【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
――シモン・・・歴史がヌシを覚えておらんでも、妾は決してヌシを忘れぬぞ・・・いつまでも・・・じゃから、いつか・・・
そこで、誰かが自分の名を呼んでいた。
「テオドラ皇女・・・」
自分を揺らす振動と、呼びかけられる声が聞こえた。
だが、体がだるく、正直まだ眠っていたい気分だった。
テオドラは、もう少し寝かせてくれとばかりに、体をよじらせた。
だが、起こしてくる相手もしつこい。テオドラが何度抵抗しようとも、何度も何度も体を揺らして起こしに来る。
「ぬう・・・」
しつこい。素直にそう思った。
テオドラの体はそれほどまでに疲れ切っていた。
シモンたちと一緒に黒い猟犬のアジトでアンスパとの死闘を繰り広げ・・・
「ッ!?」
その瞬間、テオドラは慌てて飛び起きた。
「シモン!? アンスパ!?」
そうだ。あれからどうなったのだ?
合体というギガドリル。その技が砕かれた瞬間まではテオドラも覚えている。アンスパが最後に、20年後にまた会おうと言った言葉も覚えている。
だが、事の顛末が分からない。一瞬で頭が覚醒したテオドラが辺りを見渡す。
するとそこには、不思議そうな顔をしたアリカ姫が居た。
「おっ・・・おお・・・目覚めたか」
「ぬ・・・アリカ姫・・・? なんで・・・ここに?」
「いや、それは私のセリフじゃ。急にこの完全なる世界のアジトの一つ、『夜の宮殿』に削堀音がしたと思って牢獄の中を見渡したら、ヌシが居た。どんな魔法を使ったのじゃ?」
「な、なんじゃと?」
言われて気づいた。ここは確かに、黒い猟犬の牢獄の中などではない。
完全なる世界に拉致されたアリカ姫が居るということは、ここは完全なる世界のアジトの一つなのだろう。
だが、何故自分はここに居る?
「そうじゃ・・・シモンは!? シモンはどこにおる!?」
そうだ、シモンだ。
自分を救いに来てくれたあの男は、どこにいるのだとテオドラは尋ねる。
「シモン・・・とは・・・ひょっとして、この間の童か?」
「そうじゃ! 黒い猟犬のアジトから、妾を助けに来た勇者じゃ! 奴はどこにおる!」
「何を言っておるのだ? そもそもそなたに何があったのかを聞きたいのは、こっちの方じゃ」
「な・・・なんじゃと?」
目を開けたら、さっきまで居たはずの者たちが誰一人いなくなっていた。
「何を言っておる! シモンじゃシモン! ニアや、変な連中がいっぱいおったであろう!」
「だから何を言っておるというのだ。大体助けてもらったのなら、何故ここにおぬしが居るのだ?」
「そ、・・・それは・・・」
一体何があったのか? あの戦いはどうなった? シモンはどうした? 彼らはどうなった?
自分が生きているということは、多分彼らも生きているだろう。だが、自分を助けたはずの彼らは、何も言わず、何の言葉も残さずに消えた。
「シモン・・・」
テオドラは思い出す。そして、彼女の頭の中に一つの言葉が過った。
「なんじゃったか・・・よく分からんかったな・・・未来がどうとか・・・じゃが、たしか・・・・20年後がどうとか・・・」
アンスパが言った最後の言葉。20年後にまた会おう。
その言葉はダイグレン学園だけでなく、テオドラの脳裏にもちゃんと残っているのだった。
「いや、だがシモンは本当にどこじゃ! あやつは妾を命がけで・・・そして妾は共に・・・」
徐々に弱弱しくなっていくテオドラ。まるで一緒に居た仲間たちと自分一人だけ逸れてしまったような涙目になっている。
「シモン・・・シモンは・・・・シモン・・・シモン~妾のシモンはどこなのじゃ~」
ただ助かっただけなのではない。命がけで共に過ごした者たちが居た。それが何の前触れもなく、目が覚めたら居なくなっていたのだ。
テオドラのショックは計り知れなかった。
「テオドラ皇女・・・」
アリカも状況をイマイチ把握できず、落ち込むテオドラに何と声をかければいいのかを戸惑っていた。
だが、そんな彼女たちの元に、何かを壊す音が聞こえた。
それは二人が囚われている牢獄が破壊される音。
「「ッ!?」」
アリカはその音を聞いて、うれしそうな表情を一瞬見せた後、すぐに悟られないように平静を装う。
テオドラは「もしかして!」と期待に目を光らせる。
だが、外の世界の日の光を背負って、二人を救出に現れた男は、テオドラの望む人物ではなかった。
「いよう、来たぜ姫さん」
「遅いぞ、我が騎士」
ここから歴史は正しい道へと進むのだった。一人の皇女に、二十年間の喪失感と、実らなかった初恋の傷を背負わせながら・・・・
そして彼女は二十年経っても、未婚のままであるという。
「フェイト、これで良かったのか?」
「ああ。これで歴史は正しい道へと進む。テオドラ皇女ほどの高位の魔法使いに記憶操作は出来なかったけど、まあ、彼女はこれから忙しいことになるから、僕たちのことはすぐに頭から抜けるだろうね」
夜の宮殿という、完全なる世界のアジトの一つに殴り込み、囚われたアリカ姫を救出に現れた紅き翼を遠くでダイグレン学園は眺めていた。
戦いで気を失っていたテオドラを、シモンがドリルで夜の宮殿に地下から侵入して牢屋に置いてきた。もし紅き翼たちがたどり着くより遅くになってしまっていたら、歴史が変わる恐れがあった。
「ロージェノムは?」
「大丈夫。僕たちの顔は見られたけど、名前までは聞かれていない。タイムマシーンなんて存在を知らない以上、彼が昔共に戦った連中が未来から来た僕たちなどとは、夢にも思わないだろう」
「それは残念です」
「帰ったら聞いてみたら? ひょっとしたら、記憶の片隅に朧げに何かを覚えているかもしれないよ?」
ようやく懸念が一つ解消でき、フェイトはどっと疲れた溜息を吐いた。
「しっかし、歴史かよ。俺は日本の歴史も分からねえのに、お前は良くこんな世界の歴史を知ってやがったな」
「ほんと。テンションが落ち着いてみると、よくよく考えてみると私たちはとんでもないところに居るのよね」
「だな。どーせならちっと遊んでいきたいけどな」
とにかく興奮しまくって戦ったアンスパ戦の気持ちも落ち着いてきたカミナたちは、この未知の世界に目を光らせていた。
辺りを見渡しても、動植物を見ても、とにかく面白い。
これまでの経緯をシモンとニアから聞いて「お前らは四か月もこんな面白そうな所に居たのかよ!」と怒った。
辛いこともシモンたちにも確かにあったが、確かにこれはこれですごい経験をしたなと、今になって思うことができた。
「でよー、俺たちはどーすんだ?」
さて、それより落ち着いたところでどうするのだ? ゾーシイがタバコをふかしながら聞いた。
「そー、そー。もう帰るのか?」
「そうですね。僕もまだ魔法とか時間跳躍という技術を受け入れがたいですが、とにかくいつまでも居る場所ではありませんからね」
「か~、ロシウ。オメーは本当に頭が固いな」
「そーそー。私らもシモンたちみたいに遊んで帰りてーよ」
「いや、俺たち遊んでたわけじゃ・・・」
帰ろうと諭す組(ロシウとキノンのみ)と遊んでから帰ろうという組でハッキリと分かれた。
論理を組み立てて帰るよう説得するロシウに対して、キタンたちは遊園地から帰りたがらない子供のようにゴネタ。
そこで最終決定権は、カミナ。答えなど既に聞かなくても分かっているかもしれないが、カミナが軽く咳払いしてから皆に言おうとする。
だがその前に・・・
「とーぜん、のこ「帰ろう」ってあそ・・・ぶって、おおおおい!」
カミナの言葉をフェイトが冷静に遮った。
「おい、フェイ公! どーいうことだ!」
「カミナ。助けてきてもらっておいてなんだけど、やはりこの時代は僕たちがいつまでも居ていい場所ではない」
「あん? 何言ってやがる、この世に誰かが居ちゃいけない場所なんてどこにもねーんだよ」
「そういうのはキライじゃない。ただ、僕たちが元々来た時代に帰れなくなる恐れもあるからさ」
「?」
フェイトは事細かく順に説明した。
難しい話を永遠と。
まあ、とーぜん誰もがボケーッとした顔で聞いていた。
そして、話が終わって皆が一斉にロシウに振り向いて、「フェイトの言葉を翻訳してくれ」という顔で訴えた。
ロシウは少し顎に手を置きながら言う。
「恐らくは・・・タイムパラドックスのことですね」
「流石ロシウだよ。君だけでも理解してもらえて幸いだった」
「お・・・おおお・・・・さすがロシウ」
「おめー、化け物か?」
感嘆の息を漏らすダイグレン学園。
つーか、よくこれであのアンスパを退けられたなと、フェイトもザジも苦笑したのは言うまでもない。
「カミナさん。つまり僕たちが用も理由もなく遊んでいくと、僕たちの帰るべき世界がなくなっているかもしれないと、フェイトさんは言っているのです」
フェイトの言葉を簡単に要約するロシウ。
しかし、カミナたちは未だにブー垂れている。
「あ~~、なんだそりゃ? じゃあ、フェイ公たちは何で何か月もここに居たんだ」
「それが僕たちの仕方なかった理由。タイムマシーンの関係でね。でも、その問題も君たちが未来から持ってきた『天も次元も超えて会えちゃうマシーン』で解決した」
そう、フェイトたちはこの時代に居たくていたわけではない。全ては超の発明したタイムマシーンの事故。
そしてそれを使って元の時代に戻るには、膨大な魔力を必要とした。
この魔法世界に膨大な魔力が満ちる瞬間。その瞬間を狙って、フェイトとシモンとニアは毎日を過ごしていた。
だが、カミナやザジたちが来てくれたことにより、その問題は全て解決したのだった。
「アンスパが作ったというこのマシーン。ザジに聞いてみたところ、これには科学と螺旋力と世界樹の魔力を融合して作ってある。これなら、ワザワザこの世界に魔力が満ちる瞬間まで待たなくても、今すぐ帰ることができるはずだ」
「そうです。さらにこれには学園祭分の魔力とコアドリルに込められた螺旋力のエネルギーが相当詰まっていますので、後一回ぐらい20年の時間跳躍は可能です」
「すまん・・・フェイ公、ザジ公・・・」
「私たちに分かる言葉でね」
またもや全員がアホ面で首を傾げている。ザジは少し困ったように苦笑しながら、とりあえずこの言葉で話を締める。
「つまり、超鈴音の発明品より、未来のアンスパが作ったアイテムの方が気合があるということです」
それで皆は納得した。
「~ッ、さすがアンスパだぜ」
「ったく~、先に言えってんだ」
今度からは難しい理論は無しにしよう。フェイトたちが思った瞬間だった。
「まあ、要するに歴史がなんたらで、俺たちの居た未来が影響されて、そこに帰ってもそこはもう俺たちの居た世界じゃなくなっている。そういうことだろ?」
「うん。カミナにしてはよく理解できたね」
「はっはっはっは、俺を誰だと思ってやがる」
あまりよく理解できてはいないと思うが、話が長くなるのでフェイトもそれで良しとした。
「まあでも、遊んで帰りたい気もするけど、歴史云々を持ち出されちゃうとね~」
「っていうか、戦争の時代みたいですから不謹慎ですよ~」
「まあ、キノンの言うとおりかもね。さすがにそれを聞くと、遊んで帰りましょうってわけにも行かないか」
「ビビって帰るわけじゃねえが・・・」
「現代に帰って、世界が変わってるってのも嫌だからな」
原理は分からないが話の深刻さを感じ取った他の者たちも、どうやら渋々と納得し始めた。
まあ、こればかりはそこまで意地になるほどのことでもないというのが彼らの思いだった。
「うん、俺もこの世界の人には色々とお世話になったけど・・・」
「帰れるときに帰るのは、良いことだと思います」
シモンとニアもそれなりにこの世界に思い入れもあったが、4か月ぶりに元の時代と世界に帰れるという気持ちの方が大きかった。
「カミナ・・・・君もそれでいいかい?」
皆は帰ることに納得した。ならばあとはカミナだけ。フェイトが尋ねると、カミナも頭をポリポリかきながら、皆と同じように同意した。
「まっ、しゃーねーな。遊びの続きは学園祭でやるか」
じゃあ、帰るか。
一度帰還が決まると、皆も急に笑顔になった。
「よしっ、じゃあ皆。マシーンを前に」
「おっ、そうだ。人数分ちゃんとあるらしいからよ。ほれっ、未来のアンスパからだ」
「ちょっ、一人一人にあるのかい? 仮にもタイムマシーンじゃ・・・そんなに大量に作れるものなのかい?」
「みたいよ? 未来のアンスパ曰く一度に大量に作るのは大変だったみたいだけど、『ジェバンニが一晩でやってくれるジュース』とあんかけスパゲティが有れば、何でもできるってさ」
「・・・随分とキャラが変わってないかい?」
世界最大の発明家の名声すら軽く手に入れられそうなタイムマシーンという発明品が、随分とチープな価値になってしまったものだ。
だが、シモンはそんなことよりも、未来のアンスパということの方が気になった。
「ねえ、未来のアンスパって・・・ヨーコ・・・」
「ああ・・・そういえば、今にして思えば私たちってシモンのお父さんに会ってたのよね」
「だな。学園祭の仮装かと思ってたけど、あの黒ずくめは昔からのスタイルだったんだな」
そうだ。未来に居たアンスパ。あれが死闘を繰り広げたアンスパの20年後の姿で、シモンの父親なのだ。
「あの恰好は変わっていませんでした。でも、性格は中々面白そうな方でした」
「だよね~、だから私たちも最初は同じ人なのかなっ? って思ったんだから」
聞けば聞くほど死闘をしたアンスパのイメージからかけ離れる。しかしシモンにはその方が納得できた。
「うん、父さんだよ・・・そういうの・・・」
シモンは涙が出そうになった。
どうして父が自分を置いて行ったのかは知らない。だが、まさかあんなに近くに父親が居たとは思っても居なかった。
「もうすぐ会えます。私も、未来の義父さまに会うのがとても楽しみです」
「・・・うん!」
そうだ、もうすぐ会える。その気持ちの方が大きかった。
「だな! よ~っし、それじゃあちっと早えかもしれねえが、アンスパと20年ぶりの再会と行こうじゃねえか!」
「「「「「おおおおおおおーーーーー!!!!」」」」」
いつの間にかこの世界で遊ぶよりも、アンスパと会いに行くことの方が重要になった。
正直皆が楽しみだった。最初に会ったときは知らなかった。だが、自分たちはもうアンスパを知っている。
一体どういう形の再会になるのかが楽しみで仕方なかった。
「じゃあ、帰ろう! 僕たちの時代へ」
皆が「天も次元も超えて会えちゃうマシーン」を一斉に掲げて発動させる。
その場が緑色の光に包まれて、皆が宙に浮かび上がる。
そう、帰るんだ。ああ・・・自分たちは居るべき時代と世界へ帰れるのだ。
誰もが・・・この時は、誰もがそう思っていたのだった。
「うおおおおおおお、俺たちはーーー!」
魔法世界の荒野と打って変わって、西洋の文化の混じった都市の作り。
幾多の仮装集団やドラゴンと恐竜のオブジェが移動していることで、一瞬まだ魔法世界なのかと勘違いしそうになったが、この賑やかな祭囃子に、何よりいつも慣れ親しんだこの場所は忘れるはずもない。
「麻帆良学園!」
「帰って来たぜーーー!」
過去への旅行を体験し、カミナたちは再び自分たちが居るべき場所へと戻ってきた。
「ま~、たしかにもうちょっと居たかったけど、楽しかったわね~」
「ほんとほんと」
「なあ、私たちがいきなり現れたのをビックリして、みんながざわついてるぜ」
「へっ、な~に見てんだよクラァ!」
カミナたちにとってはつい先ほど振り。
だが、ニアやフェイトたちにとっては四か月ぶり。
久しぶりに帰って来たこの世界のこの時代に感無量。
・・・・と行きたいところだったのだが・・・
「あの・・・シモンは?」
ニアの言葉に一同固まった。
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
何と、全員帰って来たと思ったら、そこにはシモンの姿だけが無かったのだった。