた。
***
文化祭の二日目に当たる土曜日。生徒たちはこの日も午前九時に体育館に集合した。「特に連絡事項は無い」という教師陣の意向を生徒会長が伝達して、「今日も頑張るぞー」「おー」とみんなで唱和して、集まりはあっさりお開きとなった。
基本的に総武高校は生徒たちの自主性を重んじる校風である。それに加えて文化祭の主役は生徒だと考える教師たちは、必要以上に表に出ないように心掛けていた。
一般開放の十時に向けて、生徒たちは各所に散らばっていく。とはいえ文化祭実行委員だけは話が別で、これから会議室に集まってのミーティングがある。
「なあ。できる限り影を薄くしてるから、釈放して欲しいんだが?」
「貴方を一人で野に解き放てば、何をしでかすか分からないと思うのだけれど?」
「ヒッキーが大人しくしようって思ってても、面倒なことが向こうから来るかもだしさ」
会議室に移動する生徒たちの中に、見目麗しい女子生徒二人に挟まれているにもかかわらず嘆き節の男子生徒が一人。言わずと知れた比企谷八幡が、今日も死んだ魚のような目で、しきりに周囲の反応を気にしている。
「どう贔屓目に見ても、目立ちまくってるんだよなぁ……」
周りの生徒たちの感情を綜合すると、「速やかに爆発しろ」になるのだろうか。ラブコメ的なきゃっきゃうふふがあるわけでもなし、替われるなら替わってくれというのが八幡の本心なのだが、それを口にしても反感を増すだけの結果にしかならないだろう。
一見したところ、綺麗と可愛いに挟まれて文化祭を満喫しているリア充。しかしてその実体は、怒らせると怖い二人に連行されている哀れな奴隷である。今日に限って言えば、八幡の自由意思はほぼ制限されている。自分が一悶着を起こしたのが原因なので、この境遇に文句は無いのだが。
「こいつらが二人揃ったら、それだけで存在感が凄いって、もうちょい自覚してくれないもんかね……」
一日が始まって早々に、ぼっちになりたいと疲れた頭で考え始める八幡だった。
***
「じゃあ今から、文化祭実行委員会の話し合いを始めます。えっと、まずはうちから。昨日、他校の生徒と揉め事があって。その、お互いに言い分はあると思うんだけど。穏便に済ませたいから、あの。今日は、裏方に引っ込んでいてくれないかなって……どう、かな?」
委員全体に向けてでも当事者にでもなく。相模は途中からは明らかに、傍らに座している雪ノ下雪乃に向かっておそるおそる問い掛けていた。小首を傾げる反応しか寄越さない雪ノ下に内心で焦っていると、逆側の席からフォローの声が上がる。
「その説明だと分からない人もいると思いますし。相模先輩、もう少し詳しく話していただけると……」
「あ、うん。……うちのクラスで起きたことなんだけど、噂でだいたいは聞いてるよね。ヒキタニくんと中学の同級生の間で言い争いみたいなのがあって、今日も来るって言ってて。だから、顔を合わせないようにしたほうが良いんじゃないかって、うちは思ったんだけど……」
もう一人の副委員長である藤沢沙和子が助け船を出して、相模が話を進めると。
「この会議室は実行委員会の本部が置かれてるし、人の出入りも多いよな。じゃあ……奉仕部の部室でせっせと書類仕事でもやっとくわ」
「待ちなさい。貴方の場合、仕事をサボろうとする意図が無いのが逆に厄介よね。でも、率先して引き籠もろうとしても、残念ながらそれは通らないわ。今日は私と由比ヶ浜さんの支配か……監督下に置いて、もしも当事者が再び来校したら公衆の面前で引き合わせようと思っていたのだけれど?」
予想外に乗り気な様子で、当の八幡が相模の提案を受け入れようとしていた。それでも雪ノ下が待ったを掛けたのは予想通りだと、相模が密かに安堵したのも束の間。てっきり部員を庇うものだと思っていたのに、まさか八幡をあの連中にけしかけようとするなんて、相模に推測できるわけもない。罰をちらつかせつつ注意だけできればベストだと、そんな中途半端なことを考えていた相模は、密かに内心で途方に暮れる。
「なあ。いま確かに『支配下』って言いかけたよな。今日の来校者数が事前予測の時点で、過去最大だった二年前の軽く数倍になるって話は聞いたし、奴隷のようにひたすら従順に働く手駒が欲しいのは分かるんだが。俺と中学の連中を引き合わせるのは、さすがに問題じゃね?」
「だから『自分は表舞台に出ずに引っ込んでいる』と続けたいのよね。では、ここで決を採りたいと思います。私の提案のほうが、比企谷くんにより多くの仕事をさせ、より多くの苦痛……貢献をさせる結果になると私は思います。揉め事の解決もお約束します。賛成の方は挙手を……ありがとう」
ほとんど満場一致だった。
最初の発言者でありながら、すっかり脇役に転落してしまった相模に向けて、雪ノ下が確認を行う。
「相模さんは、何か付け足すことはあるかしら?」
「うち……うちは、これ以上、変な揉め事を起こして欲しく無いから。みんなの決定には反対しないけど。他校と揉めたり文実で対立を煽るようなことを言ったり。そういうの、ちゃんと謝って欲しいって思う。だって、悪いのはヒキタニくんでしょ?」
委員長としてびしっと言わないと。悪いのはこいつなんだから。そうしないと、逆に雪ノ下に怒られてしまう。先ほど中央階段で聞いた言葉が、頭の中で繰り返される。心の片隅では気付いているのに。自分にも問題があるという囁き声から耳を閉ざして、相模は責任を八幡に押し付ける。
「そうだな。色々と混乱させてすまなかった。……ごめんなさい」
制止しようとする雪ノ下に先んじて、八幡はそう言って頭を下げた。最初は相模に向かって、続けて実行委員をぐるりと見回した後に、謝罪の言葉を口にする。
雪ノ下が言いたいことは解る。俺が悪いとは言っても、責任が全て俺にあるわけではなく、特に文実関連の話は相模の責任も重い。けれども一般公開を間近に控えた今の時点でそんな話を出しても、益が無いどころかデメリットしか無い。この程度の言葉と行動で相模の気持ちが済むのならば、安いものだと八幡は思う。
だが、雪ノ下が危惧していたのはそれだけではない。今日も八幡の横に座っている由比ヶ浜結衣には、雪ノ下の心配が伝わっていた。
昨日の一件について、相模は教室に居たために実情に近い情報を持っている。しかし多くの実行委員は誇張された噂という形で情報を得たので、実情以上に「八幡が悪い」と思っている。当事者に近い立場の相模が謝罪を要求して八幡が素直に謝ったために、彼らの認識が補強された形になってしまった。
だが、もしも。実情がそれとは大きく異なっていて、むしろ八幡が絡まれたに過ぎないという事実が周知されたら。謝る必要のないことで謝ってみせた八幡の扱いが変わると同時に、集団の感情は一体どこに向かうだろうか。
「じゃ、じゃあさ。他校の生徒と引き合わせるなら、問題が無いかどうか、いちおう他の委員にも立ち会って欲しいんだけど。それでいい……よね?」
「……そうね。比企谷くんと同じクラスなのだからと、葉山くんが率先して対策を練ってくれているのだけれど。たしか、その生徒たちが来るのは午後になるという話だったわ。詳しい情報を葉山くんに確認してから、同伴する委員を選べば良いのではないかしら?」
形式上は相模が委員長で、雪ノ下は副委員長である。相模の提案がこの場で体裁を整えるためのものでしかなく。相模自身にとっても後々面倒なことになるだけだと判っていても。それを頭ごなしに却下することは雪ノ下にもできない。
嫌な未来が見えてしまった由比ヶ浜は、雪ノ下とこっそり目配せをして、人知れずため息をついた。
***
昨日の一件があっただけに、八幡は今日の朝に至っても、由比ヶ浜はもちろん雪ノ下とも連絡を取る気が起きなかった。本来なら本日の指令を仰ぐべきなのだろうが、二人から何も連絡が来なかったのをもっけの幸いと、八幡は時間ギリギリに登校する。二年F組の教室は敷居が高いからと、荷物を奉仕部の部室に置きに行った八幡は、そこで二人に捕まる形になったのだった。
その後、体育館から会議室を経て、三人は再び部室へと帰って来ていた。十時までに打ち合わせを済ませておくべき事が幾つかある。部屋には三人の他に、会議室から同伴していた平塚静もいる。
「じゃあ、バンドは予定通りで大丈夫ってことだよね?」
「まあ、そうだな。どうせバレてると思うから正直に言うけど、俺は表舞台に出ないほうが良いなって、一旦は決断したんだけどな。代役にあっさり断られたんだわ」
「姉さんに借りを作るのは、極力避けた方が良いと思うのだけれど……なんの留保も無くあっさり断るのは、姉さんにしては珍しいわね」
「まだ代役の名前を言ってなかったと思うんだが、なんでそうすぐに推測しちゃうのよ。しかも確定事項として話を進めてるし、ほんと何なのお前?」
一番気にしていることをまず由比ヶ浜が確認して、それに八幡が答える。雪ノ下の反応には、八幡にとって少し冷や汗ものの内容が含まれていた。それを誤魔化す意図もあったとはいえ、呆れる気持ちも偽りでは無い。苗字ではなく「お前」って呼べるのは楽だよなと、八幡が現実逃避のついでにそんなことを考えていると。
「陽乃は、目を付けた相手には徹底的に構おうとするからな。それも、相手に応じていちいち対応を変えるのだから、褒めて良いのか呆れれば良いのか、私もずいぶんと悩んだものだよ。例えば城廻に対しては、頼れる先輩という姿を見せていたはずだが……比企谷なら基本はからかう姿勢で、由比ヶ浜ならある種のミラーゲームになるのだろうな」
八幡の代わりに口を挟んだ平塚が、雪ノ下陽乃の性向を解説してくれた。言われた由比ヶ浜にも雪ノ下にもミラーゲームの意味が伝わっていない様子だったが、片や感覚的に理解して、片や納得できる独自解釈を導き出して、二人から質問が出ることはなかった。
「まあ、あの人って、妹相手だと気合いの入り方が異常だよな。つーか今回も、色々とやってくれたんだろ?」
「ええ、そうね……現実世界が何やら騒々しいことになっているみたいね。自由裁量を与えた時点で、ある程度の予測はしていたのだけれど」
「あたしが聞いたのは、地元の商店街を説得して、あっちの高校のグラウンドで屋台を出してもらってるって」
「あの人、こっちの世界に捕らわれてる身で、どうやって説得したんだろうな。しかも『捕らわれの生徒たちにご支援を』とか変な横断幕も出てるってさ。小町が親父にお願いして見に行かせた情報だから、確かだと思うぞ。あと、雪ノ下建設な」
「……できれば、それは話題に出さないで欲しかったのだけれど。部分的なログインとはいえ、現実世界で視覚と聴覚が失われる以上は、個室なりを用意するのが妥当。簡単な説明に従って装着できる機材と、ログアウト時に感覚の同期が遅延した場合に備えてシートベルト付きの椅子が配置できる間取りにして。火事などの緊急時には即座に避難できるように、脱出経路を各部屋均等に複数配備した図面を引いて。聞いたところによると、久しぶりに父が自ら手掛けたらしいわ。最近は社員に経験を積ませるために、設計は助言程度で済ませていたという話だったのだけれど」
「ああ、うん。なんかすまん。つか、プレハブって言うのか張りぼてって言うのかよく分からんけど、そんなすぐに作って壊せるもんなのか?」
「事前によほど綿密に計画を立てて、それで何とか……という感じかしら。ただ、娘の私が言っても説得力が無いかもしれないのだけれど。あの人たちは運営からも姉さんからも、特に裏情報は仕入れていないと思うわ」
「まあ、運営との接触は分からんけど、陽乃さんがこっそり伝えるってのは無理だろうな。現実との通話を全て保存してるとは思わねーけど、きな臭い話題が無いかチェックされてるのは確かだろうし。最近のAIの進歩と、疑わしきは保存ってな物量作戦を相手にして欺けるとは……それでも陽乃さんならって気もするけどな」
「でもさ。陽乃さんって、必要の無いことはやらないって感じなんだよね?」
「ん、それって……ああ、雪ノ下の両親なら陽乃さん以外の情報網も持ってるだろうし、敢えてこっそり伝える必要も無いって意味か。よくそこに気付いたな」
意外に鋭い意見を出してくる由比ヶ浜に八幡が驚いていると。
「ヒッキーが言ったような、そんな詳しい話じゃなくて印象っていうかさ。ゆきのんや陽乃さんがこんな感じだし、じゃあ親ならもっと凄いんじゃないかなって」
「……そうね。世の中に出回っている情報と、当事者の性格や思考の傾向を把握すれば、大方のことは読めると言っていたわね。特にゲームマスターの場合は指針が明確で行動に無駄がないから、至極読みやすい、と」
「そういや、ずいぶん前に思えるけど昨日の朝だよな。文化祭が始まる直前に俺たちも論文の解読をして、運営の方針を推測してたわけだし。それを大人ができないって話にはならんよな。じゃあ、情報を読み解いて建築計画を整えて持って行って受注に成功したと、そんな感じかね」
「おそらく、紹介の時点で姉さんが絡んでいるのでしょうね。運営から相当の信頼を得られない限りは、スタートラインにも立てなかったはずよ。もちろん他の業者もコンペに参加したとは思うのだけれど。運営が情報の漏洩にあれほど目を尖らせていたからこそ、逆に情報力の差が決め手になったのではないかしら」
「なるほどな。振り返ってみると、陽乃さんの行動もほとんどが理に適ったものだったんだな。もっと理不尽っつーか、気分で行動してる部分もあるのかなって思ってたんだが」
「そうだな。陽乃は……もしも陽乃に協力を要請したいと思ったら、理詰めで行くのが一番だと私は思うよ。逆に、感情論に無理やり理屈を乗せて説得しようとしたら、無残に切り捨てられるだろうな。それは、たとえ私であっても、な」
そう言われて、三人は陽乃と平塚が積み重ねてきた関係を思う。過ごした時間の長さで言えば、もちろん身内には遠く及ばないのだろう。だが陽乃が高校三年間のうち幾ばくかの時間を費やして、そして二人は今の関係に至った。あらまほしき先達を見付けたような気持ちになって、三人はそれぞれ微笑を浮かべる。
「理詰めで考えたら、俺が陽乃さんに代役をお願いしてたら、その時点で色々と詰んでた気がするな……」
「そこで終わっては面白くないと、陽乃も思ったんだろうさ。陽乃は理を重視するが、だからといって感情が乏しいわけではないからな。さて、比企谷。バンドは、
さすがに誰にも内緒というわけにはいかないので、最初から顧問の平塚にだけはバンドの詳細を伝えてある。だがおそらく陽乃は三人のサプライズを察知しているし、八幡が原因で雪ノ下が何らかの被害をこうむる事態になれば、絶対に黙ってはいないだろう。雪ノ下と由比ヶ浜は教師の言葉の裏をそう解釈して、問い掛けられた八幡を注視する。
「ええ、
その八幡の返答を耳にして、雪ノ下は思う。自分が、そして由比ヶ浜も読み取った顧問の意図は八幡にも確実に届いている。そして八幡はそれを加味して、こう返事をした。つまり八幡は自分が置かれている状況を理解して、それでもぶれない姿勢を見せている。そんな男子生徒の姿を雪ノ下は眺める。
八幡の中学の同級生だという奴ばらの対応を、葉山隼人に任せて正解だったと雪ノ下は思う。昨日推測した通り、八幡の関心は既にそこには無い。いや、千葉村で聞いた話を思い返す限り、最初からそこに関心は無かったのだろうが、今の八幡は更に先の段階に至っている。仮に引き合わせたところで、今さら何の問題も起きないだろう。
だから、優先度の判定は間違っていない。闖入者よりもクラスの、そしてそれ以上に文実や全校生徒の反応が怖い。そこの対策を自分と由比ヶ浜が担当して、より重要度の低い部分は葉山に任せて彼にも経験を積ませる。かつて父が、最近は設計を部下に任せていると話してくれた時のことを改めて思い出しながら。雪ノ下は密やかに由比ヶ浜の様子を窺う。
視線を交差させて、二人はこっそりと、他の二人には内緒にしている事柄を確認し合った。
***
部室の前で教師と別れて、三人は出し物の点検に向かった。予想以上に多くのクラスから変更届が出されたために、十時に間に合うように全てをチェックするのは端から諦めている。それよりも雪ノ下は、一般客の様子を窺いながら問題点を確認する形を選択した。
八幡に申請書類を持たせて変更内容を説明させながら、雪ノ下は問題点があれば指摘して生徒に修正を促す。とかく杓子定規になりがちな雪ノ下の横では由比ヶ浜が一緒に話を聞いていて、適度にフォローを入れたり、時には雪ノ下に先んじて注意をすることもあった。
「さっきの陽乃さんの話じゃないけどさ。ちゃんと理屈を聞いてくれそうな相手だとね。先にあたしががーって言ってから、ゆきのんに説明してもらう順番でもいいかなって」
由比ヶ浜でも色々と考えているんだな、などと言ったら怒られそうなので口には出さないが、特に揶揄する意図もなく八幡は文字通りにそう思った。一方の雪ノ下は、そんな由比ヶ浜の性格など先刻承知とばかりに、八幡とは違った感想を述べる。
「昨日は一人で見回りをしていたのだけれど。由比ヶ浜さんと一緒だと心強いわね」
「なあ。誰かもう一人忘れてねーか?」
「あら失礼。忠実な下僕のことをすっかり失念していたわね」
「おー。昔は備品扱いだったのに、出世したもんだわ。早く人間になりたいって願い続けた甲斐があったな」
そんな風に軽口の応酬をしていると、思い出したことがあったみたいで由比ヶ浜が口を開く。
「そういえば、昨日のお昼ぐらいだったかな。廊下でゆきのんを見掛けたんだけどさ」
「……そうね。お昼前なら、たしか二年生の教室を見回っていたわね。クラスの出し物のことで連絡を貰って、そのまま国際教養科の同級生とご飯を済ませたのだけれど。何かあったのかしら?」
「あ、ううん。その時は別に何も問題は無くて、ただ『ゆきのんだー』って思っただけなんだけどさ」
二人の話を聞きながら、あの時に雪ノ下から感じた違和感は気のせいだったかと八幡は思う。雪ノ下にしては、返事を口にするまでに少し時間が掛かった気もしたが。副委員長という肩書きながら、雪ノ下は実質的には文化祭の全てを差配している立場なのだ。重要度の低い記憶を思い出すのに多少の時間が掛かるぐらい、よくよく考えれば当たり前だと八幡は思った。
その話はそのまま終わって、三人は次の目的地に向かう。その途上。
「げ、お兄ちゃんだ」
「……ねえ、小町ちゃん。妹からのその扱い、お兄ちゃんそろそろ泣いても良いかな?」
雪ノ下に下僕扱いされるのは平気でも、妹に「げ」と言われるのは耐えられない。そう言って落ち込んでいる
「雪乃さん、結衣さん、やっはろーです!」
「小町ちゃん、やっはろー!」
「こんにちは、小町さん。先週はご自宅にお招き頂いて、とても楽しかったわ」
「いえいえー、たいしたお構いもできず……カーくんの首を洗って待ってますので、また来て下さいね!」
「なあ。首を洗って、って。お前、意味を解って言ってるのか?」
「え、だって雪乃さんのもふもふに耐えられるように、首回りは特に綺麗にしておかないとさ。お兄ちゃんこそ何言ってるの?」
確かにそう言われると反論できないというか、もしかして間違っているのは俺なのかと悩み始める八幡。そんな兄妹を温かく見守っていた二人は、とつぜん小町が慌て出したのを見て不思議に思う。
「あ、えっと、あっち。じゃ、じゃあ小町そろそろ行くね」
小町の視線の先を辿ろうとした三人だったが、小町は兄の顔を強引に両手で挟んで、意識を別に向けさせまいと小声で話しかける。
「お兄ちゃん。昨日も帰ってくるの遅かったし、詳しい話は文化祭が終わってから聞くけどさ。せっかくだし、去年の分まで楽しんで来てね。あ、今の……」
「ポイントは前にカンストしたって言ってなかったか?」
「ゲームで限界突破っていうのがあるって、前にお兄ちゃん言ってたよね?」
兄妹の攻防は妹に軍配が上がり、そしてその間に雪ノ下と由比ヶ浜は、小町が慌てていた原因であろう少女を視界に捉えていた。
「小町さん。私が以前にお願いしたことを、今も続けてくれていたのね」
そんな小町に対して、お礼の言葉は口にしない。雪ノ下は小町に仕事を命じたわけではなく、ただ対等の立場で、あの少女のことをお願いしただけなのだから。主に格下の者をねぎらうために使ってきた「ありがとう」という言葉は、ここでは相応しくない気がして。でも感情を込めてそれを言うのは、八幡が訝しがるだろうから不可能で。ゆえに雪ノ下は表情と仕草で、小町に感謝の気持ちを伝える。
「今日は無理なのが残念ですけど、また今度、絶対にお会いしたいのでよろしくです!」
それが小町の言葉ではないことを、雪ノ下と由比ヶ浜は理解する。どんな状況になっているのかは分からないが、今はまだ、問題が完全に決着したわけではないのだろう。だが、また今度を口にできる程度には改善している。その日はきっと、遠からずやって来るはずだ。
「じゃあ、小町ちゃんも文化祭を楽しんでね!」
「良い想い出になるよう願っているわ、と。では、小町さん。また」
そんな二人の声に見送られて、小町は元気に駆けていく。そして曲がり角の先で、小さな同行者と合流を果たした。
「小町もあれで、意外に独りの行動が多かったりするんだよな。俺の悪影響かもって悩んだ時期もあったんだが」
「それでも小町さんは、孤立しているわけではないと思うのだけれど。多くの人から好かれてもいるようだし、大丈夫ではないかしら?」
「なんか『小町は』って言われたら、助詞に変な意図を感じるんだが?」
「小町ちゃんなら大丈夫だって、ヒッキーも素直に受け取ったらいいのにさ。年上からも好かれるし、たぶん年下からも懐かれやすいんじゃない?」
そんなやり取りを交わしながら、三人は三年生の教室へと移動する。悲鳴やら何やらでひどく騒々しい教室の前で立ち止まると、雪ノ下は首を傾げながら八幡に尋ねた。
「ここ、特に変更届は出ていなかったと思うのだけれど。昨日とずいぶん雰囲気が違うわね」
「トロッコに乗ってゆっくりとジオラマを楽しむ、って書いてあるんだが……この絶叫は何なのかね?」
「とりあえず聞いてみよっか。すみませーん」
由比ヶ浜がそう言いながら教室のドアを開けると。
「げ、査察が来た」
「ちょっと早すぎね?」
「つーか、噂のリア充かよ」
「ついでだし、仲良く爆発させとくか」
「はい、ご新規三名様ご案内ー!」
「逃がすなよ。勢いで誤魔化すためにも、三人とも放り込め!」
あっという間に飛び出して来た先輩たちの手で、有無を言わさずトロッコに投げ込まれ。とっさに二人を庇って下敷きになった八幡は、気が付けば顔と下腹部とに得も言われぬ感触を覚えていた。
「(やばい柔らかい困った温かい頼むから動かないでくれよって言ってもずっとこのままで良いって意味じゃないからなでもこれどっちがどっちでどの部分なんだろうな知らないほうが良い気がするけど知りたいというかまったくどっちなんだよ俺はってうおっ変に身動きするなってばマジで早く離れてくれないと本気でやばいんだが)」
混乱していた八幡だが、トロッコが動き始めたことで二人も我に返ったのかようやく立ち上がれたみたいだ。雪ノ下は無言でお尻を払っているし、由比ヶ浜は頬に手を当てて固まっているが、それらの行動の意味は深く追求しないのが吉だろう。
トロッコの先端にはモニターが取り付けられていて、適当に恐怖系の動画を継ぎ接ぎしたのか、迫力のある映像が絶え間なく流れている。それはまだ良いのだが、両側からひたすら叫び声にわめき声がエンドレスで聞こえてくる。いずれにしても、その外に広がるジオラマとのギャップが半端ない。
いくら外部からの客に対応するためとはいえ、こうまで延々と視覚と聴覚ばかりを刺激されると、楽しいとか怖いとか以前に疲れたという気持ちになってしまう。けれどもまあ、変更の意図は理解できるし、労力を掛けているのも分かる。
変更前はおそらく、外部の客からすればテレビや映画を見るのと大差の無い出し物だったのだろう。ひたすら騒々しいし馬鹿馬鹿しいといえば馬鹿馬鹿しい演出だが、きっと実際に乗った人なら、何かしら感想なり文句なりを他人に言いたいと思うはずだ。それぐらいには印象に残る出し物だなと八幡は思った。
「まあそんな感じだから、変更点の申請さえもらえば良いんじゃね?」
トロッコを降りて、この程度では誤魔化されないわとお小言を述べようとした雪ノ下だが、八幡がそう言ってフォローに入った。それを聞いて「良い思いをさせてやった甲斐があったぜ」とでも言いたげな視線を送ってくる先輩がた。それに苦笑しながら、昨日の一件が噂になっている割には(噂のリア充とか言われている時点で八幡の今日の動向もある程度は伝わっているのだろう)ヘイトがあまり集まらないなと不思議がる八幡だった。
「はあ。では申請書を速やかに提出して下さい。……由比ヶ浜さん、比企谷くん。次に行くわよ」
雪ノ下の耳が少しだけ赤くなっていることを指摘するような蛮勇の持ち主は、幸いなことにこの場には居なかった。
「クラスの公演は、午後は一時半からだったかしら?」
「うん。隼人くんが有志に出るし、その前にある陽乃さんの管弦楽部のやつもみんな観たいって言ってて。だから最終公演の時間を早めたんだよね」
「なるほど。比企谷くんの中学の同級生なのだけれど、一時頃に教室まで来るそうよ」
「ほーん。公演の邪魔をするほどの度胸は無いけど、公演の後よりは前のほうがまだ人が居るだろうってな考えかね。つーか教室まで来るって、ログインするって意味だよな。モニター越しにうだうだ言われる心配はしなくて済むけど……。ま、これだけ大人数が気軽にログインしてるんだし、避ける意味はねーわな」
ひととおりの見回りを終えて、三人は奉仕部の部室を目指していた。先程のトロッコの他に未申請は無かったし、申請に修正が必要な出し物もほとんど無かった。いずれの教室でも事前の対策が機能して、この世界ならではの可変性を活かして大人数に上手く対応していたので、外部からの客にもおおむね好評のようだ。バーチャルな世界という物珍しさを評価に転化できているのが大きいと雪ノ下は思う。
合間には実行委員から何度も連絡が届き、雪ノ下はその全てを即断で処理していた。今日は基本的には、委員長が判断に困った案件だけが送られて来る手筈になっている。だが、どうせ二度手間になるならダメ元で直接雪ノ下に、と考える者も少なからず居るようだ。
だから雪ノ下がメッセージを受け取った様子を見ても、また来たかと気軽に流していた八幡と由比ヶ浜だったが、遂に本命が来たらしい。とはいえ。
「おそらくその通りだとは思うのだけれど。最初は一時の予定だったのが二時になり三時になって、結局は一時に戻したみたいね。何だか、あちらの状況が透けて見えるのだけれど……。それにしても、バンドの最終確認と昼食を両方済ませるには微妙な時間ね。どちらを優先しようかしら?」
「バンド優先で良いんじゃね。昼食は連中の相手が終わってからゆっくり食べたら良いし……って、お前はうちのクラスの劇を観なくて良いのか?」
「ええ。申し訳ないのだけれど、海老名さんの脚本にはできる限り近付かないほうが良いのではないかと。勘というか本能的なものを感じるのよ」
「あー、うん。それ、間違ってないかも……」
「まあ、そうだろうな。んじゃ劇が始まるのに合わせて部室に帰って昼飯にするか。そういや、遊戯部ってこの階だったよな。どんなゲームを出してるのか、後で材木座にでも聞いてみるか」
そんなふうに会話を続けながら、階段を昇って部室に向かう。昨日の連中が来る時間を知っても、まるで緊張感のない三人だった。
***
予定通りに時間を過ごして、八幡たちは一時前に二年F組の教室に移動する。同級生や顔見知りの生徒たち、更には相模が指名した同伴役の実行委員とも軽く挨拶をしてから、三人は教室の後方奥に陣取った。普段からトップカースト三人娘がよく居る辺りだ。
最後の公演に備えて、海老名姫菜は別室にて少しでも劇のクオリティを上げることに集中している。三浦優美子もそちらに付き添っているので、この場に彼女らの姿は無い。
この教室における段取りは全て葉山に任せている。だから奉仕部の三人は、とりあえず目立たない位置にて控えておくことにしたのだった。
「あ、あの。すみません……」
「もしかして、あんたたちかい。昨日来たのって。……まあ、教室の中に入りなよ」
廊下から、誰かを案内する川崎沙希の声が聞こえてくる。今日も午後から受付に座っている川崎は、自身も一言何かを言いたげだったが、それは教室の中に居る面々に任せようと考え直した。
そして、昨日も見た三人の高校生が教室の前の扉から姿を見せた。おいおいまさか……と八幡が彼らに同情しかけたものの、さすがに杞憂だったらしい。少し離れて別の三人が教室に入って来る。記憶が薄れているので断言はできないが、おそらく中間ぐらいのカーストに居た連中ではないかと八幡は思った。
「君たちが、昨日ヒキ……比企谷と揉めていた生徒なのかな?」
葉山がそう問い掛けると、リア充オーラを真っ向から浴びた三人はしどろもどろに何とか頷きだけを返す。後ろの三人は苦笑するのみで、手助けをしようとする気配はまるで無い。
「できれば話し合いで双方の合意を得たいから、まずはこちらに来てくれるかな。後ろの三人も」
教室前方には劇のために舞台が整えられていた。その中央すぐ下の辺りに椅子がいくつか後ろ向きに用意されている。昨日の三人はそこに大人しく腰掛けたが、新顔の三人は身振りだけでそれを断って、教室の入り口に佇んだまま。単なる付き添い以上のことをするつもりはないと、その反応が語っていた。
それを確認した葉山は内心の感情を表に出すことなく、相手よりも下座に用意した席に一人で腰を下ろす。彼らと目線を合わせて、数による威圧を行う意図が無いことを無言で伝える。舞台の上はもちろんのこと、教室の葉山よりも前の位置には総武高校の生徒は誰も居ない。ただ戸塚彩加と戸部翔だけが、葉山の左右に立っていた。
「戸塚は……昨日俺が言ったアレに備えてあそこに居るんだとして、戸部はなんでだ?」
とりあえずは葉山のお手並みを拝見しようと、八幡は連中からは見付かりにくい位置取りを心掛けながら様子を見守っていた。相手は見るからに余裕を失っているので過剰な心配かもしれないが、八幡を見付けて突然叫び出すことも考えられる。そんな理由でこそこそと身を隠していた八幡だったが、二人が妙な立ち位置なのを見て思わず疑問をつぶやいた。
対処を葉山に一任して、それ以降は進捗の確認すらせず別の事柄に集中していた雪ノ下が、自身の疑問を重ねる。
「貴方は戸塚くんに何か入れ知恵をしたのね。私にも詳細が読めないのだけれど……何だか楽しみね」
「今日のとべっちって、行動に迷いが無いっていうかさ。隼人くんが尋ねても『あとのお楽しみだべ』とか言って、妙に怪しいんだよねー。今朝さいちゃんが『ログアウト対策なんだけどね』って言い出したら、慌てて教室の隅まで引っ張っていって、内緒でごにょごにょ話してたし」
「それはますます楽しみね。そういえば、そろそろだと思うのだけれど……姉さんと意見が合うというのも不思議な話ね。私も会わないで済むのなら、あまり会いたくは無いのだけれど……」
雪ノ下が時計を見ながら奇妙な独り言を口にするので、八幡と由比ヶ浜が詳細を尋ねようとした瞬間。その声が突然教室に響き渡った。
「可愛い後輩に絡んできた三人組って、どうやら君たちみたいだね。しっかり顔は覚えたし、こっちはログインしてないからね。君たちがログアウトして逃げようとしても遅れは取らないし、校門から外には絶対に逃がさないよ。絶対に」
おそらく現実世界では、モニターに向かって至近距離から話しかけているに違いない。それにこの声の主は、人の話を聞かないで突っ走る性格だ。誰もがそう確信できるほどの行動力を感じさせる声が、そう言い切った。
「生徒会長……ではなくて前会長ね。お変わり無さそうで何よりなのだけれど、去年の嫌な記憶が蘇るわね」
「はるさんも苦手そうにしてたけど、会長はそんなに悪い人じゃないよー」
「ええ。それは時間が経った今なら理解できるのだけれど……って。城廻先輩、いつからここに?」
「教室に着いたのはさっきだよー。会長と少し打ち合わせをしてたからね。でね、ちょっと聞いて欲しいんだ。私がこの世界に捕らわれてから、会長ってば時々こっそり家まで来て、お父さんとお母さんを励ましてくれてたみたいでね。昨日なんか、会長に連絡を取って欲しいってお母さんに言ったら、『お父さんと縁側で涼んでいるわよ』って言われてねー」
マイペースで話し続ける城廻めぐりだが、その内容は奉仕部の三人を唖然とさせるものだった。
在校期間は重なっているものの、昨年度はぼっちを満喫していた八幡は世事に疎い。だから先週の水曜日に前会長の話を聞いた時には「凄そうな人だな」という感想を抱いたのだが。実際に接してみるとインパクトが違うなと八幡は思った。
「仕方がないな……戸部くん。この状況ならたぶん、実演するだけで大丈夫だと思うよ。たぶんね」
前会長の発言を受けて混乱する教室内で、妙に冷静な声があがった。八幡には見覚えの無い制服を着た男子生徒が、戸部に話しかけている。
「あの制服は、まさか……」
そうつぶやく雪ノ下のことも気になるが、八幡は教室前方から目を離せない。指示を受けた戸部と瞬時に頷きを交わし合って、戸塚も行動に出たからだ。彼ら二人が動く理由を把握しているのは、おそらく自分と謎の男子高校生のみ。雪ノ下にすら「詳細が読めない」と言わしめたことを部外者が見抜いたのだとすれば、気を緩めるわけにはいかないと八幡は思う。おそらくは味方だろうとは思うが、長年のぼっち生活ゆえに、つい身構えてしまうのだ。
「な、なにをするんですか?」
「すぐに済むから、少しだけ大人しくしてるべ」
「うん、ちょっとだけだから……ごめんね。この状態でログアウトできるか、試してみて欲しいんだ」
そう言いながら、戸部と戸塚は二人と一人という分担で、彼らの耳の辺りに手を伸ばした。戸部が何やら指示を出して戸塚がそれに従っている。この世界では触ることも触られることも不可能だと説明を受けていた闖入者たちは狼狽するが、戸塚の説明を聞いてこくこくと頷いた。この天使が自分たちに害をなすとは思えないと、一瞬にして心を許してしまったらしい。
「え……『少し待ってからログアウトして下さい』って、なんで?」
「情報の入力がある間はたぶんログアウトの処理を延期するんじゃないかと思ってたけど、やっぱりだね。驚かせる形になって申し訳ないけど、君たちが急に逃げ出すようなことさえしなければ、総武高校の側には話し合いの用意があるって戸部くんが言ってたよ。だから、そんなに身構えなくても大丈夫じゃないかな。たぶんだけど」
「逃げようとしても戸部と戸塚が今みたいに邪魔をするし、あっちでは先輩が待ち構えているみたいだしさ。俺たちとしては、ちゃんと話を付けたいだけだから、逃げないで協力してくれないかな?」
謎の男子生徒の解説に続いて、葉山がそう提案する。戸部との仲や彼の口癖から、葉山は千葉村で聞いた戸部の過去の話を思い出していた。だが、それを確認するのは後だと考えて、話し合いに集中する。
「君がたぶん、戸部くんが言ってたヒキタニくんだよね。そちらの二人も、前に戸部くんが写真を見せてくれたから知ってます。今は文化祭の実行委員と委員ち……責任者さんかな、たぶん」
教室の後方では、件の男子生徒が八幡たちのそばまで歩いて来て口を開いた。その言葉に続けて自己紹介を行う彼に、奉仕部の三人も順に名乗り返す。八幡が「ヒキタニとか比企谷とか呼ばれてます」と告げると頬を緩めて「ため口で良いよ」と答えた彼からは、善良な性格が伝わって来た。
だが、雪ノ下が文化祭を取り仕切っていることを一目で見抜いて「委員長」と言いかけておきながら。ちらりと相模に視線を送ったのを見て言葉を改める辺り、油断はできないと雪ノ下は思う。そもそも、雪ノ下は彼の名前に見覚えがあった。
「……六月の模試で全国一位だったのは貴方かしら?」
「あー、うん。たぶんそうかな。いつの模試だったか覚えてないけど、運良く一位になれたみたいでね。でもあれって、チートみたいなものだから……」
「チートってのは、まあ文字通りズルって意味で使われることが多いんだが……どういう意味だ?」
言葉の意味が通じていない様子なので、考え込んでいる雪ノ下に説明がてら八幡が疑問をぶつける。雪ノ下の横には由比ヶ浜が居たはずだが、どうやら現実世界の前会長と話をしている城廻のフォローに回っている様子だ。なら俺はこちらの相手に専念するかと八幡は思った。
「戸部くんが言ってたけど、文理選択って高三からだよね。だから総武高校ではたぶん、三年かけて高校の範囲を習うと思うんだけど……。僕らは中学で高校までの範囲を全部終わらせちゃって、あとは演習とか応用ばかりしてるからさ」
「東大の合格者数を争う高校なら、どこも似たような状況だと聞いているのだけれど。だから、一位を取れたのがチートだと言うのは、少し違うのではないかしら?」
「まあ、そうだね。気を悪くさせたなら謝るけど、そんなふうに自省していないと、すぐに調子に乗っちゃうと思うんだよ。たぶんだけど、一度でも勘違いしちゃったら、なかなか修正できないからさ。それに一部の例外を除いたら、条件が対等じゃ無いのも確かだしね」
「だからといって、学んでいないことをテストに出すのは不公平だ、などという意見は的外れだと思うのだけれど?」
雪ノ下の厳しい指摘に対して、その男子生徒はお手上げだとばかりに両手を広げて上にあげる。にこやかな表情で「教育論は色んな意見があって、たぶん切りがないからね」と言われてしまえば、雪ノ下とて無理に話を続けるわけにもいかない。だから静かに頷きを返す。
雪ノ下が対話をしている間に上手く機会を捉えて、八幡は由比ヶ浜からこっそりと彼が通う高校の名前を教えてもらった。名前はよく知っていても制服までは知らないよなと思う八幡だが、由比ヶ浜によれば制服もわりと有名らしい。都内の進学校なのに千葉にまで知れ渡っているとは凄いなと、八幡が妙な感心の仕方をしていると。
「でも、ヒキタニくん……のほうで良いのかな。君もたぶん、ログアウトの邪魔をするアイデアには気付いてたんでしょ?」
「まあ偶然だけどな。こいつらにゲームマスターの論文を解説して貰ったから気付けたんだし。雪ノ下が思い付けなかったのはゲームに縁が無いからだろうしな。バグを利用した裏技とか、そういう発想までこいつがするようになったら、俺の存在価値が無くなるから勘弁して欲しいんだが」
「なるほど、発想の経路は理解したわ。耳の周囲の感覚については私も引っかかってはいたのだけれど、味覚と知覚と聴覚に関して何か実験でも行うのだろうと理解して、それ以上は何も考えていなかったのよね」
「ふうん。戸部くんが言ってたけど、奉仕部って面白い関係みたいだね。たぶん顔面神経は味覚だけ、三叉神経は耳の周囲の知覚だけを機能させてると思うんだけど、考えてみたら凄い技術だよね。あ、もしまたログアウトを阻止したい時があったらさ。耳の後ろ側の知覚は脊髄経由だから、耳と頬骨のあいだ辺りに手を当てたらたぶん効果的だと思うよ」
先程トロッコに乗った時に由比ヶ浜が頬に手を当てて固まっていた光景を思い出した八幡だが、幸いなことに当人は前会長の相手で手一杯で、こちらの話が聞こえていないみたいだ。雑念を払うような気持ちで、八幡が口を開く。
「さっき戸塚が戸部に指示されてたのはそういう意味か。なるほどな。……あのな。夏休みに、たぶんお前さんのことだと思うんだけど、戸部が小学生の時の話をしたんだわ。サッカーのチーム分けで、いきなり指名されたんだっけ?」
「一番は運動ができる奴で、二番目が僕だったかな。たぶん戸部くんのことだから『深い意図はなかったべ』とか言ったんだろうけど、早い段階で名前を呼んで貰えたのが嬉しくてさ。嫌味に聞こえたら申し訳ないんだけど、僕にとっては模試の結果よりも、あの時に二番目に呼ばれたことのほうがね。今もよく覚えてるよ」
「いや、なんかその気持ちは解るわ。まあ俺だったら、模試の結果も普通に喜んでるとは思うけどな。なんつーか……一歩を踏み出す切っ掛けを貰えた、みたいに考えてるんじゃね?」
「うん、そんな感じ。でもさ。模試で結果を出したいなら自分で頑張れば良いけど……巡り合わせとかって、たぶん自分だけではどうにもできないからね。だから僕は、今も戸部くんには感謝してるんだ。それに、模試とかで学力を測るだけではたぶん、見えないものがあるからさ。今日はここに来て、君たちとも実際に話ができて良かったよ」
「こちらこそ、良い刺激を得られたわ。戸部くんに感謝をすることになるなんて、昨日までは思いもしなかったのだけれど」
「あー、こいつの言葉に悪気はないから、ちょっと勘弁な。俺は逆に『結果を出したいなら自分で頑張れば良い』ってのが気に入ったわ。いくら巡り合わせが良くても、そこを怠るのもダメな気がするんだよな」
八幡が既に良い巡り合わせを得ていることを。それが誰と誰のことを指すのかまでを理解して、それでも口に出すような野暮なことはしない。ただ温かい目を向けられて、徐々に八幡は居心地の悪さを感じ始めていた。その時。
「話は大体まとまったから、ちょっとだけ比企谷も来てくれないか?」
葉山にそう呼ばれて、八幡はそちらに向けて移動する。いつから居たんだと驚きの表情を浮かべている中学の同級生連中を確認しながら、何を喋ったものかと考える八幡。だが、なるようになると思えたので、八幡は深く考えるのを止めた。
「昨日ぶり、か。まあお前らが声を掛けても、大勢が集まることはないと思ってたけどな。ああ、集まらなかった一番の原因は、俺が絡んでいるからだろ。興味を持たれてねーのは知ってるから、そう騒ぐなって」
三人が聞こえよがしに会話をしても頑なに無視していた昨日の八幡とはうって変わって、今日の八幡は別人のようだと感じてしまった中学の同級生たち。それは本日の付き添い役である新顔の三人も同じだったみたいで、彼らは一様に口をぱっくり開けたまま身動きしていない。
「で、だ。昨日言ったよな。俺が文実を辞める代わりに、俺以外の生徒には関わるなって。俺の恥ずかしい過去を暴露されるのは仕方がないとして、これ以上は文化祭の邪魔をしないで欲しいんだが」
「ああ、比企谷の過去の話は俺がストップをかけたから、特に何も聞いてないよ。誰にだって知られたくない過去はあるし、終わった話をいつまでも言われるのはつらいからね」
「ほいよ、了解。んで、どんな風にまとめたんだ?」
「明日また来るって宣言した手前、引っ込みがつかなくなっただけだと思ったからさ。比企谷に関わるのを止めて、普通に文化祭を楽しんで帰って欲しいって、そんな感じだね」
「こいつらが素直にそうしてくれるなら、こんなに苦労してないんだよなぁ……」
そう言って不満を漏らす八幡だったが、相手の反応は違った。葉山の言葉にぶんぶんと首を縦に振っている。そんな彼らを見て、八幡は狐につままれたような気持ちがした。
だが彼らからすれば、その表現は自分たちにこそ適しているという気持ちだった。昨日の見るからにリア充な女子生徒とも、そしていま目の前でリア充オーラを放っているこの男子生徒とも、八幡は普通に会話を交わしている。いや、むしろ八幡のほうが立場が上だと示すかのように、ぞんざいな発言すら飛び出している。
八幡が昨日あざとい後輩に漏らしたように、彼らは八幡の話を聞いていない。八幡がたとえどんなに正しいことを言おうとも、彼らがそれに納得することはない。だが彼らが理解できる光景を見せつければ。つまり八幡がもはやカースト底辺の存在ではないと、彼らにも解るように印象付けさえすれば。彼らはもう、八幡に関与することができなくなる。
なぜならば、八幡がカースト底辺に安住していたからこそ、彼らは見下すことができたのだから。その前提が無くなってしまえば、今も昔もカースト下位の存在に過ぎない彼らにできることは何もない。
「んじゃ、まあ……もう会うことも無いだろうけど、お前らも頑張れよ」
無言で椅子から立ち上がって、八幡の言葉に応えることなく教室を去って行くことが、彼らのせめてもの意地だったのだろう。入り口の前で彼らに頭を下げられた付き添い役の三人は、互いに首をすくめて苦笑し合った後で、いち早くこの世界から去って行った。それを追うように、闖入者たちも廊下に出てすぐにログアウトを選択する。
彼らの口から八幡の話題が出ることは、この時を最後にぴたりと止まった。
「お兄ちゃん、やっぱりこの世界に巻き込まれてから変わったなー。ちゃんと録画できてると良いんだけど」
「こういうのって親馬鹿……じゃなくて妹馬鹿って言っていいのかな。あ、でも録画できてたら私にも見せて下さいね。八幡のさっきの言葉とか、参考にしたいし」
「しっ。雪乃さんと結衣さんには見られちゃったけどさ。お兄ちゃんたちとは、完全に解決してから会うって決めたんでしょ。ちゃんと隠れてないと、見付かっちゃうよ?」
「小町さんが見付かったらゲームオーバーだと思うから、それ、むしろ私が言いたいセリフなんですけど……」
教室の片隅では小町もこっそり控えていて、今は小さな同行者と同レベルの言い争いを繰り広げていた。だが指摘されて撤収の頃合いだと思ったのか、彼女らはこっそりと教室を後にする。憂いなく文化祭を堪能できるという心境で、二人は別の教室へと移動する。
「あ、八幡のクラスの劇は、観なくて良かったんですか?」
「あのね、世の中には知らないほうが良いことってあるんだけどさ。あの人の趣味はまさにそれだよ」
この時ばかりは年長者の顔で、この上なく真剣に忠告をする小町だった。
「今年度に入ってからの話は昨日城廻から聞いたよ。君が先輩と同じ性格だろうと決めつけて部活の邪魔をして、本当に済まなかったね。絶対に許されないことだと思うけど、この借りは何年かかっても返すよ。絶対に」
「いえ。こちらも意地になっていた部分がありましたし、終わってしまったことは仕方が無いので、お気になさらず。むしろ、姉さんによって迷惑をこうむった者同士、今後は先輩と協力できると思うのですが、いかがですか?」
「おお、それは願ってもない話だよ。絶対に先輩の思い通りにはさせないと頑張ってはきたものの、一人で立ち向かうには厄介な相手だからね。連絡してくれたらすぐに駆け付けるから、絶対に声を掛けてくれよ。絶対に」
「ええ、では同盟成立ということで。とても有意義な会話になりました。今後ともよろしくお願いします」
小町が教室を去った頃、部屋の奥のほうでは一つの盟約が結ばれていた。その場に居合わせた由比ヶ浜と城廻の表情が固まっているのもむべなるかな。両人が胃を痛める展開にならないことを願うばかりである。
そして、教室の別の場所では。
「ねえ。同じ部活のあの二人は仕方が無いし、葉山くんが誰にでも優しいのも知ってるけど、なんであいつの為にこれだけ大勢が集まるのよ?」
「生徒会長はともかく、前の会長まで来るなんて普通思わないよね。うちのクラスに限っても、戸塚とか戸部とか、あと今回は大和も大岡も変にあいつに肩入れしてるしさ」
「あと、受付のお針子さんもだね。でもさ、まさかあの制服を見るなんて思わなかったよ。しかもあいつの味方だっていうんだからさ」
「戸部の友達っていうのが、ホントありえないよねー。で、相模さん、どうするの?」
外部には声が聞こえない設定にして、歯に衣着せず話し始める彼女らに圧倒されていると。どこか呆れたような表情で一人が相模に問い掛けた。
「えっ。どうするって、何が?」
「南ちゃん、ちょっとそれは鈍すぎないかな。あいつが文実を辞めたのは文化祭の邪魔をさせないためだって、同伴した実行委員に聞かれちゃったじゃん」
「それ、でも、昨日もうちはそう聞いたんだけど?」
「南はそんなこと聞いてないでしょ。あくまでも、さっき初めて聞いたんだってことにしとかないと」
絶句している相模を尻目に、彼女らの会話は進む。
「でもさ、相模もまずったよね。文実であいつを謝らせたんでしょ。なのに実情はこうでしたってなったら、風当たりが厳しくなるんじゃない?」
「だ、だって今朝、みんながそうしたほうが良いって……」
「問題をびしっと指摘するのと、悪くないことで謝らせるのはぜんぜん違うじゃん。相模さんに頑張って欲しいから相談に乗ってたのにさ。こっちに責任を押し付けようとするのは違うくない?」
全員が頷いているのを見て、相模は得体の知れない恐怖を感じた。この子たちはどこに居るのだろうか。自分から遠く離れた安全な場所から、適当なことを言っているだけではないかと思えてしまう。曲がりなりにも同じグループとして、この半年ほどを一緒に過ごして来たはずなのに。
「うち……うちは、じゃあ、どうすれば?」
「それぐらい南ちゃんが考えてよ」
「だよね。せっかく助言をしても南は活かしてくれないしさー」
「むしろ相模はさ、責任を押し付けようとしてくるじゃん」
「相模さんがちゃんとしてくれたら、こんなこと言わないで済んだのにね」
そこまで言われても、あるいは言われてしまったからこそ、相模は何も言葉を口にできない。逆境に弱い相模にとって、今の状況は既に手に負えない域にまで至っていた。そんなことは、この四人なら簡単に判るだろうに。
「文化祭が終わるまで、別行動にしよっか」
「それがいいかもねー」
「じゃあ委員長、頑張って」
「ちゃんと応援してるからね」
そう言われた相模は、四人に去って行かれる前に、自分から。頑張って足を動かして目立たないように教室を出ると。相模はそのまま、いずこへともなく去って行った。
***
「あれ、さがみん……?」
相模が居なくなったことに最初に気付いたのは、やはり由比ヶ浜だった。教室に残っている相模とは同じグループの女子生徒たちに違和感を覚えて、由比ヶ浜は相模が姿を消したことを悟った。
「ゆきのん、早く部室でお昼にしよっ。ヒッキーも呼んでくるから……」
「ええ。ではすぐに移動しましょうか。城廻先輩、ログインにはまだ時間が掛かりそうですし、また近いうちにとお伝え頂けますか?」
由比ヶ浜の声の調子から、雪ノ下も瞬時に状況を悟ってそれに同意する。続けてすぐ横にいる城廻に話しかけると。モニターの向こうで待機しておく必要がなくなったのでログインに向かった前会長にあてて、雪ノ下は伝言を託す。
戸塚のそばを離れまいとする八幡を何とか連行してきた由比ヶ浜と合流して、三人は部室に移動した。
「つまり、相模がグループの連中に見捨てられたってことか?」
「えっと、見捨てるっていうか……絶交とかじゃなくてさ。距離を置いた的な感じっていうのかな」
「私はそうした機微には疎いから、由比ヶ浜さんに確認したいのだけれど。今朝の文実の話し合いで相模さんが比企谷くんを責めていたじゃない。あれは、その子たちに唆された部分があったのかしら?」
「うーん。可能性はけっこうあると思うんだけど、さがみんが変な考えに取り憑かれて暴走したのかもだしさ。さがみんって余裕が無くなると、よくあんなふうになっちゃうんだよね……」
実は原因はその両方だったりするのだが、そうした正確な情報は今この場では求められていない。それよりも、どうすべきか。
「ぶっちゃけ、閉会の挨拶は藤沢だし、相模が居なくても特に問題は無いんだけどな」
「でもさ、奉仕部に依頼されたわけじゃん。さがみんに都合の良い依頼だったけどさ」
「そうね。私たちが仕事に取り組む姿を見せて、何かを感じ取ってくれたらと思っていたのだけれど。他人の意識に影響を及ぼすのは、やはり難しいわね」
「あのな。この間なにかで読んだんだが。たしか……『賢者は、自分が愚者に成り下がる危険をたえず感じていて、だから愚劣さから逃れようと努力する』とかなんとか書いてたな。相模はその逆で、努力から逃げて愚者になってるだろ。厳しいことを言うようだけど、今の状況って当然の帰結じゃね、って思うんだよな」
「本来であれば、『その努力のうちにこそ英知が』宿るのだけれど。ただ、相模さんの目的はそこには無かったのでしょう?」
「うん……。目立ちたかった、ちやほやされたかった、って感じだよね。さがみん、どうしてこんなふうになっちゃったんだろ?」
「さあな。とりあえず、前に雪ノ下が言ってただろ。『一歩を踏み出せれば違ってくる』とか。まあ葉山が『第一歩を踏み出すのが一番難しい』とも言ってたけどな」
「あ、そういえばさ。今日来てくれたとべっちの……」
「ええ、彼の場合も同じね。比企谷くんが先程『一歩を踏み出す切っ掛けを貰えた』という意味かと尋ねたら、同意していたわよね」
「でもなあ……。相模の第一歩って、何をすれば良いんだ?」
「いずれにしても、『相模さんを含めた全員で』と葉山くんと約束をした以上は、見捨てるという選択肢は無いのだけれど。姉さんが来た時の話し合いは、二人とも覚えているでしょう?」
「だよなあー。ま、とりあえずは内々で捜索届けを出して、探しながら説得方法を考えるしか無いんじゃね?」
投げやりなようでいて、それが実は時間を無駄にしない提言であることを雪ノ下も由比ヶ浜も理解している。そして、以後は相模に代わって名実ともに文実を取り仕切ることになる雪ノ下はもちろんのこと。形の上では八幡から文実の役職を引き継いでいる由比ヶ浜にも、相模を探しに行く余裕は無い。だから、捜索に最適な人材が誰なのかを、三人は口に出さずとも理解していた。
「比企谷くん……よろしくね」
「ヒッキー……お願い」
静かに立ち上がって行動を開始する八幡に、二人は最低限の言葉を届ける。これで充分に伝わると、そう確信しているから。
二人に対して言葉は返さず、ただ片手をひらひらさせて。八幡は奉仕部の部室を出て行った。
***
切っ掛けは、二年に進級したとき。由比ヶ浜と立場を違えてしまったときだった。三浦に見出された由比ヶ浜は、去年にはあったおどおどした様子などすっかり消えて、瞬く間にクラスのトップカーストの座を不動のものにした。そして今や、あの雪ノ下と並ぶようにして全校の頂点に君臨している。
そう。本人の気さくな性格もあって普段はあまり意識されないが、由比ヶ浜がこの半年で築き上げた地位は生半可なものではない。そしてそれを意識するたびに、自分の不甲斐なさを感じてしまう。
二年F組の教室を離れた相模は、できるだけ人が少ない廊下を辿って、今は職員用のトイレの個室に引き籠もっていた。
自分と由比ヶ浜とで何が違うというのだろうか。それは何度となく相模が自問したことだったが、実際のところは自分でも解っていた。明るい性格、人当たりの良さ、他人に親身になれるところ、上半身の一部分。それらのどれ一つとして、相模は由比ヶ浜に遠く及ばない。
その由比ヶ浜と、あの雪ノ下。二人と近しい距離に居る男子生徒に目を付けたのは、我ながら慧眼だったと相模は思う。夏休みの花火の時に話の切っ掛けを作って。二学期に入って彼がクラスの注目を集めた時には「動くのが遅かったか」と焦ったものだが。同じ実行委員になれたのは幸いだった。
そして彼を伝手にして雪ノ下と知己を得て。何度思い返しても、ここまでの流れは悪くなかったのに。どうしてうちは今、こんなことになっているのだろうか。
あの二人と並び立つ自分を想像してしまったのが、良くなかったのかもしれない。大それた望みだったのかもしれない。でも、うちだって。あの二人のようになりたかったから。あの二人と、色んな話をしてみたかったから。
そして相模は気付く。うちは、あの二人と同じ立場になりたい以上に、あの二人と友達になりたかったんだ、と。そして友達になるだけなら、別の道もあったということに。
だが、今さら気付いても遅い。せっかく奉仕部に依頼までして、でもうちは満足に役職を勤め上げることができなかった。あの二人に迷惑ばかりをかけて、挙げ句の果てにはこうして独りで逃げ出している。さすがに愛想を尽かされても仕方が無いだろう。
先程「責任を押し付けないで」と言われた時のことを相模は思い出す。あの子たちにも見捨てられてしまった。自分にはもう何も残っていないと相模は思う。いや、むしろ。相模が居なくなって、あの子たちもせいせいしているだろう。由比ヶ浜はそんなことは思わないだろうけれど、相模が居なければ由比ヶ浜の気苦労が減るのは確実だ。居るだけで今までずいぶんと迷惑を掛けてしまった。
そして。最後に相模は同姓の後輩を思い出す。相模・ゲーム・男だから頭の文字を繋げてサゲオ。これだって、三浦があの男子生徒を呼ぶのを聞いて、それを真似て作ったものでしかない。どこまで行っても紛い物の自分が、あの子にそんな呼び名を付けるから、罰があたったのかもしれない。うちが居なくなれば、あの子もほっとするだろう。直接言葉を交わしたことはほとんど無いけれど、小学生から数えて十年にも亘る付き合いなのだ。
でも。自分が居なくなれば丸く収まると理解してなお。相模は他人に期待してしまう。見捨てられたくないと思ってしまう。
相模は昨日、文化祭を色々と見学した末に教室に戻ってきた時のことを思い出す。入り口の受付に控えていたあの男子生徒のことを。うちらに嫌われていると分かっているのに、それに文句を言うこともなく。うちらに見下される境遇をそのまま受け入れていた彼のことを。うちには、あんなに平然とはできないと相模は思う。あの二人と近しいだけあって、彼もまた他とは、うちとは違った存在なのだ。
さて、こんなところに居ても仕方が無い。誰かに見付けて貰わないと、うちは何にもできないから。独りで消えるなんて絶対に無理だから。だから、独りになれると同時に見付けてもらいやすい場所に行かなければならない。
トイレを出た相模はゆっくりとした足取りで、早朝に集まった中央階段へと足を向けた。
***
『我だ。トロッコの中できゃっきゃうふふしていた裏切り者よ、何の用だ?』
「いや、だからお前、なんでそんなピンポイントに情報通なんだよ……」
相模を探し始めてから、ずいぶんと時間が過ぎてしまった。このままでは埒が明かないと考えた八幡は、自分が頼れる中で唯一暇そうな男に連絡を取った。材木座義輝はその期待によく応え、ノータイムで通話を繋げるとこんなことを言ってきた。八幡から受けてきた扱いを思えば、この程度の反撃ぐらいは許されても良いだろう。
『して八幡よ、何用だ?』
八幡が簡単に事情を説明すると、材木座は相模が居そうな場所を幾つか挙げて、そして意外な話を出してきた。
『仮想世界に来てまでゲームをするよりは他を見ようと、どうも敬遠されているようなのだ。我もいくつか梃子入れ案を出したが、やはりボドゲ好きは少ないみたいでな……』
「つまりぶっちゃけ、遊戯部の二人は暇なんだな。お前は今どこにいるんだ?」
『はぽん、奴らとともにゲーム三昧よ。そろそろ我のチップが無くなりそうなのだが……八幡よ、我に賭けぬか?』
世迷い言は却下して、八幡は彼らに協力を要請した。そして二手に分かれることを提案する。材木座とあと一人には新館に向かわせて、八幡は屋上に向かう。だから遊戯部のどちらか一人にもそちらで合流して欲しいと。
屋上に上がるためには鍵を何とかする必要がある。材木座に指示を出しながら、八幡は大急ぎで二年F組の教室へと向かう。昨日の開会式で相模が宙に舞う原稿を追いかけていた時に、思い出した記憶がある。教室までほんの僅かという辺りで、材木座から出陣準備が整ったとの知らせを受けた。
「じゃあ、そっちは頼むわ。正直助かった。材木座、愛してるぜ!」
『ふっ、我もだ!』
叩き付けるように通話を切って材木座へのツッコミに代えると、八幡は受付の前まで一気に駆けた。八幡の勢いに驚いた川崎が目を白黒させているが、構わず一方的に話しかける。
「なあ、前に屋上に出てたことがあったよな。職場見学の紙を見られた時に。屋上って普通は鍵が掛かってると思うんだが、どっかに合い鍵とかあるのか?」
「ああ、なんだか懐かしいね……って、合い鍵はないんだけどさ、そもそも鍵が壊れてるんだよ」
のんびりと昔話を始めようとした川崎に血走った目を向けたからか、少しだけ涙目にさせてしまった。濁って腐って血走ってだとこんな反応になるのも仕方が無いね、などと無理やり自分を慰めながら、八幡は情報提供を促す。そして即座に踵を返して走り出そうとしたところ、シャツを掴まれてしまった。
「ちょ、ちょっと。それが一体どうしたって言うのさ?」
「ちょっと人捜しでな。正直助かった。川崎、愛して……る……いや、あの」
勢いのままに言葉を残して走り去ろうとした八幡だったが、自分が何を言おうとしたのか途中で気付いてしまい、しどろもどろになってしまった。顔を赤くしてしばしうつむく二人。だが何とか、川崎が先に再起動を果たした。先ほど八幡の声が聞こえていたのが大きかったのだろう。
「あんた、さっき材木座にも言ってたよね。どうせ、同じノリで口に出たんだろ?」
「あー、まあな。……すまん、ありがとな」
「いいよ。じゃあ無事に見付かるようにここで祈ってるからさ。行って来な」
応援の言葉といい、材木座のことをちゃんと覚えていることといい、怖い見た目の割には良い奴だよなと八幡は思う。あの二人に向けたのと同じように片手をひらひらさせて、八幡は中央階段から屋上を目指す。
***
フェンスにもたれて屋上の入り口をじっと見つめていると、ぎいっと音がした気がした。しかし扉に目立った動きが無いので、気のせいかと思い始めた矢先のこと。勢いよく扉が開かれて、誰かが屋上に姿を見せた。
比企谷ともヒキタニとも呼ばれている、今はできれば会いたくなかった男子生徒がそこに立っていた。
「ふう、探したぜ。有志の出し物もあと少しだし、体育館に戻るぞ」
「うちは行かない。あんただけ行けばいいじゃん」
来てくれたのがあの二人なら最高だったのに。いや、でも今は合わせる顔が無いから最高には程遠い。もしもあの四人が来てくれたら、それだけでうちはもう充分なのにな。
男子なら、やっぱり葉山が良いと相模は思う。でも有志の出し物があるから、こんなところには来てくれないだろう。うちも観たかったなと思うが、三浦たちと共演しているのだと思えば興味も薄れてくる。
「はあ。何を意地になってんだよ。うちの部長様がな、『最後まで仕事ぶりを見て貰ってこそ、依頼を果たしたと言えるのではないかしら?』とか何とか言っててな」
「何それ。依頼なんて、別にもういいじゃん。文化祭は無事に終わりそうだしさ。うちが居なくたって……」
「何だそれ。もしかしてお前、お仲間に見捨てられたのか?」
「うるさい。あんたには関係ないでしょ!」
少しだけ声を荒げた相模に、八幡は付け入る隙を見出した。どうせ時間も無いことだし、相模に嫌われたところで、今と何が違うのかと考えるもほとんど何も違わない。
「見捨てられてぼっちになったのなら、俺のほうが先輩だからな。快適なぼっちライフのコツでも教えてやろうか?」
「だから違うって言ってるじゃん!」
「はあ。じゃあ、なんでそいつらは来ねーんだ?」
「う、うっさい。そのうち来るもん」
拗ね始めた相模を見て、その予想以上に打たれ弱い姿を思わずガン見してしまう。
「なあ……お前、それでよく上位カーストとか維持できてたよな」
「なんなのよ。もう、なんなのよあんた。ぼっちのヒキタニくんには関係ないでしょ!」
嘲るような口調で偽りの苗字を呼ばれたが、八幡には何ほどのことでもない。
「ぼっちでもリア充でも、あんま変わんねーなって最近は思うわ。ま、逃げてばっかで一歩を踏み出せないお前には関係ないかもしれないけどな」
「なんっ……んなっ?」
その時、大きな音とともに屋上の扉が開いて、一人の男子生徒が顔を見せた。その生徒の苗字は、相模。八幡に反論しようとして扉の音に出鼻を挫かれ、そして現れた男子生徒の顔を見て奇声を上げてしまった相模とは同姓の、しかし血の繋がりは無い後輩がそこに居た。
二人の相模の間に流れる微妙な空気を感じ取って、八幡が口を開く。
「……なあ。お前らもしかして、直接話したことってあんまねーのか?」
「そ、そんなのあんたには関係ないでしょ!」
「てか先輩。探していたのがこの人だってことぐらい、前もって教えて下さいよ」
「いや、俺は材木座に『実行委員長を探してる』って伝えたはずだが?」
「あ、分かりました。後で有り金を巻き上げておきますね」
「おう。情けは無用だからな。どんどんやれ」
「ちょ、あんたたち。勝手に盛り上がってないで説明してよ。どういうこと?」
「いやだから、雪ノ下からお前を体育館に連れてくるよう指令を受けてるんだわ。由比ヶ浜からはお願いかね。んで、一人で探すのも限界があるから助っ人を呼んだってだけなんだが?」
「はあ。何でよりにもよって、あんたとこいつなのよ……」
「ま、ちょうど良い機会なんじゃね。あのな。雪ノ下も葉山も、それから今日来てた戸部の友達も言ってたけどな。一歩を踏み出すのが重要らしいぞ。お前らの過去の話は由比ヶ浜から聞いたけど、お互い言いたいことが積もり積もってるんじゃねーの?」
「まあ、そう言われたら、そうですね。先輩の言う通りです」
「はあ。あんたがうちに、何を言いたいっていうのよ?」
「はいはい。ちょっと落ち着け。んじゃ俺は陽乃さんの出し物を見に行くから、後は若い人たちに任せるわ。閉会式は絶対に見に来いよ。じゃないと後悔するぞ。絶対に」
誰かの口癖が移ってしまったなと思いながら、八幡は二人の相模に背中を向けると屋上から出ていく。そして二人が取り残された。
「ねえ……あんた、言いたいことって何よ?」
「……例えば、『サゲオ』とか?」
「うぐっ。そ、そんなの仕方ないじゃん。冗談で言っただけなのに、一夜明けたらあんなに広まってたなんて思わないでしょ!」
「え、誰が付けやがったんだって思ってたら、あんたかよ……」
「あれ、うちだって知らなかった、の……。あーもう、それよりも。あんたがあんたって言うのは先輩に失礼でしょ。ちゃんと相模先輩って呼びなさいよ」
「普通に嫌ですが、何か。先輩って呼ばれたいなら、尊敬されるようなことをしてからにして下さいよ」
「でもさっき、あいつのことは先輩って呼んでたじゃん」
「あの人にはお世話になったし、勝手に恩義を感じてるんですよ。あなたと違ってね」
「だから、なんでみんなうちのことを適当に扱うのよ。呼び方も適当だし、もう!」
「いや、他の人の所行まで俺のせいにするのは、止めて欲しいんですけど?」
「そもそもあんたが年下なんだから、別の学校に行けば良かったのに。どうして高校まで同じところに来るのよ?」
「それは……うん、確かにごめんなさい。仮想世界に参加を決めていた高校の中で、ここが一番良かったんですよ。それに、俺のせいで連れに志望校を下げさせるのも良くないって思って。あなたが嫌がるのは分かってたし、それは本当にごめんなさい。でも俺、総武に進学したのは良い選択だったって思ってます」
「う。そう素直に謝られたら、うちも悪く言えないじゃん。うちには仮想世界の良さは人並みにしか分からないけど、あんたはゲーム好きなんでしょ。なら良かったじゃない。連れの話も、そんなのを聞いちゃうと文句を言いにくくなるよねー」
「まあ、あれだけ仲良くなれる奴は他に居ないんじゃないかってぐらい、気が合うし一緒に居て楽しい相手ですよ」
「え、あんたもしかして、そっちの……」
「当たり前だけど、そういうのとは違いますよ。てか、すぐにそんな発想が出て来る辺り、なんだか毒されてません?」
「あ、ちょっと心当たりがあるかも。うちのクラスの海老名ってのがさ」
「その名前は今やかなり有名になってるらしいですよ。その手の愛好家には絶賛されてるって」
基本的に、女性の相模はへたれである。だがそんな性格だからこそ、話が盛り上がってきたら以前のいきさつを忘れて、つい楽しく会話を重ねてしまう傾向があった。確固たる信念が無くとも、たとえ少し前に話したことを忘れてしまうようなうっかりさんでも、場合によってはそれが長所になることもある。
「あ。だらだら喋ってたけど、大丈夫ですか?」
「えっ。あれ、もうこんな時間……葉山くんのバンドも終わりかけてるじゃん!」
「それ、俺のせいじゃ絶対ないですよね?」
「あんた以外のせいなわけ無いでしょ。あ、そういえばあんたさ」
「はあ。あなたに改まられると、何を言い出されるか怖いんですけど」
「それそれ。ちゃんと呼び名を指定するから、うちのことは『南先輩』って呼びなさい」
「絶対に嫌ですが、何か?」
「だってやっぱりさ。あんたに『相模』って呼ばれるの、なんか落ち着かないのよね。いくら『先輩』って続いてもさ。だから特別に、名前で呼ぶのを許してあげる」
「まあ、『相模』って呼びにくい件は同意しますけどね。名前でなんて呼べるわけないでしょ」
「へーえ。うちのことを色々言っておきながら、名前を呼ぶのは恥ずかしいんだ?」
「いいでしょう。安い挑発に乗ってあげますよ。えーと、南先輩……これで良いですか?」
「あ、うん。え、なにこの変な感覚。……もう。あいつに言われたからじゃなくてさ。ちょっと閉会式に興味があるから、今から急いで体育館まで移動するよ!」
「ちょ、俺を置いて行く気満々でしょ。なんで急にそんな元気になってるんですか」
小学生の頃から数えて十年。それだけの年月を経て、ようやく一歩を踏み出せたことを。その意味を二人が理解できるまでには、まだ少し時間が掛かりそうだった。
できる限りオリキャラは少なめに、それよりも原作キャラを活かすようにと心掛けていますが。。
本話の展開上、外部の協力者が必要だったのでオリキャラ活躍回となりました。
オリキャラは好きじゃないという方々には申し訳ありません。
以下、簡単な紹介を。
・戸部の友達(たぶんの人)
初出:4巻4話
学力チート、性格善良、運動ダメダメ。
・前生徒会長(絶対の人)
初出:6巻7話
行動力チート、人の話を聞く前に身体が動くタイプ。
次回の更新は、可能なら今週の金曜深夜、それが無理なら来週の月曜深夜の予定です。
ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。
追記。
変な改行と誤字を一つ修正しました。大筋に変更はありません。(3/22)