【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第43話 負けたけどそれがどうした!

「シモン!? シモン!? シモン!?」

「落ち着かぬか! 黙って、こやつの生命力を信じよ!」

 

取り乱す黒ニアの頬をパシンと叩くアリカ。彼女はそうやって強く自分を保って、シモンの回復に専念する。

だがそれは、そうでもして意識を保っていなければ、この場を包む空気にのまれてしまうからかもしれない。

 

(言っておいて、私がこのザマ・・・無理もない・・・造物主(ライフメーカ)じゃと? なんじゃこの・・・この・・・)

 

魔法世界の王族が、完全に気おされていた。

この圧迫感に意識をかろうじて保っていられたのは、彼女たちが半端な存在でない証でもあった。

しかし同時に本能で感じ取っていた。

 

「勝てる気が・・・いや、もはやそういう次元の話ではない・・・なんじゃ・・・こんな存在が・・・」

 

ガタガタと震えながら、造物主と呼ばれた存在に恐れるテオドラ。

そして同じく動揺の隠せぬフェイト。もはやこの場に、まともな精神でいられるものなど居なかった。

 

「はあ、はあ、はあ・・・・・・分からない・・・」

 

ようやくフェイトが口を開いた。

唇を震わせながら、ヨロヨロと立ち上がりながら、造物主に問いかける。

 

「なぜ、ここに・・・・・・・・・なぜ、シモンを・・・・」

 

言いたいことがうまく表現できないのだろうが、フェイトは必死に問いかける。

 

「あなたの望みは何だ!? 答えろ!」

 

フェイトは今にも崩れそうな、悲しみのこもった表情だった。

切なくて、複雑で、どうしようもなさが滲み出ていた。

するとフェイトの問いかけに、造物主と呼ばれた者が一歩前へと歩みだした。

何もない荒野をただ闊歩しているだけ。

ただそれだけで、今にも逃げ出したくなるような衝動を抑えながら、フェイトたちはその場で堪えていた。

 

「まだ起動もしておらぬはずの人形が・・・ありえぬ話だ」

「ッ!?」

「この時代には決してありえぬ存在・・・・・・人形、人間、そして螺旋の一族・・・」

 

フェイトの問いかけに対して答えているわけではない。

造物主は、この場を見渡しながら、独り言をつぶやきだした。

 

「螺旋の力を持っているのはこの世で、あの男だけだ。例外が現れたということは、奴の血縁者・・・しかし奴はまだ子を為していない」

 

ブツブツと何を言っているのか分からない。ただその一言一言が、なにかとてつもない重要性を孕んでいるのではないかと思わずにはいられない。

 

「なるほど・・・貴様ら・・・」

 

そして造物主は、とうとうフェイトを見て語りかける。

 

「奇異なこと・・・時間跳躍者か」

「「ッ!?」」

 

まだ数分しか経っていない。それだけでフェイトたちは正体を気づかれた。

 

(バレている・・・デュナミスを騙せても・・・彼は例外だった・・・)

 

フェイトは肯定も否定もせず、ただ黙ったままであった。テオドラもアリカも、何があったのか理解できず、ただ造物主とフェイトを交互に見ていた。

 

「しかし、随分と摩訶不思議な姿をしているではないか。その衣装は、誰の差し金だ?」

「・・・・・・・・・・」

「そして、何故貴様は螺旋の男と親しくしている? そして・・・人形が人を思わせる匂いを何故放つ?」

「・・・・・・・僕は・・・・」

「主の問いかけに、何故答えぬ? ・・・・・・二つ目・・・ではないな。恐らくは・・・テルティウムか?」

「ッ!?」

 

その名を聞いた瞬間、フェイトの中で何かが弾けた。

 

「違う! 僕は・・・僕を・・・テルティウムと呼ばないでくれ・・・」

「何故主の問いに答えぬ。人形よ・・・」

「違う!」

「違わぬ。例え時間軸が違っていようとも、私を誤魔化せるとでも思っておるのか?」

「違う! 違う! 僕は・・・僕は・・・!」

 

フェイトは否定する。否定しているのは、真実。

真実を受け入れたくなく、必死に否定し続けた。

 

「僕はテルティウムではない! 僕の名は・・・僕は・・・ッ!」

 

こんな感情を持っているなど、フェイト自身も思っていなかった。

フェイトは思いだす。

自分が今まで何と言われていたのかを。

 

 

――フェイ公!!

 

 

最初は嫌だった。

そんなふうに呼ばれ、馴れ馴れしくしてきた大グレン学園の生徒たちが。

だが、「テルティウム」と呼ばれた時の嫌悪感とは比べ物にならない。

 

「僕は・・・僕は!」

 

だが、否定してみたところで、それなら自分は何者になる。

 

(僕は・・・僕は・・・)

 

フェイトには、その答えがまだ見つかっていなかった。

自分が一体、誰なのかを・・・

 

「染まりすぎたか・・・」

「ッ!?」

 

造物主が消えた。

いや、消えたと思ったら、造物主はいつの間にか、フェイトの肉体に手をめり込ませていた。

 

「なっ!? は、はや・・・」

「み、みえ・・・な・・・・」

「フェ・・・フェイトッ!?」

 

レベル? 力? 魔力? 経験?

 

「フェイトッ!?」

 

そういう問題ではない。生物としてのランクが違う。

 

「あ・・・僕は・・・・・・・・・・・」

 

造物主の右腕に腹部を貫かれたフェイト。

フェイトほどの実力者でも回避できず、そして抗うこともできなかった。

 

「操作の必要のない自立型人形・・・だが、なまじ自我を埋め込むと、放置時間が長ければ長いほどイレギュラーを起こすか・・・」

「な、なにを・・・」

「今ここで、貴様の核を潰すのはたやすい。だが、・・・・・・」

「ッ!?」

 

フェイトの体内で造物主は軽く拳を握る。

まるで、フェイトの体内にある重大な臓器を掌握しているかのようだ。

フェイトもまったく抗うことができなかった。

だが、抵抗をも許さぬ造物主が、意外な言葉を漏らした。

 

「人形が私情に囚われるか・・・だが、その感情を否定はせぬ」

「・・・・・・・え・・・」

「心・・・心があるからこそ人は何かを求め進化する。そして、寄り添いあうことにより、種としての存続を可能とする」

 

否定しない。

造物主は確かにそう言った。

 

(否定しない? バカな・・・バカな・・・)

 

フェイトは信じられぬと、もう一度問いただそうとした。しかし、軽く握られた造物主の掌が、少し強まり、フェイトの発言を止めた。

 

「だが、その心がまた新たな問題を引き起こす」

「ッ!?」

「心があるからこそ、決断に戸惑い、悩み、苦しみ、重大なものを失う」

「マ・・・スター・・・ぼ、僕は・・・」

「大義のため・・・役に立つという目先の理由で自立型人形を生み出したのは私の過ち。確かに悩みと苦しみを持つお前は、既に人形ではない。人と呼んでもいいのかもしれないな」

「人!? 僕が・・・・・・人と同じ? シモンや・・・カミナたちと・・・」

「そして、そんな貴様に・・・大義は語れぬ」

 

フェイトは、たったそれだけで内からあふれ出す何かが止まらなかった。

自分が友たちと同じ「ヒト」。たったそれだけの言葉が、何よりも心の暗雲を取り払ってくれた。

だが、造物主はそこから問いかける。

 

「そう、その心に囚われ・・・私情を優先するものに大義は語れぬ・・・・・・テルティウムよ・・・我が意思を受け継がぬのなら・・・人となったお前は何を望む?」

「えっ?」

「お前は何のために生まれ・・・・何のために生きるのだ? 貴様の活動を停止させぬ代わりに、その問いに答えよ」

 

造物主の問いはいたって簡単なこと。

 

(僕はなんのために・・・)

 

テルティウムではない。自分は人形ではない。造物主に向かってそう反発したフェイト。

ならば、フェイトとは何だ? 何のために生きるのか? 

 

(その答えなら・・・もう・・・出ている・・・)

 

その答えを既にフェイトは持っていた。

 

(僕のやるべきことは変わらない。でも、それはあなたの意思を受け継いでのことではない・・・僕が・・・使命を果たすのは・・・)

 

フェイトは己の体内に腕をめり込ませる造物主の手を掴み、途切れ途切れになりながらも、その答えを言う。

この、わずか数か月間の日々を思い出しながら。

 

「大切な人たちの明日を守るため・・・・・・」

「・・・ほう・・・」

 

思い出すのは、うるさくて、バカバカしくて、何よりも温かかった日々。

 

「彼らがいつまでも・・・バカみたいに笑っていられる世界を守るため。そのために・・・そのために僕は生まれてきたんだ!」

 

フェイトの頬に液体が流れた。その液体は、フェイトの目元からあふれ出ていた。

自分勝手に、どこまでも私情に、どこまでも苦しみながらも選んだフェイトの生きる道。

それを聞いて、造物主はゆっくりとフェイトの体内から腕を出し、フェイトに語りかける。

 

「心を持ったならば・・・己を偽らずに生きよ」

 

それが・・・

 

「全てを満たす解はない。だが、それを知り、己の心を犠牲にしてまで友を守るというのであれば、それもよかろう」

 

フェイトが造物主と交わした・・・

 

「その小さな心が・・・大きな力となる。やがて、世界を救うほどに」

「マ・・・マスター・・・」

「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)も同じ。夢でも幻想でも、そこに心があるのならば、それもまた立派な人の住む世界となる」

 

それが、気を失ったフェイトが最後に聞いた、主からの言葉だった。

 

「フェ・・・フェイト・・・」

「心配するな。核に少々刺激を加えただけ。すぐに目が覚める。目が覚めたら、元の時代に戻るがいい」

 

造物主は、まだ何も言っていない黒ニアに向かって言う。

ニアは、複雑な表情をしながらも、造物主の前を通り過ぎて、倒れたフェイトを抱きかかえる。

フェイトは確かに眠っているだけのようだ。少し安心した黒ニアだが、だからと言って黒ニアの心が落ち着いたわけではない。

何故ならば、この造物主とフェイトの間柄がどういうものなのかは、今の会話だけでは彼女も理解することはできなかった。

だが、例え理解できたとはいえ、この造物主がシモンに瀕死の重傷を負わせたことには変わらなかった。

すると、そんな黒ニアの心を見透かしたかのように、造物主はニアに向かって言う。

 

「ただし・・・そちらの螺旋の小僧は、置いて行ってもらおう」

「ッ!?」

 

それは、最悪の言葉だった。

 

「なんじゃとっ!? シモンをじゃと!?」

 

テオドラもアリカもムッとして立ちかまえる。だが、造物主はそれでもゆっくりとシモンに近づいていく。

 

「シモンに近づくことは許しま――ッ!?」

 

黒ニアが飛びかかる。だが、造物主は軽く手をかざしただけで風圧を発生させて、ニアをまったく寄せ付けなかった。

大地を転がる黒ニア。

激しく打ちつけられた黒ニアの真白い肌がアザだらけになる。だが、それでも黒ニアは大地を這ってでも造物主の足を掴む。

 

「させません・・・シモンは・・・」

「・・・それほど大切か? あの、少年が。だが、覚醒されると厄介だ・・・螺旋の力に関しては、たとえ時間軸が違ったとしても、葬る必要があるのだ」

「知った・・・ことではありません。シモンは・・・シモンです」

「どうやら、事の重大さが分かっていないようだな。小娘よ」

 

すると、その手を無理に解こうとせず、造物主は口を開く。

 

「螺旋の力は――」

 

だが、その時、この場に居ないはずの声が再び飛び込んできた。

 

「螺旋の力は種の進化の象徴。全ての想いを実体化させる。言葉や理性で押さえることのできぬ、本能に突き動かされた愚かなる種族・・・・・・お前はそう言いたいのかな?」

「・・・貴様・・・」

「その小僧が私の血族かどうかは知らぬが、まだ覚醒前の螺旋戦士でさえ、恐ろしいのか?」

 

それはまた、異形の存在だった。

 

「今度は何じゃ・・・」

「皇女である私が・・・ふふふ、この私がこれほどまでに他者を見上げるとは思わなかったぞ。こやつら・・・・」

 

テオドラもアリカも、精神的に参りかけていた。この世界の社会的な立場では頂上に君臨する王の位のもの。

さらに、この魔法世界でも名だたる大国の王。皇女の中の皇女と言っても差し支えないはずの二人。

その二人をもってしても、生命の格が違うと思わざるを得ない存在が、またもや現れたことに、二人は呆れた溜息を零した。

 

「本拠地からワザワザご苦労だな、造物主よ。螺旋の力を感じてきたのか? 人形師が人形劇の舞台に上がるとは、滑稽に見えるものだよ」

 

だが、そんな二人を置いてきぼりに、現れた人物が造物主に語りかける。

対して、素顔こそ見せないものの、造物主は明らかに不快感の滲み出た溜息を洩らした。

 

「貴様か・・・・・・堀田博士」

「今の私は・・・あんかけスパゲティ大好きさん・・・略してアンスパさんだ」

 

堀田博士。突如現れた全身黒ずくめで黒い目だし帽を被った怪しい人物に、造物主は確かにそう言った。

 

「造物主・・・なぜ螺旋の力を滅ぼし、偽りの世界を作ってまで魔道の力を生かす? ライフメーカーという肩書など、思い上がった人間の夢想だというのがまだ気づかぬか?」

「生かすのではない。貴様の望む通り、我等の青き故郷とのゲートを遮断したのちに、この楽園を終焉させる。だが、それではあまりにこの世界の人形たちが不憫。だからこそ、新たな世界を与えるのだ」

「新たなる世界?」

「例え偽りと罵ろうと、各人の願望を叶える。死もなく幸福に満たされた暖かなる、永遠の楽園だ。それぐらいの慈悲があるべきだ。人形師としてな」

 

すると、堀田博士と呼ばれたアンスパは、その覆面の奥でクスクスと造物主を笑った。

 

「何故わからぬ? 造物主よ。お前のやっていることは、無駄な事なのだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「作り物であろうと。そこに人の心が混ざる以上、その世界は必ず破綻する」

 

アンスパは、ただ静かに笑いながら語りかける。

造物主が口を閉ざした瞬間、アンスパは更に続けた。

 

「ただの欲望に満たされた世界。だが、それほどの世界を持ってしても、人の欲望が終わることは無い。より多く、より幸福に、その本能に突き動かされた人間は闇雲に新たなる世界を求める。お前の提供する完全なる世界へ押し込めようとも、いつの日か必ずその世界に閉じ込められた者たちは現実の世界へ帰ってくるものなのだよ。そして・・・完全なる世界にも欲は満たされず・・・この世界という帰る場所のない彼らは、やがて地球に矛先を向ける。移民・・・侵略・・・戦争・・・それで全てが終わる。それを防ぐには・・・」

 

その時、アンスパの指先から光が弾けた。

弾けた光は弾丸のように突き進み、造物主に向かって放たれる。

だが、光る弾丸は造物主に着弾する前に、目に見えないシールドのようなものに防がれ、拡散した。

その粉々になった光は、まるで一つの小さな世界が終わったかのような儚さを感じさせ、アンスパは告げる。

 

「慈悲など与えずに魔力の欠片が一遍にも残らぬほど、完全消滅させることだ。首都の人間たちと一緒にな」

「堀田・・・」

「貴様の与える慈悲がこの世の破滅をもたらす。その事を、何故気づかぬ?」

 

まるで、雲の上の会話に聞こえた。

 

「なんなのだ・・・なんなのだ!? 我らの世界を一括りにして、何を話しておるのだ!?」

 

ただアリカは、何も言えずに黙ったままでいることができず、二人に向かって叫んだ。

 

「・・・ことの是非は改めるべきか・・・」

「まあ、今さらすぐに解決する問題でも無さそうだからな」

 

すると二人は、これまでの会話を続けることもなく、アリカを見ながら静かに言葉を漏らした。

 

「この世の破滅という点では合意している。ならば、そちらから片づけるとしよう・・・堀田・・・」

「勝手にするがいい。我々は我々で勝手にやらせてもらおう」

 

この言いようの知れぬ不気味さと存在感。

 

「ではまた・・・」

「歴史の分岐点で会おう」

 

二人は結局その正体も何も明かさぬまま、この広い世界を小さな箱庭のような扱いにした会話を終わらせ、それぞれ反対の方向へ向く。

造物主はアリカに。

アンスパはテオドラに。

 

「来るがいい・・・オスティアの姫よ」

「来てもらおう。ヘラス帝国の皇女よ」

 

 

そこに説得も交渉も何もなかった。

一国の皇女相手に向かって「来い」の一言で終わらせる。

そして何よりもアリカとテオドラが悔しかったのは、こんなわけも分からぬ者たちの言葉に、体がまったく逆らえないことだった。

 

「~~~~ッ」

 

素直に頷かないことだけが、唯一の抵抗だった。

だが、その躊躇いすら許されぬ。

 

「「来い」」

「「ッ!?」」

 

二人同時に言った言葉。

ああ、ダメだ。

もう、どうにもならないのかもしれない。

二人の皇女の心に、その思いが過った。

 

「シモン・・・ニア・・・フェイ・・・この三人は見逃してほしい。それが条件じゃ・・・」

 

僅かに残った精神力は、他者のために使った。アリカのその呟きに、造物主もアンスパも納得した。

 

「良かろう・・・どちらにせよ、もう手遅れであろう。螺旋の小僧に関してはな・・・」

「我が血族の小僧か。だが、もし生き残るようなことがあれば・・・その時は楽しみだがな」

 

どちらでもいい。仕方ないからほっておいてやる。

シモンも、ニアも、今のこの二人からすればその程度の存在だった。

面倒くさいから殺したいところだが、生かしておいてやる。まるで、そういう口ぶりだった。

 

「感謝する・・・」

 

だが、それでも最低限のことはできたと、アリカとテオドラは安堵して、三人を見る。

 

「シモン・・・黒ニア・・・フェイ・・・結局貴様らが何者かは分からぬままであった。しかし、それほど互いを知らぬのに、命がけで助けてくれたこと・・・私は一生忘れんぞ」

「シモン・・・必ず生き延びるのじゃぞ・・・女を泣かすでないぞ」

 

二人の皇女は精一杯ハニカミながら、言葉を残す。

 

「お、お待ちなさい・・・まだ・・・」

「黒ニアよ・・・シモンは数年すればよい男になるぞ? フェイに負けるでないぞ」

 

体の動かぬ黒ニアに、二人は儚い笑みを浮かべて、背を向けた。

 

「さあ・・・来るがよい」

「終わりへ向けて始めよう」

 

造物主とアンスパ。二人はまるで陽炎のように姿を揺らめかせ、闇に飲み込まれて皇女二人と共に姿を消した。

後に残されたのは荒野に残された三人だけ。

黒ニアは、己のふがいなさに顔を落とし。

そしてシモンは・・・

 

「おれは・・・・生き・・・てるよ・・・・・・・でも・・・・・」

 

シモンは生きていた。

大量の血を失いながらも、大地を這っていた。

 

「でも・・・何も・・・・・・出来なかったよ・・・くそ・・・」

 

大地の砂を握る。握るだけの力はまだ残っている。

だが、その力もすぐに抜けて、全身から力が奪われていく。

精神論の話ではない。

自分の体が自分のものではないように、言うことを聞かない。

 

「なんなん・・・だ・・・俺は・・・・・・俺は・・・」

 

ただ、それでも唯一変わらなかったのは、「悔しさ」。

例え体が動かなくても、その思いだけは、思えば思うほどあふれ出てきた。

 

「ニア・・・・フェイトォ! 俺・・・俺・・・俺!」

 

そこから先は言葉にならなかった。ただただ、瀕死の状態で己を責めつづけるシモン。

 

「シモン・・・・・・」

 

シモンに寄り添う力もなく、己の無力さを恨む黒ニア。そしてフェイトは胸を開けられた状態で、気を失ったままだった。

 

「完敗・・・ですね・・・」

 


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