「さあ、行くよみんな」
軍勢の指揮はダビデに一任されている。
「うん、懐かしいね。城壁とか違うけど、あの時も、ここに陣をはったっけ」
「そうなの?」
「そうさ」
ダビデが思い出すのはエルサレムを落とした時の事。あの時と似た状況というのはどんな運命のいたずらだろう。それをわかって全軍の指揮を任せていた。
彼ならば獅子王と戦って倒す間までもたせるだろう。
「じゃあ、ランスロット、予定通り正面からのぶつかり合いは任せた。こっちは弱兵だからね。強い正面は任せて数に任せて右翼からやるよ。クレオパトラが来てくれたおかげで左翼はエジプト兵だからね。心強いったらありゃしない」
「心得た」
「そして、謎の騎士君。ガウェインの相手は任せた。キングハサンに任せてもいいけど、アレ絶対最後まで戦わないからね。足止めも兼ねて君が戦ってくれ」
「了解した」
「……しかし、私もそちらに」
「駄目だ。サー・ランスロット。貴卿には、軍の指揮がある。一騎打ちは私に任せておくが良い」
「はっ! ご武運を」
「そちらもな」
それから、三蔵ちゃんと藤太は二人乗りで遊撃に出る。三蔵ちゃんの騎乗は無言で二人乗りさせるレベルだった。藤太の後ろにのって、伸びる棒やら怪しげな呪文をまき散らしていた方がはるかに有効。それに怖い。
「ハサンたちは、城壁の弓兵どもをお願い」
「了解しました、しかし……」
弓兵の数はランスロットに言わせれば以前の三倍以上。こちらが近づく前に一掃する算段のようだ。なにせ、あちらは円卓の騎士はもはやガウェインとアグラヴェインしか残っていないのだから。
「何か問題がありまして?」
そういうのはクレオパトラだ。
「オジマンディアス様の兵団にとっては矢程度どうということもありません。それよりも問題はそこの突入部隊の方です」
そう言ってオレを見る。
「オレ?」
「そうです。低俗なブタのくせに最前線に突っ込むなど馬鹿の極み。それにそのような震えた青い顔など、今からでも妾に替わったらどうかしら! それでもやるというのなら、まずは我らが用意した食事をぞんぶんにとってから行くことね!」
「すごいです先輩、罵倒されているのに、とても親切にされていまます!」
「ああ、うん、すごい豪華な食事……」
「それだけじゃないぞぅ。栄養バランスもばっちりだ。アレ本気でこっちの健康とか案じてるよ」
ニトクリスと同じでいい人なのが透けて見えるほどだ。うん。ファラオってオジマンディアスを除いたらみんないい人なのかなとか思ってしまいそうである。
ともかく、準備は万端となれば。
「行くか――」
戦闘開始だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、行こうか正面は怖いお兄さんに任せるとして、僕らは右翼を攻めるよー」
ダビデの采配を、ジェロニモが精霊を介して伝え、集まった情報をジキル博士が仕分けてダビデが再び采配。
「いやー、精霊ってのは便利だねぇ。伝令要らず」
「精霊をこんな風に使ったのはオマエが初めてだろうさ」
「そんなことより敵も攻めて来たよ」
「正面はランスロットとマスターに任せてこっちは右翼に集中。いい感じに三倍くらいで当たれてるんだから、さくさく行こう」
軍勢を指揮して、マスターを支援する。被害を減らすことも考えながらやる。
「やれやれ、常勝の王ってのは面倒くさくて行けない」
両方やらなければならないのだから――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
正面から騎馬隊が出ると同時に西側でもオジマンディアスの軍勢が猛威を振るい始める。そちらに戦力が多少は裂かれるがこちらも厳しい。
雨あられと降り注ぐ矢。正門前にたどり着けるのは良くて六割だろう。悲しいが、それでも正面から攻める以外にないのだ。
オレもまた兵団に混じって正門へと走っている。その時――砂嵐が吹き荒れた。
「キングハサンか!」
敵もまた混乱する。突然の砂嵐だ。弓も使えない。だが、何よりもその混乱を悪化させていたのが、藤太の米俵だった。
洪水のようにあふれる穀物にからめとられて動けないという大惨事。なんて贅沢なとだれかが叫んでいたような気がするが知らぬ。
そして、その混乱が成れば――。
「参る!!」
円卓最強が道を切り開く。騎馬隊に混じって、オレは正門に向けて突撃している。
「行かせません!」
立ちふさがるのは太陽の騎士。
「約定を果たそう――汝らの死を見るが良い」
そこに立ちふさがるのはキングハサン。オレたちは彼に任せて、正門へと向かう。相手になどしない。ただひとりを除いて。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いいえ、少し待っていただきましょう――」
鎧を脱ぎ捨て、帽子を脱ぎ捨て――その姿を彼のものは現した。
「何も――」
砂嵐の中、その姿をなぜ間違えることが出来ようか。
風に揺れる黄金の粒子を放つような金紗の髪を。
国を想う強き意思を乗せた瞳を。
その手に握られた黄金の剣をなぜ、見間違えることが出来ようか。
忠義を捧げた相手をなぜ、違えることが出来ようか。
彼の者こそ、騎士の中の騎士。騎士の王――。
「アーサー王ッ!」
「貴卿の相手は私だ、サー・ガウェイン」
「――なぜ…………いえ。私を、裁きに来ましたか。罪深き、私を。不忠なる、私を」
「いいや、違う。貴卿はもはや止まれぬ。それはわかっている。だからこそ、私は私の役割を全うするのみだ。獅子王の相手はサー・ベディヴィエールがやるべきこと。ならば、私がやるべきことは一つだ。抜け、ガウェイン卿。もはや、止まれぬのだろう」
「――――」
「よかろう。ならば、見届け人は私がしよう――」
「感謝する初代山の翁よ」
ゆえに、決闘がここに今、始まる――。
「騎士王・アーサー・ペンドラゴン」
「獅子王の騎士ガウェイン」
「「参る――!!」」
ここに伝説の戦いが幕を開く。
ただの一歩で砂塵を切り裂き、大地を砕く。その剣技は、綺羅綺羅しく誰もを虜にするほどの黄金の暴威。金の粒子舞う決戦は、されど長くは続かないことを誰もが悟った。
太陽の加護のないガウェインと令呪による加護を受けたアーサー王。決着など誰が見ても明らかだ。いかに獅子王のギフトがあろうとも、この差を覆すことはできない。
「それでも! 私は、獅子王の騎士なれば!!」
もはや止まれぬ。ガウェインは最後に残った心ごと、自らの妹に別れを告げたのだ。その時から、いいや、この特異点で聖都の民や十字軍を手にかけたその時から、もはや止まることなど許されない。
最後まで獅子王の騎士としての務めを果たす。それが、騎士ガウェインに残った最後の矜持なれば――。
「この剣は太陽の移し身。あらゆる不浄を清める
自らの
「いいだろう。その挑戦、受けて立つ――」
騎士王もまた、青ジャージ姿ではあるが、己の
「束ねるは星の息吹――」
輝ける剣が二本、星と太陽の輝きを放つ。
立ち上る黄金の光が二つ。
星と太陽の輝き――。
それは過去、未来、現在を通じ、あらゆる者が今わの際にて見た尊き夢。
数多の者が夢半ばで散り、志半ばで倒れていったその果てに、手を伸ばした無窮の輝き。
いざ、その真名を結ぶ――其は――。
「
「
ぶつかり合う光と光。
勝利の剣の極光が今、ここに激突する――。
かつてブリテンを救った二筋の光が、今ここにぶつかり、あらゆる全てを消し飛ばしていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くっそー、なんて堅さだこりゃ。普通にやっても駄目だね」
普通にやってもここは開かない。直死の魔眼すらも通用しない。ならば、どうすればいい――。大威力の攻撃を当てるだけでは、不可能。
このまま手をこまねいていては兵が損耗していくばかりだ。敵の弓は砂嵐の中でも降り注いでくる。
「このままじゃ――」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………うん。やっぱりこうするしかないよね――トータ! 正門からそれて、どこでもいいから壁にいって」
「むう? とりあえず、あいわかった!」
「オーケー、そのまま! まっすぐ止まらないでね!」
「何か策があるのか三蔵!」
「策ってほどじゃないけどね――じゃ、あとはよろしく」
「いや、待て、おい、なんだそれは。まるで今生の別れみたいじゃぞ――おい、人の後ろでなにしてる!」
何って、単純ファイナル如来掌の準備だ。
「あの正門がなくなればいいんでしょ?」
ならば、それを為すの身。これ以上兵が死ぬのは見たくない。何より、弟子が死ぬのが一番見たくないのだと三蔵は思う。
これをやれば最後、己の身は死する。
――本当なら、使いたくないんだけど、仕方ない。
そう仕方ないのだ。己が呼ばれた役割とはこれなのだろうか。本当なら、最期の別れくらいしてあげた方が弟子が泣かなくて済むだろうけれど、それをしちゃうと覚悟が鈍ってしまう。
「待て、馬鹿者が! ええい、貴様正門を横切れとはそういうことか!」
――羯諦、羯諦 波羅羯諦。
――波羅僧羯諦、菩提薩婆訶
「なんてったって一番弟子に借りっぱなしだったもの。しっかりと返してあげないとお師匠様失格じゃない?」
本当ならダ八戒と一緒に、あの旅の思い出を語って、今度はカルデアになんて行ってみたりして、なんてそんな夢をがあったけれど――。
錫杖鳴らし、いざや御仏よ、ご照覧あれ――。
「善なるものしか通さぬのなら、慈悲の
放たれる一撃は、キャメロットの正門を叩き壊した――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「三蔵ちゃん――?」
あの掌の形をオレは知っている。ならばあの一撃は三蔵ちゃんのそれであり――、そこから読み取れる破壊の規模と彼女が出せる最大出力を比較して、ありえないと断じて――それはつまり。
「――っ! 行くぞ!!」
ならば、今は泣いている暇などない。
「お師さん、今度は、もっと平和なところで、できればカルデアで会おう――」
走ってオレたちは聖都へと入る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………」
「そら、三蔵、注文通り、西側の壁に着いたぞ。次はどうする? また何か、ふざけた案はあるのか?」
「……次?」
次、次、なんだっけ……。
「ああ、次、そうよね……次、よね……」
頭が真っ白で、うまく考えることが出来なくて、言葉にできなくて。
でも、お願いはあった。次に行きたい場所ははっきりと頭の中にあった。
「まあ、ゆっくり考えると良い。弟子として師のかわりに働いてやる。ダ八戒とやらも軍勢を動かしておるし、マスターの方も本丸に乗り込んだ。ならば、師匠としてあとはでんと構えて座っておれ」
「えへへ……トータは、ほんと働きものよね。口うるさいのがたまに瑕だけど……。ダ八戒は、いやらしいけれど、やるときはちゃんとやるし、いやらしいけど。一番弟子は……うん……」
あの笑顔はやっぱりいいなと思う。もっと笑ってほしかったなとも。あの旅の中で何度も見たいろんな顔も
いいけれど、やっぱり笑った顔もやっぱり良くて――。
「ええと、次、だっけ……天竺は、もういったんだっけ……」
なら、次は、どこがいいかな。行きたい場所はやっぱり、あそこかなって思う。
一番に浮かぶのは一番弟子の顔だから。
「次は……どこかの、雪山の、てっぺんにある天文台とかに……行ってみたい、な……トータも一緒にいってさ……ダ八戒や李悟浄、呂布兎馬、みんなで、またお経をあつめたりして、旅をしてみたりさ……」
思えば生きていた頃は修行ばっかりで、全然そういう楽しいこととかしてこなかったから、どうせならみんなで、楽しいことをしてみたい。
仏門においてそれは、どうなんだって、言われるかもしれないれど、いいじゃない、少しくらい。みんなで笑って、楽しく過ごして。
一番弟子に、お師匠様らしいことしたり、されたりして……。
「そんな楽しい夢をみても、いい、よね……仏様は、バチとか、当てない、よね……?」
「当然だとも。御仏の慈悲深さは、たったいまお主が証明したではないか。よくやった、玄奘三蔵。弟子として、吾も鼻が高い。こちらはもう少しばかり、聖都の者どもに美味い飯を振る舞ってくる。お主はゆるりと、極楽で胡坐でもかいておれ」
あるいは――夢を見ていると良い。
どこかの雪山のてっぺんにある天文台で、弟子に囲まれて、わちゃわちゃとはしゃいでおればいい。叶わぬ夢ではないさ。
それは、いつかきっと、叶う夢だ――。
だから、楽しく笑っておれ――。
何を言っても返ってくる言葉はなく、ただ、独り言のようにつぶやきが砂塵に舞って消えた……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――――」
「見事な忠義だったガウェイン卿。誇ると良い、貴卿の忠義は、本物だ」
倒れ伏す騎士を見る。聖剣同士のぶつかり合いは、アルトリアが制した。もしギフトの恩恵があれば、どうなっていただろうか。令呪の後押しがなければどうなっていただろうか。
それは誰にもわからないが――。
「今はゆっくりと休め」
「…………」
ただ晴れやかに――太陽の騎士は散った――。
同時に砂嵐も晴れる。初代山の翁もまた役割を終えた。
「……ふぅ、少し疲れましたね。マスター、どうかベディヴィエール卿をよろしくお願いします。貴方に似て、本当に不器用な人ですから」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「正門が開いた!」
精霊伝令が告げる言葉は簡潔だ。だが、それ以上にどうしてそれが起きたのかをダビデは察した。
「お師匠様、本当にいいところをもっていくなぁ……うん、じゃあ、全軍、そこに向かって突撃だ」
中に入ってしまえば、あとはもうこちらのやりたい放題だ。
「ダビデ王……」
「大丈夫さ、博士。別れには慣れてる。なんてったって二度目だからね。それに、たぶん、お師匠さんも僕に泣いてほしくはないだろうしね。さて、こっちは何とかなったあとはマスター、たのんだよ」
最後まで油断なく、敵兵を押しとどめるのだ――。
一騎に行きます。零時に最終話となる36話を投稿します。
そして、展開のために決戦前夜はカットです。ですがなかったことにはならないです。きちんとありました。ちょっともう一気に最終決戦に行きたかったので泣く泣くカットです。
それに、とてつもなく長くなっているので。