【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第25話 力で示すぜ己の愛を

いきなり冗談から始まって、場の空気が壊れた。

だが、これでようやく遠慮はいらないとばかりに、カミナやヨーコ達は男に食ってかかる。

 

「おい・・・ハゲの親父・・・ニアは・・・家庭の事情で家に帰ったって聞いたぞ? それで何でテメエがここに居る?」

「ねえ・・・・ニアは・・・・あんた・・・どういうことなのよ?」

 

バンと勢いよくテーブルを叩くカミナ達は、イスに座る男をグルッと囲んで睨む。

その瞳は演技ではない。

本気の敵意を剥きだした目だ。

 

「あ・・・あの・・・あの人は?」

 

一体何事かとアスナが慌てると、シモンは震える唇で呟いた。

 

「ロージェノム・・・・ニアの・・・お父さんだ・・・」

「ええええええええええええええええッ!? ニアさんのお父さんッ!?」

「ぜ、全然似てない・・・・」

「そ、そうや・・・今気づいたんやけど、ニアさんはどこに居るん?」

「・・・それは・・・・」

 

シモンは無言になってロージェノムを睨む。

 

(どういうことだ? ニアは・・・ニアは家庭の事情だって・・・なのになんでロージェノムがここに・・・)

 

いや、本当はもう分かっているのかもしれない。

ロージェノムがこの場に現れたことが全ての答えになっている。

シモンもカミナ達もようやく全てに気づいた。

そしてその考えが間違っていないと証明するように・・・

 

 

「今日来たのは他でもない。ニアの退学届を提出しに来ただけだ」

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

 

全てが繋がった。

 

「お、お前がニアを連れて行ったのか!?」

 

誰よりも反応したのはシモンだ。

アスナやネギたちは、今まで聞いたことも見たことも無いほどのシモンの怒鳴り声と怒りに満ちた表情を見た。

そしてシモンはそのまま走りだして、ロージェノムの胸ぐらをつかんだ。

 

「どうしてだ! ニアは・・・ニアは自分でここに居たいと願ったんだ! お前に・・・お前にもいつかこの場所を認めてもらいたいっていつも言ってた! ここに居たニアはいつも笑ってた! なのに・・・何で・・・・何で無理やり連れて行った!!」

 

乱暴にロージェノムの胸倉を掴んで叫ぶシモン。その気持ちはカミナやヨーコ達も同じだ。

だが・・・

 

「自分の意思で・・・だと?」

「ッ!?」

「うぬぼれるなァ!!」

 

鈍い音が響いた。

ロージェノムの大きな右拳がシモンの顔面を容赦なく殴り飛ばした。

 

「シモンッ!?」

「シモンさんッ!?」

「きゃ・・・きゃあああああ!?」

「ちょっ、あのおっさん何やってんのよ!?」

 

ネギやアスナたちも思わず立ち上がり殴り飛ばされたシモンの元へと駆け寄る。

 

「ふん、娘を傷物にされた父親の怒りの鉄拳だ」

 

カミナ達は今にもロージェノムに殴りかかりそうな勢いだ。だが、ロージェノムはそんな彼らに告げる。

 

「ニアが自分の意思でここに居た? 何を言う。ニアは自分の意思でワシの元に戻ると言った」

「なっ、うそついてんじゃねえよ!」

「そうよ・・・・ニアが・・・あの子が私たちと・・・何よりシモンのそばから離れるわけないじゃない!」

 

嘘に決まっている。そう叫ぶカミナ達だが、ロージェノムは小さく笑みを浮かべた。

 

「証拠はこれだ」

 

ロージェノムは胸ポケットから携帯電話を取り出し、ボタンを押した。その瞬間、録音されていたニアの声が流れた。

 

『お父様・・・私は・・・・お父様のもとへ帰ります・・・』

 

流れたのは間違いなくニアの声。聞き間違うはずはない。

 

「ほれ、なんならもう一度流してやろうか?」

 

不敵な笑みを浮かべるロージェノム。だが次の瞬間、カミナはテーブルを蹴り飛ばした。

 

「ざけんじゃねえ・・・どう聞いたってニアは泣いてんじゃねえかよ」

「何?」

 

カミナ達は見抜いていた。言葉の意味ではない。ニアの気持ちを。

 

「そうよ・・・泣いてんじゃない・・・つらくて・・・苦しくて・・・」

「テメエ・・・ニアちゃんに何て言ってそこまで追い詰めた!? 何でニアちゃんがこんなつらそうにしてんだよッ!?」

 

ヨーコ達は録音されたニアの声が、悔しさと悲しみの含んだ言葉だと直ぐに気づいた。

ロージェノムが無理やり言わせたとしか考えられないと詰め寄った。

ロージェノムは思わず舌打ちをした。

 

「ふん・・・くだらん・・・どちらにせよ、もはやこれは家庭の問題だ。ニアはもう貴様らの友でも何でもない。退学届も出した。もう貴様らと会うことは二度とない」

「ッ・・・テメエッ!! 何が退学届だよ! んな紙切れ一枚で切れるほど、俺らの絆は甘かねえんだよッ!」

「だったらワシを殴るか? その時点で貴様は退学になるがな・・・カミナよ」

「んだとッ!?」

「これまでは大目に見てやったが、今回はもうこれで終わりだ。本来のあるべき形に戻ってもらおう」

 

ロージェノムの言葉にカミナは退学を恐れずに殴りかかろうとする。

だが、その腕は小さな手によって止められた。

それはシモンだ。

 

「シモン・・・おめえ・・・」

 

殴り飛ばされたシモンだが、立ち上がり、頬を腫らせながらカミナの拳を止める。

そして、ロージェノムの前に立つ。

 

「ニアは・・・ニアはお前には渡さない・・・」

 

殴られてふっきれたのか、何の迷いも無くシモンは言った。

 

「渡さない? ふっ、それがニアの実の親に向かって言うセリフか? それにシモンだったな・・・本来キサマを一番憎んでいるワシが、今回を最後に大目に見てやるというのだ。学生のうちから不純な付き合いをしているお前など、本来直ぐに退学なのだぞ? それでも・・・貴様はワシにそんな口を叩くのか?」

「当たり前だ! 親だろうと何だろうと、ニアを悲しませる奴は、俺たちの敵だ!!」

「ふん、育ちが窺える。所詮はまともな教育や親の育てを受けていないからそうなるのだな・・・」

「なにッ!?」

 

親・・・その言葉を聞いた瞬間、アスナやネギも表情を変えた。

 

「ねえ、フェイト・・・シモンさんって・・・」

「ああ、僕も最近知ったけど、シモンは・・・いやカミナもそうだけど、彼らがまだ小さいころに両親は居なくなったらしい。公式的には死んだことになっている・・・まあ、どちらにせよ、彼らは幼い時から両親が居ない」

 

その話を聞いてアスナとネギは、シモンもカミナも自分と同じなのだと感じた。

 

(シモンさんとカミナさんも・・・・・・だけどあの人たちは・・・)

 

両親が居ない、それでも多くの人の支えがあったから両院が居なくても、こうして充実した日々を過ごしている。

だが、両親が居ないことでの悲しみや苦労は当然あった。

 

(ニアさんは・・・・・・この人は・・・・ッ!)

 

だからこそ、娘が居るロージェノムがそのようなことを言うのは我慢できなかった。

 

「あのッ!!」

 

ネギは叫んだ。

 

「む・・・」

「先生・・・・」

「先公・・・」

 

本来この件とは何も関係ないはずのネギが口を挟んだ。

 

「先生だと? そうか・・・キサマが例の10歳の教師か・・・ふん、麻帆良の学生に対する教育も底が知れるな・・・」

 

ネギを見た瞬間、ロージェノムは呆れたように笑った。

 

「ちょっ・・・さっきから・・・あんた・・・何なのよ!」

「アスナさん! 落ち着いてください!」

「で、でもこいつ・・・こいつムカつくわ!」

「それでもです! お願いです! 落ち着いてください!」

「・・・な・・・なんでよ・・・ネギ・・・・」

 

我慢の限界とばかりにアスナもロージェノムに殴りかかろうとするが、ネギは体を張って止める。

 

「ふん・・・それで、何の用かな、噂の天才少年よ」

 

ネギは静まり返るこの状況下で、ゆっくりとロージェノムの目の前まで歩み寄り、そして深々と頭を下げた。

 

「お願いします。もう一度ニアさんとシモンさんを会わせてあげてください! そして二人とちゃんと向き合ってあげてください。お願いします!」

 

ネギは小さな体を折り曲げて、小さな頭を深々と下げた。

だが、そんなネギの懇願をロージェノムは鼻であしらった。

 

「くだらん会わせる必要も向き合う必要もない。これは家庭の事情だ。一教員が口を挟む問題ではない」

「それでも!」

「いいか? 所詮ニアもワシから反発するためだけにこの学園に居たに過ぎん。名家の子には良くあること。親の敷いた道から逃れるためだけに居た逃げ場所に過ぎん。そうでなければこの学園にも、その小僧の傍にもこだわる理由が無い」

 

ロージェノムはまるでゴミを見るかのような目つきでカミナ達を見る。

 

「テ、テメエ・・・もう・・・」

「勘弁・・・・勘弁なら・・・」

 

我慢の限界だとカミナ達が飛びだそうとする。だが、彼らの誰かが飛びだすより前に、ネギは顔を上げてロージェノムを睨む。

 

「違います! 逃げ場所なんかではありません! この学園のことを、皆さんのことを、シモンさんのことをよく知りもしないで・・・僕の生徒を馬鹿にしないでください!!」 

 

ネギは泣きそうに目を潤ませながらも、強い口調でロージェノムに叫んだ。

 

「先生・・・」

「先公・・・」

「・・・ネギ・・・」

「ネギ先生・・・」

「・・・ネギ君」

「坊や・・・」

 

ネギの言葉に誰もが言葉を失った。

 

「僕も・・・最初は嫌でした・・・この学園に赴任した初日は嫌でした! 授業も出ないし、喧嘩もするし、人の話を全く聞かないし、不良だし、そんなダイグレン学園が嫌でした! でも、そんなの直ぐにふっとんじゃいました! まだちょっとしか居ませんけど・・・・今ではダイグレン学園は僕にとっても大好きな場所なんです!」

 

ロージェノムも、少しその気迫に押されて言葉を詰まらせた。

 

「みんな凄く熱くて・・・温かい人たちなんです! 小さな悩みなんて直ぐにどうでもよくさせてくれるような人たちなんです! そして、仲間を絶対に裏切らない、仲間を絶対に信じ抜く人たちなんです! ダイグレン学園は・・・そういう人たちの集まりなんです!」

 

ネギは言う。

 

「ニアさんもダイグレン学園が好きなんです! 皆さんのことが、シモンさんのことが大好きなんです! この学園は・・・シモンさんの傍は・・・ニアさんが自分の足で歩いて見つけ、その手で掴んだ居場所なんです! 」

 

ネギは泣いていた。涙を流しながら叫んでいた。

 

「あなたはニアさんのお父さんなんですよね!? だったら一度で良いです! 一度でも良いですから、せめてシモンさんとだけでも向き合ってください!・・・お父さんなら・・・お父さんなら! 自分の子供が好きになった人のことぐらい見てあげてください!!」

 

その言葉は、教師としてだけの言葉ではない。

 

「僕は・・・もし・・・お父さんに会うことが出来たら・・・・・・・・・・・・知って欲しいです」

 

シモンやカミナ達と同じ、親が居ない自分だからこそ、子を持つ親にはこうあって欲しいという想いが込められていた。

 

「好きな人が出来たら、大切な仲間たちが出来たら、お父さんに知って欲しいです! これが今の僕の居場所なんですって・・・これが今の僕なんだって、お父さんに知って欲しいです!!」

 

気づけばアスナたちも自然に目元が潤んできていた。ネギのどこまでも純粋な想いが、皆には痛いほど伝わっている。

 

「ニアさんだって口で言ってるだけで本心でこの場所から離れたわけではないはずです! それぐらい本当はあなただって分かっているはずです! ニアさんだって、本当はあなたにこの場所や皆さんを、シモンさんのことを知って欲しいはずです! あなたに見て欲しいはずです! あなたに認めて欲しいはずです!」

「・・・・小僧・・・・・・・」

「お願いします! これ程想い合う二人を・・・こんな形で引き裂かないであげてください!」

 

静かになった。

 

「・・・先生・・・・・・・」

 

ネギも夢中だったから、自分が何を言っていたのかは自分でも分からない。

ただ、その言葉を言い、聞いたものたちの心には何かが残った。

それは・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

言葉を失ったロージェノムも同じだった。

 

(居場所・・・・だと・・・・)

 

ロージェノムはニアの言葉を思い出す。そして今のネギの言葉をもう一度思い返す。

ここは、ニアの居場所なんだという言葉を思い返す。

 

(こいつらと・・・)

 

そしてシモンを見る。

 

(この男が?)

 

ロージェノムにとってはダイグレン学園の番長のカミナの舎弟程度の認識しかない。

自分の娘が好きになったなど、何かの間違いだと信じたかった。

だが・・・

 

(・・・ふっ・・・・ワシを睨みおって・・・・娘よ・・・お前はそこまでこの小僧のことを・・・)

 

シモンを見る。カミナの後ろにくっついているだけの男かと思えば、並のものなら萎縮してしまうであろう自分に対して堂々と向き合っている。

そしてそれはカミナやヨーコたちも同じ。たった一人のニアという自分の娘のために、真剣に怒っている目だ。

最後はネギ。教師だとか子供だとかは関係ない。その純真な言葉が自分の心の何かを揺るがした。

 

(父親なら・・・・か・・・・・・・・・ふん)

 

その時、ロージェノムが目を見開いて、シモンを見る。

 

「シモン・・・と言ったな・・・・」

 

全ての者の視線がシモンに集まった。

 

「ワシは言葉をどれだけ並べられても信用せん。大口叩くだけならば誰にでも出来る。だから・・・そこまで言うのであれば・・・」

 

ネギの言葉で動かされたロージェノムの最大の譲歩。

 

「力で語れ」

 

それはチャンスを与えること。

 

「ち・・・力?」

「そうだ、確か明日は武道大会があるそうだな? その大会の前座として、ワシと戦え!」

「ッ!?」

「その想いとやらを力に変えて、ワシからニアを奪ってみせることだな」

 

言葉ではない。もっとシンプルな決着のつけ方だ。

 

「武道大会は学園中に放映されるそうだな? キサマが無様に敗れ、恥をさらせばそれが全て流されるわけだ。それでもキサマは受けるか?」

 

威嚇するかのように更に威圧感を高めてシモンを睨むロージェノム。

ハッキリ言って素人の目から見ても分かる。

ロージェノムは、腕力という意味においては圧倒的に強い。

対するシモンはどう見ても普通の学生にしか見えない。

戦力差など見ただけで明らか・・・・

 

「当たり前だ。俺はその喧嘩を受けてやる!」

 

シモンは考える間もなくあっさりと承諾した。

 

「シ、シモンさん!?」

「ありがとう・・・先生・・・先生のお陰で道が開いた・・・・後は・・・俺がこの手でその道を必ず掴んでみせるッ!!」

 

シモンに迷いは無い。喧嘩だろうと何であろうと受けてやる。

 

「伝わった・・・先生の想い・・・その想いと共に・・・俺はやってやる!」

 

何のため? 決まっている。

 

(ニア・・・俺はまだお前に・・・言ってなかったことがある・・・・その事を今ほど後悔したことはない・・・だから・・・言う! いつもお前が俺に言ってくれた言葉・・・俺は照れて恥ずかしがって何も言ってやれなかった! だから今度こそ言う! そして・・・もう一つ・・・お前に言わなくちゃいけないことがある・・・それは・・・・)

 

全ては惚れた女を取り戻すためだ。

 

「俺はお前に勝って、必ずニアに言う! お前はここに居ていいんだと、何度だって言ってやるからな!!」

「・・・・ほう!」

「勝負だ、ロージェノム! 俺は必ずお前を乗り越えて、ニアと共に生きて行く!!」

 

その時、シモンの何かが変わった。

気迫、瞳、いや・・・うまく説明はできないだろう。

しかしネギやカミナにフェイトですら感じ取った。

そしてその何かが、変える。

何が? 何かをだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふふ、今年の学園祭はとても素敵な出来事が目白押しですね。10年も・・・いえ、20年も待った甲斐がありました。ですが・・・タイミングも逃しましたし、挨拶は明日にした方が良さそうですね」

 

 

番長喫茶の一部始終を眺めながら、魔法使いのようなローブを深々と被った男が笑みを浮かべていた。

 

 

「明日が楽しみですよ・・・アスナさん・・・ネギ君・・・何故か居る、アーウェルンクス・・・・・・・そしてシモン君・・・君にもです。早くニアさんを檻から解き放ち、二人でどこまで行ってください。私はその先で待っていますよ」

 

 

謎の男がただ、笑っていた。

 


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