【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
校舎を外から見て、中を色々と想像できたが予想以上にひどい。
壁の落書きや、穴が開いている壁、ヒビだらけの廊下に壊されている扉など、ボロボロもいいところだった。
「ごめんね~ん、中々予算が回ってこないから修理の費用や設備に回せるお金が無いのよん。まったく、失礼よね。ロボット開発につぎ込むお金があるなら問題児を更生させることにお金を使えっての」
「は、はあ・・・・」
麻帆良学園都市に初めて来たとき、なんて素晴らしい場所なのだとネギは思った。
広大な敷地に活発な生徒。そんな生徒たちが存分に能力を発揮させられるための設備などは完璧と言っても良かった。
しかし、同じ学園都市内だというのに、ここまで差があるのかと思ってしまうオンボロ校舎に、ネギも驚きを隠せなかった。
「さっ、ここがあなたの担当するクラスよん」
「は、はい!」
教室の前に着いた瞬間、ネギは背筋が伸びた。どんな生徒がいるか分からず、若干緊張気味だ。
(どんな人たちだろう・・・そういえばここって共学だから、男子生徒も居るんだ・・・僕初めてだな・・・ちゃんと出来るかな~・・・)
初めての場所、初めての人、初めての経験。ネギは少し緊張したが、直ぐに顔を上げてキリッとした表情をする。
(大丈夫、自信を持って。僕は先生なんだ。やることは変わらない! 元気良く行くんだ!)
リーロンが教室の扉を開けて自分も後に続く。
そして足早に教壇の前に立ち、元気いっぱいの声で挨拶する。
「きょ、今日からこの学園で少しの間ですが、皆さんとお勉強をすることになりましたネギ・スプリングフィールドです! 担当教科は英語です! 短い期間ですがよろしくお願いします!」
言った。少し噛んだが言い切った。
深々と頭を下げて、ネギは最初の挨拶をこなした。
だが・・・
(・・・・・・あれ?)
反応が返ってこなかった。
自分の本来のクラスならばここで大騒ぎになるのだが、ちっとも自分に対して生徒たちが何も言ってこなかった。
(アレ? 僕・・・何か変なこと言っちゃったかな?)
ネギは恐る恐る顔を上げ、クラス全体を見渡した。
そして、あっけに取られた。
「・・・・・・・えっ?」
ネギは自分の目を疑って、ゴシゴシと擦ってもう一度メガネを掛けなおして教室を見渡す。だが、先ほどと何も変わっていなかった。
「あ、・・・・あの~・・・リーロン先生・・・・」
「う~ん、今日は一段と少ないわね~ん」
というか指で数えられる程度しか居なかった。
そう、生徒が少ないのである。
それもただ少ないのではない。圧倒的に少ないのだ。
机の数は麻帆良女子中等部の自分が担当してたクラスと同じぐらいある。にもかかわらず出席者が少ない。
そう、生徒が全然出席していないのである。
これにはネギも驚かざるを得なかった。
「あの~・・・・・・・みなさん風邪ですか?」
恐る恐るネギはリーロンに尋ねる。
するとリーロンは驚くどころか、さも当然のように答えた。
「ううん。どーせ遅刻とサボりじゃない? っていうかホームルームなんかに真面目に出席する奴なんて居ないわよん♪ あっ、因みにネギ先生はこのまま一時間目はこのクラスで授業だけど、まあ、こんなに朝早くに来る子なんて全然居ないから、気楽にやっていいわよん」
「えっ、ええええーーッ!?」
やーねーバカねーと言った感じで告げるリーロンだが、ネギにはあまりにも信じられないような光景だった。
「ちょっ・・・ちょっ・・・ええっ!?」
確かに遅刻やサボりは自分のクラスでもあった。
アスナたちと一緒に走って学校に行ったり、授業をサボるエヴァンジェリンなり、それも学園生活の一つだと思っていた。
だが、生徒がここまで居ないなどありえないだろう。
(うそ・・・ど、どうしよう・・・これが学校教育で問題の学級崩壊なのかな・・・、3-Aの人たちは色々と問題起こすけど、みんなちゃんと学校に来てたし・・・うう~~、どうすればいいのかな~)
(あらん、この子・・・おどおどしちゃって・・・マジで可愛いわねん)
(オマケに相談しようにも・・・この人・・・怖いし・・・)
何と研修どころか生徒が居ないなどという展開は、ネギにとっては予想外以外の何物でもなかった。
こんな状態で自分はこの学園で一体何をすればいいのだと、いきなり壁にぶつかってしまった。
しかも相談しようにも、今のところ知っている教師は自分を涎を垂らしながらトロンとした目で見てくるリーロンと、在学生と結婚しているダヤッカ。
自分もクラスの女性に告白されたり仮契約上キスしたりしてしまったが、問題のレベルが違いすぎる感覚に襲われていた。
「さっ、後は任せたわよん。また休み時間にね~」
「あっ、あの・・・・・・・行っちゃった・・・・」
さて、どうするべきか。
何十人も入る教室で、朝からいきなりこんな展開が待っているなど、予想外だった。
(ウウ~~、どうしよう・・・)
教壇でネギがず~んと肩を深く落としたその時、一人の男子生徒が手を上げた。
「あ・・・あの~・・・・・」
「は、はい! え~っと・・・あなたは・・・・」
慌てて顔を上げると、手を上げていたのは高校一年にしては少し幼さがあり、まだ中学生といったほうがしっくりくるような少年。
それ以外に特に特徴も無く、特に人をひきつけるような外見でもなく、背も高いわけでもない、ひたすら普通の学生が遠慮がちに手を上げていた。
ネギに問われてその少年は答える。
「あっ、はい。ええ~っと、俺はシモンっていいます。・・・その~・・・先生はどうみても子供にしか見えないんだけど」
その男の名はシモン。気も弱そうで、クラスの窓際の一番後ろから二番目の席に居た。
ただ、シモン自身に特徴も目立つ要素も無いのだが、彼もまた非常に目立った。
いや、そもそも現在クラスに人は少ないのだから目立って当然なのだが、そういう意味ではなかった。
何故ならシモンの隣には、シモンの机と自身の机をピタリと付けて、シモンの腕に抱きついて幸せそうにしている女生徒が居たからだ。
しかも可愛い。
ものすごく可愛い。
(うわ~・・・隣に居る女の人、すごい可愛い人だな~)
普段女生徒に囲まれているネギですら一瞬見とれてしまったぐらいだ。
この時ネギは一瞬シモンのことを忘れてしまった。
「あの~・・・・」
「あっ、はい! え~っと、シモンさんですね。そ、そうです。僕はまだ10歳の新米教師です」
「ええーーーっ、10歳!?」
普通はこの時点で学校中が大騒ぎになるほどの反応で、麻帆良女子中等部では赴任初日にクラス中からもみくちゃにされた。
しかし今はそんなことはない。
ほとんどの生徒が登校していない上に、何とかホームルームに出席している数少ない生徒たちも興味なさそうに隣同士でダベッたり、ゲームをしたり、机に突っ伏して爆睡している。
っというか驚いているのはシモンぐらいだった。
すると、驚くシモンの隣で、シモンに抱きついている可愛らしい女生徒が不思議そうに顔を上げた。
「新・・・米? まあ、それは新しいお米のことですか? それはおいしいのですか? シモンも食べてみたいですか?」
「・・・・・・・・えっ?」
ネギの目が点になった。
「ち、違うよニア。新米っていうのは新人のことだよ。つまりあの人は教師になったばかりってことだよ」
「まあ、では私と同じですね。私もシモンの新米妻です!」
そう言って女生徒はまたシモンに抱きついた。
「ちちちち、違うよ! 何言ってるんだよ!」
「ん~~、シモン。さあ、夫婦の愛を確かめる、早朝合体です!」
シモンにキスをねだる様に唇を突き出して、シモンに顔を近づける。
シモンは顔を真っ赤にしながら、キスから逃れようと後ろに体を逸らしている。
「ひゅーひゅー、シモン、朝から熱いじゃん! ウチの兄ちゃんと違ってモテるな~」
「ん~、私もダーリンとキスしたくなっちゃった」
先ほどのキヨウという生徒と、もう一人の生徒がシモンと女生徒を冷やかして、シモンがかなり戸惑っている。
対してこの光景を眺めながら、ネギも先ほどの女生徒の発言に目が点になっていた。
「え・・・え~っと・・・妻?」
そう呟いたとき、女生徒はパッとシモンから離れて、ネギに深々と礼儀正しく一礼した。
「あっ、はい。私はニア・テッぺリン。ごきげんよう、ネギ先生。私はシモンの妻です」
「あ、あなたも学生で既に結婚してるんですか!?」
「ちちち、違うよ! ニアが勝手にそう言ってるだけで・・・お、俺とニアは結婚なんてまだ・・・・」
「ふふ、お互い新米同士、これからよろしくお願いします」
くるくると巻いた長い髪に、白い肌、手足は細くしなやかで、とても可愛らしくニアは笑った。
少し普通とは違う世間知らずなお嬢様のような印象を受ける。
しかし、それでもネギは心のどこかで感動した。
だが・・・
「ん? っていうか何で子供がこの教室にいるんだよ?」
「あっ、そういえば。ね~、その子誰?」
「へっ?」
先ほどシモンを冷やかした生徒たちが教壇に居るネギを見て不思議そうに首をかしげた。
「えっ、で、ですから先ほど自己紹介を・・・・」
「あっ、ごめ~ん。教室入ったら私たちたいてい黒板とか教師とか見たりしないから、気づかなかったわ。それで、坊やはどうしてここに居るの? 迷子?」
「え・・・・えええ~~~!?」
ネギが教室に入ってから今に至るまでの話をまったく聞いていなかった。
というか眼中に無かった。
もはや麻帆良ダイグレン学園恐るべしと、ネギは再び不安に襲われた。そして、泣きそうになってしまった。
そんなおどおどしているネギを見かねて、一人の男が立ち上がった。
「やめたまえ。挨拶をされたのに、聞いていないなんて無礼にもほどがあります」
キリっとした瞳にオールバック、衣服の乱れている生徒たちの中で唯一しっかりとした制服を着用して身だしなみも整っている生徒が立ち上がった。
「あ~あ、これだからロシウは頭がかて~んだよ。いくら風紀委員だからってさ~」
「キヤル! いい加減にしないか、兄妹そろってクラスを乱すな!」
「ちぇ、は~い」
ネギはこの時、奇跡を見た。
このような場所にこれ程真面目な優等生が存在するなど、むしろ天の救いだった。
「お恥ずかしいところをお見せしましたネギ先生。さて、先ほどのシモンさんの質問ですが、先生は10歳と・・・先生の学力がどれほどかは知りませんが、まあ、この学園の偏差値を考えれば特に問題は無いでしょう。自分の名前を書けさえすれば受かる所ですから・・・」
「へん、よく言うよ! お前だってここに居るじゃんか!」
「僕は進学試験で体調を壊しただけです! 編入試験の時期になれば直ぐにでもここを出ます!」
何やら色々とこのロシウという男は不幸と悩みに日々頭を抱えているのだろう。まだ高校生だというのに、少しオデコが広い。
だが、それでも真面目な生徒が居てくれることはうれしいことだ。
だからネギも問われた事にはちゃんと答える。
「はい、では僕がまずここに来た経緯からお話します。それは・・・・・・」
ネギは自分のこれまでの事を話そうとする。
この時ばかりは、数人の生徒たちも教壇のネギに目を向けて、10歳の少年の事情を聞くことにした。
だがその時・・・・
「うおりゃああ! 燃える太陽天まで登りゃあ、起きた気持ちも天目指す! カミナ様、ただいま登校だ!!」
教室の後ろのドアが蹴破られた。
(う、うわ~~~ん・・・また変な人が来たよ~~~)