今回から原作5巻に入ります。
引き続き楽しんで頂けるように頑張ります。
01.さそわれて彼女らは彼の家を訪う。
千葉村から帰ってきて一週間が過ぎた。比企谷八幡は可能な限り家の外に出ることなく、妹の比企谷小町以外とは顔を合わせぬまま夏休みをだらだらと過ごしていた。
「あーっ。お兄ちゃん、またソファでごろごろして。たまには外に出てみたら?」
「お、小町か。今まで勉強お疲れさん。コーヒーでも飲むか?」
「はあ……。お兄ちゃん、話題を逸らすスキルが日に日に上手くなってない?」
「そりゃお前、専業主夫に必須のスキルだからな。仕事疲れの嫁さんの愚痴に付き合ってたら身が持たねーだろ?」
軽口を叩きながらも、八幡は文庫本を置いて軽快に起き上がるとコーヒーの支度を始めた。その行動は確かに、パートナーを支え家事を切り盛りする主夫の鑑のようだった。
「でもさ、お兄ちゃん。仕事をばりばりして養ってくれるお嫁さんの当てはあるの?」
「さあな。なるようにしかならんだろ」
以前であればこの手のツッコミを受けると、八幡は口を尖らせて否定するか黙り込むのが常だった。しかし今は気持ちに余裕があるのか、妹の指摘をさらりとかわして平然としている。
「うーん。雪乃さんだったらお兄ちゃんを家で遊ばせておくわけないし、結衣さんを働かせて家でふんぞり返ってたらいたたまれなくなりそうだし、沙希さんだと働いてきなって家を追い出されそうだし、いろはさんならお兄ちゃんを上手く言いくるめて働かされそうだし……。無理じゃない?」
「おい、知り合いの名前ばっか出すなって。それに一色とか俺に興味を持つわけねーだろ」
「ふーん。てことは、他の三人なら可能性があるって考えてたりなんかしちゃったり?」
「日本語が乱れてるぞ。あいつらはそういうんじゃねーけど、あれだ。なんか想像はできるよな」
明後日の方向を向いて照れながら八幡はぼそっと呟いた。そんな兄に苦笑いを向けつつ、小町は受け取ったコーヒーを一口飲んで会話を続ける。
「行動パターンを想像できるぐらい仲良くなれるなんて、春頃には思ってもなかったよね」
「そもそも知り合ってもなかったしな。考えれば考えるほど変な一学期だったわ」
「二学期が楽しみ?」
「いや、夏休みが永遠に続いてくれたら良いなって思ってるけど?」
「あ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ……」
そう言いつつも小町の声に呆れた色はなく、兄に向ける目は優しい。
「ぼっちは人が近くにいるだけでも疲れるんだわ。最近は葉山とかも教室で話しかけてくるし、沈黙は金って言葉をあいつら知らねーんじゃねーのか」
「こないだの千葉村で仲良くなってたみたいだし、二学期からは戸部さんも話しかけてくれるんじゃない?」
「マジかー。やっべー。語彙が減りそうで不安だわ」
相手に応じて微妙に返事を変えてくる兄の言葉に、小町は思わず噴き出しそうになった。とはいえ申し訳ないがそろそろ時間だ。兄が大喜びして反応しそうな人物の名を出すのは避けて、小町は飲み終えたコーヒーカップを手に立ち上がる。
「んじゃ、そろそろお迎え、よろしくねー」
「ま、由比ヶ浜に炎天下で歩かせるのは可哀想だしな。ちょっと行ってくるわ」
そう言って八幡はリビングから、高校の上空に位置する自分専用の個室に移動した。
男女で個室を合体することはできないが、個室に招き入れることや自宅までショートカットすることは可能だ。幸い彼女は大勢の女子生徒たちと一緒に(あの時の男女比率は酷かったと八幡は思い出す)八幡の家を訪れたことがあるので、ショートカットの条件は満たしていた。
個室で文庫本の続きを読んでいると、来訪者を告げる音が控え目に鳴り響いた。
***
「や、やっはろー?」
「なんかいつもの元気がないけど大丈夫か。夏バテとか気を付けろよ」
男子生徒の個室におそるおそる足を踏み入れながら、由比ヶ浜結衣は見当違いの優しさを発揮する八幡に何と応えようかと考える。ひとまず彼女は、内開きのドアを押さえてくれている彼の横顔にちらりと視線を送ってみた。女の子を部屋に招き入れることを強く意識しているのが丸分かりのあたふたとした挙措を見て、ようやく由比ヶ浜は落ち着きを取り戻す。
「ヒッキーこそ、全然外に出ようとしないって小町ちゃんが心配してたよ。あ、靴をここで脱いでても大丈夫かな?」
「移動先がリビングだから、ここで脱いでくれると助かるな。ほれ、スリッパ」
目的語を省いた自分のせいなのだが、エロい意味で受け取られていないことを願いつつ八幡はスリッパを差し出す。素直にそれを受け取って履き替えている由比ヶ浜を見て、誤解されなくて良かったと安心し同時に自分だけが意識過剰なのかと落ち込みながら、八幡は頭の中で進行しそうになる裸スリッパな妄想に必死でストップをかけるのだった。
***
八幡に続いて由比ヶ浜がリビングに姿を見せると、冷蔵庫の中身を物色していた小町が振り返った。
「結衣さん、お久しぶりです!」
「小町ちゃん、やっはろー。ちょうど一週間ぶりだね」
「やっはろーです。合宿が1日からで今日はもう10日って、時間が経つの早すぎですよねー」
「ま、勉強のことはあんま考えすぎんなよ」
受験生の小町が日にちの経過から何を考えているのかを瞬時に把握して、八幡が口を挟んだ。それで小町の心情を理解した由比ヶ浜は、この兄妹なら大丈夫だろうと笑顔で二人を眺めている。
「晩ご飯にはまだ早いので、お茶でもどうですか?」
「あ、先にサブレを出したいんだけど、いいかな?」
「了解です。家族旅行、楽しみですね!」
この月初日のアップデートで現実世界との通信手段が確立されて、運営は矢継ぎ早にキャンペーンを打っていた。お盆の時期に合わせた旅行企画もその一つで、毎年この時期に家族旅行を行っていた由比ヶ浜は両親と相談の上それに参加することにしたのだった。
「久しぶりにあっちのサブレとも会えるしね。できたらこっちのサブレと会わせてあげたかったんだけど」
「自分じゃない自分を見たら、自我がどうなるか分からんって話だったよな」
「でもさ、なんでリアル側はペットOKで、こっちのペットは駄目なんだろ。お兄ちゃん分かる?」
「勝手な推測だけど、たぶんペットの動きとかのデータをもっと集めたいんじゃね。あっちでスマホとかのカメラで撮ってこの世界で再現するわけだから、二泊三日でもかなりのデータ量になりそうだよな」
「こっちだと実際に隣にいるように再現してくれるけど、あっちだとスマホ越しなんですよ。お父さん、一昨日のためにわざわざ大きなタブレットを買ったみたいで」
「も、もしかして小町ちゃんのお父さんって?」
「まあ小町を溺愛してるな。俺がドン引きするレベル」
「そ、そうなんだ……。じゃ、じゃあサブレを出すね」
苦笑いしながらも、会話に区切りが付いたので由比ヶ浜はキャリーバッグを開けてサブレを引っ張り出す。今すぐにでも八幡の胸に飛び込みたいと主張するサブレを必死で宥めながら、由比ヶ浜は再び口を開いた。
「ヒッキーと小町ちゃんは、家族で食事したって言ってたよね?」
「あのホテル・ロイヤルオークラでな。最初は場違いかと思ったけど、料理は旨かったな」
「家族で旅行とか食事って、お兄ちゃんが中二病を発症してからは行ってなかったから久しぶりだったよね」
「あれは中二病っつーか、中学ぐらいになったら家族とどっか行くの恥ずかしくなるだろ?」
「うーん。あたしはそんなことはなかったけどなー」
「お兄ちゃんが出て来たから、お母さんもお父さんも機嫌良かったよね」
「いや、親父のほうは嫌がってただろ。なにせ第一声が『その世界で美人に騙されたら思いっきり笑ってやるからな』だったし」
「お父さんも捻デレだからなー。あれでお兄ちゃんのことを心配してるんだよ」
「だからって『そっちの世界でも働いたら負けなのか?』とか息子に尋ねることじゃねーだろ」
「ヒッキーのお父さん……なんか簡単に想像できる気がしてきたかも」
「たぶん大丈夫ですよー、その想像で。いちおう確認のために今度会ってみます?」
「えっ。ヒッキーのお父さんと会うって……ムリムリ!」
「ご希望なら母も同席させますので、いつでも言って下さいねー」
「おい、由比ヶ浜が困ってるからその辺にしとけ」
胸の前で掻き抱かれたサブレが苦しそうにしていたが、八幡の一言のお陰で拘束が緩くなった。積年の恩に当座のお礼の気持ちも加えて、サブレは力いっぱい尻尾を振って八幡にアピールするのだった。
「そういや、三浦とか海老名さんに預けるのは考えなかったのか?」
「二人ともペットを飼ったことがないって言ってたし、ちょうど小町ちゃんとメールしてたから」
「ぜひ小町たちにお任せあれ、って。サブレとお兄ちゃんも、お互いに会いたがってるんじゃないかなーって思ったんだけど?」
「あー、まあここまで懐かれたら悪い気はしないしな。だから俺が嫌がってるんじゃないかとか余計な心配しなくていいぞ」
千葉村での反省点を活かしながら兄妹が会話を進める様を、由比ヶ浜が微笑ましく眺めている。
「あ、そういえば結衣さんって、雪乃さんと連絡取れてます?」
「うん。ゆきのん、家のこととかで忙しいみたいだけど、連絡は取れてるよ?」
「ならいいんですけど、『今日うちに結衣さんが来るから雪乃さんも一緒にご飯どうですか?』って送ったら、『なかなか時間の余裕がなくて。ごめんなさい』ってだけ返って来て」
「その文面が雪ノ下の普通だから、心配しなくて良いと思うぞ?」
「だね。解散した時にヒッキーが断言してくれたけど、やっぱり大丈夫だったみたい。その、職場見学の時は急にテンションの高いメールが返ってきたりして、今思うとゆきのんも大変だったのかなって」
「まあ、終わったことだしあんま気にすんな。じゃあそろそろ料理を作ってくるから、小町は由比ヶ浜の相手を頼む」
「あ、あたしも手伝う。誕生日にゆきのんから貰ったエプロンも持って来たし」
「いや、お前は今日はお客様だからな。雪ノ下のプレゼントなら汚すのも悪いし、我が家と思って寛いでてくれ!」
「わ、我が家って……」
「うーん。お兄ちゃんって最近、天然で変な事を口にするようになったけど、大丈夫かな?」
照れる由比ヶ浜を見ながら、言葉の割には全く心配を感じさせない口調で、小町はそう呟くのだった。
その後は八幡手製の晩ご飯を食べて、話題が尽きないまま名残惜しくもお開きになった。再び個室経由で由比ヶ浜を見送って、こうして三人の楽しい時間は過ぎていった。
***
その翌日、八幡は意外な人物からのメッセージを受け取っていた。海老名姫菜である。
『はろはろー。二学期に向けてちょっと話したいことがあるんだけど、今日とか時間ないかな?』
ちょうどお昼時だったので小町に見せると、妹は自宅に招待することを提案してきた。暑い中を歩きたくないでしょ、という理由はもっともらしいのだが、引き籠もり状態で夏休みを満喫している八幡に苦言を呈していたことを思うと妹の意図が読めない。だが反論の余地もないだけに、八幡は仕方なく前日と同じようにして海老名を我が家に招き入れるのだった。
「小町、連れて来たぞ」
「はろはろー。小町ちゃんって呼んで大丈夫かな?」
「大丈夫ですよー。ちょっと兄の口調が移っちゃったので、海老名さんって呼んで良いですか?」
「うん。なんでか下の名前より上で呼ばれることが多いんだよねー。優美子ですら最初そんな感じだったし、呼びにくいのかな?」
「なんでか分からんけど、海老名さんのほうがしっくり来るんだよな。上条さんとかゴンさんみたいな感じかね?」
「ふーん、なるほどね。まあ私は別に気にしないから、呼びたいように呼んでねー」
「じゃあ海老名さんで。その、千葉村の時はありがとうございました」
腰を落ち着けてお互いの呼び方を確認し終えると、小町はそう切り出した。首を傾げているのは八幡だけで、海老名には小町の意図が通じているらしい。
「あー、バレちゃったか。まあ勧誘は本気だったんだけどね」
「ちょっとあの絵は、その……」
「うん。次はもう少し控え目なやつを見せるね」
「いや、妹を変な道に誘わないで欲しいんですけど?」
なぜか敬語になりながらも、八幡にも少しずつ経緯が読めてきた。おそらく海老名は合宿一日目の夜に、小町が由比ヶ浜や雪ノ下と合流できるように敢えて過激な絵を見せたのだろう。小町が逃げ出すほどの絵とはどんなものかと思わないでもない八幡だが、これは踏み出してはいけない道だと必死に自制心を働かせる。
「あの時はヒキタニくんとも合流できて、奉仕部の三人と小町ちゃんと平塚先生でじっくり話ができたって結衣が喜んでたよ」
「小町にとっても充実した時間になりましたし、だから海老名さんには一言お礼を言わないとなーって思ってたんですよ」
八幡の抗議をさらりと流して海老名がマイペースで会話を進める。それに小町が答えることで、自宅への招待を要請した理由を八幡はようやく理解できたのだった。
彼ら二人が外で会う事になれば小町は海老名と話ができず、かといって兄について行こうにもお礼を伝え終えたら話の邪魔になる可能性がある。妹はそう考えて、この家に来てもらうことを望んだのだろう。
そんな八幡の推測を裏付けるように小町が口を開いた。
「じゃあ小町は部屋にいるので、先に用事を済ませて下さいねー。終わったらまたお話したいです!」
「うん。じゃあヒキタニくんと相談して、オススメの絵を見繕っておくねー」
「あ、それは無しで」
恐ろしいほどの真顔になってそう返す小町を見て、海老名が思わず噴き出していた。噴き出すといえば鼻血だったはずの彼女を見やりながら、こんな反応もできるんだなと感心しきりの八幡だった。
「んで、二学期に向けてってことは文化祭とかか?」
「おー、さすがに鋭いね。話そうか悩んでたサブのほうなんだけど、じゃあそっちから話そっか」
「ま、話しやすい順で良いんじゃね?」
今まで直接向かい合って話す機会がほとんどなかった海老名だけに、どんな口調でどんな距離感で喋れば良いのかと八幡は少し身構えていた。だが相手が気安い口調で話してくれたので少し肩の力を抜くことができた。さすがはトップカーストの一員だなと思いながら、八幡は話に耳を傾ける。
「えとね、例年通りだとクラスごとに出し物をするはずだよね。できたら劇の脚本を書きたいなって思ってさ」
「ほーん。なんでそれを俺に話すんだ?」
「え、だって主役だし、先に話を通しておかないと駄目じゃん?」
「いや、さっき話そうか悩んでたとか言ってなかったか?」
「だって脚本もできてないのにさ。渾身の脚本を書き上げて、それを見せながら主演をお願いするのが筋じゃん?」
話しながら段々と頭が痛くなって来た八幡だった。海老名の返答を予測しながらも、彼は一縷の望みをかけて問いかける。
「念のために確認しておきたいんだが、それってBLがテーマじゃねーよな?」
「んと、BL以外に掘り下げるべきテーマなんてあるの?」
「駄目だこいつ……もしかして相方は葉山か?」
「ご名答。さすが、二人は響き合ってるね!」
「ねーから。つーか意味不明だから!」
どこかの部長様のように片手を頭に当てて、八幡は疲れた声で話を続ける。
「それ、俺が却下したらどうなるんだ?」
「んー、別にどうも。他のキャストを募るしかないんだろうけど、その時に考えれば良いんじゃない?」
「なんか腑に落ちねーな。脚本を見せながらお願いするとか言ってた割に、なんか企んでねーか?」
「あー、そういうわけじゃなくてさ。その、ヒキタニくんは嫌がるかもだけど、結衣から少し話を聞いてるんだよね。だから本気で嫌ならそれを強制はしないよ、って感じかな」
「あー、由比ヶ浜から話が行ってるのは別に嫌じゃないっつーか、そこまで気を遣われるほうが嫌かもしれん。強制されるのは確かに嫌だけどな。んじゃ、脚本を見て決めるって事で良いのか?」
「始業式の日までには完成させるから、よろしくねー」
「はいよ。んじゃメインのほうに行くか」
話の内容はともかく、会話がスピーディーに進むことにお互いに気を良くしながら、話は本題に移った。
「こないだの千葉村での合宿なんだけどさ。それのレポートを平塚先生にお願いされてね」
「たしか学校行事に準じる形だって言ってたし、形式を整える必要があるってことか」
「それもだけど、ヒキタニくんも文化部と運動部が予算を巡って対立してたの知ってるよね?」
「それがなんで……ああ。仲良く合宿しました、みたいな発表でもするのかね?」
「そうそう。まずは形からっていうか、融和の象徴みたいなのを発表しておくのは悪くない案だと思うよ」
「それは分からんではないけど、話す相手を間違ってねーか?」
「雪ノ下さんは色々と忙しいみたいでさ。ちょっと別件で話したいこともあるから、できれば夏休みのうちに会っておきたいとこなんだけどねー」
「別件?」
「緊急の話じゃないし杞憂に終わるかもだから、まあ良いんだけどさ」
どうやら詳細を明かす気はなさそうだと判断して、八幡は意識を別に向けた。千葉村で違和感を覚えた雪ノ下と葉山の過去を海老名は危惧しているのだが、差し迫った問題ではないだけに彼女も話を元に戻す。
「でね、確かに雪ノ下さんと隼人くんに最初に話をすべきなんだけど。あの二人って去年から校内で注目されてたし、今さら目立つ要素の一つや二つ増えたところで、環境は変わらないと思うんだよね」
「まあ確かにそうだろうな。つか、その文脈だと俺の環境が変わるって言いたそうだけど、俺って所詮は奉仕部の下僕扱いだぞ?」
「それがそうでもないと思うんだよねー。テニス勝負の時はそんな感じだったと思うけど、5月にクラスで噂になったり、6月に部長会議を雪ノ下さんが綺麗に裁定したりしたじゃん。ヒキタニくん個人にもだし、特に奉仕部に興味を持ってる生徒はかなり多いと思うよ。それに加えて夏休みのこの話を持ち出したら、色々と動きが出て来ても不思議じゃないって思うんだよねー」
「なるほどな。ま、俺に興味を持つってのは無いだろうけど、奉仕部への注目度が更に高まると色々と厄介なことも出て来るかもな。あいつらが変な事に巻き込まれないように気を付けとくわ」
「それは過小評価だと思うけどなー。ま、前もってここまで話しておけば、ヒキタニくんなら何とかしてくれるでしょ」
今までは由比ヶ浜の親友という扱いで直接の接点が無かったはずなのに、どうしてこんなに高評価なのだろうと思いながら、八幡は静かに頷いて会話を終えた。海老名の分析が正しかったと身をもって知ることになるとは、この時の八幡は夢にも思っていなかった。
その後は再び小町も加わって、意外にも受験に関する有意義な話で盛り上がった。最後にこんなことを言い残して、この日のお客はまだ日の高いうちに帰って行った。
「優美子をおいて晩ご飯を頂くのも心配だし、結衣がいないのに二人で居座るのも悪いしね。また大勢で集まる時はよろしくねー」
***
そしてその夜、八幡に待望のメッセージが届いた。明日の夕食は外で食べると妹に告げて、八幡は逸る気持ちを何とか抑えようと苦労しながら寝床に就くのだった。
5巻は急ぎ足で終わらせて6巻に入る予定です。
理想は年度末進行に入る前に6.5巻まで書き切れる事ですが、しばらくは週一更新になります。
どこかのタイミングで週二ペースに戻したいと考えつつも、無理はできないのでご了承下さい。
次回は一週間後に更新する予定です。
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