俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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前回のあらすじ。

 奉仕部で今まで通りに過ごすよりも、会長選挙で雪ノ下に勝って対等の立場で手助けがしたい。雪ノ下と八幡にも仲を深めてもらわないとその先に進めない。
 そうした由比ヶ浜の意思を受け止めた海老名と三浦は、まずはクラスの支持を固めるために明日の朝一番から動き出そうと結論付けた。

 同じ頃、一色に立候補の継続を決意させた八幡は妹の横でくつろいでいた。
 兄に大きな変化の兆しを見た小町が微妙な思いを抱いていることに、八幡は気付いていない。

 雪ノ下はいち早く行動に出ていた。葉山を呼び出して立候補を封じると同時に、八幡が一色を擁立した場合に備えて協力を要請する。
 会長職に拘る理由は姉のためだと伝えて、雪ノ下は葉山を自陣営に取り込んだ。



05.いり乱れる思惑と行動に彼は翻弄される。

 一夜明けた金曜日、総武高校では全校生徒が久しぶりに顔を合わせた。二年生の中には疲れが抜け切っていない生徒もいるが、その表情は明るい。旅行気分が続いているのが良い方向に働いているのだろう。

 

 とはいえ例外はもちろん存在する。朝から厳しい表情を浮かべている二年F組の三人娘や、ギリギリの時間に登校して休み時間も一人難しい顔で何やら考え込んでいた同じく二年F組の男子生徒などがそれに該当する。

 

 午前の授業が終わってお昼休みを迎えると、その例外たちは席を立って奉仕部の部室へと足を向けた。

 

 

***

 

 

 教室には珍しく大勢の面々が集まっていた。

 

 まずは前日と同じ顔ぶれの五人、つまり奉仕部の三人と生徒会長の城廻めぐりと立候補者の一色いろは。だが昨日と同じように依頼人席に座っている城廻とは違って、一色は比企谷八幡のすぐ右手に椅子を移動させている。

 

 由比ヶ浜結衣の近くには三浦優美子と海老名姫菜が椅子を並べて控えていて、雪ノ下雪乃の背後には窓に背中を預けて立っている葉山隼人の姿がある。

 

 最後に、黒板の近くに立ち位置を定めて、城廻の更に向こうから一同を見守っている平塚静。

 合わせて総勢九名がこの部屋で顔を揃えていた。

 

 

「では、会長選挙の詳細について話を詰めたいと思います。本来であれば、立候補者の一人である私が進行役を務めるのは適切ではないと思うのだけれど」

 

「奉仕部への依頼もあるし、ゆきのんなら公平に進めてくれるって思ってるからさ」

「ま、気兼ねなく話ができるんならそれで良いんじゃね?」

 

 城廻から進行役を託された雪ノ下が口を開くと、部員二名がそれに答えた。その他の一同に口を挟む気配はない。

 

「じゃあ、まずは確認ね。私と由比ヶ浜さんと一色さんの三人が立候補して選挙を行うこと。選挙に関する具体的な内容を今から話し合うこと。ここで決まったことは放課後に選管から公表されること。その発表の直後に一色さんが協力を強制することでクラス内のいざこざを一気に解決すること。この辺りは既決事項として扱っても良いと思うのだけれど」

 

「異論は無いんだが、言い方な。協力を強制じゃなくてお願いだろ。まあ、こいつのお願いって、強制とは違った意味でなんか怖いけどな」

「せんぱい。言い方に問題がありますよ?」

 

 軽く首を傾げた一色の頬は柔らかく膨らんでいて、目もちゃんと笑っているのに。なぜか背筋がぞくっとした八幡だった。

 

 そんな二人のやり取りを、他の七人は訝しげに眺めている。そこには明確な温度差があって、雪ノ下・由比ヶ浜・葉山は「やはりか」という顔つきで、他の四人は「あれっ」という表情を浮かべていた。

 

「一年C組のことはわたしが何とかできそうなので、選挙の具体的な話に入ってもらっていいですか?」

 

 さっきの発言に気を取られた八幡は、どうやら周囲の反応を見落としたみたいだ。ふっと心の中でだけ笑みを漏らして、一色は七人を視野に入れてなお落ち着いた口調で話を促した。

 

 立候補を継続すると決意するまでは、こんな心境には程遠かった。だが昨夜を境にして、一色の心に変化が生まれた。それは余裕の表れでもあり、同時に焦燥感に促されたものでもある。いずれにせよ、この件に関しては目の前の二人と同じ目線で物を言おうと一色は決めていた。

 

 

「……なるほど。じゃあ最初に、応援演説を片付けたいと思うのだけれど。一色さんが望むのなら、無しにしても良いわよ?」

 

 進行役としての公平さを棚上げして、つい上の立場から物を言ってしまった雪ノ下だった。

 だが一色の態度に触発されたのが原因とはいえ、申し出そのものは相手の事情を考慮してのものだ。続けて由比ヶ浜が補足を口にしたのがその証拠だろう。

 

「ゆきのんは隼人くんがいるし、あたしも優美子や姫菜がいるけどさ。いろはちゃん、応援演説は厳しいよね?」

 

 男子からの人気が高い一色だが、応援演説を頼むとなると話は別だ。アイドルの素晴らしさをいかにオタクが訴えたところで一般の理解を得るのが難しいのと同じで、内輪では盛り上がれても全体としてはマイナスの影響が大きいだろう。

 

 かといって女子の人気は壊滅的だし、同じ班になる事が多い少数の同級生の中には進んで人前に出るようなタイプはいなかった。そもそも男子との付き合いを優先して彼女らでさえもぞんざいに扱いがちだった一色だ。どの面を下げて頼むのだと思うぐらいの分別は持ち合わせている。

 

 そして、一色を唆して立候補を継続させた張本人はというと。

 

「いざとなったら俺がヘイトを引き受けるから……」

「せんぱい。寝言は夜に言って下さいね?」

 

 そんな役柄が似合わないとは自覚できているのだろう。だから応援演説ではなく自虐的な演説を披露することで一色の後押しをする、などと世迷い言を口にし始めたので言葉をかぶせてぴしゃっと封じる。

 

 右の視界の端で教師が何やら面白がっているが、見なかったふりをした。月曜からの三夜を一緒に過ごした年下の友人の手前もあるので、変な扱いはできないと考えただけなのだが。誤解をされると面倒だなと思いながら、一色はライバル二人の顔を見据えた。

 

 動揺がまるで見えないのは、余裕なのか。それとも信頼の証なのだろうか。

 

 そういえば立候補を継続すると伝えた時も、由比ヶ浜は一瞬だけ驚いたもののすぐに納得顔で頷いていたし。雪ノ下に至っては予想通りだと言わんばかりの表情だった。葉山も同じ顔つきだったので、二人の間では予測済みだったという事か。

 

「葉山先輩にお願いできたら良かったんですけどね~。じゃあ応援演説は無しでいいですか?」

「ええ。由比ヶ浜さんも?」

「うん、いいよ。でもさ、質疑応答は無しにはできないよね?」

 

 軽く反撃してみたものの、やはり暖簾に腕押しだった。

 平然と由比ヶ浜にも確認を取る雪ノ下をじっと見つめていると、意外な話が飛び出したので。くいっと首を動かして八幡の横顔に視線を送る。

 

「候補者の立会演説だけだと色々と無理があるわな。最初に喋った奴なんて反論の機会が無いわけだし。でも他の生徒から変な質問が飛んでくるとうざいのと、あと由比ヶ浜が言いたいのはあれだろ。質疑応答を始めたら、雪ノ下が無双するイメージしか湧かないよな」

 

 なるほど確かにと、当人を含めた全員の心の声が一致した瞬間だった。

 

「演説の順番が最後でも、他の候補への反論を加えていくと時間が足りなくなる可能性が高いわね。だから演説は演説で、質疑応答とはしっかり分けた方が良いと思うのよ。貴方たちの懸念も理解できるのだけれど、原稿を読んで終わりというのも味気ないし、候補者の間でだけ簡単な確認程度の質問を行うというのはどうかしら。その内容が妥当か否かは、当日の進行役となる城廻先輩に一任する形で」

 

「うん、それでいいよー。みんなよりも先に質問が聞けるって、ちょっと楽しみだなー」

 

 他の生徒からの質問を受け付けると話がぐだぐだになる可能性が高まるし、議論になれば雪ノ下が圧勝する未来しか見えない。だから候補者どうしで質問・返答するだけの最低限の形で、質疑応答が行われることになった。

 

 裁定役の反応が軽すぎて普通なら心配になるところだが、誰一人として反対意見を出さない辺りに城廻への信頼が垣間見える。今の三年生には際立った存在が少ないとはいえ、これだけ個性派ぞろいの二年生を前にしても自分のペースを保っているのは、さすがは生徒会長と言うべきなのだろう。

 

 

 そんなふうに教室内の空気が和らいだところで、由比ヶ浜がおもむろに口を開いた。

 

「いろはちゃんが応援演説で、あたしは質疑応答で気を使ってもらったからさ。今度はゆきのんの希望を教えて欲しいな。何かあるんだよね?」

 

 それが何かはまるで予測が付かない。けれど二年に進級してからの長い時間をともに過ごして来た由比ヶ浜には確信があった。雪ノ下がただ譲歩をするだけでは終わらないと信じて疑わなかった。

 雪ノ下が負けず嫌いなのを誰よりも、おそらくは八幡よりも知っているから。

 

「そうね。私の希望としては、どぶ板選挙は避けたいのだけれど……どうかしら?」

 

 言葉の意味を理解できたのは、八幡と葉山と海老名と平塚の四人だった。

 後者の二人は最初から口を挟むつもりはなく、葉山も苦笑を浮かべながら手振りで解説役を固辞したので。面白くもなさそうにため息を一つ吐いて、八幡がそれに応じた。

 

「早い話が、戸別訪問で支持を訴えるような選挙のことな。有権者一人一人と話をしたり握手をしたり写真を撮ったりして、地道に支援者を増やしていくようなやり方なんだが。まあ手間がかかるのが難点だわな」

 

「付け加えるなら、登校する生徒に向かって拡声器を片手に演説するとか、その手の選挙活動も遠慮したいのが本音ね。ああいうのは現実の政治家だけで充分だと思うのだけれど」

 

 八幡とは違った理由でため息を漏らしながら雪ノ下が要望を述べると、そこここから同情の気配が漂ってきた。

 だが雪ノ下の境遇を思い遣ることと選挙で譲歩することは等価ではない。そう自分に言い聞かせながら八幡が応える。

 

「由比ヶ浜と一色にとっては、握手会とかで生徒を集めるのは効果が見込めると思うんだよな。お前は政策重視の選挙をしたいんだろうけど、向き不向きで言えばこいつらは人物本位の選挙の方が合ってるだろ。ポスターで方針を表明して立会演説会でそれを説明するだけの選挙戦なら、もともと有利な奴が更に有利になるだけじゃね?」

 

 八幡が反論を述べると、雪ノ下の頬に赤みが差した。

 鋭い視線も少しゆるんで穏やかな雰囲気になったのは、こんな程度の提案で勝利するのはつまらないと頭のどこかで考えているからだろう。確かに負けず嫌いではあるけれど、雪ノ下は結果だけではなく経過も重視する。だから反論を喜んでいるのだろう。

 八幡はそう受け取った。

 

「貴方の言いたいことも分かるのだけれど、実際のところ有権者はシビアよ。握手をしようが一緒に写真を撮ろうが、平気で別の候補の名前を書くのだから。それでも由比ヶ浜さんや一色さんにアイドルまがいの行為をさせるつもりなの?」

 

 雪ノ下が自分に少しでも有利な形に持ち込もうとしているのは明らかだが、これが由比ヶ浜と一色を思い遣っての提案なのも確かだろう。だからこそ断りにくい。この辺りの話の出し方はさすがだなと思う八幡だが、こちらにもまだ手は残っている。

 

「なら記名式の投票にすりゃ良いんじゃね。ついでに握手会の記録とかも残しておけば、色々と面白いデータが作れると思うんだが」

「比企谷、それは……」

 

 話の途中で平塚が口を挟んできたが、これも予想の範囲内だ。軽く片手を挙げながら教師に視線を送ると、少しだけ肩をすくめて顎で続きを促された。

 

「後半は冗談として、記名投票を推すのは理由があってな。無記名だと、一色を推薦した連中はどうすると思う?」

「たぶんあたしか、ゆきのんにも投票するかも……」

 

 一色に反発する女子生徒は三浦に心を寄せることが多い。葉山を巡って対立しているのは周知の事実だからだ。

 実際には二人は単純なライバル関係に留まらず、お互いを認め合っていたりもするのだが。二人と親密な仲でもない限り、それに気付くのは難しいだろう。

 

 そうした状況の全てを由比ヶ浜はもちろん把握している。人間関係が絡むことにかけては雪ノ下も八幡も遠く及ばず、それどころか在校生の誰よりも秀でていると言っても過言ではない。今の由比ヶ浜に対抗できるのは、三学年上の()()ぐらいなものだ。

 

 無記名の投票だと三浦が応援する候補に大半の票が集まる。そこまでの計算ができるのに、それでも由比ヶ浜は目先の利に囚われない。だから続けてこう口にする。

 

「うん。あたしも記名投票がいいと思う」

 

 かつてゲームマスターが看破したとおり、由比ヶ浜は数字に踊らされず、かつ信頼できる数字を見抜けるだけの直感を備えている。その直感が当てずっぽうとは程遠いのは、それが由比ヶ浜の長所と深い関係にあるからなのだが、幸か不幸か本人はまるで気付いていない。

 

 いずれにせよ、由比ヶ浜と親しい海老名や八幡にとって今の発言は信頼できるものだった。選挙の結果などという狭い範囲の話ではなく、もっと大きな視点で考えた時に、この決断は良い効果をもたらすのだろうと思えたからだ。

 そしてそれは、雪ノ下にとっても同じこと。

 

「そういう話なら、私も記名投票に異論は無いわ。それと、私が有利になるから言っているのではなくて……」

 

「大丈夫ですよ~。わたしも結衣先輩も、自分を安く売るつもりはないですし。わたしの手を握っておいて一票だけなんて、そんなの割に合わないですよね~、せんぱい?」

 

 一色としては握手会などという話を持ち出した八幡に遺憾の意を表明しただけで、それ以上に深い意味は無かったのだが。

 端で聞いている者にとっては別の意味に聞こえてしまう。

 

「えっ。ヒッキーもしかして、いろはちゃんと?」

「比企谷くんは意外と手が早いのね。文字通りの意味なのが何だか可笑しいのだけれど」

「おい、お前のせいだからな。何とかしてくれよ?」

 

 机の上に身を乗り出して八幡を詰問するような表情の由比ヶ浜と、可笑しいと言っている割にはかけらも笑っていない雪ノ下にそう言われて。

 八幡がすぐ横へと視線を向けて助けを求めると。

 

「わたし、葉山先輩とも繋いだことなかったのに……」

「ちょ、当たり前だし。なに言ってんだし!」

「なのにヒキタニくんは、一色さんとも隼人くんとも……?」

「ふうん。俺は覚えてないんだけどさ、もしかして寝てる時とか?」

「そうなんだー。比企谷くん、私とも繋いでみる?」

「それなら私も繋いでやろう。骨が折れても文句を言うなよ?」

 

 妙にノリのいい面々のおかげで集中砲火に遭う八幡だった。

 

 

「えっと、葉山先輩とも誰とも繋いだことないです。てへっ」

 

 ようやく騒動が収束して、一色がぺろっと舌を出しながら謝ったので元の話に戻る。その他の一同も八幡に一言ずつ詫びを入れて、教室内には弛緩した空気が漂っていた。

 

「なんか面倒な話をする気が失せてきたな。なんだっけ。ああ、記名投票のついでにもう一つ提案があるんだがな。誰か一人を選ぶんじゃなくて、ちゃんと順位を出さねーか?」

「それは一位・二位・三位という形で投票させるという事かしら。メリットが分からないのだけれど?」

 

 八幡の提案は少し言葉足らずだったが、雪ノ下はその意図を正確に捉えていた。だが何故それをしたいのかが分からない。一人の名前を書いて、それで集まった票の数で順番をつけるのでは駄目なのだろうか。

 

「たぶんヒッキーの事だからさ。せっかく勝負をするんだから、色んな情報を知りたいんじゃないかな。ほら、五教科だけじゃなくて英数国とか英国社とか英数理とかで順位を出すみたいな感じでさ」

 

 その例えが適切なのかは微妙なところだが、納得のいく話ではある。いっせいに頷きながら視線が八幡のもとへと集まった。

 

「それもあるな。あと、候補者三人の順位を書かせる形にすると選挙戦の駆け引きに幅が出るだろ。例えば一色の立場からすれば、二位票をある程度集めるだけでも意味があるからな。それなりの数字を残せば変な事を企むやつも出なくなるだろうし、それで最低限の目的は果たせるんだわ。お前らにとっては二位票なんてどれだけ集まっても無意味だろうけどな」

 

 その説明を聞いた雪ノ下と由比ヶ浜は、いずれも「場合によっては意味があるかもしれない」と考えていた。だがそれを口に出したりはしない。今の二人にとって、目指すべきものは当選以外にないからだ。つまり一位票の最多獲得だけが唯一にして最大の目標となる。

 

 とはいえ一色の状況を改善するという依頼に結びつく話でもあり、特に反対する理由も見つからないので、二人は首を縦に振った。

 

 

「では投票は比企谷くんの提案通りの形で、その場ですぐに集計できるように簡単なプログラムを組んでおくわね。それで、どぶ板選挙やゲリラ演説の話はどうなるのかしら?」

「うーん。あたし的には、そういうの無しでもいいかなって思うんだけど?」

 

 一色が抱えている問題を前面に出すことで二人に何度も譲歩させてきた。そんな自覚がある八幡としては、由比ヶ浜が賛成に回ると表立っては反対しにくい。

 それに雪ノ下は実行しないとしても、由比ヶ浜が票と引き替えに愛嬌を振りまく姿など見たくはないし、一色にもそんな目には遭わせたくない。ならば賛成しておくべきか。

 

「俺も賛成したい気持ちは強いんだがな。それだと選挙戦ってマジでポスターと立会演説会だけにならねーか?」

 

「では選挙期間中は各々のクラスを選挙事務所に見立てて、決まった時間に希望者を集めて話をするのはどうかしら。もちろん参加の強制は禁止だし、選管に届け出て可能な限り時間が重ならないように調整してもらおうと思うのだけれど」

 

「それって二年F組で四時半からとか、二年J組が五時からで一年C組では五時半からとか、そんな感じ?」

 

「ええ、そうね。それと参加者の制限も自由にして、対立候補でも参加できるようにすると面白いかもしれないわね。内輪だけで集まる時には選管に届けなければ良いのだし」

 

 雪ノ下の提案を何度も頭の中で吟味する。

 

 選管に届け出て公的な集まりにする以上は、こちらの不在を狙って乗り込んでくるような事態は起きないだろう。

 だが逆に、相手陣営の集まりに参加して支援者に迷いを抱かせようにも、ここにいるような面々が目を光らせている限りは難しい。雪ノ下と葉山はもちろんのこと、由比ヶ浜と三浦と海老名も三人で短所を補い合うので敵に回すと厄介なことこの上ない。

 

 とはいえ劣勢なのは最初から判っていたことだ。結局のところ、八幡たちに狙えるのは一発逆転のみなのだから。

 

「あんま頻繁に会合を開くと、立会演説会で話すネタがなくなりそうだよな。あと、さっきの質疑応答と同じでな。有権者の無責任な要望にいちいち応えてたら、公約がどんどん変な方向に行くんじゃね?」

 

 八幡と雪ノ下の共通点の一つに、顔の見えない大多数を警戒するという傾向がある。

 群れの中にいる時や安全な場所にいる時しか自己を主張できないくせに、口を開けば偉そうな物言いで自分勝手な要望を伝えてくる有象無象。

 そんな輩を嫌悪する気持ちは二人の中に根強くあったし、その警戒感が文実では役に立ったという経緯もある。

 

 だから牽制のつもりで話には出したものの、八幡とて握手会などを実行する気はさらさらなかったし、そんな事をさせたくないという気持ちも先ほど確認したとおりだ。

 だが政策本位の選挙になると、雪ノ下を相手に勝ち目は薄い。それに八幡が嫌う大衆的なものが一色の人気の基盤である限りは、それを頭ごなしに否定できない。

 つまりは、あちらを立てればこちらが立たずという状態だった。

 

 

 そうした八幡の苦悩をどこまで見抜いているのか。

 じっと様子を窺っていた雪ノ下が、静かに口を開いた。

 

「その事で一つ提案があるのよ。投票日の何日前という区切りで、いくつかのテーマを公表するのはどうかしら?」

 

 話が読めないので、雪ノ下と葉山以外の一同が首を捻っていると。

 

「会合の話を提案しておきながら、こんな事を言うのは変かもしれないのだけれど。基本的には立会演説会での一発勝負という形が望ましいとは思うのよ。だから各候補が演説で発表するテーマを前もって選んでおいて順次公開していくと、選挙戦に興味が集まるのではないかと考えたのね。今のところ考えているのは、こんな感じなのだけれど」

 

・会長としての基本方針:月曜の朝に公表。

・奉仕部と生徒会の関係:火曜の朝に公表。

・生徒会の人事案:水曜の朝に公表。

 

 指を一本ずつ折りながらこの三点を紹介し終えると、由比ヶ浜と八幡の顔に苦笑いが浮かんだ。雪ノ下が何を争点にしたいかが明白になったからだ。特に二点目は、二人にとっても望むところだ。

 だから盛り上がる気持ちに押されるようにして二人は順次口を開く。

 

「これって詳細を発表するのは義務じゃないよな。つまり『奉仕部と生徒会の関係が語られるらしい』みたいな情報解禁を定期的にやるってだけか?」

「でもさ、べつに演説の前に集まりで話しちゃってもいいんだよね?」

 

 そんな二人に雪ノ下も笑顔を浮かべながら答える。

 

「親しい人にだけ話しても良いし、大々的に公表しても良いわよ。ただその場合は他の候補から反論されたり、良いと思う部分だけを真似される可能性も高まるわね。その辺りも含めて駆け引きが重要になると思うのだけれど。それと変な要望を却下する時に、これらのテーマは有用だと思うわ」

 

 逆に言えば、先に公表する事で同じ内容を防ぐというやり方もあるなと八幡は思った。特に人事案などは候補者が少ないだけに、似たり寄ったりになるだろう。ならば早めに公表しておく方が良いと言いたいところだが、もしも変更を余儀なくされるとドタバタした印象を与えてしまう。

 

 確かに色んな駆け引きができそうだなと八幡は思った。

 

 

***

 

 

 対立軸がはっきりしたからか、その後の話し合いは急ピッチで進んだ。

 

 投票日の延期は確定だと考えていた城廻だが、候補者三人が声をそろえて早期の決着を望んだので、思わず「えっ!?」と驚きの声を上げてしまった。

 反射的に思い浮かべた言葉に軽く首を振りながら、城廻はここまでの流れを思い出す。

 

 二年生が旅立つ前に候補者が決まったので胸をなで下ろしたのも束の間、一色は勝手に推薦されただけだった。

 旅行から帰ってきた雪ノ下を出迎えて、ようやく本命の候補が決まったと安堵したのに、由比ヶ浜も立候補したと知らされて。後継として期待していた二人が争う展開に、城廻は胸を痛めつつも同時に嬉しさがこみ上げてくるのを自覚した。

 だが波乱はそこで終わらず、一色も立候補を継続するという。

 

 事態がここまで二転三転すれば、投票日の延期もやむなしと考えるのは当然だろう。だからきちんと手筈を整えてきたのに。候補者三名はいずれも、選挙戦は短期間で、日程も予定通りで良いと主張した。

 めまぐるしい状況の変化に、城廻が「事実は小説よりも奇なり」と言いたくなるのも仕方がないだろう。

 

 ともあれ来週の木曜日、二十二日が決戦の日となる。

 翌日からの三連休が明けると、期末試験に備えて部活は停止期間に入る。だから日程的にもこれがベストだ。

 

 放課後に選管から全校生徒に向けて通知を行うこと。

 その直後に各クラスにて決起集会を開くこと。

 以後の集会ないし会合は可能な限り同時刻を避けること。

 

 既に決まった諸々に加えてこれらのことを確認して、昼休みの集まりは解散となった。

 

 

***

 

 

「ちょっと、ヒキタニくんと一色さんに話があるんだけどさ」

 

 部室を出ようとしたところで、海老名から声を掛けられた。用件が予想できるなと考えながら、八幡が首を縦に動かすと。

 

「結局は無駄に終わると思うのだけれど、ご苦労な事ね。私たちは先に出るわね」

「雪ノ下さんはそう言うけどさ、打てる手は打っておかないとね。ただでさえ出遅れてるわけだし、それに無駄に終わっても効果はあると思うんだよねー」

 

 そんなやり取りを最後に、雪ノ下と葉山は教室を去った。既に平塚と城廻の姿もなく、残っているのは五人だけだ。

 

「それで、話ってなんですか?」

「ああ、たぶん二位・三位連合の話だろ?」

 

 一色の疑問に答えた八幡は、海老名の背後に控える二人の反応を窺った。

 話の内容を把握しているからか、それとも海老名に全幅の信頼を置いているからか。おそらく両方なのだろうが、二人からは何らの情報も得られない。

 

「どう見ても一番人気が雪ノ下さんなのは確かだからさ。二番手と三番手が争うよりも、協力して雪ノ下さんを引きずり下ろさないと勝機は無いと思うんだよねー」

「それって、同盟とかそんな感じの話ですよね?」

 

 きょとんとした目を向けてくる一色を見ると、知っていることは何でも教えてあげたいという欲求が沸き起こってくる。オタクの血が濃い者ほど、この表情は突き刺さるだろうなと考えながら。どこまで説明したものかと八幡が頭を悩ませていると。

 

「べつに難しい話じゃなくてさ。お互いの支持層にはできるだけ手を出さないで、それよりも雪ノ下さんの支援者を切り崩そうとかさ。厳密に動きをすり合わせても仕方がないし、大雑把な方針として対立しないようにしようとか、そんな感じ?」

 

「う〜ん、なるほど。お互いの動きを制限するような形だと反対ですけど、方向性としては間違ってない気がしますね。せんぱいはどう思います?」

 

 水を向けられた八幡は、一色の対応に驚きを隠せなかった。

 地頭が良いとは思っていたが、海老名を相手にここまで堂々と交渉ができれば上出来だ。これなら立会演説会でも大丈夫だろうと思うと、ふっと笑いがこぼれた。

 

「まあ、基本方針がそれしかないのは確かだな。雪ノ下の独走をどうにかしないと話にならんし、いがみ合ってる余裕がないのは確かだ。海老名さんが何を企んでるのかは読めないけどな」

 

「何を企んでるって、そんなの決まってるじゃん。結衣に勝たせることしか考えてないよ。でもさ、途中までは利害が一致するんじゃない?」

 

「一番人気を引きずり下ろすところまでは、な。つっても、こんな感じで確認しなくてもお互いそう動くしかないってのは解ってたはずだろ。何を企んでるんだ?」

 

「それを素直に言うわけないって解ってるよね。じゃあ確認しなくても良いんじゃない?」

 

 言葉尻を捉えてそう返されると、八幡も苦笑いを浮かべるしかない。

 これ以上の情報を得られないのなら、時間を無駄にしても仕方がない。そう考えて一色に視線を送ると。

 

「じゃあ、ゆるく協力し合うって感じで。結衣先輩、よろしくです〜」

「うん。いろはちゃん、よろしくね」

 

 そう言い合って握手をかわす二人を眺めていると。

 

「ま、結局はこっちよりもそっちが得する形になるよ。最終的にはね」

「だからヒキオも心配すんなし。あと、怒んなし」

 

 八幡にだけ聞こえるように海老名と三浦から声を掛けられた。

 怒っているわけじゃないんだけどなと心の中でつぶやいた八幡は、放課後になってようやくその言葉の意味を理解した。

 

 

***

 

 

 雪ノ下を相手に少しでも有利な形で選挙戦を行えるようにと、朝から八幡は昼休みの打ち合わせに意識を集中させていた。それが何とか無事に終わって肩の荷が下りたような心境で午後の時間を過ごしていると、放課後まではあっという間だった。

 

 同じクラスから立候補している生徒がいるのに。しかもそれが自分にとって特別な存在だと断言できる由比ヶ浜だというのに。それを応援できない後ろめたさから、八幡はそそくさと教室を後にする。

 

 廊下を歩きながら選管の通知を受け取って、八幡は一年C組へと移動した。見知らぬ後輩ばかりの中に足を踏み入れることになるが、八幡にはステルスヒッキーがある。ぼけっとしていれば終わるだろうと、軽く考えていたところ。

 

「ほら、せんぱいもこっちに来て下さいよ〜」

「どうしてこうなった?」

 

 なぜか教室の中央で、一色と並んで立っている自分がいる。対雪ノ下・対由比ヶ浜の秘密兵器だと紹介されて、できれば秘密のままでいたかったと心から思う八幡だった。

 

 

 アイドルもかくやと思わせる男子生徒からの声援と、冷え冷えとした女子生徒からの視線をその身で受け止めて。強敵二人を相手の会長選に臨むことを一色は高らかに宣言した。

 すぐ隣に立ってその瞬間を経験した八幡の口から、思わず小声が漏れる。

 

「すげぇな、こいつ」

 

 周囲の喧噪からして聞こえるはずはないだろうに。にやっとした顔を向けられたので、八幡はふんと鼻息で返した。ふふんと更に笑みを深めた一色がそのまま行動に出る。

 

 まずは女子の中心的な生徒数名を捕まえて協力を確約させると、今日は仕事がないからと言ってすぐに釈放した。キャッチアンドリリースが板に付いているなと八幡は呆れるしかない。

 

 それから教室の外にまで溢れている男子生徒たちをぐるっと見渡して、大きな声で協力を要請すると。週明けの再会を約束して解散を促した。

 

 あれよあれよという間に、一年C組には少数の女子生徒と担任の教師、そして八幡と一色だけが残った。生徒以上に興奮した様子で何度も激励の言葉を伝えてくる担任には最後まで手こずったものの、何とか職員室にお帰り頂いて。ようやく落ち着いて話ができる環境が整った。

 

 

「えっと、みんなも今日は帰ってくれていいよ?」

 

 高校生活を送る上で、何人かと班になる必要があるから集まっているだけで。友人なのは間違いないけれど、友達とは思われていないだろうなと一色は考えていた。

 

 男子生徒との仲を重視する自分と同様に、と言えば語弊があるかもしれないけれど。目の前の女子生徒たちは、クラスできゃいきゃい騒ぐよりも他に重視している事がある。性格はいずれもおとなしめだが、芯の部分で強さがある。

 

 だから一緒の班で過ごしていても割と居心地が良かった。それに、お互いの事には踏み込まないのが暗黙の了解だったので気が楽だった。

 

 文化祭でクラスが真っ二つに割れた時には気を使ってもらったし、知らない間に立候補させられたと判明した時には一緒に怒ってくれたけど。その辺りが限界だと一色は考えていた。だから今回の選挙において、彼女らに手助けをしてもらおうとは考えていなかった。

 

「選挙が終わったら三連休で、その後は期末が控えてるよね」

「勉強って意外とエネルギー使うからさ、甘い物とか食べたくなるよね」

「そういえば、お菓子作りが趣味って、誰かが言ってたよね」

「手作りのお菓子をくれたら、何か協力してあげないとって思っちゃうよね」

 

 お互いの性格を知らない新入生の頃ならいざ知らず、春夏秋と少なからぬ時間を過ごしてきた彼女らは一色の妙に義理堅い側面を把握していた。

 

 男子に奉仕させるのは当然と言わんばかりの態度を示していても、そこには一色なりの美学とも基準ともいえるものが存在する。その奉仕を受けるに相応しい対応をしてあげているというのがそれだ。

 

 自身の言動をご褒美と考えている辺りは常人には理解不能だが、本人の中ではギブとテイクが釣り合っているのだと気付いてみると、一色の大部分の行動が理解できた。同時に、自分たちにさえも壁を作っている理由も。

 

 一色は最初からテイクを求めることはしない。厳密には、求めるテイク以上のギブが可能だと思えない限り、自分からは何も求めないし求めることができない。葉山を前にして、あるいはこの先輩を前にして、他の男子に対するような言動ができていないのがその証拠だ。

 

 ならば、一色の壁を取り払うにはどうすれば良いか?

 

「それってさ、わたしにテスト前にお菓子を作れってこと?」

「お菓子はテスト明けでいいかなって思うよね」

「ご褒美があればテストも頑張れるよね」

「お菓子を作ってくれるなら、何かお返しをしないといけないよね」

「それってべつに、先払いでもいいよね」

 

 その答えは、こちらから先に一色のギブを要求すること。

 お昼休みにこっそり話し合ってそんな結論に至った彼女らは、さっそくその仮説を実行した。

 その結果は、この通り。

 

「ちょっと語尾が気持ち悪くなって来たんだけど……まいっか。素の口調で話すのと、わたしの選挙に協力してもらうのと。そのかわり、テストが終わった週末に手作りケーキ食べ放題でどう?」

「乗った!」

「あっさり飛び付きすぎだよね」

「語尾もすっかり忘れてるよね」

「でも上手くいったし、べつにいっかって思うよね」

 

 そんな後輩たちのやり取りに入れないまま天井の模様をひととおり確認していた八幡に向けて、一色がとつぜん語り始める。

 

「せんぱい。……わたし、こう見えて友達いないじゃないですか」

「んっ……と、あー、分かった。俺も友達がいないとか言ってたから、こうなった時の気持ちは解るわ。ちょっと外に出てるから終わったら連絡くれ」

 

 そう言って八幡は教室を後にした。

 ドアを閉じると四人の女子生徒の歓声と、何やら言い訳をしている感じの聞き慣れた声が伝わってきた。

 

 

***

 

 

 例によってベストプレイスへとやってきた八幡は、頭を選挙モードに切り替えた。

 どうやらあの四人は親身になって動いてくれそうだが、選挙戦を勝ち抜くには人材が足りない。そう考えた八幡は、自分も友達と呼べる面々にメッセージを送ることにした。

 

 しばらくぼけっと待っていると、続々と返信が届く。

 

『ぼく、今回は八幡の力になれないと思う。あとで直接話しに行くね』

『あたしを頼ってくれたのは嬉しいんだけどさ。今回はあんたの力になれないよ。あとで説明に行くから、詳しい話はその時に』

『我だ。思うところあって貴様とは一時的に袂を分かつことになった。離合集散は世の常ゆえ、次なる戦で相見えようぞ』

 

 判を押したようにとまでは言えないけれど、おおむね同じ答えが返って来た。

 ようやく事情を悟って、八幡の口からため息が漏れる。

 

「これ、海老名さんの仕業だよな。三浦が怒るなって言ってたのは、この事か」

 

 一色から立候補継続の決意を取り付けて、昨日は一仕事を終えた気分だったし。今日は選挙戦の打ち合わせに備えていたので他のことは何も考えていなかった。その間に他の陣営は着々と先に進んでいたという事だ。自分の迂闊さを呪いはするが、怒りを向けるのはお門違いだろう。

 

「つか、待てよ。海老名さんは雪ノ下に向かって『ただでさえ出遅れてる』って言ってたよな。てことは、雪ノ下はどんな状況なんだ?」

 

 葉山の協力を得ていたのにも面食らったが、もしかすると雪ノ下は更に先に進んでいるのかもしれない。それに思い至って八幡の背中に冷や汗が流れる。

 

「圧倒的に優位な立場の候補が、誰よりも先に動いたら……これ、覆せるのか?」

 

 八幡が奥歯を噛みしめていると、一色からの呼び出しメールが届いたので。何とか気持ちを切り替えて、八幡は再び一年C組の教室を目指した。

 

 

***

 

 

 どう説明したら良いかと考えながら、険しい表情を浮かべたまま教室のドアを開けると、十人の女子生徒が八幡を出迎えてくれた。

 

「……はい?」

 

 だから、こんな間の抜けた声を出しても八幡に非はないだろう。

 

「せんぱい。帰って来るのが遅いですよ?」

「いや、これでもメールを見てから直行したんだがな。つか、なんでこいつがここにいるんだ?」

 

 先ほど教室を後にした時よりも更に仲が深まったなと感じられた。そんな四人の友達を引き連れて、一色が教室の入り口まで来てくれたので。

 同じように四人の友人を従えた女子生徒を指差しながら、そう訊ねると。

 

「そんなの決まってるじゃん。うちらがせっかく助けに来てあげたのに、お礼の言葉ぐらいくれてもいいって思うけど?」

 

 勝ち気な物言いで背中もふんぞり返ってはいるものの、その目は落ち着きなくきょろきょろしている。あまり調子に乗ったことを口にするとすぐにしっぺ返しが来るのではないかと恐れている不幸体質なこの女子生徒は誰あろう、相模南だった。

 

「まあ、なんだ……サンキュ?」

「うわっ。せんぱい、似合ってないですよ?」

「うちもそう思う。でもヒキタニくんらしいって言えばらしいんだよね」

「あ〜、それは確かに言えてますね〜」

 

 自分を話のネタにしながら和気藹々としている一色と相模を眺めながら、再び「どうしてこうなった?」と呟く八幡だった。

 

 

***

 

 

 同じ頃、総武高校の正門前では。

 

「いやー、ほんとに来ちゃったねー」

「わたしが来る必要あったのかなー。あと会長がさ……」

「就任したてで忙しそうだしさ。代わりに仕事を引き受けてあげるって、それあるっ!」

「えー。会長は一緒に来たかったんじゃ……」

「ほら。千佳もぐずぐずしてないで、中に入るよ」

 

 見慣れない制服を着た二人の女子生徒が、騒々しいやり取りをかわしていた。




前後の文脈があるので、セリフを単体で取り上げても意味がないのは重々承知で。でも一色の「友達いない」発言はどこかで否定してあげたいと思っていたのでこんな形でねじ込んでみました。

次回は来月の十日頃に更新する予定です。
ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。


追記。
細かな表現を修正しました。(4/12)

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