【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第21話 萌えるな燃えろ

 

「っていうことがあったんだよ」

 

自分のクラスでの出来事を楽しそうに語るシモン。その話を聞いた瞬間、超は大爆笑した。

 

「ははははははははははは! ば、番長喫茶!? それは流石に聞いたことないネ! 確かにそんな出し物はダイグレン学園にしか出来ないヨ! ネギ坊主が慌てるのも無理ないネ!」

 

確かに斬新だし、リアル不良のカミナ達にしかできない喫茶店だろう。

どんな接客や料理が出てくるのか分からないが、未知の物は興味深い。楽しみが増えたと超も笑った。

 

「しかし、番長とは・・・シモンさんやフェイトさんもやるのカ?」

「いや、僕とシモンは恐らく厨房に入るだろうね。そんな恰好したくないし・・・」

 

それは残念。

超は腹を抱えて笑いながら、フェイトの番長ルックも面白そうだと想像を膨らませた。

 

「私も調理担当がやりたかったのですが、皆さんが接客にしろというのです」

「そ、それは・・・・君にはそちらの方が客寄せになるという彼らの判断だと思うよ」

「そうですか? でも、ヨーコさんたちと一緒にスケ番という恰好をするので楽しみです」

「うん、ニアならどんな格好も似合うと思うよ?」

「ふふ、ありがとう、シモン」

 

カミナ達は追試が大丈夫どころか、既に学園祭に向けて動き出した。

シモンたちもクラスのことと部活の両立を図るのは大変だが、やりがいのある大変さだ。

 

「だけどドリ研部の活動は?」

「まずはドリルを使ったパフォーマンスネ。ニアさんとザジさんが可愛い恰好で人を集めて、私がドリルの解説をする。フェイトさんは試し掘り用の巨大な石でも用意してくれればいい。後はシモンさんが実践して掘ったり銅像を作ったりする。単純だが、この方が効果的ネ!」

「・・・・・僕が・・・石を?」

「不服か?」「いや・・・的確な人選で返って恐ろしいなと・・・」

「ふふ・・・・そうカ?」

 

その時、シモンとニアの気づかぬところでフェイトが僅かに超を睨み、その視線を受けて超は不敵にほほ笑んだ。

 

(この女・・・やはり何か妙だ・・・初めて僕を見たときも驚いているようだったし、ひょっとすると何か知っているのでは・・・)

 

超に心の中で疑心を抱くが、フェイトは直ぐに頭を振った。

 

(いや・・・ザジもそうだし・・・それを言うなら僕もそう。結局僕たちは表面上繋がっているようで・・・深いことは何も知らない・・・そして・・・知る必要も無い。計画に支障が出ないのであれば・・・)

 

気にするな。

深く誰かと関わろうとするな。

知る必要のないことまで知る必要は無い。

だから、興味を持つ必要も無いと、フェイトは疑心を捨てた。

 

「もうそろそろ行かないかい? 今日はクラスの準備をするんだろ?」

 

顔を上げてフェイトはシモンたちに振り返る。

 

「そうだな、学園祭の準備期間はみんな早朝に集合って約束だし、早く行こう!」

「ウム、ではザジさん。我々もクラスの手伝いに行くとするカ?」

「・・・コク・・・」

「では、また集まるときはメールをすると言うことでよろしいですね?」

この時は、それだけで解散した。

またメールがあれば集まればいい。

校舎は違うが、5人しかいない部活で同じ学内に居るのだ。

どうせ簡単に会える。

 

「ああ、それじゃあまたな!」

 

この時は本当にそう思っていた。シモンも・・・

 

「じゃっ、そういうことで・・・」

 

フェイトも・・・

 

「ウム、楽しみにしてるネ」

 

超も・・・

 

「・・・・ン・・・・」

 

ザジも・・・

 

「それでは超さん、ザジさん、ごきげんよう!」

 

ニアも・・・

 

 

 

誰もがそう思っていた。

5人全員揃っていられることが、どれほど難しいことであったのか・・・

互いに互いを深く知らなかったこの時は、まだ誰も分かっていなかったのだった。

 

「早く行こう! アニキたちはこういう時には遅刻しないからさ!」

「そうだね。彼らに遅刻だと怒られるのは不愉快だからね」

 

シモンとフェイトとニアは早足でダイグレン学園へと急ぐ。

まだ早朝だが、きっと遅刻せずに皆登校しているだろう。

そして、遅刻ではなく時間通りに着いた自分たちを「おせえぞ! 気合が足りねえ!」などと言って、デコピンでもしてくる光景が目に浮かぶ。

それは避けたいのか、フェイトも一緒に走る。もっとも、スピードはシモンとニアに合わせてた。

だがこの時、走っていたニアがハッとなる。

 

「そうでした!」

「どうしたの、ニア?」

「今日はスケ番というものの衣装作りでロングスカートが必要なのですが、道具を買うのを忘れていました」

 

どうやら忘れ物をしたことにニアは気づいた。

 

「私は急いで買ってきます。シモンとフェイトさんは先に行っててください」

「大丈夫かい? 荷物があるなら僕たちが持つけど・・・」

「ニア、俺も行こうか?」

「大丈夫です。私だって一人で買い物は出来ます! ですからシモンは私を信じてください! それに二人は早く行かないと、アニキさんたちに怒られてしまいますよ?」

 

世間知らずのお嬢様は、逞しそうに胸を張る。

その姿は逞しいと言うよりむしろ可愛らしい。シモンとフェイトは思わず苦笑してしまった。

 

「たしかに・・・それじゃあ、シモン、僕たちは先に行かないかい? お姫様はお供がいらないようだしね」

「ああ、それじゃあ、俺たちは先に行くからな!」

二人に言われてニアもニッコリとほほ笑んで大きく頷いた。

 

「はい、では私は行きますね」

 

ニアは少し急ぎ足で予定のものを購入するためにシモンたちと別れた。

別れたといっても、直ぐに買うものを買ったら自分も登校するため、それほど大げさなものではない。

シモンとフェイトもそのまま走って学園へと向かった。

 

だが、この日・・・・・・・・・

 

 

 

ニアが登校することは無かったのだった。

 

 

 

買い忘れたものを買うために店へと向かうニア。

だが、彼女の前に一人の男が現われた。

 

「ッ・・・あなたは・・・・」

 

その男は、ニアも良く知る男だった。

 

「ヴィラル! ヴィラルではないですか! ごきげんよう。今日はどうしたのですか? 言っておきますが、私は戻る気はありませんよ?」

 

そう、そこに居たのはヴィラルだった。

テッペリン学院のヴィラルがまるでニアが一人になるのを待っていたかのように、待ち構えていた。

 

「ニア様・・・」

 

いつもなら跪いたり懇願したりしてニアに帰ってくるように説得した挙句、ダイグレン学園のドタバタに巻き込まれて吹っ飛ばされるヴィラルだが、今日はやけに殊勝な表情だ。

 

「ヴィラル?」

 

ニアもいつもと違う様子を感じ取った。

するとヴィラル軽く一礼をしながら、手をある方向へ伸ばした。

 

「あちらに・・・」

 

ヴィラルが示した方向には、巨大なリムジンが止まっていた。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、ニアの体が跳ね上がった。

この場には似つかわしくないほどの高級車。

どこの金持ちがこんなものを学び舎に持ってきたのだと普通は思うのだろうが、ニアは違う。

リムジンの窓ガラスはスモークで中が見えないが、その車に誰が乗っているのか分かっている。

そして言葉を失うニアの前で、車の窓ガラスがゆっくりと開き、中に居る人物が顔を出した。

 

「ニアよ・・・久しいな」

 

間違いない。

ニアは自分の思ったとおりの人物だと複雑な表情を浮かべた。

 

「お父様・・・」

 

そう、彼こそがニアの父親。

 

 

「ヴィラルよ・・・しばし下がっておれ」

「畏まりました、ロージェノム様」

 

圧倒的な威圧感。

普通の人には決して纏うことの出来ぬ王の覇気をむき出しにした男が、愛娘でもあるニアをジッと睨む。

 

「お父様・・・・」

「何をボーッとしておる。乗らぬか」

「し・・・しかし私は学園祭の出し物のお買い物に行かなくてはならないのです」

 

ニアは何とかその場を逃れようとしどろもどろに言うが、ロージェノムはもう一度睨む。

 

「もう一度言う・・・乗れ。少し話がある」

「・・・ッ・・・」

 

 

 

ニアは圧倒された。

 

(お・・・父・・・様・・・これがお父様!? 違う・・・これまで私に向けていたお父様の表情ではありません!)

 

 

 

うまく口が動かない。

いつもはどんな状況でもほほ笑んで、意味分からない言葉で周りを和まして、それでいて強い意志を持つはずのニアが、実の父が初めて見せる気迫に飲み込まれてしまった。

逆らうことの出来ぬニアは小さく頷いて、リムジンに乗り込み、久々に会う父と対面の座席に座った。

 

「手紙は見た・・・随分とやりたい放題をしておるようだな・・・」

 

空気が重い。

だがニアは意識をしっかりと保つ。

父が何のために自分の前に現われたのかを知っているからだ。

 

(嫌・・・お父様には心配をかけてしまいますが・・・戻りたくありません・・・)

 

自分を連れ戻しに来たのだ。

これまで何度も父の息のかかった者たちが自分を連れ戻しに来たが、そのたび自分は乗り越えてきた。

だが、今度ばかりは父も本気のようだ。

だからこそニアも負けたくないと拳を膝の上で強く握る。

 

(みなさんと・・・・・・お別れしたくない・・・・シモンと・・・離れたくありません)

 

仲間や愛するものと別れることだけはしたくない。

それだけを強く心の中で繰り返し、ニアは父と相対する。

 

「今日限りでお前は屋敷に、そしてテッペリン学院に戻ってもらおう」

 

来た。

娘の気持ちを無視して父は自分勝手に話を進める。

だが、ニアは強い意志を持って父に叫ぶ。

 

「お断りします! お父様、これまで私はお父様にご迷惑をおかけしました。自分勝手にしたことは謝ります。しかし私は人形ではありません。自分の居場所は・・・自分で決めたいのです!」

 

言った。

面と向かってハッキリとした強い口調でニアは実の父に対して言い放った。

 

「ふん・・・そんなに・・・あの学園が・・・いや、例の小僧が原因か?」

「シモンのことを・・・知っていてくれているのですね? 良かった・・・お父様には手紙だけでしか紹介できませんでしたから」

 

手紙など破り捨てられていると思っていた。

だが、ちゃんと自分の愛する男のことを知っていてくれている。

ニアにとってはうれしいことだった。

しかし・・・

 

「くだらん。学も無く、家柄も無い、才も無いような小僧の何がいい。何よりもあの小僧は両親もいないらしいな?」

 

次の瞬間ロージェノムから出てきた言葉は、侮辱の言葉。

 

「なっ!? く・・・・・・くだらなくなどありません!!」

 

その言葉に我慢出来ずに、ニアはキッと父を睨む。

 

「両親がいないというのが何なのです? シモンにはとても素敵なアニキさんやヨーコさんという幼馴染が居ます! たくさんの仲間や友達が居ます! とても素敵な先生も居ます! そしてシモンには、とてもとても素晴らしい力があります! とてもとても強い心があります! シモンはくだらなくなどありません!」

 

少しでも分かってもらいたい。その一身でニアは必死に父に向かって叫ぶ。

 

「ダイグレン学園の皆さんもそうです! とてもとても温かく、仲間思いで、一生懸命で、いつも私を元気にさせてくれます! あそこはそんな素敵な場所なのです! あそこがお父様の下を離れ、自分の足で歩いて見つけた私の居場所なんです!」

 

だが、そんな彼女の決意の言葉をロージェノムは鼻で笑った。

 

「ふっ・・・自分の居場所・・・か・・・だが、それが無くなったらどうなる?」

 

その時その言葉の意味が直ぐには理解できなかった。

 

「・・・・・・・・・・・えっ?」

 

だがロージェノムの目は真剣そのもの。

 

「お父様・・・どういう・・・」

 

唇が震えるニアに向かい、ロージェノムは恐るべき事実を娘に告げる。

 

「麻帆良ダイグレン学園を・・・廃校にする!」

「ッ!?」

 

 

 

それは、絶対にありえないことだと思っていた。

 

「まともな授業もせず、問題ばかり起こす不良の掃き溜めの場所・・・挙句の果てに人の娘をかどわかす・・・許しておけるものか」

 

決意し、自分の両の足でしっかりと立ち上がり、父に抗おうとしたニアの足元を根底から崩すのには十分すぎる一言だった。

 

「麻帆良の教員も教育委員会も数名のものを除いてこの件には前向きだ。確かに学校を潰すなど前代未聞のことだが、これはこの学園都市に通う一般生徒たちを守ることにも繋がる」

 

ニアには分かっている。

 

(お父様は・・・テッペリン学院の理事長としてだけでなく・・・私には理解できぬほどの大きな・・・大きな権力も・・・力もある・・・・)

 

自分の父が本気であることを。

 

(ウソや冗談では・・・ありません・・・)

 

その力を自分の父が持っていることを。

だからこそ自分が・・・

 

「だが・・・ワシがその気になれば、それを全部無しにすることも出来る」

 

こう言えばニアがどういう決断をするのか、ロージェノムは分かっている。

 

「ニアよ・・・どういうことか・・・分かるな?」

 

だが・・・

 

「分かりません・・・」

 

潰れるような微かな声でニアは呟く。

 

「ほう」

 

諦めたくない。手放したくない。その思いで精一杯抗う。

 

「分かりません! 私はようやく自分の居場所を見つけたのです! 私をお父様の娘としてではなく、私を私として見てくれる人たちとようやく出会えたのです! 私はもう子供ではありません! どうしてそれを分かってくださらないのです?」

 

ニアの目には涙が浮かんでいる。

もう自分には欠かすことが出来ないのだ。

ダイグレン学園も、シモンも、カミナたちも、自分には絶対に欠かせない存在なのだ。

それを無くしたら自分が自分でなくなってしまう。

だが・・・・

 

「分かっていないのは・・・・お前の方だァ!!!!」

 

憤怒の叫びが車内に響き渡った。

 

「ッ!?」

 

「分からぬのなら教えてやろう。お前が子供だからだ」

 

その怒号に圧迫され、身を乗り出そうとしたニアはボスンと、シートの背もたれに背中を付けてしまった。

そしてロージェノムは呆れたようにため息をつきながら、ニアに告げる。

 

「ニアよ・・・お前に何が出来る? 大体貴様のその制服はどうやって買ったのだ? 毎日の食費は? 学費は? どうやってお前は作っているのだ?」

「そ、それは、リーロン校長が奨学金だと・・・」

「たわけたことをヌカすなァ! 両親の居ないシモンとかいう小僧どもならまだしも、あのような麻帆良本校からも切り離された貧乏学園に通う生徒に奨学金など下りるかァ!」

「・・・・・・・えっ?」

「少し様子を見る意味も込めて、ワシがそう言ってダイグレン学園の校長に渡していたのだ・・・そうでも言わんとお前は受け取らんだろうからな」

「そ、そんなッ!? お・・・お父様が!?」

 

そんな話はまったく知らなかった。

 

「だが、しばらく様子を見た結果がこれだ。毎日授業もろくに出ずに遊びほうけ、下らぬ遊びや必要の無い知識などを詰め込み、喧嘩も日常茶飯事・・・それのどこがちゃんとやっているというのだ?」

「そ、・・・それは・・・・」

「おまけにワシの娘とあろう者が、不純異性交遊もする」

「ふ、不純・・・イセイコウユウ? ・・・よく分かりませんが、私とシモンは不純ではありません!」

「では黒ニアはどうだ?」

「黒ニア、どうなのです? 私とシモンはお父様が困るようなことをしたのですか?」

 

突然話を振られた黒ニアが強制的にニアに人格を入れ替えられた。

だが、黒ニアはニアの問いかけと父の真剣なまなざしを前に沈黙し・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

目を逸らしてしまった。

 

「ほれ見たことか!」

「本当なのですか、黒ニア!?」

「い、いえ・・・・・・・最後までは・・・・どれだけ襲ってもシモンは粘るので・・・・・」

 

 

黒ニアは視線を逸らしたままボソボソと呟くが、それらしいことがあったのは事実らしい。

そうなってしまえばもはやロージェノムは黙っていない。

 

「どちらでも同じこと! とにかくそのような問題生徒たちや非日常の中に娘を置いておける親がどこに居る!」 

 

痛い。

父の愛情が自分のこれまでと大切な人たちを傷つけるのが痛い。

そのようなことを言われても反論できない自分の心が痛い。

 

「自分の足で歩いて見つけた居場所だと? ふざけるな。そのような言葉は最低でも自分で金を稼ぐことが出来るようになってから言うのだな!」

 

ニアは押し黙ってしまった。

 

(何も言い返せません・・・・・・・何も・・・)

 

今日ほど自分が無知であることを呪ったことは無い。

無力であると実感したことは無い。

 

(私が見つけたと思っていた居場所も、・・・所詮はお父様に守られていた籠の中だったということなの?)

 

悔しかった。

何も言い返せない自分が悔しくてたまらなかった。

一言も発せなくなってしまったニア。

すると、そんなニアに変わり、これまで黙っていた黒ニアの人格に変わった。

 

「お父様・・・どうして今になってこれほど強行に? これまではお父様も本気のようでどこか本気ではなかった・・・チミルフたちを派遣したとしても、これほど権力に物を言わせるようなことをしませんでした・・・・どうしてですか?」

「簡単なことよ。この学園そのものに呆れたからだ。不良の掃き溜めの中において唯一救いがあるのではと期待した教師が、10歳の小僧らしいな?」

「ッ!?」

「学園長に理由を問いただしたら修行だとか試練だとか天才だとかという言葉で誤魔化しておったが、それこそふざけるなだ。自分の子の人生において大切な学生時代を子供の修行の犠牲にさせるなど、あってはならん。だからこそ潰すのだ」

 

黒ニアはようやく合点がいき納得いった。

どうやらこれまで娘のわがままに付き合っていた我慢も、ネギという10歳の少年の存在が決め手となり、ここまでの強行には走らせてしまったのだ。

 

(ここで私があの子のことを・・・どれだけ熱心で・・・想いがあり・・・生徒のために努力し・・・優秀であると言ってもきっとお父様は・・・)

 

ネギは父が思っているような子ではない。

普通の教師では決して真似できないほどのことをダイグレン学園に赴任した僅かな期間で

やり遂げた。

そのことをロージェノムは知らない。

ただ、プロフィール上のことしかネギを知らない。

だからこそ、シモンのことも、カミナのことも知らない。

どれだけ言葉を並べても、決して知ってはもらえぬだろう。

だからこそ、これから父のやろうとしていることを止めるには一つしかない。

 

(みんな・・・・ネギ先生・・・・・・・・・・シモン・・・)

 

冷静な黒ニアだからこそ、最短で最善な道がこれしかないと判断した。

 

(シモン・・・・・・・シモン!)

 

 

だが、頭は冷静だが、心は中々許してくれない。

 

(シモン・・・・私の・・・・・・私と・・・ニアの・・・・・・)

 

しかしそれほど強い想いだからこそ、彼らに迷惑をかけずに、彼らを守る方法がもうこれしかないのだと黒ニアは頭を下げた。

 

「お父様・・・私は・・・・お父様のもとへ帰ります・・・これでダイグレン学園と私は何も関係がありません・・・ですから・・・」

 

黒ニアは表情を変えない。

 

(シモン・・・・・シモン・・・・・シモン・・・好き・・・シモンのことが一生好き・・・でも・・・)

 

表のニアも顔を出さない。

 

(シモン・・・・・・・・・ずっと・・・あなたと一緒に・・・・歩いていきたかったわ)

 

だが、悔しさなのか、悲しさなのか、ハッキリとは分からないが、二人は心の中で泣いていた。

 

「うむ・・・それで良い」

 

これでいいのか?

 

 

父の愛情が何であれ、一番大事なのは何だ?

 

 

少なくともニアは心の中で泣いていた。

 

 

誰にもその涙を見せず、友と愛するものたちを守るために、一人で去ろうとしている。

 

「おっしゃああ、接客の修行だァ! いくぞ!」

「よしっ・・・・・・・ふっ、おいテメエ! 何のつもりでこの店に来たァ? へっ、いい度胸じゃねえか。ん、椅子に座りたい? そんなに座りたければ座らせてやろうか? その代わり、二度と立ち上がれねえかもしれねえがな?」

「へ~、私たちを呼びつけるだなんて、いい根性してんじゃない? 覚悟は出来てんでしょうね?」

「ココア? んな甘ったるいものを飲むのか? つうかテメエ、誰に向かって偉そうに注文してやがるんだ?」

「500円だ。全部まとめて置いてきな! ブチ殺されたくなかったらよ~」

「これに懲りたら二度とツラ見せるんじゃねえぞ~」

 

何をやっているダイグレン学園!

 

「ねえ・・・それって・・・番長というより、チンピラに見えるんだけど・・・」

「むっ、確かにフェイ公の言うとおりだな。もっと硬派にやらねえとな・・・おい、シモン。『燃え』っていうのはこれでいいのか?」

「いや・・・違うと思うけど・・・その・・・例えばツンデレっていうものがあるんだけど、最初はツンツンしてて最後はデレっとすることなんだけど、お客さんが帰るときには優しい言葉をかけてあげたら?」

「おっ、そいつはいいアイデアだ!」

「そうか~、・・・例えば・・・・・・ふっ、金なんて要らねえよ・・・本気のダチから金をもらえるかよ・・・・そうだろ? ・・・ってのはどうだ、シモン」

「いや・・・お金は取ろうよ・・・」

 

何をやっているシモン!

 

「とりあえず料理はおいしさでは勝てないからインパクトで勝負。いかにも体に悪そうなギトギトの料理を出した方がいいかもね」

「インパクトならニアもそうじゃないかい?」

「フェイト・・・あんたは客を殺したいのかしら?」

「だが、普段寮生活で金欠の中で自炊をしてる俺らにはうってつけだぜ!」

「おうよ、炎の燃え料理人の腕前を見せてやるぜ!」

 

何をやっている野郎ども!

 

萌でも燃えでもいいから今すぐに立ち上がるのだ!

 

 


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