【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「はあ・・・はああ・・・・・ぐらあああああああああああああ!!!」
チコ☆タンが大きく振りかぶって拳を繰り出す。
だが、懐に飛び込んだフェイトが、鮮やかなひじ打ちをカウンター気味に、チコ☆タンのみぞおちに叩き込んだ。
胃液と血液の混じったものを吐き出すチコ☆タン。よろめくチコ☆タンに、フェイトの背後から飛び出したザジは追い打ちをかける。
「ジオ・インパクト」
その強烈な重力場は、爆発すら封じ込める。
「なんだ・・・んなんだよ、テメエらァァァァァァ!?」
チコ☆タンは、理解できなかった。一発殴れば勝てそうな連中に、手玉に取られていることに。
「さっきまでは、まだ互角だったろうが・・・なんで・・・なんで、俺様がやられてんだァァァ!」
怒号と同時に、チコ☆タンの顎が跳ね上がった。フェイトの掌打が、馬鹿でかい口を開けて叫ぶチコ☆タンの口を閉ざした。
「君には一生分からないよ」
チコ☆タンを冷めた目つきで見下すフェイト。その目に、チコ☆タンはブルッと震えた。
そんな目で自分を見下したものなど、これまでいなかった。仮にいたとしても、己の力でねじ伏せてやる。それがチコ☆タンの生き様だった。
しかし、この状況は何だ?
「テメエら、気に食わねええええ! この俺に・・・その冷めた目つきで見下してやがる!! ちっとも怯えやがらねえ! なぜ、恐怖を感じねええ!」
チコ☆タンの大ぶりの拳など、さらりとフェイトはかわす。
一撃くらえば大ダメージを免れないはずの拳に、怯えなど微塵も見せなかった。
「なんで、・・・何でビビらねええ!! テメエら、感情ちゃんとついてんのかァァ!?」
あまりにもクールなフェイトたちに、チコ☆タンは叫ぶ。すると、フェイトは何を失礼なという表情で、チコ☆タンに答える。
「恐怖なら感じているさ。ヒトだからね」
「なに?」
「僕は恐怖を感じないんじゃない。君なんか怖くないだけさ」
恐怖を感じないわけではない。
「私も・・・」
フェイトもザジも、チコ☆タンなど怖くないだけだった。
「君は知らない・・・」
「あなたは知らない・・・」
「本当の・・・」
「恐怖というものを・・・」
フェイト、ザジから放たれる強烈なプレッシャーは、チコ☆タンの背筋を震え上がらせた。
この、何でも無さそうな女の恰好をしている二人から、常人では耐え切れぬほどの威圧感を出していた。
「・・・ほう・・・」
アンスパも思わず、感嘆の溜息を洩らした。
「何だ・・・なんなんだ、テメエらはァァァァ!!」
全身に魔力を覆って、体全体で突撃してくるチコ☆タン。我を忘れた、特攻のつもりだろう。
だが、フェイトは己の手刀に魔力を込めて強化し、ザジは爪の剣で迎え撃つ。
「覚えておいて・・・」
「君なんかより、ダイグレン学園の闇鍋パーティーの方が、何百倍も怖かったよ」
一閃。
それは、この戦いを終わらせる一振りだった。
怒髪天を突くと言わんばかりの、チコ☆タンの角が断ち切られた瞬間だった。
「ほう・・・見事・・・」
アンスパは素直に称賛した。
「つ、角がァァァァ」
断ち切られ、角をなくした頭を抱えながら、苦しみだすチコ☆タン。
「つ、角が・・・テメエらァァァ!? つ、角が折れると・・・に、二十年は生えてこねーんだぞ!? もう、何が何だか・・・魔力が・・・抜けていくゥゥゥゥ!?」
角をなくしたチコ☆タン。すると、筋肉モリモリの豪傑が、みるみると萎んでいく。
全身を強化していた魔力が、角が折られたと同時に抜けていくようだ。
力をなくしていくチコ☆タンに、フェイトは言う。
「いいじゃないか。何もしないでも、二十年後には確実に生えてくるんだから。だったら、文句を言うんじゃない」
「な゛に゛~~~」
「来るか来ないかもわからない未来。それでも立ち向かう。そんな気合を振り絞ってから、文句を言うんだね!」
最後はトドメの拳骨だった。
ボコッと鈍い音を響かせて、フェイトはチコ☆タンの頭を殴りつけた。
苦しみにのた打ち回っていたチコ☆タンは、面影をなくすほど、細く萎んでしまったまま、意識を失ったのだった。
「やるではないか」
あれほど強烈なインパクトを放っていた魔人を、アッサリと一蹴したフェイトとザジ。
「テオドラ皇女は解放させてもらうよ・・・堀田博士」
「・・・・所長・・・・・・・・・・」
余力を残した二人の視線の先には、拍手をしているアンスパが映っていた。
「随分と、感情豊かなものだな・・・魔族の娘はもとより、そちらの人形もな」
アンスパは、まるで観察するかのように二人を見る。
「心の在り方で力が上下する。よくある話だが、それを貴様のような人形にされるとはな。本来なら同等のチコ☆タン相手に、心の在り方で圧倒する。本当に、ヒトとは愚かなものだな・・・その心が、世界を破滅へ導くというのに」
興味深い。そんな様子でフェイトたちを見る一方で、その立ち振る舞いは、明らかにフェイトたちを排除しようという様子だ。
だが、フェイトも言い返す。
「堀田博士・・・それは、魔法世界の寿命と、この世界の住人たちの真実のことを言っているのかい?」
「なに?」
「たとえ幻でも、魔法世界人にも心がある。それゆえ、何をしでかすか分からない。あなたの懸念はそこかい? そうでなければ、この世界を完全消滅させようなどと思わないはずだ」
しかし、フェイトのその返しに対して、アンスパは鼻で笑った。
「造物主の人形よ・・・お前はお前が思っているほど、人間を知らないな」
「なに?」
「底など決してない人の心は、『完全なる世界』などという箱庭に収める程度では、封印できない。いつの日か、必ず突き破られる」
「・・・・・・・・・それは・・・」
「必ず現れる。そして気づく。『完全なる世界』は本物の世界ではない。偽物の世界だとな。そうすれば、必ず夢の世界を突き破って現れるものがいるはずだ」
「だからあなたは・・・そんな慈悲の欠片も与えない、完全消滅をこの世界に求めるのか?」
「なんだ? 貴様は、既に甘い道に染まったか? もし、あそこにいるテオドラ皇女を、彼らは幻なんかではないと言うのであれば、それは最も愚かな答えだぞ?」
アンスパの言葉に、フェイトは押し黙った。
何故なら、その言葉を否定できなかったからだ。
もし、カミナやシモンたちを作り物の箱庭に閉じ込められたらどうなるのか?
絶対にいつか箱庭から飛び出すとしか思えなかった。
そう、アンスパの言っていることも一理あった。一理はあったかもしれない。
だが・・・
(だが、もしそうなると・・・あの子たちは・・・)
シモンたちと同様。フェイトの頭の中には、ある5人の少女たちの顔が浮かんだ。
(もし、堀田博士の言葉が正しいのであれば・・・シモンやニア、そしてカミナたちの地球を守るなら、それしかないのかもしれない・・・でも・・・)
フェイトの頭の中に浮かんだ少女たち。彼女たちはこの時代にはいない。
数年後のこの世界に生まれてくる少女たちだ。
人とのかかわりが極力なく、目的遂行のための人形として生まれてきたフェイトにとって、唯一の繋がりのような存在。
(それなら・・・彼女たちは何のために生まれてくるんだ・・・)
フェイトは、アンスパのように割り切れなかった。
慈悲など必要ないという、アンスパの言葉をすんなりと受け入れられなかった。
そんなフェイトの戸惑いを感じ取り、アンスパは溜息をついた。
「やはりな。人形が甘き心にそまっているな」
「ッ!?」
「一度決めた大義に迷いを生むのであれば、貴様は何も成すべきではない。貴様の覚悟などその程度の物なのだよ」
フェイトの肩が跳ね上がった。
「違う! 僕に迷いはない!」
激しく取り乱したように、フェイトは叫んだ。
「違うことなどない。お前には、覚悟が足りない」
しかしアンスパはアッサリと否定する。
フェイトがどれだけ違うと叫んでも、アンスパはアッサリと否定する。もう、完全にアンスパはフェイトを見定めていたのかもしれない。
違うと叫ぶ。その根拠を示すことのできぬフェイトは、ただ叫ぶしかなかった。
だが、肩を震わせて、徐々に否定する声量が小さくなっていくフェイトに対して、優しくシモンが後ろから、肩に手を置いて止めた。
「もういいよ」
「ッ・・・シモン・・・」
「フェイト。そんなに悲しい顔をしてまで、何かをやらなくていいじゃないか」
「ぼ、僕は!?」
「フェイト。言いたくないならいいよ。でも、俺は絶対にフェイトの仲間だからな」
「・・・・・・シモン・・・・」
いつの間にか立ち上がったシモン。シモンは少し落ち着いた様子でフェイトを宥める。
「ふん、ようやく落ち着いたようだな、同族よ。もう私の正体に、取り乱すことは無いのか?」
シモンをあざ笑うアンスパ。そこに父としての愛情などまるでなかった。
しかし、シモンは拳を握りながら、口を開く。
「簡単には落ち着かないよ。だって俺も・・・心があるから」
「ん?」
「フェイトやザジやニアと同じ・・・そして・・・お前ともだ」
「な・・・に?」
アンスパは、シモンの言葉に首を傾げた。
だが、シモンは自分の言った言葉を、間違っていないと訴えるような眼をしていた。
「だって・・・俺の知っている父さんは・・・やっぱり心があった。俺の知らないことがあったにしろ、それだけは間違いない」
「・・・・なにが・・・言いたい?」
「世界がどうとかはよく分からないけど・・・お前こそ・・・人間なんだよ、アンスパ野郎!」
「なんだと?」
「お前がくだらないと言ってバカにしたお前の心を・・・今、全部吐き出させてやる!!」
シモンはゴーグルを装着する。ハンドドリルをしっかりと構え、アンスパに気迫をぶつける。
もうゴチャゴチャ考えるのはやめた。話が通じないなら、このやり方で話を通す。
「俺がお前の相手だ!」
心の戸惑いが抜けぬままだが、それでもシモンはその戸惑いを抱えたまま戦う。
今はそれしかなかった。
「そうです。今は戦いましょう、シモンさん。恐れを知りながらも・・・僅かな勇気が、時には大きな力になります」
そんなシモンの隣に、ザジは頷いて並ぶ。
「私も、シモンと一緒にどこまでも行きます」
ニアもほほ笑みながら、並ぶ。
「ぐぬ・・・耳が聞こえずとも・・・意味は伝わってくる」
「ロージェノム!?」
「堀田とヤルのであろう? ならば、力を貸そう! 耳が聞こえぬので、指示は受けぬぞ?」
20年前の若かりし頃のロージェノムの顔を、初めてシモンはまともに見た。
シモンの知っている娘に溺愛しまくったダダこねるバカ親父の面影などなく、ギラついた戦士の瞳をしていた。
何故ロージェノムがここに居るのかは知らない。だが、もう細かいことは気にしなくていい。
「ありがとう、心強いよ」
シモンの礼は聞こえないものの、シモンの表情から、意味だけはロージェノムも理解して頷いた。
「なははははははははは! シリアスすぎて口を挟めんかったが、あ~、ようやく好きにできるぞよ♪」
「テオドラ!」
「小難しい話は妾もよくわからんが、とにかくこやつをぶっ飛ばすのであろう? 力を貸すぞ、妾の勇者殿!」
テオドラも・・・
そして・・・
「シモン・・・ザジ・・・君たちの言うとおりだ」
「フェイト」
「今は、今を戦おう。道はきっと・・・その先にあるのだから」
まだ答えは出ていない。
しかし、フェイトも戦うことに、異論はなかった。
今は戦う。
今を戦う。
その思いを持った、6人の戦士たちが、アンスパの前に立ちはだかった。
「ふん、答えも出ていない曖昧な決意。その程度の覚悟で私に勝てると、本気で思っているのか?」
「先の見えないものを掘り出すのが、ドリルなんだよ!」
シモン、ニア、ザジ、フェイト。そしてロージェノムとテオドラが、歴史の分岐点に、今こそ立つのであった。
「よかろう、螺旋の極みを見せてやろう!」