【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第42話 顔を隠して、なぜ偉くなれる!?

「ウガアアアアアア!!」

 

とにかく逃げるのが先決だ。

だが、どこに?

 

「ヴィシュタル・ゲイト・ヴァンゲイト」

 

プリームムvsチコ☆タン。

この広い荒野の果てまで逃げても安全な場所があるとも思えない。

 

「シモン! 黒ニア! 振り返らなくていい! 後ろは僕が務める」

「待ってくれよ、フェイト・・・じゃなくって、フェイ! この人たちも連れて行かないと!」

「む~、すまぬの~、童」

「かたじけない」

「また女性が増え・・・まあ、シモンに深入りしないのであれば構いませんが・・・」

 

チコ☆タンとプリームムの戦いの波動で、いくつもの岩山が破壊され、鼓膜が破れそうになるほどの爆音がいつまでも響いている。

フェイト、シモン、ニア、テオドラ、そしてアリカの五人は、とにかくメガロメセンブリアへ向けて走っていた。

 

(・・・って、ちょっと待て・・・ここでアリカ姫とテオドラ皇女を助けるのは・・・確か正確な日付は忘れたが、二人は組織の幹部に拉致されていたはず・・・本来ならデュナミスが・・・しかしシモンが来たことにより・・・いや、しかし・・・)

 

激しい戦闘の脅威から懸命に逃げるシモンたちの中で、フェイトは一人心の中で引っ掛かりがあり、迷っていた。

どさくさに紛れて助けてしまった人物は、本来ならこの場で誰にも助けられなかった。

しかし助けてしまえば、歴史が変わってしまうのではないか?

 

(そうだ・・・非常にまずい・・・二人の皇女は組織に拉致され、夜の宮殿に監禁される・・・そこを紅き翼が救いだし、彼らの大反撃ののろしが上がる・・・)

 

このままでは取り返しのつかないことが起こるかもしれない。だが、今さらどうすればいい? 

すると、そんなフェイトの前に、ちょうどいい人物が現れた。

 

「おっと・・・そう簡単には逃がさんぞ」

「ッ!?」

「お前!」

「ぬう、しつこいの~」

 

現れたのは、顔面ボロボロのデュナミスだった。

影を使った移動術で、逃げようとするシモンたちの前に立ちはだかった。

 

「きさま・・・」

「そんな顔で睨むな、アリカ姫。私とて幹部の意地があるのでな。まあ、あんな魔人と戦うのはご免だが・・・貴様らぐらいならわけないぞ」

 

意外とまだ元気なデュナミスは、大地から真っ黒い髑髏の剣士たちを出現させる。

 

「なんです・・・気持ち悪い・・・」

「気を付けて、黒ニア! こいつは、影を自由に操つる男だ!」

「ギャグでボコボコにされておるが、真剣にやれば意外と強いぞ」

「うむ・・・だが、こちらも人数はそろっておる・・・ここは協力すれば・・・」

 

黒ニア、シモン、テオドラ、アリカは、覚悟を決めてデュナミスに構える。

だが、一方でフェイトは、この状況をうまく利用できないかと考えた。

 

(待てよ・・・アリカ姫とテオドラ皇女が攫われるのが、正しい歴史の流れなら、やはり二人は攫われなければならない・・・なら、ここで無理に抵抗しないでデュナミスに攫われれば・・・)

 

フェイトはコッソリ、シモンとニアを見る。

 

(もちろん、シモンとニアが応じるわけがない。だが、デュナミスクラスの実力者なら、僕がうまく手を抜けば戦況はどうとでもなる。アリカ姫とテオドラ皇女も、いくら強いとはいえデュナミスには敵わないはずだ。なら、ここは・・・)

 

歴史の流れに身を任せる。

シモンとニアは悔しがるかもしれないが、どちらにしろアリカとテオドラは、フェイトの知る歴史では死なないことになっている。

 

(シモンとニアさえ傷つかなければ、構わない)

 

ならば、二人を攫いに来たデュナミスにうまく負ければ、訳の分からない展開は避けられるかもしれない。

 

(腐ってもデュナミスは未来でも同志だ。目的さえ達成すれば・・・アリカ姫とテオドラ皇女さえ捕らえれば・・・シモンとニアには・・・)

 

フェイトがそう考えた、その時だった。

 

「さあ、大人しく投降するのだ。私についてきてもらうぞ、・・・綾波フェイよ」

「・・・・えっ?」

 

デュナミスは、何故かフェイト・・・綾波フェイを指名した。

 

「ついでに、シモン・・・貴様は半殺しにしていく」

「なんだと!?」

 

デュナミスは、私的感情で大義を完全に忘れていた。

 

「何で僕が君についていくんだい!?」

「・・・はっ、しまった!? そうだ・・・大人しく投降しろ! アリカ姫とテオドラ皇女!」

「何でだい? 何で今間違えたんだい!?」

 

慌てて言い直すデュナミス。だが、おかげでテオドラとアリカは抵抗する意思をさらに強めた。

ジト~っと二人の皇女はデュナミスを睨む。

 

「きさま・・・なんか、ムカつくのう」

「女に惑わされて大義を見失うとは、随分と安っぽい男じゃ。そんな貴様らに、世界は変えられぬ」

 

二人の皇女に言われて、フェイトは頭が痛くなった。

 

(まさにその通りだ・・・僕は、未来ではこんな馬鹿な男を仲間として受け入れていたのか?)

 

少し悲しくなったフェイトだった。

 

「ふざけるなよ・・・」

 

すると、そんな頭を抱えるフェイトの前に、シモンが立つ。

 

「たとえ誰であろうと、お前には渡さない」

 

デュナミスの素ボケを真に受けて、シモンは強い口調で言い放った。

 

「なんだと?」

「シモン・・・」

「童?」

 

その言葉に、その場に居た全員が目を丸くした。

 

「俺の前で、嫌がる女は誰も連れて行かせない! だから、渡さない! お姉さんも! この子も! そして、フェイもな!」

 

その言葉は、気迫がこもっていた。譲れぬ意思というものだ。

そこには、シモンの男としての強さが滲み出ていた。

 

(ほう・・・いい目じゃ・・・輝いておる・・・)

 

無表情で氷のような瞳をしているアリカの口元が一瞬緩んだ。

 

(・・・これでもう少し筋肉があって、強ければ、婿にしてやったな・・・)

 

「ふ~ん」と、どこが頬を緩ませながらシモンを見るテオドラ。

 

「いや・・・僕は男なんだけど・・・」

 

フェイトのツッコみは、誰にも聞こえなかった。

だが、こういう敵と相対した時にこそ、覚悟を決めたシモンほど頼もしいものはない。ニアにとっては、そうだった。

 

「さすがです・・・妻として・・・誇らしいです」

 

黒ニアがほほ笑んだ。そしてシモンの手を軽く握る。

そのほほ笑みは、シモンをどこまでも信じきっているからこその笑みだった。

 

「なんだと? 小僧・・・聞かなかったことにしてやってもよいのだぞ?」

 

デュナミスは、余裕たっぷりにシモンに聞き返す。

傷だらけでも、こういうシリアスな展開になると、改めてデュナミスの強さがシモンにも伝わってきた。

シモンは自分の手を見る。

気づけば汗でびっしょりだった。だが、汗でもなんでも好きなだけ出ろという感じだった。

 

(ダメなんだ・・・逃げてちゃ・・・)

 

先ほどまで逃げていたが、こうして敵を前にして、シモンはあることを思い出した。

 

(逃げてちゃ何にもつかめない・・・そうだろ? アニキ・・・ネギ先生・・・)

 

敵は、二人の女を攫おうとしていた。

少し前までの自分だったら、何もできなかった。しかし、今も同じでいいはずがない。

敵に追われ、自分が男であることを思い出したシモンは、正面からデュナミスと対峙することを決めた。

 

「アニキなら言う・・・男なら・・・逃げねえ、退かねえ、悔やまねえ! 前しか向かねえ、振り向かねえってな!」

「なにッ!?」

 

覚悟を決めて、シモンは吠えた。

だが・・・

 

「貴様・・・・・・そこまでハーレムを守りたいのか?」 

 

デュナミスは、どうも勘違い中。

 

「それほど可憐な綾波とやらや、黒ニアとやらや、綾波とやらや・・・」

「何故僕の名前を二回言う!?」

 

やっぱこいつはどうしようもないと、フェイトは改めて確信した。

だが、シモンは己を信じ切った表情で、デュナミスに返す。

 

「バカ言ってんじゃねえよ」

「む、この私をバカだと? 大義も分からぬ小僧が、生意気な口を」

「俺が守りたいのは、ハーレムなんかじゃないさ」

「何!?」

「俺が守りたいのは・・・」

 

その時、アリカとテオドラは少し不思議に感じた。どうも、シモンがどこか大きく感じた。

どういうわけか、強敵を前にして、むしろ開き直ったシモンが彼女たちには頼もしく感じたのだった。

 

「俺が守りたいのは、大グレン学園の心根だよ!!」

「ぬうッ!?」

 

どちらが先に出したかは分からない。だが、気づいた時には互いの拳が交差しあい、クロスカウンターがデュナミスの顔面に突き刺さっていた。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

見ていた方も、殴られた方も驚いている。

 

「また、クロスカウンターじゃと!?」

「これは・・・二度になると、まぐれではない!? 何故、大した身体能力もなく・・・」

「流石です、シモン。タイミングとハート・・・私にはわかります」

「いや・・・ちょっと・・・待て・・・」

 

フェイトはボケではなくて、素で驚いていた。

 

(腐っても、デュナミスは最強クラスの魔法使い! ロージェノムとの戦いでも驚いたが、これは少し異常だ! 幼いころからあらゆる英才教育を受けていたというニアなら分かるが、何でシモンがここまで出来る!?)

 

難なくデュナミスにクロスカウンターを二度も入れたシモン。

 

「ぬおお・・・ま、また・・・特に油断はしていなかったのだが・・・・ぐ、鼻血が・・・」

 

流石のデュナミスも、こればかりはボケで流す気はなかった。

 

「私の顔は・・・まあ、今はいい。しかし貴様・・・」

 

デュナミスは、殴られた顔面に手を当てながら、真面目な顔をする。

 

「今の一撃・・・明らかに一度目のクロスカウンターの時より、威力が数段上だった」

「・・・ん?」

「あの時も、間違いなく貴様は拳が潰れそうになるほどの全力で私に叩き込んだはず。なのになぜ、さらに威力が上がっているのだ?」

 

殴られた者にしか分からない差。シモンの拳の威力が上がっている。デュナミスはそう告げる。

シモンは、どうやら気づいていない様子。まあ、気合がどうとか思っているのだろうが、この場に居たシモンとニア以外には、少し理論的に説明できない事態ではあった。

 

「なるほど・・・先ほどの戦いが貴様の限界かと思ったが・・・少々興味深いな」

 

デュナミスが、シモンただ一人を見た。シモンはその眼光に、ブルッと体を震わせたが、すぐに苦笑いを返した。

 

「・・・シモンだけに重荷は背負わせませんよ?」

「うむ・・・カッコいいところを妾らも、見せんとな」

 

ニアとテオドラも前へ出る。シモンに感化されているのか、やけに好戦的な笑みを浮かべている。

 

「ほ~う」

 

デュナミスは武者震いを感じているような表情を見せる。

 

「面白い!!」

「くるぞ!?」

 

デュナミスは黒い影を幾重にも纏っていく。どうやら、本領発揮するようだ。

 

(まずい・・・デュナミスは本気だ・・・いくらなんでもこの状態のデュナミスの攻撃をくらえば、シモンたちではひとたまりも・・・)

 

フェイトの顔色すら変える、デュナミスの本気モード。

 

「見せてやろう! 魔道の極みを! 下らぬ恋愛などにうつつを抜かさず、ディスコの誘いも断り続け、ただただこの世の調和のために己を磨き続けたこの私の真の力!」

 

幾重に纏った黒い影は、デュナミスの血となり肉となり、筋肉隆々の巨漢を作り上げた。

 

「愚かなる人に天罰を下す。モテる男など、みんな死ねばいい!」

「な、なんじゃ? 言ってることは情けないが、ナリは逞しすぎるぞよ」

 

魔法使いとは程遠い、完全なるパワーファイターの姿だ。

そしてそれは見せ掛けだけではない。フェイトに続いて、テオドラとアリカも少々顔が引きつっている。

なら、こっちはどうする?

 

「死ねええ!!」

「させない!」

 

デュナミスの剛腕を、フェイトが正面から受け止めた。

だが、体重の差がありすぎる。いかにフェイトとはいえ、パワー勝負では分が悪すぎた。

 

「フェイ!?」

 

フェイトの両足が、デュナミスの腕力に押されて地面にめり込む。

 

 

「はっはっは! この私の拳を耐えるとはな・・・だが・・・」

 

「ッ!?」

 

「巨竜をも葬り去る、私の連撃には耐えられまい!!」

 

(まずい・・・詠唱を聞かれたら、僕の正体が・・・くっ、しかし詠唱なしでデュナミスをどうやって・・・)

 

 

まるで壁のような拳のラッシュ。もしこれがシモンやニアだったら、肉片すら飛び散っていたかもしれない。

 

「はっーはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

途中まで、フェイトも捌いていた。だが、捌ききれぬ拳が被弾し、そこからは全てを食らい、フェイトは為すすべなく荒野へぶっ飛ばされた。

 

「フェイ!?」

「安心しろ! 奴は私の嫁・・・あ、いや、奴は中々使えそうなので、我々の仲間になってもらう。なーに、奴なら死んではいないだろう」

「ふざけんな! フェイは誰にも渡さないぞ!!」

「ふっ、ザコが!!」

 

シモンがドリル構えてデュナミスへ飛びかかる。だが、ドリルの刃先を指一本で止められた。

 

「ッ!?」

「所詮はこの程度・・・」

「シモンのドリルが!?」

「逃げるのじゃ、童!」

 

ドリルが指一本で止められただけではない。ドリルはそれ以上進まず、むしろ亀裂が走り、ドリルが粉々に砕けた。

ドリルが砕け、驚いて硬直してしまったシモンの額に、デュナミスは三連撃を繰り出した。

 

「シッペ、デコピン、ババチョップだ!!」

 

まるで、銃弾が額に直撃したのかと思えるほどの威力が、シモンの頭に響き、シモンは大地を二転三転しながら転がった。

 

「ふ、古い!? やはり時代が・・・だが、シモンを傷つけることは、許しません!」

 

黒ニアがギリッと唇を噛みしめ、静かに怒りを燃やす。

黒ニアが体をしならせて、先ほどの鞭のような打撃を繰り出した。

だが、「パシン」と音を響かせただけで、デュナミスはノーダメージだった。

 

「皮膚への打撃とは、面白い発想。だが、今の私は皮膚の上に高密度の魔力を纏っているのだ」

「私の打撃が!?」

「人間が人間と戦うためだけに編み出した技が、造物主とともにある私に通じるものか!!」

 

デュナミスが影を手元に一点集中させ、真っ黒い球体を黒ニアに放つ。何かの魔法かもしれない。

 

「この・・・何が造物主じゃ!!」

「私的感情丸出しの貴様が、都合のいい時だけカッコつけるのではない!!」

 

テオドラがニアの前に現れ、魔法の障壁を展開させてニアの身を守る。

そしてアリカは、手刀に魔力のオーラを纏わせ、輝く剣を作り出して、デュナミスの胸を斜めに斬る。

 

「ぬう・・・断罪の剣・・・さすが、アリカ姫」

「いかに超高密度の魔力の鎧であろうと、私のオーラ―ソードは、いかなるものも断ずる!」

「ふっ・・・私の恋・・・ではなく、我等の大義をあくまで邪魔するか・・・」

「ふざけるな! 貴様を見ては、なおのこと貴様らのようなバカに世界を好き勝手にされたくないわ!」

 

アリカは、断罪の剣を掲げながら、接近戦タイプのデュナミスに自ら飛び込んでいく。

 

「ふっ・・・やはり貴様ら血族は邪魔だ・・・綾波フェイと一緒に、貴様も来てもらおう!」

「だから、そこで何故あの娘が入る! やはり、貴様らの好き勝手にはさせぬ!」

「やってみろ! 巨竜を葬り去る、我が拳撃!!」

「聞き飽きた! なれば、私の力は、世界最強の魔法使いでもあるあのバカをも泣かせる拳じゃ!」

 

腐っても悪の組織の幹部。

女とはいえ、伝統ある王家の魔力を引いた皇女。

これもまた立派な頂上決戦とも言えた。

だが、戦闘の実戦経験が違う。その差は、レベルが高くなればなるほど、明確になっていく。

接近戦だろうと、距離を取った攻防になろうと、デュナミスが優勢になっていく。

テオドラも接近戦での戦いに手は出せないものの、遠距離魔法で援護する。しかし、効果の方はイマイチなく、数による優位が機能しなくなっていく。

 

(アリカ姫とテオドラ皇女では・・・やはり、デュナミス相手に詠唱なしでは僕も厳しいか・・・せめてシモンとニアだけでも逃がしたいが、なかなか隙がない)

 

フェイトは思うように戦えない歯がゆさを感じながら、どうするべきかの対策を練る。

せめてシモンとニアだけは助けたい。

だが、その思惑とは裏腹に、シモンとニアはデュナミスに対する抵抗をさらに強め、ゆえに余計にデュナミスの攻撃の標的からは外れることは無かった。

 

「黒ニア・・・」

「シモン、大丈夫ですか!?」

 

立ち上がるシモンを見て、黒ニアはホッと胸をなで下ろす。

シモンは大丈夫だ。そしてその瞳もまだ、死んではいない。

 

「このままじゃダメだ・・・アレをやるしかない」

 

アレ? そういわれた瞬間、黒ニアは有無を言わずに頷いた。

 

「どうした! 王家の血筋もこれまでか?」

「やかましい!」

 

アリカの息が上がっていく。彼女自身、ここまで消耗したのは初めてだった。

いかに訓練を受けていても、籠の中の姫君だ。

自ら率先して戦場に立ち、命を懸けた決闘をするのはこれが初めてだった。

 

(強い・・・このままでは私も・・・テオドラ皇女も・・・そしてあの三人も・・・)

 

自分がしっかりしなければならない。強い意志が彼女を支えていた。

 

「さあ、しばし眠るが――」

「させるかァーーーッ!!」

「なにっ!?」

 

すると、次の瞬間だった。

シモンと黒ニア。

二人は手をつなぎながら、ダブルでとび蹴りをデュナミスに食らわせる。

その威力、ふざけて見えて、ハンパではない。

完全戦闘形態のデュナミスが、一瞬ひるんだ。

 

「童・・・シモン!」

 

アリカも目をパチクリとさせた。この戦場で呑気に手を繋いでいるバカップル。

 

「貴様らァ! 何のつも――」

 

だが、そのバカップルが、中々バカにできぬ光を、全身から放っていた。

 

「絆、命と魂懸けりゃ、通せぬ無理があるものか!」

 

シモンが叫ぶ。

 

「愛と気合でドリルを回す! これぞ夫婦の共同作業!」

 

黒ニアが叫ぶ。

 

「「父を超えた二人のドリル、くらってみやがれ不粋もの!!」」

 

二人の魂が螺旋のような渦を巻き、一つに重なりスパークする。

 

「「一心同体切磋琢磨!! 婚約合体!!」」

 

気合+愛+魂の力。

 

「「俺(私)たちを誰だと思ってやがる!!!!」」

 

シモンと触れ合えば、その間だけシモンとその者は全ての能力を向上させることができる。

相手が変身したならば、こっちは合体する。

それが、シモンたちのやり方だった。

 

「何が合体だ・・・別に、うらやましくなどないぞ・・・たかが、Aまでの行為で・・・ただ手をつないだだけ・・・それだけでこの私に勝てるとで――」

 

デュナミスの顎が跳ね上がる。

シモンと手をつないだまま、黒ニアの右膝蹴りがデュナミスの顎を打ち抜いた。

油断と慢心。デュナミスには正直それほどのダメージはない。

しかしそれを差し引いても、攻撃をくらったことに対してデュナミスは動揺を隠し切れなかった。

 

(合体? そう言えば、カミナたちもシモンにはそういう力があると・・・・)

 

その時、フェイトはとんでもないことを思いついた。

 

(そうだ! その手があった!)

 

フェイトが思いついたのは、人から見ればとんでもないアホみたいなこと。

少なくとも、悪の組織の大幹部のフェイト・アーウェルンクスなら絶対に思いつかない作戦。

しかし、大グレン学園のフェイト・アーウェルンクスは、バカな作戦というより、むしろ名案と思ってしまうほど、染まってしまっていた。

 

「テオドラ皇女!」

「な、なんじゃ・・・フェイとやら」

「シモンの背中に抱きつくんだ」

「・・・・・・・はっ?」

 

フェイトの作戦は、いたって単純なものだった。

 

「シモン! 僕と手を繋いでくれたまえ!」

「へっ?」

「早く!」

 

フェイトは走り出し、シモンがニアと手を繋いでいないもう一方の手をギュッと握り絞める。

 

「うう~ん、こ、これでいいのかえ?」

「ちょっ、何を!?」

 

そしてフェイトに続いて、テオドラ皇女はシモンの背中に飛びついて、おんぶしてもらうような態勢になった。

 

「な・・・なにをやってるのじゃ?」

 

アリカはこいつらが何をやっているのか理解できず、稀にみるキョトン顔になった。

 

「こ、この・・・何のつもりです!」

「妾に怒るでないぞ! フェイとやらがこうせよと言うたのじゃ!」

「黒ニア! これは作戦なんだ。変なヤキモチは焼かないでくれ」

 

実にヘンテコな体勢だった。

シモンの両手をニアとフェイトが握り、シモンの背中にはテオドラがしがみ付いている。

だが、これこそフェイトの臨んだ展開だった。

シモンと触れ合っている間、力を増すことができるのなら、全員で一緒にシモンと触れ合えば、力は何倍にも何乗にも膨れ上がる。

シモンの合体という能力を信じたフェイトが思いついた秘策だった。

 

「こ、こぞう・・・とうとう・・・そんな・・・貴様は・・・どれだけこの私を怒らせ・・・いや・・・」

 

もっとも、デュナミスから見れば、今のシモンの態勢は両手に黒ニアと綾波フェイという花に囲まれ、背中には魔法世界の皇女にしがみ付かれている、おいしい奴にしか見えなかった。

 

「フェ、フェイ・・・どうしたんだよ~、いきなり。これじゃあ、戦えないよ」

「大丈夫だ。あと、照れないでくれたまえ、シモン」

「じゃ、邪魔を・・・やはりフェイ・・・あなたは私の・・・」

「うぬー! これで本当によいのかえ!? 余計に敵を怒らせただけに見えるぞ! って、来たではないか!!」

 

スーパーハーレム体勢にしか思えず、デュナミスは誰かの気持ちを代弁するかのように吠えた。

 

「もはや貴様は、この世の全てのオスの敵だァァ!」

 

哀しき男の慟哭が響き渡ったのだった。

だが、この作戦は、フェイトの予想通りの効果を生み出した。

 

「ぬぬ、何じゃ? 妾の魔力が・・・」

「やはりだ・・・僕の体まで軽く感じる・・・」

「あっ、黒ニアと二人だけの時よりもすごい・・・」

「悔しいですがこれは・・・」

 

気合+愛+魂に、友情と魔力がプラスされた。

嫉妬に狂ったデュナミスは気づいていない。

フェイト、そしてテオドラはこの異常な事態に心を弾ませた。

理屈は分からない。しかし、シモンに触れた瞬間、シモンから温かい力が二人に流れ込み、自分の力と重なり合って、一人では決して生み出せぬ大きな力となった。

 

「ぬはははは、何者じゃ、シモンとやら!」

 

テオドラは年相応の少女らしく興奮しながら尋ねる。

だが、その問いに誰かが答える前に、さらなる変化が彼らに起こった。

 

「な、なんだァ!?」

 

四人からあふれる力は、緑色の光となり、四人の全身を包み込みながら、渦を巻いて大きくなっていく。

その渦が、やがて一つのドリルになった。

デュナミスが黒い影を身に纏って巨大化したのなら、シモンたちは寄り添いあい、緑色の光を幾重にも纏った結果、一つのドリルと化した。

 

「これ以上何を見せるというのだ?」

 

戦うのを忘れ、アリカも夢中になった。

 

「ドリル!?」

「シモンらしい・・・いや、僕たちらしいね」

「そうですね。私たちは麻帆良学園のドリ研部ですからね」

「な、なんじゃ、そのドリ研とは?」

 

自分たちらしい。シモンはその言葉で熱くなる。

そうだ。何度砕けたって、ドリルが自分たちの最大の武器なんだ。ならば、共に突き進むだけ。

テオドラはシモンたちの会話が分からず、仲間外れにされている気分で唇をとがらせているが、文句はそれまでだ。

これから行うことを共にできるのなら、文句などあるはずがない。

 

「さあ、シモン。行こう!」

「私たちが一つのドリルとなって、叩き込んでやりましょう。麻帆良大グレン学園ドリ研部のドリルを!」

「じゃから、そのドリ研部とはなんじゃ!? 妾を仲間外れにするでない!」

 

四人の魂に呼応するかのように、オーラのドリルがさらに強い渦を巻いて回転する。

そして四人は体を密着させ、一つの塊となって、身を投げ出して突撃する。

目指すはデュナミスただ一人。

 

「何をイチャつ・・・っていうか、マジで死ねええ!! ハーレム小僧めェ!!」

 

デュナミスが、更に鎧の密度を上げて巨大化し、殴り掛かった。

四人一つとなったドリルとデュナミスの拳が激突し、火花が飛び散る。

だが、結果は一瞬だった。

 

「ぬぬ!?」

 

先ほどシモンのハンドドリルを指一本で防いで砕いたデュナミスだが、今度はシモンたちのドリルがデュナミスの全力の拳に突き刺さった。

そのままデュナミスの腕を粉砕しながら突き進む。

 

 

「な、なにいいいいいいいい!? こ、こんなことがァ!?」

 

「「「「うわあああああああああああああああああ!!!!」」」」

 

 

シモンたちの突撃がデュナミスの腕を吹き飛ばし。さらにドリルから生み出した螺旋の渦が、強力な竜巻となってデュナミスの全身を深く切り刻んでいく。

デュナミスは何重にも纏った魔力の鎧が全て剥ぎ取られ、粉砕されながら天へと巻き上げられた。

 

「やったよ、シモン!」

「なんと、倒してしまったぞ!?」

 

天へと巻き上げられたデュナミスを見て、彼らは勝利を確信した。

 

「ああ。やったんだ!」

 

シモンも頷いた。

カミナたちも居ない中で、仲間と協力し合って、無理を通した。

アリカもテオドラも、思わず拳をギュッと握り絞めて喜びを表した。

 

「俺たちが・・・勝ったんだ! あんな強い奴に!」

「ああ。でも、僕たちも早いところ首都に戻ろう。あのチコ☆タンと一番目が――」

 

その喜びが・・・

 

「ッ!? ・・・・・・この感じ・・・」

「ん? どうしたんだよ、フェイ?」

 

束の間であることも知らず。

 

「バ、バカな!? ありえない!?」

 

フェイトは異常なまで体を震え上がらせた。フェイトがこれほど怯えている姿を、シモンたちは見たことなかった。

デュナミスは倒した。

天高らかに舞い上がり、意識を失っているのか、ピクリとも動かずに地面へ落下していく。

だが、その瞬間、フェイトは突然震え上がった。

 

「フェイト?」

「な、なんじゃ?」

「どうしたというのだ、綾波とやら?」

 

アリカとテオドラも勝利を忘れて、只ならぬフェイトの様子を気になって、心配そうにのぞきこんだ。

だが、フェイトはガタガタと震えるだけで、何も言わない。

 

「フェイト?」

 

どうしたというのだ? シモンがフェイトの肩に手を置こうとした。

だが、その瞬間・・・

 

「・・・・・・・・えっ?」

 

シモンのお腹を、熱い何かが通り抜けた。

 

「・・・・あっ?」

 

何が起こったか一瞬わからなかった。

だが、お腹に手を当ててシモンは気づいた。

まるでレーザービームのような光線が通り抜け、シモンの腹に風穴を開けたのだった。

 

「な・・・・あっ・・・・な・・・」

「シ・・・シモン・・・・・・・・・・」

 

痛みに気付かぬほど突然だった。

黒ニアやテオドラたちも、一瞬何が起きたのか分からず、腹に風穴があき、みるみると血が滲みだしたシモンに何も反応できないでいた。

 

「な・・・なんで・・・・」

 

そして、シモンは血を大量に口から吐き出して、大地にそのまま倒れこんだ。

 

「あ・・・あ・・・・」

「わ、童シモン!?」

「な、ななな・・・こ、これは一体どういうことじゃ!?」

 

先に反応したのはテオドラとアリカだ。二人は慌てて大地に膝をつき、シモンに手をかざす。

 

「あ・・・あ・・・あああ・・・あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

言葉にならぬ声を上げ、頭を抱えて黒ニアは半狂乱しながら取り乱した。

 

「お、落ち着くのじゃ、ニアとやら! ア、アリカ姫よ、シモンの手当てはヌシにまかせるぞ!」

「承知した!」

「シモン・・・誰が・・・誰がッ!?」

「落ち着けと言うておろう! それに、綾波もじゃ! 一体ヌシもどうしたのじゃ?」

 

シモンがやられ、ニアが取り乱し、フェイトは未だに震えたまま。

何が何だかわからない。

アリカも必死に治癒魔法でシモンの手当てをするが、動揺からか、なかなかうまくいかない。

テオドラも取り乱したニアやフェイトを落ち着かせようとするが、彼女もこの状況がよく分からず、右往左往したままだった。

 

「一体なにが・・・どういうことじゃ?」

 

何があった? その答えを、フェイトは誰よりも早く気づいていた。

 

「間違いない・・・・・・・・・・彼だ・・・・」

 

フェイトは呟いた。

 

「彼? ヌシは何を・・・・・・・・ぬっ!? 誰じゃ、そこにいるのは!?」

 

テオドラは、突如現れたその人物に気付いた。

いつからそこに居たのだろう? 

そして、何故これほどの存在感に今まで気づかなかった。

 

「ぬっ・・・」

「こ、この感じ・・・・ヌシは・・・・」

 

現れた謎の人物を認識した瞬間、アリカとテオドラの体が硬直した。

理由は分からない。

だが、彼女たちの本能が、この者には決して逆らえぬことを告げていた。

 

「あなたがシモンを・・・・・・・・・なぜ!? 顔を見せるのです!!」

 

現れた人物に黒ニアは殺意を込めた目で睨む。

すると、その人物は何かを語りだした。

 

「・・・・・・・・・・人間と・・・人形か・・・しかもただの人間ではない。イレギュラーを感じる。螺旋の力だな? ・・・その力を見るのは・・・貴様で二人目だ」

 

淡々と語りだしたその者は、デュナミスよりもさらに大きなローブで全身を覆い隠していた。

 

「私の語る『永遠』に穴を開けられては台無しだ。だからこそ、イレギュラーは始末する必要がある。例え・・・人間でもな」

 

ただヤバいとしか分からぬこの謎の人物。

フェイトは誰にも聞こえぬほどの小さな声で、震えながら呟いた。

 

「なぜここに・・・造物主(ライフメーカー)が・・・」

 

全ての始まりと終わりの存在がそこに居た。

 

 

そしてまた、同じころ・・・

 

 

 

「んの、スカし野郎が。イケメンは死んで爆発しやがれ」

 

 

 

「さすがに伊達ではないようだね。血が騒ぐよ。伝説の魔人チコ☆タンよ」

 

 

 

こちらはどれぐらい戦っていただろうか?

互いに互いの力を存分に発揮しあい、両者共に手傷を負っていた。

どちらが負けても勝っても、このままではただでは済まない。

二人の戦いによって、大きく地形が変わってしまっているこの荒野がそれを物語っていた。

だが、ここで戦闘不能になるのは割に合わない。プリームムはそう考えていた。

一方でチコ☆タンは、相変わらず自分勝手だった。

 

「うるせえよ。テメエもさっさと死ね! つーか、テメエのせいで皇女が逃げちまったじゃねえかよ!!」

「そう言うな。僕たちも迷惑しているんだ」

 

このままでは計画に大きな支障が出る。

アリカ姫という存在は、それほど完全なる世界の組織には重要な存在だった。

だが、正直テオドラ皇女に関しては、ついでのつもりだった。別にテオドラに関してはどちらでも良い。

 

「ならばここは、そろそろ一段落して取引しないかい?」

 

もういい加減、終わらせるべきだと考えたプリームムは、チコ☆タンに提案し交渉を試みた。

 

「あ゛ん?」

「君たちの目的は、テオドラ皇女だろ? なら、テオドラ皇女は君たちに引き渡そう。その代りアリカ姫だけは僕たちが連れて行く。それでこの場は丸く収めないかい?」

 

だが、チコ☆タンに交渉は百パー無理な話だった。

 

「バカかテメエは! 二人そろった方が評価高えだろうが! 俺様の昇進に響く!」

「君の力なら、すぐに昇進するだろう? 今僕と殺しあっても、割に合わないんじゃないかい?」

「知るか! イケメンぶっ殺せて、良いことずくめだろうが!!」

 

交渉にすらならなかった。

プリームムは呆れて溜息をついた。

チコ☆タンは唯我独尊に高笑いする。

だが・・・

 

 

「よかろう。それで手を打とうではないか」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

「テオドラ皇女をこちらがいただく。それで交渉成立としよう」

 

 

プリームムとチコ☆タンはまったく気づいていなかった。

 

「誰だ、テメエは! ぶっ殺・・・・って・・・社長!?」

 

そこに居たのは、チコ☆タンが唯一逆らえない者。

黒い猟犬(カニス・ニゲル)という秘密結社に所属するチコ☆タンが逆らえないのは、ボスの人物だった。

 

「社長? この・・・妙な黒ずくめの男がかい?」

 

プリームムも少々真剣な眼差しになってその社長と呼ばれた人物を見る。

 

「そうか・・・では、あなたが・・・黒い猟犬(カニス・ニゲル)の社長・・・僕たちの組織でもあなたの素性も素顔も経歴も一切調べられなかった、謎の人物・・・一体何の用だ?」

「ふん、正体不明の社長さんよ~。がははははははは、何の用だよ?」

 

ピタリと戦いの手と闘争心を止めたプリームムとチコ☆タン。

二人に対し、謎の人物は答えた。

 

「黒い猟犬の社長・・・その肩書はあまり好きではない。私はどちらかというと・・・・・・・・・・・」

 

全身真っ黒で素顔も何も分からないこの人物。

 

「どちらかというと・・・あんかけスパゲティ推進協会会長という肩書の方が好きだ」

 

その正体は、あんかけスパゲティが好きな人物だった。

 

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