俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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前回までのあらすじ。

 グループ内で疎外されている少女を見て、当人の希望さえあれば手助けをすると雪ノ下は言い切った。由比ヶ浜・戸塚・小町もそれに同調するが、八幡はどこか気乗りがしない様子だった。

 小学生の相手を何とか終えて、炊事場から離れた場所で雑談をしていた八幡と雪ノ下の前に、件の少女が現れる。中学でも同じ事が続くという雪ノ下の予言を聞いて、こぼれそうになる涙をこらえる留美に、二人は掛ける言葉を見付けられなかった。



04.るる綿々と彼らの話し合いは尽きない。

「ごちそうさまでした」

 

 全ての班が無事に調理を終えて、そのまま食事と後片付けとを済ませると、子供たちは入浴のために速やかに炊事場から去って行った。まだ小学生なので就寝時間を早くする必要があり、そして入浴後も班長会議や各班ごとの反省会が控えているのだ。

 

 そんな多忙な小学生と比べると、ボランティアの中高生は気楽なものだった。既にこの日の仕事は終わっている。それに小学生に合わせてかなり早めの夕食になったので、お菓子などの軽食がこの後で配布される予定になっている。

 

 そんな至れり尽くせりの状況なのに、中高生たちの雰囲気は常とは違って少し落ち着きすぎている感があった。

 

「あの元気はどこから出て来るんだべ?」

 

 夕食のカレーを食べていた時も、戸部翔を始めとして場を盛り上げる術に長けた面々が話を切らせず、小学生からは和気藹々と過ごしているように見えただろう。しかし実態は、各々が話を切り出すタイミングを窺いつつも今ではないと諦めるという繰り返しだった。

 

「さて。何人か、真面目な話をしたがっているように見えるが。どうするかね?」

 

 そうした生徒たちの様子など教師からすればお見通しで、平塚静は夕食後も解散する気配のない中高生に行動を促した。大きなやかんの蓋を開けて水を入れながら、彼女は生徒たちに背を向ける。

 

 片付けを終えて立ったまま指示を待っていた中高生たちは互いに視線を交わした後に、まずは再び食事の時と同じ席に着いた。

 

「今さら堅苦しいことを考えなくても良いだろう。誰でも好きに発言したまえ」

 

 火を落とさずにいたかまどの上にやかんを置いて、平塚先生も席に着いた。

 

 木造の机を挟んで長椅子が二つ並んでいて、右手奥から雪ノ下雪乃、比企谷小町、由比ヶ浜結衣、海老名姫菜、三浦優美子の順に座っている。お誕生日席の一色いろはを挟んで、左手手前から戸部、葉山隼人、戸塚彩加、比企谷八幡が並び、その横に教師が腰を下ろした。

 

 

「じゃあ俺から。みんな気付いていると思うけど、班の中で孤立気味の生徒がいたよね」

 

「あーしも見てたけど、途中からどっか行ったみたいだし」

 

「わたしは葉山先輩が話しかけてる時に近くにいたんですけど、波風を立てないように身を引いたって感じでしたね〜」

 

 まずは葉山が口火を切って、三浦と一色がそれに続いた。女王然としながらも周囲にさりげなく注意を払っている三浦もさすがだが、気が付けば葉山の動きを見逃さない位置をキープしている一色もさすがと言うべきなのだろう。

 

 小学生の相手をして回る時に、葉山は自グループを三浦・海老名と戸部・一色の二組に分けた。単独で動く自身も含めると三つに分かれたはずなのだが、片や一色は彼の行動を把握しており、片や戸部は彼の行動が初耳だったらしい。

 

「困ってる子に話しかけるとか、隼人くんマジ凄いっしょ!」

 

「……本当に、凄いものね」

 

「……そうだな。葉山。お前が話し掛けたのって、あの子を困らせる結果にしかなってない気がするんだが、それをどう思う?」

 

 だが戸部の盛り上がりに冷や水を浴びせるように、雪ノ下が端的につぶやく。褒めているとは到底思えないその口調に誰もが口を閉ざす中で、八幡が口を開いた。彼の質問に苦笑しながら葉山が答える。

 

「そうだね。詳しい話を教えてくれるきっかけにでもなればと思ったんだけど、嫌われちゃったかな」

 

 八幡も雪ノ下も「そういうことではない」と言いたくなる気持ちを抑えて黙り込んでいた。葉山とて全く理解していないわけではないと、二人は彼の口調の端々から勘付いたのだ。

 

 この場では最年少になる小町や引っ込み思案の戸塚は、会話に加わる気配を見せていない。由比ヶ浜は変な諍いに発展しないようにと身構えながらも、まだ口を挟む気はなさそうだ。海老名は何を考えているのか、教師と同様に静かに全員の様子を窺っている。

 

 そんな状況ゆえに、下座に固まっている三浦・一色・戸部の発言が続いた。

 

「隼人の配慮が伝わってないのが悔しいし」

 

「そうですね〜。孤立してる小学生に話し掛けるだけでもハードルが高いですし」

 

「隼人くんさすがだわー。そういや俺が小学生の時にさ……」

 

 そしてそのまま、戸部の過去語りがひとしきり続いた。

 

 

***

 

 

 それは戸部が小学校の低学年の頃にあった出来事だった。

 

 何が原因だったのか今となってはすっかり忘れてしまったが、授業にぽっかり空きができてしまった時があった。担任の教師に急用ができたとか、おそらくはそうした理由だったのだろう。

 

 自由にグラウンドを使っても良いと言われ、戸部たち男子はサッカーをすることにした。クラスには彼ともう一人サッカーの経験者がいたので、二人がじゃんけんをして勝ったほうからメンバーを指名していく形になった。一人ずつ選んではじゃんけんという繰り返しだ。

 

 クラスでも運動に優れた生徒をまずはお互いに分け合って、次のじゃんけんに勝った戸部は、なんとなく目に付いた同級生の名前を口にした。

 

 その生徒は、勉強こそできたものの無口な性格で、そして運動を苦手としていた。こうした形でメンバーを決める時には、最後までは残らないがなかなか指名されないという立ち位置だった。

 

 それが二人目で指名されたことに、当人を含め生徒全員が驚いていたが、戸部に深い考えがあったわけではない。どうせ遊びなのだし目に付いたからという程度の理由でしかなかった。

 

 

 キーパーを買って出た戸部は、その生徒が(下手なので足手まといになると思ったのだろう)攻撃に参加したがらないのを見て、ゴールの近くで控えているように命じた。メンバーが良かったのか、彼らのチームが攻撃する時間は長く続いて、二人のところにはボールがあまり来なかった。

 

 それまでほとんど話したことのない関係だったが、戸部が自陣奥から味方の動きに一喜一憂していると、それに応えて少しずつ口を開いてくれるようになった。

 

 その生徒は「たぶん」と付け加えるのが口癖で、しかし「大丈夫。たぶんね」と彼が言った時にはたいていが良い結果になった。「こっちまで攻められるよ。たぶんだけど」と言うと、多くはその通りになった。

 

 彼の存在がチームのプラスになったかというと微妙だった。攻められることを予想した彼は適切な守備位置に就いて、そしてあっさりと突破された。中盤でボールの奪い合いをしていたときに「誰かがあの位置で受ければ」と言うので背中を叩いて送り出せば、見事に空振りをして尻餅をついていた。

 

 

 だが、この日の経験は、彼の意識に何らかの変化をもたらしたのだろう。

 

 勉強はできても目立たない存在だった彼は、その学年の終わりに初めて班長を務めた。それを皮切りに、補欠の学級委員に選ばれてからは(当選した生徒が家庭の事情で辞退したのだ)学期をまたいで務め続け、最後には生徒会長にまでなっていた。

 

 今では東京の進学校に通っているというその生徒は、戸部に恩義を感じていたのだろう。全てはあの日に指名してくれたおかげだと、彼は常々口にしていたらしい。この世界に巻き込まれる直前まで定期的に連絡を取っていたと、戸部は少し誇らしげに語った。

 

 

***

 

 

 思いがけない戸部の昔話を聞いて、一同は静まり返っていた。教師が手ずから淹れてくれた紅茶を誰かがすする音が、やけに大きく響いている。

 

 話の序盤には無駄な語りを止めさせようと介入を図っていた一部の面々も、現在の状況に繋がる話だと理解できてからは素直に聴き役に回っていた。

 

「だからさ。困ってる子に話し掛けるって隼人くんの行動は、間違ってないと思うんだべ」

 

「あーしもそう思うし。あーしが同級生だったらさっさと話し掛けて、孤立させないように同じ班になってるし」

 

「戸部先輩のお友達って、話し掛けられたきっかけを上手く活かして努力したんでしょうね〜」

 

 だが一色の発言を耳にして、八幡は引っかかりを覚えた。確かに戸部の友達は機会を上手く活用して、自分でもかなりの努力を積んだのだろう。内気な性格の少年が生徒会長にまでなったのだ。自身も内向的な面を持つ八幡には、その困難を想像することができた。しかし。

 

「そいつの努力は凄いって俺も思うけどな。今回の葉山の接触の仕方だと、チャンスを活かすとか無理っぽくね?」

 

「うーん。とべっちの話って、クラスで孤立してるとかじゃなかったよね。今のあの子の状況だと、あたしたちに話し掛けられただけでアウトって言うかさ……」

 

「あー。生意気だとか、そんな風に言われちゃうかもですね」

 

「う〜ん。それは確かにありますね〜」

 

 少し攻撃的な口調の八幡を危うく思ったのだろう。由比ヶ浜がやんわりとフォローを加え、それに小町が自然な形で口添えをする。発言を咎められた一色にも彼女らの意図は伝わっているようで、人差し指を頬に当てて首を傾げる可愛らしい仕草で困ったような表情を浮かべていた。

 

「だからこそ、先ほど一色さんが口にしたように『波風を立てないように身を引いた』のでしょうね」

 

「そう考えると、一人だけ大人びちゃったのが原因なのかもですねー。もう少し年齢が上がると周りも変わってくるとは思うんですけど」

 

「今の問題を解決することにはならないですよね〜」

 

 さすがに雪ノ下は先程の一色の発言を見逃すことはなかった。この状況ではきっかけも何も不可能だということを、彼女は最初から理解していたはずだ。そんな裏の意図を込めて軽く挑発してみたものの、小町がすぐに口を開いたこともあり、一色はそれに乗じて平然と流している。

 

 実は一色としては、この状況を受けて葉山がどう行動するのかを観察したいのが本音だった。それは二年F組に変な噂が流れたいつぞやと同じであり、クレバーな彼女にとっては当然の帰結でもある。一色の行動原理はいたってシンプルなのだ。

 

 確かに孤立している少女のことは可哀想だとは思うが、そうした女子生徒の関係性に詳しい彼女は問題が簡単に解決できるとは到底思えなかった。率直に言って、現在の状況は詰んでいると一色は考えていた。

 

 

「ぼく、ちょっと考えただけど。教育実習のお兄さんとかお姉さんっていたよね?」

 

「小学生の頃って、すっごく大人に思えましたよねー」

 

「うん。クラスで揉め事とかあったら相談できるし頼もしかったんだけど、実習期間が終わったら来なくなるよね。だから……」

 

「私たちが介入しても恒常的な解決にはならないと、貴方は言いたいのね」

 

 会話に手詰まり感が出始めて沈黙が長くなりかけた時に、ずっと考え込んでいた戸塚が口を開いた。小町の相鎚を得て思っていたことを口にした戸塚に、雪ノ下が確認の言葉を投げる。

 

 戸塚が頷くのを見て、次にまだ発言する気配のない海老名を横目で確認して、雪ノ下はそのまま一色を見据えた。それに観念したのか彼女が口を開く。

 

「わたしも正直、外部から解決するのは難しいかな〜と。こういうのって、事前に根回しをして避けるのがベストで、ここまでの状況になっちゃうと自分も相手も手詰まりになっちゃうんですよね〜」

 

「あたしも、いろはちゃんが言いたいことは解るかも。ハブられてる側も何もできないけど、相手も状況をどう動かしたらいいのか、分かんない感じになるんだよね。その、ハブってるほうが悪いのは絶対そうなんだけどさ。あっちはあっちで『一言謝ってくれれば』みたいなことを期待し出すっていうかさ……」

 

「なんかそれも都合の良い話だな。俺はハブられる側しか経験してないからよく解らんが」

 

「そうね。相手側に働きかけるのは最後の手段として、まずは孤立しているあの子のために何ができるかを検討したいところね」

 

 一色の本音らしきものを引き出して、更にそれに由比ヶ浜が補足を加えてくれたことで、雪ノ下も八幡も相手側の考え方は把握できた。二人は共にそれを認めようとは思わなかったが、相手側の思惑も場合によっては利用できるかもしれないと、念の為に記憶しておくことにした。

 

 その上で雪ノ下は話を戻したのだが、彼女の提案に真っ先に口を開いたのは葉山だった。

 

「それなら、やっぱり直接あの子と向き合って、問題を正面から解決すべきだと俺は思う」

 

「……貴方には無理なのではないかしら?」

 

「何も手を打たないで、誰かが解決するのを待つだけなのは嫌なんだよ」

 

「それが、あの子を更に悪い状況に追い込むとしても?」

 

「……そうだな。そうかもしれない。でも、俺は何かを……」

 

 二人は、他の面々が全く口を挟めないほどの緊張感を発していた。強くお互いだけを見据えて、声を荒げることもなくどこまでも静かに、雪ノ下と葉山は言葉を交わす。

 

 この二人の間に割って入れるのは自分だけかと大きくため息をついて、平塚先生は傍観の構えを解いた。

 

「葉山。それに雪ノ下も、いったん頭を冷やしたまえ。そうだな……比企谷、それから海老名に進行を任せるので、少し話をまとめるように」

 

 

***

 

 

 葉山は戸部の昔話を聞きながら、なぜ自分は小学生の時に彼と同じ事ができなかったのかと悔やんでいた。

 

 彼は今まで戸部を軽んじたことは一度もない。だから戸部にできることなら自分にもできると、そうした傲慢な前提をもとに悔やんでいるわけではなかった。むしろ、戸部の長所を校内の誰よりも知っていると自負する葉山からすれば、「やはり」という気持ちのほうが強かった。

 

 クラスの中で埋もれていた才能に羽ばたくきっかけを与えた戸部の行動は、彼ならばできて当然だろうと葉山は考えている。それが偶然の結果だとも思っていない。考えなしに行動しているように見えて、その実は優しい彼の性格には、葉山も昨年度から何度も助けられてきたのだ。

 

 葉山も、そして雪ノ下も気付いていないのだが、葉山と戸部の関係はどこか雪ノ下と由比ヶ浜の関係を連想させる部分があった。多くの人から期待を集める二人にはできないことを、一般には二人に大きく劣ると見なされがちな戸部と由比ヶ浜が軽々とやってのける。それによって二人は何度となく救われたことがあった。

 

 

 つまり問題は戸部とは全く関係がなく、葉山ができなかったという一点にある。

 

 

 あの数多の才能に恵まれた少女が、それらを遺憾なく発揮できる環境を整えてあげたい。かつて葉山はそう心から願い、そして彼の試みは無残な失敗に終わった。単に結果に繋がらなかっただけでなく、彼が行動を起こしたことによって、かの少女の状況は更に悪化していた。

 

 もしもあの時に戸部が横にいてくれたら、もっと良い結果を導けたのではないかと葉山は思う。だがそんな架空の話を想像しても現状は変わらない。彼が失敗したという単純な過去は、何があろうと覆ることはない。

 

 戸部の成功を妬む気持ちは葉山にはない。彼の性格が、彼との長い付き合いが、葉山にそんな気を起こさせることを妨げていた。しかし葉山とて成人すらしていない高校生の身であり、妬心と無縁ではいられない。

 

 もしも戸部ではない他の誰かが同じ小学校にいて。もしもその誰かが少女を取り巻く環境を綺麗に解決していたらと考えると、さすがの葉山も嫉妬の気持ちを抑えられる自信がなかった。自分ではない誰かが彼女を変えてしまうなど、彼にとっては悪夢でしかない。

 

 

 平塚先生の調停を受けて、早く落ち着こうと自制の念を強くしながらも、葉山は進行役に指名された男子生徒に目を向けることができなかった。

 

 

***

 

 

「んじゃ、さっさとまとめるぞ。いちおう、何とかできるなら何とかしたいってのは、全員の総意で良いんだよな?」

 

 たとえ面倒な事であっても、やるしかないのであれば手短にと自分に言い聞かせた八幡は、気怠げに口を開いた。既に出た話をまとめるだけなら彼にはそれほど難事ではない。

 

 元気よく返事をする者から頷くだけの者まで、全ての意思を確認した上で彼は言葉を続ける。

 

「まず、状況を動かすのは難しいって考えてるのが、俺と戸塚と由比ヶ浜と一色って感じか。手詰まりって認識は俺も同感だし、何をするにせよ本人の意志が確認できない以上は動きようがないと思うんだよな。ま、これは個人の意見だし、反論は後な」

 

「その整理の仕方だと、積極的に動く側を先にまとめるのが早いかな。とべっちと優美子と隼人くんは積極介入派だよね。介入の具体案次第だけど、私もどっちかと言えばこっち寄りかな」

 

「あたし、姫菜はいろはちゃんと近いのかなって思ってたから、ちょっと意外」

 

「方法次第だと思うんだよね。要はその女の子が夢中になれる何かを紹介してあげれば、私たちが関わった後にも趣味って続けられるわけだしさ。私にとってはBLだけど、映画でも音楽でも演劇でもいいし、バレーとか体操とか身体を動かす系でも良いしさ。料理とか裁縫とかでも良いじゃん。そういうのがあれば、人間関係に多少悩んだとしても、何とかなったりするよ」

 

 海老名が予想以上にまともな発言を続けたことで、介入派にも少し勢いが出て来た。

 

「落ちが怖いけど、姫菜の意見には納得できるし」

 

「海老名さんマジまとめる能力凄すぎっしょ!」

 

「まあ落ち着け。先に全員の旗幟を鮮明にするか。あとは小町と雪ノ下だが……」

 

「小町はさっき言ったように、もう少し年齢が上がれば何とかなると思うんだよね。でも早く解決するならそれもアリだし、方法次第っていう海老名さんの意見が近いかなー」

 

「私は彼女が望むのであれば、考え得る限りの手段を費やしてでも、手助けしたいと思っているわ。ただ、稚拙な方法を看過できないというだけなのだけれど」

 

「だから落ち着けって。方法次第でって意見が多くなってきたけど、先にこっちか。俺もさっき言ったけど、本人の意志を確認するのが大前提って意見を、この場で共有することはできるか?」

 

 八幡は逸れそうになる議論を何とか取りまとめようと苦心しながら、少しずつ合意を形成しようと考えていた。一度言葉を切って、順に顔を見渡していく。彼の視線が葉山のところで止まった。

 

「葉山。もしもあいつが手助け無用って言い出したら、それでも介入するか?」

 

「……いや。見逃すのは心苦しいけど、それが当人の意思なら、従うしかないのかなって思うよ」

 

「とべっちも優美子も、その状態で敢えて介入しようとは考えてないよね?」

 

 海老名が続けて確認をしたことで、この点に関しては全員の合意が得られたと考えて良いだろう。

 

「んじゃ、本人の意志を確認するために俺たちに何ができるかを各自で考えて、明日の昼にでも話し合う感じかね。それと平行して、もしも介入するなら具体的な方法を考えることと、俺たちの手に負えないと判断したら潔く手を引くことを、この場の合意ってことにするか」

 

「うん。ヒキタニくんのまとめで良いんじゃないかな。ところで方法なんだけどさ、ホモが嫌いな女子はいないと私は思います!」

 

 三浦の予想通りの落ちが始まった形だが、海老名が暴走を始めたということは、彼女は話が円満にまとまったと考えているということでもある。それをよく知る三浦と由比ヶ浜は苦笑をしながら、両側から彼女の介抱を始めるのだった。

 




次回は金曜に更新予定です。
ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。

追記。
細かな表現を修正しました。大筋に変更はありません。(7/7)

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