【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
気や魔法の世界に関わるものには、二人の気迫がビリビリと伝わってくる。
そしてまずいということを。
このままでは本気でロージェノムはシモンを殺してしまうかもしれない。両者の力には元々それだけの差があるのだから。
しかし、猛るロージェノムの姿を見て、クウネルは笑った。
「ようやく引きずり込みましたね・・・」
「ど・・・どういうことだ・・・貴様・・・」
「見ていなさい、エヴァンジェリン。タカミチ君たちも。アレがシモン君のリング。互いの燃える想いがぶつかり合い、その火は留まることが無く勢いを増して燃え上がる! 魂のぶつけ合いこそが彼のリングなのですよ!!」
それはまるで今から本当の戦いが始まるかのような口ぶりだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「させるか小僧がァ!!」
シモンの握った拳がロージェノムのわき腹に直撃する。だが、ロージェノムには通じない。
「何だこれは? 痒いわァ!!」
「ッ!?」
ロージェノムはシモンの首から上を吹き飛ばすようなラリアットをぶちかまし、シモンが何回転もして床に落ちる。
だが、倒れても意識を失うどころか、直ぐに立ち上がってもう一度ロージェノムのわき腹に拳を叩き込む。
「まだまだァ!!」
「痒いと言っておるだろうがァ!!」
懐に入り込んでボディを打ち込むシモンを真上からハンマーパンチで叩き込む。
「地の底へと沈めえ!!」
シモンは全身を強く打ち付けて床が砕ける。
しかしシモンは立ち上がる。
「まだだって・・・言ってんだろォ!!」
鼻血や口から血が、打ちつけた全身に青あざが出来ている。何度も強靭な肉体を誇るロージェノムを殴った所為で、拳はイカれている。
だが、不思議と痛みは感じない。
シモンは先ほどとまったく同じ箇所をもう一度ロージェノムに叩き込んだ。
「ぐぬっ!?」
少しロージェノムが顔をしかめた。
(この小僧・・・先ほどから同じ箇所を寸分の狂いも無く全力で!?)
壁は強大だ。ドリルを突き刺しても一回で大穴があくはずが無い。
しかし最初は小さくても・・・
「一回転すれば・・・ほんの少しだけだが前へと進む! それがドリルだァ!!」
「ぬうっ!?」
もう一度同じ箇所をシモンは殴った。ロージェノムが再び嫌そうに顔をしかめる。
『シモン選手倒れない! それどころかコツコツと積み上げていくリバーブローが、ロージェノム選手の肋骨に突き刺さる!!』
『しかしこれは効いているのでしょうか、豪徳寺さん? ロージェノム選手はシモン選手の拳など跳ね返してもおかしくない鋼の筋肉という鎧を纏っているのですが・・・』
『はい、効いています。リバーブローを同じ箇所に何発も打ち込んでいます! ありえないことですが、彼は寸分の狂いも無く同じ箇所に拳を突き刺しています! さらにシモン選手はロージェノム氏から攻撃を受けた直後に攻撃を返しています。攻撃を受けた直後の反撃・・・これもまた立派なカウンターです!』
解説の豪徳寺が拳を握りながら解説をしている。
いや、会場中がハラハラしながらも、手に汗握ってこの攻防食い入るように眺めていた。
「何故・・・ッ・・・いい加減に倒れぬかァァ!!」
「指が折れても!・・・拳が砕けても!・・・アバラが粉砕しても・・・鼻が折れても・・・頭蓋骨や全身の骨にヒビが入ろうと・・・俺は・・・両の足で立っている! 俺には何・一・つ! ヒビ一つ入ってねえんだよ!!」
「ならば根こそぎ砕いてやるわァ!!」
しかし、不可解なことがある。
「あの小僧が相手の僅かな急所に一点集中させた力をカウンターで叩き込んでいるのは何となくだが分かった。しかし、あれはどういうことだ? 何故・・・何故ロージェノムの攻撃を食らって立っていられる!? ヤツはただの一般人だぞ!?」
エヴァがありえないと叫ぶ。
「そうです・・・シモンさんは肉体の耐久力を上回る攻撃を食らっています。少なくとも試合開始直後のシモンさんは軽々と吹き飛ばされました・・・なのに・・・何故、立つどころか反撃できるのですか?」
「死んでもおかしくない攻撃を食らって、耐え切って殴り返す・・・説明がつかないでござる・・・」
刹那も楓もありえぬと頬に汗が伝わっていた。
分からない。
そんな時は、なぜかシモンのことを知っているクウネルに視線が集まる。するとクウネルは「ん~」と少し考えてからニッコリと笑った。
「簡単です。気合ですよ♪」
「それでは説明できんから聞いてるんだろうがァ!!」
「いえ、そうとしか説明のしようが・・・」
「何かネタがあるんだろうが、さっさと答えろ!!」
エヴァが「うがあ」と唸ってクウネルに掴みかかる。
だが、クウネルもどうやら本当にそうとしか説明のしようが無いようだ。
すると、意外なところからその意見の賛同者が現われた。
「俺・・・何か分かるかもしれん・・・・」
「小太郎君!?」
小太郎は顎に手を置きながら、シモンとロージェノムの殴り合いを見ながら、何かを感じ取った。
「私も・・・少し・・・分かるアル」
「ええ、クーフェも!?」
クーフェも頷いた。
「なんちゅうか・・・俺も説明はできんけど・・・負けられん気持ちっちゅうか・・・相手が全力で自分を叩きのめしてくるんやったら、自分も負けられん・・・信念とか根性とか・・・そういう精神論かもしれん・・・せやけど俺・・・もしああゆう殴り合いしとったら・・・絶対に倒れてたまるかっちゅう気持ちは理解できる。精神が肉体を凌駕するってああゆうことを言うんやないか?」
「ウム、痛いしダメージは溜まっているアル。ちゃんとそれは肉体に刻み込まれているアル。だけど、心は折れないアル。こういうとき、ああいうダメージは痛いが、痛いと思うよりもっと別に思うことのほうが大きく、それが体を動かすアルよ」
それは理論的ではなく精神的な話。しかし、感覚で戦う小太郎やクーフェにはシモンに対して理解できる部分があった。
『それにしても、シモン選手のタフネスには目を見張るものがありますが、豪徳寺さんはどう見ます?』
『ええ~っと、これはアドレナリンというか、エンドルフィンというか・・・ええ~~い、とにかくもう、気合です!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 何かこう私も・・・私も何かがこみ上げてきました! とにかく痛くないんですよ! こういうときは男ってのは痛くないんですよ!! 例え痛くても、男は痛いと思ったときでもやらなきゃいけねえときがあるんですよッ!!』
気づけば解説席に居た豪徳寺は、制服の上着を投げ捨ててTシャツ一枚になって机の上に足を乗せて、興奮を抑えきれずにとにかく叫んだ。
「シモーーーン!! 道理を蹴り飛ばせ! テメエの想いで天を突け!! 男の純情炎と燃やして通してみせろ、この恋の道!!」
「ニアを手放すんじゃねえ! 俺たちが一緒だ!」
「証明しなさい、シモン! アンタが一体、誰なのかをね!!」
こんな時に自分たちが叫ばないでどうする!
「「「「「いけええええ、シモーーーーーン!!」」」」」
ダイグレン学園は決して絶やすことなく叫び続ける。
するとどうだ?
「シ・・・・モン・・・・」
どこの誰かは知らない。しかし誰かがシモンの名前を呟いた。
「シモン・・・・・シモン」
「・・・シモン・・・」
「シモン・・・・シモン・・・シモン・・・」
「シモン」
一人、また一人と見知らぬ誰かがシモンの名を呟き始め、気づけばそれが会場全体に波及し・・・
「「「「「「「「「「シモン!!」」」」」」」」」」
次の瞬間、会場に地鳴りが響き渡った。
「「「「「「「「「「シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン!」」」」」」」」」」
会場全体が足踏みしながらシモンにエールを送った。
倒れるどころか、死んでもおかしくない攻撃を受けても、反撃し続けるシモン。
そして、その反撃から一歩も引かないロージェノム。
「おっさんも・・・」
「そうだ・・・おっさんも負けるな!!」
シモンだけではない。
美しくもなく、ハイレベルな技術の応酬でもない不細工な殴り合いに心動かされたものたちが立ち上がって、声を上げた。
「「「「「「「「「「ロージェノムッ! ロージェノムッ! ロージェノムッ! ロージェノムッ!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン! シ・モ・ン!」」」」」」」」」」
誰かが言った、こんな試合はさっと終われと。
何を言っている。この光景を見ろ。
『し、信じられません! 折れることなき闘争心に突き動かされる二人の男の死闘に、声援が鳴り止まない!! こんな展開・・・一体誰が予想したでしょう!! 言っちゃ何だが、十数分前まではただのモヤシだった男が、今では筋肉超人と・・・な・・・殴り合っている!!』
意地の張り合いの死闘が見るもの全てを巻き込んで、大きな渦となったのだった。
「これです・・・・私が見たかったのは・・・この全てを巻き込むこの力です」
熱狂の渦の中で、ザジはほほ笑んだ。
「シモン・・・強い・・・いや・・・強くなっている・・・どんどん・・・どんどん」
フェイトは震えが止まらない。
「何故・・・立ち向かえるネ? 絶望しかなかったはずの未来を恐れずに立ち向かい・・・何故道を切り開くことが出来るネ?」
超鈴音は今のシモンに説明が出来なかった。分かっているのは自分の胸が高鳴っていることだけ。
謎の部員が多いドリ研部。その中で初めて自分の全てを曝け出したシモンの姿に、内なる興奮が抑えられなかった。
「うああああああああああ!」
「引かんぞ! 断じて引かんぞ、小僧!!」
二人の殴り合いは止まらない。
止まらないどころかボロボロになるにつれて、更に激しさを増しているようにも見えた。
赤い光を更に燃やすロージェノム。
そしてシモンも・・・
(ふふ、シモン君・・・とうとう出ましたね、螺旋力・・・)
対して生身だったはずのシモンの全身を、薄くだが、確かに緑色の光が纏っていた。
「エヴァ・・・君は・・・気づかないか? 耐久力も驚くが・・・今のシモン君・・・パワーどころかスピードも上がっているんじゃないか?」
「ッ!?」
興奮で冷静さを失った会場の中でそのことに最初に気づいたのはタカミチだった。
「確かに・・・よく見れば、拳のキレも・・・動きも・・・試合開始直後とは比べ物にならん・・・どういうことだ!?」
「・・・まさか・・・気や魔力のような強化でしょうか?」
シモンは魔法使いでもないし、そういった修行も受けていない一般人だ。だからそれはありえない。
「確かにそれに近いものもあるため、そうとも言えますが、私は違うと思いたいですね。シモン君は・・・自分の限界を限界でなくしたんですよ」
「何い!?」
「まさか・・・限界を突破したと?」
「いいえ、限界を引き上げたと言うのでしょうか・・・ただ魔力や気を身にまとって、筋力やスピードなどの身体能力を強化するのとは、少し違うと思います」
クウネルの言葉は相変わらず良く分からない。するとタカミチは、もう一つの異変に気づいた。
「待て・・・ロージェノム氏のオーラも更に強くなっている!? まさか、まだ力が上がるのか!?」
それは殴り合いをして、ただでさえ圧倒的な力量差のあったロージェノムの身に纏っている力が更に輝き、ロージェノムもまた強くなった。
しかしまた、クウネルは首を横に振る。
「タカミチ君、それも違います。力が上がるのではなく、力を引き出されたのですよ。シモン君によってね」
もう、誰もが何もかも分からなくなった。
「もはやわけが分からん・・・どういうことなのかちゃんと説明しろ!」
エヴァの言葉はネギたちやタカミチを含めた全ての者の気持ちを代弁していた。
この言葉では説明できない状況は一体なんなのだと、クウネルに答えを求めた。
「確かに・・・全てを理論で語る魔法使いたちには分からない現象かもしれませんね・・・ナギやラカンなら簡単に納得するのですが・・・」
するとクウネルは、ほほ笑みながら口を開く。
「そうですね・・・互いの魂を刺激し合いながら互いの才能を引き出し、限界を限界で無くす・・・アスナさん・・・あなたの能力が相手の能力や力を触れただけで無効化してしまうマジックキャンセルなのだとしたら、シモン君はその真逆」
「えっ・・・わ、私の逆?」
「そう、触れることにより、相手の能力や才能をむしろ引き出してしまう。それに呼応し、自分の力をも引き上げる」
確かにそうだ。
シモンも殴りあいながら強くなっている。
だが、ロージェノムもまた強くなっている。
まるで互いが互いを高め合っている。
「それがシモン君の穴掘り以外のもう一つの力。仲間と戦っているときに起こる現象を彼は『合体』と呼んでいるようですが、敵と戦うときのこの現象を現代ではこう呼びます・・・」
それこそが、クウネルがシモンに期待し、見たかったものかもしれない。
「そう・・・これが・・・ミックス・アップです」
その言葉に無言になってしまう一同。
(そして・・・上へ上へと天を目指す・・・・螺旋の力・・・)
いち早く沈黙を破ったのは、舌打ちしたエヴァだった。
「互いの力を引き出すだと? バカな・・・自分だけでなく敵まで強くして何の意味がある?」
それはそうだ。倒すべき敵が強くなっては自分が強くなっても意味が無い。
だが、ネギはそう思わなかった。
「そうでしょうか? マスター・・・僕は無意味だとは思いません・・・」
「なに?」
「だって・・・こんなに・・・胸が熱くなっているんですから・・・二人はきっと限界を超えた今こそ本音で、自分のウソ偽りの無い本気の想いを伝えているんです。拳の一発が・・・10交わす言葉よりも何倍もの価値を持って!」
譲らぬ二人、だがこれだけ殴り合えば相手を倒せなくとも理解は出来るはずだ。
「何故倒れぬ・・・小僧・・・いや、シモン!! 貴様は一体何なのだ!? 何のためにそこまで戦う!」
何となくは理解できても、まだ足りない。
不死身のように立ち上がり反撃するシモン、それに呼応して自分の血が騒いでいることもロージェノムには不思議で仕方ない。
「知らないなら教えてやる! ニアのためだ! ニアのことが・・・好きだからだよッ!!」
「な・・・にい!?」
だから教えてやる。シモンは指を真っ直ぐ天まで伸ばす。
ボロボロになりながら両の足でしっかりと立つシモンに上空から天の光が照らされる。
「心の愛に穢れなく! 恋の道は険しくも! 塞がる壁は、ドリル構えて打ち砕く!!」
ロージェノムに、仲間に、そして愛する女に、そして世界に向けてシモンは叫んだ。
「俺を誰だと思っている!! 俺は麻帆良ダイグレン学園生徒、ドリ研部部長! ニアを愛する、穴掘りシモンだァァァ!!」
一度もシモンは自分の口から言ったことが無かった。
彼女はいつも「愛している」と言ってくれたが、シモンは照れて恥ずかしがるだけで、自分の気持ちを口で直接伝えられずに居た。
でも、今は違う。その想いを愛する人に、そして世界に向けて自分の心を曝け出した。
この日、この学園は、ダイグレン学園とシモンを知った。
ダイグレン学園の、愛と絆と信じる心を知ったのだった。