【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第11話 鍋でもするか!

「では・・・ネギ・スプリングフィールド、カクラザカ・アスナ、ターゲットはこの両名で?」

「うん。ネギ君が違う学園に行ったと聞いて、二人を集めるのは困難かと思ったけど、どうやら今運よく彼と彼女は一緒のようだ。やり方は君に任せるし、特に僕の要求は無い。それでいいかな?」

「ふふふ、承りました。このヘルマンが、その仕事を請け負おう」

 

 

 

シモンの部活探しは、超鈴音の新クラブ設立という提案で幕を閉じた。

一段楽したことで、ネギはこれまで黙っていたアスナたちへの事情の説明や、修行がどうとかでアスナたちと共に行き、今日は帰らないらしい。

帰路に着くシモンは、ニアと一緒に帰りながら新クラブ設立申請書の紙と睨めっこしながら、今後自分がどうするかを話し合っていた。

 

「ドリ研部か~、でも、具体的にどういう活動すればいいんだろ」

「超さんも残りの部員集めや部室などの準備が整い次第、活動すると言ってましたね。超さんが部室の準備や設備の準備をすると言っていましたので、私とシモンがするとしたら、残りの部員集めが重要だと思います」

「うん。クラブの設立は最低5名だから、俺たちを除いて後二人。ど~しよ、・・・アニキやヨーコたちは面倒くさいって言って、きっと入ってくれないだろうし・・・」

 

今後部員を勧誘するに当たり、シモンはまずは自分の身近な人間を頭に思い浮かべて行く。

だが、一瞬でやめた。

どいつもこいつも放課後にクラブ活動をするようなキャラじゃない。

 

「ヨーコさんは色々な部を掛け持ちしていますけど?」

「う~ん、でもヨーコは運動部だからね。こうなったら、名前だけの幽霊部員でもいいかどうか今度聞いてみようか?」

「幽霊? まあ! この学園には幽霊が居るのですか? 私、幽霊は見たことがありません。もしお会いできる機会があるのだとしたら楽しみです」

 

やるべきことが見つかると、これほど世界が変わって見えるのか。

シモンはニアと帰路に着きながらワクワクしていた。

自分のこれまでの人生とは無縁だったクラブ活動というもの。

しかもそれを自分の手で作り上げるというのだ。

大変かもしれないがやりがいがある。

どうやって部員を集める。今後の活動はどうするのか。

そういえば近々学園祭もあるがどうするのか。

考えているだけでも楽しみになってきた。

 

「シモン・・・楽しそうです」

「えっ? そうかな?」

「はい。私はそんなシモンの楽しそうな顔が大好きです。私も一緒に頑張ります。ですから、ドリ研部をとてもとても楽しい部活にしましょうね」

「ああ。もちろんさ」

 

楽しそう? 

その通りだ。流石にニアはよく見ている。

これからの学生生活は今までとは違ったすごし方が出来ると思うと楽しみで仕方なかったのだ。

まずは早く部屋に帰ってこれからの事を考える作戦会議でも開こう。

ニアだって喜んで同意するだろう。

シモンはニアと一緒に足早に帰ろうとした。

だが・・・

 

「あっ、シモン見て!」

「えっ・・・あっ、あれ・・・」

 

足早に帰ろうとしたシモンとニアの前方に、ダイグレン学園の不良たちが大人数で何かを囲んでいる。

怒鳴り声や恫喝するような声も聞こえている。

シモンたちが目を凝らしてみると、その声の主は聞き覚えがあった。

 

「あの声・・・バチョーンだよ」

 

シモンは途端に嫌そうな顔をした。

バチョーンという男は同じダイグレン学園に通い、実は同じクラスでもあり、カミナやキタンと学園のトップの座を争っているライバルでもある。

カミナやキタンのように特定のダチを引き連れないで、とにかく大勢の舎弟を引き連れて学園内の地位を確立している男。

カミナと同じような前時代の番長スタイルで、意外と根はいい奴なのだが、カミナのライバルということもあり、シモンは少し苦手だった。

当然サボりの常習犯。ゆえにネギのことはまだ知らない。

 

「何をしているんでしょう・・・? 誰かを取り囲んでいるようですね」

「ええ~~、それって・・・カツアゲ・・・」

 

ニアに言われてシモンが目を凝らしてみると、確かにバチョーンたちは一人の少年を取り囲んで何かを叫んでいた。

しかも相当険悪な状態のようで、周りの舎弟たちもいつ飛び掛るか分からない状態だ。

シモンの手は震えた。

きっとカミナがここに居たらこう叫ぶだろう、テメエら何やってやがると。

ネギがここに居たらきっとこう叫ぶだろう、あなたたち一体何をやっているんですかと。

しかも二人は躊躇わないだろう。ならばシモンはどうする?

相手は何人も居る喧嘩も強い不良たちだが、ここで怯えていたらいつもと変わらない。

 

「ニアは・・・先に帰って・・・」

「シモン?」

「せっかく・・・せっかく何かを掴めそうなんだ。ここで逃げてちゃ何も掴めない! アニキや先生ならそう言う!!」

 

シモンは意を決して不良たちの下へと走った。後ろからニアが叫ぶが、止まらない。

そして勇気を振り絞って大きな声でバチョーンたちに叫んだ。

 

「そ、そこで何をやってるんだよ~!」

 

少し恐れを感じて噛んでしまったが、確かに言い切った。

その声を不良たちも聴き、現われたシモンをギロッと睨む。

 

「おっ・・・バチョーンさん。こいつカミナの舎弟ですぜ?」

「はん、いつもカミナの後ろに居る金魚のフンじゃねえか」

 

現われたのがシモンだと分かった瞬間、不良たちはケタケタと笑い出した。

 

「よう、シモンじゃねえか。カミナとキタンは居ねえのか?」

「・・・バチョーン・・・その子に何をやってるんだ」

 

不良たちに囲まれていたのは、まだ小さな少年だった。

白髪で、しかしどこかゾクリとさせられるような冷たさを感じる。黒ニアとどこか似た印象を受ける。

 

「何だ~、テメエはまさか俺がこんなガキにカツアゲしてるとでも思ったのか?」

「ち、違うの?」

「ふん、俺だってこんなガキから巻き上げたり喧嘩売るほど落ちぶれちゃいねえ。だがな、喧嘩を売られたら話は別よ」

「えっ、喧嘩を売られた!?」

 

身長的にはまだ少年に見える。そんな少年がバチョーンたちに喧嘩を売った? 自分には想像もできなかった。

すると、これまで黙っていた少年がため息をつきながら口を開いた。

 

「別に売ってなんかいないさ。ただ、せっかくコーヒーを飲んでいたのに、君たちがあまりにもやかましくて目障りだから、今すぐこの場から消えろと言っただけだよ」

「それが喧嘩売ってるって言ってんだよ!」

「やめろって言ってるだろ! バチョーンも君も」

 

なるほど、話しの流れは良く分かった。

しかしバチョーンたちのような、見るからに不良にここまで恐れずにハッキリと言うとは、この少年も只者ではないとシモンも思った。

 

「とにかく、バチョーンもこんな大勢で一人相手に喧嘩するなんてやめてくれよ」

「あん? シモン・・・お前はいつからこの俺にそんな口聞けるようになった」

 

シモンに言われた瞬間、バチョーンの矛先はシモンに向いた。

するとそれが合図となったかのように、ゾロゾロと周りの舎弟たちもシモンに近づいてきた。

ここでいつも怯えて縮こまるのがシモン。だが、自分は変わると誓ったんだ。

 

「口なら・・・いくらだって聞くさ」

「・・・なんだと?」

「俺だって・・・男だ!! いつまでも・・・いつまでも隠れてるわけじゃないんだ!」

 

バチョーンに向かってシモンが叫んだ。

その瞬間、ピキッと音を立ててバチョーンの額に筋が浮かんだ。

そして次の瞬間、シモンの頬に痛みが走った。それは拳だ。

バチョーンが拳を振りぬいて、シモンを殴り飛ばした。

 

「シモン! バチョーンさん、シモンになんてことをするんです!? どうしてぶつんですか!?」

 

殴られたシモンの下へニアが慌てて駆け寄って、バチョーンを睨む。

 

「へっ、奥さんの登場かよ。だがな、シモン、俺はそういう根性は嫌いじゃねえ。正直今までカミナの腰巾着だと思ってお前の事は嫌いだったし相手にもしなかった。だが、こういうことなら話は別だ。男として信念通したいなら、カミナたちと同じように拳で語れ! 堂々とお前とも喧嘩してやるよ」

 

バチョーンはニヤッと笑ってシモンを見下ろした。殴られたシモンはまだ地面を這っている。

だが、そんな光景を一部始終見ていた少年はため息をつきながら小さく呟いた。

 

「くだらない・・・」

「んだと!?」

「どういう美学かは知らないし知る気もない。だが、君たちみたいに何の苦労や痛みも知らずに惰眠を貪るような連中が、信念や生き様を語るのは不愉快で仕方ない。まあ、君たちに言っても仕方ないだろうけどね」

 

見下す? 侮蔑? そういうレベルではないだろう。

少年の言葉は、まるでバチョーンたちの存在そのものに不快感を示している。

 

「そして君もそうだよ。僕は別に助けなんて求めていないし、勝手に飛び出して殴られるなんていい迷惑だよ」

「ッ!?」

 

そして少年は、庇ったシモンにも冷たい言葉を浴びせた。当然そんな言葉をニアは許せない。

 

「何を言っているのです!? シモンはあなたを助けようとしたのですよ? あなたはそれを迷惑だと言うおつもりですか!?」

「そうだね・・・・迷惑だよ。頼んでいないのに誰かが庇って犠牲になる。そんな世界を僕は見たくないんだ」

「そ、そんな!? ・・・・・・・・この・・・・・良く分かりませんが・・・・純粋なシモンの行為を侮辱するのは許しません」

 

その瞬間、ニアと黒ニアは入れ替わった。黒ニアもまた少年のことを冷たい瞳で睨み返した。

 

「・・・君・・・ふっ、2重人格か・・・この学園は本当に面白いね。でも、その分不愉快なものも多いみたいだけどね・・・」

「まだ言うのですか? あなたが何者かは知りません。ですが私はシモンを傷つけるものは許さないと決めているのです」

「・・・・・・殴ったのは後ろの彼でしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その瞬間、黒ニアはギロッとバチョーンを睨んだ。

少年の冷静なツッコミで、矛先がバチョーンに向いた。

 

「えっ・・・俺?」

「ま、まじいですぜ、バチョーンさん! 黒ニアは、あのテッペリン学院の四天王を上回る力を持っているんですぜ?」

「バ、バカ野郎! ビビッてんじゃねえ! いいじゃねえか、上等だ! 売られた喧嘩は10倍返し! 全員まとめてやってやらァ!!」

 

黒ニアの恐ろしさを知っているのか、不良たちは少し怯え気味だが、もうこうなったらヤケだとバチョーンも叫び、全員で襲い掛かってくる。

 

「いててて・・・って、皆来た!?」

「シモンは下がっていてください」

「ふう、・・・・石化にするわけにはいかないし、気絶させるか・・・」

 

対してシモン以外の二人は大してビビッてはいないようだ。

むしろだからどうしたと、クールにバチョーンたちを迎え撃とうとした。

だがその時、横槍が入る。

 

 

「喧嘩・・・駄目・・・・」

 

「「「「「「「「「「なァッ!?」」」」」」」」」」

 

 

目の錯覚だろうか? 幻想だろうか?

30人の不良たちとの喧嘩が始まろうとした瞬間、世にも珍しい見たことも無い生物たちが空から大量に降ってきた。

 

「な、なんだァ!?」

「うおおおお、化物だーー!?」

「コリャなんだ!? 学園祭のための小道具かァ!?」

 

突如現われた謎の生命体の大軍に不良たちは慌てて逃げ惑う。

 

「化物じゃない・・・友達・・・食べないように言ってるから大丈夫・・・」

 

そんな謎の生命たちと共に現われたのは、これまた珍妙な人物だった。

グレーの髪の色に褐色の肌に目元にピエロのようなメイクを施した少女だった。

制服から、麻帆良女子中等部の生徒だと分かる。

 

「これは一体・・・」

「わ、分からないよ。君がやったの?」

「・・・・・コク・・・」

 

シモンと黒ニアに小さく頷く少女。

そして彼女はゆっくりと白髪の少年に近づき、少年にしか聞こえないぐらいの小声で何かを喋っている。

 

「私が助けたのはあの不良。私が入らなければ、あなたは彼らに危害を加えていました」

「・・・君・・・人間じゃないね・・・何者だい?」

 

シモンと黒ニアは、二人が何を話しているかは聞き取れないが、バチョーンたちが謎の生命体に逃げ惑っているのはチャンスだと考え、少年と助けてくれた少女の手を掴んで走り出す。

 

「とりあえず逃げよう! ニアも君たちも走って!」

「分かりました。とりあえずあなたたちも」

「「・・・・・・えっ?」」

 

シモンは強引に二人を引っ張ってその場から走り出した。

遠くからバチョーンたちが「待てーーッ!」っと叫んでいるが、とにかく今は全力で走った。

 

「・・・・・・私も・・・逃げる?」

「ねえ・・・僕は別に逃げなくても・・・そろそろ手を離してくれないか?」

 

だが、懸命に走っているシモンには聞こえない。ただ必死に少年と少女を逃がそうとしていた。

しっかりと握られたその手を見ながら、少年は再びため息をつきながら思った。

 

(なんでこんなことに・・・ヘルマン氏とネギ君との戦いを観戦しようと思ったのに・・・)

 

少女は思う。

 

(・・・・・・痛い・・・・・強く握られている・・・・)

 

何でこんなことになってしまったのかと、二人は表情こそ変えぬが少し困っていた。

だが、何故かは分からないが・・・

 

(でも・・・・)

 

少年も・・・

 

(・・・この手・・・)

 

少女も・・・

シモンの手を何故か振り払うことが出来なかった。

振り払おうとすれば簡単に出来るはずなのだが、シモンに引かれた手を、何故かは分からないが振り払うことは出来なかった。

 

((・・・温かい・・・))

 

自分たちの手を強く握るシモンの手から感じる温もりや、必死さが伝わったのだった。

 

 

 

「だーーーーはっはっはっはっはっは! とうとうバチョーンに一人で啖呵を切ったか! 流石だぜ、兄弟!!」

「まったくも~、子供先生と何をやってるのかと思ったら・・・、でもあんたが部活ね~、いいんじゃない?」

「っつ、沁みる・・・」

「我慢しなさい、男の子でしょ?」

 

麻帆良学園とは思えぬほど、くたびれたボロボロの寮のこの部屋はシモンの部屋。そしてニアの部屋でもある。

ニアも寮に自分の部屋があるのだが、普段の寝泊りはほとんどシモンの部屋でしている。

シモンは止めるが知ったこっちゃないようだ。

本来まだ学生の男と女が同じ部屋で泊まるなどあってはならないのだが、それもまたニアには知ったこっちゃなかった。

今はこのボロボロの部屋に、これまでの経緯を聞いたカミナが上機嫌に笑い、シモンの殴られた頬に手当てをしているヨーコが居る。

 

「んで、そこのガキと嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」

 

カミナが尋ねるのは、シモンが連れてきた少年と少女。

どうやらシモンは彼らを自分の部屋まで連れて逃げてきたらしい。

 

((・・・何故・・・・こんなことに・・・))

 

少年と少女が無言で同じことを思っていたことは、誰にも分からなかった。

 

「黙ってないで何とか言ったら? 勝手にやったこととはいえ、シモンは殴られてるんだから」

 

未だに無表情で無言の二人に、ヨーコは少し眉を吊り上げて言うが、二人はそれでも黙ったままだった。

さて、どうしたものか。

沈黙が重く感じた。

どうも少年と少女はこの場に居づらそうな雰囲気を醸し出しているため、シモンも何と声をかければいいのか分からなかった。

だが、そんな彼らにこの男は堂々としていた。

 

「おい、白髪ボウズ!」

「ッ!?」

「ピエロ娘!」

「いたっ・・・・」

 

デコピンされた。

別に痛かったわけではないが、あまり味わったことのない衝撃に二人は目を丸くして、おでこを押さえながらカミナを見る。

 

「名前って聞いてんだろうが。テメエらがどこの誰だか何だか細けえことは話したくなければそれでいい! だがいつまでも呼び方が分からなくちゃやりづれえ。テメエの名前ぐらいはハッキリ答えろ!」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「おい、聞いてんのか? もう一発やるぞ?」

 

カミナが再びデコピンを二人に放とうとした瞬間、少し慌てた口調で二人は口を開いた。

 

「・・・フェイト・・・フェイト・アーウェルンクスだ」

「ザジ・・・・・レイニーデイ・・・」

「フェイトとザジか、言えるんならさっさと言えばいーじゃねーか」

 

そう言ってカミナは再び笑った。

思わず名乗ってしまい、一瞬フェイトは顔を顰める。何かミスをしてしまったような表情だ。

 

(しまった・・・隠密に行動していたつもりが・・・今僕がここに居ることが学園側にバレると、今後の行動も取りづらくなるんだけど・・・)

 

人には言えない事情がある。フェイトはそれなのに思わず名乗ってしまった自分の迂闊さに少し呆れていた。

 

(とにかく長居は無用・・・さっさと立ち去るか・・・)

 

いつまでもここに居るわけにはいかぬと、フェイトはソッと立ち上った。

 

 

「悪いけど僕はもう行くよ。いつまでもここに居る理由も・・・・・」

 

「「「「「うおおーーーっす! シモン、やらかしたみてえだなァ!!」」」」」

 

 

帰ろうと思った瞬間、ドアが乱暴に開けられてフェイトの言葉をかき消してしまうほどうるさい男たちが乱入してきた。

キタンたちだ。

彼らは何かコンビニの袋やスーパーの袋を大量に引っ提げて、うれしそうな顔をしていた。

 

「み、みんな・・・どうして?」

「さっき、バチョーンたちがシモンはどこだって騒いでたんだよ。聞けばお前、バチョーンに啖呵きったそうだな。お前も色々やるようになったじゃねえか。やっぱカミナの選んだ男ってか?」

「ドッジボールの時といい、男を上げたテメエを祝うために色々買って来た!」

「というわけでお前を祝うため、俺たちは闇鍋パーティーを企画したというわけだ」

「おう、そうだそうだ!」

「鍋だ鍋だ鍋だ!」

 

何と彼らはシモンとニアの狭い部屋に無理やり押しかけ、有無を言わさずに鍋を用意しだした。

 

 

「は~~、・・・・要するに何か理由を見つけて、あんたたちはバカ騒ぎしたいのね?」

 

「「「「「「そうかもしれねえ!!」」」」」」

 

 

ヨーコは呆れたように溜息をつきながら、キタンたちの考えを見抜いた。

要するにシモンへのお祝いはどうでもよくて、ただ騒ぐ口実が欲しかっただけのようだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、みんな! いきなりそんなに押し掛けられても・・・」

「まあ、素敵です! 一度、みんなで鍋パーティーというのを私もやってみたかったのです!」

「はっはっはっは、シモンの男を上げたお祝いと聞いちゃ黙ってられねえ!! よっしゃ、テメエらダイグレン学園闇鍋パーティーだ!!」

 

部屋主であるシモンの意思などもはやなかった。

ニアもカミナも乗り気になり、いつの間にか狭い部屋が満室になってしまった。

 

(・・・帰れなくなってしまった・・・)

(・・・・・・・・・・・・帰れない・・・・・・)

 

部屋のドア付近でキタンたちが座り込み、出るに出られない。

フェイトとザジはどうやってこの場から抜け出そうかと考えていたが、二人の肩に手をまわしてカミナが座った。

 

「よっしゃあ、フェイ公とザジも一緒に食ってけ! 今日は朝まで騒ぎ明かすぜ!!」

「「・・・・えっ?」」

 

冗談ではなかった。

フェイトもザジも正直どうやって帰ろうかを思案していたのに、一緒に闇鍋など論外だった。

だが、カミナにそんな事情は通用しない。

 

「おい、カミナ。その二人は誰だ?」

「ん? シモンが連れて来たダチだよ」

 

帰れないどころか、いつの間にか友達にされてしまった。

こうなったら多少の無茶をしてでも帰ろうと、フェイトは肩に回されているカミナの腕を外して立ち上がる。

 

「冗談じゃない。いつから僕が彼と友達になったんだい? 正直迷惑だ。僕はもう帰らせてもらうよ」

 

フェイトはそう言って、座っている人で埋め尽くされている畳の上を、何とか隙間を見つけてつま先立ちで帰ろうとする。

だが、その足をカミナは止めた。

 

「おらァ、ちょっと待てえ!」

「むっ・・・・」

 

足をつかまれバランスを崩してフェイトが転びかけた。

むっとして振り向くと、こちらには更にむっとしたカミナが睨んでいた。

 

「友達じゃねえだ~? バカ野郎。男と男は互いに名乗った瞬間からダチ公で、一緒に飯食えばその時点で親友だ!! 仏頂面して何考えてるか分からねえが、そんなツッパリ方は全然カッコ良くねえぞ?」

「・・・・・・・・・何も知らないなら・・・何も分からないならなおのこと、僕のことは放っておいてもらおうか?」

「あん?」

「何も知らない人間に、ましてや君たちのような好き勝手に生き、何も背負わず、何も努力しようともせず、何も成そうとしていない者たちに、僕のことをあれこれ言われたくないね」

 

何やら言いたい放題言われ、カミナは眉をピクリと動かす。

キタンやニアたちは無視していつの間にか準備を始め、シモンはハラハラして右往左往していた。

ザジはどうすればいいのか分からず、固まっていた。

 

「・・・カッコいいとかカッコ悪い・・・それが君たちの概念かい? 正直、ヤンキーというものは知らないから分からないが、僕は君たちに興味も無いし、知りたいとも思わない。分からないならハッキリ言おう。どうでもいいんだよ、君たちのことは」

 

その瞬間、部屋の温度が下がった気がした。

 

(えっ? ・・・なんだこいつ・・・この・・・妙な迫力は・・・)

 

シモンは少し寒気がした。

キタンたちは準備に夢中で気づかないが、シモンはフェイトの言葉と瞳を見た瞬間、凍りつきそうになるほどの悪寒を感じた。

気づけば何故かザジが少しお尻を浮かせて、すぐにでも飛びかかるような態勢になっている。

一体何がどうなっているのか分からない。

ひょっとしたら、自分はとんでもない者を部屋に招き入れてしまったのではないかと、シモンは震えた。

しかし・・・

 

「へっ、お前・・・ダチがいた時ねえだろ?」

「・・・なに?」

 

カミナは違った。何故かこれほどの圧迫感を前にしても、鼻で笑った。

 

「ふっ、・・・友達・・・ね・・・それこそくだらない。僕にはそんなものは必要ない。欲しいとも思わない」

 

フェイトもまた鼻で笑って返す。だが・・・

 

「必要とか必要ねえとか、欲しいとか欲しくねえとかそういうもんじゃねえ。いるかいないかだ。ダチってのは必要だから作るんじゃねえ。欲しいから作るんじゃねえ。そいつと付き合ってたら自然となっちまう。互いにダチになろうと言ったわけでもなくな。それがダチってもんなんだよ」

「・・・だから? それが僕に何の関係が」

「ダチがいねえくせに、それがくだらねえとか言うんじゃねえって事だよ。自分が分からねえクセにそれをバカにするなんざ、それこそお前の言う何も知らないクセにってヤツなんだよ!!」

「・・・言ってくれるね・・・」

「言ってやらァ! ダチってもんをバカにされて黙ってられるか、俺を誰だと思ってやがる!」

「・・・さあ、知らないよ」

 

正に一触即発の空気。カミナとフェイトの間でピリピリとした空気が流れた。

だが、その瞬間部屋が薄暗くなった。

 

「ッ!?」

 

別に何も見えないほどの暗闇ではないが、フェイトは突然の暗闇に一瞬戸惑い反応が遅れてしまった。

 

「はいはい、あんたたちそれまでにして、準備で来たわよ? いつまでも食事前に口論してんじゃないわよ」

「「ッ!?」」

 

カコーンという音が響き渡った。

それはヨーコがおたまでカミナとフェイトを殴った音だった。

 

「いって~~、何すんだよ、ヨーコ!」

「うっさいわね! あんたたちがいつまでもゴチャゴチャやってると、いつまでも始まんないでしょ! それにあんたも! つまんないことゴチャゴチャ言ってないでとにかく食べていきなさいよ。あんたにとっては意味のないくだらないものでも、何事もやってみなくちゃ分からないわよ?」

 

エプロン姿でおたまを持った姿は、まるでお母さんだ。

 

(な、殴られた・・・しかもおたまで・・・・この僕が・・・・)

 

フェイトも生まれて初めての経験なのか、戸惑っている様子だ。

 

「よっしゃあ、準備出来たぜ!」

「うわ~~、楽しみです」

「材料はとにかくブチ込んだから、順番に取っていく。一度お箸をつけたら必ず食べる。鍋の中にお箸を入れたら2秒以内に取る。それでいいわね?」

 

「「「「よっしゃああああ」」」」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ええっと・・・何かそういうことらしいし、ザジだっけ? ザジも食べていく?」

「・・・・・・コク・・・」

「だから僕は・・・・」

「はっはっは、闇鍋前にして逃げるなんて許さねえ! それともテメエは目の前の問題から逃げだす腰抜けか?」

「・・・なんだって?」

「はいはい、もーいい加減にしなさい。それならまずはフェイトだっけ? あんたからスタートしなさい!」

「だから僕は・・・」

「よっしゃあ、新入り行って来い!!」

「ビビるんじゃねえぞ!」

 

キタンたちもフェイトをはやしたて、何だか帰れるタイミングを完全にフェイトは逃してしまった。

 

 

(・・・・学園結界内で魔法を使ってこの場を切り抜けても、学園側やネギ君にバレるからそれは避けたい・・・相手も一般人だし、手荒なまねはNGだ・・それにしても何だこの人たちは・・・全然パワーも魔力もないのにこの迫力は・・・何だか逆らえない・・・)

 

 

もはや諦めるしかない。脱出も力ずくでの強行突破も避けたいと、フェイトは深くため息をつきながら箸を持った。

 

(騒ぎも起こしたくないし、ここは郷に従うか・・・)

 


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