【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

40 / 102
第40話 世界最強ヒロイン誕生だ!

「お逃げくださ・・・姫様・・・」

 

荒野の果てでボロボロの騎士は、ただその言葉だけを繰り返しながら、意識を失った。

 

「ふん、うるさい人形どもだ」

 

倒れた騎士を見下ろしながら、冷たい言葉を浴びせる、真っ黒いローブを身に包んだ仮面の人物。

仮面の人物の前には、女と少女が身構えていた。

 

「くっ、嵌められたのう・・・」

「下郎が・・・」

 

二人の女は抵抗する意思を捨てず、仮面の人物を睨みつける。二人に対して、仮面の人物は感嘆の声を漏らす。

 

「若いとはいえ、流石は国を背負っているだけはある。アリカ姫、そしてテオドラ皇女よ。だが、諦めろ。護衛の兵はこの通り全滅だ」

 

両手を広げる仮面の人物の後ろには、何十人もの武装した兵士たちが横たわっていた。今この場で立っているのは、仮面の人物と二人の女。

二人の女は、完全に追い詰められていた。

 

「アリカ姫よ・・・どうするのじゃ? ワシの部下は、あの通りじゃ。このままでは・・・」

「すまぬ、テオドラ皇女よ。まさか、我らの秘密裏の交渉が、完全にこやつらに筒抜けとは思わなんだ」

 

二人の女。その名は、アリカ姫とテオドラ皇女。ヘラス帝国の王女に、オスティアの姫。秘密裏の会談を行おうとしたときに、彼女たちは襲撃を受けた。

 

「我らの組織を甘く見すぎだ。そして抵抗しないことを勧める」

「・・・組織・・・完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)か?」

「いかにも」

 

仮面の男の足元が黒く染まっていく。それは、影。その影から、次々と髑髏の兵士が出現した。

だが、アリカもテオドラも、相手の力に恐れることなく、勇猛に立ち向かう。

 

「なめるな、テロリストめ。我らは、決して屈しぬ!」

「帝国仕込みの魔力を見せてやるぞよ!」

 

二人の叫びとともに、荒野に爆音が響く。

 

「ほう、流石は王家の力。その辺の騎士どもとは違うな・・・だが・・・」

 

仮面の人物が、手を前にやる。すると、その足元から影が棘のように伸びて、二人の手足に巻きついた。

 

「ぐぬ!? これは・・・」

「動けぬぞ!?」

「私と貴殿らでは、実戦経験に差がありすぎる。どれほど恵まれた魔力があろうと、それが全てだ」

 

アリカとテオドラは戒めを解こうとするが、ビクともせず、身動きが取れない。

あっさりと捕まったこと、何より仮面の人物が息一つ乱していないこと、それだけで力の差がハッキリと分かった。

 

「さあ、大人しくするのだな。二人には今から、私についてきてもらおう」

 

これまでか? 抵抗すら許されぬ二人の姫が、そう思いかけた時だった。

 

「うああああああああ!」

「ぬう?」

「「!?」」

 

勇気と恐れの入り混じった少年の咆哮が聞こえた。

いったい何事かと、三人が空を見上げると、空からドリルを真下に向けた男が降ってきたのだった。

 

「シモンインパクトー!」

 

仮面の人物は咄嗟にその場から飛びのき、思わずアリカとテオドラの戒めを解いてしまった。

 

「なんじゃ?」

「助かったのか?」

 

解放された二人。そして、二人を連れ去ろうとした仮面の人物は、現れた人物を睨む。

 

「何者だ・・・紅き翼でも兵士でもなさそうだが・・・」

 

突如乱入した男に、仮面の男は大して動じてはいなかった。それは、揺るぎない精神力と己の実力への自信からだ。

だが、それほどの男でも、たった今現れた何の変哲もない男の力に、その仮面の下の素顔が、すぐに歪むことになる。

 

「俺はシモンだ!」 

 

ハンドドリルを掲げ、泥まみれのシモン。

 

「女の子を力づくで連れ去るなんて、許さないぞ!」

 

泥まみれの姿だが、瞳だけはギラついていた。

 

「誰じゃ? あの、童は?」

 

後にテオドラ皇女は語る。

これが全ての元凶であったと。

 

「シモン? ・・・見る限り、騎士団では無さそうだな」

「騎士団じゃない、俺はメガロメセンブリアの日雇い労働者だ!」

「・・・・・・・ふっ」

 

シモンの言葉に仮面の男は嘲笑した。

 

「無駄な時間を過ごした」

「いかん! 童よ、逃げるのだ!」

「遅い」

 

仮面の男が指を軽く動かした瞬間、大地に影が広がり、シモンの足元から這い上がって飲み込もうとする。

 

「これは!?」

「場違いな舞台に上がろうとするから、こうなるのだ」

「ななな、なんだ!?」

「身の程を弁えよ。木偶め」

 

シモンの足元から這い上がる影が、シモンを丸呑みしていく。テオドラとアリカが助けようと立ち上がるが、既に遅い。

・・・そう思ったが・・・

 

「むっ!?」

 

影がシモンを飲み込んだ。

だが、仮面の男は違和感を覚えた。それは、手ごたえが無かったからだ。人一人を飲み込んだというのに、その実感が伝わってこなかった。

そして何より、音。

 

「なんだ、この音は?」

 

仮面の男の足元から聞こえてくる、削掘音。

徐々に大きくなり、それはやがて大地の下から顔を出した。

 

「いっけーっ!」

「なにっ!?」

 

ドリルを使って、大地の下から顔を出したシモンは、そのまま仮面の男に向かって突き進む。

仮面の男は直撃すら避けたものの、その漆黒のローブがシモンのドリルにかすって、ビリビリに引き裂かれた。

 

「ぬおっ! あの童、生きておった!」

「・・・なにものじゃ?」

 

テオドラとアリカも目を丸くしている。

 

「キサマ、どうやって・・・」

「どんなに気持ち悪い影だろうと、大地にできたものならば、俺に掘れないものなんてないさ」

「なに?」

「この世界に来て・・・ずっと友達に守られ続け・・・情けなかった自分を少しでも変えようと思って磨き続けた力だ!」

 

 

シモンは自分を恥じていた。

この世界の脅威を目の前にして、何もできない自分。そんな自分をニアは見損なったりしなかった。

フェイトは嫌な顔一つしないで、いつも気にかけてくれ、そして自分たちを守ってくれた。

友の重荷。好きな女の子も満足に守れない自分。

そんな現状を少しでも打破しようと思って、少しだけだが逞しくなった。

自分らしさを失わずに、この数か月かけての成長を、今発揮する。

 

「・・・奇怪な力だ・・・拳、剣、魔法・・・あらゆる戦闘を経験したが、そのような螺旋の武器は初めてだ・・・」

 

仮面の男は、少しだけシモンを認めたのかもしれない。そんな感じだった。

 

「だが・・・まだまだ世界を知らぬと見える」

 

しかし、それでも仮面の男の余裕は崩れない。

それどころか、身にまとうオーラのようなものが、シモンを圧迫し、空気を震わせる。

 

「教えてやろう。役者が違うということをな」

 

シモンは、確かに少しは強くなった。

でも、だからこそ相手の力が分かるようになった。

 

「どうした?」

「え・・・」

「顔が青ざめているぞ? 今さら怖くなったか?」

 

シモンの手にはびっしょりと汗でぬれていた。

ロージェノムの時とは違い、相手の力が分かるからこその恐怖が身を震わせた。

だが、あの時も勝算があったわけではない。

 

「ほんとだ・・・・でも、今さらだ。だって俺は、いつだって・・・怖いからな」

「なに?」

「でも・・・」

 

根拠があったわけでもない。

ロージェノムと殴り合ったときは、そんなことを考えて戦っていなかった。

 

「俺を・・・」

 

あるのは、気合!

 

「俺をッ!」

 

シモンが走り出す。

 

「いかん!?」

「ならぬぞ!」

 

アリカとテオドラは、慌ててシモンを止めようとするが、シモンは言葉で止まらない。

 

「ザコが・・・」

 

仮面の男が影を操り、幾重にも黒い影を拳に纏わせ、密度を上げる。

 

「粉々に・・・消え失せろ」

 

ハンマーのような巨大な拳がシモンに襲い掛かる。だが、それほどの強烈な拳を前に、シモンは瞼をしっかりとあけたまま、拳を見切る。

 

 

「俺を誰だと思っている!」

 

「ッ!?」

 

 

シモンの拳と仮面の男の拳が空で交差し、シモンの拳が仮面の男の仮面を叩き割った。

ロージェノムの時と同じ、クロスカウンターだ。

 

「ぬおっ!」

「あの童・・・」

 

テオドラとアリカも驚いている。だが、一番驚いているのは仮面の男だ。

 

「なんと・・・これは・・・」

 

割れた仮面の下からは褐色肌の男の顔が露わになった。

砕かれた仮面に少し呆然としながら、男は呟く。

 

「感情次第で力が上限する・・・これは人間の特徴・・・しかも、ただの人間ではない・・・微かに・・・この世界ではありえぬ文明の匂いを感じる・・・旧世界か・・・」

「・・・・へっ?」

「だが・・・それは困ったな・・・旧世界の人間と・・・殺し合いをするのは我々の間では御法度なのでな・・・」

「ッ!?」

 

意味の分からない会話。だが、男が戸惑っていたのは、シモンの力でも、思わぬダメージをくらったからでもない。

シモンが人間だということが分かった。意味が分からないが、戸惑っていた理由はそれだった。

 

「仕方ない。半分だけ殺してから、姫たちを連れて行こう」

 

戸惑いが終われば、男の素顔とともにあらわになった鋭い眼光が、シモンを威嚇する。

 

「後学のために知っておけ、旧世界の小僧。腕力が、剣術が、魔力が、戦闘能力がどうとかなど、もはや私の前では既に次元の違う話だということをな」

 

シモンは一瞬で理解した。

 

(なんだよ、こいつ!? 次元が・・・・)

 

次元が違う。

住む世界が違う。

睨みでシモンを震え上がらせるほどの存在感をデュナミスは出す。

テオドラも、アリカも、ポーカーフェイスを保ちながらも、汗をかいていた。

 

「そうだ・・・どうせ二度と会うことはないのだ・・・私のことを教えてやろう」

「なに?」

「私は、完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の幹部・・・・・名は!」

 

目の錯覚かと思った。

 

「な、なにい!?」

「危ない!」

「逃げよ!」

 

大地を見下ろす真っ黒い巨大な怪物。

山のように大きく、どす黒さを孕んだ化け物が、仮面の男を額に載せながら、シモンたちを見下ろしていた。

そして男は名乗る。

 

「デュナミスだ」

 

これが、後世まで語り継がれる、完全なる世界という伝説だった。

そして、ようやく歴史が動き始める。

 

 

 

 

 

 

「隊長! 首都郊外で小競り合いしている奴ら・・・男二人は知らないっすが、女二人は・・・あの、アリカ姫とテオドラ皇女ですぜ?」

 

シモンとデュナミスたちの争いを少し離れたところから覗き見る、真っ黒いコートに身を包んだ連中。

 

「くくくく、これはついている」

 

隊長と呼ばれた男は、欲にまみれた笑みを浮かべる。

 

「アリカ姫はどうでもいいが、テオドラ皇女は違う。皇女を攫って連合本部に連れて行けば・・・俺たちは一生遊んで暮らせるぜ!」

「うっひゃー! そうっすね!」

「傭兵結社なんかでずっと働いている必要もなくなるぜ!」

 

ここに居るのは、四人。彼らは、デュナミスとシモンの争いに乗じて、テオドラ皇女を攫おうとしていた。

 

「しかし隊長・・・あいつら強そうですぜ? 俺たちじゃ・・・」

「バカ野郎! こんな時のために、最強の助っ人を連れてきたんじゃねえかよ! おい、新入り! 出番だ!」

 

隊長の男が後ろを振り返ると、筋肉隆々で、鋭い角を額から突き出した怪物が立っていた。

 

「先輩よ~、あんま俺に命令すんなよな・・・殺しちまうぜ?」

 

どすの利いた声。他の連中はビビって顔を引きつらせる。

 

「わ、悪かったな。だが、ほれ、あそこに居る連中! あのチビ皇女さえ残してくれたら、あと全員皆殺しにしていいぞ」

「頼むよ・・・あんたならできるだろ?」

 

腰を引かせながら、新入りという立場の低い存在相手に頭を下げる男たち。だが、それも仕方ない。

この新入りと呼ばれる男の存在は、格が違いすぎた。

 

 

 

 

 

「当たり前だ・・・・・・この・・・・・・チコ☆タン様ならなァ!!」

 

 

 

 

今日この日、フェイトの記憶では、アリカ姫とテオドラ皇女、二人そろって完全なる世界に捕らえられる日となっている。

 

 

そしてこれは、歴史上極めて重大な出来事であった。

 

 

だが歴史は徐々に、フェイトが知る歴史から、食い違いが現れるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・フェイ――」

 

 

 

「僕の名前、それは!」

 

 

 

ニアは目をパチクリさせていた。

友の変貌に、言葉を失った。

紅き翼を含めた、酒場の客たちも声を失っている。

だがそれは、あまりの姿に、見とれていたからかもしれない。

その証拠に、酒場のチンピラたち以外にも、ガトウや詠春も顔を赤らめている。

 

「あの・・・」

「ニア! お願いだ、少し口裏を合わせておいてくれ! とにかく、フェイト・アーウェルンクスという名だけは隠しておいてくれ」

「え・・・」

 

変身したフェイトは、ニアの耳元で必死に懇願する。

紅き翼に正体を知られたくないフェイトは、酒場のカウンターにあった衣装に身を包んでまで、己の正体を隠し通そうとする。

 

「フェ、フェイ公・・・おまえ・・・女だったのか?」

「ど、どうりで美形だと思ったんだ・・・」

 

呆気にとられるチンピラたち。

そう、フェイトは今女装中だった。

酒場のカウンターにあった、ニアのもう一つのメイド服に身を包み、変装用の猫耳としっぽまで装着している。

だが、それは女装しているというより、フェイトはもともと女だったのか? と、誰もが勘違いするほど、カンペキな姿だった。

 

 

(くっ・・・なんで僕がこんなことを・・・でも、これなら正体はバレないはずだ。さあ、紅き翼・・・早く帰ってくれ・・・この格好はつらい)

 

だが、紅き翼たちは、帰るどころか、フェイトの願いをモロに裏切り、むしろ鼻息荒くしてフェイトに向かって駆け出した。

 

「お、おお、おめー、すげー可愛いな! 名前は!」

「おう、ナギ! テメエには、アリカの姫さまがいるだろうが!」

「ナギ、ジャック! お、お嬢さんが怯えているだろう。かか、顔を近づけるな!」

「う、うちの連中が失礼をした・・・その、お嬢さん・・・・ぽっ・・・」

「おやおや、詠春とガトウまで顔を赤くするとは・・・」

 

フェイトは、人から見た今の自分が、どういう姿なのかを分かっていなかった。

 

(なぜ、近寄ってくる!?)

 

困惑したフェイトは、狼狽える。

だが、その仕草が男たちの心をくすぐった。

 

(おお、俺は別に女とかどうでもいいが・・・)

(アリカのような冷たい無表情かと思いきや・・・)

(クールな表情が一転して、狼狽えるか弱い仕草・・・)

(真っ白い毛並みの猫族・・・)

(さらに、フリフリのエプロンにミニスカート・・・オーバーニーソとは・・・)

 

最強クラスの力を持つフェイトも、鼻息荒くした男たちの前には形無しだった。

 

 

「ぼ・・・僕の名前は・・・」

 

「「「「「おまけに、ボクッ娘だと!?」」」」」」

 

 

なんか、いろいろバカばっかだった。

 

「なんなんだ!?」

「この時代を先取りしたような娘は!?」

「ニア君といい、この子といい、世界は広い・・・」

「お嬢さん・・・教えてほしい・・・君の名は?」

 

フェイトは焦る。

正体がバレるバレないではなく、いろいろまずそうな気がした。だが、とりあえず誤魔化せているようだ。

 

(少なくとも・・・僕がアーウェルンクスであるとか、組織のメンバーであると疑っているわけではなさそうだ・・・なら、このままやり通すしかない・・・)

 

このままやり通す。

そう決めたフェイトは、必死に頭を働かせ、偽名を考える。そして、導き出した名前は・・・

 

 

 

「僕の名前は・・・・・・綾波・・・フェイ・・・綾波フェイだ」

 

 

 

 

「お、おお・・・なんか、ロボットを動かせそうな名前だな」

 

 

 

 

こうして、少年は神話になった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。