【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「麻帆良・・・ダイグレン学園? あれは確か・・・とことんなまでのバカの学校・・・入る勇気の方が、一流高校に進むより逆に難しいと言われる、あの? 未来の私が貴様らにコアドリルを渡しただと? 未来で私は何があった?」
アンスパに随分と貶されているが、ちっともムカつかない。
むしろ言われ慣れているし、こういう状況では褒め言葉にも聞こえてしまう。それほどまでに、シモンやカミナたちは自分が誇らしかった。
「しかし、私の血縁がそのように頭がワルイとは・・・」
「そこが俺の居場所なんだよ・・・父さん。それに、あそこはいい学校だ。ネギ先生っていう、尊敬できる人にも出会えたからね」
シモンがアンスパに父と言った瞬間、カミナたちはギョッとした。
「何ィ!? 父さん!? あのアンスパがか!?」
「ちょっとシモン! 一体どういうことなのよ!?」
「あのあんかけスパゲティ好きの変な奴がか!?」
「うん・・・俺にしか分からない・・・でも、確かにそうなんだ。あんかけスパゲティは父さんの大好物だったし・・・でも、何で今来たばかりのアニキたちが、アンスパを知ってるんだ?」
「ああ。まあ、色々あったんだが・・・メンドくせえ!」
細かいことを気にしなさすぎる。
「まあ、いいじゃねえか! シモンの親父だろうと、俺の兄弟分の敵は、俺の敵だ!」
結構重要なことを、あっさり切り捨てたカミナに、ヨーコは溜息つく。
「まったく、あんたたちは~」
「あれ、ヨーコさん。呆れてるように見えて、すごく楽しそうです」
「そう? まあ、私も結局バカなんだってことよ。タイムマシーンとか魔法がどうとか、もうイチイチ気にしてらんないわ」
ヨーコの言葉にジョーガンとバリンボーが地団駄を踏んで頷く。
「おう!」
「そうだそうだ! 大雑把な性格ならだれにも負けないぞ!」
相変わらず騒がしい。
「おおおい、それよりフェイト。テメエ・・・なんつう・・・」
「すっごい可愛い~」
「なんだよ~、私らより可愛いじゃんかよ~」
「これ・・・ネタに書ける?」
黒の兄妹たちも・・・
「たまんねーな」
「今年の学園祭は、百味も違うぜ」
「俺たちがまさか、こんな不思議体験できるとはよ~」
「は~。学園祭最終日だというのに・・・これでは、僕が何のために喫茶店のマネージメントをしてきたのか・・・」
ゾーシイやキッドにアイラック、そしてあのロシウまでもが武器を手に参戦している。
異常と言えば異常だった。
「すごいね・・・全員、ネギ君の仲間たちと違って、完全なる素人のはずなのに・・・こんなフザケタメンバーなのに、今なら神でも悪魔でも脅かせる気がするよ」
「そうですね・・・私も最初はどうかと思いましたが、この光景を見たら頼もしさしか感じません」
ケンカばかりの素人たち。
なのに、この頼もしさは何だ? フェイトとザジは身震いした。
「・・・で・・・結局誰なんじゃ?」
「ぬう・・・学生のように見えるが・・・」
分からないのは、テオドラとロージェノムだけ。
しかし、分からなくても、分かることはある。
二人とも、彼らが何者かは知らなくとも、頼もしさだけは感じ取れるはずだ。
「なんでも構わねえ! 麻帆良ダイグレン学園! でっけえ、ケンカの始まりだ!」
カミナの合図と同時に、彼らは動き出した。
行く。
熱き魂の塊たちが、怒涛のうねりを上げてアンスパに襲い掛かる。
「まったく・・・次から次へと・・・うざったいものだ!!」
だが、アンスパもまた・・・
「大志なき者どもが、邪魔をするなあああああああああああああああ!!!!」
麻帆良ダイグレン学園の魂の噴火に呼応して、アンスパの内に秘められた想いが解放される。
「来るぞ、みんな!」
冷たく、寂しく、何とも重い波動であることか。
「貴様らは、自分たちが何をやろうとしているのかを理解しているのかァ!! 己の罪にも気づかず、ただ闇雲に生きる貴様ら風情が私の道の前に立ちはだかるな!!」
アンスパは圧倒的威圧感を解放し、螺旋の渦をまき散らす。
「何が愛だ! 何が気合だ! 何が魂だ! 何が絆だ! 何が心だ! そんなもので乗り越えられる道理はない! 絶対的絶望の前にひれ伏すがいい!!」
アンスパが巨大な両拳を振り下ろす。一団全員叩き潰さんとする巨拳。
だが、その巨拳に立ち向かう螺旋力で強化された剛腕の二人が受け止めた。
「絶対的絶望がどうしたァ!」
「俺たちの胃袋の方が絶対的にデカいぞォ!」
ジョーガンにバリンボーだ。
「なにィ!?」
「何を驚いているアンスパ野郎!」
「気合だ気合だ気合だ!」
ジョーガンとバリンボーは、圧倒的な重さを持った拳を、自信満々の笑みを浮かべながら受け堪えた。
「うおお、やるじゃねえかよ、ジョーガン、バリンボー!!」
「さあ、私たちもやってやろうじゃない!!」
「おうっ!」
ジョーガンとバリンボーに続けとばかり、その武器と肉体に螺旋の光を纏わせた者たちが飛びかかる。
「さあ、いくぜ! アンスパ野郎! 未来のテメエからもらったこの、キッドナックル!」
「アインガンで!」
キッドは、如意棒のような武器を。アイラックはリボルバーを。
「「旋風ブラザーズ、その身で覚えておいてもらおうか!」」
アンスパの周りをグルグルと回りながら相手を翻弄し、螺旋の力を込めた攻撃をアンスパに与えていく。
「ぬううう、小賢しいわァ!!」
渦巻銀河の風が巻き起こる。うっとおしくまとわりつくキッドとアイラックを風で吹き飛ばし、宙に浮いた二人に背中にある二本の触手のような腕で貫こうとする。
だが、そこにタイミングよく飛び込んだのが、喫煙者のゾーシイだ。腕輪をはめた両腕から、音波の光線を出してアンスパの動きを鈍らせた。
「へっ、ビビッといきな!」
「ら、螺旋の超音波攻撃だと!? こんな武器まで・・・ぬうう・・・・・・・・うざったいわああああ!!」
「ぐおっ!?」
アンスパも好きにはさせない。音波攻撃の戒めを螺旋の渦で吹き飛ばした。
「螺旋の力を宿した武器を扱う程度で、螺旋族の我に届いたなどと自惚れるな! 所詮はただの学生どもが、この私を揺るがすなど思い上がりも甚だしいわァ!!」
ただ強いだけではない。絶対に負けられぬ信念がアンスパを支えていた。
「ごちゃごちゃ、言ってんじゃねええ!!」
「貴様か、青髪の男!」
「おうよ! 20年後ぶりだな、アンスパ野郎!!」
「くだらぬ! 散るがよい!」
「効かねえよ! 腑抜けたドリルじゃ、俺を貫けやしねえ!」
「ッ!?」
だが、己を支える強さならこの男も負けてはいない。
「未来のテメエは、んな目はしてなかった! うまくは言えねえが、今のテメエなんかよりもはるかに輝く目をしていたぜ!」
「貴様ァ、戯けたことをほざくなァ!」
「戯けちゃいねえ! 俺の言うことはバカばっかでも、嘘を吐いたことは一度もねえんだよ!」
「ぬうっ!?」
カミナの剣捌きと動きが冴えわたる。
「素人がこれほどの動きを・・・剣を媒体に発生している螺旋力を、既に使いこなしているというのか!?」
カミナはアンスパの四本にもなろうかという巨大な拳のラッシュを、剣一本で捌いていった。
「ナイス、カミナ!!」
発砲音が響いた。その瞬間、アンスパの額がブレた。
撃ったのはヨーコ。
「コアドリルの弾丸!? こんな武器を開発できるのは、やはり私しかいない!? 未来の私は何をやっている!? 何故、こんな奴らに武器を渡した!?」
次から次へと群がる螺旋の力。
「よそ見してんじゃねえ! うおおおおお、キタン必殺! 脳天地獄裂!!」
「鉄の~」
「三姉妹~」
「デラックスアターック!!」
例えアンスパが螺旋の渦で吹き飛ばそうと、次から次へと這い出していく。
「大宇宙ロシウフラッシュ!!」
「ぐおおおおお、目がァ!?」
「今です! みなさん!」
アンスパが突風なら、ダイグレン学園は荒波のごとく、何度も何度も押し寄せた。
螺旋の波が、次から次へとアンスパを侵していく。
「すごいです」
「僕たちも行くよ!」
「はい!」
「うむ!」
「ああ!」
「ふっ・・・・好機!」
その波に、シモンも、ニアも、フェイトもザジも、そしてテオドラもロージェノムも便乗する。
グランゼボーマは完全に怯み始めた。
「バカな! 何がそこまで貴様らを駆り立てる! お前たちのやろうとしていることは、地球の明日を滅ぼすことと同じことなのだぞ!」
「んだとォ?」
地球の明日が滅ぶ? そんな話を言われては、流石のカミナたちも動きを止めてしまった。
「そう・・・あんかけスパゲティの無い世界になってしまうのだぞ! それが分かっているのかァ!?」
「「「「「「「「「「ッなにィ!?」」」」」」」」」」
アンスパの口から語られる重大な・・・・
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・別にかまわねえええええ」」」」」」」」」」
「貴様らそれでも人間かァァァ!?」
そうでもなかった。
「本来なら羽虫同然の生命である貴様らがここまで私と切迫できるのは、螺旋の力のおかげ。そして、その螺旋の力と対抗して並ぶのが魔道の力だ! 才能と訓練次第では身に着けることが可能な力。だが、過ぎた力は世界を滅ぼす。ゆえに、私の祖先は螺旋の力を血族の中だけに留めてきた。だが、魔法は何だ? 次から次へと生まれだす。真理だ究極だと知識欲に溺れた愚かな魔法使い共のあやま――――」
「話が長げえ!! つうか、もっと分かる言葉で言いやがれ!」
「何故分からぬ! これだから開き直ったバカどもほど面倒なものは無い!」
口論の余地など無かった。そもそも、何故アンスパとカミナたちが戦っているのかも、それほど深すぎる理由があるわけでもない。
あるわけではないのに、カミナたちは思った。どうしても負けるわけにはいかないと。
だからこそ、アンスパも思った。こいつらは気にくわぬと。
「つーか、テメエは頭が固すぎんだよ! 滅ぶから滅ぼすとかわけわかんねーことを! 極端から極端に行きすぎなんだよ!」
「極端などではない。研究者としての私が何度も計算し、シミュレーションしても未来は変わらぬのだ! 運命は決して覆らぬ!」
「それはテメエが決めるこっちゃねえだろうが!」
「この無知な下等種めが!!」
カミナは素人だ。ケンカ慣れしているとはいえ、フェイトやザジに比べれば強さの次元が違う。
だが、カミナといい、キタンもヨーコたちも、螺旋という一つの力を手に入れただけでは説明できぬ戦いぶりだった。
(ぬう・・・不可解だ!?)
アンスパは納得できなかった。
(いかに螺旋の力を手に入れようと、何故こやつらはここまで動ける!? 何故ここまで膨れ上がる!? 死が怖くないのか!? いや、それどころか・・・螺旋の力が更に馴染んで、動きがますます・・・)
まだだ。
引き上げられるようにカミナたちは力を増していく。
「俺とアイラックで陽動する! でっけえのを、アンスパ野郎に食らわせてやれ!」
「おう、相棒!」
生き生きと・・・
「ぬおおおおおおおお!」
「でっけえのだ! でっけえのだ! でっけえのだ!」
「おうよ! 任せろ、キッド、アイラック!」
「へっ、やってやろうぜ!」
猛々しく・・・
「いくわよ、アンスパ野郎! でっかいドリルをぶち込んでやろうじゃない!」
とめどない。
(まさか!? この力は!?)
アンスパはハッとした。
ダイグレン学園の底力を前に、アンスパは一つの仮説にたどり着いた。
(もしそうであるなら・・・この力にも納得できよう! だが・・・まさか・・・ッ!?)
だが、アンスパは己の中でその仮説を力づくで否定する。
「ありえぬ! 私は己の心を捨てた! この螺旋の化身の姿こそ、我が信念の証! そんな私と・・・貴様らの間で・・・」
「うおおおおおおお、シモンインパクトォォォォ!!」
「心を捨てた私と貴様らの間に、・・・ミックス・アップが起こるはずがない!?」
そんなことはありえない。だがありえないことを起こすのが彼らであり、ありえないことが起こるのが現実なのだ。
「ぬぐっ!?」
アンスパの胴体めがけて一直線にとんだシモンが吠え、ドリルという魂ごとアンスパに突き刺さった。
「バ、バカな!?」
つい数日前までは取るに足らない子供だった。だが、その子供が、とてつもない仲間たちを引き連れ、とうとうその魂がアンスパに届いた瞬間だった。
ありえない。
(螺旋の力と螺旋力だけではここまではいくまい・・・心まで揃って初めて発生する・・・・・・・ミックス・アップ。確かに・・・心は・・・だが・・・だが!)
だが、ありえるのかもしれない。アンスパは己の中で小さく笑った。
しかし・・・
「まだだああああああ!!!!」
アンスパの信念はまだ崩れない。
「所詮は我が信念の道に落ちる石ころに過ぎぬ!! それを教えてやろう!!」
黒い嵐が巻き起こる
際限なく圧縮された超高密度の重力場。
「吸い込まれるがよい! 貴様らの想いも魂も無限に収縮し、終わりなき闇の世界で永遠を過ごすがよい!!」
ブラックホール。
「野郎、なんつう力だ!」
「反則にもほどがあるぞよ!」
「まずいわ、このままじゃ吸い込まれるわ!」
全ての光を吸い込む大重力。
「させませんッ!!」
ザジが先頭へ出る。
「同じ螺旋の力なら引っ張り返します! ジオ・インパクト!!」
「ザジ!?」
「私が何とかします。だから皆さんは立ち向かってください!」
ザジが重力の力で、吸い込まれそうになったダイグレン学園を引っ張り返した。
「無駄だ! いかにコアドリルとはいえ、所詮はディバイス! 天然の螺旋エネルギーの前に敵うものか!!」
アンスパの作りだしたブラックホールの吸い込む力が強くなっていく。徐々にザジ一人では耐え切れぬほどの力。
だが、簡単に吸い込まれる気などさらさらない。
「ならば足りない分は・・・」
フェイトも・・・
「気合と!」
シモンも・・・
「愛で補うのです!」
ニアも・・・
「ヌシの示す絶望がどんなにデカくとも!」
テオドラも叫ぶ。
「気合と愛で世界を超える!」
カミナも、そして皆が一つになる。
「ブラックホールを作り出すのは奴の両腕・・・それを封じる! その役目、このワシが請け負った!!」
ロージェノムが咆哮した。
「堀田ァ!!」
背後からロージェノムが、アンスパを羽交い絞めにした。
サイズもパワーも本来違う両者だが、アンスパやシモンたちと共に戦っていたことが、彼の眠れる力を目覚めさせたのか、ロージェノムもオーラを身にまとい、肉体が大きくなっていた。
「貴様! ロージェノム!?」
「ふん・・・ワシをブラックホールへ押し込むのなら、貴様も道連れだぞ?」
「何故だ!? 貴様もあの小僧どもを信じるのか!?」
「あの娘があの男を信じろと瞳で訴えた。あの瞳・・・何故かワシの心と体を突き動かせた!」
「貴様が私に勝てると思うか! 消えろ!!」
「ふん、何を言っているのか聞こえんが、今なら、死しても本望!」
アンスパは体の周りに螺旋の渦を発生させ、ロージェノムを力づくで引きはがす。
「ロージェノム!?」
「今だァ! 堀田にくらわしてやるがよい!」
ロージェノムが身を切り刻まれてなお、己の意地にかけて、アンスパの隙を作った。
その、ロージェノムの意地に応えるためにも、シモンは頷く。
「アンスパ・・・いや、父さん・・・今、教えてやるよ」
シモンが呟いた。
「みんな・・・今さらだけどゴメン・・・俺と父さんのイザコザに巻き込んで・・・」
元をたどればテオドラ奪還のため。しかし、ここまで激しく大事になってしまったのは、シモンと堀田キシムという男のすれ違いから始まった。
どうせ仲間たちは気にしていないだろうが、改めて謝るシモンに、カミナはニッと笑った。
「いいってことよ。親だって人間だ。完璧なわけあるもんかよ! でもな、だからお前が居るんだろうが、シモン! ボケた親の面倒見るのは、ガキの仕事って決まってんだよ! 構うこたァねえ! やっちまえ! それが親孝行だ!」
「アニキ!」
「いくらでも俺たちが援護してやらァ! バカ親父の目を覚まして、時代を超えた親孝行をしてきやがれ!!」
行って来い。そして、一緒に行こうと、カミナたちの瞳が言っていた。
シモンはゴーグルを掻け、あの言葉を言う。
「みんな、アレをやるぞ!」
「待ってたぜ、兄弟!」
カミナが一番早く反応した。
「ふっ!」
「アレって言ったら、決まってるわね!」
皆もうれしそうに頷く。
「「「「「「「「「「合体だァァァァァ!!!!」」」」」」」」」」
手をつなぐ。
隣に居る者同士が手を繋ぎ、大きな輪を作る。
その輪の周りが緑色に輝く光の渦に包まれて、やがてその光は巨大なドリルとなった。
「バカな・・・貴様ら程度の意思が・・・これほどのエネルギーを生み出すというのか!?」
巨大な螺旋力を一つにまとめ、生み出すキーとなったのはシモン。
そう、シモンだった。
「貴様か・・・・・・シモン! お前はたった一人でそれほどの螺旋エネルギーを支配できるというのか!?」
アンスパは、初めてシモンの名前を呼んだ。
すると、シモンは否定した。
「支配じゃねえ!」
カミナが続く。
「応えたんだ!」
キタンも吠える。
「テメエに取っちゃっ闇雲に進むだけの俺たちの想いに・・・」
ヨーコも・・・
「魂の叫びに!」
ダイグレン学園たちが叫ぶ。
「「「「「ドリルが応えた!!」」」」」
これが己のやりたいように生きる者たちの力。
「いくぜ!」
「これが!」
「俺たちの・・・」
「僕たちの・・・」
「私たちの!」
合体で生み出された最強のドリル。
「「「「「「「「「「ギガドリル・ダイグレン学園スペシャルだァ!!!!」」」」」」」」」」
アンスパに向かって一直線に飛んで行った。
吹き飛ばされたロージェノムはその光景を瞼に焼き付けたまま、その場から退避した。
アンスパは?
「引かぬ・・・引いてなるものか!! 断じて退くものか!」
そして決着はついた。
「父さーーーーーん、歯ァくいしばれえええええええ!!」
長いようで短かった、時を超えたアンスパとの戦いは、いよいよ幕を閉じる。
「ぬう・・・・・これがミックスアップか・・・まさか、初めて経験するミックス・アップの相手が息子とはな・・・」
アンスパは最後の最後に、今までのような無機質ではない声で、口を開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・シモン」
それは、人間的な温かさのこもった声だった。
「私は心を捨て・・・一人で戦った。それが間違っていたとは思わぬ。だが・・・もし・・・もしお前たちと同じ時代で出会っていたら・・・」
目前まで近づくギガドリル。うねりを上げる巨大な魂の塊。
「・・・リミットは30年・・・なら・・・」
アンスパは決意した。目をカッと見開く。
その瞳は、虚無な瞳ではなく、未来に希望を見出した瞳だった。
「インフィニティ・ビッグバンストーム!!!!」
アンスパの両腕から発せられた光の嵐が、ダイグレン学園の強大なドリルを砕いた。
「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」
俺たちを誰だと思っていると言い続けてきたダイグレン学園。
そう叫ぶことで己も仲間も奮い立たせ、相手を圧倒してきた。
アンスパの全エネルギーを放出した力。あまりの出力に、グランゼボーマモードを保てなくなったアンスパは、元の黒ずくめの姿に戻った。
だが、その結果・・・
「見事だったよ。しかし、ミックス・アップは互いの力を引き出す。ならば、お前たちの力が吊り上れば吊り上るほど、私もまた強くなる。そして何より・・・」
奮い立った心を集結させた合体を、完全に砕かれたのであった。
「私の通って来た道も・・・そこまで甘くは無かった。この結果は必然だ」
粉々に砕け散った、ダイグレン学園のドリル。
だが・・・
「・・・・・だっ・・・」
「ッ!?」
まだ・・・
「「「「まだだっ!!」」」」
「ッ!?」
まだ終わっていなかった。
「きさまら、まだ!?」
ビッグバンで四散したドリル。
しかし、爆発の光の中から飛び出してきた四つの影が、最後のあがきを見せ、アンスパへと飛びかかる。
「「「「うおおおおおおお!!」」」」
飛び出してきたのは、シモン、カミナ、ニア、そしてフェイトの4人。
一歩も引かぬ不退転の魂。
アンスパという天元めがけて彼らは飛び込んだ。
「「「「「ッ!!!!」」」」」
アンスパの顔面を打ち抜いた、シモンの拳。
「ぬぐっ!?」
カミナの、ニアの、そしてフェイトの拳がアンスパに最後の抵抗を見せたのだった。
アンスパは床に転がり、溜息ついた。
まさかこんなことになるとはなど、予想以上も通り越していた。
「・・・・・・まさか・・・これでも終わらぬか・・・人類の抵抗因子とは、これほどだというのかッ!」
大の字になって横たわるアンスパに、疲労困憊のシモンたち。だが、その目は決して死なずに、その両足は己を支えて立っていた。
「この魔法世界で・・・人類の抵抗因子を解析することができれば・・・そう思っていた・・・まさかその抵抗因子に、足元をすくわれるとは・・・」
アンスパが体を起こす。今改めてシモンたちを見ても、どこにでもいそうな普通の学生にしか見えない。
今でも軽く倒せそうだ。だが、それでも彼らは倒れないであろうと感じさせられるほどの何かを感じた。
「・・・この場は・・・もう、これで収めてやろう」
アンスパは、今にもフラフラで倒れそうな四人に向かって尋ねる。
「その代り、貴様ら・・・己の名を名乗れ」
今現時点でこの場に立っているのはわずか四人。彼らは互いを見合って、己の名を誇らしげに答える。
「シモン・・・・堀田シモンだ!」
「かみ・・・の・・・神野カミナだ!」
「ニア・・・ニア・テッペリン!」
「綾波・・・いや、フェイト・アーウェルンクスだ」
四人の名を聞き、アンスパはハッとする。
「か、神野!? さらに、テッペリンだと!?」
アンスパは予想もしていなかった名前に、度肝を抜かれた。
(そうか、この男が神野博士の・・・では、その娘は・・・まさか・・・ロージェノムの!?)
四人を見渡すアンスパ。今目の前にいる未来の子たち。彼らが一緒に居ることが、よっぽど信じられなかったのかもしれない。
そしてアンスパは、さらに聞く。
「そういえば・・・先ほど言っていた、ネギ先生とは・・・貴様が尊敬すると言った教師は誰だ?」
シモンはその問いに間髪入れずに答える。
「俺たちのクラスの担任。ネギ・スプリングフィールド先生だ」
「スプリングフィールド!? まさかサウザンドマスターの!?」
アンスパはシモンの言葉、そして今の目の前の光景、全てに対して震え上がった。
(バカな・・・つまり、20年後・・・私の息子に、神野博士の息子、ロージェノムの娘、サウザンドマスターの息子・・・そして・・・アーウェルンクスの人形までもが、同じ場所で同じ未来を過ごしているというのか!?)
シモンたちは今のアンスパが何を考えているのかは分からない。
これは、アンスパにだけしか分からぬこと。
シモンたちが当たり前のように過ごしていた未来の日々が、どれほどアンスパには考えられなかった未来なのか。
(そんな未来が存在するというのか!? 今では決して考えられぬような未来が、・・・そんな可能性が・・・ッ!)
アンスパは、決意した。
絶望に諦めた目ではなく、未来に可能性を見出したかのように、その目はキラリと光っていた。
「アーウェルンクスよ・・・私の思いは今も変わらない」
「堀田博士?」
「だが、残された時間で・・・何がどう変わるのかを、少しの間だけ見てみたくなった」
「ッ!?」
「そう、ひょっとしたら何かが・・・変わるかもしれない」
アンスパの言葉に、フェイトはやれやれと溜息ついた。
「何を急に・・・大体、何かとは一体なんなんだい?」
「決まっている。何かがだよ」
アンスパにしては曖昧過ぎる言葉。しかし、とてもその時のアンスパは爽やかに見えた。
「父さん・・・」
「アンスパ野郎?」
フェイトとアンスパが何の話をしているのかは分からない。だが、父と呼んだシモンの言葉を遮るように、アンスパは言う。
「20年後だ・・・」
「テメエ、どこ行きやがる!」
「ふっ・・・どこに? とりあえず・・・・・・20年後へ続く明日へな」
この言葉は、今倒れているダイグレン学園の生徒たちの頭の中にも響いた言葉だった。
「今度は・・・同じ時代で会おうではないか・・・・・・・・」
「アンスパ野郎!」
「父さん!」
「アンスパさん!」
「堀田博士」
それが崩壊した黒い猟犬のアジトの中で聞いた、アンスパの最後の言葉だった。
「今日の日を乗り越えたお前たちと・・・同じ時代で会ってみたくなった」
気づいた瞬間、アンスパの姿は闇の中へと吸い込まれて消えていた。
「それとシモン・・・まだ息子の居ない私に、父などと呼ぶなよな」
辺りやアジトの瓦礫をどれだけ探してもアンスパの姿は結局見つからなかった。
「行っちまった・・・結局・・・なんだったんだよ、シモンの親父は」
色々と交わしたい言葉があったシモン。
「シモン・・・」
「いいんだ・・・ニア・・・たぶん・・・今はこれで良かったのかもしれない」
だが、今はこれでいいと思った。
父とはきっとまた会える。絶対に会えると確信に近い思いがあった。
「ああ。20年後にまた会おう。父さん」
アンスパという社長が居なくなったことにより、シルチス亜大陸で名を馳せた黒い猟犬の本部は崩壊した。
残党が慌てて逃げ出したりしているが、そもそも組織の壊滅が目的でなかったシモンたちは無視した。
歴史の分岐点となるテオドラも奪還し、ロージェノムも耳の怪我の所為で自分たちを深く知って歴史のゆがみにかかわるようなこともなく、何より誰ひとり死なずに助かった。
後は気絶しているテオドラを、フェイトが言う歴史通りの場所へ連れて行けば、全てが丸く収まる。
これで長かった旅路も終わった・・・・・・
・・・・・・かに見えた・・・