【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第22話 そしてこっからスタートだぜ

どう見ても学生が全て作り上げたとは思えないクオリティ。

様々な衣装に仮装した生徒たちや、恐竜のような巨大な人形も動いている。

空では航空部が派手なアトラクションで飛行機雲のアートを描く。

遊園地などのテーマパークにも匹敵する、いや、それをも上回るほどの規模を秘めている。

観覧車なども設置しているし、最早なんでもありだろう。

三日間述べ40万人近くの入場者。

世界でも有数の学園都市の全校合同のお祭りだ。三日間大騒ぎの馬鹿騒ぎ、乱痴気騒ぎのどんちゃん騒ぎというわけだ。

老若男女問わずに祭りの魅力に取り付かれたものたちは、笑顔を見せてウキウキしている。

そんな空間を騒がしいと感じる一方で、そんな騒がしい空間の中で目に見えるほどの重い空気を纏った男が隣に居て、フェイトは小さくため息をついた。

 

「ふう・・・シモン・・・結局ニアは君に何の連絡もしていないのかい?」

「うん・・・リーロン校長は家庭の事情で帰ったって言ってた・・・」

「でも、噂では彼女は家出中なんだろ? それが何で今になって?」

「・・・分からないよ・・・ただ・・・家族に何かあったのかもしれない・・・でも・・・それなら連絡の一つ位してくれればいいのに・・・」

 

シモンは目に見えて元気が無い。

その理由は分かっている。隣にニアが居ないからだ。

 

(たった一人居ないだけで、こうも違うものなのか? シモンだけではない・・・何だか僕も・・・なんだろう・・・この・・・胸の喪失感は・・・)

 

いつも彼女の直球の愛や行動に振り回されて嘆いていたシモン。そのシモンが一人になっているだけでフェイトも違和感を覚えずには居られない。

 

(シモン・・・・・・そうか・・・・これが・・・)

 

シモンとニアは常に一緒だった。

二人で一人なのだ。

常に居るのが当たり前だと思っていた。

しかし今彼女はここに居ない。

昨日まで当たり前だったものが無い。

だからこそシモンも元気が無く、フェイトも心に引っ掛かりを得た。

その引っ掛かりの正体は、今のシモンの顔を見て、フェイトも気づいた。

 

 

(これが寂しいという気持ちなのかもね・・・)

 

 

ニアは家庭の事情で急遽実家に帰ったという話を聞いた。

フェイトは最初、「ふ~ん」としか思わなかったが、キタンたちの取り乱し方は尋常ではなかった。「まさかあの親父が何かしたのか?」「テッペリン学院の仕業か?」などと生徒たちだけで話し合っていた。

ネギも、知らせに来たリーロン校長も特にそのことに何か言うことは無かった。

生徒が一度実家に帰った。たったそれだけのことだとその場はそう納めた。

ニアは自分の意思で一度実家に戻った。

そう言われてしまえば生徒の彼らに何か出来るはずも無い。

舌打ちをしながら表情を曇らせて、しかし何とかニアがいつ帰ってきてもいいようにしっかりやろうと彼らは思うしか出来なかった。

ただ、ニアの居なくなったことにシモンだけは、しばらく無言のままだった。

 

「う~ん・・・ニアさんが居ないとは寂しいネ・・・・」

 

たそがれているシモンとフェイトの背後から、超とサーカスのピエロの格好をしたザジが現われた。

 

「超・・・」

 

超もニアが居ないことに少し困ったような顔をしている。

 

 

(・・・ん?)

 

 

しかしフェイトはその時、その超の困った顔がどこか怪しく映った。

 

(・・・何だ? この女・・・まったく気持ちが篭っていない・・・まるでこうなることを予期していたかのように・・・)

 

その時、ザジが元気の無いシモンの下へと歩み寄った。

そして彼女はニッコリとほほ笑んで、2枚の紙をシモンに、そしてフェイトにも一枚渡した。

 

 

「お二人もよければどうぞ。我がサーカスへ」

 

「「ッ!?」」

 

 

無言のフェイトも落ち込んでいたシモンも驚いてしまった。

何とあのザジが笑ったのだ。

・・・というか・・・

 

「ザジ・・・お前・・・」

「君・・・普通に喋れるんじゃないか・・・」

 

いつも無表情で最低限のことしか話さないザジが人違いかと思えるぐらいのスマイルで話してきたのだ。

 

「シモンさん・・・元気を出してください。ニアさんは必ず帰ってきます。その時は是非ニアさんと二人で見に来てください」

「ザジ・・・」

「大丈夫です。ニアさんを信じましょう」

 

少し呆然としてしまった。

 

「シモンさんにはシモンさんでやるべきことがあるはずです。ドリ研部のパフォーマンス・・・今はこれに集中しましょう」

 

こんな時に普段あまり喋らず笑わない子が笑顔で励ましてくれると、何だか心が温かくなってきた。

 

「ああ・・・そうだな。ニアが自分の意思で一度実家に行ったっていうなら、きっと何か理由があったんだ。ニアが本当に助けが必要なときは、絶対に俺たちに話してくれる。だったらそれまで俺は、アイツの分もしっかりとがんばらないとな」

 

シモンが笑顔になるとザジもニッコリとほほ笑んで頷いた。

そうだ、自分には自分のやることがある。何があったかはニアが帰ってきてから聞けばいいとシモンは思い、いつもの自分を取り戻した。

 

「ウム! それでは広場でパフォーマンスネ! フェイトさん、言われたとおりの石をお願いネ!」

「ああ・・・分かったヨ」

「いや~、ニアさんの呼び込みが無かったが、ザジさんが頑張ってくれたお陰で広場には大勢の人たちが集まってくれたヨ。これならいい宣伝効果になるネ!」

 

超が指し示した先には大きな垂れ幕にデカデカと「ドリ研部」と書かれたスペースがあった。

隣には新体操部だとか空手部のためし割など、部活動のパフォーマンス広場の一角になっている。

 

「うわ~・・・これ、ザジが集めたの?」

「はい、ついでにサーカスの宣伝もさせていただきましたが・・・」

 

そしてドリ研部に与えられたスペースには、幼稚園児から大学部の生徒まで。特に多いのは、白衣を着たいかにも工学部系の生徒や教授たちが人ごみを作って集まっていた。

 

「すごいね・・・」

「はっはっはっは、まあ、麻帆良最強頭脳を誇る私の部活だからネ。工学部の人たちも興味あるみたいネ」

「へ~、超って凄いんだな~。しかし本当に多いね・・・これならニアが抜けた穴も十分埋まる!」

「ふふ、シモンさんに褒められるとうれしいね♪」

 

どうやらザジに集められた客だけでなく、麻帆良一の天才と呼ばれる超の発明に興味を持った理系関係者が集まったようだ。

なるほど、そう言われれば納得できる。予想以上に見物人が多いことに、パフォーマンスをしようとするシモンも緊張している様子だ。

 

「さて、シモンさんは心の準備を、フェイトさんは石の準備を。・・・・・安心するネ。魔法を使っても学園祭期間中は手品やCGで誤魔化せるヨ♪」

「ふん・・・やはり君は食えないね・・・・・・ん? ・・・・!?」

 

その瞬間、フェイトは口を押さえてハッとなった。

 

(待て・・・そうだ・・・ニアの役目はザジと同じ観客の呼び込みだ・・・しかし現にザジ一人でどうにかなっている・・・まるでニアが居なくなっても支障が出ないような役割を、超が最初から与えていたかのように・・・それに僕に石を用意させるというのもやはり妙だ・・・ネギ君や学園側の話によると、特別な理由で超鈴音はそれなりに魔法の知識の所有を許されているらしいが、彼女は京都で僕やネギ君の戦いは見ていなかったはず・・・僕が石の魔法を扱えることは、ネギ君に聞いたのか? それとも・・・最初から知っていたのか? ・・・どちらにせよ、この女・・・やはり臭うな・・・)

 

フェイトはこの間まで超鈴音に対する疑惑は、深入りしないために捨てたのだが、今になったやはり妙な気持ちが拭えなくなった。

 

(そしてもう一つの謎・・・何故彼女はシモンに関わろうとする?)

 

フェイトの疑念の一方で、超は手ごろなサイズのドリルをシモンに渡す。

 

「超・・・これは?」

「うむ、私がとりあえず新開発しておいたドリルヨ。クランク状に折れ曲がった取っ手を回すことで起こる回転力を、複数のギアで増大し、先端に取り付けられたドリルの歯を回して削ってゆく。科学の力により、強度、ギア、全てにおいて一歩先を進んだドリルヨ!」

「ええ~~!? これってそんなに凄いドリルなの!?」

 

ばば~んと猫型ロボットが道具を出すような効果音でシモンに向けて超は高らかにドリルを差し出す。

シモンは手渡されたドリルをあらゆる角度から眺めて不思議そうな顔をする。

 

(これ、そんなに凄いの? 普通のドリルにしか見えないけど・・・でも、超が言うならそうなんだろうけど・・・)

 

そう、見た目は一見ただの手回し式のドリルにしか見えないのである。

まだ未使用ゆえに、シモンが持っているドリルなどと比べたらピカピカなのだが、それほど大げさな発明品には見えなかった。

 

「ふふふ、見た目で判断されては困るネ。さっそくこの観衆の前でお披露目して欲しいガ・・・出来るカ?」

 

怪しい笑みを浮かべて笑う超だが、シモンは疑うことはしない。むしろ超がこのドリルはすごいと言うのだからそう信じることにした。

 

「ああ、問題ないよ」

「なら良かったネ。では、フェイトさん? フェイトさんも早速だがド派手なパフォーマンスを頼むヨ・・・・・少々本気でも構わないネ」

「・・・・分かった」

 

超に耳元でボソボソと言われて、フェイトもまたボソボソと何かを呟き始めた。

 

「ヴィシュタル・リシュタル・ヴァンゲイト・・・・・・」

 

するとまるで手品のように、何も無い空間に大人一人分ほどもある石柱が出現した。

思わぬパフォーマンスに観客も思わず息を呑む。

 

「すごいじゃないか、フェイト! それ、どうやってやったの?」

「手品だよ」

「すごい! まるで魔法みたいだ!」

「シモン・・・少しは人を疑うことも・・・・いや・・・なんでもない・・・」

 

手品ということをアッサリと信じるシモン。

 

(何だか心が痛むね・・・)

 

よくよく考えると、自分も含めてザジといい、超鈴音といい、こうも謎だらけの怪しい集団をまったく疑うこともせずに仲間や友達などと思っているシモンにフェイトも心配で頭を抱えてしまったのだった。

 

「さて、準備できたネ!」 

 

フェイトが石を出した瞬間、超はマイクを持って、集まった観客に口を開く。

 

「では、お集まりの皆様! 今日は祭りの初日で様々な魅力的なアトラクションやイベントが目白押しの中、ワザワザこんなマニアックな部活の出し物に集まってくださった皆様は、真のドリ魂を持つものと認定するネ! 今日はそんな皆様に、次世代の道を切り開く我らドリ研部の発明品第一号の試作発表を、学園一の穴掘り達人、穴掘りシモンが皆様に披露するヨ!!」

 

中には純粋な客も居るが、ほとんどがまるで学者や新作の発表会を待つ研究者たちの視線で、拍手も少なく怖い顔でシモンを見ている。

 

(うわ・・・緊張してきた~・・・皆見てるよ・・・しかも怖い顔だし・・・俺、大丈夫かな?)

 

普段自信の無い性格ゆえに、こういう風に人に注目されて何かをするのはめっぽう苦手だ。得意なドリルを扱うといっても、それは変わらない。

こういう時、カミナはこう言うだろう。「自分を信じろ!」と。

ニアならこう言うだろう「シモンなら大丈夫です!」と。

自分に自信が無いシモンに対してシモン自身よりシモンのことを二人は信じている。

だが、今は二人は居ない。

ニアに関しては学園にも居ない。そう考えるといつも傍に居てくれただけに、やはり寂しさがこみ上げてきた。

 

(さて・・・お手並み拝見といくカ・・・)

(これで分かるかな? 超が何故シモンにこだわろうとしたのか・・・魔法や裏世界を何も知らないシモンを・・・・)

(・・・シモンさん・・・・・・・)

 

部員たちはそれぞれ別々のことを思いながら、石柱を前に無言になるシモンを見守る。

対してシモンはニアの居ない寂しさや心の穴を埋めるにはどうするのかを考える。そうすると、自然と手が動いた。

埃や削った砂が目に入らぬよう、ゴーグルを装着し、何の合図も無いままドリルを回転させた。

 

「お・・・・」

「・・・おお!」

 

その瞬間、観客たちは息を呑んだ。

巨大な石柱がシモンの持つドリルによって、豆腐に穴を開けるかのように一瞬で削られてしまったからだ。

 

(ッ、ほう!!)

(なっ・・・僕が魔法で出した石柱を!?)

(・・・・・・・見事・・・・)

 

ドリ研部の三人の表情も一瞬で変わった。

何故ならシモンが今削っているものが、実はそれほど容易く削れるようなものではないと知っているからだ。

だが、シモンは顔色変えることなく易々と削っている。まるでそうなることが当たり前かのように。

 

(やっぱりだ・・・ドリルを回していると落ち着く・・・)

 

今のシモンの頭の中は、とても冷静で静かに落ち着いている。ニアが居ないことや観客に対する緊張も失せている。

 

(悲しいとき・・・寂しいとき・・・イライラするとき・・・俺はいつも一人で穴を掘っていた・・・そうすると落ち着くから・・・全てを忘れられるから・・・ドリルさえ回していれば・・・)

 

今のシモンにはドリルの回転と、目の前の石柱しか映っていない。

 

(声が聞こえてくる・・・ここが柔らかい・・・こっちを掘ってごらんって・・・・)

 

気持ちが落ち着き、観客の前で見事なドリル捌きを披露するシモン。

 

「ほう・・・すごいですな・・・」

「流石、超鈴音の発明品」

 

もっとも、シモンのドリルの腕前よりも観客はこれ程の見事な作業を可能にするドリルそのものに注目している。

シモン自身の力を見ているのは、ドリ研部の三人だけだった。

特に超鈴音は口元を手で覆いながらシモンを尋常でない眼差しで睨んでいる。

 

(ふっ、シモンさん・・・科学の力を駆使した最新技術だとか特別製の鉄を使っているなどと言ったが・・・・実はそれはただの何の変哲も無いハンドドリルに過ぎないヨ!)

 

そう、超が手渡したのは、シモンが最初に感じた通り、本当に何の変哲も無いドリルに過ぎなかった。

だが、問題はそこではない。

超にとっての大問題は、そんなドリルでシモンは自分の予想通りの事をやっていることである。

 

 

(何の変哲も無いドリルで、あなたは魔法で作り出された密度の高いフェイトさんの石を易々と穴を開けている・・・なるほど・・・これが穴掘りシモンか・・・ドリルそのものではなく、この人には魔法や気とは違う何かがやはり備わっている・・・その力の秘密さえ分かれば・・・あわよくば・・・・)

 

(なるほど・・・これがシモンか・・・確かに何かを持っているね・・・その正体は分からないけど・・・ただ・・・何だろう・・・ただ穴を掘っているだけなのに・・・・妙な胸騒ぎが・・・妙な感覚に包まれる・・・どういうことだ? この螺旋音・・・何だ? この感じは何だ?)

 

(これは偶然・・・ですが・・・私やフェイトに超鈴音・・・そしてこの人と一度に出会ったのは、運命。まさか偶然出会って何となく入部してしまったこの部に・・・・・・これが・・・螺旋・・・20年の時を越え・・・ようやく歴史の裏側に出現した、語られなかった力を垣間見ました・・・)

 

 

三人は、シモンを見て抱いた思いは絶対に口にしない。

それは絶対に口にしてはいけないと心が乱れている今でも、それだけは分かっていたからだ。

そう、そして運命はいよいよ動き出す。

まるでドリルのようにクルクルと回りながら・・・

その幕開けとなるのは、全てこの戦いから始まるのだった。

 


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