【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「お逃げくださ・・・姫様・・・」
荒野の果てでボロボロの騎士は、ただその言葉だけを繰り返しながら、意識を失った。
「ふん、うるさい人形どもだ」
倒れた騎士を見下ろしながら、冷たい言葉を浴びせる、真っ黒いローブを身に包んだ仮面の人物。
仮面の人物の前には、女と少女が身構えていた。
「くっ、嵌められたのう・・・」
「下郎が・・・」
二人の女は抵抗する意思を捨てず、仮面の人物を睨みつける。二人に対して、仮面の人物は感嘆の声を漏らす。
「若いとはいえ、流石は国を背負っているだけはある。アリカ姫、そしてテオドラ皇女よ。だが、諦めろ。護衛の兵はこの通り全滅だ」
両手を広げる仮面の人物の後ろには、何十人もの武装した兵士たちが横たわっていた。今この場で立っているのは、仮面の人物と二人の女。
二人の女は、完全に追い詰められていた。
「アリカ姫よ・・・どうするのじゃ? ワシの部下は、あの通りじゃ。このままでは・・・」
「すまぬ、テオドラ皇女よ。まさか、我らの秘密裏の交渉が、完全にこやつらに筒抜けとは思わなんだ」
二人の女。その名は、アリカ姫とテオドラ皇女。ヘラス帝国の王女に、オスティアの姫。秘密裏の会談を行おうとしたときに、彼女たちは襲撃を受けた。
「我らの組織を甘く見すぎだ。そして抵抗しないことを勧める」
「・・・組織・・・完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)か?」
「いかにも」
仮面の男の足元が黒く染まっていく。それは、影。その影から、次々と髑髏の兵士が出現した。
だが、アリカもテオドラも、相手の力に恐れることなく、勇猛に立ち向かう。
「なめるな、テロリストめ。我らは、決して屈しぬ!」
「帝国仕込みの魔力を見せてやるぞよ!」
二人の叫びとともに、荒野に爆音が響く。
「ほう、流石は王家の力。その辺の騎士どもとは違うな・・・だが・・・」
仮面の人物が、手を前にやる。すると、その足元から影が棘のように伸びて、二人の手足に巻きついた。
「ぐぬ!? これは・・・」
「動けぬぞ!?」
「私と貴殿らでは、実戦経験に差がありすぎる。どれほど恵まれた魔力があろうと、それが全てだ」
アリカとテオドラは戒めを解こうとするが、ビクともせず、身動きが取れない。
あっさりと捕まったこと、何より仮面の人物が息一つ乱していないこと、それだけで力の差がハッキリと分かった。
「さあ、大人しくするのだな。二人には今から、私についてきてもらおう」
これまでか? 抵抗すら許されぬ二人の姫が、そう思いかけた時だった。
「うああああああああ!」
「ぬう?」
「「!?」」
勇気と恐れの入り混じった少年の咆哮が聞こえた。
いったい何事かと、三人が空を見上げると、空からドリルを真下に向けた男が降ってきたのだった。
「シモンインパクトー!」
仮面の人物は咄嗟にその場から飛びのき、思わずアリカとテオドラの戒めを解いてしまった。
「なんじゃ?」
「助かったのか?」
解放された二人。そして、二人を連れ去ろうとした仮面の人物は、現れた人物を睨む。
「何者だ・・・紅き翼でも兵士でもなさそうだが・・・」
突如乱入した男に、仮面の男は大して動じてはいなかった。それは、揺るぎない精神力と己の実力への自信からだ。
だが、それほどの男でも、たった今現れた何の変哲もない男の力に、その仮面の下の素顔が、すぐに歪むことになる。
「俺はシモンだ!」
ハンドドリルを掲げ、泥まみれのシモン。
「女の子を力づくで連れ去るなんて、許さないぞ!」
泥まみれの姿だが、瞳だけはギラついていた。
「誰じゃ? あの、童は?」
後にテオドラ皇女は語る。
これが全ての元凶であったと。
「シモン? ・・・見る限り、騎士団では無さそうだな」
「騎士団じゃない、俺はメガロメセンブリアの日雇い労働者だ!」
「・・・・・・・ふっ」
シモンの言葉に仮面の男は嘲笑した。
「無駄な時間を過ごした」
「いかん! 童よ、逃げるのだ!」
「遅い」
仮面の男が指を軽く動かした瞬間、大地に影が広がり、シモンの足元から這い上がって飲み込もうとする。
「これは!?」
「場違いな舞台に上がろうとするから、こうなるのだ」
「ななな、なんだ!?」
「身の程を弁えよ。木偶め」
シモンの足元から這い上がる影が、シモンを丸呑みしていく。テオドラとアリカが助けようと立ち上がるが、既に遅い。
・・・そう思ったが・・・
「むっ!?」
影がシモンを飲み込んだ。
だが、仮面の男は違和感を覚えた。それは、手ごたえが無かったからだ。人一人を飲み込んだというのに、その実感が伝わってこなかった。
そして何より、音。
「なんだ、この音は?」
仮面の男の足元から聞こえてくる、削掘音。
徐々に大きくなり、それはやがて大地の下から顔を出した。
「いっけーっ!」
「なにっ!?」
ドリルを使って、大地の下から顔を出したシモンは、そのまま仮面の男に向かって突き進む。
仮面の男は直撃すら避けたものの、その漆黒のローブがシモンのドリルにかすって、ビリビリに引き裂かれた。
「ぬおっ! あの童、生きておった!」
「・・・なにものじゃ?」
テオドラとアリカも目を丸くしている。
「キサマ、どうやって・・・」
「どんなに気持ち悪い影だろうと、大地にできたものならば、俺に掘れないものなんてないさ」
「なに?」
「この世界に来て・・・ずっと友達に守られ続け・・・情けなかった自分を少しでも変えようと思って磨き続けた力だ!」
シモンは自分を恥じていた。
この世界の脅威を目の前にして、何もできない自分。そんな自分をニアは見損なったりしなかった。
フェイトは嫌な顔一つしないで、いつも気にかけてくれ、そして自分たちを守ってくれた。
友の重荷。好きな女の子も満足に守れない自分。
そんな現状を少しでも打破しようと思って、少しだけだが逞しくなった。
自分らしさを失わずに、この数か月かけての成長を、今発揮する。
「・・・奇怪な力だ・・・拳、剣、魔法・・・あらゆる戦闘を経験したが、そのような螺旋の武器は初めてだ・・・」
仮面の男は、少しだけシモンを認めたのかもしれない。そんな感じだった。
「だが・・・まだまだ世界を知らぬと見える」
しかし、それでも仮面の男の余裕は崩れない。
それどころか、身にまとうオーラのようなものが、シモンを圧迫し、空気を震わせる。
「教えてやろう。役者が違うということをな」
シモンは、確かに少しは強くなった。
でも、だからこそ相手の力が分かるようになった。
「どうした?」
「え・・・」
「顔が青ざめているぞ? 今さら怖くなったか?」
シモンの手にはびっしょりと汗でぬれていた。
ロージェノムの時とは違い、相手の力が分かるからこその恐怖が身を震わせた。
だが、あの時も勝算があったわけではない。
「ほんとだ・・・・でも、今さらだ。だって俺は、いつだって・・・怖いからな」
「なに?」
「でも・・・」
根拠があったわけでもない。
ロージェノムと殴り合ったときは、そんなことを考えて戦っていなかった。
「俺を・・・」
あるのは、気合!
「俺をッ!」
シモンが走り出す。
「いかん!?」
「ならぬぞ!」
アリカとテオドラは、慌ててシモンを止めようとするが、シモンは言葉で止まらない。
「ザコが・・・」
仮面の男が影を操り、幾重にも黒い影を拳に纏わせ、密度を上げる。
「粉々に・・・消え失せろ」
ハンマーのような巨大な拳がシモンに襲い掛かる。だが、それほどの強烈な拳を前に、シモンは瞼をしっかりとあけたまま、拳を見切る。
「俺を誰だと思っている!」
「ッ!?」
シモンの拳と仮面の男の拳が空で交差し、シモンの拳が仮面の男の仮面を叩き割った。
ロージェノムの時と同じ、クロスカウンターだ。
「ぬおっ!」
「あの童・・・」
テオドラとアリカも驚いている。だが、一番驚いているのは仮面の男だ。
「なんと・・・これは・・・」
割れた仮面の下からは褐色肌の男の顔が露わになった。
砕かれた仮面に少し呆然としながら、男は呟く。
「感情次第で力が上限する・・・これは人間の特徴・・・しかも、ただの人間ではない・・・微かに・・・この世界ではありえぬ文明の匂いを感じる・・・旧世界か・・・」
「・・・・へっ?」
「だが・・・それは困ったな・・・旧世界の人間と・・・殺し合いをするのは我々の間では御法度なのでな・・・」
「ッ!?」
意味の分からない会話。だが、男が戸惑っていたのは、シモンの力でも、思わぬダメージをくらったからでもない。
シモンが人間だということが分かった。意味が分からないが、戸惑っていた理由はそれだった。
「仕方ない。半分だけ殺してから、姫たちを連れて行こう」
戸惑いが終われば、男の素顔とともにあらわになった鋭い眼光が、シモンを威嚇する。
「後学のために知っておけ、旧世界の小僧。腕力が、剣術が、魔力が、戦闘能力がどうとかなど、もはや私の前では既に次元の違う話だということをな」
シモンは一瞬で理解した。
(なんだよ、こいつ!? 次元が・・・・)
次元が違う。
住む世界が違う。
睨みでシモンを震え上がらせるほどの存在感をデュナミスは出す。
テオドラも、アリカも、ポーカーフェイスを保ちながらも、汗をかいていた。
「そうだ・・・どうせ二度と会うことはないのだ・・・私のことを教えてやろう」
「なに?」
「私は、完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の幹部・・・・・名は!」
目の錯覚かと思った。
「な、なにい!?」
「危ない!」
「逃げよ!」
大地を見下ろす真っ黒い巨大な怪物。
山のように大きく、どす黒さを孕んだ化け物が、仮面の男を額に載せながら、シモンたちを見下ろしていた。
そして男は名乗る。
「デュナミスだ」
これが、後世まで語り継がれる、完全なる世界という伝説だった。
そして、ようやく歴史が動き始める。
「隊長! 首都郊外で小競り合いしている奴ら・・・男二人は知らないっすが、女二人は・・・あの、アリカ姫とテオドラ皇女ですぜ?」
シモンとデュナミスたちの争いを少し離れたところから覗き見る、真っ黒いコートに身を包んだ連中。
「くくくく、これはついている」
隊長と呼ばれた男は、欲にまみれた笑みを浮かべる。
「アリカ姫はどうでもいいが、テオドラ皇女は違う。皇女を攫って連合本部に連れて行けば・・・俺たちは一生遊んで暮らせるぜ!」
「うっひゃー! そうっすね!」
「傭兵結社なんかでずっと働いている必要もなくなるぜ!」
ここに居るのは、四人。彼らは、デュナミスとシモンの争いに乗じて、テオドラ皇女を攫おうとしていた。
「しかし隊長・・・あいつら強そうですぜ? 俺たちじゃ・・・」
「バカ野郎! こんな時のために、最強の助っ人を連れてきたんじゃねえかよ! おい、新入り! 出番だ!」
隊長の男が後ろを振り返ると、筋肉隆々で、鋭い角を額から突き出した怪物が立っていた。
「先輩よ~、あんま俺に命令すんなよな・・・殺しちまうぜ?」
どすの利いた声。他の連中はビビって顔を引きつらせる。
「わ、悪かったな。だが、ほれ、あそこに居る連中! あのチビ皇女さえ残してくれたら、あと全員皆殺しにしていいぞ」
「頼むよ・・・あんたならできるだろ?」
腰を引かせながら、新入りという立場の低い存在相手に頭を下げる男たち。だが、それも仕方ない。
この新入りと呼ばれる男の存在は、格が違いすぎた。
「当たり前だ・・・・・・この・・・・・・チコ☆タン様ならなァ!!」
今日この日、フェイトの記憶では、アリカ姫とテオドラ皇女、二人そろって完全なる世界に捕らえられる日となっている。
そしてこれは、歴史上極めて重大な出来事であった。
だが歴史は徐々に、フェイトが知る歴史から、食い違いが現れるようになった。
「あの・・・フェイ――」
「僕の名前、それは!」
ニアは目をパチクリさせていた。
友の変貌に、言葉を失った。
紅き翼を含めた、酒場の客たちも声を失っている。
だがそれは、あまりの姿に、見とれていたからかもしれない。
その証拠に、酒場のチンピラたち以外にも、ガトウや詠春も顔を赤らめている。
「あの・・・」
「ニア! お願いだ、少し口裏を合わせておいてくれ! とにかく、フェイト・アーウェルンクスという名だけは隠しておいてくれ」
「え・・・」
変身したフェイトは、ニアの耳元で必死に懇願する。
紅き翼に正体を知られたくないフェイトは、酒場のカウンターにあった衣装に身を包んでまで、己の正体を隠し通そうとする。
「フェ、フェイ公・・・おまえ・・・女だったのか?」
「ど、どうりで美形だと思ったんだ・・・」
呆気にとられるチンピラたち。
そう、フェイトは今女装中だった。
酒場のカウンターにあった、ニアのもう一つのメイド服に身を包み、変装用の猫耳としっぽまで装着している。
だが、それは女装しているというより、フェイトはもともと女だったのか? と、誰もが勘違いするほど、カンペキな姿だった。
(くっ・・・なんで僕がこんなことを・・・でも、これなら正体はバレないはずだ。さあ、紅き翼・・・早く帰ってくれ・・・この格好はつらい)
だが、紅き翼たちは、帰るどころか、フェイトの願いをモロに裏切り、むしろ鼻息荒くしてフェイトに向かって駆け出した。
「お、おお、おめー、すげー可愛いな! 名前は!」
「おう、ナギ! テメエには、アリカの姫さまがいるだろうが!」
「ナギ、ジャック! お、お嬢さんが怯えているだろう。かか、顔を近づけるな!」
「う、うちの連中が失礼をした・・・その、お嬢さん・・・・ぽっ・・・」
「おやおや、詠春とガトウまで顔を赤くするとは・・・」
フェイトは、人から見た今の自分が、どういう姿なのかを分かっていなかった。
(なぜ、近寄ってくる!?)
困惑したフェイトは、狼狽える。
だが、その仕草が男たちの心をくすぐった。
(おお、俺は別に女とかどうでもいいが・・・)
(アリカのような冷たい無表情かと思いきや・・・)
(クールな表情が一転して、狼狽えるか弱い仕草・・・)
(真っ白い毛並みの猫族・・・)
(さらに、フリフリのエプロンにミニスカート・・・オーバーニーソとは・・・)
最強クラスの力を持つフェイトも、鼻息荒くした男たちの前には形無しだった。
「ぼ・・・僕の名前は・・・」
「「「「「おまけに、ボクッ娘だと!?」」」」」」
なんか、いろいろバカばっかだった。
「なんなんだ!?」
「この時代を先取りしたような娘は!?」
「ニア君といい、この子といい、世界は広い・・・」
「お嬢さん・・・教えてほしい・・・君の名は?」
フェイトは焦る。
正体がバレるバレないではなく、いろいろまずそうな気がした。だが、とりあえず誤魔化せているようだ。
(少なくとも・・・僕がアーウェルンクスであるとか、組織のメンバーであると疑っているわけではなさそうだ・・・なら、このままやり通すしかない・・・)
このままやり通す。
そう決めたフェイトは、必死に頭を働かせ、偽名を考える。そして、導き出した名前は・・・
「僕の名前は・・・・・・綾波・・・フェイ・・・綾波フェイだ」
「お、おお・・・なんか、ロボットを動かせそうな名前だな」
こうして、少年は神話になった。