【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
決戦の地、龍宮神社の境内に設置された『まほら武道会』の本戦会場には朝から大勢の客が賑わっている。
学園最強決定戦と銘打って行われる大会の規模や賞金金額は、今年の学園祭の目玉とも言える。
「おお、えっらい客が入ってやがる」
「まさか、前座とはいえ、シモンがこんな大舞台に立つことになるとはね~」
「ニアちゃん・・・この会場のどこかに居るのかな?」
「当たりめえだ。ニアがシモンを見なくてどうするってんだ」
最早立ち見が出るほど埋め尽くされている観客席の一角を陣とって、この大会の前座として出場するシモンの応援に駆けつけたダイグレン学園。
別に自分たちが戦うわけでもないのに、彼らはいつでも飛び出せるような目つきと、心の準備をして真剣な眼差しで、水面に浮かぶ武道会のリングを睨んでいる。
そうだ、実際に戦うのはシモンだが、彼らとて心の中では一緒に戦う。
頭の固い頑固親父に自分たちの存在を刻み込むためにも、そして何より自分たちの仲間を取り戻すためにも、心をシモンと一つにして戦うのである。
「おほほほほほほほ、ネギ先生の勇士を今日はこの雪広あやか、存分に見させていただきますわ!」
「ネギ君がんばれーーーッ!」
「クーフェー部長!」
会場は既に興奮気味で、それぞれ贔屓の選手への声援が絶えない。
彼らにとっては今から行われる前座の試合など、どうでもいいのだろう。
彼らの興味は武道大会本番のトーナメント戦だけだった。
だが、彼らにとっては興味の無い前座の試合でも、ダイグレン学園とシモンにとっては命懸けの戦い。
他の誰もが興味なくとも、カミナやキタンにヨーコたちは喉が潰れるまでシモンへ声援を送ると決めていたのだった。
既に会場の雰囲気が温まっている中、選手控え室のある部屋では出場選手たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
その場に居るのは、今回武道大会本戦に出場するネギに小太郎、アスナや刹那、そして同じくネギの教え子である龍宮、クーフェイ、楓やエヴァンジェリンも居る。
他にはウォーミングアップをしている空手着の男や、悠然と腕を組んでいるサングラスの巨漢や、拳法着を着た濃い顔の男、そして極めつけに顔をフードで隠した二人組みの女に、顔をすっぽり隠したローブを身に纏ったいかにも怪しさ全開の人物だった。
そんな中で、シモンは部屋の隅で体育座りをして、精神を集中させていた。
深い深い精神の世界へと身を落とし、多くのものをその背中に背負っていた。
「しっかし、あの兄ちゃん気負いすぎやないか? アレでホンマに戦えるんか?」
遠めでシモンを見ながら小太郎が言った。
「う~ん・・・シモンさん緊張してるね・・・」
「そりゃ~そうでしょ? あんなプロレスラーみたいなゴツイおっさんと戦わなくちゃニアさんともう会えないんでしょ? 好きな人と二度と会えなくなるかもしれないなんて・・・色々考えちゃうわよ・・・」
「何かアドバイスでも出来ればいいのですが・・・」
ネギとアスナと刹那も、これから自分も戦うというのに部屋の隅にいるシモンのことばかりに気を取られている。
もしシモンが気の使い手だったり、魔法使いだったり、最低でも武術の心得さえあれば少しは力になれたりアドバイスもできたが、不良同士の喧嘩もろくに出来ない一般生徒のシモンにしてやれることなど思いつかなかった。
「ふ~む・・・見るからに弱そうアル」
「あの御仁が戦うわけでござるか・・・確かに見ていて頼りないでござるな」
クーフェと楓も柔軟をしながらもシモンのことを心配そうに見つめていた。
ネギの教え子たちや小太郎も、話だけはシモンの事情を聞いていた。
今日自分たちが出る大会の前座で、恋人のお父さんでもある筋肉隆々の男と戦うという簡単な事情だけだが、昨日の出来事を見ていなかったクーフェたちも知っていた。
しかし、肝心の戦うシモンが想像以上に頼りないのを見て、どうも心配になってきた。
だが、そんな心配に更に追い討ちをかけるように・・・
「まっ、無理だな」
「エヴァちゃん!?」
エヴァンジェリンが一言で駄目出しした。
「貴様らは知らんのだろうが、実はあのロージェノム・テッペリンという男は、テッペリン学院の理事長であると同時に、世界でも有名なテッペリン財団のトップであり、その昔は単身で戦時中の魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を旅し、無事帰還したというほどの男だ」
腕組しながらサラッと言ったエヴァの言葉に、一番反応したのはネギだった。
「ええええええええええええええええええええッ!? じゃじゃ、じゃあ・・・ニアさんのお父さんって魔法使いなんですか!?」
「さあな。そこら辺は私も良く知らん。ただ言えるのは、そこそこ武も持っている男だということだ。つまり、あんなモヤシみたいな一般人が勝てるわけが無い」
突然明かされたロージェノムの武勇伝に取り乱すネギ。
一方でアスナたちは魔法世界というものを良く知らずに、どれだけ凄いのか分からないが、とにかく凄そうであるということだけは実感できた。
「ねえ・・・シモンさん・・・殺されたりしないよね?」
「・・・・なんせ・・・娘を傷物にしたって言われましたからね・・・」
ありえないと願いたいが、娘を傷物にされた父親の怒りを考えると、冗談ではすまない事が起こりうるかもしれないと思い、アスナたちもサーっとなった。
「大丈夫。最悪の事態になりそうな時は、僕が手を出すよ」
「タカミチッ!?」
「やあ、ネギ君。何かすごいことをしてしまったらしいね」
ウインクをしながらネギたちの話に入るタカミチ。どうやらタカミチもそれなりに今から始まる戦いに関心はあるようだ。
「うん・・・ねえ、タカミチ・・・僕・・・余計なことを言っちゃったのかな?」
「どうしてだい?」
「その・・・僕が余計なことを言わなければ、シモンさんがこんなことには・・・」
ネギは少し表情を落としてタカミチに問う。
シモンがこんなことになったのは自分の所為ではないかと少し自分を責めているようだった。
だが、タカミチはニッコリと笑い、首を横に振る。
「ネギ君が何を言ったのかは詳しく知らないよ。でも、自分で余計だと勝手に決め付けて黙ったままになってしまう教師はこの世にたくさん居る。僕は君に・・・まだその若さで黙ったままにはなって欲しくは無いな」
「でもシモンさんは・・・・」
「うん。でも、遅かれ早かれダイグレン学園の彼とロージェノム氏はこうなっていた。そしてその時はルールが決められたこの大会より凄惨になっていたかもしれない。僕はこれで良かったと思う」
もし、今回のことが無ければ、カミナやキタンたちと一緒にシモンはロージェノム家まで殴りこみに行っていたかもしれない。
そしてその時は、退学どころか警察沙汰やマスコミ沙汰になってもおかしくなかっただろう。
タカミチは、ネギのとった行動はそれを未然に防いだと判断していた。
だからこそ、生徒のために発言したネギの言葉は間違っていない、ネギに非は無いとタカミチは告げる。
「うん・・・そうよね・・・あのままだったら、カミナさんたちも何仕出かすか分からなかったしね」
「はい・・・そうですね」
それを聞いて、アスナたちも頷いていた。
そして・・・
「大体今更、言ってしまった言葉を一々悩んでも仕方ないだろう?」
ホッとしたネギの後ろには、いつの間にかフェイトが居た。
「フェイト!?」
「ッ、アーウェルンクス!?」
「なっ・・・貴様は・・・!」
突如現われたフェイトに、タカミチは途端に怖い顔をして両手をポケットに入れて構え、エヴァは面白そうだと笑みを浮かべた。
「何しに来たんだい?」
「おい、どうして貴様がここに?」
「ちょっ、高畑先生! そんな風に睨まないであげて! エヴァちゃんも! こいつって、実はそんなに悪いヤツじゃないのよ!」
「そうだよ、タカミチ! そしてマスターも。実はフェイトはあれからその色々あって・・・とにかくフェイトは今はこの学園の生徒なんだから、睨まないであげて!」
「私からもお願いします」
「ぬ・・・ぬう・・・確かにそうだけど・・・」
「生徒? おいおい・・・私の知らん間に面白いことになっているな」
フェイトに身構えるタカミチとエヴァだが、アスナとネギと刹那が割って入って二人をなだめる。
一方でフェイトはどこまでもクールに無表情のままだった。
「ったく、にしてもいきなりすぎよ~。あんた何しに来たの?」
「ああ、ここは大会出場者以外は来れんで? そーいや、お前が大会参加してへんのは残念やな」
フェイトに敵意も企みも無い。
「ふっ、腕相撲じゃあるまいし、こんな力比べの見世物に興味は無いよ、犬上小太郎。ただ、カミナたちに頼まれて代表でシモンに激励に来ただけだよ・・・だから高畑・T・タカミチも闇の福音も構えを解いてくれないか? 用事が済んだら帰るから」
フェイトはそう言ってネギたちに背を向け、部屋の隅にいるシモンの下へと歩み寄る。
シモンはネギたちの先ほどまでの騒ぎや、フェイトが目の前に居ることにも気づいていない様子だ。
ずっと黙ったまま、意識を集中させていた。
「シモン・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「シモン」
「・・・・えっ? フェイト? 何でここに居るんだよ?」
ようやくシモンが顔を上げた。
「やれやれ、大丈夫かい?」
「はは・・・応援に来てくれたのか? ありがとう」
フェイトに苦笑の笑みを浮かべるシモンだが、直ぐに表情を落とした。その姿にフェイトは少し眉をひそめる。
「昨日の威勢はどうしたんだい? そんな元気が無くて勝てる相手とも思えないけど・・・」
するとシモンは小さく頷き、今の心境を語り始めた。
「う、うん・・・昨日・・・家に帰るまではずっと気持ちが高鳴っていた・・・やってやる・・・絶対に勝ってやる・・・気合だ・・・気合だ・・・そう叫んでた。でも、朝になって目が覚めてから今日の事を考えた瞬間、冷静になっちゃったよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ロージェノムは・・・・・・・とんでもない奴だってね」
不安なのだ。
シモンはたまらなく不安なのだ。
何故ならシモンは今一人しか居ない。
リングに上がればカミナやヨーコもニアも居ない。
たった一人であの化物のような男と戦わなければならないのだ。
更に、試合のルールに引っかかるために得意のドリルも使えない。
「仲間も居ない・・・ニアも居ない・・・ドリルも使えない・・・ただのシモンになって俺は戦わなくちゃいけないんだ・・・」
フェイトが目を凝らすと、体育座りしているシモンの両手が若干震えていた。
「シモン・・・君は・・・」
たった一人で不安と戦っていたのだった。
そんなシモンにアドバイスできることなど、ネギやアスナたち同様に無いはず・・・
「いいじゃないか、ただのシモンで。だって君は君だろう?」
「・・・えっ?」
「ニアのために戦うために君はいるんだ。色々なことを背負わないで、彼女のことだけを考えて、彼女のためだけに戦えばそれでいいんじゃないか?」
それは自然と出た言葉だった。
「・・・フェイト・・・・」
シモンは目を丸くした。
「・・・・・フェイト・・・・」
「あいつ・・・・」
ネギやアスナ、タカミチたちですら目を丸くしていた。
そして言い終わった後で、フェイト自身もハッとなって口元を押さえた。
(何を言ってるんだ・・・僕は・・・なんでこんなことを・・・・・)
自分で自分の事が分からず、フェイトは少しうろたえてしまった。
だが一方で・・・
「俺は俺・・・ニアの事だけを考えて、ニアのためだけに戦う・・・か・・・」
シモンはどこかスッキリした顔になった。
「そう・・・だよな・・・だって俺はそのために今こうしてここに居るんだから」
フェイトの言葉、それは戦いの技術や戦術や心構えなどのアドバイスよりも、何よりも効果的なアドバイスとなった。
そうだ、ニアの事だけを考えてニアのためだけに戦え、これ以上分かりすい言葉は無い。
「分かったよ・・・フェイト・・・俺、分かったよ!!」
ようやく心の準備が整った。
シモンは立ち上がり、拳を握り締めてフェイトに向かって笑った。
「俺、やるよ! あのでっかい壁に風穴開けてニアをこの手に取り戻す!」
本気の眼差し。
卑屈でも無く、照れも無く、自然な笑顔だった。
「シモン・・・・」
自分の言葉がシモンを引っ張りあげた。
その実感が沸かないフェイトはまだ不思議そうにしたままだ。
(シモン・・・僕は・・・)
自分で自分が分からない。
今度はフェイトのほうが動揺してしまったぐらいだ。
だが、先ほどネギに言った、「今更言った言葉を一々悩んでも仕方ない」という言葉が、今になって自分に返ってきた。
(どうして僕の言葉を・・・君は・・・・)
フェイトは疑問に思う。
いや、本当は分かっている。
何故自分の言葉に心を動かすのかとシモンに問えば、きっとシモンはこう言うだろう「仲間だからだ」と。
(仲間・・・・か・・・)
動揺を悟られぬように、笑顔のシモンから少し顔を下に向けたまま、フェイトはシモンに尋ねる。
「ねえ、シモン・・・・聞きたい事があるんだけど、いいかい?」
「何だ?」
こんな質問に何の意味がある?
「もし・・・僕も・・・君の前から何も言わずに立ち去ったら・・・・・・君は力ずくで連れ戻しに来てくれるのかい?」
答えは分かりきっているのに。
「当たり前だ! 何も言わずに消えるなんて、俺は・・・俺たちは絶対に許さないからな!」
そして思ったとおりの答えが返ってきた。
しかし、フェイトは思ったとおりの答えが返ってきたというのに、どこか満足そうにした。
その時のフェイトの顔は、皆には笑顔のように見えた。
「シモン、応援している。君の想いを見せてくるんだ」
「ああ!!」
フェイトが拳を軽く伸ばし、シモンも拳を伸ばしてコツンとぶつけた。
気合が入った。
仲間からの想いをもらった。
後は自分次第だ。
シモンは前へと歩き出した。
その光景を見て、ネギもアスナたちもうれしそうに笑った。
タカミチも、要らない心配だったのかもしれないと苦笑した。
そして・・・・
「とても素晴らしい青春の一ページを見せていただきました。こんな未来を誰が予想したか・・・だからこそ人生は面白い」
フェイトとシモンの二人に拍手をしながら、顔をすっぽり隠したローブを身に纏った謎の人物が現われた。
「えっ?」
そしてあろうことかその人物は、シモンの目の前まで歩み寄り、両肩を力強く掴んだ。
「ちょちょ、いきなりなにすんだよ!?」
突然のことで掴まれた肩から手をなぎ払うシモン。しかしローブの人物はフードの下からニッコリとほほ笑んでいた。
「なっ・・・キサマ・・・まさか」
エヴァは明らかにその人物に対して驚きの表情を浮かべた。
「あっ・・・・・・あなた・・・は・・・」
「・・・・何故ここに・・・」
そしてタカミチも思わず口元のタバコをポロッと落とし、フェイトですら目を見開いていた。
「キサマ・・・いままで何処にいた!? お前のことも探したんだぞ!?」
「・・・・・たしかに・・・・・まあ、あなたが死んだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたが・・・これでも心配していたんですよ」
「エヴァちゃん・・・高畑先生・・・この人は?」
二人の様子にネギも首を傾げる。
「あの・・・あなたは? タカミチやマスターの知り合いなんですか?」
「ふん、知ってるも何もこの男は・・・「コホン」」
エヴァの言葉に謎の人物が口を挟む。
「まあ、私にも色々ありました、しかしその話はまた今度ゆっくりということで・・・・・、とりあえず私の目的ですが・・・ふふふ、アーウェルンクスにエヴァンジェリンにタカミチ君・・・・・ネギ君・・・アスナさん・・・そしてシモン君。一同に会することが出来、非常に満足です」
「えっ、俺ッ!?」
「私もッ!?」
アスナも驚いた。
この謎の人物は何者なのかと、小太郎たちも怪しいものを見る目つきで身構えている。
とにかく分かるのは、エヴァやタカミチの反応を見る限り、只者ではないということだ。
そしてその男はぺこりとその場で一礼し、次はアスナの目の前まで近づき、優しくなでる。
「ちょっ、ちょっとイキナリ何するんですかー!?」
「ふふふ、驚きましたよアスナさん、人形のようだったあなたがこんな元気で活発な女の子に成長してしまうとは・・・、友人にも恵まれているようですし、ガトウがあなたをタカミチ君に託したのは正解でしたね」
柔らかに微笑う謎の人物。
「お・・おい、何故キサマが神楽坂明日菜を知っている!?」
「ふふふ、それは今しばらくヒ・ミ・ツということにしておきましょう」
「くっ・・・キサマは相変わらず~~~!」
歯軋りしながら謎の人物睨みつけるエヴァ、謎の人物はその視線を軽やかに交わしながら次はネギを見る。
「そしてネギ君、君にもアドバイスでもと思ったのですが、昨日のあなたを見る限りその必要も無くなりました。今の君はとても真っすぐだ」
「えっ?」
「ふふふ、君との話はもう少し後でゆっくりと・・・・問題はまずは君ですよ・・・シモン君」
謎の人物は一同を見渡した後、最終的には最初のシモンへと視線を戻した。
そして謎の人物は再びシモンの前まで歩み寄り、フードの下からニッコリとほほ笑んだ。
「こうして目の前で見ていても信じられません・・・ですが・・・ようやく出会うことが出来ましたね、シモン君」
「な、・・・なんなんだよいきなり・・・・お前は一体誰なんだ? 何で俺のことを知ってるんだ!」
シモンは不気味に感じた。
存在も、力も、全てにおいて掴みどころが分からぬ人物が、自分の全てを見透かしているかのような表情で見てくる。
その表情がシモンにはどこか落ち着かなかった。
すると謎の人物はあごに手を置いて、何かを考えるそぶりを見せる。
「一体誰・・・ですか・・・ふむ、私を知っている者たちが時代を経て居なくなっているとはいえ、面と向かって言われるとショックですね・・・・ですが、まあいいでしょう。私の名は・・・クウネル・サンダースとお呼びください」
「はあ?」
「何がクウネルだ、ふざけているのか?」
「どっからそんな名前を・・・」
「おやおや、エヴァンジェリン、タカミチ君、お気に召しませんでしたか? この名前は私が友人から教えてもらった非常にお気に入りな名前なのですが・・・・」
どこまで本気か分からない。シモンにも、当然ネギたちにも目の前のクウネルという人物が分からなかった。
だが、わけがわからなく困り気味のシモンやネギたちの反応を満足そうに笑いながら、クウネルはシモンと向き合う。
「さて、シモン君。愛するニアさんを失い大変そうですね。しかし、今のままではあのロージェノムと戦っても数秒も持ちません」
良く分からない人物。だが、今の言葉の意味は分かった。
「な、なんだよあんたは!? 一体誰なんだ! そんなこと、やってみなくちゃ分からないじゃないか!」
勝ち目がないと言われてシモンは言い返す。するとクウネルはその通りだと頷いた。
「その通りです。ですが勇猛に叫ぶだけではどうにもできないこともあります。だからこそ、あなたに忘れないでいて欲しいことがあるために、私はあなたに魔法の言葉を授けに来ました」
「えっ?」
「あなたは先ほどドリルがないと言いましたね。確かに、あなたは武器としてのドリルは使用できません。だから・・・・・・自分自身がドリルだと思いなさい」
クウネルは中腰になり、シモンの胸元を指差した。
「ここにあるのがあなたの本当のドリルです。そのドリルで壁を突き破りなさい。心のドリルと自分自身を一つにしなさい。さすればこれから始まる戦いはそれなりの形となるはずです」
シモンは言われた言葉に呆然となりながらも、何も無い胸元に手を置いた。
確かにそこには何もない。
しかし、クウネルに言われた瞬間、そこには何かがある気がした。
「あがきにあがいて、自分が信じる自分を信じなさい。それが絶望に勝つ唯一の方法です」
「ッ!?」
胸が熱くなった。
シモンは目の前の人物のことを何も知らない。今日初めて会った。
しかしその言葉はシモンの心の奥底に大きな波を打ち、小さな炎を大きく燃え上がらせた。
「どうして・・・・俺に?」
「ふふふ、さあ・・・どうしてでしょうね?」
クウネルは思わせぶりな態度を取ったまま、背を向けてその場から立ち去ろうとする。
シモンはどうしていいかわからない。だが、どうしても御礼だけはしたくて、自然と「ありがとう」と小さく呟いた。
クウネルの真意が分からず、タカミチたちも無言のままだった。
だが、このまま立ち去ろうとするクウネルを、フェイトが止めた。
「・・・やけに平和的だね・・・僕を・・・壊したくないのかい?」
「おや? どうしてそう思うのです?」
空気が変わった。
フェイトから発せられる威圧感が増し、場の雰囲気が重く感じた。
「どうしても何も・・・それだけの理由が君にはあるだろう?」
何事かとネギたちは二人を交互にキョロキョロするが、クウネルはいたって涼しい顔のままだった。
「さあ・・・どうでしょう・・・少なくともあなたが、3番目としてではなく、フェイトという名を背負って生きていくのであれば、私は何も言いません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「友を裏切らないのであれば・・・新時代を生きる君に口出しできることなど私にはありません」
「・・・・・・何を企んでいる?」
「ふふふふふ、何も♪」
からかうような言葉を言い残し、クウネルは姿を消した。
クウネルという人物の考えが分からずに頭を悩ませるフェイトやエヴァたちだが、今はもう時間がない。
フェイトの思い、そしてクウネルから魔法の言葉を貰ったシモンは、心熱くしてゆっくりとリングへの通路へ視線を移す。
そう、間もなく始まるのだ。
世界中のほとんどの者にとってはどうでもいい、命懸けの殴り合いがついに幕を開けるのだった。