【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第46話 俺に惚れたら色々大変だぞ!

建物の異常事態は、当然牢獄まで届いている。

 

「なんじゃーーー!? 建物にひびどころか、天井まで崩れているではないかァァァ! おおーーい、誰かある!!」

 

決して取り乱さずに、皇女としての余裕を保とうなど、今のテオドラには無かった。普通の子娘のように慌てふためいていた。

自害する覚悟はあっても、何が何だか分からぬうちに崩壊した建物の下敷きになって圧死というのは想定外だった。

想定外の危機に人は対応できない。ゆえに今の彼女は、ただの子娘のように混乱していた。

 

「うおおお、このままでは妾が死んでしまうぞい! 妾が死んでは困るであろうがァァ! 見張りの兵ぐらいおらんのかァ!」

 

だが、その叫びは届かない。どうやら、見張りの兵たちも怯えて逃げてしまっているのかもしれない。

 

「ぬおおおお、嫌なのじゃァ! 死にたくないのじゃ! 怖いのじゃァーー、ガタブルじゃァ!!」

 

急にジタバタして悲鳴を上げるテオドラに、皇女の尊厳など全くなかった。

 

「おい・・・先ほど死ぬ覚悟があると呟いていたではないか?」

 

隣の牢獄の男が冷静にツッコんだ。

 

 

「ウソなのじゃァ! ほんとは死にたくないのじゃー! 怖いのじゃァァ! この間だって、アリカが余計なことを言ってしもうたせいで、身代わりになってしまっただけなのじゃァ! そう言わねば同じ皇女としてカッコ悪いと思ったのじゃァ!」

「情けない。貴様ら王家がどれだけの人を戦争という死地に送り込んでいるというのだ?」

「嫌じゃ嫌じゃ、やっぱ死ぬのは怖いのじゃァ! 勇者殿ォォォォ、来てたもおおおお!!」

 

戦争でなら、彼女も死ぬ覚悟はあっただろう。

しかしこうも訳の分からぬうちに死ぬ覚悟は全くなかった。

死ぬ覚悟をしていたとはいえ、落ちてくる瓦礫から必死に逃げ回る彼女を責めることは誰にもできなかった。

 

「なるほど・・・魔法世界人は作り物とはいえ、物理的に殺すのは心が痛むな・・・だが、その甘さが命取りとなるわけだが」

 

涙と鼻水流しながら助けを求めるテオドラの前に、アンスパが現れた。彼はテオドラの痴態を興味深そうに観察していた。

 

「ぬおおお、コレ、妾に用があったから攫ったのではないのか!? このままでは妾は死んでしまうぞ! はよ出さぬかーッ!」

 

アンスパに気付いたテオドラは鉄格子に被りつきながらアンスパに叫ぶ。だが、アンスパは特に対して反応せず、そのままテオドラの隣の牢屋の中に居る男に話しかける。

 

「どうだい、君をここから出してやろうか? 元の世界に帰りたいであろう?」

 

その無機質な声に、牢獄の中に居る男は鼻で笑う。

 

「アンスパ? それとも社長か? いや・・・ここはあえて、堀田博士と呼ばせてもらおうか?」

 

男の言葉に、アンスパもニヤッと笑みを浮かべた。

 

「ふっ、地球では最強クラスの権力を誇る君も、この偽りの世界では無力に等しい。哀れなものだな」

「それはすまなかったな。だが、貴様の方はそれなりの地位をこの世界で得ているようだな」

「そんな皮肉を言うために、私を追ってこの世界まで来たのか? ご苦労な事だ」

 

下手したら天井の崩落で二人は潰されてもおかしくない。ただ、どういうわけか、二人の周りだけは避けるように、瓦礫がまったく二人には落ちてこなかった。

そして二人は建物の崩壊などお構いなしに、淡々と会話を重ねていく。

 

「しかし、随分と悠長ではないか? 堀田博士よ」

「ん?」

「貴様の力と技術力をもってすれば。こんな世界など魔力も術式も必要とせずに消滅できるはず。何故、造物主とやらたちに時間の猶予を与えている?」

 

男の問いかけに、「なんだその事か」というような態度で、アンスパは答える。

 

「地球に存在する魔法協会に目をつけられていてね。この世界の住人と違って、実際に存在する人間が相手だと、強硬手段も中々うまくいかないのだよ。例えこちらに道理があったとしてもな。穏便に済むのであれば、イレギュラーは出来るだけ起こしたくはない」

 

アンスパはそう告げてから、牢獄に背を向ける。

 

「話は終わりだ。部下の所為でこの建物は崩落する。助けを請わないのであれば、それも良かろう。お前にはこのまま死んでもらうだけだ。さらばだ・・・・・・ロージェノムよ」

 

アンスパにそう言われた男。

鋭い眼光にチコ☆タン並みのガタイ。そして野性的な黒い長髪が印象的の男だった。

そして、二人が話を終えた直後、今日一番の爆音が建物内に響き、これまでとは比べ物にならぬ大きさの瓦礫が崩落してきた。

 

「ぬぬぬぬぬ~~~~瓦礫じゃあああああ!? こ、こんなことで・・・妾は~~~!?」

 

巨大な瓦礫の崩落に、頭を押さえてうずくまりながら、目を瞑るテオドラ。

もう駄目だ。

ここで死ぬんだと感じ取った瞬間、巨大な瓦礫が粉々に砕け散った。

 

 

「下を向くな、テオドラ!!」

 

 

恐る恐る顔を上げたテオドラの前には、一人の男が天井に向かってドリルを突き出して立っていた。

天に向かって右手にあるドリルを掲げるその姿、日の光が当たらぬ薄暗いこの部屋に居ながら、輝いて見えた。

床にまで届きそうなマントのように靡いたコート。背中のマークが印象的だった。

 

「下を向いて目を瞑ったって、何も掴めたりなんかしないさ!」

 

皇女である自分に、やけに馴れ馴れしいとは思わなかった。むしろテオドラは呆然としてしまった。

 

(だ、誰じゃ・・・どこかで見たことあるような・・・ないような・・・しかし・・・しかし・・・)

 

テオドラが気づかないのも無理はない。この男の今の姿は本当の姿ではない。変装のために外見年齢を魔法薬で誤魔化している。

そして何よりも、外見年齢に反応して、心強さまで向上しているようにも見える。

テオドラがこの男を誰だか気づかないのも無理はない。

 

(ほ、細マッチョじゃァァァ! き、筋肉モリモリも良いが・・・これはこれで・・・じゅるり・・・) 

 

男は素肌の上に直接コートを羽織っている。細身ではあるが、意外とガッシリとしている男の肉体に、テオドラは少し目を輝かせて涎が垂れていた。

 

(それにしても・・・な、なにものなんじゃ・・・この・・・この男・・・まさか・・・まかさ・・・ドキドキ・・・)

 

テオドラはこの時、ピンときた。

これはまさかアレではないかと。

お伽噺でよく見た、ベタだけど現実には中々ない、アレではないかと。

 

「まさか・・・まさか・・・勇者殿かえ?」

 

ここら辺はまだ子供。姫のピンチに助けに来た勇者ではないかと、テオドラはマジ顔だった。

すると男は、クスクス笑った。

 

「ははは、俺は勇者なんかじゃないよ」

 

あっさり否定した。

しかし・・・

 

「俺は勇者なんかじゃない・・・俺はただ・・・」

「た、ただ・・・なんじゃ?」

「俺はただの、君を助けに来た者だ!」

 

シチュエーションとしては最高だった。テオドラは機関車のように頭から汽笛を鳴らして興奮した。

 

「ぬおおおおおおおおおお!! そ、そのようなことを・・・そのようなことを・・・妾は・・・妾は~~~!」

 

頭を抱えて、だらしなくクネクネするテオドラ。幼いゆえに色恋もまだ無かった彼女は、この状況を確信した。

 

(こ、これが・・・・・・ぷろぽーず・・・しかし、良し・・・ぬおおおおおお)

 

さっきまで死の危機に取り乱しまくっていたのを忘れている。

だが、そんなデレデレとしたテオドラに、衝撃の言葉が耳に入る。

 

「良かった・・・間に合ったのですね、シモン!」

「ニア・・・ああ。間一髪だったけど、この通りだ!」

 

銀髪ふわふわの、真っ黒いプラグスーツのようなものを着た美人。

とても可憐なその笑顔は見たことないが、その面影をテオドラはすぐに気付いた。

 

「ヌシは・・・・・黒ニアではないか!?」

 

黒ニア・・・そう問われて、彼女は笑った。

 

「いいえ、私は黒ニアではありません。私はニアです。テオドラさん、ごきげんよう」

「な、なに? ご、ご機嫌ではないが・・・黒ニアではない? いや、それより・・・・・・この勇者殿がシモンじゃとォォォォォ!?」

 

そう、年齢詐称薬で外見年齢を操作した、20代のシモン。

あの、土臭い冴えない少年が、コレ? テオドラはあまりの驚愕の事実に、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 

「あれ・・・テオドラ? お姫様? どうしたんだよ?」

 

テオドラがどれだけ驚いたのかが分からないシモンは、ぺしぺしと軽くテオドラの頬を叩くが、テオドラがまともに戻るのはもう少し掛かりそうだった。

そんな和やかになってしまった空気の中、ようやくアンスパが口を開いた。

 

「ほう、幻術か。だが、肉体年齢に呼応して、精神面も強くなっている気がするな。それにしても、あのケガでよくこれほど早く動けるものだな」

「え・・・・・・・」

「まあ、貴様が時間跳躍者で、私と同じ種族であるというのも、これで納得できるが・・・」

 

シモンはアンスパを見る。気絶していたため、この間は見ることができなかったが、これが噂のアンスパなのかという様子だった。

いや・・・

それだけでは無かった・・・

 

「うそ・・・・え・・・・え?」

 

何故か、アンスパの声を聞いた瞬間、シモンは不意に呆然としてしまった。

先ほどまでの力強く頼もしい目ではなく、戸惑いが表情に現れていた。

 

「同じ種族? あの男も、堀田博士と同じ種族だというのか? 何者だ?」

 

牢獄の男が呟いた。

 

「まあ、大変。あなたも閉じ込められていたのですね? 今すぐ出して・・・・・・・・・あら?」

 

テオドラの隣の牢獄に居る男の存在に気づき、ニアが大して考えもせずに男を解放しようとした瞬間、男の顔を見てニアは固まってしまった。

男の顔をじーっと見ながら、「まさか・・・まさか・・・」と呟いている。

男はニアが何故これほど自分の顔をマジマジと見てくるのか分からず、首を傾げる。

だが、登場していきなり戸惑いを見せる、シモンとニア。

その戸惑いの理由が、ようやく口に出して現れる。

 

「まさか・・・・・・・お父様?」

 

言ったのは、ニア。

 

「どうしたのだ? 同族よ」

 

アンスパが呆然とするシモンに尋ねる。

 

「その声・・・まさか・・・」

 

シモンは「そんなことありえない」と頭の中で思いつつも、その思いを口に出さずにはいられなかった。

シモンは、アンスパに向かって言う。

 

 

「まさか・・・・・・・・・・父さん・・・」

 

 

瀕死の状態から、ザジの手によって復活したシモン。

立ち上がり、上を向いたシモンの前に立っていた壁は、シモンの人生の分岐点だった。

 


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