【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「しゃーんならあああああ!!」
チコ☆タンはフェイトの正面に立ち、太ももの間に顔を入れて、そこから両腕をフェイトの腹に回して、そのまま頭上まで持ち上げてからしゃがみこんで、相手を背中から地面に叩きつけようとする。
プロレスでいうパワーボムだ。
「くらうものか!!」
だが、叩きつけられる前にフェイトは太ももでチコ☆タンの頭をしっかりと挟み込み、そのまま後方へ体重を預けながら、チコ☆タンの頭部を床に叩きつけた。
カウンター式のフランケンシュタイナーだ。
「おおおおおお!! ライガーだ! フランケンシュタイナーでパワーボムを破ったァァァァ!! ファイヤーー!!」
「チコ☆タンくうううううううん!! んなことより、スカートに頭を突っ込むって、おまッ!?」
「なぜだァァァァ!? あれだけフェイちゃんが持ち上げられたのに、絶対領域より上が見えなかったァァァァ!?」
「おおおっと! フェイちゃんはすかさず、腕挫十字固めだ!! 可愛い顔して、エゲツない技を!? 俺にもかけてくれええええ!!」
超スピーディーで多彩で、ハイレベルなプロレス合戦。
どうやら魔力による攻防が一転し、近接近の体術合戦となった。
パワーでひたすら押しまくるチコ☆タンに対して、ひらひらのメイド服を風になびかせながら、華麗なる技でチコ☆タンを振り回す綾波フェイ。
そして・・・
「ちょっとうるさい」
「うがあああああ、いてええええええ!?」
チコ☆タンの強靭な肉体を、いとも容易く斬りつけるザジ。
魔人は完全に手玉に取られていた。
父親は、自分が生まれる前からずっと、ドリルを作っていた。
何でドリルなのかは分からない。ただ、どういう思いでドリルを作っていたのかは分かる。
――ドリルでみんなを幸せにしたい
それが父親の口癖だった。今でも、よく覚えている。
当時は良く疑問に思ったものだ。ドリルでどうやって幸せにできるのかと。
しかし、気づけば両親は幼い自分を残して姿を消し、自分の手元にはドリルだけが残っていた。
「・・・父さん・・・」
昔の記憶が頭に駆け巡るシモンは、アンスパに向かって言う。するとアンスパは、少し間をおいて口を開く。
「・・・・・・なるほど・・・お前の正体はそういうことか。確かに、螺旋の力を受け継いでいるのは納得できよう」
「そ、それじゃあ!?」
「だが、勘違いするな。お前が何年後に生まれるかは知らんが、今の私からすればただの他人。お前に、父と呼ばれる筋合いは無いのだよ」
思わず飛びつきたくなったシモン。幼い時に居なくなった父。顔を覆面で隠しているものの、目の前に居るのは紛れもなく自分の家族だった。
しかし、釘を刺された。
そう、たとえ本当に目の前にいる人物が父であろうと、この時代に生まれていないシモンは、アンスパにとっては他人と言っても差し支えないのである。
行きどころのなくした心のやり場に困りながら、シモンは戸惑う。
父と呼べぬ、過去の人物。そして何よりも、その父と相対しているこの状況。勇敢に乗り込んできたシモンも、そしてニアも出鼻をくじかれたと言ってもいいだろう。
「・・・どうした? 私がこのような場所に居るのを、やけにショックを受けているようだが、未来の私はお前に何も話していないのか?」
あくまで他人として接する、血のつながりのある男に向かって、シモンは複雑な表情を浮かべて頷いた。
「ああ。とうさ・・・あなたは・・・俺がすごい小さい時に、母さんと一緒に消えた・・・俺の幼馴染の兄貴分の・・・カミナのアニキのお父さん・・・ジョーおじさんと一緒に・・・」
シモンの言葉に、アンスパはおもしろそうに笑った。
「ジョー? ほう、神野博士のことか・・・私も彼も、子を為していたというのは驚きだ。そうなると私の妻は・・・・・・まあ、今はいいだろう。未来の知識を知って、時の流れにゆがみを起こしても困る。イレギュラーはこれ以上必要ないからな」
のんきにシモンの話にのりだすアンスパ。その呑気で、どこまでもシモンに対して何も感じて無さそうな態度は、シモンをムシャクシャさせた。
「笑いごとなんかじゃない! 父さんは、こんなところで何をやってるんだ! 俺、父さんが昔こんなことをしているなんて、まったく知らなかったんだ! そして・・・ドリルだけを俺に残して・・・何が何だかサッパリなんだよ!」
「言ったはずだ。私はまだお前の父ではない」
「血が繋がってるんだ! 例え時が繋がっていなくたって、関係ねえ!!」
自分でも何を言っているか分からないぐらい、シモンは取り乱していた。
対してアンスパは、血のつながりのあるシモンを前にしても、落ち着いているように見える。それどころか、慌てるシモンに呆れてすらいた。
「なんと・・・未来の人間のクセに何も知らんのか? この世界の秘密を」
そしてその口から、知らなかった父親の側面を、シモンは知ることになる。
「この世界・・・だって? どういうことだよ! この世界って、魔法世界のことか!?」
「魔法世界・・・未来ではこの世界を、まだそのような名で呼んでいるのか? この、幻想の箱庭を」
「幻想? なにをバカな・・・」
「なんだ? 過去の魔法世界に時間跳躍をしてきたのは、ソレが関係しているからではないのか?」
「ソ・・・ソレ?」
「・・・どうやら本当に何も知らんようだな。私が将来、子を置いていくのは自分の意思を継がせるためではないのか? まあ、今知る必要のないことだがな」
「なにを・・・どういうことなんだよ・・・・」
シモンはその時、気づいた。
幼い時の記憶にある父。その父と20年前の父親の違い。
それは、ドリルでみんなを幸せにしたいと言って、目を輝かせていた時の父と違い、目の前のアンスパの瞳は、果てしなく虚無であったことだった。
「どういうことだ? 血の繋がりがどうとか、何の話をしているというのだ?」
牢の中に囚われている、20年前のロージェノムは、シモンとアンスパの会話に耳を立てる。
「シモンの今の姿は幻術であったか・・・しかし、裏を返せば数年後・・・青田買いということに・・・」
くだらぬことに頭を使っているテオドラ。
「・・・ええっと・・・どうすればいいのでしょう・・・」
たまたま出会ったのが、まさか20年前のロージェノムだとは思わず、娘のニアはどうすればいいのか困惑していた。
(ええっと・・・お父様が・・・でも、私のことを知りません。この場合はどうすれば・・・)
皆がバラバラの思いだった。
だが、そんな周りの状況などお構いなしに、アンスパは続ける。
すると、その時だった。
「ギガパワアアアアボムウウウウウウ!!!!」
天井を突き破り、巨大な爆発とともにフェイトを叩きつけるチコ☆タン。
「フェイト!? ザジ!?」
「・・・チコ☆タン・・・」
「ぬおおおおお、またではないかァァ!? シモーーン、さっさと妾を助けてたもォー! って、ぬおおおお、化け物じゃあああああ!!」
着弾と共に爆号が響く。
ハッとしたテオドラは、爆発とチコ☆タンの姿に再び絶叫する。
そして、その巨大な爆心地の傍に居たロージェノムは、巻き添えをくらった。
「ぐわああああああああ!! み、耳が・・・」
「お父様! 大丈夫ですか、お父様!」
ニアは一瞬、しまったと思った。思わずロージェノムに向かって、父と呼んでしまったからだ。
だが、その心配は不要だった。
「ぬう・・・・・・・耳鳴りが・・・・よく・・・聞こえん・・・」
「・・・あら?」
運が良かったのかもしれない。
「あの、お父様?」
「な、なんだ? 貴様は何と言っているのだ?」
チコ☆タンの起こす爆発の傍に居たロージェノムは、鼓膜がやられてしまい、どうやらしばらく耳が遠くなってしまったらしい。
耳穴から血を流してのた打ち回るロージェノム。
だが、事態はそんなことなどお構いなしに進んでいく。
「がっはっはっは、ちっとはこり――ぶほっ!?」
「いつまで人を掴んでいるんだい?」
「テメッ!?」
「私も居る」
「ごっ・・・この冷血女にピエロ女がァァァ!?」
強烈なパワーボムをくらっても、フェイトはすかさず立ち上がって、反撃する。
自分の技に酔って、隙だらけだったチコ☆タンは、フェイトの攻撃を簡単に受け、ザジもその隙に叩き込む。
「なんなんだ・・・・・・テメエら・・・・もう・・・許さねえ!!」
沸点など遥かに超えた怒りが凝縮されていく。チコ☆タンの体に漲る魔力。
「ザジ・・・」
「・・・このアジトを消滅させるほどの魔力・・・防がないと」
フェイトたちが感じ取った、チコ☆タンがやろうとしている技の威力。
ほとばしる魔力が一気に噴き出し、あたり一面を吹き飛ばそうとする。
だが・・・
「爆発率変動」
「ッ!?」
空気が一変した。
「な、なんじゃ!? あの、黒いのは一体何をしたのじゃ?」
まるでこの世が荒れ狂っているのかと思うほど、建物全体を揺らしていた爆発の予兆が、一瞬で嵐の後の静けさのごとく、静まり返った。
「爆発する確率を変えた。それにしても、私が居ることにも気づかないとは、新人とはいえ本能に突き動かされた者は、あまり好ましくないな」
「社長!?」
「ふん、しかも面白い連中まで連れてきているな」
その時、戦いに夢中になっていたフェイトとザジも、ようやくこの場の状況を理解した。
「シモン、ニア・・・テオドラ皇女」
「フェイト・・・ザジ・・・」
フェイトはシモンを見て、違和感を覚えた。
「シモン、無事で・・・・って、顔色が冴えないね。どうしたんだい?」
シモンがいつもと様子が違う。親に捨てられた子のように、とても弱弱しい瞳をしていた。
すると、フェイトにすがるような目で、シモンが口を開く。
「フェイト・・・アンスパは・・・アンスパの正体は・・・」
「アンスパ? ・・・堀田博士!? この者が・・・」
初めて見るアンスパの姿に身構えるフェイト。
隣に居たザジは、誰にも聞こえないぐらいの小声で呟く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・所長・・・」
乱入してきたチコ☆タンと共に天井から落ちてきた、ザジとフェイト。
アンスパの存在に気付いたザジとフェイトは、服に着いた汚れを叩きながら、アンスパと向かい合う。
「あなたが堀田博士か? 初めて見るな。まさか、こんな形であなたと会うとは思わなかったよ」
「造物主の人形に・・・魔族か? 随分と珍妙な組み合わせだな」
「なに!? 社長! この色黒女が、魔族だと!? どうりで、爪とか角とか、それっぽいはずだ!」
「同じ魔族なら気づかぬのか?」
「な、・・・ザジが・・・魔族? もう・・・何がどうなってるんだよ」
ザジが魔族だとサラッと言われてチコ☆タンが、ハッとなる。シモンも衝撃的事実が多すぎて、未だに頭の中が処理できないでいた。
すると、ザジが魔族だと分かった瞬間、チコ☆タンは態度を一変させる。
「おい、ならそこの女は、俺たち側のはずだろうが」
「・・・・・・・・・・・・・」
「なんで俺様たちにケンカ売ってやがる。この会社の企業理念を知らねえのか? 魔界じゃけっこー有名だろうが!」
チコ☆タンは、同じ魔族であるザジに向かって、何故自分たちと戦うのかと問う。ザジは無言で黙ったままだ。
「社長は言った! この世界に居る邪魔な人間どもを全て滅ぼすと!! 人類も亜人も、邪魔者全てを絶やしたこの世界の大地に、新たなる世界をもう一度創生すると!! よくわかんねーけど、俺さまたちの世界創世記の邪魔をするんじゃねえ!」
チコ☆タンから語られるのは、随分と壮大すぎる話。
世界を創世? 正気の沙汰ではない。
「どういうことだよ! この世界が滅ぶって言ったり・・・根絶やしだとか・・・創るとか!」
「ウラアア! テメエには話してねーんだよ、すっこんで・・・」
「俺もテメエに言ってんじゃねえ! アンスパ野郎! 俺はお前に聞いてんだよ!」
「なっ・・・て、テメエ! この俺に向かって・・・」
「ちゃんと全部教えてくれ! とうさ・・・いや、お前は一体何をやろうとしているんだ! 答えろ! 堀田・・・堀田キシム!!」
シモンは叫ぶ。父親と呼べぬ相手の本名を叫ぶ。
「ッ!? シモン・・・君は・・・どうして・・・」
「・・・・・・・シモンさん・・・・」
「堀田・・・キシム? あの野郎は、なに言ってやがるんだ!?」
「おい、娘・・・ぐっ・・・あの男は、何と言ったのだ? ・・・聞こえん・・・」
「私にも・・・タキシムがどうのこうのと・・・イマイチ状況がつかめないのです」
「シ、シモン・・・あやつと知り合いなのかえ?」
シモンが叫んだアンスパの真名に、フェイトやザジたちは驚きを隠せない。
何故、シモンが知っているのだ?
「くくくくく」
アンスパは笑った。
「私のことを、その名で呼ぶのは、ロージェノム・・・神野博士・・・シータぐらいだったが・・・懐かしい響きだよ」
「誤魔化さないでくれ・・・俺は・・・俺は信じていたいんだよ・・・信じていたいんだ・・・あんたを・・・」
シモンは両膝をついた。悲しみに震えながら、ドリルを両手で包む。
「これで・・・これで皆を幸せにしたい・・・俺は今でも覚えてる・・・だから・・・だから――」
自分を裏切らないでほしい。そう告げようとしたシモンの前に、チコ☆タンが拳を振りかぶった。
「だああああ、なに俺様を差し置いて、叫んでやがる! 死ねやァァ! よくわかんねーことをゴチャゴチャゴチャゴチャ、言ってんじゃねええええええ!!!!」
「ッ!?」
完全なる油断。シモンが下を向いて俯いた瞬間、チコ☆タンがシモンに襲い掛かる。
シモンの心は完全に折れ掛かっていた。
相手の強さにではなく、相手の正体にだ。
今のシモンは、つつけば簡単に崩れ落ちるほど脆い。
ロージェノムとの戦いや、デュナミスとの時に味わった挫折感とは違う。
戸惑いというものにシモンは包まれ、完全なる無防備であった。
「させない・・・・・・」
「ッ!? テメエ・・・」
無防備のシモンを守ったのは、ザジ。
「ザジ!?」
「ドリ研部の部長には手出しをさせない」
目に見えぬ防御壁で、チコ☆タンの拳を無効化した。
「なあにしやがるあああああ!!」
「あなた・・・つまらない・・・」
「んんだとォ!?」
「名ばかりの世界創生など、この時代の堀田所長は考えてない・・・あなたは良いように操られているだけ・・・」
「ッ!?」
この時、無表情ばかりであったザジの目が、確かに語っていた。
好きにはさせない
両膝をつくシモンの前に立ち、指一本触れさせないという気迫で、チコ☆タンと相対していた。
「ほう・・・・・・社長でも博士でもなく、私のことを所長と呼ぶとは・・・この女・・・あの研究所の関係者か?」
そのアンスパの呟きは、チコ☆タンの怒号で誰にも聞こえなかった。
それどころか、誰も今は気にしている場合ではなかった。
シモンの状態は気がかりではあるが、何よりまず優先すべきは、この空気の読めない魔人の方であった。
「シモンといい、ザジといい、そして堀田博士・・・僕にも知らないことがありすぎる。世界を知った気になっていたが・・・全部後で聞くことにしよう」
知らないことばかりで、聞きたいことばかりだったが、今は優先すべきことがある。フェイトは苦笑しながら、ザジの隣に立つ。
ここから先には一歩も進ませない。通れるものなら、自分とザジを倒してみろと言わんばかりの態度だった。
すると、チコ☆タンに睨む一方でフェイトは、厳しい瞳でシモンに振り返る。
「シモン・・・ここは僕とザジに任せてくれ・・・ニアは、シモンを頼む」
「・・・・・・フェイト・・・ザジ・・・」
フェイトは、いつまでも動揺しているシモンに向かって言う。
「シモン・・・堀田博士と君がどんな関係であろうと、君は君だ。僕たちにとって君は君しかいないんだ。いつまでも、そんな風に甘えていてはダメだ」
フェイトとザジは同時にチコ☆タンに向かっていく。
「はっ、上等だァァ!! 死ねや、ブスどもォォォ!」
「悪いが・・・・・・もう、君の力は見切った・・・・・・瞬殺させてもらうよ?」
「・・・・あ゛?」
チコ☆タンを迎え撃つ、ザジとフェイト。
何もできずにシモンは膝をついたまま、何が何だかわからぬ時の中で、呆然としたままだった。
「フェイトさん・・・ザジさん・・・シモンも気になりますし・・・・若い時のお父様も・・・テオドラ皇女も・・・私はどうすれば・・・」
アンスパは手を出さずに、静観している。チコ☆タンたちの戦いを、少し興味深そうに観察している。
シモンには毛ほどの興味も示していない。
ならば、ニアはどうするのか? シモン、若い時のロージェノム、そしてテオドラ。
任されても、どうすればいいのか戸惑っていた。
だが、そんな戸惑いを、この女は一蹴した。
「ニア・・・お父様は見捨てましょう。どうせ生き残ります。テオドラ皇女は最悪どうでもいいです。優先すべきは・・・シモンです!!」
ニアの葛藤を、黒ニアは数秒で答えを出した。
一応父親の耳に軽く包帯を巻き、戦いに巻き込まれぬように壁際に寄りかからせた。
「うおおおおい、妾を無視するでない!? あれか? 妾が恋敵になるやもしれぬからか!?」
テオドラ皇女は、何だか大丈夫そうなので無視した。
そうなると、優先すべきはシモン。ニアは走ってシモンの肩を掴む。
「シモン・・・どうしたのです? フェイトさんとザジさんが戦っているのに、シモンだけ何もしないの?」
「ニア・・・」
「そんなのシモンではありません。どんなに絶望やショックがあっても、それを蹴っ飛ばして自分を貫くのがシモンです!」
ニアは少し強い口調でシモンを奮い立たそうとしている。
シモンだって、言われなくても分かっている。しかし、今回ばかりはそう簡単にはいかなかった。
「分かってるよ、でも・・・でも・・・」
「でもではありません!」
「父さんなんだよ! 俺の好きだった父さんが・・・俺が生まれるより前は・・・こんなことを・・・」
「昔は昔です! 今ではありません。今あそこに居るのは、シモンのお父様ではなく、ただのアンスパさんです!」
「でも、やっぱり分からないんだ! ひょっとしたら父さんと母さんが居なくなったのも・・・これに何か関係していて・・・俺がずっと信じていた父さんは・・・俺が勝手に信じていただけで・・・」
シモンは頭を抱えながら左右に振る。
嫌だ。考えたくない。幼い時に自分を残して消えた両親。寂しいとは思ったが、恨んだことは無かった。
キライになったことなどなかった。
しかしその感情は、ただ自分が父のことを何も知らなかっただけだと思い知らされただけのような気がしてならなかった。
「おい、娘よ・・・今はそんな男は捨てておけ、問題はあのチコ☆タンに、堀田博士。いかに貴様の友が強くとも、堀田には勝てん。逃げる方法を・・・」
「役に立たぬお父様は黙りなさい!」
「ぬっ・・・何を言っているかは分からぬが、何故急に豹変したような感情に・・・」
「黒ニア、お父様に何と・・・でも、お父様。今も20年前もやっぱり、シモンを信じてくださらないのですね?」
シモンを奮い立たせようとするニアに、逃げることを優先すべきだと提案するロージェノムに、黒ニアは厳しい態度で一蹴した。
「シモンは、大丈夫です。だって、シモンはシモンなんですから!」
シモンはシモンだから大丈夫。やけに自信ありげに答えるニア。
もっとも、耳の聞こえないロージェノムは何を言われているかは分かっていないが、怒られていることは理解し、腑に落ちないという表情だった。
だが、シモンにはしっかりと届いている。
「・・・・・・・・・・・分かってるよ・・・俺も」
そんなやり取りをしているニアたちを横目に見ながら、アンスパは呟く。
「血縁の事情程度で心を折るとは、情けない限りだ・・・あの程度の螺旋の戦士には何も救えぬ・・・そして何も背負えぬ・・・」
チコ☆タンの戦いを見る傍ら、チラッとシモンを見た後、すぐにアンスパは見限って、自分の視線を再びチコ☆タンに向けたのだった。
「ふむ・・・それにしても、あの二人はやるではないか。あのレベル二人では、チコ☆タンも厳しいか?」
アンスパの目に映るのは、二人の女の恰好をしている者たちに振り回されるチコ☆タンだった。
力の差はそれほどないだろう。それどころか一撃の破壊力はチコ☆タンにある。
だが、目の前に映る光景は、ハッキリとしたものだった。