空を行くラムレイ二号。小さな子供三人にオレ一人だから、それなりに狭いが、まあ、ジャックやナーサリーが楽しそうだからいいだろう。
「空をとんでるねぇ」
「まるでオズの魔法使いみたいだわ」
楽し気な二人。
「あいたー!?」
その時、サンタジャンヌの頭に何かが当たった。それは石。その瞬間――
「わっ!? ラムレイ二号、どうしました!?」
ラムレイ二号の操作がきかなくなる。下に引っ張られる。
「下にサーヴァント反応!? どうやら、何かの力によって引っ張られているようです!」
「えっと、こういうのは確か……そう、ついらく、だね!」
「浮き浮き嬉しそうに言うものじゃないと思うのだわ!」
「何につかまるんだ。おちるぞー!」
ラムレイ二号は地面に墜落した。
「うぅ、トナカイさん、大丈夫ですか?」
「うぷぅ……」
「喉からせりあがってきている何かを口元で耐えてませんか!? が、頑張って耐えてください!」
高いところから堕ちるのは、さすがにきつい……。
「ふわー、おどろいたねー」
「驚いたように見えないわよ、ジャック」
子供たちは元気のようだ。サーヴァントなのもあるだろうけれど。
「ふっ、ここから先は一歩も通さないよ?」
はしゃぐ子供たちの間に声が降ってくる。それは、男の声だ。
「な、何者!」
「な、なんで貴方が!?」
「そうそう。僕だよ、僕僕。そう、ダビデ王さ。悪いけど、ここから先は通行禁止というわけ。ソリも没収。そして、この僕がサンタになるのさ」
現れるダビデ。五つの石の効果で奪い取ったソリの上にのって、高らかにサンタ宣言をしている。袋はオレが確保したからいいが、ノリノリである。
「え、えー! 何故、どうしてですか!?」
「決まっているじゃないか! サンタクロースは合法的に子供の家に入ることができる。それはつまり、合法的に人妻の家に侵入することができるということと同じことなのさ! だから、僕は、サンタクロースになるんだ!!」
「ダビデさん、最低です。そんな個人的な理由でサンタの邪魔なんて――最低です」
絶対零度のマシュの視線が突き刺さるが、ダビデはそんな視線でこたえるような男ではない。言っていることも馬耳東風、むしろオレがダメージくらいそう……。
だが、そうも言っていられない。
「いいや、マシュ。ダビデは確かに最低のクズ野郎かもしれないけど、こんなことするやつじゃない! きっと黒幕がいるに違いない!」
「フッ、さすがは僕の
あいつ魔術王に全ての責任をおっかぶせやがった!? あと勝手に同志にしないくれ。
「ひどーい!」
「そうよ! 子供をいじめるなんて、鬼だわ、悪魔だわ、ハートの女王だわ!」
「ふっふっふ、なんと言われようとも、僕がサンタになることは確実さ。だから、どうしてもこの先に行きたいのなら、僕を倒していくことだね」
「かいたいするー?」
「サンタさーん、やっつけるー?」
「さあ、どうするジャンヌ。君が、決めるんだ」
「……そうですね」
さあ、どうする?
諦めるのか?
それとも前に進むのか?
もしこれで諦めるというのなら――。
「――そこを退きなさい、ダビデ王! 私はサンタとして、この二人を海に連れていくのです!」
――はは。
そうだ。そうだ! そうだ、サンタジャンヌ。そうだとも。
「願いを叶えることが、サンタのお仕事。邪魔する者は排除します!」
「いいとも。それじゃあ、この僕の屍を越えていくと良い」
サンタジャンヌとダビデが戦闘に入る。ダビデにはいいところで負けてもらう予定なのだが――。
――なんか手加減なんて必要なさそうだ。
迷いが少しずつなくなってきているのかもしれない。彼女の動きがよくなってきている。
「く、やられたぁー」
「ダンビさん、撃破しました……!」
「それじゃあ、通らせてもらうよダビデ」
「ああ、行くといいさマスター。ああ、それとね、サンタ君? 君この先には、僕のほかにもまだまだ障害があるからそのつもりで」
「なぜ!?」
「それもソロモンってやつのせいさ」
だからやめてやれよダビデ。そんなだから、魔術王がグレたのかもしれないじゃないか。ともあれ、この先にももちろん障害を用意している。
マリーさんも何やらノリノリで準備しているらしいし、そこらへんはアドリブだな。
「何故、サンタが願いを叶えようとするのを邪魔するのですか!?」
「海がみたいだけなのにー」
「横暴よー!」
「そっちこそ、どうして僕が人妻の家に合法的に侵入しようとするのを止めるんだい、横暴だよ」
いや、それは当然のことだから。ダビデみたいな不審者を家の中に侵入させるとかアウトだから。それも人妻の家とかもう大変なことにしかならないこと確定じゃないか。
ともあれ、ダビデは言うだけいって、カルデアへ還っていった。あとで、マシュによるお説教だろうけれど、まあ、それはそれだ。
これも必要なことだ。三人は、無事を確認し合ってから、先ヘ進もうとしたその時、薔薇の聖杯が飛んできた。
――って、聖杯!?
アイリさんなに投げてんだー!?
しれっと投げた聖杯を回収しながら、専用BGM――エリちゃんの宝具を利用したカルデアからのCDを流したもの――とともに現れる。
「どうかしら、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。またの名を弟子二号。どうやらここから先の旅路には、敵サーヴァントたちが幾人も待ち受けているようみたいよ。正体も目的も不明だけど、彼らは貴女たちが海に行くことを妨害するわ。願いを叶えるのは、果てしなく困難。願いを叶えたとしても、それは当たり前の出来事。
何故なら、貴女はサンタクロースだから。行き先に報酬なんてあるはずもないわ。それでも、行くのかしら」
「わ、私は……」
サンタジャンヌは、アイリさんの言葉を聞いて、ジャックとナーサリーを見る。まるで答えを待っているかのようなそれ。
だから、オレは言おう。
「ジャンヌが決めることだよ」
そして、オレはそれに最後まで付き合おう。
「私は……私は、願いを叶えたいんです。押し付けた贈り物じゃなくて。この二人が願った、その通りのものを、送ってあげたいと思います」
サンタジャンヌは、ジャックとナーサリーに向き直る。
「お二人が良ければ、私はまだ願いを叶えます。海を、見に行きましょう!」
「「はーい!」」
「そう。なら、心しなさい弟子二号。願いを叶えるということは、本来不平等なこと。他愛のない願いも、人生に関わる深刻な願いでも。それを叶えるのは、サンタクロース次第。叶えられることもあるでしょう。叶えられないこともあるでしょう。
聖杯と同じ。叶えられる願いは、ただ一つ。一人の祈りのみ。サンタという存在は、聖人とは程遠い存在なのかもしれないわ」
そう言って、彼女は去っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――サンタとは、聖人とは程遠い存在。
そうサンタアイランド道場仮面師匠はそう言った。
そんなことはない、と反論したかった。
けれど。けれど――。
できなかった。
サンタクロースは、立派な、誰かの願いを叶える聖人で、だからこそ、私もサンタを選んだ。そうすれば、私も、ここにいていいと言ってもらえると思ったから。
けれど、でも――あの人の言葉が正しいのだという、確信があった。
もしそうなら……クリスマスが終われば……。
その時のことを想うと、怖くて体が震える。
縋りたい。
――
私は、大丈夫でしょうか。
――
私は、いいのでしょうか。
――
私は、此処に在ることをを、許されるのでしょうか? サンタクロースにもなれない、空っぽの、何かではない、私なんかが、此処にいても、いいのでしょうか――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………」
「あれ? ダメだ、ソリが動かなくなっちゃった」
「故障したみたいだね」
故障した。そう故障した。オレが故障させた。というか細工した。
「じゃあ、ここから先にはいけないの?」
「……いえ、先ほどのようについらくしても困ります。だから、ここからは歩きで行きましょう」
マシュたちが回収してくれるので、ソリは此処において歩いて行くことにする。幸いなことに、というか、ちゃんと考えてダビデに狙わせたので、海まで歩いてもいける距離だ。
キャンプの道具も、食料もある。使わなければいいなくらいの保険の気持ちで用意していたものだが、使うとなったら有効活用だ。
「ですが、マスターは辛いかもしれません」
「大丈夫、みんなで行こう」
「「じゃあ、みんなで、手を繋いで歩こうー」」
これは予想外。オレの手を取る二人。
「とと!」
「あ、ズルッ……!
「サンタもどう?」
「!! そ、それじゃあ、私も――って、どこに繋げばいいんですか!?」
「背中かな」
「え、背中? おんぶ? だ、ダメです、恥ずかしいです。やめてくださーい!!」
まあ、やめないんですが。こういう反応が可愛いからね。それに――きっと何か悩んでいる。というか、絶対悩んでいる。
自分のことについて絶対つらつらと余計なことを考えているに違いない。
何度も言っているのにわからないのは、どこまでオレに似ているのかと。
言っている。
オレは君を肯定すると。
「気にしない、気にしない。オレは君のトナカイだ。どこへでも君を連れていくのが仕事だし、君について行くのが仕事だ」
「……うー……ありがとうございます」
「先輩! その、帰ったらわたしも是非……いえ、おんぶはさすがに恥ずかしいので!」
「マシュー? マシュー? いい加減、ボクもそろそろしゃべりたいんだけど……マシュさーん?」
まあまあ、ドクターは、この機会に休んでくれ。この後はきっと大変な紀元前へのレイシフトで休めなくなるのだから、今のうちに休んでおくのがいい。
だから、きっとみんなもマシュにオペレーターをお願いしたんだろうし。
さて、みんなで手を繋いで、背中にサンタジャンヌを乗せて、オレは歩く。こうやって歩けるのも礼装のおかげだ。
トナカイ礼装マークツー。身体能力アシストから防寒、防風、その他諸々の多機能礼装。なお、全部自己バフだから、他のみんなに何かを与えることができないという欠陥品でもある。
「……トナカイさん……」
「なに?」
「……いえ……」
「言いたいことがあるのなら言ってもいいよ? 寒い? それとも、もっと優しく運んでほしいとか?」
「……いえ、十分優しいですし、とても暖かいです……そうではなく……いえ、やっぱり、良いです」
「…………」
サンタジャンヌは何も言わなかった。
何を聞きたかったのだろう。
何を聞こうとしたのだろう。
それはきっと、彼女が、望むもののはずだった。
けれど、彼女はそれ以降何も言わなかった。楽しそうにはしゃぐジャックとナーサリーに混じって楽しそうにしているけれど、きっと――。
森の中でここをキャンプ地とする。
おいしいご飯を食べて眠るジャックとナーサリー。両側から頭を胡坐をかいた腿の上に乗せられて動けません。
「この二人、サーヴァントですよね」
「そうだね」
「現界したまま眠る必要なんてないですよね。無駄です」
「無駄じゃないよ」
無駄じゃない。こうやって触れ合うのも、こうやって頭を撫でるのも。こうやってみんなで眠るのも、無駄なんかじゃない。
「……わかりません……」
「わかるよ。きっと」
「そうでしょうか……一つ、いいですか? トナカイさんは、海を見たことがあるのですか?」
ある。島国生まれの島国育ちだからね。海なし県というわけでもなかったし、何より夏は海でのバカンスだった。
あの特異点のオケアノスの海も見た。果てのない、海原を見た。何もかもを呑み込むような、怖ろしく、それでいて何よりも優しい、海を見た。
「そうですか……あるのですか。あの二人が、興奮して、わくわくするほど、海は面白いものなのでしょうか?」
サンタジャンヌは海を見たことがない。ジャンヌ・ダルクは視たことがあるが、その記憶も記録もない。
でも――。
「きっと気に入るよ」
だってそうだろう? 友だちと、三人で旅をして、海を見に行くんだ。泳げなくても、きっと楽しい、きっと面白い。
大事なのは、艱難辛苦をともにした旅の果てで、友達と海を見ることだ。それ以上に、きっと美しいものはない。それ以上に心に深く刻まれるものはない。
鮮烈で、強烈で、脳髄を打撃されたかのような衝撃が全身を一瞬にして貫通し心にその光景を焼き付ける。いつまでも。いつまでも。
それは何よりも大切な記憶に分類される。いつかドラマで見た、最後のローマ兵のように。二千年の時が過ぎようとも色あせることのない想いと同じだ。
色褪せることのない黄金の輝きをきっと、君は、手に入れることができたのなら――。
「んぁ!? い、いきなり頭を撫でないでくださ……い……」
「……大丈夫。大丈夫、きっと――」
「トナカイ、さん……?」
「だから、今は、眠ってもいい。オレが見ているから。君が起きるまで、ずっと」
「あ……、は、い……」
「おやすみ、サンタさん」
「……おやすみ、なさい、トナカイ、さん……」
終わらなかったので、次回クリスマス編終了です。
そして、七章ヤバイ。
配布縛りですが、式さんがお亡くなりになりました……。
キメラのクリティカル連発はあかんて……。
あとあの冬木の虎。あいつやばくないか? それから全体的に女神ども、あいつら強すぎるんじゃが……。
だが、諦めないぞ。何度も死にかけたが、大丈夫だ。最後まであきらめずに頑張るぞ。
活動報告で途中経過など書いて行きます。
頑張ります。
0時にクリスマス最終話上げます。
きっとぐだ男爆ぜろって言われるだろうなぁ。