【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第100話 世界の争い全てが終わった

「シ・・・、シモンさん!?」

 

それは、シモンだった。

 

「シモン!? もー、今までどこにいたの?」

「アスナさん、木乃香さん、刹那さんまで!」

「焔くんたちまで、一体君たちは何をやっていたんだ!?」

 

行方知れずだったシモンたちが、何故か傷だらけで服も汚しながら祭りに現れた。

いったい今まで何やっていたんだ? そんな皆の疑問を無視し、シモンはただ前へ出て、ネギとカミナたちと並び、その場に居る祭りの参加者全員に向けて叫ぶ。

 

「俺はこの手で掴んで見せる! 俺は、自分の手で今日よりいい明日にしてみせる! そのためなら、天の向こうにだって行ってみせる」

 

この中で、唯一シモンに「何をやっていたんだ?」と聞こうとしなかったカミナだけが、力強く頷いた。

 

「そうだよ、兄弟! だったら、お前のやることは何だよ!」

 

そしてシモンに問う。お前の成すべきことは何かと。

すると、

 

「好きな子を一生守りたい! それが目指す天の向こうに行っても変わらない、俺の思いだ! それが俺の明日だ! たとえこの宇宙が滅んでも!」

 

突然の告白に、祭りの参加者の女性たちは「キャー」と顔を赤らめる。

しかも、今のシモンはただ好きな女の子に告白して恋人になるとか、そういうレベルの想いに見えない。

それは、大人の男が一世一代の想いを告げるのと同じぐらいの重さ。

 

「なんじゃ急に・・・・・・まさか!? いかん、もんじゃのソースで顔が汚れておる。化粧をせねば」

「マスター?」

 

慌てて化粧を直して、着替えようとしているテオドラやよく分かっていないセクストゥムは置いておき、今のシモンが何をしようとしているのかは、誰もが理解できた。

学園祭でも学園全土に知れ渡るほどの大告白をした、あのシモンだ。あのシモンがここまで言っているのだから、彼のやろうとしていることはもはや一つしかなかった。

 

 

「ニア!!!!」

 

「ッ!・・・シモン・・・」

 

 

思わずニアの肩がビクッと震えた。

ここまで力強く、そして想いをこめて自分の名を呼ぶシモンは珍しい。

いつもはほんわかとしているニアも、自然と表情に緊張が走った。

 

「ニア・・・俺・・・分かったんだ。俺、分かったんだよ! ただ、好きとか愛してるとか、言葉にするだけじゃダメなんだって。それをどう表すのかってことを」

「・・・・・・シモン・・・・」

「俺の目がニアの目で、俺の耳がニアの耳で「まどろっこしいからさっさと言いなさいよー!!」」

 

誰もがドキドキと緊張しながら見守る中で、中々結論を言わずに廻りくどい言い方をするシモンにブチ切れたのは、同じく現れたアスナや焔たち。

 

「大事なのは言葉じゃないって言ったでしょ! さっさと答えを言いなさい! 3・2・1、ハイ!」

「私たちがどれだけ死にかけたと思っているんですか!? ニアさんの性格からして、シモンさんの言葉が意味不明だから断るっていう展開だってあるんですよ!?」

「せや、ニアさんのことやからシモンさんとニアさんは別の人間やからとか言いそうや!」

「いいか、ここにたどり着くために私たちがどれだけ死力を尽くしたと思っている!」

「さあ、シモンは早くハーレムを解除して、トゥルーエンドを迎えてよ!」

 

一緒に旅をしていたアスナ達からの怒号。今更前置きをグダグダ言うなと。

しかもニアの性格からして、シモンの言葉が要領を得なくて、変な回答をするとも考えられる。

大事なのは結論。アスナ達にギャーギャー言われてシモンも、気を取り直してニアと向かい合う。

そして、ただ答えだけを言う。

 

 

「ニア、アレが俺の気持ちだ!」

 

 

その時、シモンは指を真っすぐ天に向かって突き刺した。

カミナやシモンがよくやる、あのポーズだ。

皆もそのシモンが指し示す先を見ようと、首を上げる。そこには、見事なまでに光り輝く月があった。

今日は満月。空には丸い月が光を照らしていたのだが・・・

 

 

「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!!??」」」」」」」」」」

 

 

空に輝くのはいつも見慣れた月・・・・・・のはずだったが、今日だけ様子が違った。

いや、ひょっとしたらこれから月の姿は、今目に見えるものが普通として、後世に伝えられるかもしれない。

シモンは星の歴史を文字通り変えてしまったのかもしれない。

なんと、月にはデカデカと文字が彫られていた。

地球からでも見て、分かるぐらいデッカく。

 

 

――シモン

 

 

――ニア

 

 

二人の名前が、ハートマークの相合傘で月にぶちこまれていた。

 

 

「「「「「や・・・・・・・・」」」」」

 

 

やりやがった・・・・誰もがそう呟き、そして麻帆良全土に響き渡る大声が爆発した。

 

 

「「「「「「「「「「シモンの野郎、月に相合傘を掘りやがった!!!!???」」」」」」」」」」

 

 

多分、明日には世界中で大騒ぎだろう。全世界のメディア、機関、野次馬、ネットが大荒れするだろう。

っていうか、月ってどこの国の所有物だ? 器物破損とかあるのか? 

いや、それ以上に、あのバカはなんというとんでもないことをやりやがった!

これから先、月見は全て二人の相合傘を眺めながら。

未だに終わらぬ世界各地の紛争も、これからはあの相合傘が彫られた月の下で行われるのか?

どこのエウレカだ?

 

「シ・・・・・・シモン・・・・」

 

そして、シモンはポケットから何かを握りニアへ差し出す。

形は歪だが、手のひらほどの大きさを誇る巨大なエメラルド。

 

「時間が無くて今はこんなんだけど、これで指輪を作って、そして・・・・・・・結婚しよう、ニア!」

 

誰の目にも明らか。誰も勘違いのしようがない、プロポーズ。

これなら、ニアにも間違いなく伝わった。

そしてその返答は?

 

「シモン・・・・・・・・私、今までシモンのやることは、いっつも驚かなかった。だって、シモンだから。シモンのやることは、私は何でも分かっていたから」

 

ニアはただ、その瞳から大粒の涙を流した。

だが、それは悲しみなどではない。涙の数だけ笑顔が輝いた。

声が自然に弾む。

 

「こんなに驚いたの、私、生まれて初めて。ありがとう、シモン。私、とっても嬉しい」

 

ニアはそこで、言葉よりも雄弁は方法を選んだ。

シモンに飛びつき、首に手をまわして、唇と唇を合わせる。

それで十分だった。

数秒間の間を置いて、少しだけニアはシモンから離れ、もう一度微笑む。

 

「シモン。二人で一緒に、今日より素敵な明日を作っていこう」

「ああ!!」

 

好きだとも、愛しているとも、もうお互い言わない。そんなこと言わなくても分かっているからだ。

今まで、人目もはばからず散々夫婦ごっこをしていた二人の想いは、ついには天を突き抜けて、確かな形となった。

 

 

「うおっしゃあああああああああああああああああああああ!!」

 

「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」」

 

 

その瞬間、誰もが両手を突き上げて大喝采が巻き起こった。

そしてアダイが一つになった。力強い拍手とハイタッチの音が鳴り止まない。

 

「君の心は・・・見せてもらったよ、シモン」

「とても素晴らしい愛を見せてもらいました」

「この野郎! 月にとんでもないことしやがって、このバカやろう! そんなテメェらが大好きだ!」

「何でもできるからって、何でもやりすぎだろうが!」

「浮気なんかしたら、月ごとぶっとばしてやるからね!」

「畜生、かっこいいじゃねえかよ!」

「二人で幸せになァ!! 堀田シモン! 堀田ニア!」

「まあ! まあ! まあ! まあ! お二人愛の最終決着に立ち会えたことを、この雪広あやか、誇りに思いますわ!!」

「今年のMVPはシモンさんだよ! おめでと!」

「私も二人みたいな恋愛してみせるぞ!」

「ふっ、今日ばかりは貴様を祝福しようではないか。シモンよ。なあ、テルティウムよ」

「そうだね、デュナミス。ああ・・・これが感動っていうのかな? 目から水分が出てくるよ」

「やってくれたネ、シモンさん! あんな月、未来にはないヨ。いや、幾多の並行世界にも存在しない! これが、この世界のシモンさんネ!」

 

不良も教職員も普通の生徒も施設の子供も、もはや関係ない。

誰もが称賛し、二人の新たな門出を祝福した。

 

「はは・・・スゲーや・・・シモンさん・・・久々会ったら、すごいことやってるな」

「うん・・・そうだね」

 

ギミーとダリーも気づけば笑顔で拍手をしていた。

シモンの規格外のプロポーズに、これまで自分をがんじがらめていたもの全てがなくなった気がした。

 

「あれが、君たちの先輩ですよ、ギミー、ダリー。あなたたちと同じ境遇から、外へ飛び出した人の姿です。」

 

ロシウは、まるで自分のことのように誇らしげだ。

 

「そうです。みなさんも、その気になれば何でもできるんですよ。わずかな勇気があればいいんです。あの背中を追いかけましょう」

 

ネギも、笑顔が止まらず、嬉しそうにアダイの子供たちに言う。

ネギが下を見ると、ナキムも笑顔で手を叩いていた。

 

「人は・・・変わることが出来る・・・か・・・堀田博士よ、どうやらネギ・スプリングフィールドは間違っていなかったようだな」

 

造物主は、ただ座った椅子から立ち上がらず、拍手喝采の渦を作って一つになる人々の姿に、気づけば胸が高鳴っていることに気づいた。

 

「アダイの子達も、あんな風に笑える・・・笑い合えるのだ。どうやら・・・愛が本当に変えてしまったようだ」

 

アンスパも椅子に座ったままだが、己の息子の勇姿に拍手を送る。

 

(シモン・・・私の息子が、この世界のお前でよかった。お前はどの平行世界にも負けない立派なシモンとなり、そしていつまでも二人で幸せになるんだぞ)

 

その覆面の下では、人の親の顔をした男が微笑んでいた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐすん」

 

 

そして、テオドラは体育座りで放心状態だった。

 

 

そして、

 

(そしてこれで、全てのピースが揃った。この世界ならば、絶対に全てを救うことができる)

 

そしてこの日、宇宙規模のバカップルが生み出した愛の月のもと、世界は一つになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・あの二人も来たか・・・・・・・・・・・・」

「のようだな」

 

祭りの騒ぎの中で造物主とアンスパが立ち上がり、誰にも気づかれぬようにその場から姿を消した。

音も立てず、反応もできぬほどの、超高速移動。彼らは、アダイを見下ろせる施設の屋上に一瞬で移動した。

するとそこには、二人の女が居た。

 

「奇妙な光景だな。我らが争いを目的とせずに、同じ空間に立つのだから」

「そうだな。時代が変わったということだろう」

 

造物主とアンスパが二人に声をかけると、彼女たちは振り返る。

 

「もはや、驚く気も失せたな」

「いつの間に復活を・・・と、言いたいところじゃが、堀田博士が居たのなら不思議ではないか・・・父よ・・・」

 

その二人は、アリカとアマテル。

 

「アマテルよ。どうやってこの世界で姿を具現化している?」

「テルティウムのメス猫たちが、存在感アリマスンCとやらをくれての」

「ああ、そういうことか。で、・・・・・・・シモンにコテンパンにやられたわけか」

「ぬっ・・・ま、まあ・・・・奴のドリルの突撃で、そのまま月を何周もした。気付けば、あんな文字が掘り上がっていた」

「ふはははは。さすがに、あんな月の下で、今後は人類も争う気にはなれないのではないか? 愛は、宇宙を変える。その通りだよ。しかし、こうしてお前たちが一緒にいるのはどういうわけだ? あれほど、互いにいがみ合っていた、敵同士だったお前たちが」

 

造物主の問いかけに、アリカとアマテルは互いを見合う。

あれほど互いに敵意を抱き、何年も命がけの戦いを繰り返し、その結果、人生すら狂わせた。

そう簡単に二人のわだかまりが消えるとは思えない。

だが、それでも屋上から見える光景を見て、彼女たちは微笑んでいた。

舞台の上で名演技を繰り広げて観客を魅了するデュナミス。敵役として相対するフェイト。そして、ボス役のシモン。

 

「俺たちはずっと一緒なんだ! だから、頼む! 死なないでくれ!」

「違うよ・・・僕は・・・君の中に居る大勢の人たちの中の一人・・・でも、僕はそれで構わない。だから、ここで壊れたって・・・」

「それが貴公の出した答えか・・・決して恵まれぬ人生であったが・・・それでも最後は幸福を手にしたのか・・・だが、そんな幸福に何の意味がある! 生きよ!」

 

傷つき倒れるフェイトを抱きかかえるシモン。フェイトの胴体には血糊がべったりと付着している。

二人を見下ろすように血糊で染まった剣を携えながら、デュナミスは仮面の下から涙を零している。

 

「きゃああああああああああああああ!! ハルナ、グッジョブ!」

「うおっしゃあ! 見ましたか、キノン先輩! これっしょ、これ! この三角関係が夏コミで革命を起こすんですよ! 正に夏の大三角形!」

「ううう、フェイト様~・・・そんな、そんな寂しいこと言わないでください」

「ダークヒーローマスクマン、泣かないで! その辛さを乗り越えて!」

「どうしてだ? 三人とも熱い戦いを繰り広げてんのに、腐臭がするぞ?」

 

鼻血吹き出す乙女たち。すすり泣く観客。デュナミスの応援をする子供たち。微妙な顔をして鑑賞する男たち。

反応は様々だが、多数決を取れば圧倒的に見入っている者たちの方が多い。

 

「逝っちゃダメだ! 俺はまだ、お前に何も応えていないのに!」

「ゴメン・・・・・・・でも、ありがとう・・・シモン・・・空っぽだった僕に・・・涙があふれるくらい多くのものを与えてくれて・・・・」

「諦めるな。貴様は人形から人になった存在。だからと言って、人並みに死ぬことはなかろう」

「ダークヒーローマスクマン・・・・・・・君の・・・心は、分かっている・・・君の大義を・・・でも、僕は・・・彼から離れられないんだ・・・」

 

シーンは中盤の大盛り上がり。

悪の黒幕シモンの右腕、フェイト。

人形として忠実に与えられた命令をこなす大幹部だが、世界を救おうとし、そして自分まで救おうとしているダークヒーローマスクマンと、自分に感情を与えたシモンとの間で揺れ動き、葛藤し、苦悩し続けた。

だが、ダークヒーローマスクマンとシモンが対峙し、ダークヒーローマスクマンの攻撃がシモンに直撃すると思われた時、フェイトはその身を犠牲にしてシモンを守り、そして逝こうとしている。

 

「フェイト・・・お前のことは忘れない。たとえこの宇宙が滅んでも」

「滅びないさ。そのために君が居るのだから・・・」

「ああ・・・・・・・。またな・・・・フェイト」

「ああ。ひと足早く生まれ変わってるから・・・・・・・来世で・・・会おう・・・」

 

舞台の主人公はデュナミス。よって、子供たちの注目はやはりデュナミス。

だが、人間臭い心で、デュナミスとシモンの間で揺れ動くフェイトの苦悩に心奪われた女生徒たちは、既に大粒の涙を流して嗚咽を漏らしていた。

 

「ううう、フェイトくん・・・あまりにも不憫ですわ! それでも幸せだったなんて・・・」

「いいんちょ・・・鼻水鼻水・・・」

「ゆーなも泣いてるやん」

「あっ、ほ、ほんとだ。って、亜子もアキラも泣いてるじゃんかー!」

「うっ、ひっぐ、うええ、えーん、フェイドくん・・・」

「のどか、涙をふくです。そして見届けるです・・・ぐすっ・・・己の想いを貫き通した人の最後を・・・目に、ひっぐ、やきつけるです!」

「うう、フェイト~、私も、あんたのこと、絶対忘れないから」

「そや。フェイトくんはこれからも、ウチらの背中に、この胸に、一つになって生き続けるんや・・・」

「いえ、アスナさん、お嬢様・・・演技ですよ? っていうか、ダークヒーローマスクマンの演劇なのに、フェイトが目立ってませんか?」

 

気付けば、女生徒たちは互いに手を握り合っていた。

友情? に殉ずる一人の尊敬すべき人に心を打たれ、その涙であふれる瞳で、最後まで舞台から目を逸らさない。

 

「あんな感じで、どうすか? キノン先輩」

「うーん、ここでキスすればもっと盛り上がるのに」

「ちょっとお待ちください。何故、キスが出てくるんですか? シモンさんとフェイトさんですよ?」

「はっ? 何言ってるんですか、シスターシャークティ。フツー、それぐらいしますよ」

「シスター、ハルナの言うとおりです。盛り上がれば当然、キスぐらいします!」

「シモンさんは婚約したのですが?」

「それこそナンセンス! 結婚しようが、百年度連れ添おうが、本能には逆らえないのですよ!」

 

一部、歪みまくった瞳とキラリと光る眼鏡をかけ直し、腐った女子が居るが、二人は別。

 

「デュナミスッッッ! 最後の戦いだ!」

「ああ、勿論だ! これ以上、悲しき連鎖を繰り返さぬために!」

 

逝った仲間を見送り、シモンはドリル片手に咆哮する。対するデュナミスも、正面から応える。

今まで、子供には少し難しい内容だったかもしれないが、あとはド派手な大アクションだ。

子供たちは一気に前にのめりだし、興奮気味な歓声を上げる。

 

「敵同士か・・・ひょっとしたら、私たちが勝手に敵と味方に分かれて争っていただけなのかもしれぬな」

「どういうことだ、アリカ姫」

「造物主。我々は、互いに倒すことは目的としていても、仲良くなるという考えはなかった。そして、分かりあうことは無かった」

「・・・・・・・・」

「じゃが、あやつらは違う。たとえ最初はいがみ合っていても、殴り合った次の日には仲直りしてしまう。あやつらにとって、戦いとは相手を打ち倒すことではない。むき出しの自分をお互いに知り合うための手段の一つなのかもしれぬ」

 

アリカたちが見下ろすこの光景は、今は皆仲良く一つになっているようだが、最初から仲が良かったわけではない。ただ、仲良くなっただけなのだ。

フェイトもデュナミスも、魔法世界人も魔界の魔族も未来人も、他校の生徒、近所の児童養護施設、クラスメート。

みな、最初は他人であり、最初は何度かぶつかり合っていた。だが、その争いは相手を滅ぼすための争いでは決してなかった。

その争いの全てが、今この時のために繋がっていたのかもしれない。

アマテルも、小さく頷いた。

 

「シモンは私を殺そうとはしなかった。いや、ぶっとばす選択肢はあったとしても、ぶっとばした後は私を当たり前のように宇宙船に乗せていた。シモンにとって・・・いや、奴らにはそもそも・・・仲間と喧嘩相手は居ても、敵というものが居ないのかもしれんな。だから、喧嘩が終われば当たり前のように相手を受け入れる」

 

造物主もただ俯いていた。そのフードの下で何を思っているのか? 

これまで背負ってきたもの。苦悩してきたこと。何千年も積み重ねてきたこと。それが崩れ去るのもたった一日だった。

その心中は、きっと誰にも理解することが出来ないだろう。

 

「やつらは、皆私の想像を遥かに上回った。それはつまり、私はまだ人間というものを理解していなかったということだ。理解していないものを理解した気になって、見切りをつけたということか・・・・・・」

 

シモンやカミナたちを見ていると、自分が一体何に悩んでいたのかが分からなくなる。

それは、造物主だけではない。アリカもアマテルも同じだった。

絶対に人と人の争いは終わらないと思っていたはずが、その考えすら揺らぎ始めた。

だが、もしそれを認めてしまったら、これまでの人生や戦争や犠牲になった者たちはなんだったのだ? その答えは、彼らには出せなかった。

だが、その時だった。

 

「それでもあなたは、良くやったと思うぞ」

 

それは、この場にいないはずの人物。

声の方向に四人が振り返ると、そこには年老いた老人が立っていた。

 

「貴様は・・・近衛近右衛門」

 

それは、麻帆良学園の学園長だった。

彼はとても穏やかな表情で、複雑な表情を浮かべる一同の輪の中に入った。

 

「カミナくんたちには礼を言わねばならんな。協力してくれたみんなも」

 

学園長は屋上の手すりから顔を出す。下には、つい先程までは俯いていた子供たちが楽しそうに笑っている。

それを見ているだけで、頬が緩んだ。

 

「ワシは、あなたは良くやったと思うぞ」

 

突如告げられる学園長の言葉。

それは、造物主たちには意外な言葉だった。

 

「そうだ。あなたはよくやった。敵も味方も関係なく、生半可に生きてきたものには背負いきれないことを背負い続けた。誰にでもできることではない」

 

それは、未だかつて誰にも言われたことのない言葉だった。

造物主たちは思わず言葉が出なかった。

 

「御老人・・・と言っても、私のほうが何千年も生きているが・・・」

「だが、何千年も生きたから・・・人よりも濃い人生を送ってきたから・・・だからと言って、全てが正しいわけではない。人間はそこまで簡単なものではない・・・」

 

そこに、全ての答えが詰まっていたような気がした。

そう、人間にも色々な者たちがいる。全ての人間を知った気になっていた造物主が、シモンやカミナに驚いたように、簡単に全てを理解できるようなものではない。

しかし・・・

 

「しかし・・・だから、人間は面白い。そう思わないだろうか?」

「ふっ、そうかもしれぬな」

 

しかし、だからこそ面白い。そういう考えが、造物主には面白かった。

それは、アリカも、アマテルも、堀田博士も同じだった。

 

「未来は分からない。当時、まさに神と同等の存在と思われた方と、隠居したワシがこうして会うことが出来たのだ。そしてなによりも、頼もしき新世代たちの登場をこうして見ることができた。だから、人生は面白く、やめられない」

 

 


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