【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第41話 愛は魔法より強い!

「うぬう~・・・これは・・・」

 

荒野を黒く染める、巨大な影の化け物を見上げながら、テオドラは呟いた。

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)という組織の幹部、デュナミスの力は正直桁違いだった。

王族二人に日雇い労働者。この三人でどうにかできるレベルではないと、幼いながらもテオドラは見抜いていた。

 

(ここは一旦引くべきじゃ・・・しかし・・・)

 

敵わぬなら逃げた方がいい。しかし、シモンが気になり、それが出来なかった。

 

「のう、童。助けてもらったことは礼を言うぞ。だが、ここから先は、オヌシの対応できる領域ではない」

「で、でも・・・」

「安心せよ。隙は妾が作るぞ」

「えっ!?」

「気にするでない、童よ。か弱き市民を守れずしては、王家の名が廃る!」

 

テオドラは、まだ幼い。シモンよりも年齢は年下だろう。その屈託なく笑う笑顔は、少女そのものだった。

だが、笑顔の奥でギラつくオーラは、シモンの住む世界では見ることのできなかった、人の上に立つ者たちにのみ許された輝きがあった。

 

「付き合おう・・・ヘラス皇女」

「ぬう・・・しかし、アリカ姫よ・・・」

「気を使うな。そなたも皇女であるならば、私の気持ちが分かるであろう?」

「・・・ふっ・・・お人よしじゃの」

 

アリカも同じだった。

二人は、シモンを守るようにデュナミスの前に立ちはだかる。

 

「ちょっ、さっきから何を勝手なこと言ってんだよ!?」

 

女に守られる? それは男にとっては屈辱以外の何物でもない。

しかしそれを感じさせぬほど、二人は女というよりも、シモンにとっては遥か高みの存在に見えた。

 

「童・・・いや、シモンといったな。私の伝言を、ナギという名のバカに伝えてほしい」

「な、何言って!?」

「必ず迎えに来いとな!」

「ダ、ダメだ! 行っちゃダメだ!」

 

女は、誇り高かった。

 

「ふっ・・・その闘志・・・見事と言うほかない」

「素直に受け取っておこう」

 

デュナミスは、もうシモンの存在など目に入っていないのかもしれない。

 

「だが、教えてやろう! その誇りも闘志という感情も、所詮は偽りの不純物であるということをな!」

 

わずか数発の攻撃を打ち込んだとはいえ、シモンとアリカたちとでは、存在価値に差がありすぎた。

 

「ふはははははは、闇に飲み込まれよ!」

「させぬ! 我らは、必ず世界を照らして見せる!」

 

今のシモンでは決して届かぬ世界。敵。レベル。舞台。

だが、そんな領域に居る女たちが、小さなシモン一人を気にかけ、逃げずにデュナミスに立ち向かっている。

 

「どうしてだよ・・・」

 

シモンは、血が出るほど拳を握りしめた。

 

「ニアといい・・・二人といい・・・何で強い女は! 男の気持ちをこれっぽっちも分からないんだよ!」

 

気づけば、ハンドドリル片手にシモンも二人の後を追いかけていた。

 

「バカ者! 何故逃げぬのじゃ!」

「分かんないよー! でも、もう・・・誰かの代わりに助かるなんて、嫌なんだよー!」

 

無謀かもしれない。無駄なことかもしれない。でも、シモンは逃げたくなくて、走っていた。

 

「まだ居たか。モブキャラめ。所詮キサマなど、場違いも甚だしい!」

「知ったことか! たとえ場違いだろうと、舞台に上がったからには演じきってやる!」

 

勇ましく猛る、シモン。

だが、そんなシモンや二人の女をあざ笑うかのように、無情な闇が降り注ぐ。

 

「ならば、多少手荒くいく。重傷を負っても、恨まぬことだな」

「ッ!?」

 

巨大な影の怪物が、ハエ叩きのようにシモンたちを手のひらで押しつぶそうとする。

こんなもん、どうすればいいかなんて分からない。

 

「くそおおおおおおお!?」

 

だが、その時だった。

 

「彼を傷つけることは、許さないよ」

 

それは、その場に居なかった者の声だった。

 

「なにっ!?」

 

巨大な流砂が波を作って、巨大な怪物を丸々飲み込んだのだった。

 

「な、なんじゃと!?」

「流砂の津波!?」

 

怪物すら一飲みした巨大な力。

 

「なな・・・この魔法って・・・確かあいつの・・・ッ!」

 

自分たちのピンチに表れたその人物は、とてもかわいらしい顔をしていた。

 

「ああーーーっ!? って・・・えええええーーー!?」

 

シモンはその人物を見て、二回驚いた。

それは、現れた人物がシモンの心から信頼する友であったことへの喜び。

そしてもう一つは、その友が、何とも珍妙な姿をしていたことだった。

 

「・・・何という魔力・・・貴様・・・何者だ?」

 

降り注いだ大量の砂を払いながら、デュナミスは尋ねる。

すると、現れた人物は無表情のようで、ものすごく困ったような表情を浮かべながら、小さな声で答えた。

 

「あ、・・・綾波フェイだ・・・」

 

予想外すぎる人物がそこにいた。

 

「綾波・・・フェイだと?」

 

変身フェイトの登場だった。

 

(この巨大な魔力・・・この気配・・・アーウェルンクス・・・あの人形たちと似たものを感じるが・・・この女・・・)

 

メイド姿の猫耳フェイトを真剣な眼差しで見定めるデュナミス。

 

(くっ・・・よりにもよって・・・何でこんなことに・・・)

 

フェイトは、心の中では相当焦っていた。

 

 

(シモン・・・なぜ、デュナミスと戦っている・・・それに、アリカ姫にテオドラ皇女まで居るとは・・・しかしまずい・・・デュナミスなら、ひょっとしたら・・・)

 

(この女・・・)

 

(まずい!? 流石にデュナミスなら僕の正体に感づいて・・・)

 

(この女・・・なんと可憐なんだ!?)

 

(・・・ん?)

 

 

てっきり正体がバレるかとひやひやしていたフェイトだが、何故かデュナミスは顔を赤らめてそっぽ向いた。

その行動の意味は気になるが、どうしても気にしてはいけない気がしたので、フェイトは言葉を押し殺した。

 

「フェ・・・フェイ・・・ト?」

 

状況がまったく飲み込めないシモンは、どう反応していいか分からなかった。

 

「綾波フェイじゃと? 聞かぬな・・・」

「すごい魔力の持ち主じゃが・・・童の知り合いか?」

 

フェイトが只者ではないとアリカもテオドラもすぐに気付いた。だが、それ以上のことは分からず、ただシモンとフェイトのどちらかの言葉を待った。

すると、先にフェイトがシモンの目の前まで近づき、安堵の表情を浮かべた。

 

「助けに来たよ、シモン。・・・怪我は・・・なさそうだね。大丈夫かい? 」

「う、・・・うん・・・」

「すまない。僕が計算違いをした。まさかこんなことになっているとは思わなくてね・・・」

「えっと・・・」

「ああ、ここに僕が来た理由かい? それは、突然いなくなった君を心配した日雇い労働者の親方が店に来たのさ。それで僕が慌てて・・・」

「あ、いや、それもそうだけど・・・そんなことよりもまず・・・」

 

そう、そんなことよりも気になることがある。

 

「フェイト・・・その恰好は・・・」

「あっ!? ・・・って、静かに。今の僕は、フェイトじゃなくて綾波フェイなんだ」

「えっ?」

「ほかに名前が思いつかなかったんだ。だから、シモン。今から僕のフルネームは絶対に言わないでくれ。そうしないと、歴史が変わってしまう」

 

シモンの口を手で押さえ、慌てて事情を説明するフェイト。だが、説明になってない。

 

「でも・・・何で女装・・・」

「変装用具が他になかったんだ。それに、君が危ないと思ったから、慌てて・・・」

「・・・・・・」

 

いや、そんな説明で納得できるかよ。そんな顔で、シモンはフェイトを見る。

 

「・・・シモン・・・信じてくれ。別に僕はそういう趣味があるわけじゃない・・・ただ仕方なく」

「・・・・・・・」

 

しどろもどろのフェイトの説明では、納得できるわけがない。次第にシモンがフェイトを見つめる目が悲しくなり、フェイトは少し、しなっとなった。

 

「シ・・・シモン・・・そんな目で僕を・・・いや、とにかく軽蔑しないでほしい・・・き、君に勘違いされたくない・・・・」

「・・・えっ」

 

シモンは、何故かいきなりドキッとなった。

 

「お願いだ、シモン。こんな変なことで・・・僕を・・・その・・・君との仲をこんなことでだね・・・」

 

フェイトは無表情だ。

だから、コミュニケーションが苦手な奴だ。

だが、そんなフェイトが苦手なりに必死に自分を幻滅されないようにと、言い訳している。

するとどうだろう? シモンは少し、ドキッとしてしまった。

 

(あ、あれ? 俺、どうしたんだろ? フェ、フェイトって・・・こんなに・・・)

 

ちょっとヤバいことになりそうだった。

 

「あ、ああ・・・うん・・・・い、いいんじゃないか! ど、どんなことになったって、お前は俺たちの友達だよ! どんなことがあったって、軽蔑しないさ。お前が何者であっても、俺は、俺たちは絶対に受け入れるさ!」

「い、いや、状況が違えばうれしい言葉だが、この状況だと何か勘違いされている気がする。本当に、僕は好きでこんな恰好をしているわけじゃ・・・」

「えっ? 可愛い服を着るのが好きだったからじゃ・・・」

「違う! そうじゃない! ただ、これには事情があったんだ!」

「じゃ、なんのためなんだよ!」

「そ、それは・・・」

 

事情を言えない。それがこれほど歯がゆいものだとは思わず、フェイトは困った顔をして顔を背けた。だが、ここで、シモンは思った。

 

(フェイト・・・照れて・・・これって、素直になれない女の子がよく・・・それに、前に俺がメイド服とか良いなって言ったことあったし・・・まさか・・・)

 

激烈な勘違いをしたシモンは・・・

 

「まさか・・・俺のために・・・」

 

とんでもない道を掘り当ててしまった。

 

「ち、違う! なんでそうなるんだい。少なくともシモンのためなんかではない! 勘違いするな!」

 

この言葉を言葉通りに受け取るかどうかは、人次第。だが、少なくとも第三者の目から、特にフェイトを女だと勘違いしているものの目から見れば、このようになる。

 

「貴様ら! 神聖なる戦場で、何をイチャイチャとしている!」

 

何故か、ものすごく感情の入ったデュナミスが割って入ってきた。

 

「ち、違うと言っているじゃないか」

「ぬう、どけ、女! 私が相手をしているのは、そこの冴えない男だ!」

「たぶん君はものすごく勘違いしているが、とにかくシモンには指一本触れさせない」

「なっ!? 女に守られるとは・・・恥を知れ、小僧!」

 

さっきまでは渋くて、戦闘のプロフェショナルのようだったデュナミスだが、今はまるで、嫉妬に狂った情けない男のように見えた。

余談だが、史実ではデュナミスはこの日を境に、女性バージョンのアーウェルンクスがどうのと呟いていたそうだが、フェイトのあずかり知らぬところだった。

とにかく、レベルは高いのだが、戦場が一気にアホらしくなった。

 

「・・・のう、アリカ姫。妾はそろそろ帰っても良いか?」

「・・・私もそうしようと思っていたところだが・・・」

 

しかし、一見バカバカしいようで、二人の戦いは目を見張るものがあった。

デュナミスの影を使った攻撃。

フェイトの大地を使った攻撃。

どちらもアリカやテオドラから見ても、最強クラスの戦いだった。

 

「この女・・・わ、私の動きを・・・読んでいる?」

「すまない。とある事情で、君の力も技も、僕には手に取るようにわかるんでね」

 

ただでさえレベルが高いのに、フェイトはまるでデュナミスの全てを見透かしているかのように、デュナミスの想像を一歩上回る動きをしている。

デュナミスにやられそうになった、アリカやテオドラも、驚かずにはいられない。

だから、二人の戦いも、この妙な言い合いさえなければ、更に緊迫した戦いに思えただろう。

 

「キサマ! まさか、この私と渡り合える女がこの世に居ようとは・・・だが、何故立ちはだかる! あのような冴えない男、貴様ほどの女が盾になるほどのものなのか?」

「何を勘違いしているかは知らないが、シモンはそれほどのものだよ」

「なんだと? その男がそれほど大切な存在だというのか!」 

「ああ、僕にはかけがえのない存在だよ」

「なにっ!?」

 

フェイトは真顔。

 

「えっ///」

 

だが、アリカ、テオドラ、そしてシモンは顔を真っ赤にした。

フェイトは自分の胸に手を当てて、自分が今どういう格好をしているかも忘れて、真面目に答えてしまった。

 

「彼は・・・彼らは・・・空っぽだった僕の器を満たしてくれたんだ・・・初めて・・・誰かを守りたいと思うようになったんだ(注:友達として)」

 

ちなみに、今のフェイトは猫耳メイド服だ。

 

「童よ・・・随分と立派なおなごに愛されておるな・・・」

「あ、いや・・・あいつは・・・」

「幸せ者じゃな・・・」

「いや、そうじゃなくて・・・」

 

慌てて否定しようとするが、何分ニア以外の人にここまで言われたのは初めてだったので、シモンも困惑していた。

 

「ぬう・・・その言葉に・・・ウソ偽りはないのか?」

「ああ、ないよ」

 

迷いなく応えるフェイト。

それを友情なのか、愛情なのか、フェイトを女だと勘違いした連中には、どちらだと思ったかは定かではない。しかし、デュナミスの癇に障ったのは事実だった。

 

「私は・・・役者違いの組み合わせを、好まぬ。フィクションの舞台にも、それなりの組み合わせは存在する」

「それが何だい?」

 

フェイトを女だと勘違いしたデュナミスは、あろうことか、本来の目的を忘れてとんでもないことを言い放った。

 

「その男と貴様は釣り合いが取れぬ。見るに堪えん! 今ここで、その片方を潰してくれよう」

「・・・?」

「穴掘りの小僧! 貴様をこの場で潰す!」

 

とばっちりだった。

 

「えっ・・・えええええええええ!?」

 

確かにシモンはデュナミスと戦っていたのだから、傷つくのは仕方ない。だが、こんな形で攻撃されるのは、なんだか納得ができない。

何故デュナミスが、先ほどまで興味のなかったシモン相手にムキになるかは分からないが、とにもかくにもデュナミスがシモンに迫ってくる。

だが、シモンを大切に思うのは、綾波・・・いや、フェイトだけではない。

 

「誰が・・・」

「ぬっ!?」

「誰が・・・誰を潰すと・・・?」

 

冷たい闇のオーラを纏ったその女に比べれば、デュナミスの禍々しい影の化け物が可愛く見えた。

 

「な、何だきさ・・・ぐおおおおお!?」

 

それは間違いなく、素手だった。

そして、間違いなく女の細腕だった。

 

「誰が? 誰を? 潰すとは・・・シモンのことではないですか?」

「きさ・・・ぬう・・・こ、これは!? ぬおおおお!?」

 

女の細腕が、まるで鞭のようにしなる。

ヒュンヒュンと、音速を超えて衝撃波を放つほどの素手の打撃が、デュナミスを傷つけていく。

デュナミスの纏ったローブをビリビリに破き、その下の地肌を真っ赤に腫れ上がらせ、皮膚を傷つける。

それほどの容赦なくムゴイ攻撃を繰り出すのは、シモンを心から愛する女。

 

「ニア・・・じゃなくって、黒ニア!」

「なんと! また、知らぬ者が現れおった!」

「何者じゃ・・・フェイとやらも・・・童も・・・そして、この女も・・・」

 

氷の瞳の奥に、どす黒い憎悪を光らせ、現れた黒ニアは真っ黒いメイド服のコスチュームのまま、デュナミスを傷つけていく。

 

「バカな・・・たかが打撃で・・・この私が!?」

「愚かな・・・監督気取りで人の配役を勝手に決めるような人物でありながら、随分と無知なのですね・・・」

「な、なに!?」

「どれほど魔力というもので、肉体の強度を上げようと・・・皮膚そのものの耐久力を上げることはできません・・・」

「ッ!?」

「全身に・・・液体のイメージを・・・極限までしならせた打撃は、鞭のごとく。赤ん坊から、大魔王に至るまで、平等にダメージを与えます」

「ぐわあああああああ!?」

 

初めて食らった打撃なのか、あれほど圧倒的な存在だと思えたデュナミスが、痛みにうめき声をあげている。

両手を交差させ、防御の姿勢を見せるデュナミスだが、その防御の上からも黒ニアは打撃を放つ。

 

「あれは確か・・・格闘技の漫画で読んだことが・・・・何で黒ニアがあんなもの使えるんだよ!」

 

恐ろしい打撃を見せる黒ニアに、ただただ驚きを隠せぬシモン。

すると、黒ニアは静かに答えた。

 

「淑女の嗜みです」

「そんな嗜みがあってたまるものか!」

 

ゾッとした。

黒ニアだけは怒らせてはいけないと、この場に居た者たちは感じ取ったのだった。

 

「ぐぬ・・・ぬおおお!」

「ほう・・・さすがにレベルそのものは桁違いですね・・・まだまだ元気そうで・・・」

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 

防御が無意味だと分かったデュナミスは、強引にその場から離脱し、距離を取った。

これだけ食らってもまだまだ動けるデュナミスに感心しつつも、敵意の一切衰えていない黒ニアの瞳を見ただけで、百戦錬磨のデュナミスはゾクッとなった。

 

「きさまも・・・何者だ! その、綾波とやらの仲間か?」

「はい・・・フェイの仲間であり・・・シモンの妻です」

「バカな! 貴様まで、そのようなツマらぬ男の女だという――ぶへあッ!?」

 

黒ニアの妻発言に驚き、シモンを侮辱するような発言をしようとしたデュナミスの顔面は、再び黒ニアの鞭のような打撃を打ち込まれた。

 

「あ・・・あれは痛い・・・」

「なんという技じゃ・・・」

「童・・・ずいぶんとモテているようだな・・・」

「あんな愛の鞭は嫌だな・・・」

 

可愛らしい容姿で、大の男を苦痛に喘がせる黒ニアに、フェイトたちはただ背中の寒気が止まらなかった。

そして、黒ニアは言う。

 

「あなたが誰かは存じません・・・しかしあなたは、このわずかな間で何度私を怒らせるのです?」

「ぐうぬぬ・・・は、鼻が・・・」

「シモンを傷つけたこと・・・侮辱したこと・・・そして何よりも!」

「ぐ・・・な、なにを・・・」

「・・・・・・・・・私までシモンの女と言いましたね? ・・・私・・・まで? ・・・ほかに・・・どなたがシモンの女なのでしょうか?」

 

・・・その瞬間、デュナミスもアリカもテオドラも、全員フェイトを見た。

 

 

 

「・・・・・なるほど・・・」

 

 

 

皆の視線だけで全てを理解した黒ニアは、ゆらりとフェイトを睨む。

 

「待て、黒ニア! それは、その男が勘違いしているだけだ! というより、そんな話を真に受けるな!」

「昨日の友が・・・今日の恋敵になるとは・・・まさか・・・あなたが・・・」

「ちがう・・・黒ニアも変な勘違いを・・・」

 

フェイトは慌てて弁明するが、何故か信用してもらえない。

とんでもない勘違いに、哀れなフェイトだが、そういう勘違いをさせるほどのモノを今のフェイトは持っていたので、仕方なかった。

 

「私もニア同様、あなたのことは好きです。大切な・・・友達です」

「あ、ああ。そうだ。僕も同じだよ」

「ですが・・・・・・もしあなたの愛が本物なら・・・私はあなたと決着を・・・」

「なぜそうなる!?」

 

当初の目的は一体なんだったであろう? 目的を見失うほどの異常事態だった。

テオドラとアリカを、政治的理由で誘拐しようとしたデュナミス。

よく事態が分からぬまま、とりあえず救出しに入ったシモン。

シモンを助けに来たフェイト。

シモンを守ろうとする健気なフェイトを見て、何故かデュナミスがシモンにキレた。

シモンを傷つけようとするデュナミスに、黒ニアがブチ切れた。

そして、今になって、黒ニアの矛先が綾波フェイに向いていたのだった。

そして今・・・

 

 

「ウガアアアアアア!! ラブコメってんじゃねえ!!」

 

 

大地を破裂させるほどの大爆音とともに、またわけの分からない者が割って入ってきた。

 

「なっ・・・」

「今度はなんだ?」

「あやつは!?」

「確か・・・シルチス亜大陸の・・・魔人・・・」

「ぐぬ・・・なんという・・・この私も予想外であった・・・」

「か、怪物だ・・・」

 

敵味方がよく分からなくなった6人の戦士たちの前に、存在感抜群の怪物が現れた。

 

 

「がはははははははは! ようやく解禁だ! バカ先輩どものお許しが出たことだ! 派手にミンチになってくれよなア!」

 

 

現れた怪物は、その場に居たシモンたち全員に向けて、獲物を見定めた野獣のような眼をして、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「なんだよ、こいつは! フェイト・・・じゃなくって、フェイ?」

「・・・どうなってるんだ? 過去にこんなことが起こっていたのか? ・・・少なくとも、こんなこと、僕は知らない・・・」

 

フェイトですら、何が何だかわかっていない様子だった。

ただでさえ混乱している戦場に現れた怪物は、それほどまでに異常な存在だった。

 

「ぐはははは、カスどもが寄り添って・・・烏合の何タラだな」

「くっ・・・きさまは確か・・・チコ☆タン・・・」

「あ゛?」

 

デュナミスが、怪物相手にチコ☆タンと呼んだ瞬間、怪物の中で何かが切れた。

 

 

 

「テメエ・・・初対面で気安く俺の名前を呼び捨てしてんじゃねえ!!!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

ただでさえボコボコだったデュナミスの顔面を、力の限りチコ☆タンは殴り飛ばした。

 

「がはははははは、全員潰れろ! 今からここは、俺の世界だ!」

 

何メートルも軽々とふっとばされる強者デュナミスを見て、シモンたちの開いた口が塞がらなかった。

 

「ちょっ・・・ななな・・・」

「つ・・・ついてないの~」

「なんということじゃ・・・」

「シモン・・・私の後ろに・・・あなただけは守って見せます」

 

そしてその開いた口は、しばらく塞がらない。

黒ニアですら、少し臆していた。

だが、これで終わりではなかった。

まさかこの場において、これ以上の異常事態が発生するなど、フェイトも予想していなかった。

 

「やれやれ・・・随分と情けない・・・アリカ姫と人間以外は皆殺しにして構わないと言ったはずだよ?」

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

ふっとばされたデュナミスをその男は空中でキャッチして、冷たく言い放った。

 

「な、もう、なんなんじゃ!? 次から次へと、どうなっておる!?」

 

テオドラがそう取り乱すのも無理はない。ただでさえ混乱した戦場をチコ☆タンの所為でさらに乱されたと思ったら、またもや訳のわからぬ人物が登場したのだ。

しかもその現れた男・・・

 

「あ・・・あれ?」

「あの顔・・・」

 

シモンと黒ニアは、新たに表れたその男の顔を見て、隣に居るフェイトと見比べた。

 

「・・・・・・なん・・・ということだ・・・僕に内蔵されていた記憶は・・・どれほどいい加減で、重要な部分が欠けているんだ・・・」

 

フェイトは頭を抱えて、マジで悩んでいた。

 

「なんだ~? 随分とスカした男じゃねえか」

「ふっ・・・チコ☆タンか・・・まあ、デュナミスごときでは少々荷が重いかな? だが、君は君で随分と自信過剰だね」

「あ~?」

 

新手の存在に、血か騒ぐのかゾクゾクと嬉しそうなチコ☆タン。

対して、現れた男は随分と余裕たっぷりで、この人数や、チコ☆タンという化け物相手にも動じていないようだ。

だが、シモンと黒ニアは、別のことが気になった。

 

(ウソだろ・・・身長こそは・・・こいつの方が大きいけど・・・この顔・・・)

(この顔は・・・フェイトそのもの・・・)

 

そう、現れた男は、身長こそ違うが、フェイトと全く同じ顔だったのだ。

 

「どういうことだよ、フェイ・・・」

「・・・・・・・」

 

シモンがフェイトに聞こうとするが、フェイトは顔を俯かせたまま、何も答えない。

その様子を見て、黒ニアはなんとなく感づいた。

 

(・・・真面目な話に戻るなら・・・これがフェイトの事情・・・)

 

フェイトが何かを隠している。シモンもニアも、初めて出会った時からそのことは気づいていた。

まだ、それが何かはまるで何も分かっていないに等しい状態だ。

だが、ようやくその秘密を解くカギが、目の前に現れたことを、黒ニアは確信した。

 

「ぬ・・・仕事は?」

 

フラフラになりながら、デュナミスは男に尋ねる。

 

「終わったよ。紅き翼はしらばく自由に動けない。計画は次の段階に入る」

「そうか・・・。すまぬ・・・大義を見失っていた」

「構わない。運命は僕たちの手の中にあるのだから」

 

フェイトに似た男。この様子から、この男はデュナミスの仲間なのだろう。

彼らが一体何について話しているかは分からない。だが、この謎の人物の名だけは、次のデュナミスの言葉で分かった。

 

「すまぬが、今の一撃で動けん。この場を任せても構わぬか? ・・・プリームム」

「やれやれだね」

 

プリームム。それがフェイトに似た男の名前。

 

(プリームム・・・ラテン語で確か・・・一番目? ・・・フェイト・・・一体この者とあなたは何の関係が・・・)

 

黒ニアは、思ったことを中々フェイトに尋ねられなかった。

何故なら、「プリームム」という単語を聞いた後、顔を俯かせていたフェイトの背中が、より一層小さく見え、悲しそうに見えたからだ。

何故それほど儚そうに見えるのか? 何故それほど悲しそうなのか? 

 

(ふっ・・・初代アーウェルンクス・・・知らなかった・・・こんな・・・僕はこんな・・・)

 

フェイトはプリームムを見ながら、切なそうにした。

 

(カミナやシモンたちを見ていたから・・・知らなかった・・・・アーウェルンクスは・・・こんなにつまらない目をしていたんだ・・・)

 

フェイトの思いは誰にも分からず、そしてフェイトは誰にも語らなかった。

だから、シモンと黒ニアには、何が何だかわからぬまま。

 

「さあ、かかってきたまえ。アリカ姫だけは連れて行きたいんでね。僕が相手をしよう」

「アホか? ガキ皇女以外は皆殺しにしていいんだ。誰が獲物を譲るかよ!」

「ふっ・・・ならば・・・」

「がはははははは! 来いやア! ぶち殺してやらァ!」

 

何がどうなっているのか分からぬまま、プリームムという男とチコ☆タンという怪物が、大陸を震わせるほどの衝撃波を放ちながら、ぶつかり合った。

当事者のアリカとテオドラも、どうすればいいのか分からず、逃げずにその場で呆然としたまま。

シモンと黒ニアも、プリームムとフェイトを交互に見ている。

何も分からぬこの状況で、唯一分かったことと言えば、どんなにフェイトが真剣に悩んでいても・・・

フェイトは未だに猫耳メイド服のままだということだけだった。

 

 

 

一方その頃。

 

 

「どうしたんです? 師匠は・・・」

 

「タカミチ君、聞かないで上げてください」

 

 

完全なる世界に嵌められて、追手から逃げながら首都から離脱しようとする紅き翼の面々。

首都の追手は戦艦をも用いて自分たちを追い詰めようとしているため、なるべく目立たず、かつ迅速に、彼らは首都から遠ざかっていた。

色々とやらねばならぬことが山済みなのだが、どうも仲間たちの様子がおかしいことに、合流した少年タカミチは首を傾げた。

皆が難しい顔をしたり、ぼーっとした顔をしている。

唯一の例外は、タカミチと行動をしていたゼクトという男と、ニコニコしたままのアルぐらいだった。

 

「やっぱ女はな~・・・こ~、強いのはいいんだが、あの姫さんは強すぎるからな・・・その点、あのフェイって奴は・・・てっ、はは。こんなこと言ってたら、またあの姫さんに殴られるけどな!」

 

アリカと誰かを比べて、ケラケラト笑うナギ。

 

「まだまだガキだが・・・あれは、わずか四年か五年すれば・・・惜しかったな・・・」

 

少しだけ残念そうに舌打ちするラカン。

 

「もし彼女が日本に来れば、きっとすぐにスターに・・・」

 

女に弱い詠春ですら、ブツブツと言っている。

そして極めつけは・・・

 

「綾波フェイ・・・彼女は・・・とんでもない物を盗んでしまった・・・」

 

タバコの似合うハードボイルドな男、ガトウは荒野の彼方を見つめながら・・・

 

「私の心だ」

 

トンチンカンなセリフを言ったのだった。

 


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