俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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今回から原作6.5巻に入ります。
引き続き、よろしくお願いします。



原作6.5巻
01.ざして待つよりも彼女は自ら責任を負うべく動く。


 九月最後の金曜日、生徒会室には重苦しい空気が立ち込めていた。土日を過ぎると月曜日はもう十月。体育祭は目前に迫っているというのに。

 

「今日の放課後まで募集を延期しましたけど……誰も来なかったですね」

 

「推薦だとほとんど強制になっちゃうし、だから立候補を募ったんだけどねー」

 

 誰かのつぶやきに、城廻めぐりがそう応えた。ここに集まっている生徒会の面々にとっては周知の事実だが、敢えてそれを言葉にして、方針に変更はないと暗に伝える。少なくとも、今日が終わるまでは。

 

 だが、そんな生徒会長の意思を尊重して口にこそ出さないものの、役員たちはいずれも何か物言いたげな表情を浮かべていた。

 

 いくら城廻が代替案を模索したところで、「大勢の生徒から推薦を受けるであろう候補者」が実在する以上は難しい。沈黙が支配する部屋の中で、おずおずとした声が上がった。

 

「でもやっぱり、運営委員長は雪ノ下先輩にお願いするしか……」

 

 全員の頭にあった案に言及したのは、一年の藤沢沙和子だった。先程この教室に呼び出された藤沢は、生徒会の役員ではないにもかかわらず、委員長への就任要請を断った後もそのままここに残っていた。

 

「うーん、それしか無いのかなー。生徒会から委員長を出す余裕は無いし。二年だと葉山くんや三浦さんが知名度では群を抜いてるけど……」

 

「葉山を委員長にしたら、運動部の取りまとめをする奴が居なくなりますね。三浦さんは、委員長って役柄に収まるような性格とは思えないですし」

 

 既に何度も検討したことを、城廻がぼそっと口にする。話を引き継いだ役員がすらすらと説明を加えるが、そこに新たな知見は何もない。つい先刻も藤沢に語って聞かせた通りの内容だ。

 

「だからといって、雪ノ下さんや奉仕部にばかり頼むのもねー。文化祭でも頑張ってくれたし、もうすぐ会長選挙もあるし。今回ぐらいは休ませてあげたいなーって」

 

「その、友達も大人しい子ばかりだし顔見知りの先輩も少ないので、委員長を務めるのはちょっと……」

 

 引っ込み思案ではあるものの、藤沢はこれで意外と責任感が強い。だが「もっと社交的な性格だったら引き受けられるのに」と落ち込ませては、その責任感も宝の持ち腐れとなる。まだ一年なのだし、できないことはできないと申告してくれたほうが、下手に抱え込まれるよりも遙かに良いのだが。

 

 先ほど就任要請を断った時も、藤沢は恐縮がっていた。呼び出しに応えてここまで来てくれて、話が終わった後も居残ってくれて。それだけでも、気持ち的には助かってるんだけどな。そう考える城廻は、八方塞がりの状況でも前向きな表情を崩さない。

 

「無理を言ったのはこっちだし、生徒会のみんなと一緒に考えてくれるだけでも、すっごく助かってるよー。だから、ここに居る全員で頑張ろう。おー!」

 

 それに、こうして藤沢を生徒会に引き込めている時点で、城廻からすれば望外の状況だ。もちろん当人の意向は尊重するが、もし彼女が次期執行部に加わってくれれば懸案が一つ解決する。生徒会に興味のある一年生を、現執行部は未だ見付けられていないのだから。

 

 最優先事項は会長人事だが、役員人事もそろそろ固めておくべき時期に入っている。体育祭は選挙前にある最後の大きなイベントで(二年生は修学旅行も控えているが)、ここで新たな人材が登場しない場合は、会長も役員も既存の候補から選ぶ形になるだろう。

 

 そもそも、文化祭の実行委員会で藤沢を発見できたのが既に奇跡のようなものだ。イベントに過度な期待は禁物と考える城廻は、せっかく得られた人材を早々に使い潰すような愚を犯すつもりは無かった。

 

 だが、この現状を鑑みるに、どこかで誰かに無理をしてもらう以外の方法は無い。最終下校時刻はもう間近。そろそろ腹を括るべきだろう。

 

 生徒会役員の士気を高めるために、自らの声に合わせて率先して拳を突き上げながら。週明けに奉仕部の部室を訪れている我が身を想像して、城廻は誰にも悟られないようにそっと決意を固める。彼女と直接交渉して、体育祭の結果はそのまま受け入れる。万が一、会長選挙に影響する事態になっても、その責任は全て自分が引き受けようと。

 

 

***

 

 

 週明けの月曜日は秋晴れの陽気で、衣替えをした生徒たちがほうぼうで文句を言っていた。お昼とはいえこの暑さでは、彼らの気持ちも解るというものだ。そう考えて苦笑しながら、城廻は特別棟へと足を踏み入れる。

 

 訪問先の主である雪ノ下雪乃には、既に金曜日の夜に約束を取り付けている。彼女のことだから、最優先の用件などはバレバレだろう。とはいえ、こちらの意図をどこまで読まれているのか。それによっては話が違ってくるなと城廻は思う。

 

 少なくとも、彼女が会長選までを視野に入れて身の振り方を考えているのは間違いない。多くの生徒が雪ノ下を本命視していること、城廻の意中の人も同じであることは、特に隠す必要は無いだろう。だが強制はできる限り避けたい。その辺りの意図をどこまで明かしてどこまで相談を持ち掛けるべきか。

 

 第一の目的は、未だ空位になっている体育祭運営委員長のポストを埋めること。第二の目的は、生徒会長選挙を見据えて共通理解を深めておくこと。重要度で言えば後者が勝るが、緊急度は前者が上だ。

 

 歩きながら情報を整理した城廻は、目的の教室の前で少し深呼吸をして。急がずしっかりとノックの音を響かせた。

 

 

「こんにちは、城廻先輩」

 

 すぐにいらえがあったのでドアを開けると、教室の中は紅茶の香りで満ちていた。てっきり一対一だと思っていたが、雪ノ下の挨拶に合わせるようにして頭を下げる二人の部員が目に入る。驚きが顔に出たのか、二人は常になく神妙な態度で座っていた。思わず苦笑が漏れそうになる。

 

「雪ノ下さん、こんにちは。由比ヶ浜さんと比企谷くんも、お昼休みにわざわざありがとねー」

 

 ほんわかとした口調でそう言って、城廻はいつもの席へと歩いて行く。

 

 一学期の途中から雪ノ下とは、お昼休みに時々お茶をご馳走になる仲だ。生徒会長が特定の部室に入り浸るのはどうなのかとも思うのだが、雪ノ下と気兼ねなく話をするのも紅茶を堪能するのも、城廻にとっては他に代えがたい時間になっていた。

 

 普通の依頼人であれば長机の中央辺りに椅子が置かれるのだが、城廻はここに来るたびに、それを雪ノ下に近い位置まで移動させていたものだった。そのうち、城廻が来る時には最初から席が近くに用意されるようになり。今日も由比ヶ浜結衣と向かい合わせになる辺りに座る場所が設けられていた。そこに腰を落ち着ける。

 

「これ、ゆきのんの淹れたてです」

 

 そう言いながら、机の向こうから上半身を伸ばして紅茶のカップを置いてくれた。机に押し潰されている柔らかそうな何かを気持ち羨みながら、由比ヶ浜がもう片方の手に持った紙コップを比企谷八幡に手渡して自席に戻るのを目で追っていると。その間に雪ノ下が運んできたカップが湯気をたてて、由比ヶ浜を出迎えていた。

 

「あ、比企谷くんのカップを取っちゃったのかな?」

 

「いえ。もともと来客用の紅茶セットですし、カップの数には限りがあるのでお気になさらず」

 

「ここでは紙資源の節約とかも考えなくて良いですしね。つーか、別に良いんだけどな。なんで質問された俺より先にお前が返事しちゃうのよ?」

 

 相も変わらず独特のやり取りを見せてくれる。そんな仲の良い二人を交互に眺めながらにこにこしていると、同じような表情を浮かべている由比ヶ浜と目が合った。思わず二人して吹き出しそうになり、慌てて口元を手で覆った。

 

「おい。会長に笑われたのはお前のせいだからな。大人しく依頼を引き受けとけよ」

 

「比企谷くんが余計なことを言わなければ、笑われることも無かったと思うのだけれど?」

 

「もう。二人とも、話が進まないじゃん。笑われたっていっても悪い感じじゃないんだしさ」

 

「……などと、俺たちを笑った片割れは供述しており。反省の色が薄いと判断した奉仕部部長は、このたびの依頼と関連した大量の仕事を押し付けるべく……」

 

「比企谷くん、それぐらいにしておきなさい。城廻先輩、おおよそ予想は付いているのですが、用件をお伺いしても?」

 

 

 そう言われた城廻は、笑いをこらえながら姿勢を正した。おそらく昼食を摂る間に、こちらの意向を推測して話し合いを済ませてあるのだろう。断られることは無さそうだが、ならば次の目標は「会長選挙に悪い影響が出ないように」だ。手早くそこまで思考を進めて、城廻は口を開いた。

 

「こっちでもギリギリまで粘ってみたんだけどねー。十日の体育祭なんだけど、運営委員長がまだ決まってなくて。だから雪ノ下さんに……」

 

「立候補者はゼロとして、私以外の候補者を教えて頂けますか?」

 

「えーっと、葉山くんでしょ。それから……」

 

 発言を遮られても気を悪くした素振りも無く、城廻は指折り数えながら幾人かの生徒を列挙した。特に意外な名前は無かったのか、時おり頷くだけで雪ノ下の表情は変わらない。そして、城廻が口を閉じてから少しだけ間を置いて話し始めた。

 

「一人だけ、候補者に抜けがありますね。彼女が適任だと言いたいわけでは無いのですが……大きなイベントの責任者を務めた経験があり、スキルアップの意欲を持ち、日常に変化を求めている。条件としては悪くないのでは?」

 

「なあ。スキルアップの意欲は今となっては眉唾だし、変化を求めるのも逃避的な意味合いだろ。相模に委員長が務まるとは思えないし、余計に面倒な展開になるんじゃね?」

 

「そっかー、相模さんか……。うーんとね、やっぱり厳しいと思うよ。悪い印象はずいぶん払拭されたけどね。それでも相模さんの下で仕事がしたいかって言われたら、打ち上げで盛り上がってた文実の子でも、二の足を踏むんじゃないかなー?」

 

 ぽかんとしながら雪ノ下の話を聞いていた城廻だが、八幡が相模南の名前を出すと一転して厳しい表情に変わった。親しみを感じさせる口調はそのままに、しかし生徒会長として譲れない部分は譲れないという姿勢を見せる。その理由も妥当なものだ。そう受け取った八幡は、城廻に続けて口を開く。

 

「そういえば、全体の打ち上げで盛り上がってただけで、文実の打ち上げって結局やってないですしね。まあ俺的にはやらないほうが良いんですけど」

 

「それ、さがみんも気にはしてたけどね。クラスのこととか同じグループのことで精一杯みたいでさ。多分このまま流れるんじゃないかな」

 

 話に置いて行かれている様子の城廻に、由比ヶ浜が続けて事情を説明した。

 

 

 文実でのあれやこれやの影響で、相模のグループは今もなお、ぎくしゃくしたままだった。他の生徒たちからすれば、取り巻き連中に見捨てられかけた相模への同情が強い。だからクラスはもちろん校内においても、他人の目がある場所では相模たちはそこそこ仲の良い様子を見せていた。

 

 けれどもグループだけになると、力関係が逆転する。相模一人に対して取り巻きは四人。完全に無視されているわけでは無いらしいが、針のむしろなのも確からしい。

 

 そうしたグループ内部の格差に加えて、彼女らは等しく、一定数の生徒たちから冷ややかな目を向けられている。

 

 原因は文化祭の一日目に、困惑する相模をよそに取り巻きが八幡の悪評を流したこと。それには早とちりという言い訳がなされたが、嘘を見抜いた者や文化祭を締め括るバンド演奏を観たことで八幡に肩入れする気持ちが強くなった者からすれば、相模グループの全員に白い目を向けるのも当然と言えば当然だろう。

 

「まあ、俺が言うのもあれだけどな。外の状況がこんな感じだから内部の問題も余計に長引いてるし、変化を求める気持ちも分からなくはないが……ってあれ。相模が変化を求めてるって、本人が言ってたのか?」

 

「きちんと尋ねたわけでは無いのだけれど。この状況を一手で何とかして欲しい、とは思っているのでしょうね」

 

「まあ、相模らしいっちゃらしいよな。追い込まれるほどに他力を求めるって、戦乱の世に産まれなくて良かったな、あいつ」

 

「さがみん、この間の気晴らしで少しは持ち直したと思ったんだけどさ。やっぱり自分で動くのは難しいみたいでね。でも、あたしには何にもできないしさ……」

 

 そう言って落ち込む由比ヶ浜に、雪ノ下が敢えて強い口調で語りかける。

 

「由比ヶ浜さん。いくら親しい仲でも、一から十まで面倒を見るのは現実的では無いと思うのだけれど。それよりも、私たちに可能な手段を考えるべきね」

 

「話を聞いた限りだと、けっこう厳しい状況に思えるんだけど。雪ノ下さんには、何かいい方法でもあるの?」

 

 

 すっかり本来の目的も忘れて、城廻がほわっとした口調で問い掛けた。それに対して雪ノ下は、ここ数ヶ月で八幡がすっかり見慣れた笑顔を浮かべる。あれは何か良からぬことを企んでいる表情だぞ、と思って身構えるも、もとより回避は不可能だった。

 

「体育祭の運営委員会ですが、現場班は各運動部から人を出して貰って、首脳陣は生徒会を中心とした有志による構成ですよね。では、そこに相模さんのグループ全員を招集することを提案します」

 

「なあ。それって有志って言って良いのかね。志の有無に関係なく強制的に集める形じゃね?」

 

 八幡が真っ当な反論を述べてはみたものの。いくら正論であっても現実との結びつきが希薄な論よりは、人権やら個人の意思などを一部無視した提案でも目に見えた効果が期待できる論のほうが、多くの人にとっては受け入れやすかったりする。

 

「それでも、相模さんたちがきちんと仕事を果たすことで得られるものがあると思うのだけれど。貼られたレッテルを覆すには印象に訴えるのが一番だと、貴方も身に滲みて理解したのではなかったかしら?」

 

「まあ、あれだな。お前が脅して由比ヶ浜が宥めてだと、まさに飴と鞭だよな。相模たちが大人しく参加してる光景が目に浮かぶっつーか、俺の頭の中でドナドナが流れてるんだが。それよりお前、大前提を忘れてないか?」

 

 話について行けていない由比ヶ浜と城廻を順に眺めて、八幡がそう口にした。相模の話をしているのかと思いきや、いつの間にか体育祭の話に戻っているので目を白黒させている由比ヶ浜。そして運営委員長が決まっていないのに委員会の具体的な話を始められて、首を傾げながらも目を輝かせるという奇妙な表情になっている城廻。

 

 そんな二人を雪ノ下もまた順に眺めて、そして今にも弾けそうな笑顔で口を開いた。

 

「そうね。城廻先輩、体育祭の運営委員長に立候補します。私の他には適任が居ない状況ですし、もう日程の余裕も無いので、今回はこの形で進めましょう。ただ、先のことに関しては、まだ未定とさせて下さい」

 

 そう言われて、雪ノ下にも負けないほどの満面の笑みを浮かべた城廻が、勢いよく両手を突き上げた。そのまま対面の由比ヶ浜とハイタッチを行っている。

 

 何もかもを忘れて勢いのままに動いていそうな二人を眺めながら、「また仕事に追われる日々が始まるのか」と辛い現実を見据えようとする八幡だが、抑制が上手くいかず頬の辺りがぴくぴくしているのが自分でも分かる。とはいえ、にやけ顔をこの面々に見られるわけにはいかない。

 

 そうやって八幡が必死に平静を装っていることなど、同じ部活の二人にはまるっとお見通しなのだが、野暮なことは口にしない。目だけで会話をしているのを気付かれて、城廻にも伝わるように八幡の横顔を注視すると、どうやら意図を理解して貰えたようだ。

 

 何故だか顔の辺りに三人の視線が突き刺さるので、遠方を注視したまま動きが取れなくなった八幡が、苦し紛れに口を開いた。

 

「先のことって、もしかして会長選挙か?」

 

「……そうね。私にも色々と思惑があるのよ。あなたたちなら、すぐにわかるわ」

 

 顔を動かさないまま質問を口にした八幡に、思わず吹き出しそうになりながら。雪ノ下はいつか八幡に告げた言葉を繰り返した。それに頷きながら八幡が話を進める。

 

「まあ、それは先のお楽しみとして。十日足らずで体育祭の準備をして、平行して相模たちに結果を残させるのが今回の目的だよな。首脳陣は有志で構成するってさっき言ってたけど、俺らだけだと厳しくね?」

 

 そんな八幡の疑問を受けて、城廻の表情がほんの少しだけ陰る。多少の無理は仕方がないとはいえ、度を超えた無理はさせられない。文化祭では雪ノ下と由比ヶ浜を一日休ませる形になってしまった。そのことに密かに責任を感じている城廻は、難しい顔になって雪ノ下を見つめる。

 

「ええ。だから今回は、使える人員を総動員しようと思うのだけれど?」

 

 雪ノ下には無理を避けさせて、会長選挙への悪影響も避けながら、体育祭を形にする。そんな小難しいことを考えていた城廻は、その発言を聞いて唖然としてしまった。だが八幡も由比ヶ浜も苦笑を浮かべてはいるものの、予想の範囲内という顔付きだ。

 

「要はあれだな、雪ノ下の考えた最強の運営委員会か。まあ、お手柔らかに頼むわ」

 

「優美子と姫菜にはもちろん参加して貰うとして、後は誰を呼ぼっか?」

 

 総動員体制を示唆してはいるものの、文化祭実行委員会での日々を振り返る限り、集まった面々よりも少ない仕事で満足する雪ノ下ではないだろう。そこに少しだけ不安を感じながらも、運営委員会を雪ノ下が率いると決まってわくわくしている自分もいる。

 

 迷った時には前向きに。自分の性格に合った座右の銘を心の中で呟いて、城廻は奉仕部の三人を順に眺めた。私のほうが先輩なのに。苦労を掛ける形になるのに。この三人を見ていると、どんなことでも上手くいくような気がしてくるのが不思議だ。

 

「あ、そうだ!」

 

 思わず手を叩きながら、そう口走ってしまった。ここに来た当初は、委員長を引き受けて貰えればそれで充分だと思っていたのに。いざ実現してみると、別の希望が次から次へと浮かんでくる。そんな自分に苦笑しながら、城廻は首を傾げている三人に向かって、思い付きを説明するために口を開く。

 

「あのね。体育祭ってクラス半々で分かれるでしょ。みんなは何組かなって。ちなみに私は赤組なんだけど……」

 

「俺は赤ですね」

 

「あたしも赤!」

 

「では、ここに居る全員が赤組ね」

 

 三人の答えを聞いて、城廻は再び両手を突き上げた。今度は由比ヶ浜だけでは済まず、雪ノ下とも八幡ともハイタッチを交わしている。そして。

 

「じゃあ、みんなで優勝目指して頑張ろう。おー!」

 

 元気な声とぼそぼそした声と躊躇いがちの声がそれに重なって、まるで発足したての運営委員会の今後の歩みを暗示するかのように、奉仕部の部室から周囲へと瞬く間に広がって行った。

 




6.5巻は5話+幕間で終わる予定です。

本章から読み始めた方々向けに念のため申し上げておきますと、相互確証破壊は前章で既出です。
で、一人で悩んでいても解決しないので、読者の方々に一つ質問があるのですが。

「相互確証破壊」が原作で出て来たのを覚えていなかった、という方はどの程度おられるのでしょうか?

まず明言しておきたいのは、それを責める意図はありません。
仮に原作未読でも本作を楽しんで頂けているのなら、それは書き手にとっては嬉しい事です。

ただ、私が「知っていて当然」という前提で書いている事が、実はそうではなかった場合。
読み手からすれば唐突に話が出て来たように見えるでしょうし、概ね説明不足だろうと思います。

何度か読者さんと話が合わないなと思う時があって、先日ふと「その原因はこれなのかも?」と思い至りました。
特に6.5巻の成り立ちを考えると、アニメのみの読者さんなら知らなくても仕方がないですし。

原作の描写のうち、どの辺りまでを自明と扱えば良いのだろう、というのが最近の悩み事で、一番適切な質問がこの「相互確証破壊」ではないかと思ったので、こうして書いてみました。

できましたら、こっそりで構いませんのでお教え頂けると助かります。


次回は一週間後に更新する予定です。
ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。


追記。
「いらえ→応え」という誤字報告を頂きましたが、「こたえ」と読まれたくないこと・ルビをできる限り使いたくないこと・「いらえ」という言葉を知らずとも文脈で通じると思うことから、これは不採用とさせて下さい。ご報告を頂いて、ありがとうございました!(9/4)

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