【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第二部 歴史の流れは知ったこっちゃねえ編
第34話 何かが動き出した


少年と少女は飛び立った。

立ちふさがる壁は殴って壊し、二人は二人の道を進んだ。

大勢の仲間たちに見送られて空の彼方へと飛び立った二人が消えた武道会のリングでは、ようやく武道大会の本戦という本来の企画が行われていた。

 

「さて・・・僕はもう行っても良いかい?」

 

観客席に居るフェイトはまるで本戦に興味を示さずにそう述べた。

 

「おいおいフェイ公。もうすぐ俺らの先公があの高畑と戦うんだぞ? 生徒として応援すべきじゃねえのか?」

 

立ち去ろうとするフェイトをカミナが止める。しかしフェイトは首を横に振る。

 

「いや・・・所詮は知れている。憤怒の渦を巻いて容赦なくシモンを叩きのめそうとしたロージェノム氏とは違い、高畑・T・タカミチは本当にただの試し合いをする気だ・・・そんなものに興味は無いさ」

「あん? ・・・良く分からねえな~」

「手加減だらけの茶番に興味は無いということさ」

 

フェイトは席から立ち上がり、この場を後にしようとする。

 

「ちょっと、フェイト・・・あんたホントに行っちゃうの?」

「まあね。・・・まあ・・・もしネギ君が勝ち上がりあのアルビレオ・・・いや・・・クウネル・サンダースというものと戦うのであれば・・・また戻ってくるよ」

 

フェイトは一度リングを見下ろして直ぐに背を向けて歩き出し、ザジの前を通り過ぎざまに声を掛ける。

 

「ザジ・・・僕は行くよ。超もシモンもニアもあの様子だし部活もクラスの出し物も無いだろうから、好きにさせてもらうよ」

 

そう言って立ち去ろうとするフェイトに対し、ザジは一言つぶやいた。

 

「・・・それならシモンさんとニアさんの様子を少し・・・」

 

その呟きにフェイトは足を止めた。

 

「様子を見て来いと? あの二人なら大丈夫だろ?」

「それでも・・・追っ手が・・・」

「・・・そうか・・・まあ、超が渡した道具もあるし、シモンなら大丈夫だと思うけど、気に掛けておくよ」

 

そう言い残してフェイトは立ち去っていく。

後に残されたダイグレン学園の生徒とザジは、ネギの試合を応援しないフェイトを少し薄情だと思う一方で、シモンを気に掛けたりと相変わらず掴みどころの分からない奴だなと感じていた。

すると、その時だった。

 

「ほう・・・ここの席は見やすいな」

 

フェイトが立ち去って空いたザジの隣の席に、誰かが不意に座った。

 

「ッ!?」

 

その人物を見た瞬間、ザジは驚愕の表情を浮かべて立ち上がった。

 

「座らせてもらうよ・・・・」

 

ザジのそんな顔は初めて見る。

だが、ザジが驚いた人物をカミナたちも見てみると、確かに驚くのは無理が無いほど怪しい人物だった。

 

「な、なんだ・・・こいつは?」

 

今日は学園祭ゆえに派手な仮装をしているものたちは多い。しかしこの人物の怪しさは際立っていた。

 

「め、珍しい仮装ね・・・」

「いや、怪しさ大爆発だろ・・・全身黒ずくめで・・・」

「黒のタートルネックに黒いズボンに黒い皮手袋に黒い靴・・・おまけに・・・黒い目出し帽を顔まで被ってやがる・・・ただの強盗にしか見えねえぞ!?」

 

そう、全身黒ずくめの謎の人物。怖いもの知らずのカミナたちも、ここまで見るからに怪しい人物は初めてだった。

だが、呆気に取られるダイグレン学園たちの傍らで、ザジだけは全身が硬直して固まっていた。

 

「・・・なぜ・・・ここに・・・」

 

ようやく搾り出せたのはその言葉。

 

「んだよ、ザジ公。こいつはテメエの知り合いか?」

「・・・・・・・・」

「おい・・・」

 

ザジは答えない。

一体この怪しい黒ずくめの男とザジがどういう関係なのかは知らないが、常に無口で無表情の謎に包まれたザジが珍しく動揺していることから、只者ではないことをカミナたちは感じ取った。

そして黒ずくめの男はザジの問いかけに答えぬまま、何かを取り出し膝の上に置いた。

思わず身構えてしまったカミナたちだが、黒ずくめの男が取り出したソレを見た瞬間、目が点になった。

 

「ここは飲食大丈夫だったね。先ほどの乱闘に目を奪われて昼食を食べてなかったのだよ」

 

黒ずくめの男が取り出したのは一枚の紙皿。その上には大量の麺が乗せられていた。

 

「あの~・・・ちょっと聞きたいんだけど・・・」

 

たまらずヨーコが口を開いた。

 

「何かな?」

「それ・・・何なの?」

 

ヨーコが恐る恐る黒ずくめの男の膝の上にある料理を指差した。すると男はさも当たり前のように答えた。

 

 

 

 

 

「あんかけスパゲティだよ」

 

 

 

 

 

「「「「「はあっ?」」」」」

 

 

 

 

 

「名古屋の名物・・・私の大好物なのだよ」

 

 

 

 

そしてその男は何のためらいも無く紙皿の上に盛り付けられた、あんかけスパゲティを割り箸ですすっていく。

 

「何なんだ~、この怪しい黒ずくめのアンスパ野郎は?」

 

そんな光景を見てカミナたちがようやく搾り出せたのはその一言だけだった。

 

「しゅるるるるる、うむ・・・うまい」

「・・・・・・・・」

「どうした、ザジ・レイニーデイ、お前も食べたいのか?」

「・・・・・・・・・」

「遠慮することは無い。どれだけ抗おうと運命は変わらぬ。生命は食欲という欲望には勝てずに己の欲望のままにメシを食らう。どれだけ制御しようともその先に待つのはただの空腹だけ。それが生命の限界。それが生命の真実だ」

 

動揺するザジにアンスパ野郎は何かわけの分からないことを言い出した。

要するに腹が減ったら食うと言いたいのだろうが、話が遠回り過ぎてカミナたちは首を傾げるだけだった。

だが、話についていけないカミナたちには聞こえぬぐらいの声で、あんかけスパゲティを食らうアンスパ野郎はザジに向かってボソッと呟いた。

 

「そう・・・このままでは運命は変わらぬのだ」

「・・・えっ?」

「研究機関がどれだけ計算しても、何もしなければ後10年足らずであの世界は崩壊する」

「ッ!?」

「君の姉も既に諦めている・・・どうやらもう動いているかもしれない」

 

あんかけスパゲティを食べながら何かを告げるアンスパに、ザジは言葉を失った。そして僅かに顔を俯かせて拳をフルフルと握った。

 

「希望は・・・無い?」

 

ザジが呟いたその言葉。

だが、アンスパは食べる手を止めて顔を上げてザジを見る。

 

「さて・・・それはどうかな?」

「・・・えっ?」

 

そしてハッキリと呟いた。

 

「研究機関の計算でも・・・決して計算しきれぬことがこれから起こり始める。計算で導き出せるものではないのだよ、希望も・・・そして愛とやらもな」

「それは・・・一体・・・」

「道理どおりにいかぬイレギュラーが変えるかもしれぬ・・・何かをな・・・20年前の魔法世界で・・・あいつが私を変えてくれたようにな・・・」

 

アンスパは空を見上げた。そしてシモンとニアが飛び立った方角を眺めた。

 

『さ~~て、お集まりの皆様、まもなく注目の一戦が始まります!! 片や不良たちの間では知らぬものなき恐怖の広域指導員、高畑.T.タカミチ!! 片や昨年度から麻帆良学園に赴任してきた噂の子供先生、ネギ・スプリングフィールド!! このような公の舞台に姿を現すのは初めてです!!』

 

アンスパとザジの会話などアッサリと打ち消すような大歓声が会場に上がる。

テンションの高い朝倉の言葉で、一度は燃え尽きかけた会場の熱気もどうやら再び取り戻されたようだ。

カミナたちも立ち上がって声援を送る。

舞台には子供の授業参観のような気分のタカミチと、少し緊張気味なネギが立っていた。

 

「さあ、見せてみろ・・・私を変えたシモン・・・そのシモンが尊敬すると言った君の力をな・・・」

 

大歓声が響く会場で、アンスパは小さくそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてその頃・・・

 

会場から飛び出して自由となった二人は・・・

 

「居たぞーーー! お嬢様と例のシモンだ!」

「捕まえろーー! 捕まえただけで7桁の賞金がもらえるんだからな!」

 

黒服たちに未だに追いかけられ、愛の逃避行を繰り広げていた。

 

「うう~、しつこいな~、でも、グレンウイングで飛んで逃げても戦闘機で追いかけられるし」

 

ニアをお姫様抱っこしながら、シモンは祭りの中を逃げ回っていた。

ロージェノムの追っ手はしつこく二人を追い掛け回し、中には賞金に目がくらんだ生徒たちも混じっている。

もっとも、大半の生徒たちは先ほどまでの武道大会のシモンとニアの愛の姿に感動し、逃げる二人に声援を送ったり冷やかしたりしているために、追いかけてくる生徒はごく一部だ。

しかしそれでも後を耐えぬ追っ手に、ニアは可愛らしく頬を膨らませた。

 

「まったく、どうして皆さんは私とシモンの邪魔をしたいのかしら?」

 

シモンの腕の中でニアはプンプンと怒った。

 

「それはやっぱり・・・ニアはお嬢様だもん」

「違うわ、シモン」

「えっ?」

 

ニアは人差し指でシモンの鼻先に触れながら、ニッコリと笑った。

 

「私はお嬢様じゃない、あなたのニアよ」

 

そうほほ笑んでくれるニアに、シモンは疲れも吹っ飛び、思わず抱きかかえる手に力を入れた。

 

「ニア!」

「ええ!」

 

ニアを抱きしめて力が漲る。今のシモンに怖いものなど何も無く、人一人を抱えているとは思えぬほどのスピードで追っ手たちを引き離していく。

 

「な、何てスピードだよあの小僧!? お嬢様を抱えながら・・・」

「くっ・・・あれが噂の合体か・・・」

 

決して追いつけず、そして引き離せない二人の愛。

あまりにも引き離されてしまい、黒服や他の生徒たちも次第に足を止めてしまったのだった。

 

「シモン、すごいわ! みんな諦めたのかしら?」

「分からないよ。でも、油断は出来ない。それに昼間はさっきの武道大会の所為で目立ちすぎるから直ぐに見つかっちゃうよ」

 

後続を引き離したものの、少し気になって何度もチラチラとシモンは心配そうに振り返る。

それにシモンの言うとおり、先ほどまでの武道大会の所為でシモンは今では学園で知らぬものは居ないほどの有名人になってしまったため、外を歩けば直ぐに騒がれてしまう。

このままウロチョロしていて大丈夫なのかと、少しシモンは考えた。

 

「なら、どこかに隠れたらどうかしら?」

「えっ?」

 

考えるシモンに、ニアはアッサリと告げる。

 

「夜になれば目立たないから、夜になるまでどこか静かな場所で隠れるのはどうかしら?」

「でも、せっかくの学園祭だよ? ニアも色々と見たいんじゃ・・・」

 

するとニアはシモンの首に両手を回し、頬をシモンの肩に乗せた。

 

「ええ、そうね。でも、夜の方がとても素敵でロマンチックなイベントもあるし、何より私はシモンと一緒ならそれだけでいいの」

「え・・・」

「それともシモンは違う? お祭りを楽しみたいの?」

 

答えなんて分かりきっているというのにニアは聞いてくる。恐らくはシモンの口から直接聞きたいのだろう。

シモンの告白を受けてからは更に甘えるようになったニア。

彼女に対し、ロージェノムと戦って気恥ずかしさを捨てたシモンは、少し照れながら答えた。

 

「き、決まってるよ・・・俺だってニアと一緒なら・・・むぐっ」

 

全てを言い終わる前にニアがより一層抱きついてきた。

 

「ええ、そんなの分かってるわ。私とシモンは一心同体だもの」

 

その時、気づいたら周りがし~んとしていることにシモンは気づいた。

 

(あっ・・・)

 

そうだ、一応ここは天下の往来だ。

ましてや今では自分もニアも有名人だ。

恐る恐るシモンが顔を逸らすと、周りの人たちはコーヒー飲んだまま固まったり、フランクフルトにかぶりつきながら呆れていたり、クスクスと笑う生徒たちや写メを撮る人たちの視線を一身に受けていた。

 

「あ・・・あの・・・その・・・」

「どうしたの、シモン?」

「ニア・・・その・・・皆が見てるけど・・・」

「それはいけないことなの?」

「えっ・・・いや・・・そんなことはないけど・・・」

 

だというのにニアは一切気にしていない。

 

「ん~~、シモン~」

 

それどころかよっぽど今の態勢が好きなのか、とても心地よさそうにシモンに抱かれていた。

そんな光景を見ては周りの野次馬もキャーキャー言い出す始末だった。

そうなれば、以前よりは恥ずかしがらなくなったシモンも普通に恥ずかしくなってきた。

 

「ニ、ニア~・・・その・・・うれしいけど・・・やっぱちょっと恥ずかしいよ・・・」

「私は恥ずかしくないわ?」

「お、俺が恥ずかしいんだよ・・・その・・・ちょっと今はさ・・・」

 

視線に耐え切れず、シモンは少し申し訳なさそうに照れながらニアを下ろそうとする、だがニアはムッとしてシモンの首に回した両手を離さない。

 

「嫌、私はもう二度とシモンとは離れないの」

「うっ!?」

 

シモンはそんなの反則だと心の中で思った。

好きな女にそこまで言われてしまえば最早苦笑するしかなかった。

 

「居たぞーーー! こっちだ!」

「お嬢様ァ!!」

「囲め囲めーー、取り囲めーー」

 

そんな二人の空気を壊すかのように、黒服たちの追っ手が次々と現われてきた。

 

「まあ」

「あっ・・・・うう~~~くっそ~~~!」

 

シモンは再びニアを抱きかかえて走り出した。

 

「し、知らないからな~、ニア!」

「?」

 

走りながらシモンはニアに叫ぶ。

 

「ほ、本当にこの先何があっても離さないよ? そ、それでいいだな?」

 

もうやけくそとばかりに叫ぶシモンの声は、周りの野次馬たちにもしっかりと聞こえている。

そんな叫びに対してニアはシモンの胸に顔を埋めて小さく頷いたのだった。

 

 

「・・・・なんだ・・・・・・・ラブラブじゃないか・・・・」

 

 

二人の愛の逃避行を建物の屋上から見下ろすのはフェイト。ザジに言われたように、本当にシモンとニアの様子を見に来たようだった。

 

「ザジに言われて探しにきたけど・・・これなら心配いらないね」

 

追っ手には追われているものの、どうやら要らない心配のようだと判断し、フェイトはその場を後にしようとした。

だが・・・

 

「ん?」

 

その時、シモンがニアを抱えて逃げている方角に、フェイトはあることを気づいた。

 

「あの先は図書館島しか・・・」

 

シモンとニアが逃げている先にあるのは、湖の上に浮かぶ巨大な建物。

麻帆良図書館島。

 

「まずいね・・・あそこへの通路は一つ・・・」

 

図書館島は湖に浮かび、巨大な橋で繋がっている。そのために橋を封鎖されれば逃げ場所は無い。

それに気づいた瞬間、フェイトは大きくため息をついた。

 

「・・・はあ・・・世話が焼ける・・・」

 

何故自分がここまでしなければならないのか分からない。

別にほっておいてもシモンとニアなら大丈夫な気がしていた。

だが、どうしてもこのまま二人を無視していくことが出来なかった。

少なくともこの時は、何か嫌な予感がしたのだ。

そしてその勘は正しかった・・・

 


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